オオカミ再導入計画
環境省のオオカミ復活否定コメントへの批評�� 「外来種」に関して
朝日新聞 環境省「外来生物が与える影響ははかりしれない」
西日本新聞 （東京海洋大の弥永健一名誉教授）外国産オオカミの導入は生態系への悪影響
読売新聞 ＮＰＯ法人・おおいた生物多様性保全センターの足立高行理事長は「元来、生息していない動物を持ち込み、生態系が崩壊した例は数多い」
①オオカミは外来生物なのか。
②外国産オオカミとニホンオオカミは違うのか。
③固有種だとしても、他のオオカミとニホンオオカミは捕食行動が違うのか。
環境省の外来生物法のページです。
特定外来生物にも未判定外来生物にも、オオカミの名はありません。外来生物ではないと判断されているということですね。
朝日新聞への環境省のコメントは、この自ら指定した外来生物法を無視されているようです。
外国産オオカミとニホンオオカミは違う動物なのか、という点については、こういうことがいえます。
まず国際的な研究レベルでは、ハイイロオオカミは一種類であり、地域的に亜種レベルの違いが出ていますが、動物園等で、いくつかの亜種オオカミを並べても違いは毛の色くらいのものだと言われます。「見分けはつかない」と。
DNAレベルの研究では、ニホンオオカミの固有種説は結論が出ていません。DNAの比較研究では、エゾオオカミに関しては、はっきりした分析結果が出たようですので、参考にさせてもらいます。その分析によればエゾオオカミのmtDNAがカナダのシンリンオオカミと一致したということですから、大陸のオオカミと北海道のオオカミは交流が確実にあったということになります。
本州のニホンオオカミもそうであっておかしくはないですね。日本列島が朝鮮半島とつながっていた時期は2万年ほど前ですから、オオカミの移動距離からいって、そのくらいの期間では固有種にはならない可能性のほうが高いようなのです。
そうではなくニホンオオカミが固有種だとしても、それでニホンオオカミがシカの捕食者であったということは変わりがありません。
別のオオカミが入ってきたとして、生態系に与える影響とは何？という疑問が湧きませんか？
DNAレベルでの違いも許さないという「原理主義者」もいますが、そうではなく「生態系への影響」という場合は、その「影響」とは、食物連鎖の中での役割が違う、と言いたいのだろうと推測します。
ハイイロオオカミとニホンオオカミ、食べるものが違うのでしょうか？
ニホンオオカミは、シカを食べていたということは「推測」ではありますが、間違いのない推測ではないでしょうか。そして再導入しようという「ハイイロオオカミ」は、世界のどこでもシカなどの有蹄類を食べます。食物連鎖の中での役割に違いがあるでしょうか
「人・家畜への被害」に関して
中日新聞 家畜や人への危害を加えるおそれも増し
大分合同新聞 環境省野生生物課は人や家畜、ペットへの被害、感染症などの課題を指摘
西日本新聞弥永 家畜などが襲われる危険性も伴う。
読売新聞 環境省野生生物課も「オオカミが人や家畜を襲わないという証明はされていない」としており
家畜は襲われています。それに対しては防除が必要ですし、補償も用意する必要があります。ただし、（アメリカは大規模な畜産が多いので）ヨーロッパと比べても日本の畜産は、放牧の比率が極めて少なく、畜舎での飼養の割合が高く、また畜種も異なります。ヨーロッパで被害の多いヒツジは日本にはほとんどなく、ヨーロッパではほとんど被害が発生していない牛は、さらに畜舎での飼養時間が長い飼いかたをされています。
人に関しては、以前ご紹介したように、ヨーロッパのオオカミ研究者は
【The fear of wolf】というレポートで、今やオオカミによる攻撃は殆ど発生しないと述べています。
要約すると、 「ヨーロッパ、スカンディナビア（そしてまた北米）では、オオカミが増えているにもかかわらず、最近、攻撃が稀にしか発生していないことから、オオカミによる攻撃のリスクは非常に低いように考えられる。最新の推定では、オオカミはヨーロッパには10,000-20,000頭、ロシアには40,000頭、北米には60,000頭が生息する。私たちはこれらの頭数のオオカミのうち、過去半世紀、狂犬病に罹っていないオオカミによる死者は、ヨーロッパで4人、ロシアで4人、北米ではゼロという記録しか見出せないのである。狂犬病に罹ったものに関するそれぞれの数値は、5人、4人以上、そしてゼロである。現状ではオオカミ攻撃のリスクは、ヨーロッパ、北米を通じて限りなく低いことは明らかである。これらの低い攻撃発生率は、オオカミの攻撃に最もしばしば関連する要因が最早普通には存在しないという事実によるものと考えられる。」 全65ページにもわたるものなので、JWAとして、概略の翻訳と解説をつけました。 日本オオカミ協会
話題＆意見
に掲載しています。
「オオカミが怖い」病の対策は？
NINA掲載 A Large Carnivore Initiative for Europe (LCIE)
“The Fear of Wolves: A Review of Wolf Attacks on Human”(2002)からの抜粋 このレポートは、ヨーロッパのオオカミ専門家による「オオカミによる人間の襲撃」に関する最も権威ある報告だと思います。
環境省等のコメントには、そのレポートを参照した形跡がありません。
これはどうしたことでしょうか。何も調べもせずに否定されているのでしょうか。
「目的・他」に関して
某新聞「米国の例はあくまで自然復元が目的。日本は違う。」
某テレビ局の取材に対して
環境省「イエローストーンの例は、失敗だと認識している。公園エリアから外に出た個体は全て駆除されていると聞いている」
この二つのコメントはいずれも非公式のもので、記者の取材に対して「環境省はこう言っていた」と聞いたものです。
このコメントを聞いて、しばし呆然というか、唖然とした記憶があります。
イエローストーンが失敗という話は、梶光一氏も知床に関するシンポジウム等公式の場所で発言したことがあります。イエローストーンの事例を、自分で研究しようとしていない、レポートを読もうともしていないことが明らかです。
もう一つの某新聞への回答も、「米国の例は自然復元、日本はシカ駆除」と言いたいのでしょう。
新聞に取り上げられる場合の大見出しも、特に豊後大野市が登場してからは、「シカ駆除」と出されることが多く、ちょっと違和感があります。それに目くじら立てることもしませんが、環境省などの専門家からそういった発言が聞かれるというのは、脱力するくらいがっかりします。
シカ増加の抑制は、ひとつの側面にすぎないということを、専門教育を受けたはずの人たちがどうして理解することができないのだろう、と思います。
日本の野生生物に関わる専門教育をさえ、疑ってしまうようになりました。
私たちが主張しているのは、
・シカ等の増加によって、森林生態系は破壊されようとしている。
・シカ等の食害によって、農林業被害が激増している。これは今後も増え続け、人間が抑えることはできない。
・シカ等の異常な増加の根本的な原因（他の要因もあるが）は、食物連鎖に捕食者が欠けてしまったことである。
・捕食者がいなくなってから長い間シカ等の増加が抑えられてきたのは、人間の狩猟圧があったからだ。
・人間の狩猟圧がなくなり、今後の復活もありえないのだから、シカ等を捕食する食物連鎖の復元が必要である。
・それによって森林生態系は修復され、農林業被害も減少する。
ということです。
「オオカミの復活」によって、食物連鎖を復元し、「生態系を修復」することが、「シカ等の野放図な増加を抑制」し、森林被害や農林業被害も抑制することができる。
それが「オオカミ復活」の意味です。
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