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どうぶつナビ:狂犬病に対する危機感が薄れています。

 ◆狂犬病に対する危機感が薄れています。

 ◇ウイルス流入でパニックも 予防注射の実施率はわずか4割

 日本獣医師会によると、国内での飼い犬への狂犬病予防注射実施率は約4割と推定される。日本では50年以上発生例がなく危機感が薄まっているが、専門家は「このままではウイルスが国内に入ってきた際、社会がパニックになりかねない」と警鐘を鳴らす。

 狂犬病は人間を含むすべての哺乳類が感染する病気。ウイルスは感染した動物の唾液などに含まれ、人間の場合、多くは動物にかまれて感染する。1~3カ月の潜伏期間を経て、高熱やまひ、水が怖くなる恐水症などの神経症状が表れ、呼吸障害によってほぼ100%死亡する。

 国内で最後に感染が確認されたのは人間が1954年、犬が56年。しかし海外では広がっており、2006年にはフィリピンに旅行した日本人2人が帰国後に発症して亡くなった。世界保健機関(WHO)によると、世界中で年間3万~5万人が死亡。昨年はニューヨーク市の公園で野生のアライグマからウイルスが見つかり、当局が注意を呼びかける事態になった。

 狂犬病は潜伏期間中の診断が難しい。しかも発症してしまうと有効な治療法がない。このため予防対策が極めて重要だ。

 日本では1950年に狂犬病予防法が施行された。ウイルスの国内への侵入防止策として、空港や港で動物の輸入検疫を実施。同時に、飼い主には犬を市区町村に登録するとともに、年に1度の予防注射を受けさせるよう義務づけている。

 厚生労働省によると、09年度の犬の登録数は688万844匹。そのうち511万2401匹に狂犬病の予防注射が行われた。一見、予防注射の実施率は高くみえるが、飼い主が登録を怠っている犬も少なくない。ペットフード協会がインターネット調査から推定した実際の犬の飼育数は同年度1232万2000匹に上り、実際の予防注射実施率は40%程度とみられる。WHOは「少なくとも70%以上」との目安を示しているが、遠く及ばないのが現状だ。

 日本獣医師会の大森伸男専務理事は「登録や予防注射の義務を知らない飼い主が増えた」と指摘する。フィラリアやジステンパーなど身近な病気の予防注射はしても、狂犬病はしない飼い主も増えているという。

 昨年は宮崎県で口蹄疫(こうていえき)が発生し、29万頭の牛や豚が殺処分された。狂犬病予防法は国内で狂犬病が発生した場合、感染の疑いのある犬を隔離することを定めている。大森専務理事は「地域で狂犬病が発生した場合、犬たちがどうなるのか想像してほしい。予防注射は愛犬を守ることにもつながる」と理解を求める。

 各市区町村では年に1度、狂犬病の集団予防注射を実施しているが、飼い犬を登録していないと、通知が届かない。予防注射の実施率アップのためには、まず登録を増やすことが重要だ。

 約5万匹の飼い犬がいると推計されている東京都板橋区では、3分の1にあたる1万7000匹しか登録されていない。しかも狂犬病予防注射を受けているのは約1万匹にとどまる。

 このため区は昨年1月、登録制度を知ってもらおうとユニークな取り組みを始めた。登録済みの飼い犬を対象に名前や住所を記載した「犬の住民票」を無料で発行しているのだ。

 区保健所生活衛生課によると、この1年間で約1000件の住民票を発行。うち約1割はそれまで登録や予防注射をしていなかった犬だったという。同課の高橋正一さんは「ペットは家族の一員と考える人が増えるなかで、住民票が受け入れられたようだ」と話し、登録率や予防注射実施率の向上に一定の効果があったとみる。

 グローバル化で人や動物が国境を越えて移動する機会が増え、ウイルスが国内に入ってくるリスクも高まっている。日本を発生国にしないため、飼い主のモラル向上が急がれる。【水戸健一】

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 ◇狂犬病予防注射

 狂犬病予防法は獣医師が体調不良と判断した場合を除き、生後3カ月以上のすべての犬に年1回の予防注射を義務づけている。市区町村の集団注射は毎年4~6月だが、病院で個別に受けることもできる。費用は場所によって異なるが2500~3000円程度。抗体は1年間しか持続しない。

毎日新聞 2011年1月18日 東京朝刊

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