理事会声明/人権・人道上重大な問題
「人体の不思議展」は開催中止を
「人体の不思議展 最終公開」が、2010年12月4日から2011年1月23日まで京都市勧業館「みやこめっせ」で開催される。模型ではなく人体そのものを展示する「人体の不思議展」は、これまで全国各地で行われており、評判を呼んでいる。しかしながらその度ごとに、人体標本を展示するにあたって、以下に述べるような本来考慮されなければならないことがなされていないと問題視されており、京都府保険医協会理事会として開催中止を求める声明を10月26日に発表した。
「人体の不思議展」の展示物は、「常温で半永久的に保存できる画期的な人体標本」と謳われる「プラストミック標本」と名付けられたものだが、どのような技術でつくられているのであれ、それが遺体であることに変わりはない。まず、問題なのは、遺体を商業目的で不特定多数に公開するということだ。また、「プラストミック標本は、生前からの意思に基づく献体によって提供された」とされるが、それ以上の説明はなく、このような形で公開されることへの了解が、どのように確認されたのかは不明確なままである。さらに問題なのは、遺体解剖保存法等によって、日本人の献体であれば、このように商業用展示の標本にはできないという点だ。このように、「人体の不思議展」では、遺体が尊厳ある扱いを受けておらず、人権・人道上重大な問題が存在している。
協会は理事会声明発表に先立って、京都府・市、府・市教育委員会、マスコミ各社へ、後援等を行わないよう要請文を送り、会場を運営する株式会社京都産業振興センターには、会場使用許可を取り消すよう要請文を送付した。
今後は、他の医療関係団体、宗教界、法曹界等に呼びかけて、共同声明の発表などに取り組みたい。
京都府保険医協会の声明発表については、京都新聞が10月17日に報道した。
■「人体の不思議展」の開催中止を求める理事会声明
「人体の不思議展 最終公開」の開催が、12月4日から京都市勧業館「みやこめっせ」で予定されています。模型ではなく人体そのものを展示する「人体の不思議展」は、これまで全国各地で行われており、評判を呼んでいると聞いています。しかしながら、その度ごとに、人体標本を展示するにあたって本来考慮されるべきことがなされていないことが問題視されてきました。
何より問題なのは、展示されている遺体に対する尊厳が守られていないということです。人は死後であっても尊厳を持って扱われなければなりません。しかし、これまでの「人体の不思議展」では、全身標本が興味本位ともいえる姿勢をとらされた状態で展示されたり、触れる状態で展示されたりしています。また、入場料を徴収し、遺体や臓器を模したり写したりした関連商品の販売も行うなど、営利を目的とした興行として開催されています。このことは死体の商品化であり、これでは遺体に対する尊厳が守られているとは到底言えません。
その他の問題としては、インフォームド・コンセントの有無の不明確さです。遺体は「生前からの意思に基づく献体によって提供された」とされていますが、来場者などの第三者がその意思を確認できるものは、示されておりません。加えて、展示標本には胎児のものまであるとのことです。インフォームド・コンセントの有無に不明確さがあることは、重大な問題です。
加えて問題なのは、外国人の遺体でしか実施できない展示だということです。展示されているのは中国で作られた標本と言われていますが、日本人の献体であれば商業用展示の標本にすることは国内法に照らしてできません。このように外国人の遺体だから可能になるという展示を行うことは許されません。
また、外国で行われている同様の展示では、裁判所が違法と判断したり中止を命じたりしており、国内でも日本医師会や日本医学会が後援を取りやめ、日本解剖学会も「人体標本の展示に関するガイドライン」を発表するなど、「人体の不思議展」には問題があるとの認識が広がってきています。
私たちは、命と健康を守る保険医の団体として、人権と医の倫理を尊重する立場から、人権・人道上の重大な問題を含んでいる「人体の不思議展」の開催中止を求めます。
2010年10月26日
京都府保険医協会/2010年度第9回理事会
【2010年11月5日(第2765号)1面・3面から】
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