トップページ > 事業案内 > 三井物産の取り組み‐挑戦と創造‐ > シベリア鉄道復権で日系企業のロシア進出を後押し
世界的な資源高を背景に、豊富な資源を保有するロシアとCIS諸国(旧ソ連地域)の経済は活況を呈している。ロシアの関税制度運用の改善をはじめとする諸制度の整備を追い風に、日系企業は市場としての魅力を感じ、相次いで進出。ロシアと周辺地域へ向けた製品や部品の物流需要も日増しに膨らみつつある。そんな中、再び注目を集めているのが、ロシア国内を東西に横断するシベリア鉄道による輸送ルートだ。三井物産は日系のメーカーや物流会社との協業による「ブロックトレイン」事業に着手し、日系企業のロシア進出を強力に後押ししていく。
ロシア極東発モスクワ向けBlock Train
1990年代後半からロシアとCIS地域の内需拡大を受けて日系企業の進出意欲が高まり、2000年代前半には大手自動車メーカーをはじめロシア向けの物流ニーズが本格化した。しかし、主流である海上輸送ルートでは、ロシア向け積み替え港となる欧州北岸の港湾・ロシアの港湾での混雑が激化。また、欧州からロシアへの陸の主要ルートとなるトラック輸送では、税関が厳格な審査を実施するために国境付近の渋滞や繁忙期のトラック不足が恒常化していた。
こうした状況の下、ロシアへの輸送ボトルネック解消の切り札として再び注目されるようになったのがシベリア鉄道である。ロシアを横断して極東と西方を結ぶシベリア鉄道は、旧ソ連政府が外貨獲得を目的に、第三国向け貨物の国内通過に対し優遇料金を設定したこともあって、1970〜80年代の旧ソ連時代には物流の大動脈の一つとして位置付けられていた。ところが、1991年の旧ソ連崩壊によって、ロシア経済は危機的状況に陥った。シベリア鉄道の貨物輸送も混迷を極め、貨物の紛失や盗難、通関が滞るといったトラブルが続発。外国企業はロシア地域の通過を避けて海上輸送に切り替えたり、旧ソ連国内にあった在庫拠点を周辺諸国へ移設したりするようになった。
それが21世紀に入り、ロシア経済が回復すると状況は一変。物流需要の拡大に伴い、シベリア鉄道による貨物輸送へのニーズが高まった。ただし、そこには新たな問題点も浮上、鉄道関連事業の民営化の影響や、貨物輸送を支えとする収益構造への転換による鉄道料金の頻繁な値上げ、コンテナやワゴンの不足といったインフラの未整備などもその一つだ。これらが日本企業のロシア地域への進出を阻む要因となっていた。
ロシアMAP
旧ソ連時代からシベリア鉄道による物流を手掛けていた三井物産は、時流の変化を迅速に見極め早くから行動を開始、ロシア物流において着実に事業を拡大してきた。まず、旧ソ連崩壊後にロシアへの直接貿易や在庫が困難となった1998年には、フィンランドのハミナ港を基地としてロシア向け中継物流を専業とするハミコエージェンシー社に出資し、フィンランド経由ロシア向け物流サービスを提供。続いて2005年には、さらなる事業強化のため、ロシア向け航空輸送やシベリア鉄道を利用した貨物輸送サービスを得意とする(株)東洋トランスに30%の資本参加を実施。翌年には、現地在庫需要への対応を実現するべく、倉庫事業にも乗り出した。
時を同じくして2006年夏に、シベリア鉄道を保有する国営ロシア鉄道やロシア国営船社(FESCO)、両社の子会社として海上・鉄道一貫輸送サービスを提供するルースカヤ・トロイカ社などの代表が来日し、日本企業に対し貨物サービスの拡販をアピールした。シベリア鉄道による物流ルートの開発を検討していた三井物産はこの好機をとらえ、同代表団と面談を実施した後、ロシア側との交渉を開始。物流本部と、日系自動車メーカーを顧客とする自動車本部からタスクフォースのメンバーが参加して協議を続けた。2007年10月には三井物産の総合力を駆使した取り組みが実を結び、ロシア鉄道とルースカヤ・トロイカ社との三者間で、ロシア物流事業強化に向けた業務提携を実現するに至った。同業務提携に基づいて提供を開始したのが、シベリア鉄道を活用した貨物専用急行列車「ブロックトレイン」のサービスである。
モスクワの鉄道貨物駅・Kuntesvo-2 Terminal
ブロックトレインはもともと、シベリア鉄道での貨物輸送に積極的であった外国企業が、自社のロシア国内製造拠点向けにプロジェクト単位で数量を確保して編成した専用貨物列車だ。しかし、1編成につき最大で76個のコンテナを積載することができるブロックトレインを1社単独で借り切ったのでは、輸送コストが割高になる。そこで三井物産はパートナーであるルースカヤ・トロイカ社と交渉を重ね、日系メーカーや物流企業の貨物を混載した“オールジャパン”の相乗りで、利用企業が増えるほど料金が割安になる課金体制を成立させた。三井物産はルースカヤ・トロイカ社の運営するこのサービスの代理店として、日本企業の誘致を担う。
ブロックトレインサービスを利用することによって得られる最大のメリットは、輸送期間の短縮と定時運行によるリードタイムの削減だ。日本からのルートはFESCOの船でロシア極東のボストチヌイ港へ運び、シベリア鉄道へコンテナを積み替えて最終仕向地であるモスクワなどへ輸送するもの。全行程を海上輸送するルートでは60日近くかかるのに比べ、ブロックトレインなら25日程度で済む。特定仕向け地への貸し切り列車であるため、メンテナンス停車などを除き目的地までノンストップで走行する。途中駅に停車しないので積荷紛失のリスクが減るうえ、貨車を連結するときの衝撃を受けずに済み、積荷へのダメージも少ない。また、リードタイムが短くなるため金利が抑えられ、市場動向に即応した在庫管理が可能となって販売機会損失を防ぐことにもつながる。
さらに、ブロックトレインの活用は、日本企業にとっての懸案であるCO2排出削減にも有利に働く。物流におけるCO2排出量は貨物重量と輸送距離の積を示す「トンキロ」の単位で表され、遠洋航路船の場合は11グラム/トンキロ(コンテナ船・バルク船を含む)、シベリア鉄道の場合では19グラム/トンキロ程度(当社試算)とされる。単位当たりでは船の排出量のほうが少ないものの、極東からロシア地域への貨物輸送では陸路は海路の半分ほどの距離で済むため、船からシベリア鉄道へ切り替えれば約40%程度のCO2削減効果を得ることができる。
Block Trainへの積み替え地点となるロシア極東・Vostochny港
2007年秋に三井物産がブロックトレインサービスの開始を発表すると、国内企業から大きな反響が寄せられた。2008年6月には、顧客企業を対象としてシベリア鉄道やブロックトレインサービスに関するセミナーを開催。当日は110社もの企業の参加があり、期待の高さがうかがわれた。すでに自動車や家電など複数のメーカーと物流企業がトライアル輸送を開始している。
今後は、モスクワ行きのブロックトレインサービスを現在の週1便から今年度中には週3便へと増す計画で、そのうちの1便をオールジャパン用に充てる予定だ。併せてワゴンやコンテナの先行投資も進み、極東航路の増便も検討されている。さらに先を見据え、ボトルネックと予想される極東最大のコンテナ港であるボストチヌイ港を補完するため、ウラジオスオク港の拡張工事も始まった。
三井物産は、鉄鋼製品本部がロシア鉄道に日本製のレールを販売したり、自社貨物をシベリア鉄道で輸送するなど、今回の業務提携以前から取引があった。従来からの取引に基づく信頼関係が、ブロックトレインサービスにおけるさまざまな交渉をスムーズに進めるのに役立った。また、物流本部と自動車本部がそれぞれの顧客を誘致し、参画企業を増やすことで、ブロックトレインの契約料金を引き下げられるなどのシナジー効果も発揮できる。ロシア地域への物流のボトルネックを制することで、日系のメーカーのほか、物流会社をも顧客とする新たなビジネス展開に挑戦する。今後のさらなる需要増を視野に入れ、三井物産の総合力で日系企業のロシア進出を後押していく。
2008年11月掲載
*記事内容は掲載時のものです。予告なしに変更されることがあります。