プロローグ

荒野には、二人だけだった。
赤い魔術師と、紅い魔術使い。
前者が追い詰め、後者が追い詰められる。
それはロンドンで繰り返した鬼ごっこのような、
いつもと同じ、結末だった。
「ここまでよ、シロウ」
──凛は相変わらずだった。
その才能も、美貌も、容赦のなさも。消えたのは、うっかりだけか。
今の彼女には、今の俺では立ち向かえそうになかった。
凛は遠坂凛を逸脱することなく、きちんとお人好しの魔術師として俺を追い詰めていた。
痛みは感じない。この体は剣で出来ている。無機物に神経など通ってはいない。
正義の味方は悲鳴を上げたりはしない。けれど、エミヤシロウはどうだったろう?
「本当、アーチャーそっくりね…」
──宝石剣を突きつける。
シロウはボロボロだった。アヴァロンはもう正義の味方を助けてはくれないらしい。
シロウはただの現象に成り下がっていた。他人を救うという現象。1を切り捨て、9を救う。
救えもしないものを助けようとして、世界なんてものと契約して、英霊になる…
それらは私を完膚なきまでに打ち負かしていた。私はあの約束を、守れなかったのだ。
「シロウ。せめて、私はあなたを殺してあげる。システムの手の届かない遠い、遠い世界まで吹き飛ばしてあげる」
「……至ったのか。凛」
「えぇ、あなた一人吹き飛ばせる程度にはね」
凛ははにかみながら、そう言った。
俺は彼女の頭に手を当てて、髪の毛をクシャッと鳴らしてやりたかった。
けれど、この身はもはや指一本動かない。
「凄いな。さすが凛だ」
「当たり前よ。シロウとは違うもの」
「ひどいな」
宝石剣が輝きだす。俺は凛に向かって、笑顔を見せる。
「さようなら、シロウ。愛してたわ」
「さようなら、凛。俺も、愛していたよ」

そうして、エミヤシロウはこの世界から消失した。
輝きは去り、魔法使いは踵を返して、光と共に消え去った。
無刃の荒野には、英雄の血だけが残った。


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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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