2011年1月17日10時23分
がんになったら、自分で告知を受けたい? それとも親を通じて聞く方がいい? 東京都杉並区立和田中学校の授業で、生徒が話し合った。自分たち中学生には、どこまで自分の生き方を決める権利と覚悟があるのか。議論は、子どもの自己決定権や親子の絆に及んだ。
第一線で活躍する著名人を招く「よのなか科」の授業。3年生約100人が参加、6日に行われた。妻をがんで亡くしたジャーナリスト田原総一朗さんが進行役を務めた。
まず代田昭久校長から、未成年に対するがん告知については統一見解がなく、医師や病院側の判断に委ねられていると紹介。議論に入った。
「直接告知」が多数派だったが、「親を信じているから任せたい」「いきなり医師から聞かされたら絶望するかも」と言う生徒らも。「君たちはそんなに親を信頼しているのか」と田原さんがたきつけると、議論に火がついた。
「親が判断して告知しないと決めたなら、親の愛だと思う」「親は我が子が悲しむ姿を見たくないから、うそを言うかもしれない。それは愛ではなくエゴ」「親は最後まで頼れる人。エゴなんて言う人は親の愛を分かっていない」
議論は親からの自立と責任のあり方へと進んだ。
「何歳で自立するんだ。自分の命に責任を持つのはいつからなんだい」と田原さん。「自分で稼いだお金で生活できるようになるのが自立だから、まだだと思う」「もう自立して責任を持てる年齢に達していると思う」。意見が割れる。
議論の合間。23歳でがんを告知された経験を持つ阿南里恵(あなみ・りえ)さん(29)が、ゲストとしてマイクを握った。
「5年生存率は50%」と言われて死を覚悟する一方で、落ち込む両親を励ましつづけた。そんな経験を紹介し、「中学生だけじゃない。大人だって受け入れられないんです」と説いた。
授業の前半、「親の判断に委ねたい」と主張していた石黒翔太さん(15)は「阿南さんの話を聞いて、迷い始めた」。
石黒さんが親に委ねたいと考えたのにはわけがある。石黒さんの母親は10年ほど前にがんを告知され、今は完治している。母親は告知を受け、ショックで泣いてしまったと聞いた。「強く見えるお母さんが泣くほどつらいなら、僕は耐えられないと思う。だから親から聞きたい」
でも、阿南さんの言葉に、親は頼るだけではなく、支える相手でもあると気付いたという。「どっちがいいか分からないけど、自分のこととして考えなきゃと思った」
約2時間に及んだ議論は田原さんの言葉で締めくくられた。「がん告知を考えるのは生き方を考えることにつながる。後悔しない人生を送るためにも、皆さんには人の役に立つ人間を目指してほしい」(岩波精)