ラファエル・パルメイロの耳栓

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text by Kaechoong Lee

photograph by Gettyimages/AFLO

ラファエル・パルメイロの耳栓

 ステロイド使用で8月初めに出場停止処分を受けたラファエル・パルメイロが、復帰後、26打数2安打(8月31日現在)と、極度のスランプに喘いでいる。

 8月30日、絶不調のパルメイロが、耳栓をして打席に立ち、ファンの失笑を買った。出場停止処分を受けた後、パルメイロは、薬剤使用を非難するファンの激しいブーイングを浴び続けてきたが、ブルージェイズの本拠地、ロジャース・センターの試合で、ついに、前代未聞の耳栓使用とあいなったのである。しかし、耳栓をしたことが大きく報道されたせいでファンのブーイングがますます激しくなることは容易に予想され、パルメイロの耳栓作戦は逆効果に終わったと言ってよいだろう(ブルージェイズ戦の直後、パルメイロは「膝の調子が悪い」とボルチモアに戻り、ボストンでの対レッドソックス3連戦は「敵前逃亡」してしまった)。

 以前にも書いたが、パルメイロは「クリーン・イメージ」で売ってきた選手だ。「クリーン・イメージ」がどれだけファンの間に浸透していたかを示す最適の好例は、勃起不全症治療薬、バイアグラのテレビ・コマーシャルに起用されたことだろう。パルメイロが「私もバイアグラを使っています」と爽やかに語るCMだったが、間違っても品の悪さを感じさせない「クリーン・イメージ」の持ち主だったからこそ言うことができたセリフだった。

 パルメイロにとっても、「ファンに好かれる」ということはとても重要だったし、20年間「ファンに好かれる」ことに成功してきた」だけに、初めて体験する「憎まれ役」はショックだったようである。「自分は激しいブーイングには免疫ができていない」と耳栓を使うにいたったのだが、「耳栓をすれば打てるようになると考えるなんて、いかにも薬に頼るような選手の考えそうな浅知恵」と、再度男を下げたのだった。

 ところで、同じ薬剤汚染選手でも、パルメイロとは正反対に、「憎まれ役」を何とも思っていないのがバリー・ボンズだ。何とも思っていないどころか、ボンズの場合、意図的にファンやマスコミの敵対心を煽るようにし向けている節がある。まるで、ボンズにとっては、「Bonds vs. The World (自分対自分以外の世の中全部)」という闘いに勝つことが人生の最重要事であるかのようにさえ見えるのだが、ファンに嫌われれば嫌われるほど、「世の中相手の闘いに勝ちたい」というモーティべイションが強まるようなのである。

 「ファンに好かれたい」というモーティベイションでやってきたパルメイロにはブーイングを遮断するための耳栓が必要だったが、「ファンに嫌われる」ことを糧としてきたボンズなら、「ブーイングがもっとよく聞こえるように、補聴器をくれ」と言ったとしても不思議はないのである。

 今季、膝の手術の合併症でずっと欠場してきたボンズだが、いま、バッティング練習ができるまでに回復、今シーズン中の復帰が目標と言われている。復帰した暁には、ファンのブーイングという「追い風」に載せて、またまた特大ホームランを打ちまくるのだろうか?

(更新日:2005年9月6日)

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筆者プロフィール

李啓充

'80年京都大学医学部を卒業し、'90年に渡米。2002年、ハーバード大学医学部助教授を辞して、文筆業に専念。「レッドソックス・ネーションへようこそ」(ぴあ)、「怪物と赤い靴下」(扶桑社)が好評発売中


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