小沢一郎の媒体戦略 - 「国民の生活が第一」のバッジを胸につけよ
週末(1/16)のフジの政治番組に小沢一郎が生出演したところ、高視聴率の結果が出て巷で話題になっている。ちょうど1か月前だが、12/17に「小沢一郎はテレビに出よ」の記事を上げて提起した立場としては、狙いどおりの戦略の成功に面目躍如の気分である。私はその記事の中で、テレビ局の動機と論理は何より視聴率ハングリーにあること、視聴率を稼ぎたい番組は小沢一郎をコンテンツとして欲していること、そこを上手く衝けば、「公開リンチ」に陥ることなく十全に主張を訴え、メッセージを効果的に発信できることを指摘した。フジの番組の視聴率の話題は、現時点でマスコミ報道では触れられておらず、スポーツ紙や夕刊紙にも取り上げられていない。伏せられていて、未確認の情報の状態になっている。公然化させて事実を確認すると、その意味と正面から向き合わなくてはならないから、政治的思惑でそれを忌避しているのだ。国民が小沢一郎に強い関心を持っていること、その関心の中身は少なからず指導者としての待望論を含んでいること、その事実を報道関係者は認めなければならなくなる。そのことは、これまでの小沢叩きの報道の誤謬を自ら認めることに繋がる。このフジ出演の視聴率の情報は、政界とマスコミに小さくない衝撃を走らせているだろう。いずれにせよ、小沢一郎を招聘すれば視聴率が取れる。話題になる。商売になる。二匹目のドジョウを狙う局が必ず出る。
もう一つ、日刊スポーツの1/16の記事で、「首相のふさわしい人」のアンケート調査をしたところ、小沢一郎が他を大きく引き離して１位になったという報道がある。ニッカンは朝日の系列だが、この記事を見るかぎり、編集の独立が担保されている態勢が窺われる。また、宅配読者への対面調査だから、マスコミの電話調査よりも時間をかけた丁寧な調査だという点にも意味がある。小沢一郎待望論は決して根拠のないものではなく、フジの視聴率とニッカンの世論調査は偶然や都市伝説ではないのだ。小沢一郎待望論の実在とボリュームは、国民の中におけるマスコミ不信の裏返しでもある。マスコミの情報操作に対する国民のアンチパシーの証左でもある。１か月前の戦略提案の続きを言えば、小沢一郎は、もっとスポーツ新聞を積極的に媒体活用すべきだ。スポーツ紙に登場して、１面インタビューを大きく掲載すればいい。聞き手は、山口一臣でもいいし、鳥越俊太郎でもいいだろう。テレビと新聞が、菅直人の側に与して小沢攻撃の情報基地と化し、一方的にプロパガンダを投射しているのだから、小沢一郎はスポーツ紙を拠点にして、デイリーに反論を連打し、自己の正当性を主張すればよいのだ。こうすれば、まず何よりスポーツ紙が売れる。キャンプ情報しかなく、ネタ不足の時期の紙面に付加価値を与えられ、駅売りの部数を増やすことができる。WinWinだ。そして、世論に確実に影響を与えられる。
電車の吊り広告や新聞の広告欄を見ても、最近の週刊誌報道の主役は、他を圧倒的に蹴散らして小沢一郎である。半年以上ずっとそうだ。中身は、小沢一郎を持ち上げるもの（週刊朝日）もあれば、マスコミ以上に過激に叩いて貶めるもの（文春・新潮）もある。論調は多様であり、また、どれもわざわざ購入して読むほどの価値を感じられないので、一つ一つ確認もしていないが、兎に角、市場的真実として、小沢一郎はコンテンツとして売れるのであり、小沢一郎の記事を載せないと週刊誌は売れない現実があるのだ。編集部は売るためにネタにプライオリティをつける。そして、週刊誌の小沢一郎ネタというのは、まさに娯楽情報であり、政治エンタテインメントの媒体事業だという事実にも気づく。菅vs小沢の抗争劇を飽きもせず延々と売る週刊誌は、昔の東京スポーツの猪木と長州の抗争記事を彷彿させるところがある。決して、全ての読者が悪役である小沢一郎の滅亡を欲しているわけではない。マスコミ報道の欺瞞を胡散臭く思い、小沢政局の謀略性を感じ取り、そうした焦燥感を持ちながらマスコミに出ない情報を追いかけている読者も多い。であれば、小沢一郎は、こうした活字世界をもっと積極的に利用し、菅政権に対して不満を持つ国民の心情を代弁すればよいのだ。マニフェストの裏切りに対して異議申し立ての大義と正論を吐けばよい。他に誰も代弁者がいないのだから、小沢一郎がやればよいのだ。早坂茂三のような参謀がいて、読者の食指をそそる週刊誌の特集記事を次々と企画すればよいのである。
例えば、江川紹子との対談は売れるだろう。江川紹子と森ゆうこの対談記事でもいい。最近、テレビから干されている観のある江川紹子は、喋る場が欲しくて疼いているだろうから、森ゆうこと二人で検察批判をやればいい。稲盛和夫と森永卓郎と3人で経済論議をする鼎談記事という企画もある。金子勝と対談させてもいい。注目を集めるだろう。小沢一郎は旬のコンテンツなのだから、コラボレーションを設計して、WinWin戦略を精力的に推進すればいいし、それが可能なのである。小沢一郎と企画をマッチングさせたい人間は数多いはずだ。そうしたコラボレーションの演出で、貧相に見える小沢一郎のイメージに華やかさと豊かさを添えることができ、国民の一部にある期待感を増幅させることができる。活字媒体は編集が利く。テレビと違って、写真はルックスのいいものが撮れるし、言葉の表現は完成型までリバイスをかけることができる。コンテンツとしての小沢一郎は、マスコミの周辺で事業する媒体にとっては、中央に挑戦するカウンター・カルチャーであり、戦略的なビジネスの御輿なのだ。周辺媒体を押さえて行けばいい。ネットだけに固執する必要はない。BSテレビの報道番組、ラジオ番組、スポーツ紙、週刊誌。手を広げるドメインは無限にある。ラジオだと、荒川強啓がいるし、久米宏がいる。デビ夫人も面白い。コラボレーションでインパクトのある情報を発信し、支持を調達できる媒体プログラムは無数にアイディア・ラッシュできる。企画して出演すればいいだけだ。
前回の記事で、マスコミが執行部と小沢派の対立について、その本質が政策軸の対立にある点を表面に出し始めた問題を指摘した。そして、小沢派は自らその政策軸の対立の所在を公式に認め、自らの政策の正統性と正当性(Legitimacy and Justification)を国民の前で宣揚せよと訴えた。反主流派の政策集団として、自己を定義しスペシファイせよと言った。その一つのプロモーション策として、「国民の生活が第一」のバッジを作製し、各自の胸につけることを提案したい。思想信条や主義主張をバッジにシンボライズしてアピールする例は他にもあり、個人的には好感を持たないものが多いが、小沢派が「国民の生活が第一」の旗の下に結集する同志集団であることを訴えるには、この手法が最も視覚的な効果があるだろう。さらに、菅執行部がマニフェストを裏切り、「国民の生活が第一」の政策を捨てた背信に対して、それを守ろうとする側の抗議姿勢としてわかりやすい。このバッジを胸につけて映像媒体に出演し、政策軸の対立を説得すればいい。そして、このバッジを量産し、市民のデモや集会で着用し、BlogのバナーやTwitterのアイコンに使用し、「国民の生活が第一」を国民運動にすべくネットで盛り上げて行けばいい。現時点で、強制起訴に備えてハリネズミ状態の小沢派の議員は、有効な政策軸主張の対抗言論ができていない。すぐに政策主張の陣形を整え、「国民の生活が第一」に原理主義的に即く姿勢を示すべきだ。
かねて思うこととして、一新会とか何とか、小沢一郎の名前を結集の旗にするのはやめた方がいい。国民の支持を得にくく、いかにも権力闘争をやっている旧態依然の派閥のイメージが漂い、悪性の表象をマスコミに押しつけられる。結集軸のシンボルは「国民の生活が第一」にすべきだ。現在、民主党の衆院議員をやっている者は、小沢一郎に忠誠を誓う者もそうでない者も、ほとんどが「国民の生活が第一」の政策理念に賛同し、その政策を実現すべく議員になった者である。その者たちは、今、菅執行部による国民への裏切りに立ち合い、マニフェストを破り捨てる行為の手伝いをさせられようとしている。もし、原点に立ち返って、「国民の生活が第一」の政策理念に即こうとするのなら、小沢一郎直系の子分であろうがなかろうが、その旗幟を鮮明にするべきで、旗幟を鮮明にする機会を作り出すべきである。その方が、次の衆院選で必ず自己を有利にする。政治家としての次のキャリアに繋がる。菅執行部（凌雲会権力）の公認を得ようとすれば、09年マニフェストの無効と破棄を有権者の前で言わなくてはならない。曖昧な態度は許されない。審判の日は近いのであり、政策で執行部に反旗を翻すときは今なのだ。個人を囲む派閥ではなく政策集団を立ち上げるべきで、執行部に対するプロテスタントとして自己を定義するべきだ。聖書がマニフェスト、ローマ教会が執行部（凌雲会）、法王が菅直人。その運動を起こせば、必ず国民は支持をする。有権者の期待を集め、小選挙区で戦って勝てる。分裂は不可避で、分裂なしの選挙はない。
もう一点、政策を訴える際の中身だが、例の財源捻出の16.8兆円について、来年度予算のベースで削減分の具体的積み上げをリストにすべきだ。小沢派はこの点の作業を怠っていて、政策論議上の致命的欠陥になっている。政策で優勢に立てない最大の原因はここにある。小沢一郎自身が、9月の代表選で菅直人に一歩及ばなかった理由は、福井のスキー場建設と溶雪設備の話を何度も繰り返して、無駄削減と財源捻出の政策提議を深められず、単に一括交付金の話に止まってしまったからだ。羊頭狗肉だったのだ。16.8兆円を具体的に積み上げられず、迫真の問題提起ができなかった。国民を納得と共感に導けなかった。自治労と連合に配慮したからだろうか。財源論でラディカルな立論ができず、後半の論戦で尻窄みになった。09年マニフェストでは、その費目が列挙されているが、来年度予算案をベースにして、もっと細かく落とし込んで、16.8兆円を高々と掲示することである。公務員の人件費削減だけでなく、天下り法人の廃止を具体的にリストにして、天下り官僚の生首を斬る処断を言えばいい。事業仕分けが財務官僚のお手盛りパフォーマンスで、「3兆円しか無駄を削れなかった」エクスキューズの嘘を暴露すればいい。行政刷新会議が世論工作のための宣伝機関である事実を指弾すればいい。この問題は、結局は課題として次に続くのである。無駄の削減は、必ず選挙のテーマになり、国民の期待が集まる政策になる。16.8兆円の問題は終わっていない。無駄の削減こそ「国民の生活が第一」のキーである。すぐにリスト作成に着手し、検証作業をして、理論武装するべきだ。以上、(1)小沢一郎の媒体戦略の拡大、(2)「国民の生活が第一」のバッジ、(3)16.8兆円の無駄削減のリストアップ、の3点を提案したい。
