1兆円もの戸別所得補償制度を許すな
山田正彦農相は13日の閣議後の記者会見で、戸別所得補償制度を従来通り2011年度から1兆円規模で本格実施する方針を示した。参院で与党が過半数割れになったが、遅くとも来年の通常国会には法案を提出する構え。山田農相は「難しい局面もあるだろうが、マニフェスト(政権公約)実現のため、11年度から本格実施する」と明言した。しかし、法案成立には野党との協議が欠かせず、審議は修正含みで難航は避けられない見通しだ。(14日付日本農業新聞「戸別補償で農相 来年度は1兆円/農水予算組み替え 増額要求も」より)
農林水産省は、今年度約5600億円を計上している農家の戸別所得補償制度のモデル事業(今年度はコメのみ)を来年度より1兆円規模に拡大して実施する方針だという。農産物の生産コストと販売金額の差を補填する戸別所得補償制度は、「機会の平等」よりも「結果の平等」を求める社会主義政策そのもので、とても看過できるものではない。民主党は、最終的にはこの制度に1.4兆円の血税を投入するとしており、これを許せば今後ますます要求は膨れ上がっていく。ただ、幸いにも民主党は参議院で過半数を獲得できなかったため、野党の対応次第でどうにでもなる。ここは共闘して絶対に阻止していただきたい。
農家には、専業農家、第一種兼業農家、第二種兼業農家の3つの農家がある。全収入に対する農業収入の割合が高い順に専業、一種、二種となる。民主党の戸別所得補償制度では、実にこのすべてが対象となるのだという。だが、今年度実施されているモデル事業の対象農家176万戸のうち約6割に当たる100万戸の農家は、1ヘクタール未満の農地を使って役所勤めやサラリーマンが片手間に農作業をしている農家で、彼らの農業所得は年間約3万円だ。にもかかわらず、この戸別所得補償制度では、彼らに最大148万円が補償されるのだという。要するに、個人の「趣味」に政府が給付を行うのである。
こうなると、農業に見切りをつけ、専業農家に農地を貸していた元農家が政府の補償を受けるべく、兼業農家に化け、結果的に農地の貸しはがしが起こると月刊誌「農業経営者」副編集長の浅川芳裕氏は警鐘を鳴らす。さらに戸別所得補償制度がコメ以外にも拡がると、不当に安い価格で農産物を販売するダンピングが横行し、専業農家の経営を圧迫するという。大規模化・効率化を進めた優良な専業農家ほど追い込まれるのが、この戸別所得補償制度ということなのである。
赤字を出しても政府が補償してあげます――このようなやり方は、このたび日本で試してみるまでもなく、これまでソ連や東欧の国々が厭というほど失敗して見せてくれた。「結果の平等」がいかに市場の機能を奪ったかも実証済みだ。健全に経営している農家の憤怒もよくわかる。こんな農業政策ならやらない方がよい。