0117高校の国際化今こそ 留学生受け入れ起爆剤に 部活・行事で深く交流 授業改革、学校に迫る :日本経済新聞


埼玉県立浦和高校校長
関根 郁夫

埼玉県立浦和高校の関根郁夫校長は、高校教育が直面する課題を克服するため、高校の国際化を進めるべきだと提言する。

学力や学習意欲の低下、理科・科学技術離れ、中途退学問題、高い離職率など、教育を巡る課題は山積している。最近は海外への留学者減少や若者の内向き志向を問題視する声も高まっている。

「同じ土俵」に

学校現場で日々課題対応に追われていると、ふと素朴な疑問がわく。

目の前の教員たちは、朝早くから夜遅くまで子供たちのために働き、帰宅後も教材研究に励んでいる。意欲も能力も高いのになぜ、教員に課題があり資質向上を図るべきだという論調が主流を占めるのか。「フィンランドに学べ」とよくいわれるが、もし土俵が同じであれば、これだけ頑張る日本の教員は海外の教員に決して引けをとらないのではないか、と。

この「同じ土俵」こそが、今の教育問題を解決するキーワードではないか。閉じた系では、すべては秩序から無秩序(エントロピー)へ移行する。日本という閉じた系から日本の高校を開放すれば課題のいくつかは解消するはずだ。

日本の若者にいま一番必要なことは、同世代の世界の若者とかかわることである。世界とかかわれば、自分の立つ位置や行く道が見えてくる。若者の目をもっと海外に向けさせるためにも、高校教育を世界と同じ土俵にして世界に通用する内容に改めることが大切だ。それには、「海外の若者の受け入れ」と「日本の高校生の海外への送り出し」の実現が重要である。

高校が留学生を受け入れるメリットは多い。日本の高校生が海外の高校生と交流することで視野が広がるのは当然として、日本の留学生政策上も好ましい点が多い。

政府は「留学生30万人計画」を展開し、海外からの留学生は昨年14万人を超えた。大半は大学や大学院への留学生だが、日本人学生との交流が少なく、日本嫌いになる留学生もいると聞く。だが、海外と日本の若者が交流を深めるには、大学よりも高校への留学の方が効果的だと考えられる。

「少なくとも勉強、部活動、学校行事の三兎(と)を追え」とは私の口癖だが、浦和高校生徒の姿であり、多くの日本の高校生の姿でもある。クラスという共同体の中で仲間として共に学び、共に苦労し、日本の文化に根ざした様々な学校行事をつくり上げる。放課後は志を同じくする者が部活動に全力を尽くす。 挫折することも多いが、泣き笑いしながら生徒たちは成長する。3年間、互いに視野を広げ、切磋琢磨(せっさたくま)することで生涯の友を得ることができる。日本の高校のよさであり、日本ならではのよさである。

海外の高校生、特にアジアの優秀な高校生を日本に迎え、日本の高校生と友情を深め、日本と日本の高校のよさを実感してもらえば、日本好きが増える。日本の安全保障にもつながるだろう。

入試とセットで

一方、留学生受け入れは、必然的に高校の授業改革を促す。これは大学入試改革とセットで取り組む課題でもある。

残念なことだが、今の高校の授業は海外の若者が留学してまで学びたいと思えるほど魅力ある内容とは言い難い。生徒が「学び成長した」と実感できる授業になっていない。責任は主に私たち高校側にある。生徒同士が意見を交わし考えを深める授業やかかわり合い助け合う授業を、もっと工夫する必要がある。

例えば浦和高校は公民の授業にディベートを取り入れているが、他科目にも拡大し議論する力を育てたい。埼玉県は東京大学と連携、多様な考えを受け入れる力の育成を目標に協調学習と呼ばれる授業教材の研究・開発を進めている。日本アスペン研究所は、東西の古典を教材に対話を通して考えさせる哲学セミナーを実施している。ほかにも優れた研究や実践が多数ある。それらを取り入れ、留学生にも満足してもらえる授業を一日も早くつくらねばならない。授業改善の障害が大学入試である。高校は、生徒の志望実現のため、大学受験に対応した詰め込み型授業も行わなければならない。知徳体の全人教育を目指す一方で、受験準備に多くの時間を割かざるを得ない。実績のある先進校視察を行い、きめ細かな進路指導で成果をあげる高校が増えたが、それを素直に喜ぶことはできないのである。

受験勉強には広く知識を身につける効果がある。知識は考えるための基盤であり、知識獲得は重要だが、今の高校教育にはその知識を活用する学習が足りない。答えのない問題にどう取り組むかが求められる時代、答えを見いだすより問いを立てることの方が価値あるものとされる時代に、これでいいのだろうか。

「若者が内向き」という意見をうのみにせず、「内向き」という意見それ自体を疑い自分で考える生徒を育てたい。高校時代にどんな能力をどのように育てるべきか、どんな授業を提供すべきかについて、本気で検討すべき時期にきている。大学入試も変える必要がある。留学生の受け入れは、そうした高校教育改革の起爆剤になる。

日本からも外へ

立命館宇治高校が国際バカロレア(IB)認定校としてスタートしたが、留学生を受け入れる高校は公立高校であっても、IBコースを設けることが望ましい。国語以外の授業はすべて英語で行う公立高校をつくる時期にきている。いずれ公立高校が、他の都道府県や海外の生徒も受け入れ、県外や海外の高校と切磋琢磨する、そんな時代にしたい。

留学生の受け入れとあわせて、日本の高校生も海外に積極的に送り出したい。浦和高校は英国のパブリックスクールと姉妹校協定を結び短期派遣や長期交換留学の制度を設けているが、これまで長期交換留学した生徒は全員がケンブリッジ大学やロンドン大学などの英国大学へ進学した。

日本の高校生がいきなり海外の大学へ進むことは語学の壁があって簡単ではない。姉妹校との長期交換留学は、海外の大学へ送り出す上で非常に効果がある。多様な国々の高校と姉妹校提携し、交換留学できるような支援策も重要である。

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