チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[9239] 【習作】魔法使いと魔法少女(異世界→リリカル&とらハ)
Name: T&G◆d394b2f8 ID:972c4d71
Date: 2010/01/18 23:24
はじめまして、今回初めて投稿しますT&Gと申します。

この話は異世界を旅する青年(オリ主)が「リリカルなのは」の世界に来る話です。

・主観的(キャラたちの視点)ではなく客観的(テレビを見ているような感じ)で書かれている

・主人公が強い(というか最強)

・原作とはかなり違った展開

・原作キャラたちの性格が変わる

・かなり重度なご都合主義

上記の内容が含まれた作品でも読んでくださる方は次のページへ。

お嫌いな方は戻るをクリック願います。

ご意見、ご感想、誤字の指摘などは励みにもなりますので、どんどん書き込んでください。

あとリアル世界が忙しい身なので、なかなか更新できないと思いますが、最後(Sts編)まで書いていこうと思ってますので、応援をよろしくお願いします。


PS
ご意見をいただき、書き方を変えてみようと思ったのですが、なかなか上手く出来ず、結局いつも通りの書き方になってしまいました。
もう少し、書き方を勉強してから変えたいと思います。
ですので、作品を読むときに違和感や不快感などあるかもしれませんが、ご了承ください。



[9239] プロローグ
Name: T&G◆d394b2f8 ID:972c4d71
Date: 2009/08/27 00:14
何もない荒れ果てた大地に二人の青年がいた。

一人は黒くて短い髪でメガネをかけている青年であり、もう一人は茶色い長髪を後ろで束ねている青年だった。

二人とも見た目は高校生であり、普通に学校に通っていてもおかしくはない。

だがそんな様子は微塵もなく、黒髪の青年は呼吸を荒くしており、地面に座り込んでいる。

そして、茶髪の青年は体のあちこちに出来たばかりの傷があり、左腕からは血が流れていた。

「はぁっ、はぁっ、ト、トシアキ。 大丈夫か?」

黒髪のメガネをかけた青年がそう尋ねる。

茶髪の青年――トシアキは苦笑しながら答えた。

「ちょっとヤバいかもしれない。 魔力がそろそろ限界だ。 ゲンジはどうだ?」

「僕も、少しヤバかな。 体力がもちそうにない」

トシアキの質問に黒髪の青年――ゲンジが疲れ切った様子で答えた。

二人はいろいろな世界を旅している。

旅をしながら世界の『歪み』を調整しているのだ。

そもそも『歪み』とはこの世界では本来、あり得ない現象によって現れるもののことである。

世界は無数に存在する。

そして、その世界はそれぞれ異なる秩序を持ち、世界の中に存在するものはその世界固有の秩序から作られている。

ある世界から別の世界へと物体が移動し、異なる秩序にさらされると一種の反応を起こす。

それは違う秩序で作られた存在を異なる秩序に対応させる。

つまり、周囲の秩序を歪ませるものであった。

歪みの大きさは物体の大きさや常識によって異なり、大きな物体や非常識なほど歪みも大きくなる。

また、歪みは時間の経過と共にその度合いを大きくし、最終的にはその世界の崩壊が予測されている。

それを防ぐためにゲンジとトシアキが世界を渡り歩き、『歪み』を調整しているのであった。

「しかし、まさか今回はこんなにいるとは思わなかったぜ」

そう言ってあたりをみるトシアキ。

荒れ果てた大地には獣の皮や牙、人間のものと思われる手や足がバラバラに散乱していた。

「まったくだ。 今回の『歪み』は大きかったからまさかとは思ったが、さすがにこんなに沢山いたとは予想外だったよ」

ゲンジが同意するように頷いた。

トシアキの怪我やゲンジの疲れはこの生物だった物と戦闘したからであった。

「けど、これでこの世界の調整は終わったよな?」

「あぁ、僕が感じていた『歪み』はすべてなくなった」

確認するように尋ねるトシアキにゲンジは頷いてみせた。

『歪み』は特殊なものでゲンジにしか感じ取ることができなかった。

その為、探索はゲンジで戦闘はトシアキという役割分担がなされていた。

だが、ゲンジが戦闘をすることが出来ないというわけではない。

「よし。 じゃあ、次の世界に行こうぜ。 もう、人間がいない世界はこりごりだ」

「その前に治療をすべきだ」

ゲンジの指摘で思い出したように痛みを感じたトシアキ。

「そういや腕が切れてたんだった。 でも俺、治癒魔法苦手なんだよな」

「早く治療してくれ。 見ているこっちまで痛くなりそうだ」

そういうやりとりをしている間にもトシアキの左腕からは血が流れている。

「わかったよ」

トシアキは無事だった右手を怪我している左腕に向け、意識を集中しはじめた。

「・・・・・・」

すると、みるみる傷がふさがっていくではないか。

そして流れていた血も完全に止まった。

「よし、こんなもんでいいだろ」

「相変わらず魔法というのはすごいな」

その様子を見ていたゲンジが驚いてトシアキの怪我が治った腕を見つめていた。

「まぁ、その分疲れるんだけどな。 それより早く行こうぜ」

「そうだな」

頷いたゲンジは両手を前に突き出して、意識を両手の先に集中し始めた。

すると、徐々にそこの空間がねじれるように歪み、ねじれの中心から闇がにじみ出てきて、人間の身長程まで広がるとねじれが止まった。

「相変わらずゲンジの能力はすげぇな」

「だけど、このゲートは『歪み』があるところにしか繋がらないけどね。 そうだ、トシアキ。 君に渡しておくものがあったんだ」

ゲンジは思い出したようにポケットに手を入れ、そこから緑色の数珠を取り出した。

「なんだこれ?」

「これは異世界に行っても『歪み』が起きなくなるものだよ。 以前から欲しがっていただろ?」

そういいながら数珠をトシアキに手渡す。

「『歪み』が!? すごいじゃないか。 もう出来てたなんて」

「あくまで着けている者だけだけどね。 僕たちも異世界に行けばその世界の秩序が乱れるからね。 そうならない為のお守りさ」

そう言いながら自分の腕にも同じ数珠を着けるゲンジ。

「これで一つの世界に長時間滞在できるようになるんだな」

「うん。 これでゆっくり寝られるようになる」

嬉しそうに微笑みあう二人。

「じゃあ、行くか」

「そうだね」

二人が闇の中に入ろうとした瞬間、後ろで大きな爆発が起こった。

「「!?」」

驚いて二人が振り返ると、そこには先ほど倒してバラバラに散乱していたものが集まってできた異物が存在していた。

「ゲンジ! 『歪み』は?」

「あれ一つだ。 でもおかしい、さっきまで何もなかったのに・・・」

「そう言っても仕方ない。 俺が足止めをする」

トシアキはその場から空へ飛び上がった。

ゲンジも懐からナイフを取り出し、小さく呟いた。

「・・・・・・解放」

そして言葉を呟いたあと、その場からゲンジは姿を消した。

その頃のトシアキは上空に浮かんで上から右手を異物に向けた。

すると、彼の周りに小さな氷の結晶がいくつも現れ、高速で回転し始めた。

「くらぇ!」

その高速で回転した結晶は鋭く尖った氷の槍となり、異物に向かって飛んでいった。

「$*¥!?%$#!!%&><*!?」

叫び声とは思えない音を発した異物はいくつもの氷の槍により、大地に貼り付けにされていた。

「よし、次は・・・・・・」

次の魔法を使おうとしたトシアキは右手を向けた状態で止まった。

「疲れてるって言ってたのに、ゲンジもやるな」

味方が攻撃している様子をみて、微笑むトシアキ。

そして、自分も近づくために高度を下げたのであった。

異物のそばに降りてきたトシアキが見つけたのは異物に出来た幾つもの切り傷だった。

「・・・・・・どこにいったんだ? ゲンジのやつ」

「僕ならここにいるよ」

「うお!?」

独り言に真下から返事がきたトシアキは驚いて自分の足元をみた。

そこにはゲンジがナイフを持ったまま、こちらを見上げている姿があった。

「で、切り応えは?」

「うん。 固いところと柔らかいところがあった。 いろんなものを混ぜて出来ているみたいだからね」

言いながらナイフを懐にしまうゲンジ。

「にしても速いな。 まったく動きが見えなかったぜ」

「僕は能力を解放したときだけだからね。 でも、さすがに疲れたよ」

ゲンジは能力を解放すると数十倍ほど身体能力が高くなる。

先ほど消えたのは目で追えないほどの速さで移動した為である。

他にもジャンプ力があがったり、力が強くなったりするが、これは『歪み』に遭遇したときだけなのである。

よって、日常生活では普通の人間と変わりない。

それに、疲れるのも倍になるので『歪み』が消えたあとの疲労がとてつもなく大きいのである。

「よし。 あいつは動けないだろうし、さっさと消してしまおうぜ」

「そうだね。 じゃあ、行って来るよ」

ゲンジが氷の槍で動きを封じられている異物に近づいて行った。

その様子を先ほどの位置で見守っていたトシアキだが、何だか違和感覚えた。

「ん? なんか違和感が・・・・・・」

そう言っている間に異物の元までたどり着いたゲンジ。

「・・・・・・デリート」

ゲンジが異物に手を当ててそう呟いた。

すると、手を当てた部分から徐々に消えていく。

「・・・・・・気のせいだったのか?」

首をひねりながらゲンジの作業を見守るトシアキ。

そうしている間にも異物はゲンジが手を当てた位置からどんどん姿を消していく。

「・・・・・・はぁっ、はぁっ」

能力を長く使っている為か、ゲンジの呼吸はだんだん荒くなっていく。

「大丈夫かな、ゲンジ」

心配になり、近くに行こうとしたトシアキの目に飛び込んできたのは動き出した異物だった。

「なっ!?」

姿が半分以上消えており、さらに氷の槍で貼り付け状態にも関わらず動きだしたのだ。

「ゲンジが危ない」

トシアキがそう思ったときには体は動いていた。

風の力を借り、今まで出したことのないスピードでゲンジの傍まで飛んで行った。

「頼む、間に合ってくれ!」

願いが届いたのか、なんとかゲンジと異物の間に入ったトシアキ。

しかし、魔法を使う暇もなく、異物の攻撃をまともに食らってしまった。

「ぐわぁぁ!!!」

異物に取り込まれていた獣の大きな牙がトシアキの背中に突き刺さり、そのまま下に切り下ろされた。

「ト、トシアキ!?」

今まで集中して目を閉じていたゲンジが近くからのトシアキの叫び声で目をあけた。

「ゲ、ゲンジ。 こいつは異常だ。 早く・・・・・・逃げろ」

背中からおびただしい量の血を流しているトシアキはその場に倒れた。

「おい! しっかりしろ、トシアキ!」

「はぁっ、はぁっ、情けないな。 お前を助けると言っておきながら何にも出来なくて・・・・・・」

息も絶え絶えになりながら話すトシアキにゲンジは静かに首を振った。

「そんなことはない。 僕はいつも助けてもらっていたさ」

「そう言ってくれると嬉しいな・・・・・・げぼっ」

微笑みながら血を吐くトシアキを見てられなくなったゲンジは静かにゲートを開いた。

「トシアキ、君にはたくさん苦労をかけた。 これから行く世界で生きていけるかわからないが、ここより安全なはずだ」

「ゲ、ゲンジ? 何言って・・・・・・」

突然そんなことを言われたトシアキは頭に?マークを浮かべていた。

「きっと迎えに行く。 それまで生きていてくれ」

「迎えに・・・・・・? ゲンジ、まさか!?」

ゲンジが何をしようとしたのか理解したトシアキは傷が広がるのも構わず暴れまわった。

「やめろ! ゲートは毎回同じ場所に繋がるわけじゃないんだぞ!」

「僕が行くまで、生きていてくれ」

そう言って、ゲンジはゲートにトシアキの体を押し込んだ。

「ゲンジぃぃーーーーーーー!!」

押し込まれたトシアキは闇の底に落ちて行った。

その時に叫んだトシアキの声は闇のゲートの中にずっと響いていた。

「・・・・・・ごめん、トシアキ」

呟いてゲンジはおとなしくなっていた異物の方へ振り返った。

そこには体が半分消えていたはずの異物がもとの状態に修復されていた。

「僕の大切な友人を傷つけた責任、とってもらうよ?」

「$%&*+?>&$%@#!!」

ゲンジの言葉に答えるかのように言葉らしきものを発した異物。

「・・・・・・解放」

再びナイフを懐から取り出して構えるゲンジ。

「そういえば、この言葉はトシアキがいつも言ってたよね・・・・・・」

そばにいない相棒を思い出すかのようにゲンジは一瞬、目を閉じる。

「さぁ、殺りあおうか!」

そして、相棒であるトシアキがいつも戦う前に言っていた言葉を静かに目を開いたゲンジが言った。

それから異物の戦いが再び始まった。

今度はトシアキという相棒を失った状態で・・・。



~おまけ~


ゲートに体を押し込まれたトシアキは暗い闇の中をさまよっていた。

「・・・・・・この状態、いつまで続くんだ?」

変な姿勢のまま、浮いているような、落ちているような、不思議な感覚がトシアキを襲う。

「とりあえず、今度会ったら一発殴らせてもらわないとな」

どうやらゲンジに無理やり押し込まれたことを根に持っているようである。

「しかし、出口はどこだろう?」

しばらくそんな不安定な状態が続いていた。

「・・・・・・おっ?」

そうすると、暗い闇の中に明るい光が見えてきた。

「ひょっとして、あれが出口か?」

トシアキの言葉に返事をするかのように、体はどんどんその光に向かっていく。

「今度の世界はどんなところか・・・・・・」

期待と不安を胸に、トシアキの体が光の中に飛び込んだ。

「おぉ!!・・・・・・・・・おっ?」

光から抜けると、そこは一面が緑色で染まっていた。

「・・・・・・マジ?」

ゲートから抜けると下には森が見えた。

下に見えたということは現在、落下しているのである。

「ゲンジのバカヤロー!!」

ここにはいない相棒の悪態を吐きながら、トシアキは緑で染まる森へと落下していった。



~~あとがき~~


と、いうわけであとがきです。
最初からこんな展開でアレなわけですが・・・
主人公はトシアキのほうでゲンジではないですよ?w
ゲートをくぐった先は勿論リリカル!
まだ、原作キャラが出てきてないですが、プロローグなので許してくださいw

感想や誤字指摘などを頂けると嬉しいです。 では、また次の話で会いましょう。




[9239] 第一話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 00:13
まず目をあけて飛び込んできたのは太陽の光であった。

トシアキが目を覚ましたのはどこかの森であった。

「うっ、ここは・・・・・・」

太陽の眩しさと背中の痛みで顔をしかめたトシアキはそう呟いた。

「そういえば、落ちてきたんだったな」

トシアキの真上だけ、木の枝がなく太陽の光が直接あたっていた。

そして、あたりを見渡すと自分は血だまりの中心にいることがわかった。

といっても、体は痛みで動かないので、頭を左右に振って確認しただけだが。

「そうだ。 俺はゲンジに・・・・・・」

ここにいる理由を思い出したトシアキは起き上がろうとしたが、やはり体が動かない。

「・・・・・・太陽の位置を考えると昼過ぎってとこかな」

なにもすることがないので、頭上に見える太陽の位置を確認した。

それからいくらか時間がたったが、何も変わる気配はない。

「俺は結局死ぬのか・・・・・・」

そう考えていると隣の草むらがガサガサと揺れた。

人間だといいなぁ、と考えていたトシアキは草むらから出てきたものを見て驚いた。

「き、キツネ?」

そこから出てきたのは小さな子狐であった。

野生の狐なのか、草むらから首を出しているだけで、こちらに来ようとはしない。

「子狐か。 まぁ、狼よりはマシだよな」

子狐では危害を加えないと考えたトシアキはそう結論づけた。

しばらく狐を見つめていると何を思ったのか、子狐がこちらにやってきた。

「おいおい、野生の狐って人懐っこかったか?」

そばまで寄ってきた子狐はトシアキの顔をペロリと舐めた。

「ちょ、くすぐったいって」

そう言って避けようとするが、体が動かないのでされるがままに舐められた。

「く~?」

さんざん舐めても起き上がろうとしないトシアキを不思議に思ったのか、子狐は鳴き声をあげた。

「俺は怪我して動けないんだよ。 遊んで欲しかったら他をあたりな」

そう言うと子狐はトシアキを見つめて、言葉がわかったかのように返事をした。

「く~」

返事とともにもと来た道を戻って行った子狐。

「あいつ、言葉わかんのか?」

去って行った子狐のことを考えたが、背中に鋭い痛みがよみがえってきてトシアキは顔をしかめ、思考を中断した。

「いっ!? これはマジでヤバいかも・・・・・・」

だんだん視界が狭くなり、あたりが暗くなっていくように感じる。

「ゲンジ・・・悪りぃ。 約束、守れない・・・かも、しれない」

最後にそう呟いてトシアキの意識はなくなった。



***



時は少しさかのぼる。

昼過ぎのまだ暑い時間帯に八束神社へ私立聖祥大付属小学校の制服を着た少女が三人遊びに来ていた。

「アリサちゃん! すずかちゃん! こっちだよ」

白いリボンで髪の両側をちょこんと結んでいる少女が後ろにいる二人に元気よく声を掛ける。

後ろにいる一人は紫色の髪のおとなしそうな女の子――月村すずかという名で白いカチューシャを着けている。

もう一人は金色の髪をした気が強そうな女の子――アリサ・バニングスであった。

「もう、なのはったら運動苦手なくせに、こういうときは別人みたいなんだから」

「ふふふ、なのはちゃん嬉しそうだね。 よっぽど会いたかったのかな?」

前にいる少女――高町なのはを見てアリサとすずかはそう言いあった。

「はやく、はやくぅ!」

なのはが急かすようにその場で飛び跳ねている。

「はいはい、わかったわよ」

急いでなのはのもとに集まるアリサとすずか。

「それで、いったいどこにいるのよ?」

アリサはあたりを見渡したがそれらしき姿が見えない。

「ちょっと、待ってて」

なのはそう言って、鞄から先ほどコンビニで買った油揚げを取り出した。

「く~ちゃ~ん!」

油揚げを片手に持ってそう叫んだなのは。

しばらくすると、草むらがガサガサと揺れ、そこから子狐が顔をだした。

「く~?」

「くーちゃん!」

「「か、可愛い・・・」」

首だけ草むらから出している状態の子狐を見て、なのはは嬉しそうに油揚げを差し出した。

「はい、くーちゃんの好きな油揚げだよ」

「く~!」

子狐は嬉しそうに鳴いて草むらから体を出したが、アリサとすずかを見て、立ちどまってしまった。

「どうしたのかしら?」

こちらを見て止まってしまった子狐を見てアリサは首をかしげる。

「にゃはは・・・・・・くーちゃん、人見知りするから」

「そうなんだ。 じゃあ、私たちは下がっていた方がいいのかな?」

すずかが少し残念そうに言った。

どうやら子狐に触ってみたかったらしい。

「きっと大丈夫だよ。 くーちゃん賢いからわかってくれるよ」

なのははそう言って、油揚げを持ったまま子狐に呼びかけた。

「くーちゃん、この二人はなのはのお友達なの。 だから大丈夫だよ」

子狐はジッとアリサとすずかを見つめている。

「ねぇ、やっぱりあたしたちは下がっていたほうがいいんじゃない?」

「うん、そうだね。 なのはちゃん、私たちは・・・・・・」

すずかがそう言いかけたところで子狐がゆっくりと止まっていた脚を動かした。

「大丈夫。 二人とも優しいからくーちゃんをいじめたりしないよ」

「くぅ~」

ゆっくりと歩いて、なのはの持つ油揚げにパクッとかじり付いた。

なのはは微笑んで油揚げを食べる子狐をソッと撫でる。

「アリサちゃん、すずかちゃん。 大丈夫だよ」

振り返ったなのはが二人に声をかけた。

二人もゆっくりと油揚げを食べている子狐に近づいていく。

「触ってもだいじょうぶかな?」

「うん。 大丈夫だと思うよ」

すずかがゆっくりと手を子狐の体に近づけた。

子狐は触れられたときビクッと体を強張らせたが、優しく撫でるすずかに安心したのか、特に逃げようとはしなかった。

「可愛い~」

子狐に触れて嬉しそうに頬を緩ませているすずかをよそに、アリサは一生懸命食べている姿を見つめていた。

「ねぇ、なのは。 この子の名前ってなんなの?」

そしてポツリと呟くように言ったアリサ。

おそらく、声を大きくして子狐を驚かせたくなかったのだろう。

「久遠だよ。 だからくーちゃんって呼んでるの」

「久遠ね・・・・・・」

名前を確かめるように呟き、アリサも子狐――久遠に手を伸ばした。

「く~」

アリサが呟く言葉が聞こえたのか、自分の名前に反応して、鳴き声を上げた久遠。

そして、伸ばされたアリサの手をペロリと舐めた。

「「か、可愛い~」」

その様子を見ていたなのはとすずかは声をそろえて言った。

そして、しばらく三人と一匹で遊んでいると、突然久遠が森の方に振り返った。

「どうしたの? くーちゃん」

なのはの言葉を聞かずに森の奥に消えていった久遠。

「どうしたのかしら?」

「なにかあったのかな?」

アリサとすずかも顔を見合せて首をかしげた。

「追いかけよう」

なのははそう言って久遠を追って森に入って行った。

「ちょ、ちょっとなのは!」

「どうしたの? なのはちゃん」

慌ててなのは追いかけるアリサとすずか。

「なにか・・・・・・・・・ううん、誰かいる」

すずかの問に答えたなのはは森の奥へ入って行った。

それに続くようにアリサとすずかも入る。

「く~ちゃ~ん!」

「久遠~!」

奥に入ったのはいいが、久遠を見失ってしまったなのはたちは名前を呼びながら探していた。

「どこにいっちゃったんだろ」

名前を呼んでも出てこない久遠を心配したようになのはが言った。

「自分の住処に帰ったんじゃないの?」

アリサの言葉にぶんぶんと首を振って否定する。

「くーちゃんはこの森に住んでるけど、こんな奥じゃないの」

「そう。 すずかはどこにいったと思・・・って、すずか?」

話を振ったアリサがすずかの様子がおかしいことに気が付いた。

「どうしたのよ、すずか。 顔、真っ青よ?」

「う、ううん。 大丈夫・・・」

そう言ってほほ笑むが、顔色は悪いままであった。

「全然大丈夫そうじゃないじゃない! なのは、もう戻りましょう」

「そうだね。 すずかちゃん、大丈夫?」

なのはがすずかのそばまで寄っていった。

すずかはアリサとなのはに支えられて歩きだそうとした。

「く~!」

そこに再び久遠が姿を現した。

「あっ、くーちゃん!」

「く~! く、く~!!」

久遠はなのはたちを見つけると何かを訴えるかのように鳴き叫び、来た道を引き返した。

「ねぇ、なのは。 久遠の様子おかしくなかった?」

「うん、そうだけど・・・・・・」

アリサの言葉になのははすずかをちらりと見た。

すずかはその視線に気づき、大丈夫というように微笑んだ。

「ごめんね、すずかちゃん」

「ううん、いいの。 私は大丈夫だから、久遠ちゃんを追いかけよ」

先ほどよりも顔色がマシになったすずかはなのはに言った。

「う、うん!」

嬉しそうになのはは微笑み、久遠が去って行った方へ向った。

その後ろにすずかとアリサが続く。

「確か、ここの草むらに入って行ったよね?」

「えぇ、あたしはそこに入るのを見たわ」

なのはが確認するように問うと、アリサが頷いて答えた。

「じゃあ、行くね」

なのはは草をかき分けながらどんどんと先へ進む。

アリサとすずかも遅れないようについて行った。

しばらくすると草が無くなり、小さな広場に出た。

その広場から海鳴の街がはっきりと眺めることができた。

「にゃ~。 こんなところあったんだ」

「ほんと、こんな森の奥まで人は来ないから誰もわからないわね」

広場に出てきたなのはとアリサはしばらくその景色を眺めていた。

「く~!」

久遠の鳴き声にここまで来た目的を思い出した三人は急いで声のもとまで走った。

そこにたどり着いて三人が見たものは血だまりの中に倒れているトシアキの姿だった。

「だ、大丈夫ですか!?」

我に返ってトシアキのそばにやってきたのは意外にもなのはであった。

声に返事をしないトシアキをみて、なのはは携帯電話を取り出した。

「救急車は・・・」

ボタンを押そうとしていたなのはの腕を突然目をあけたトシアキが掴んだ。

「び、病院はダメだ・・・」

「えっ!? でも・・・」

携帯とトシアキを交互に見ながら迷っているなのは。

「たのむ・・・」

最後にそう言って再び目を閉じたトシアキ。

なのはは困った様子でなかなか来ないアリサとすずかを見た。

「ど、どうしよう。 ねぇ、どうしたらいいと思う?」

「そ、そうね・・・・・・・・・すずか?」

アリサは隣で服を掴んでいるすずかを見た。

すずかは下を向いたまま、何かを我慢するように服を握りしめている。

「血・・・・・・」

「え? すずか、なにか言った?」

小さい声で呟くように言ったすずかの声をアリサは聞きとることができなかった。

すずかはそこで無言のまま首を振り、逃げるように走って去ってしまった。

「あっ、すずかちゃん!」

「すずか!?」

なのはとアリサの声にも振り返らず、そのまま姿が見えなくなってしまった。

「ど、どうしよう、アリサちゃん」

「とにかく、この人を助けるのが先ね。 すずかは明日、学校で聞きましょ」

そう言ってアリサは携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけた。

「あっ、鮫島? 急いで八束神社の森まで来て。 人が血を流して倒れてるの」

それから二、三言葉を交わしたアリサは電話を切った。

「鮫島さん、なんて?」

「すぐ来てくれるって。 それにしてもこの人、どうしたのかしらね」

アリサは血溜まりの中で倒れているトシアキを見てそう言う。

「ひどい怪我してるもんね」

「それにこんな森の奥で倒れているなんて変だわ」

そのとき、アリサの携帯が震えた。

アリサは慌てて携帯を開き、電話に出た。

「はい。 あっ、鮫島? もうついたの? 今から行くわ」

アリサは携帯で話しながらもと来た道を帰っていった。

その後、鮫島というアリサの家に仕えている執事が怪我をしているトシアキに応急処置を行い、そのまま車に乗せてアリサの屋敷に運び込んだ。



***



太陽の眩しい光を直接顔に受けて、トシアキは目を覚ました。

「うっ・・・・・・・・・ここは?」

自分が寝ていたベッドから起き上がり、部屋を見回すトシアキ。

広い部屋に高級そうな家具が置いてある。

「俺、どうなったんだ?」

そう言って体を見ると、怪我をしていたところにきちんと包帯が巻かれている。

しばらく考え込んでいると、ドアが開く音が聞こえた。

「あっ、起きた?」

そこから学校の制服を着たアリサが入ってきた。

「君は?」

「あたしはアリサ・バニングスよ。 昨日、あなたが怪我をして倒れているのを見つけて運んできたの」

トシアキのいるベッドのそばによってくるアリサ。

「そうだったのか。 助けてくれてありがとう。 俺は敷島トシアキっていうんだ」

自己紹介をしながらそばによってきたアリサの頭をなでるトシアキ。

「ちょ、なにするのよ」

突然のことに驚いて慌ててトシアキの手を振り払うアリサ。

「あぁ、悪い。 ついな」

「あなたねぇ・・・・・・まぁ、いいわ。 あたしはこれから学校に行ってくるけど、おとなしくしてるのよ?」

呆れたようすで溜息をついたアリサだが、トシアキの悪びれも無い笑顔を見て起こる気も失せたようだ。

「了解、おとなしくしてるよ」

「それじゃ、行って来る・・・・・・・・・わ」

その場から去ろうとしたアリサだが、トシアキの体の一部分を見て固まってしまった。

「ん? どうかしたのか」

「ねぇ、あんたのそれ、なに?」

どこかしら怒っているようにアリサはトシアキの体の一部分¬――布団に隠れている下半身を指して言った。

「えっ?」

トシアキも言われて気づいたように自分の下半身を見た。

すると、そこの部分だけがなぜだか膨らんで大きくなっていた。

「あ・ん・た・ねぇ!?」

アリサは怒りと恥ずかしさで顔を赤くし、拳に力を溜めた。

「ちょ、待て! これは俺んじゃない!」

「じゃあ、一体なんだっていうのよ!」

必死で言い訳をするトシアキとそれの正体に対して怒鳴るアリサ。

その時、その異様に膨らんでいる下半身の部分がモゾモゾと動き出した。

「!?」

動いたのを敏感に感じたアリサはトシアキの方を向いた。

「い、いや。 俺じゃねぇって・・・・・・」

トシアキも否定しているが、相変わらずモゾモゾと動いている。

「「・・・・・・」」

二人が沈黙して、その動いているものをジッと見ていると、

「くぅ~~!」

布団の中から久遠が出てきた。

「く、久遠!?」

「狐!?」

二人とも久遠が布団から出てきたことに驚いているようであった。

「あんた、昨日からここにいたの?」

久遠に話かけるアリサだが、久遠はただ嬉しそうに鳴くだけである。

「あっ、学校! とりあえず、あたしは行ってくるから!」

フッと時計を見たアリサは思い出したように鞄を持って部屋から出て行ってしまった。

「・・・・・・」

「くぅ~」

残されたトシアキは布団から顔だけ出している久遠をじっと眺め、両手で抱えあげた。

「・・・・・・・・・お前、妖狐か?」

「くぅ!?」

トシアキの問いかけにビクリと一瞬震えた久遠。

「魔力・・・・・・ってか、お前の場合は妖力か。 それがとてつもなく大きく感じる」

久遠を目の前で抱えながらそう言うトシアキ。

そして、ジッとトシアキを見つめる久遠。

「・・・・・・なんてな。 狐が人間の言葉なんかわかるわけないよな」

目を閉じながら、トシアキは冗談を言うように微笑んだ。

すろと、久遠を抱えていた腕の重みが増した。

「?」

トシアキが目をあけてみると、狐の代わりに狐耳が頭に生えている巫女服を着た少女が抱えられていた。

「・・・・・・」

「くぅ~」

抱えられたままでトシアキを見て、嬉しそうに微笑む少女。

「えぇぇ!?」

「やっぱり気づいた。 久遠のこと、わかってくれた」

トシアキの絶叫をよそに微笑みながら人間の言葉を話す少女――久遠。

「・・・・・・人間に化けれたんだ」

「久遠、ずっと生きてる。 これくらい簡単」

その言葉を聞いたトシアキは驚きつつ、平然を装いながら久遠を静かに下ろした。

「で、なんで俺なら気づくって思ったんだ?」

嬉しそうに微笑みながら尻尾を揺らしている久遠に尋ねた。

「懐かしい匂いした」

「懐かしい?」

聞き返すとコクンと頷く久遠。

「昔会ったアキに似た匂い」

「アキ!?」

トシアキはその名前を聞いて、驚きをあらわにした。

「アキのこと知ってる?」

「あぁ、アキは俺の妹だ。 もう何年も会ってないけどな」

そう言いながら久遠の頭をなでるトシアキ。

撫でられた久遠は嬉しそうに微笑んだ。

「ちなみに俺はトシアキだ。 残念だが、アキとは違うんだ」

「でも、トシアキもいい人。 久遠を見て、怖がらなかった」

寂しそうに俯いて話す久遠。

きっと過去になにかあったのだろうと思ったトシアキは再び久遠を抱き上げ、目線を合わせた。

「そうか。 なら、俺でよかったら友達になってくれ」

「くぅ? 友達・・・」

トシアキの顔を見ながら首をかしげる久遠。

「そう、友達だ。 もしかして俺じゃダメか?」

尋ねるトシアキに首を左右に振り、否定する久遠。

「ダメじゃない。 久遠、トシアキと友達」

「そっか、よかった。 これからもよろしくな久遠」

返答を聞いて微笑んだトシアキは久遠の頭を撫でた。

「くぅ~」

撫でられる久遠も目を細めて嬉しそうに鳴いた。



~おまけ~


「久遠は普段からその姿で生活してるのか?」

巫女服を着た少女の姿を指して聞いたトシアキ。

「ちがう。 久遠、いつもは狐の姿」

「そっか。 でも、人間の姿の方が町とかに行きやすいんじゃ?」

そう指摘するトシアキに久遠は首を振って否定をあらわした。

「久遠、耳と尻尾、隠せない」

「は?・・・・・・」

思わぬ返答に一瞬思考が停止してしまったトシアキ。

「えっと、ずっと生きてきたんだよな?」

「うん。 でも、この姿にあんまりならないから隠し方、わからない」

答えながら耳をピクピクと動かし、尻尾もフリフリと動かす久遠。

「・・・・・・」

トシアキは動く耳と尻尾をジッと見ている。

「くぅ?」

何も言わないトシアキを見つめて首をかしげる久遠。

「・・・・・・・・・まぁ、可愛いからいいか」

「くぅ~!」

そう結論づけたトシアキは膝の上に乗ってきた久遠の頭を撫でた。

撫でられた久遠も嬉しそうに微笑む。

「この姿は二人だけのときにな」

「くぅ~。 わかった」

そんな会話がアリサが帰宅するまでの間にあったとか。



~~あとがき~~


一話になってようやく原作キャラ登場!
しかし、原作キャラを書くのが難しい。
他の皆さんはどうやって書いてるのでしょうか・・・

久遠を出してみましたが、原作の久遠を私は知らないw
なので、原作とは違った感じになったかもしれません。

これからどんどん原作キャラを出していきますが、少し違った感じになるのを覚悟してください。
なるべく同じように書いていきたいと思いますが・・・

それでは次回の作品もお楽しみください。




[9239] 第二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 00:30
久遠との会話が終わり、子狐状態に戻った久遠を撫でながらベッドの上で過ごすトシアキ。

アリサが出て行ってから昼時にメイド服を着た女性が食事を部屋に持ってきてくれたりしたが、昼を過ぎるとそれもなくなった。

「暇だなぁ・・・」

ぼやくトシアキ。

久遠はトシアキの胡坐の上で丸くなって眠っている。

「ふむ、なにか起きないものか・・・」

一人呟いているトシアキ、ハッキリ言って不気味だ。

だが、そんな様子を見るものはトシアキのいる部屋には誰もいない。

「帰ったわよ」

そんなとき、ノックとともにアリサの声が聞こえてきた。

「どうぞ~」

「あら、起きてたの? てっきり寝てるのか思ってたわ」

返答を聞いて入ってきたアリサは起きていたトシアキを見て少し驚いたようだ。

「いや、ずっと寝てたからか、どうも寝付けなくってな」

「そう。 そういえば、あんた・・・・・・」

「ちょっと待った。 朝も思ったが、あんたはやめてくれ。 自己紹介しただろ?」

アリサの言葉を遮ってトシアキがそう言った。

遮られたことに不満を感じたアリサだが、それならばと再び口を開いた。

「じゃあ、あたしのことはアリサでいいわ。 あたしもトシアキって呼ぶから」

「年上なのに呼び捨てかよ。 まぁ、いいけど」

名前を呼んで欲しいとは言ったが、まさか呼び捨てで呼ばれると思っていなかったトシアキは少し肩を落とした。

「細かいことは気にしないの。 それでトシアキ、怪我の具合はどうなの?」

「あぁ、応急処置をしてくれた御蔭で、だいぶ楽になってるよ」

本当はアリサが帰ってくるまでの間に魔法で治療したトシアキだが、そんなことは表情にも口にもださない。

「そう、それなら大丈夫そうね」

「?」

何が大丈夫なのかわからなかったトシアキはアリサの言葉に首をかしげる。

「実は昨日トシアキを見つけたときに一緒にいた友達が来てくれたの。 トシアキを心配してね」

アリサの言葉に助けてくれたのはアリサだけじゃなかったと知ったトシアキ。

「そうか。 なら、ちゃんとお礼を言わなきゃな」

「じゃあ、連れてくるわね。 少し待ってて」

そうセリフを残して部屋から出ていくアリサ。

アリサを見送りながらトシアキはこれからどうやって生活していくか考えていた。

「ずっと世話になるわけにもいかないからな。 まずは働くか」

一人でいろいろと考えている間にアリサが戻ってきた。

「連れてきたわよ。 この二人が昨日、一緒にいたの」

アリサに続いて部屋に入ってきた、なのはとすずか。

「こんにちわ。 高町なのはです」

「月村すずかです」

入ってきた二人は入口で簡単な自己紹介をした。

「・・・・・・」

その二人を見て、固まっているトシアキ。

「どうしたのよ?」

アリサの言葉にハッと我にかえったトシアキは苦笑し、頬をかきながら言った。

「いや、美少女の友達は美少女という漫画みたいなことがあるんだなぁと思ってな」

トシアキの言葉に三人は照れたように頬を少し赤くした。

「な、なに言ってるのよ!」

いち早く復活したアリサはベッドのそばまで進んでいき、トシアキに食ってかかる。

「にゃはは・・・・・・」

そのアリサの様子を見ながら頬を少し赤くしてなのはは苦笑を浮かべている。

「・・・・・・」

すずかはまだ照れているのか、俯いたまま黙っていた。

「なんで怒るんだよ。 本当にそう思ったんだからいいだろ」

「思うなら心の中にしまっときなさいよ! 口に出して言われたら恥ずかしいじゃない」

照れなのか怒りなのかわからないが、顔を赤くしたアリサがそう怒鳴った。

「そうか、それはすまん。 今度からは心の中で呟いておこう」

「あんたは・・・・・・もう、いいわ」

これ以上なにを言っても無駄だと思ったアリサは途中で遮ってドアの所に立っているなのはとすずかの方を向いた。

「なのは、すずか、そんなところに立っていないでこっちに来たら?」

「そ、そうだね」

「う、うん」

アリサの言葉にもどこかぎこちなく答えた二人はテクテクとベッドのそばまでやってくる。

「改めましてよろしく。 俺は敷島トシアキっていうんだ」

二人がそばに寄ってきたのを確認したトシアキは自己紹介をした。

「えっと・・・・・・敷島さん?」

おどおどした様子でトシアキの苗字を呼ぶなのは。

「なんだい? 高町さん」

それに対し、トシアキもなのはの苗字を呼んで首をかしげる。

「あっ、わたしのことはなのはでいいです」

「そうか。 じゃあ、なのはも俺のことはトシアキと呼んでくれ」

「えっと、トシアキさんはどうしてあの場所に?」

いきなりストレートな質問をしてくるなのはに対し苦笑して答えた。

「・・・・・・・・・・・・実は俺、魔法の国からやってきたんだ」

「「「えっ!?」」」

本来、その世界にありえないものは『歪み』を引きおこす原因となるので、こういったことは隠す方がいいのだが、トシアキはありのまま話した。

「その途中に魔物に襲われて大怪我をして、あそこで力尽きた。 というわけだ」

ほとんど真実に近いことを話したトシアキ。

「そんな話、信じるわけないでしょうが!」

この世界では魔法や魔物はありえないものなのでアリサは誤魔化されたと感じた。

すずかも同じ思いなのか、疑っています。という視線を感じるトシアキ。

しかし、なのはだけは何かを考えこむように黙ったままであった。

「本当のことなんだけどなぁ」

話したトシアキも信じてもらえないと思っていたのか、苦笑しながらそう言った。

「とにかく、三人に言っておくことがある」

突然、真剣な表情に切り替わったトシアキを見て、三人とも顔を強張らせた。

「アリサ、なのは、月村さん、俺の命を助けてくれてありがとう」

そう言って頭を下げたトシアキ。

そんな態度のトシアキに三人ともかえって恐縮してしまった。

「べ、べつにいいわよ。 困ってる人を見つけたら助けるのは当然だし・・・」

そっぽを向きながら答えるアリサ。

「そ、そうですよ、そんな頭をさげなくても・・・」

トシアキの態度に慌てて言葉を繕うなのは。

「そんな・・・・・・私は役に立てませんでしたし」

血溜まりの中で倒れているトシアキを見て逃げ帰ってしまったすずかは後ろめたさからか、暗い表情でそう言った。

そんな様子を見たトシアキはそっと両手をすずかの肩においた。

「それは仕方ない。 誰だって人が血まみれで倒れていたら逃げたくなるもんだ」

「でも・・・」

涙を浮かべながら、トシアキを見るすずか。

「結果的に俺は助かったんだ。 だから、月村さんが気にする必要はないよ」

肩に置いていた手をすずかの頭に移動させ、優しく撫でるトシアキ。

すずかはその優しさを直接感じて、ため込んでいたものを出すかのように涙を流した。

「うっ・・・・・・ごめ、ん・・・なさい」

すずかはベッドに顔を押しあてて、静かに泣いていた。

「大丈夫、心配することはなにもないよ」

そう言いながら落ち着かせるように頭を撫でているトシアキ。

そして、その様子をジッと見つめていたアリサとなのは。

「ど、どうしたんだよ。 二人とも」

「別に、なんでもないわよ」

「うん。 なんでもないの」

言葉に感情がこもっていなかったために少し恐怖を感じてしまったトシアキ。

「えぇっと、あの・・・」

「あ、ありがとうございました」

二人の冷たい視線が怖かったトシアキが何かを言おうとすると、今まで泣いていたすずかが頬と眼を赤くした状態で頭を下げた。

「あ、あぁ。 落ち着いた?」

「はい、もう大丈夫です」

人前で泣いていたことが恥ずかしかったのか、すずかの頬はまだ赤いままだ。

「ならよかった。 月村さ・・・」

「すずかです。 私もみんなと同じように名前で呼んでください」

トシアキの言葉を遮って、すずかはそう言ってほほ笑んだ。

「わかった。 俺もトシアキでいいからな」

「はい」

ようやく場の雰囲気が落ち着いたところで、トシアキは思い出したように膝の上で眠っていた久遠をそっと抱き上げた。

「あっ、く~ちゃん!」

「そういえば、忘れてたわ」

腕の上で眠る久遠を見つめて三人は微笑んだ。

「・・・・・・くぅ~?」

なのはとアリサの声が近くで聞こえたためか、目をあける久遠。

「久遠って、誰か飼ってんのか?」

「えっと、たしか神社にいる那美さんって人と一緒にいるのを何回か見かけたけど・・・・・・」

トシアキの問になのはが答える。

その間に久遠は完璧に目覚めたようだ。

「そっか。 なら、久遠をもとの所に連れて帰らないとな」

「く!?」

トシアキの呟きに驚きを現す久遠。

だが、子狐状態なので誰もそんなことには気づかない。

「俺はここからまだ動けないから、なのはとすずかが帰るときにでも連れて行ってくれないか?」

その言葉を聞いて久遠は慌てて首を振った。

「くぅ~! くぅ~!」

「ん? どうかしたのか?」

様子が変わった久遠を見て、首をかしげるトシアキ。

「もしかして、トシアキさんと一緒にいたいんじゃないですか?」

すずかは久遠の様子を見てそう言った。

「くぅ!」

その通りだ、というように頷く久遠。

そして、トシアキの腕を上って右肩に座り込んだ。

「みたいですよ?」

「でもなぁ、その那美さんって人が心配するだろ?」

「あ、わたしが伝えときます」

なのはがそう言った。

「じゃあ、すまんが頼まれてくれるか?」

「はい! 任せて下さい」

「よろしくな」

そう言ってなのはの頭を撫でてやるトシアキ。

自分の妹によくやっていたためか、人の頭をなでるのが癖になっているようだ。

「にゃはは」

撫でられているなのはもどこかしら嬉しそうに微笑んだ。

「あっ、もうこんな時間」

「ほんとだ。 アリサちゃん、トシアキさん、そろそろ帰るね」

すずかが時計の針を見てすでに夕方になっていることに気づき、なのはも帰る準備を始める。

「鮫島に送らせようか?」

「うんん、大丈夫。 ノエルが迎えに来てくれるから」

「わたしは那美さんのところに寄って行くからいいよ」

学校の鞄を背負いながらすずかとなのはは言った。

「それじゃあ、またな。 すずか、なのは」

「はい、トシアキさんも早くよくなってくださいね」

「またお話聞かせて下さいね」

「あたしは玄関まで送ってくるわ」

なのは、すずか、アリサの三人は楽しそうに微笑みながら部屋から出て行った。

「また・・・・・・か」

残されたトシアキはなのはに言われた言葉をポツリと呟いた。

「くぅ?」

久遠もそんなトシアキの様子を心配したのか、頬をペロリと舐めた。

「ん? 久遠、心配してくれてんのか?」

「くぅ!」

「ははは・・・・・・サンキューな」

肩に乗っていた久遠を下ろし、頭を撫でてやる。

久遠は嬉しそうに目を細めて、それを受け入れていた。



***



なのはとすずかが帰宅した後、アリサは自室に籠ってしまった。

夕食を運んでくれたメイドさんが言うには宿題を片付けているらしい。

自分と久遠しかいない部屋で少し退屈だと感じていたトシアキはだんだんと眠たくなってきた。

「ふぁぁ~。 ヤベ、眠くなってきた」

大きな欠伸をして、寝るには早いと思いながら目が閉じてきた。

「失礼します」

「!?」

突然、部屋の外から声が聞こえてきたため、一瞬で眠気が吹き飛んだトシアキ。

「ど、どうぞ」

部屋に入ってきたのは執事服に身を包んだ男性だった。

「私はアリサお嬢様に仕えております、鮫島というものです」

「あっ、俺は敷島トシアキです。 いろいろとご迷惑を・・・・・・」

鮫島が頭を下げて挨拶をしたので、トシアキも慌てて自分の名前を言い、頭を下げる。

「いえ、アリサお嬢様はあなたのことを嬉しそうに話しておられます。 けっして迷惑ではありませんのでお気になさらず」

「えっ!? アリサが?」

まさか自分がいないところでアリサがそんな風に話していたとは思わなかったトシアキ。

「はい。 お嬢様はご両親が二人とも海外へ仕事で行っておられるので、いつもさみしそうになさっていました」

「でも、あなたやほかの人たちが・・・」

「私どもは雇うものと雇われるものの関係なので、どこか遠慮などがあったと思います」

「なるほど」

うなずくトシアキを見ながら、鮫島は頭を下げた。

「あなたのおかげで最近のアリサお嬢様は楽しそうです。 本当に感謝しています」

頭を下げている鮫島を見て、トシアキは慌てて首を振った。

「そんな、感謝だなんて。 俺は何もしてませんよ? 助けてもらったわけですし」

「それでもです。 これからもアリサお嬢様をよろしくお願いします」

「・・・・・・」

その言葉を聞いた途端、トシアキは黙ってしまった。

返事がかえってこないトシアキを不思議に思い、様子をうかがう鮫島。

「・・・・・・すみません。 俺は長くここにいられませんので」

長い間があって、そう返事を返したトシアキ。

「そうですか」

答えを聞いた鮫島は最初からわかっていたように、返事をして頷いただけであった。

その時、ちょうどドアをノックする音が聞こえてきた。

「トシアキ、入ってもいい?」

ノックした相手はアリサだった。

トシアキは目で鮫島にさっきのことは内密にと合図をして返事を返した。

「あぁ、いいぞ」

返事を聞いて入ってきたアリサはお皿を持ってそばに寄ってきた。

「あれ? 鮫島、いたの?」

「はい。 少しお話を聞かせていただいておりました。 ちょうど、終わりましたので、私はこれで」

一礼して部屋から出ていく鮫島。

出ていく前にトシアキとアリサに視線を向け、その様子を見て微笑んで去っていった。

「なに話してたの?」

「別に、なんでもないよ。 それよりどうしたんだ?」

トシアキは話をごまかすためにアリサが訪ねてきた理由を聞いた。

「えっと、クッキーがあったから持って来てあげたの」

少しどもりながら持っていたお皿をトシアキに差し出すアリサ。

そこにはおいしそうなクッキーがたくさんのっていた。

「おっ、うまそうだな。 ちょうど小腹が空いてたんだ」

そう言いながらクッキーを一つまみ食べるトシアキ。

その様子をドキドキしながら見守るアリサ。

「ど、どう?」

「ウマい。 味といい、焼き加減といい、完璧だな」

クッキーの味をそう評価し、もう一つまみを口に運ぶ。

「そ、そう。 持って来てあげたあたしに感謝しなさい」

「あぁ、するする。 わざわざ俺のために焼いてくれたんだろ?」

トシアキはそう言ってアリサを見た。

「な、なんでわかったの!?」

アリサは驚いた様子でトシアキを見た。

「だって、置いてあったクッキーがこんなに温かいわけないだろ?」

「あっ・・・」

そんなことに気付かなかったというような表情をしたアリサ。

「ははは・・・・・・サンキューな。 アリサ」

アリサを見ながら笑ったトシアキはクッキーを焼いてくれたお礼を言いながら頭を撫でた。

「べ、別にトシアキのために作ったわけじゃないのよ? あたしが食べたかったの。 トシアキのは・・・・・・そう、ついでよついで!」

アリサは頭を撫でられながら頬を赤くし、そう言った。

「そうか。 じゃあ、アリサも食べなきゃな。 ほら」

「えっ?」

お皿からクッキーを一つまみ取り出し、アリサの口元に運んだトシアキ。

それに驚いて口を少し開けていたアリサにトシアキはクッキーを入れた。

「ウマいか?」

「う、うん・・・」

トシアキの行動に完全に照れてしまい、頬を赤くしておとなしくなったアリサ。

部屋の雰囲気が明るくなってきたところで、トシアキは笑っていた表情を真剣な表情に切り替えた。

「アリサ、大切な話がある」

「な、なによ」

まだ少し照れているのか、トシアキの顔を見ずに視線をそっぽに向けているアリサ。

「俺、今夜出ていこうと思ってるんだ」

「・・・・・・えっ?」

今までのことを忘れたようにトシアキの方を向いたアリサ。

その向いた先にはトシアキが真剣な表情でアリサを見つめていた。

「・・・・・・嘘でしょ?」

「悪いが、本当だ」

トシアキの肯定の言葉にアリサは急に悲しくなってきて、目に涙を溜めた。

「どうして!? どうして急に出ていくの!?」

涙を流しながら大声で叫ぶアリサ。

ベッドのそばに寄って来てトシアキの手を掴んで左右に振り回した。

「すまない」

「・・・・・・事情くらい話してくれてもいいじゃない」

アリサがトシアキの手からベッドのシーツに握るものを変え、小さく呟いた。

その言葉は静かな部屋の近くにいるトシアキにははっきりと聞こえていた。

「ごめんな。 助けてもらって事情を話さないなんて失礼だと思うけど、巻き込みたくないんだ」

ベッドの上からアリサの頭に手を乗せてゆっくりと言葉を選びながら話す。

「・・・・・・もう、充分に巻き込んでるじゃない」

「だからだ。 これ以上かかわると俺みたいな怪我を負うかもしれない」

「・・・っ・・・・・・」

頭を撫でられながら、静かに泣くアリサを見てられなくなったトシアキ。

「まだこの町にはいるつもりだから、また会えるよ」

「・・・・・・本当?」

涙で濡れた顔を上げ、トシアキを見上げるアリサ。

「あぁ。 何度か遊びにくるから、そんときにまた話そう」

答えながらアリサの涙を拭ってやるトシアキ。

「・・・・・・」

無言で、コクリと頷くアリサ。

「それじゃあ、俺はもう行くな」

泣きやんだことを確認したトシアキは膝の上で眠る久遠を抱え、ベッドから静かに立ち上がった。

「さよならは言わないわよ。 今度会うんだから・・・またね」

「あぁ、また・・・な」

最後にアリサの頭を軽く撫でて、窓の方へ歩いて行くトシアキ。

「そこから行くの? 玄関から行けばいいのに・・・」

「まぁ、最後くらいって思ったんだ」

トシアキの意味がわからない言葉に首をかしげるアリサ。

「あっ。 クッキー貰って行っていいかな?」

「・・・・・・バカ」

そう言いながら可愛らしい袋に残っていたクッキーを入れる。

そして、トシアキに手渡した。

「サンキュー。 大切に食うよ」

受け取ったトシアキはまだ温かいクッキーの温もりを感じながら微笑んだ。

「また、いつでも焼いてあげるわよ。 だから、ちゃんとうちに来なさいよ」

「ははは・・・・・・了解。 じゃ、またな」

窓を開け、そのから入ってくる風を受けてトシアキは目を閉じた。

その様子を見ていたアリサだが、だんだんと驚きが表情に出てくる。

なんと、トシアキの足が地面から離れていき、宙に浮いてきたのだ。

「ト、トシアキ・・・・・・」

「だから言ったろ? 本当のことなんだけどなぁって」

宙に浮いたまま振り返ったトシアキは苦笑しながら、驚いているアリサに言った。

「じゃあな。 優しい、寂しがり屋のお姫様」

「あっ・・・・・・」

アリサがなにかを口にする前にトシアキは大空に飛び去ってしまった。

「うっ・・・・・・う、わぁぁぁん!!」

最後にさみしさが込み上げてきたのか、トシアキが去っていたところに座り込んで大声で泣きだしたアリサ。

その鳴き声は空に去って行ったトシアキにも届いていた。



~おまけ~


朝の私立聖祥大付属小学校での出来事。

いつものようにバスに乗ったなのはであったが、今日はすずかが見当たらなかった。

不思議に思いつつも、いつもの席に座っているアリサのもとまで歩いて行く。

「おはよう、アリサちゃん。 すずかちゃんは?」

「おはよう、なのは。 すずかはバスに乗ってなかったのよ」

そう言って、隣に席を詰めるアリサ。

アリサの隣に座ったなのはは昨日見つけた人のことを尋ねた。

「昨日の人、どうだった?」

「あぁ、あいつね。 今日の朝見てきたけど、もう起きていたわよ」

「そっか、よかったぁ~」

まるで自分のことのように安心しているなのはを見て、アリサはクスリと笑った。

「なに? そんなに気になってたの?」

「だって、あんなに血がでてたんだよ? 最初は死んじゃってると思ったもん」

手で必至に説明するなのはを見て、安心させるように口を開いた。

「大丈夫よ。 鮫島の手当がよかったみたい。 今日の放課後に様子見に来る?」

自分で確認した方がいいだろうと思ったアリサはそう尋ねた。

「うん! 行く!」

案の定、嬉しそうに微笑むなのは。

他人を心配できる優しさを持っているのがなのはのいいところだ。

「それより昨日のすずかはどうしたのかしら?」

「そう言えば様子が変だったよね。 体調が悪かったのかな?」

そうこう話している間にバスが学校に到着した。

教室に入ってしばらくすると、すずかが登校してきた。

「すずか!」

「すずかちゃん!」

すずかを見つけたアリサとなのはが心配するような視線を向ける。

「あっ、アリサちゃん、なのはちゃん」

すずかも二人に気づいたのか、そちらの方へ歩いて行く。

「すずか、昨日はどうしたの?」

「そうだよ、様子が変だったから心配したんだよ?」

二人の言葉にすずかは微笑んで答えた。

「もう大丈夫だよ。 昨日はその・・・・・・血を見たから」

すずかの答えに二人は納得したように頷いた。

「そうよね。 あんなところで人が血を流して倒れていたら怖いわよね」

「そうだったんだ。 わたしも怖かったけど、それよりも助けなきゃって思いが強かったから」

本当は違うのだが、そういう風に納得してくれた方が都合よかったので、すずかは特に何も言わなかった。

「すずかも今日、うちに来る? なのははお見舞いに来るんだけど」

「えっ、でも、途中で帰っちゃった私が行ってもいいのかな」

見捨てて逃げ帰ってしまったことに少し罪悪感を持っていたすずかはそう言った。

「いいのよ。 たぶん、あいつは気にしないと思うわよ」

「そうだよ、一緒に行こうよ。 すずかちゃん」

二人がそういう風に言ったので、すずかはアリサの家に行くことを決めた。

そして、見捨ててしまったことをちゃんと会って謝ろうと思ったすずかであった。



~~あとがき~~


二話目投稿しました。
しかし、書いてて思ったんですが、なんてこと書いてんだ! 
あんなアリサが作ったクッキーの十倍くらい甘い展開を書いてしまった自分が少し恥ずかしいです。

せっかくの魔法使いの話なのに戦闘シーンがプロローグしかないって・・・
楽しみにしていただいている皆様には申し訳なく思っています。
次回には書くつもりなので、どうか見捨てず、応援してください。

感想や誤字・文章の不審な箇所の指摘もどんどんお願いします。
個人的に書く意欲にもつながりますのでw

それでは、三話でまたお会いしましょう。




[9239] 第三話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 00:44
アリサの家から飛び立ち、夜の冷たい風に当たりながらトシアキは久遠を抱えて飛んでいた。

空から見た夜の海鳴の街が美しく見えた。

「くぅ・・・」

久遠が冷たい風にずっと当たっていたためか、腕の中で震えているのに気づいたトシアキ。

「ん? 寒いか、久遠」

「くぅ」

トシアキの声を聞いて、頷く久遠。

その様子を見たトシアキは進むのをやめ、宙に浮いたまま停止した。

「ふむ、ならあの公園に降りて少し休憩するか」

上空から見えた海鳴臨海公園を指すトシアキ。

「くぅ!」

久遠も頷き、公園へ向って進もうとした瞬間、一匹の鳥がもの凄いスピードでトシアキのそばを通過していった。

「うぉ!?」

その為、バランスを崩したトシアキは通り過ぎた鳥に向かって風魔法を放った。

「あぶねぇだろ!」

鳥が人間の言葉をわかるはずもないのだが、思わずそう言ってしまったトシアキ。

無数の風の刃が飛んでいる鳥に当たり、右の翼を断った。

「ざまぁみろ」

そう言いながら、落ちていく鳥を見ていた。

「なっ!?」

なんと、落ちていた鳥の翼が突然生えてきたのである。

「この世界の生物はあんなのばっかりなのか!?」

「くぅぅ!?」

腕に抱えられた久遠に尋ねたトシアキは驚きつつも、再び戦闘態勢に入る。

久遠は首を左右に振って否定し、翼が生えた鳥を驚いた目で見ている。

「ってことは、『歪み』はあいつか。 ゲンジがいないからどこにあるのかわかんねぇ」

いつも隣で一緒に戦っていた相棒がいないことに愚痴をこぼしていると、先ほどの攻撃でトシアキを敵だと認識したのか、こちらに向かって飛んでくる鳥。

「・・・爆ぜろ!」

トシアキの見つめる先で小規模な爆発が起こった。

「まだまだいくぜ!」

どうやらトシアキが何か魔法を使用しているらしいが、どんな原理でそれが起こっているのかはわからない。

次から次へと小規模の爆発が起こり、トシアキの視線の先は爆煙でなにも見えなくなった。

「終わったか・・・・・・」

徐々に煙が晴れてくると鳥の姿はなく、代わりに青い宝石が一つ浮いていた。

「なんだ?」

青い宝石は光を放ちながらゆっくりと下に落ちていく。

「よっと・・・・・・これは」

落ちていく青い宝石を手に取って眺めていると、宝石から微量の魔力が漏れていることに気づいたトシアキ。

「さっきの鳥はこれが原因で・・・」

呟きながら宝石を両手で覆い、封印呪文を唱えた。

青い宝石の放っていた光がなくなり、魔力も感じられなくなった。

「よし、これで大丈夫だろ」

「くぅ!」

久遠に微笑みながら封印した青い宝石を見せるトシアキ。

「さて、公園にたどり着いたわけですが・・・」

夜の海鳴公園に人影はなく、外灯がぽつぽつとあるだけであった。

「どうしよっか?」

「くぅ?」

抱えた久遠に尋ねたトシアキだが、久遠にも首を傾げられてしまい、とりあえず近くにあったベンチに座る。

「アリサの家から出てきたけど、よく考えたらこの世界の金、持ってないしなぁ」

「どうする? トシアキ」

いつの間にか子狐から巫女服を着た少女に姿を変えていた久遠がトシアキの膝に乗りながら見上げてくる。

「とりあえず、この綺麗な宝石を売ってお金に換えるかな」

「でもお店、閉まってる」

「ぐっ・・・・・・今は夜だもんな」

久遠に指摘され、本当に行き詰ってしまったトシアキ。

「取り合えず、クッキーでも食うか」

「くっき~?」

トシアキはアリサに詰めてもらった袋を取り出してあけた。

「そうだ。 アリサが焼いてくれたんだ。 うまいぞ?」

「久遠も食べる」

トシアキはクッキーを数枚取って残りを久遠に渡してやり、食べながら夜空を見上げていた。

「ほんと、どうしよ・・・・・・」

「トシアキ、これおいしい!」

袋に入ったクッキーを嬉しそうに頬張る久遠を見て、トシアキは頭を撫でてやった。

「そうか。 全部食べていいからゆっくり食うんだぞ」

「くぅ!」

元気よく返事をして、再びクッキーを食べ始める久遠。

その久遠を膝の上に乗せたまま、トシアキも再び夜空を見上げる。

「ん?」

夜空を見上げたトシアキの真上を何かが通って行った。

「なんだ、あれ」

トシアキは飛んで行った方を見ると、そこに大きなビルが立ち並んでおり、その中でも突き出ているマンションが目に入った。

「でっけぇ~」

トシアキの真上を通りすぎたなにかはそのマンションの屋上に降り立った。

「・・・・・・」

「トシアキ、全部食べた」

考えごとをしていたトシアキに久遠は空っぽになった袋を渡した。

「ん? 全部食べたか」

「うん、おいしかった。 また食べたい」

袋を受け取ったトシアキは丁寧に畳んでポケットにしまい、代わりにハンカチを取り出した。

「そうか。 また、アリサに頼もうな。 口もとにクッキー付いてんぞ」

取り出したハンカチで久遠の口もとを拭いてやるトシアキ。

「く、くぅ」

されるがままに口もと拭かれた久遠は耳をピクピクと動かして、トシアキを見た。

「トシアキ、痛い」

「悪い、少し強くやりすぎたかな」

苦笑してハンカチをしまったトシアキは久遠を膝の上からおろして、立ち上がった。

「さて、目的地も決まったし、行きますか」

「久遠、姿、変えたほうがいい?」

トシアキを見上げるようにして久遠は尋ねた。

「いや、別にそのままでもいいが・・・ 久遠は飛べないのか?」

「久遠、元の姿に戻ったら飛べる。 けど、大きくなるからあちこち壊れる」

そう言って、公園を見渡す久遠。

さすがに壊れたら困ると思ったトシアキは久遠を抱き上げた。

「じゃあ、俺が飛ぶよ。 久遠はこのままでも子狐でも好きな方の姿で」

抱えられた久遠はトシアキの言葉を聞いて子狐に姿を変え、トシアキの頭の上に乗っかった。

「くぅ!」

「ははは・・・ その方がいいのか。 んじゃ、行くぞ」

トシアキの周りに風が吹き始め、足が地面から離れて浮かびあがった。

そのまま、トシアキは上空に飛び立ち、先ほどのなにかを目指してマンションの方へ飛んで行った。

「そういや久遠」

「く?」

「さっき寒いって言ってなかったか?」

頭の上にしがみついている久遠にトシアキは尋ねた。

「・・・・・・くぅ~」

「ふむ、我慢してくれてるのかな。 まぁ、大丈夫ならいいや」

本当は飛びあがってから寒いことを思い出した久遠だが、子狐の姿では喋れないので、はやく目的地に着いてほしいと願うのであった。

「よし、到着。 にしても高いな」

目的地であるマンションの屋上に着いたトシアキと久遠。

「くぅ~」

「よし、さっきのやつを調べるぞ」

屋上から中へと入っていくトシアキ。

最上階の廊下を歩いていると、壁を挟んだ向こう側から魔力の反応を感じた。

「ん? この部屋か・・・」

ドアの前で立ち止まるトシアキ。

「ん~~」

ドアの前で考え込むトシアキに久遠は頭をペチペチと叩く。

「くぅ?」

「あ、いや、こんな夜にドアをノックしてもいいのかと思ってな」

そう言って久遠に答えつつドアの前で再び悩み始めるトシアキ。

その様子はまわりから見れば不審者だが、幸いにも夜なので誰もいない。

「まぁ、いいか」

結局、呼び鈴を押すことに決めたトシアキは手を伸ばして呼び鈴を押した。

しばらくして、部屋の中から人の気配が動き、ドアに近づいてくる。

「あっ・・・」

ドアが開き、そこから顔を出したのは金色の髪を両サイドで止めている少女であった。

「・・・・・・なにか」

「えっと、その・・・」

静かに、そしてゆっくりと話された少女の言葉にトシアキは頬をかいて苦笑した。

「用がないなら・・・」

そう言ってドアを閉めようとする少女にトシアキは言った。

「君、魔法使いだろ?」

「!?」

トシアキの言葉にとっさに少女は武器のようなものを取り出し、その先をトシアキに向けた。

「どうして?」

「い、いや・・・君が飛んでいくのが見えたから追いかけてきたんだよ」

武器である光の鎌の先を首に当てられ、驚きながら答えるトシアキ。

「・・・・・・それで?」

「この世界に魔法使いはいないから、同じ魔法使いならなにか力になってくれないかなぁと・・・」

小さな少女に脅されている状態のトシアキは両手を上げながらそう話した。

「・・・では、管理局とは関係ないと?」

「管理局? なんだそれ」

しばらくトシアキの目を見つめていた少女だが、スッと武器を下ろした。

「どうやら嘘はついてないようですね」

「あぁ、俺は昨日この世界に飛ばされてきたんだ。 おかげで住むところもなくて困ってる」

武器を下ろしてくれたことにより余裕が生まれたトシアキはそう言った。

「ですが、あなたを助けて私に何か利益があるのですか?」

「あ~。 お金はないし・・・明日この宝石を換金しに行くつもりだから明日まで待って欲しいんだけど」

そう言ってトシアキは先ほど手に入れた青い色の宝石を取り出す。

「!? ジュエルシード!」

「なんだそれ?」

その青い宝石――ジュエルシードを見て少女が驚いたようだ。

「それをどこで!?」

「あ、あぁ、これは変な鳥が持ってたんだ」

「そうですか・・・」

少女の声が変化したことに驚きながら、トシアキは先ほどの出来事を話した。

そして、少女は何かを考えたあとで、トシアキの方を向いた。

「わかりました。 その宝石を頂けるのなら助けましょう」

「えっ!? 本当に!?」

まさかの答えにトシアキは驚いて少女を見た。

「はい。 それで何をすればいいのですか?」

少女はトシアキを見ながら首をかしげている。

それを見て少し意地悪してみたくなったトシアキは冗談半分に言った。

「住むところがないから泊めてくれ」

「どうぞ」

そう言って部屋に入っていく少女。

「・・・・・・えっ!?」

その後姿を見ながらトシアキは再び驚くことになった。

言ってしまった以上約束を守らなければいけないので、ジュエルシードを渡すために部屋に入るトシアキ。

「広いな・・・」

「そこの部屋以外は好きに使ってくれて構いません。 それと私はここにいないことの方が多いので、勝手に使ってください」

淡々と話す少女にトシアキは近づいて行った。

「?」

「これ、渡しそびれてたやつ」

そう言って少女の手にジュエルシードを乗せてやる。

「でも、まだ泊めてませんよ?」

「家に入れてくれた時点で約束を果してくれたと考えてもいいだろ?」

微笑みながらそう言うトシアキに少女は小さく頷いた。

「・・・では、頂きます」

「それにしても、なんでこんなもん集めてんだ?」

「母さんが・・・」

そこまで言って、口を紡いでしまう少女。

その様子を見たトシアキはそっと少女の頭に手を乗せた。

「あっ・・・」

「悪い。 いやだったら言ってくれ。 でも、事情があるなら話してほしい。 何か手伝えるかもしれない」

頭を撫でられながら俯いている少女は少しずつ話始めた。

「母さんが、必要だって言ってたから・・・」

「そうか。 それで君は手伝おうと思ったんだな?」

トシアキの問いかけにコクリと頷く少女。

「よし! なら俺は君のためにそのジュエルなんとかを集めるのを手伝おう」

「えっ!? でも・・・」

少女は俯いていた顔を上げ、トシアキを見つめる。

「俺はこう見えても結構強い魔法使いなんだぞ?」

「魔法使い・・・さっきも聞いたけど、私たちとは違う?」

魔法使いという言葉に首をかしげる少女。

「あれ? 君も魔法使いじゃ・・・」

「私は魔道師、このデバイスを使って魔法を使用する」

そう言って先ほどの武器を見せる少女。

「魔道師? デバイス?」

少女の言葉の中にわけのわからない言葉がたくさんあり、首をかしげる。

「デバイスとは魔法を使うために使用する機械。 これはインテリジェントデバイスで知能を持っていて所有者をサポートする」

【よろしく】

「うぉ!? 機械が喋った!?」

突然少女の持っていた武器が声を発したので驚いたトシアキ。

「・・・・・・それで、魔道師は私みたいに魔法を使う者のこと」

あえてトシアキが驚いたことに口をはさまなかった少女。

全ての説明を聞き終え、トシアキはなるほどと頷いた。

「ふむ。 じゃあ、今度は俺の説明かな」

トシアキはそばにあったソファに腰を下ろし、少女と対面になるように座った。

「っと、そう言えば自己紹介してなかったな。 俺は敷島トシアキ。 んで、こっちの眠ってる子狐が久遠だ」

いつの間にかトシアキの頭の上で寝ていた久遠を指しながら説明するトシアキ。

「私はフェイト・テスサロッサ。 この子はバルディッシュ」

【あらためましてよろしく】

少女――フェイトが自分の名前を教える。

そして、自分のことは名前で呼んで欲しいと頼むフェイト。

「フェイトにバルディッシュね。 ふむ、俺のことは気軽に兄さんと呼んでくれ」

再び微笑みながら冗談半分にフェイトにそう言った。

「えっ・・・・・・その・・・に、兄さん」

まさか本当に呼ぶとは思わなかったトシアキは頬を少し赤らめて恥ずかしそうにいうフェイトに見惚れ、一瞬固まってしまった。

「・・・・・・」

「・・・・・・兄さん?」

再びフェイトに呼ばれてハッと我に返ったトシアキは慌てて首を振った。

「い、いや、なんでもない」

「?」

首をかしげているフェイトを見ながら魔法使いの説明を始めた。

「魔法使いってのは自分の中にある魔力を精霊に分けて力を貸してもらうんだ」

「でも、兄さんから魔力感じないよ?」

「えっ、マジ?」

そう言われて心配になったのか、トシアキは小さな風魔法を使ってみた。

「あっ・・・」

「・・・・・・」

風魔法の影響で対面に立っていたフェイトのスカートがめくれて、中が見えてしまった。

「な、なんだ。 使えるじゃないか」

「・・・・・・何か言い残すことは?」

使えることに安堵した反面、バルディッシュを握って殺意をまき散らすフェイトに恐怖を覚えるトシアキ。

「・・・・・・・・・とりあえず、黒はまだ早いとおも・・・ぐぶっ!?」

バルディッシュによるフェイトの攻撃で傷だらけになったトシアキ。

「・・・・・・とにかく、兄さんが魔法使いなのはわかりました」

「わかってもらえてなにより・・・」

傷を魔法で治療しながらトシアキは言った。

「じゃあ、明日から俺も探すのを手伝うよ」

「えっと・・・ありがとう」

そう言うフェイトにトシアキはおいで、と手招く。

首をかしげながらも疑いなくトシアキの元まで寄ってくるフェイトを見て、もう少し警戒してもいいのでは、と考えてしまったトシアキ。

「なに? 兄さん」

「決して知らない人について行っちゃダメだぞ?」

なぜだが、そんな言葉が出てきたトシアキであった。

「? 私、そんなことしないよ?」

「・・・・・・まぁ、いいや」

そばに寄ってきたフェイトの頭を優しく撫でるトシアキ。

「あっ・・・」

「母さんのために頑張ってるフェイトに疲れがとれる御まじないだ」

トシアキはフェイトの頭を撫でながら、手に魔力を集中させ、フェイトの眠気を誘いだした。

そして、数分もたたないうちに眠ってしまったフェイト。

「やっぱり、疲れがたまっていたのに無理してたな。 こんなに早く効いたのは初めてだよ」

そう言いながら眠ってしまったフェイトの頭を自分の膝の上に乗せるトシアキ。

「明日、起きたら怒られるかな」

苦笑してそう言いつつも、フェイトを見る目は妹を心配する兄の目であった。

そして、頭の上で寝ている久遠も起さないようにそっと下ろし、フェイトとは反対側の膝の上で寝かせた。

「二人とも、今日はゆっくり休みなよ」

最後にひと撫でして、トシアキは窓から夜の海鳴の街を眺めるのであった。



~おまけ~


トシアキがフェイトに家に世話になるのが決まったころ。

フェイトの使い魔であるアルフは街に食事を買いに来ていた。

「最近、フェイトは全然食べないから心配だよぉ」

そう言いながら、コンビニの中を人の姿でうろつき、フェイトがたくさん食べそうなものを探す。

「ん~~。 フェイトは何が好きなんだろ?」

コンビニ弁当を持って悩んでいると、フェイトから念話が入った。

≪アルフ、今日は食事たくさん買ってきて≫

≪ど、どうしたんだい? 昨日はあんまり食べなかったじゃないか≫

≪事情が変わったの。 よろしくね、アルフ≫

そう言って念話が一方的に切れた。

ちょうどそのころはトシアキが風魔法を使用したときなのだが、そんなことは知らないアルフは別の解釈をした。

「きっと、お腹が空いて念話が切れちゃったんだね。 待っててねフェイト、たくさん買って帰るから」

そう言って、アルフはおにぎりや弁当、パンなどを籠に入るだけ入れ、急いで帰宅に付いた。

「ただ~いま~。 フェイト~今、帰っ・・・」

マンションに到着して、部屋のドアを開いてアルフが見たものは、フェイトが知らない男の膝の上で眠っている姿だった。

「ん? フェイトの家族か?」

なんと、知らない男が大好きなご主人様を呼び捨てで、しかも名前で呼んでいるではないか。

「あたしのご主人様になにしてるんだよ!!」

あまりの出来事に怒りくるったアルフはソファで座るトシアキに向かって一直線に走りだした。

「おい! ちょっと、ま・・・ぐぶっ!?」

言い訳する間もなく、トシアキはソファごと後ろに倒れた。

その時に膝の上で寝ていたフェイトと久遠に風魔法を使って、浮かすことに成功したのはさすがだが、自分まで使用する時間がなかった。

「ん~~。 アルフ、何かあったの?」

「・・・・・・くぅ~?」

あまりの騒がしさに寝ていたフェイトと久遠が目覚めた。

「フェイト~。 あの男は一体なんなのさ」

「えっ? に、兄さん!?」

目をあけたフェイトはソファごと倒れているトシアキを見て、一瞬で目が覚めた。

久遠もそれに気づき、トシアキのそばに駆け寄る。

「くぅ~」

「いってぇ・・・・・・手加減なしかよ」

倒れたままでそう言ったトシアキは自分に魔法を使って怪我を治療する。

心配する久遠を撫でて安心させ、体を起こした。

「話くらい聞こうよ。 えっと・・・・・・犬?」

フェイトにすがりついているアルフの耳と尻尾を確認して言う。

「あたしは狼だ!」

トシアキとアルフの言い争いは長い時間続き、フェイトや久遠を心配させることとなった。



~~あとがき~~


戦闘シーンを書くといいつつ大してかけなくてすみません。
次、次こそは書いてみせます!

原作のフェイトと全然違う!
他の方の二次創作のフェイトのイメージが強かったのか、可愛い姿しか思い浮かばなかった自分が情けないです。
原作のフェイトファンの皆様には大変申し訳なく思います。

さて、次回からようやく原作の物語に沿って書いていきます。
ちょうど原作の四話くらいになります。
それでは、また次回の作品でお会いしましょう。




[9239] 第四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 00:53
怒り心頭のアルフをフェイトが諫め、二人は自分たちの部屋に入っていった。

残ったトシアキは大きめのソファに寝そべり、気持ちを落ち着ける。

久遠もトシアキの腹の上で再び眠ることに決めたようだ。

「ふぁぁ~。 今日は疲れたって、もう昨日になるんだよな」

いつの間にか時計の針が十二時を回っており、外で雀の鳴き声が聞こえてきていた。

「・・・・・・・・・もう、朝じゃん」

トシアキが時間を確認するために時計を見ると早朝の四時であった。

「あの犬・・・・・・じゃなくて、狼のせいで全然眠れなかったし」

久遠を起こさないようにそっと腹の上からソファに移し、トシアキは部屋に散らばっている弁当やパンに目を向けた。

「・・・・・・・・・」

そうすると、お腹がちょうどいいタイミングで鳴りだした。

「・・・・・・ちょっとくらいならいいよな」

誰に聞くまでもなく、そう呟いてトシアキは落ちているパンを数個拾った。

「では、頂きます」

拾った数個のパンを食べ終えたトシアキは飲み物を飲もうと冷蔵庫をあけた。

「・・・・・・」

そして、冷蔵庫の中を見たトシアキは驚いて固まってしまった。

「・・・・・・なにもねぇ」

そう、冷蔵庫の中には飲み物はおろか、食べ物も何も入ってなかったのだ。

「どうやって生活してんだろ」

呟きながら冷蔵庫を静かに閉めるトシアキ。

なにもすることが無くなったトシアキは寝ている久遠の隣に座り込んだ。

「・・・・・・・・・寝よ」

座ったまま寝てしまったトシアキ。

しばらくして時計の針が昼の一時を回ったころ、フェイトと人間の姿をしたアルフが部屋から出てきた。

「ねぇ、フェイト。 あいつどうするの?」

ソファで座ったまま寝ているトシアキを指差して言うアルフ。

「いいの。 そのままにしておいてあげて」

フェイトはそう言ってからバルディッシュを起動させた。

「バルディッシュ、セットアップ」

【了解】

黒い服に黒いマントを装着した姿になったフェイトはジュエルシードを探すため、目を閉じて魔法の反応を調べる。

「・・・・・・」

しばらくして、目をあけたフェイトは窓から見える海鳴の街を指した。

「あそこで反応があった」

「さすがあたしのご主人様。 見つけるのが早いね」

アルフはそう言ってフェイトに後ろから抱きつく。

「じゃあ、行ってくるね。 アルフは兄さんを見てて」

「えぇ~ あいつのことなんてほっといてもいいじゃん。 あたしも行くよ」

そう言うアルフにフェイトはフルフルと首を振った。

「ダメ。 兄さんを見てて。 今日は私一人で大丈夫だから」

「でも・・・」

なおも渋るアルフ。

そのとき、寝ていたトシアキが二人の会話で目が覚めた。

「ふぁぁ~。 よく寝た。 ん? フェイト・・・・・・」

「あっ、兄さん」

トシアキの声を聞いたフェイトが振り返った。

そのフェイトの姿を見て、思わず口をあけたまま固まったトシアキ。

「・・・・・・」

「? 兄さん?」

「なんて格好してんだよ・・・・・・・・・今すぐ着替えなさい」

フェイトのバリアジャケットの姿を見てそう言ったトシアキ。

「これが、魔法を使うときの姿だよ?」

「ってことは昨日の夜もその格好で空を飛んでたのか?」

「うん、そうだよ」

フェイトの答えに思わず天井を見上げたトシアキ。

「あぁ~。 まぁ、いいか。 フェイトが気にしてないなら」

「?」

可愛らしく首をかしげているフェイトをよそにアルフはいまだにトシアキを警戒中だ。

「・・・・・・」

「そんなに睨むなよ、狼」

「アルフ」

睨んでいるアルフをフェイトがたしなめる。

アルフはフェイトに言われ、しぶしぶトシアキを睨むのをやめる。

「それじゃあ、兄さん。 わたし探しに行ってくるね」

「ん、俺も行こうか?」

昨日約束した、探すのを手伝うというのを守るためにそう提案する。

「今日はゆっくりしてて、わたし一人で大丈夫だから」

「そうか。 なら、ご飯を作って待ってるよ」

笑顔でそう言ったトシアキにフェイトはコクリと無言でうなずく。

「けど、冷蔵庫の中カラッポなんだよ、だからお金くれない?」

「お金ならそこの引き出しに入ってる」

そういってタンスを指差すフェイト。

「了解。 じゃあ、気をつけてな」

「フェイト、あたしも行くよ。 こいつが起きたからいいだろ?」

アルフもフェイトに続いて玄関に向かう。

「アルフも待ってて。 今日は大丈夫だから」

「でも・・・・・・」

「兄さんと仲良くね」

そうアルフに言い残してフェイトは玄関から出て行った。

「さてと、買い物にでも行くか。 フェイトにうまい飯食わしてやりたいし」

そう言って、トシアキはフェイトに教えてもらったタンスの引き出しをあける。

「・・・・・・フェイト、金の管理くらいきちんとしようぜ」

引き出しの中を見たトシアキはここにいないフェイトにそう言った。

そこには一万円の束が数個と小銭がバラバラに入れられていたのである。

「おそらくだが、財布も持ってないだろうな」

結論づけたトシアキは一万円を二枚抜きとり、ポケットにしまった。

「よし、いくか。 久遠は・・・・・・まだ寝てるからいいか」

「・・・・・・」

今までのトシアキの行動を監視するように無言で見続けていたアルフ。

「狼は行くか?」

「・・・・・・行く」

トシアキの問いかけに静かにそして短く答えたアルフ。

「じゃあ、道案内頼むな。 俺はここら辺のことよく知らないんだ」

「・・・・・・行くよ」

アルフはそれだけ言ってさっさと玄関から出て行ってしまった。

「ふぅ・・・・・・困った奴だな」

置いて行かれたトシアキはそう呟いて、慌ててアルフを追いかけた。



***



ちょうどそのころ、なのははすずかの家に遊びに来ていた。

兄である高町恭也とともにバスに乗り、すずか邸にやって着た。

玄関でベルを押し、しばらくするとメイド服を着た女性が出てきた。

「恭也様、なのはお嬢様、いらっしゃいませ」

「あぁ、お招きに預かったよ」

「こんにちは」

メイド服を着た女性は月村家のメイド長でノエルという。

「どうぞ、こちらです」

恭しく礼をして、なのはと恭也を中に招きいれる。

中に入るとアリサとすずか、それともう一人の女性がお茶を飲んでいた。

「あっ、なのはちゃん、恭也さん」

なのはが来たことに気づいたすずかは立ちあがって、なのはを迎えた。

「すずかちゃん」

「なのはちゃん、いらっしゃい」

すずかのあとで声をかけてきたのがもう一人のメイドであるファリンである。

「恭也、いらっしゃい」

「あぁ」

そこでもう一人の女性――月村忍が恭也の姿を見つけて嬉しそうに近づいてくる。

場の雰囲気が落ち着いたところでノエルが後ろから声をかけた。

「お茶をご用意いたしましょう。 何がよろしいですか?」

「任せるよ」

「わたしもお任せします」

恭也となのははそうノエルに答えた。

「かしこまりました。 ファリン」

ノエルは二人に微笑んで言って、ファリンを呼んだ。

「はい、了解です。 お姉さま」

ファリンもノエルの意図がわかっているのか、呼ばれてすぐノエルのもとに向かう。

「じゃあ、私と恭也は部屋にいるから」

忍は恭也の手を掴んで、退室しようとしているノエルの声をかける。

「はい、そちらにおもちします」

ノエルもそう答え、ファリンと一緒に退室していった。

続いて恭也と忍も仲良く腕を組んで部屋を出ていく。

なのはは椅子の上で寝ていた猫を抱えあげ、その椅子に座った。

「相変わらずなのはのお兄さんとすずかのお姉ちゃんはラブラブだよね」

なのはの隣に座っているアリサが去って行った二人を見ながら言った。

「ふふふ・・・ お姉ちゃん、恭也さんと知り合ってからずっと幸せそうだよ」

「うちのお兄ちゃんは・・・・・・少し、優しくなったかな」

すずかとなのははそう答えを返した。

「そっかぁ。 兄妹がいるいっていいわよねぇ、あたしも欲しかったなぁ」

アリサが膝にいた子猫を撫でながら、羨ましそうに言った。

「そういえば、トシアキさんは?」

「そうだよ。 今のアリサちゃんにはトシアキさんがいるでしょ?」

今日は姿を見ていない年上の青年のことをなのはとすずかが聞いた。

すずかはトシアキの体調が悪くなければ、今日のお茶会にトシアキも誘うつもりだったのである。

「・・・・・・・・・出てったわよ」

小さく、聞こえるか聞こえないかというような声で呟いたアリサ。

「「えっ?」」

それを聞いて、思わず聞き返してしまったなのはとすずか。

「昨日の夜、出てっちゃったのよ・・・・・・」

言いながら涙をこぼすアリサ。

涙はそのまま下に落ち、抱いていた子猫に降り注いだ。

「で、でも、怪我してたのに・・・・・・」

「あの話、本当だったのよ・・・」

なのはが言った言葉に対して、アリサは静かにそう言った。

「あの話?」

「そう。 魔法使いの話、あたしの目の前で空を飛んで行ったわ」

昨日の夜に見たことを話すアリサ。

そう話す頃には涙は止まっていたが、アリサはさびしそうな表情をしている。

「そうだったんだ・・・・・・」

「やっぱり・・・・・・」

アリサの言ったことにすずかとなのははそれぞれそう答えた。

「だからきっと、怪我も魔法の力で治したんじゃない?」

「アリサちゃん・・・・・・」

どこか投げやりに答えるアリサを心配するすずか。

なのはは考えごとをしているのか、俯いたままである。

「トシアキのことはもういいの。 せっかくのお茶会なんだから楽しみましょう」

無理やり笑顔を作っているように見えるアリサを見て、すずかは表情を曇らせた。

「あっ、ユーノ君!?」

そのとき、今まで黙っていたなのはがそう声をあげた。

アリサとすずかがそちらを見ると、なのはが連れてきたユーノという名前のフェレットがすずか邸の庭に広がる森に向かって走りだしたところであった。

「ユーノ、どうかしたの?」

「うん、なにか見つけたのかも・・・・・・ちょっと探してくるね」

突然森に向かって走り出したユーノを不思議に思ったアリサ。

なのははアリサに答えながら、座っていた椅子から立ち上がる。

「一緒に行こうか?」

すずかはなのはを心配して声をかけた。

「大丈夫。 すぐ戻ってくるから待っててね」

なのははそう言い残してユーノのあとを追って行った。

その様子を見ながら、運動音痴のなのはを心配するアリサとすずかであった。

「発動した!」

ユーノを追いかけていたはずのなのははいつの間にかユーノと並んで走っていた。

「ここだと人目が・・・・・・・・・結界を作らなきゃ」

入っていたユーノが立ちどまり、なのはの方を見てそう言った。

「結界?」

フェレットが話たことに驚きもせず、なのはは首をかしげてユーノを見る。

「最初に会ったときと同じ空間。 魔法効果が生じている空間と通常空間の時間進行をずらすんだ。 そして、僕が少しは得意な魔法・・・・・・」

そう言ってユーノは目を閉じて集中し始める。

すると、ユーノとなのはの目の前に大きな魔方陣が現れた。

「あまり広い空間はできないけど・・・・・・この家くらいならなんとか」

そして魔方陣を中心に何かがあたりに広がっていった。

同時くらいに前方に大きな光が見え、そこに巨大な猫が姿を現した。

「「・・・・・・」」

予想外の相手になのはもユーノも猫を見ながら固まってしまった。

「にゃ~」

そんなことにお構いなしに巨大化した猫は一鳴きして歩き始めた。

「あ、あ、あれは・・・・・・」

「た、たぶん・・・・・・・・・あの猫の大きくなりたいという願いが正しく叶えられたんじゃないかな」

「そ、そっか・・・・・・」

頭を抱えて、複雑な表情をしたなのは。

「だけど、このままじゃ危険だから元に戻さないと」

「そ、そうだね。 さすがにあのサイズだとすずかちゃんも困っちゃうだろうし」

そういう問題ではないのだが、なのははどこかズレた答えをユーノに返した。

「襲ってくる様子もなさそうだし、ささっと封印をしよう」

あたりを歩きまわっている巨大化した猫を見てなのははそう言った。

そして、服の中から首に下げていた赤い玉を取り出し、手に乗せた。

「じゃあ、レイジングハート!」

なのはがそう言った瞬間になのはたちの後ろから黄色いなにかが頭上を通過していった。

そして、黄色い何かはそのまま巨大化した猫にあたった。

「っ!?」

驚いてなのはが振り返った先には電柱の上に黒いコートを着たフェイトがたっていた。

「バルディッシュ。 フォトンランサー、連撃」

【了解。 フォトンランサー、連撃】

電柱の上に立ったまま、フェイトはバルディシュを猫に向けた。

そして、バルディッシュから黄色い魔法が放たれた。

「なっ、なっ! 魔法の光・・・・・・そんなっ」

ユーノは飛んできた魔法に驚いている。

なのはは思い出したように再び赤い玉に呼びかける。

「レイジングハート、お願い!」

【スタンバイレディ、セットアップ】

そして私服から姿を変えたなのはは巨大化した猫の上に飛んで行った。

【プロテクション】

猫を守るように立ちはだかったなのはは猫の上に降り立ち、黄色い魔法の攻撃を防いだ。

「・・・・・・魔道師?」

攻撃を防がれたフェイトは狙い目を少し下げ、猫の足元をめがけて再び攻撃した。

それにより、巨大化した猫はバランスを崩して倒れる。

上にいたなのはもそれに巻き込まれるような形で地面に降り立つ。

「・・・・・・っ!?」

地面に降り立ったなのはの目の前の気にフェイトが降り立つ。

「あっ・・・・・・」

自分と同い年くらいの少女を見て、思わずレイジングハートを下げるなのは。

「同系の魔道師・・・・・・・・・ロストロギアの探索者か」

フェイトはなのはの姿を見て、そう言った。

言われた言葉を聞いてなのはとユーノが驚いている。

「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス」

「バル・・・ディッシュ・・・・・・」

フェイトの言葉を聞いて、なのははフェイトの持っている武器を見る。

「ロストロギア・・・・・・ジュエルシード」

そして、バルディッシュの形態がかわり、光の鎌が現れた。

「申し訳ないけど、頂いていきます」

「はっ!?」

言い終わると同時になのはに向かって攻撃を開始するフェイト。

いち早く気づいたレイジングハートがなのはを宙に浮かす。

【アークセイバー】

ブーメランのような形をした魔法が宙に浮いているなのはへ向う。

【プロテクション】

すかさずレイジングハートが防御し、爆発からなのはを助ける。

爆煙から上に出てきたところで、いつの間にか近くまで来ていたフェイトに攻撃される。

「なんで・・・・・・なんで急にこんな・・・・・・」

近くまできたフェイトに攻撃してきた理由を尋ねるなのは。

「答えても・・・・・・・・・たぶん、意味がない」

淡々と答えたフェイトはそのまま力強くなのはを押しやる。

お互い離れて、それぞれのデバイスを向け、攻撃の準備を整える。

そのとき、倒れていた巨大化した猫が起き上がったことになのはは気を取られてしまった。

「・・・・・ごめんね」

その好きを逃さず、フェイトは小さくそう呟いて魔法を放った。

魔法はなのはを直撃し、その体が宙に舞った。

「なのは!」

このままでは危ないと感じたユーノがなのはの落下地点に行き、魔法を行使する。

安全に地面に降り立ったなのはを見て、ほっと胸をなでおろすユーノ。

「捕獲」

なのはを攻撃したフェイトはそのまま巨大化した猫に魔法を使い、ジュエルシードを封印した。

「・・・・・・」

フェイトはジッと倒れているなのはを一瞥したあと、なにも言わず、なにもせずにそのまま去って行った。

残されたユーノもフェイトの後ろ姿をジッと見続けていた。




~おまけ~


フェイトが出ていき、アルフとトシアキが買い物に出かけたあと、一人取り残された久遠が目を覚ました。

「・・・・・・くぅ?」

キョロキョロとあたりを見るが誰もおらず、気配すら感じない。

「くぅ・・・」

寂しさを感じた久遠は残されたトシアキの匂いをもとに歩き出した。

「・・・・・・」

玄関までたどり着いた久遠はジッとドアを見つめる。

子狐の姿ではドアを開けることができないのでる。

「久遠、トシアキのところに行く」

人間の姿になった久遠はそう声に出して決心し、ドアを開けて外に出た。

その姿のまま、トシアキの匂いを頼りにあちこちと歩き回る久遠。

マンションから出たとき、目の前に人がいることに気づいた久遠は入口に背を向けて立ち止まり、慌てて耳を隠す。

「・・・・・・?」

そのままジッとして動かない久遠を不思議そうに見ながら、通り過ぎる通行人。

「危なかった・・・・・・でも、久遠、ちゃんと隠せた」

とっさに耳を隠すことに成功した久遠は嬉しそうに微笑んだ。

そして、そのままトシアキの匂いがする方へ歩き出す久遠。

「ちょっと、あの子、尻尾のアクセサリーを付けてるわよ」

「まぁ、ほんと。 外でつけるなんて変わってるわよね」

道を歩いているとそんな声が聞こえてきた。

久遠が後ろを振り向くと、自分のお尻から狐の尻尾が出ており、可愛く揺れていた。

「く!?」

耳を隠すことに成功した久遠だが、尻尾を隠すことを忘れていたらしい。

あわてて、人目がつかないところに行き、誰もいないことを確認してから子狐の姿になった。

「くぅ・・・・・・」

どこか残念そうに一鳴きした久遠はそのままトシアキを探すために再び歩き出した。



~~あとがき~~


ようやく書けました四話です。
原作になるべくあうようにしたのですが、どうでしたでしょうか?
感想や意見、待ってますw

戦闘シーンは書くのが難しい!
下手な文章ですみませんです。
うまく書けるよう頑張ります。

あと、わかりにくと思いますので説明を・・・
「」←声に出した言葉。会話など
()←心の中の声。
『』←重要な語句。
【】←デバイスの声。
≪≫←念話。
と、いう風になっております。
わたしは英語が全く駄目ですのでデバイスの言葉は全部日本語で書いてありますが、ご了承ください。

さて、次回は温泉へ!
トシアキももちろん行きます。
そして、アリサたちとの再会!
と、考えておりますがまだわかりませんw
次回も読んでいただけることを願って今回はこの辺で・・・
またお会いしましょう




[9239] 第四.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 01:01
アルフはただ黙ってトシアキの前を歩いていた。

トシアキがついてきているのも確認せず、道を進んでいる。

「なぁ」

「・・・・・・」

後ろにいるトシアキの呼びかけにも反応せず、人間の姿をしているアルフは目的地に向かっているようだ。

「おい」

「・・・・・・・・・」

呼びかけても返事がないどころか、こちらのほうを見ようともしないアルフに少し怒りが出てきたトシアキ。

「おいってば!」

「・・・・・・・・・・・・」

さすがに何度呼びかけても返事がないことに痺れを切らしたトシアキがアルフのすぐ後ろで大声を出して呼びかけた。

「聞いてんのか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

それでも返事をせず、ただ歩き続けているアルフ。

その様子にトシアキは立ち止まって言葉を放った。

「反応くらいしやがれ! この、クソ犬!」

「あたしゃ、狼だって言ってるだろ!?」

ようやく反応したアルフは振り返りながらトシアキに怒鳴った。

「今まで呼んでも反応しなかったくせに、そんな言葉に過剰反応するなよ!?」

「うるさい! で、一体なんなんだい?」

後ろで立ち止っているトシアキを見て、腰に手を当てながら尋ねるアルフ。

「どこに向かってるんだ?」

「ん? あたしがいつも買い物してる店だよ」

「いつも買い物をしてる店?」

止まっていたトシアキは聞き返しながらアルフのそばまで寄ってくる。

「あぁ。 ずっと開いていて、何でも売ってる店さ」

「ずっと開いていて、何でも売ってる店・・・・・・」

トシアキが追いついたのを確認すると、そういいながらアルフは再び歩き出す。

遅れないようにトシアキもそのあとを付いていく。

「ここだよ」

そう言って立ち止まったと店はコンビニであった。

「・・・・・・」

「どうだい。 凄いだろ? ここで何でも手に入るんだ」

まるで自分のことのように自慢するアルフ。

「・・・・・・・・・おい、ここってコンビニだよな?」

「ん? そんな名前なのかい? まぁ、なんでもいいさ。 早く入るよ」

さっさと中に入ろうとするアルフの腕をトシアキが掴んで止めた。

「ちょっと待て」

「なにさ。 フェイトにおいしいものを食べさせてやりたいんだから早く離しな」

そういいながらトシアキの手を振りほどこうとするアルフ。

「んなところで買うものがおいしいわけねぇだろ!? スーパーはどこだ!?」

「すーぱー? なんだいそれは」

首をかしげるアルフを見ながらため息をついたトシアキは諦めたように首を落とした。

「だよなぁ。 料理しない人間がスーパーの場所なんてわかるわけないよな」

「なにブツブツ言ってんだい、いいから行くよ」

「ちょっと待ってろ」

アルフをコンビニの前に待たしてトシアキは通行人の中から何かを探しだした。

「なにやってるんだ、あいつは」

そんなトシアキの様子をコンビニの前で観察しているアルフ。

コンビニに入っていく客は迷惑そうな表情でアルフを見ていった。

しばらくするとトシアキはなにかを見つけたのか、メイド服を着た女性に話しかけえていた。

「すみません」

「はい?」

突然話かけられたメイド服を着た女性は驚くこともなくトシアキのほうを向いた。

「なにかご用でしょうか?」

「実は、この場所を探しているんですが・・・・・・」

そう言ってトシアキが指さしたのは女性が持っているスーパーの袋だった。

「この場所とは、スーパーマーケットですか?」

「そうなんです。 実はここに来たばかりで全然場所が分からなくて」

そう言いながらは恥ずかしそうに頭をかくトシアキ。

「よければご案内しますよ」

それを見ながらニコリとほほ笑んだ女性はそう言った。

「そうですか! いやぁ、スーパーの場所を教えてもらうだけでなくこんな綺麗な人と一緒に歩けるなんて幸せだなぁ」

「おだてても何も出ませんよ?」

そう言って微笑む女性。

「おだてるだなんて、本当のことを言っただけですよ?」

「ありがとうございます」

「じゃあ、行きまし・・・痛っ!?」

笑顔でメイド服を着た女性と歩き出そうとしたトシアキの後頭部をアルフが思いっきり殴った。

「なにすんだよ! くそ犬!」

「あたしは狼だ! あんたがだらしない顔をしてるから目を覚まさせてあげたんだよ」

トシアキを殴ったアルフはどこか不機嫌な様子であった。

「俺は別にそんな顔してねぇよ」

「いいや、してたね」

「してねぇ!」

アルフとトシアキのやり取りを見ていた女性がクスクスと笑みをこぼした。

「お二人とも仲がよろしいんですね」

「「こいつと? 冗談じゃない!」」

お互いを指さしてトシアキとアルフは声を揃えていった。

「ふふふ、それではご案内しますね」

「いや、ですから誤解ですって!」

「ふん!」

微笑む女性は前を歩き、その後ろに誤解だと言うトシアキと怒りをあらわにしているアルフが続いた。

「ここがそのスーパーマーケットになります」

「おぉ、結構大きいな」

「本当は商店街で買うほうが新鮮でいいのですが、今回は急ぎでしたので私はここで買いました」

メイド服を着た女性がそう言って袋を掲げる。

「商店街?」

「はい、この街には商店街もあり、そこのお店の品物は美味しいものばかりですよ。 ただ、時間がない時はここでまとめて購入したほうがいいかと」

女性がいろいろと親切に教えてくれるのをトシアキはうなずきながら聞き、アルフは面白くなさそうに顔をそむけている。

「では私はこれで。 お客様をお待たせしてはいけませんので」

「いろいろとありがとうございました。 あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。 俺は敷島トシアキと言います」

そんな慌ただしく自己紹介をするトシアキの様子を見て、女性はクスリと微笑んだ。

「私はノエルと言います」

「ノエルさん、今回のお礼に何か困ったことがあればいつでも呼んでください」

真顔でそう言ったトシアキに少し驚いたノエルだが、すぐに微笑んで対応した。

「はい。 では、困ったら敷島様のお名前をお呼びしますね」

「俺はどこにいても風があれば聞こえるので、すぐ駆けつけます。 それと名前で呼んでください。 その・・・・・・苗字は嫌いなので」

そう言って表情を暗くしたトシアキだが、気付かないフリをしたノエルは一礼した。

「では、トシアキ様。 失礼します。 彼女にもよろしくお伝えください」

「だ、だから、そんなんじゃないですってば」

トシアキの言葉を聞いて微笑んだノエルはそのまま帰って行った。

ノエルが去って、アルフとトシアキがスーパーの前で立ち止っている。

「・・・・・・」

「さて、時間がかかってしまったが、フェイトのための食材選びを始めますか」

アルフは初めて出会った時のように無言でトシアキを睨んでいた。

それを無視してトシアキがスーパーの中に入ろうとした。

「ぐっぇ!?」

服をつかんでトシアキの歩みを止めたアルフ。

そのトシアキは首が締まったようで、潰れたカエルのような声を上げた。

「ケホ、ケホ・・・・・・なにすんだよ!」

「あんた、あの女に名前を教えたのか?」

トシアキの怒鳴り声を気にしたようすもなく、ただ静かに尋ねるアルフ。

「あ? あぁ、名前は言ったよ。 親切に道案内をして貰ったのに名のらないのは失礼だろ?」

「知らない奴にこっちの名前とか事情は教えなくていいだろ!?」

今度はアルフが怒鳴ってトシアキの胸倉を掴んだ。

「な、なに怒ってんだよ・・・・・・」

あまりのアルフの迫力に思わず声を小さくするトシアキ。

「あいつがフェイトの敵だったら? もし、あんたの敵だったら?」

「んなのあるわけ・・・・・・」

「あるかも知れないだろ!?」

トシアキの言葉を遮ってアルフは再び怒鳴った。

「ここはあたしやあんたが知っている場所じゃないんだ。 どこでどんな奴が襲ってくるかも知れないのに・・・・・・」

「・・・・・・」

アルフが話す言葉をただ、黙って聞いているトシアキ。

「知らない奴には何も教えなくていいんだよ。 敵になるかも知れないんだから」

「・・・・・・・・・でも、味方になるかも知れないだろ?」

最後までアルフの言葉を聞いたトシアキがしばらく間を空けて、そう言った。

「最初からそんな態度だから全員が敵に見えるんだ。 友好的にしていたら味方になってくれる奴がいるかもしれない」

「でも、敵の可能性もある」

「そんときはそん時さ。 だけど、黙ってるより事情を話して分かってもらうことも必要だ」

胸倉をアルフに掴まれながら、真剣は表情で言うトシアキ。

「・・・・・・」

そんな真剣は顔をしたトシアキをジッと見つめるアルフ。

「だから、お前も少しは周りを見ろ。 少なくとも俺と久遠はフェイトとお前の味方だ」

そう言いながら掴まれていた胸倉を外すトシアキ。

「あっ・・・・・・」

掴んでいた感触がなくなったからか、トシアキの言葉を理解したからか、そんな小さな呟きがアルフの口から洩れた。

「じゃあ、行こうぜ。 早く買って料理しないとフェイトが帰ってくる」

「・・・・・・・・・アルフ」

「ん?」

先に歩きだしていたトシアキはアルフの呟いたのが聞こえて、振り返った。

「あたしのことはアルフでいい」

「そうか。 じゃあ、アルフ。 俺のことはトシアキな」

「わかったよ、トシアキ」

アルフの言葉を聞いたトシアキは微笑んで再び歩きながらアルフに尋ねた。

「なぁ、アルフは何が食いたい?」

「肉!!」

元気よくアルフがそう言ってトシアキの隣に並んだ。

「肉かぁ。 フェイト、焼き肉なんて食うかなぁ」

「きっと食べるさ! だってあたしのご主人様なんだよ?」

「それは関係ない。 じゃあ、お子様が大好きなハンバーグでも作るか」

メニューを考えながらトシアキは買い物カゴを手にとる。

「はんばーぐ? 肉じゃないのかい?」

「いや、肉を使った料理だけど?」

「そうかい。 ならあとはトシアキの料理の腕しだいだね」

スーパーの中を回りながら必要なものを入れていくトシアキ。

その横を付いて歩きながらアルフもカゴに品物を入れていく。

「あぁ、任せろ。 美味く作ってやるから・・・って、なぜこんなに大量に肉が!?」

「はんばーぐを作るのには必要なんだろ?」

「肉を使った料理だとは言ったが、こんなにいるなんて言ってねぇよ!」

スーパーの店内で思わず大声で叫んでしまったトシアキ。

「大丈夫。 あたしは生でも食べれるから」

「お前の心配なんかしてねぇよ! 金はそんなにないんだから買えないんだよ!」

そう言いながらあった場所に肉を戻していくトシアキ。

ひとつ戻されるたびにアルフが悲しそうな声で鳴くのがトシアキには少しキツかった。

材料を購入して、外に出たトシアキとアルフ。

外は夕焼けで赤く染まっていた。

「よし、材料も買ったし、帰って・・・・・・」

「くぅ~~!!」

トシアキの胸に子狐姿の久遠が飛び込んできた。

「く、久遠!? どうしてここに」

「くぅん」

驚いていたトシアキの言葉も聞かずに胸に顔を疼くめてしまう久遠。

「どうしたんだろ?」

「あれ? その子って確か家で寝てた子だよね」

隣にいたアルフもトシアキの腕にいる久遠を見る。

「あぁ。 なにがあったんだ? 久遠」

「く、くっ、くぅん!」

「うむ、さっぱりわからん」

久遠の鳴き声を聞いても人間であるトシアキは理解ができない。

「なんか、怖い人や犬に追いかけられたって言ってるよ」

「く!?」

「なっ!? 言葉がわかるのか?」

言葉を理解したアルフに久遠とトシアキが驚いた。

「一応、あたしだって狼だからね。 動物の言葉は理解できるよ」

「そうか。 そう言えばそうだったよな。 って、どうした久遠」

アルフの『狼』という言葉を聞いて、久遠はさらにトシアキの腕の中で震えだした。

「もしかして、あたしが狼ってこと言ったからかな。 野生の狼は狐とか食べるし」

「久遠は食うなよ?」

久遠を抱えた腕をアルフから遠ざけ、トシアキは真剣な表情で言った。

「わ、わかってるよ」

「何故、言葉が詰まる」

「たまたまだよ。 たまたま」

「・・・・・・まぁいい。 じゃあ、帰るか」

アルフへの追及をやめ、トシアキは久遠を左手で抱えて右手で荷物を持ち歩きだした。

その隣をアルフが歩く。

こうして一人と二匹は帰路に着いた。



~おまけ~


時間は少し遡る。

トシアキとアルフがノエルと出会っていたころ、久遠は子狐の姿で町を歩いていた。

「くぅ・・・」

トシアキの匂いを辿って町まで出てきたのはいいが、人間の姿では怖くて歩けそうにない久遠。

そこで、子狐の姿になって民家の塀を伝って歩いていた。

「ねぇ、見て。 キツネよ」

「えっ、嘘?  ほんとだ、子狐ね。 可愛いぃ」

道を歩いていた二人組の女子高生が久遠の姿を見つけてそう言った。

「く!?」

その声に驚いて久遠は立ち止まり、そこからジッと二人組の女子高生を見つめる。

「あっ、こっち見てるよ」

「ほんと。 人間の言葉がわかるのかな? おいで」

久遠が見つめているのに気づいた女子高生たちも立ち止まり久遠にそっと手を差し伸べる。

「く!!?」

手を差し伸べられたことに驚いた久遠は塀の中に飛び降りてしまった。

「あ~ぁ、逃げちゃった」

「ちょっと残念かも・・・」

塀の向こう側からそんな声が聞こえてきたが、久遠はそんなことを気にしている場合ではなかった。

「グルルル・・・・・・」

落ちたところの家には巨大な犬が放し飼いにされており、侵入者である久遠を見て唸り声をあげていた。

「くぅ!?」

凶暴そうな犬に怯えた久遠は一目散に走って逃げた。

「ワンワン!」

走って逃げた久遠を吠えながら追いかける大型犬。

しばらく追いかけっこが続き、久遠が疲れてきたときに小さな隙間を見つけた。

「くぅん!!」

久遠はそこに向かって走り、大型犬に捕まる前に隙間に入り込むことができた。

「くぅ~」

一息ついた久遠はそのまま隙間を進んで行く。

すると、普通の道路に出たので再びトシアキの匂いを辿る久遠。

そのまま匂いのする方へ進むとメイド服姿の女性――ノエルが歩いていた。

「く?」

トシアキの匂いがノエルからもすることに疑問を抱きつつ、通りすぎるノエルを道の端に立ち止まって眺めていた久遠。

「あら?」

そんな久遠に気づいたのか、ノエルが久遠の方へ振り返った。

「く!?」

驚いた久遠だが、その場を動かずにジッとノエルを見つめる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ノエルも立ち止まり、久遠をジッと眺めていた。

二人の間をバイクや車が数台通り過ぎ、ついにノエルが久遠から視線を外した。

「くぅ~」

久遠が安心したのを確認したノエルは歩き出した。

そして、久遠はノエルが来た道をそのまま歩いて行く。

そうしてたどり着いた大きな建物を見て、久遠は立ち止まってしまった。

「く、くぅん・・・・・・」

人間がたくさんいる場所に行きたくない久遠はどうしようかその場で少し考えていた。

「く!?」

そうしているうちに建物の中からトシアキとアルフが荷物を抱えて出てきた。

「くぅ~~!!」

うれしそうに鳴き声を上げながら久遠はトシアキの胸に飛び込んだ。

こうして久遠の大冒険は幕を閉じたのである。



~~あとがき~~


アルフとトシアキがどうやって仲良くなったのかを書いてみました。
本編を書く予定だったのですが、突然このアイデアが浮かんだので先にこちらを。
次回こそはきちんと本編を書きます。

PVが毎回増えていてうれしいのですが、感想が一向に増えないorz
やっぱり、下手な作品には感想がない運命なのか・・・・・・
それでもPVが増えているので、あきらめずに書いております。

ちなみにノエルはなのはと恭也を案内したあと、材料がたりないことに気付き買い物に出た。 という設定にしております。
時間が合わないと思う方もいるかも知れませんが、どうか気になさらずにお願いします。

それでは次回こそ温泉での話の続きを書きあげます。
次回の作品も読んでいただけることを願って・・・・・・再び次回でお会いしましょう。




[9239] 第五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 01:16
トシアキが台所に立って料理をしていると、玄関のドアが開いてフェイトが帰ってきた。

「おかえり~。 フェイト~」

アルフが嬉しそうに尻尾を振りながらフェイトに駆け寄る。

先ほどまでトシアキの後ろに立ち、どんな料理を作るのか覗き込んでいたのになんという変わり身の早さか。

「ただいま、アルフ。 ジュエルシード、手に入れてきたよ」

「さすがフェイト! この調子でどんどん集めよう!」

嬉そうに尻尾を振り、フェイトにすり寄るアルフ。

それを見ながらトシアキがお皿に料理を乗せて近づいてきた。

「フェイト、アルフ。 飯が出来たぞ」

トシアキが持っているお皿には焼きたてのハンバーグがあり、おいしそうな匂いがアルフの鼻を刺激しているのか、ヒクヒクと動かしている。

「おいしそうだね~。 トシアキも料理できるんだ」

「当たり前だろ? 今まで旅してたんだし、魚を捌くのだってできるぞ?」

「そんなことはいいから早く食べよう!」

アルフはそのままテーブルに向かって走り出す。

「さ、フェイトも行こうぜ?」

「う、うん。 兄さん、アルフと仲良くなったんだね」

出かける前に比べてトシアキへの態度が柔らかくなっているアルフを不思議そうに見る。

「まぁ、買い物のときにいろいろな・・・・・・・・・それよりフェイト」

「?」

首を傾げるフェイト。

「何か悩んでないか?」

「っ!?」

先ほど戦ってきた少女のことを考えていたフェイトはトシアキの核心をつく言葉に驚いてしまった。

「やっぱりか。 なにかあるなら言えよ? 力になるから」

「ありがとう。 でも大丈夫」

「・・・・・・・・・フェイトがそう言うならいいさ」

聞き出すことをあきらめて、肩を竦めたトシアキはアルフの待つテーブルへ料理を運びに行った。

「フェイト~。 早く食べようよ~」

料理が目の前にあっても我慢して食べないアルフ。

主であるフェイトの到着を待っているところをみると躾がきちんとされているようだ。

「うん、すぐ行く」

そんな様子のアルフを見て微笑んだフェイトはトシアキとアルフの待つテーブルへと向かった。

皆で仲良く晩御飯を食べた後、トシアキがフェイトに向き合っていった。

「明日は俺も行く。 今日は手伝えなかったからな」

「くぅ~!」

「もちろんあたしも行くよ!」

トシアキの言葉に賛同して久遠とアルフもそう声を上げる。

「うん」

フェイトはただ頷くだけだ。

「じゃあ、明日に備えて寝るか。 俺は昨日と同じでソファで寝るよ」

「フェイト、行こう」

アルフは部屋に入っていく。

しかし、フェイトはその場を動こうとはしない。

「どうしたんだ?」

不思議に思ったトシアキは何かを悩んでいるフェイトにそう声をかけた。

「えっと、兄さん」

「ん?」

ようやく口を開いたフェイトはトシアキを呼んだ。

「その・・・・・・・・・お、おやすみなさい」

「っ! あぁ、おやすみ。 フェイト」

トシアキの返事を聞いてフェイトは部屋に入って行った。

入る前に見えたフェイトの頬が少し赤くなっていたのは気のせいではないとトシアキは思った。

「・・・・・・お休みの言葉を言うのにそんなに照れなくてもいいじゃないか」

アルフとフェイトが部屋に戻り、久遠と二人きりになったトシアキがそう呟いた。

「トシアキ」

そこに人の姿になった久遠がトシアキの隣に座り、呼びかけた。

「どうしたんだ? 久遠」

「フェイトからなのはの匂いした」

「なのはの?」

久遠の発言から思わぬ人物の名前を聞いて、少し驚きつつ聞き返すトシアキ。

「うん。 少しだけど、なのはの匂い」

「そっか。 まぁ、初めて会ったときに魔力が大きいのは感じてたんだが、魔法・・・・・・いや、魔道師だったとはな」

言いながら頭をかくトシアキ。

その顔は少しさびしそうな表情であった。

「トシアキ、なのはと戦うの?」

「どうだろうな。 久遠は嫌なら留守番しててもいいぞ」

苦笑しながら隣の久遠の頭をなでるトシアキ。

久遠はトシアキの言葉に首を振りながら答えた。

「トシアキが戦うなら久遠も戦う。 久遠、トシアキと一緒にいるって決めた」

「・・・・・・そうか。 今のところは戦うつもりはないよ。 だから安心しな」

「くぅ・・・」

トシアキの表情を見て何かを感じたのか、久遠を一鳴きして子狐の姿に戻り、そのまま寝てしまった。

「久遠は俺がどうするか気づいたのか。 まいったな」

寝てしまった久遠をチラリと見てそう呟き、トシアキも目を閉じて眠りについた。

翌日になり、トシアキ、フェイト、アルフ、そしてトシアキの肩に乗った久遠がマンションの屋上から飛び立った。

「今日はどこを探すつもりなんだ?」

風の力を借りながら空を飛んでいるトシアキが隣を並んで飛行しているフェイトに尋ねる。

「あそこの山から少しだけ、魔力を感じる」

「俺はフェイトたちの魔法の力は大きくないとわからないから何とも言えんが、フェイトがそういうなら正しいのだろう」

飛んでいるときにフェイトが示した山についた二人と二匹。

手分けしてジュエルシードを探し始めたが、なかなか見つからなかった。

「見つからねぇ・・・・・・一体、どこにあるんだ?」

木の上を探すトシアキ。

「くぅ・・・」

久遠は草むらの中に入って探すが全く見つからない。

「フェイト~。 ここら辺に本当にあるのかい?」

探すのに飽きてきたアルフはフェイトにそう尋ねる。

「反応があったのはこの辺。 もう少し、詳しく調べてみる」

黙々と探していたフェイトはアルフの言葉を聞いて、木の上に登り、ジュエルシードの反応を探し始めた。

「・・・・・・トシアキ、フェイトが見つけるまで温泉に行こう」

「はぁ? お前、フェイトの使い魔だろ。 傍にいなくていいのか?」

静かになったフェイトの邪魔にならないようにと近くにある温泉へ行こうと言いだすアルフ。

「あたしとフェイトは繋がってるから何かあればすぐに駆けつけられるさ」

「でもなぁ・・・・・・」

「いいよ、アルフ。 行ってきても。 私が探しておくから」

アルフとの会話を聞いていたのか、トシアキの言葉を遮って木の上からフェイトが声をかける。

「ありがとぉ、フェイト。 さぁ、行くよ。 トシアキ」

「はぁ!? 俺も行くのか?」

いつの間にか行くことが決定されていたトシアキは驚きの声を上げる。

「当たり前じゃん。 お金はあんたが持ってるんだから」

「じゃあ、金渡すから行って来いよ。 俺はフェイトを手伝うから」

そう言って持ってきていたお金をポケットから取り出すトシアキ。

「兄さんも行ってきていいよ。 アルフ一人じゃ心配だから」

「いや、しかし・・・・・・フェイトを一人にするのも心配なんだが」

そう言いながら、行く気満々のアルフと木の上にいるフェイトを交互に見る。

「私は大丈夫。 心配しないで」

「フェイトは大丈夫だよ。 なんたって、あたしのご主人様だからね」

だから余計に心配なんだ、と心の中で呟くトシアキであった。

「わかった。 じゃあ、フェイト。 行ってくる。 何かあればすぐに連絡するんだぞ?」

「うん、わかった」

「ほら、早く早くぅ」

急かすアルフを放っておいて、トシアキは草むらを探していた久遠にしゃがんで声をかける。

「久遠、一緒に行くか?」

「くぅ!」

久遠は返事をして、トシアキの肩に登った。

久遠を肩に乗せたトシアキは空に飛び上がった。

「あっ、待ちなよ。 トシアキ!」

置いていかれる感じになったアルフも慌ててトシアキを追いかけて空を飛ぶ。

「・・・・・・」

そして、静かになった場所でフェイトは再びジュエルシードの反応を探すために集中し始めた。

空に上がった一人と二匹は温泉がある場所に向けて飛んでいた。

「あそこだよ! なかなかよさそうなところだろ」

「あぁ、確かにそうだが・・・・・・金が足りないかもしれん」

アルフが指差した場所を見たトシアキは思わずそう口にしてしまった。

温泉というから自然にあるものを想像していたトシアキだが、そこにあったのは立派な旅館である。

「えぇ~ なんで持ってこなかったのさ!」

「日帰りと思ってたんだよ! まさか、ジュエルシードを見つけるのに時間がかかるとは思わなかったんだ」

「じゃあ、温泉は!?」

「・・・・・・諦めるしかないだろ」

少し残念そうに言ったトシアキ。

なんだかんだ言ってトシアキも温泉に入りたかったようだ。

「仕方ない。 フェイトのところに戻って・・・」

「トシアキの馬鹿ぁ!!」

温泉に入れないことを知ったアルフが怒りを込めてトシアキを攻撃した。

「ぐぇ!?」

突然の攻撃に防御も受け身も取れず、ダメージを受けたトシアキ。

そして、そのまま下に落ちてしまった。



***



静かな山の中で川を流れる水の音が心地よく聞こえる場所に二人の夫婦がいた。

その夫婦は池のそばで綺麗な水を見ながら何かを話している。

「いいわね、こういう休日は」

「あぁ、そうだな」

「お店も少しは若い子たちに任せておけるようになったし」

そういう女性は茶色い綺麗な髪をしており、ずいぶんと若く見える。

「子供たちも実に元気だし」

傍にいる男性も女性と同じように若く見える。

まるで付き合い始めたカップルのようだ。

「それに・・・・・・あなたも」

「あぁ、そうだな」

女性は男性のほうを見上げ、微笑む。

男性も微笑み返し、二人はいい雰囲気で寄り添っていた。

「ゎぁ~~~~~~」

そこに突然声が聞こえてきた。

二人はあたりを見渡すが、誰もいない。

「空耳か?」

「でも、確かに聞こえたわ」

女性がそう言ったとき、二人の眼の前の池に何かが落ち、大きな水しぶきをあげた。

「きゃっ!?」

「な、なんだ!?」

水しぶきが収まり、落ちてきた何かを見た二人。

そこには一人の青年が池に落ちていた。

「冷てぇ!? ちくしょう、アルフの奴・・・・・・久遠、大丈夫か?」

「く、くぅ・・・」

空から落下し、全身が水浸しになったトシアキと久遠。

その様子を陸地から茫然とした様子で見ている二人の夫婦。

「あっ・・・・・・」

夫婦と目があったトシアキは気まずそうに苦笑し、池から出てきた。

「えっと、いい雰囲気のところをお邪魔したようで、その・・・・・・すみません」

「いや、それは構わないんだが、君はどこから?」

男性がそう言って不審な目でトシアキを見つめる。

「あぁ・・・・・・・・・・・・スカイダイビングの着地ミスでここに」

明らかに今考えた言い訳だが、二人の夫婦はその言葉を信じたようだ。

「そうか、それは大変だったな」

「そのままじゃ、風邪を引きますよ。 ここに温泉があるので入って行ったらどうかしら?」

「えっと、その・・・・・・金がないので」

そう言ったトシアキを哀れに思ったのか、夫婦は顔を見合わせた。

「俺が出してやろう。 だから入って行きなさい」

「えっ、でも・・・・・・」

「いいのよ。 困ったときはお互い様だから」

そう言ってほほ笑む女性を見て、決意したトシアキは深々と頭を下げた。

「・・・・・・すみませんが、お世話になります。 俺は敷島トシアキです」

「構わないよ。 俺は高町士郎だ」

「私は高町桃子です。 よろしくね、トシアキ君」

二人の名前を聞いたトシアキは最近何処かで聞いたことのある名前だと思った。

「くしゅん」

「あらあら、狐さんが寒そうですね。 早く行きましょ」

腕に抱えていた久遠が可愛くくしゃみをした。

そのくしゃみを聞いて桃子が先立って歩く。

「こっちだ。 君もはやく温まるといい」

士郎も続いて歩き出したので、トシアキは二人のあとを追いかけるようにして歩きだした。

「お~~い!」

しばらく歩くと旅館の入り口が見えてきた。

そこで手を挙げて大声で叫ぶアルフがいた。

「知り合いか?」

「え、えぇ。 予定していた着地地点で待っていた人です。 迎えに来てくれたのかなぁ」

士郎に苦笑しながらそう答えたトシアキ。

「トシアキ、あんた無事だったんだね」

自分で落としておいてなに言ってるんだ、と思ったが士郎と桃子がいるので口には出さない。

「なんとかな。 さて、帰ろうか」

アルフが余計なことを話す前にこの場を去ろうとするトシアキ。

「温泉に入って行かないのか?」

帰ろうとするトシアキをそう言って引きとめる士郎。

「えぇ、迎えも来ましたし、士郎さんと桃子さんに迷惑をかけるのは・・・」

「温泉!? あんた、入ったの!?」

トシアキの言葉を遮ってアルフは温泉という言葉に目を輝かせる。

「このずぶ濡れの格好をみて、どうしてそんな言葉を返せるんだ」

「そんなことはどうでもいいんだよ。 入ったの? 入ってないの?」

顔を近づけて睨んでくるアルフ。

正直言ってそこらへんのチンピラより怖い。

「・・・・・・入ってない」

「そっか。 なら、今から行こう」

アルフはトシアキの腕を掴んで旅館へ向けて歩き出す。

「ちょっ!? 金がないって言ってんだろ!?」

「ここまで来て入らずに帰れないよ!」

トシアキとアルフが旅館の前で言い合う。

「トシアキ君。 彼女もこう言ってるのだし入って行きなさい。 お金の心配はいらないから」

「そうよ。 ここに落ちたのも何かの縁ってことでいいじゃない」

それを見かねた高町夫婦が横からそう言った。

「おっ、あんたたち言いこというね。 ほら、この人たちも言ってくれてんだし入ろうよ」

「・・・・・・・・・わかったよ。 士郎さん、桃子さん。 すみませんがお世話になります」

諦めたトシアキは二人に頭を下げた。

「じゃあ、行くよ」

アルフはトシアキを引っ張って中に入って行った。

受付は高町夫婦がやってくれるとのことで、水浸しになり体が冷えきったトシアキと久遠、ついでにアルフは浴場の入り口にいた。

「さて、入るか。 じゃあ、アルフ、久遠。 またあとでな」

「何言ってるんだい、トシアキ。 一緒に入るんだろ?」

「くぅ?」

トシアキは男湯の暖簾の前に立ったままアルフの声を聞いて固まった。

久遠も不思議そうにトシアキを見つめて、首をかしげている。

「・・・・・・何故?」

「だって、家族とは一緒に入るものなんだろ? あたしはフェイトとはいるよ」

それが当たり前だというようにトシアキのところまで来るアルフ。

「俺、男。 お前たち、女。 入る場所が違う。 わかるか?」

「そうなのかい? でも、その子はあんたについて行くみたいだけど?」

久遠を女湯の前におろしていたはずなのだが、いつの間にかトシアキの足元で座っていた。

「くぅ!」

「いや、久遠。 君も女の子だろ? だからあっちなんだ。 わかるか?」

足元に座る久遠に向けて言い聞かせるトシアキ。

「くぅ、く、くぅ!!」

トシアキの言葉を聞いて、勢いよく首を左右に振る久遠。

「アルフ、久遠を連れて女湯に・・・・・・・・・って、いねぇ!?」

首の位置を元に戻して、アルフにそう言ったトシアキだが、そこにアルフの姿はなかった。

「・・・・・・」

「くぅ・・・」

無言で久遠を見つめるトシアキと置いていかないで、という目をした久遠が見つめあう。

「・・・・・・・・・はぁ、しょうがない。 このままじゃ風邪引くしな。 行こうか」

「くぅ!」

最後にはトシアキが諦め、嬉しそうに鳴いた久遠と一緒に男湯の暖簾をくぐった。



***



アリサは湯船につかりながらトシアキのことを考えていた。

自分のことを魔法使いと言った青年。

初めて会った時は大怪我をして、倒れていた青年。

今、彼はどこにいるのだろうか。

「って、なに考えてるのよ。あたしは・・・・・・」

今日から二泊三日でこの旅館になのはとその家族。

そして、すずかとその家族の皆で来ているのだ。

「なのはは・・・・・・」

なのはのほうを見るとなのはの姉である高町美由希の背中を流している。

「すずかは・・・・・・」

すずかのほうを見ると姉である忍の背中をながしている。

二人には姉妹がいるためそれほど寂しさを感じないだろう。

しかし、自分には兄姉がいない。

ほんの二日だけ兄のような青年がいたが、彼もいなくなってしまった。

「ほんと、バカなんだから・・・・・・」

彼が去り際に言った言葉を思い出して、アリサは小さくそう呟く。

「きゅ~」

先ほど身体中を洗ってやったユーノは湯船に浮いている桶の中でぐったりしていた。

「・・・・・・露天風呂に行ってこよ」

誰にも気づかれずに静かに露天風呂に向かったアリサ。

「はぁ~。 いい湯だねぇ~」

そこには先客がおり、頭にタオルを乗せてのんびりと温泉に浸かっていた。

「露天風呂もなかなかいいわね」

アリサの先客に習い、露天風呂に浸かってのんびりしていると、隣の男湯から声が聞こえてきた。

「こら! 暴れちゃダメだろ!」

「っ!?」

聞こえてきた男の声に驚いて、隣の壁へ視線を向けるアリサ。

その声は以前、聞いたことがある声だった。

「と、トシア・・・・・・」

「どうしたんだい? トシアキ」

今、まさにアリサが言おうとしていた青年の名前を先に温泉に入っていた女性――アルフが隣に向かって言った。

「いや、久遠が泳ぎだしたから注意したんだ」

そのアルフの言葉にトシアキからの返事が返ってきた。

「ト、トシアキ!!」

トシアキが隣にいるとわかるとアリサはトシアキの名前を大声で叫んでいた。

「・・・・・・・・・アリサか?」

「あんた、ここにいたのね!?」

返事が聞こえてくるとすかさず質問する。

「いや、今日来たばかりだが・・・・・・」

「あぁ~! もう! まどろっこしいわね! ちょっと待ってなさい! 今、そっちに行くから」

曖昧な言葉で返すトシアキにアリサが怒鳴った。

「いや、こっち男湯・・・・・・」

「いい!? そこから動いちゃダメよ!」

トシアキの言葉も聞かず、最後にそう言ってアリサは露天風呂から出て行った。

「・・・・・・トシアキ。 あんたの知り合いかい?」

最初の発言以外に口を挟めなかったアルフが静かにトシアキに聞く。

「あぁ、ちょっと前に世話になったんだ」

「そうかい」

その言葉を最後に黙ってしまうアルフ。

「・・・・・・俺はもうあがるよ。 さすがにアリサをここに入れるわけにはいかないしな」

「そうかい。 あたしゃ、もう少しここにいるよ」

「了解。 またあとでな」

二人の会話はそこで終了し、トシアキは湯船に浸かっていた久遠を連れて露天風呂から出て行った。

「・・・・・・あんたはフェイトの味方でいてくれるよね?」

一人、温泉に浸かったままのアルフが先ほどまで隣にいたトシアキに向けて静かに言った。



~~おまけ~~


なのはとすずかはいつの間にかいなくなっていたアリサを探していた。

「アリサちゃん、どこに行ったんだろう」

「もしかして、もうあがっちゃったのかな?」

二人がそう話していると怒った顔をしたアリサがこちらに向かってきた。

「あっ、アリサちゃん!」

「どこ行ってたの?」

なのはとすずかの言葉を聞いて少し落ち着いたアリサは後ろを振り返って言った。

「あそこから露天風呂に行けるの。 で、そこに行ってたってわけ」

「にゃ~。 露天風呂かぁ~」

「でも、どうして怒ってるの?」

露天風呂と聞いて頬を緩ませているなのはをよそに、すずかが尋ねる。

「別に怒ってないわよ。 ただ、ちょっと気に食わなかっただけ」

それって怒ってるんじゃ? と、思ったすずかだが、口に出しては言わない。

「なにかあったの?」

「ちょっとね。 これからあいつのところに行くのよ」

アリサの要領を得ない言葉に顔を見合わせるすずかとなのは。

「行くってどこに?」

「隣よ」

そう言って、二人の間を通って出口に向かうアリサ。

「隣って言うと・・・・・・」

「男湯!?」

出口に向かうアリサを必死で止めるなのはとすずか。

「ちょ! 離してよ! あいつの・・・・・・トシアキのところに行くんだから!」

「男湯に入っちゃダメだよ! 正気に戻って、アリサちゃん!」

アリサの左手をつかみながら言うなのは。

「あたしは今も正気よ!」

「でも、なにも入らなくても・・・・・・」

アリサの右手を掴んで言うすずか。

「あいつはすぐにいなくなるから、早く行かないとまた何処かに行くのよ」

「じゃ、じゃあ、入り口で待ってよ? それなら大丈夫でしょ?」

そう提案するなのは。

二人で必死に引きとめても着実に出口に進んでいる三人。

「あいつは空も飛べるのよ!? 外から逃げるかもしれないわ」

「「アリサちゃ~ん」」

そうゆうやりとりが女湯の中であった。

ちなみに美由希と忍は温泉に浸かりながら三人のやりとりを微笑ましく見守っているだけであった。



~~~あとがき~~~


ようやく書けた五話目です。
温泉のお話でしたが、最後まで書けなかった。orz
自分の情けなさに毎回ながら涙が出ます。

本当のアリサはこんなキャラじゃないと思うのですが、私の都合でこうなっちゃいましたw
原作のアリサファンの皆様には大変申し訳なく思っております。

さて、次回は温泉での話の続き。
再びジュエルシードを巡ってなのはとフェイトが戦います。
そしてそこにトシアキも!? ってな、感じです。

少しでもこの作品の続きを待っている人がいてくれることを願って、それでは次回、再び会いましょう。




[9239] 第六話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 01:27
温泉からあがり、脱衣所に置いてあったこの旅館の浴衣を着て通路に出ると、三人の少女たちがトシアキを待っていた。

「なのは、すずか・・・・・・・・・それに、アリサ」

「「トシアキさん」」

トシアキが呟いた言葉が聞こえたのか、なのはとすずかが返事をした。

「・・・・・・」

ただ、アリサだけが黙ってトシアキを睨んでいる。

「三人とも元気にしてたか?」

「はい、なのはは元気です」

「私も。 こないだお茶会をしたんですよ。 今度はトシアキさんも来てくださいね」

なのはは微笑んで笑い、すずかもこの前のお茶会の話をする。

「あぁ、今度はぜひ俺も呼んでくれ」

「・・・・・・」

すずかに返事をしたトシアキをアリサはまだ黙って睨んでいる。

「アリサはどうだ? 元気にしてたか?」

「・・・・・・のよ」

トシアキは目線をアリサに合わせて尋ねた。

アリサはトシアキの目を見ながら小さく言った。

「ん?」

「どこに行ってたのよ! 心配、したんだから・・・・・・」

アリサは目に涙を浮かべてトシアキに怒鳴りながら詰め寄る。

最後には声が小さくなっていき、涙が零れた。

「・・・・・・悪い。 まさかそこまで心配してくれるとは思ってなかったんだ」

詰め寄ってきたアリサを優しく抱きしめ、背中をさすってやるトシアキ。

「うっく、えっく・・・・・・」

アリサもトシアキの胸で気が済むまで泣いていた。

「えっと、なのはたちはお邪魔なのかな?」

「そ、そうだね。 私たちはいないほうがいいのかな」

その場についていけなくなったなのはとすずかがお互いに顔を見合わせて言った。

「っ!?」

なのはとすずかの声を聞いたアリサが我に返って、顔を真っ赤にしながらトシアキを突き飛ばした。

「ってぇ!?」

今まで泣いていたアリサに突き飛ばされ、その場に倒れるトシアキ。

「そ、それより、あの女の人とはどういう関係なの?」

「・・・・・・・・・別の話に変えても今の行動を消すことはできないぞ」

「う、うっさい! いいから答えなさい!」

トシアキは起き上がって、しばらく考えて口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ペット?」

「ぺ、ぺ、ぺ・・・・・・ペットですって!?」

一体何を想像したのか、顔を赤くして叫ぶアリサ。

それを聞いていたすずかの頬も赤く染まっている。

なのははよくわからないようで、首をかしげているだけだ。

「あ、あんた、一体どんなことをしてるのよ!?」

「うん? 同じところで寝たり、食ったりしてるだけだけど?」

トシアキもアリサとすずかが顔を赤らめているのかわかっていない。

「寝たり・・・・・・食べたり・・・・・・」

トシアキの言葉を真赤になりながら何度もつぶやくすずか。

「あんたサイテーね!」

「一体、何を想像したんだよ!?」

アリサの一方的な物言いにトシアキも困惑している。

「そ、そうだ! アリサちゃん、この旅館を探検しようって言ってたよね」

「い、今から行かない?」

アリサとトシアキの様子を見ていて、空気の悪さを感じ取ったのか、すずかとなのはがそう言う。

「・・・・・・・・・いかない」

「そ、そんなこと言わずにね?」

「だって、またいなくなるから・・・・・・」

渋るアリサはトシアキを見ながら、そう言った。

「俺は今日はここにいるよ。 桃子さんと士郎さんのおかげでな」

「お父さんとお母さん?」

自分の良心の名前が出てきたことに不思議を感じたなのはが首をかしげながら尋ねる。

「あぁ~、やっぱりなのはの両親か。 名前を聞いたときにどこかで聞いたことあると思ってたんだよなぁ」

「じゃあ、今日ここにいるのはお父さんとお母さんが?」

「あぁ。 金を払ってくれてな。 今から挨拶に行くんだよ」

その言葉を聞いたすずかが嬉しそうに微笑みながらアリサに向きなおる。

「ほら、今日はいるって言ってるよ。 だから・・・・・・・・・ね?」

「わかったわよ。 じゃあ、トシアキ。 あたしたちは行くけど、逃げるんじゃないわよ。 今までのこと聞かせてもらうからね!」

「わかったよ。 ほら、早く行け」

軽く手を振りながらアリサに行くように促すトシアキ。

そんなトシアキを見て気を落ち着けたアリサ。

「うるさいわね。 じゃあ行きましょ、なのは、すずか」

「う、うん」

「あっ、まってよ~」

アリサのあとにすずかとなのはがドタドタと走って去って行った。

すずかとなのはは機嫌がよくなったアリサを見てホッと胸をなでおろしていた。

「・・・・・・とりあえず、士郎さんのとこに行くか」

なのはたちを見送ったトシアキはそう言って踵をかえした。

「そういや、久遠はどこ行った?」

一緒にお風呂に入っていた久遠が見当たらないことに気づいたトシアキ。

高町夫婦のところに行く前に久遠を探しに再び男湯に入っていくトシアキであった。



***



浴衣を着たなのはたちがトシアキと別れて旅館の探検をあらかたし終え、次に何をするのか話しながら歩いていると、前方からアルフが歩いてきた。

「お土産見に行く?」

「卓球もいいかも」

「えぇ~、 私、卓球はちょっと・・・」

「はぁ~~い、おチビちゃんたち」

なのはたちが楽しそうに話しているのを遮るようにして、アルフが声をかけた。

「君かね? うちの子をアレしてくれちゃってるのは」

アルフがなのはの顔を覗き込んでそう言った。

「えっ?」

突然声をかけられたなのはも驚いているだけだ。

「あんまり賢そうでも、強そうでもないし。ただのガキんちょに見えるんだけどねぇ」

「あ、あの・・・・・・」

なのはが何か言おうとしたときにアリサが後ろからなのはの前に庇うようにして立った。

「ん?」

「なのは、お知り合い?」

アリサを見て首をかしげたアルフをよそにアリサがなのはに問いかける。

「う、ううん」

聞かれたなのはは戸惑いながら首を横に振って否定した。

「この子、あなたを知らないそうですが、どちら様ですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

しばらくアルフとアリサが無言でにらみ合った。

なのはとすずかはどうしていいのか分からずにオロオロしている。

「あははは・・・・・・・・・」

突然その静寂を破ってアルフが笑い出した。

その様子を三人とも唖然として見ている。

「ごめんごめん、君じゃなくて君だったよ」

そう言ってなのはではなく、アリサを見るアルフ。

「あ、あたし?」

「そう、君。 あいつはあたしたちの仲間なんだから渡しはしないよ」

そう言われたアリサはアルフの言葉の意味を考え込んでいた。

「あいつ?」

そのうちにアルフはなのはの肩に乗っていたユーノを撫でながら念話で伝える。

≪今のところは挨拶だけね≫

その念話を聞いて、なのはとユーノが驚きをあらわにした。

≪忠告しとくよ? 子どもはいい子にしてお家で遊んでなさいね≫

「っ!?」

≪おいたが過ぎるとガブッといくわよ?≫

念話でそう言ったあと、三人を通り過ぎて去って行ったアルフ。

「なのはちゃん?」

黙り込んでしまったなのはを心配するように、すずかが声をかける。

「あ、ううん。 なんでもないよ」

「アリサちゃんは?」

同じくアルフの言葉を聞いてから黙ってしまったアリサにすずかが声をかける。

「あいつ・・・・・・あいつってもしかして」

「ア、アリサちゃん?」

「えっ!? あ、すずか、どうしたの?」

二度目のすずかの呼びかけにようやく反応したアリサ。

「アリサちゃん、さっきから何か考えてるみたいだけど大丈夫?」

「えっ? 大丈夫よ。 それより、もう部屋にもどらない?」

「えっと、私はべつにいいけど・・・」

アリサの提案にすずかはなのはの様子を伺う。

「わたしもいいよ。 じゃあ、部屋に戻ろっか」

なのはの賛成も得たことで三人は部屋に戻った。

部屋に戻ってきたなのはが扉を開けると両親である士郎と桃子。

そして、兄の恭也とすずかの姉である忍。

さらに子狐姿の久遠を抱いたトシアキがお酒を飲んでいた。

「おぉ~。 なのは帰ったか」

「あら、おかえりなさい」

戻ってきた三人を少し頬が赤い状態で士郎と桃子が出迎える。

「お父さん!? それにお母さんまでどうしたの!?」

「いやぁ~ トシアキ君と話してたら意気投合してな。 一緒にお酒を飲んでいるのさ」

そう言われて奥を見るとさらに顔が赤いトシアキが座っていた。

「トシアキさん!? それにくーちゃんまで!」

「おっ、なのは、すずか、アリサ。 お帰りぃ~」

「ちょっと! あんたに話があるっていったわよね!?」

完全に酔っているトシアキを見て、アリサが詰め寄る。

「そうだったかぁ~? それよりアリサも飲むかぁ?」

「あ・ん・た・ね・ぇ・!」

怒り心頭で握り拳を作っているアリサを見て、忍にお酒を注いでいたファリンが慌てて駆け寄る。

「ア、アリサちゃん、落ち着いて。 すずかお嬢様となのはちゃんもこっちに」

「ちょ、ちょっと離してよ! こいつを殴ってやるんだから!」

そう言いながらもファリンに連れられ、隣の部屋に行ってしまったアリサ。

「くーちゃん、一緒にいこ」

「くぅ・・・」

トシアキの腕の中で困っていた久遠に呼びかけるなのは。

久遠は酔っているトシアキをチラリと心配そうに見つめる。

「トシアキさんはそんなんだから、ね?」

「くぅ」

なのはの言葉を聞いて久遠はトシアキの腕の中から抜け出し、なのはとすずかと共に、アリサが連れていかれた部屋に入って行った。

桃子もそんな子供たちを心配してか、一緒に部屋に入っていく。

「恭也・・・・・・」

「忍・・・・・・」

恭也と忍も酔っているのか、二人だけの世界に行ってしまっている。

「・・・・・・」

トシアキは無言でその場から立ち上がり、窓のそばまで歩いて行った。

「どうしたんだい?」

そう言ってそばに来たのは士郎であった。

コップ二つとビール瓶を持っている。

「いや、少し考え事を・・・・・・」

「酔った振りをしてアリサちゃんを遠ざけてまでかね?」

「・・・・・・気づいてましたか」

苦笑しながら士郎の方へ振り返ったトシアキは差し出されたコップを手に取る。

「今の状態を見れば誰でもわかるさ」

「そりゃ、そうですね」

言いながらお互いにビールを注ぎ合う。

「知り合いなのかい?」

「えぇ。 少し世話になったんですよ、アリサに」

注がれたコップで軽く乾杯して、飲みながら話す士郎とトシアキ。

「遠ざける理由は?」

「・・・・・・・・・少し危ないことをしてまして、巻き込みたくないんですよ」

「そうか・・・・・・」

士郎も自分がボディーガードをしていたときのことを思い出したのか、詳しい事情も聞かず、黙ってコップに注がれたビールを飲む。

「安心してください。 あなたたちも巻き込むつもりはありません、すぐに消えます」

「わたしも息子もそういう仕事をしていたから心配はいらないぞ?」

「でも、桃子さんやなのはは違うでしょ?」

「むっ・・・・・・」

トシアキの言葉に唸ってしまった士郎。

「あなたたちは本当にいい人たちだ。 アリサにしても、なのはにしても、士郎さん、あなたにしても」

「・・・・・・」

「受けた恩は必ずなんらかの形で返します。 それが・・・・・・・・・俺の家での決まりなんで」

言いかけた言葉を飲み込んで、トシアキはそう言った。

「・・・・・・なら、期待して待っていよう」

「はい」

二人は窓から景色を眺めながら再び飲み始めた。



***



隣の部屋に移動してきたなのはたちはトランプをして遊んでいた。

アリサは時々トシアキたちがいる部屋を見ていたが、襖がしまっているので様子がわからないことを残念そうにしていた。

「きゅ~!?」

「くぅ~!」

トランプで遊んでいるなのはたちの周りをユーノと久遠が駆け回っていた。

もちろん、ユーノが久遠に追いかけられる形で。

「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」

桃子の言葉に子供たち三人はそれぞれの布団に入る。

ユーノはアリサに久遠はなのはにそれぞれ抱きかかえられながら布団に入る。

「桃子さん、あの・・・・・・」

「大丈夫、トシアキ君と明日にはきっと話せるわ」

アリサの心配を受け止めたのか、桃子がそう言って安心させる。

「はい・・・」

「それじゃあ、皆。 お休みなさい」

電気を消して三人は深い眠りについた。

その様子を見て、桃子とファリンも部屋からそっと出ていった。

≪ユーノ君、起きてる?≫

≪う、うん≫

ユーノが起きているということがわかったなのははそっと体を起こす。

≪昼間の人、こないだの子の関係者かな?≫

≪たぶんね・・・・・・・・・なのは、やっぱり僕考えたんだけど≫

≪ストップ。 そこから先を言ったら怒るよ≫

そう念話でいいながらフェレット姿のユーノの頭をなでる。

「最初はお手伝いだったけど、今はなのはがやりたいから」

「なのは・・・・・・」

そのとき、外から魔力反応を感じた。

「「!?」」

「ユーノ君!」

「行こう、なのは」

なのはは慌てて着替えて、ユーノとともに窓からソッと外にでた。

「くぅん」

しばらくして、久遠がそっと起き上りトシアキのいる隣の部屋に向かった。

襖をあけてみると、トシアキが窓辺の椅子に座りながら眠っていた。

しかし、そこには他の人間の姿がない。

「くぅ」

ホッとしつつ、久遠は巫女服を着た可愛らしい人間の姿になりトシアキの頬をペチペチと叩く。

「ん・・・・・・」

「トシアキ、起きる」

「久遠か? なんなんだいったい・・・」

寝ぼけているトシアキが目を擦りながら久遠を足の上に乗せた。

「トシアキ。 なのは、外に出てった」

「そうか・・・・・・」

なのはが外に出たという言葉を聞いてトシアキは完全に目覚めた。

「トシアキ?」

「・・・・・・じゃあ、行くか。 っと、書き置きしとかねぇとな」

近くにあった紙にペンで書きおいて、久遠を抱き上げる。

「・・・・・・久遠、狐の姿になってくれ。 さすがに酔ってた状態じゃ危ない」

「くぅん」

子狐になった久遠を肩に乗せ、窓を開け放つトシアキ。

「・・・・・・」

最後にもう一度部屋を振り返り、静かに頭をさげて夜空へ飛び立った。

「フェイトやアルフがいるはずだ。 とりあえず合流するぞ」

「くぅ~」

風に飛ばされないようにしっかりと肩につかまっている久遠に語りかけるトシアキ。

「あ、あれは!?」

トシアキが見たのは橋の上で向かい合っているフェイトとなのはがいた。

「結界に強制転移魔法・・・・・・いい使い魔をもっている」

「ユーノ君は使い魔ってやつじゃないよ。 わたしの大切な友達」

二人はそう言って向かい合っている。

それを上空から眺めているトシアキと久遠。

「くぅん?」

「あぁ、今はいいんだ。 しばらく見ていよう」

そう言ってる間にもフェイトとなのはの話は進んでいる。

「話合うだけじゃ・・・・・・言葉だけじゃ、きっと何も変わらない、伝わらない!」

最後の言葉と同時にフェイトがなのはに接近し、バルディッシュを振るう。

「っ!?」

それを回避して、レイジングハートが飛行魔法を発動し、なのはが空に飛び上がる。

「でも! だからって!!」

「賭けて。 それぞれのジュエルシードを一つずつ」

いいながらフェイトとなのはが空中で魔法の砲撃を放つ。

同じく空から様子を見ていたトシアキと久遠の周りで魔法がぶつかり合う。

「ちょっ!? うお!? 危ねぇ!!」

「くぅ!?」

それを上手く回避して、魔法が収まったときすぐ下でフェイトのバルディッシュがなのはの首もとに突き付けられていた。

「あぁ~ぁ。 俺、今回何もせず終わった・・・・・・」

「くぅん」

そう呟くトシアキの肩を久遠が慰めるようにポンポンと叩く。

「主人思いのいい子なんだね」

いいながらレイジングハートから出てきたジュエルシードを掴み、降りていくフェイト。

なのはもゆっくりと降りていく。

「・・・・・・帰ろう、アルフ」

「さすがあたしのご主人様。 じゃあね、おチビちゃん」

「待って!」

フェイトとアルフが揃って去ろうとしている背中になのはが声をかける。

「もし、また私たちの前に現れたら、今度は止められないかもしれない」

「名前! あなたの名前は!?」

フェイトの言葉を聞かず、なのははフェイトに名前を尋ねる。

「・・・・・・フェイト。 フェイト・テスタロッサ」

「あの・・・・・・わたしは」

フェイトはなのはの言葉を最後まで聞かず、そのまま飛び上がった。

なのはは飛び去って行ったフェイトとアルフをその場でジッと見ていた。

「よかったのか?」

「兄さん・・・」

飛び上がった上空にトシアキと久遠が待っていた。

「最後まで話を聞かなくて」

「うん。 どうせ、意味はないから・・・」

バルディッシュをしまいながら俯いて話すフェイト。

「・・・・・・・・・そうか、フェイトがそう決めたならそれでいい」

俯いているフェイトの頭を撫でたトシアキはそばにいたアルフを見る。

「お前、どこにいたんだよ?」

「あんたこそどこにいたのさ、こっちはさんざん探したのに」

「うっ!? いや、その・・・・・・」

冷汗をかいているトシアキを一瞥したあと、アルフは小さく言った。

「・・・・・・・・・戻ってこないと思ってたよ」

「ん? なんだって?」

「なんでもないよ。 トシアキは念話ができないんだから迷子になっちゃダメだろ?」

「俺、完璧に子供扱い!?」

ショックを受けているトシアキを無視して、アルフはフェイト声を掛ける。

「帰ろう、フェイト」

「うん。 兄さんも」

「・・・・・・あぁ、そうだな」

「くぅん」

二人と二匹は暗い夜の空を飛んで海鳴の街へ帰って行った。



~おまけ~


なのはたちと遭遇したあと、再び温泉に入っていたアルフは森に残ったフェイトと連絡を取っていた。

≪あ~、もしもしフェイト、こちらアルフ。 ちょっと見てきたよ、例の白い子≫

≪そう、どうだった?≫

湯につかりながら念話するアルフと木の上で同じく念話するフェイト。

≪ん~、まぁ、フェイトの敵じゃないね≫

≪そう。 兄さんは?≫

「あっ・・・・・・」

フェイトからの問いかけに思わず口に出してしまったアルフ。

≪アルフ?≫

≪な、なんでもないよ、トシアキならそばにいるさ。 ところでジュエルシードは?≫

温泉に目がくらんでトシアキのことをすっかり忘れていたアルフは慌ててそう言う。

≪ジュエルシードの位置はだいぶ特定できてきたよ。 夜には確保できそう≫

≪ナイスだよフェイト。 さすがあたしのご主人様だ≫

風呂の中で思わずニヤけてしまうアルフ。

事情を知らない人が見たら怪しいことこの上ない。

≪ありがとう、アルフ。 夜に落ち合おうね。兄さんにもそう伝えて≫

≪は~い≫

そう言って二人の会話は終了した。

「さて、トシアキは・・・・・・・・・・・・いいか。 あの子と知り合いみたいだし」

アルフは露天風呂に入っていたときにトシアキと会話していた女の子のことを思い出していた。

「一応、チビっこには言ったけど、トシアキには言ってなかったからねぇ」

タオルを頭に乗せ、誰もいないことをいいようにアルフは耳も尻尾も出している。

「・・・・・・あの子のところに帰るのかなぁ」

フェイトと落ち合う夜まで温泉につかりながらトシアキのことを考えていたアルフであった。



~~あとがき~~


六話目投稿完了。
書くのって難しいですね、今度、友人にも読んでもらって意見聞いてみるかな。
などと考えつつ書いておりました六話です。
次は管理局の人たちもでてくる・・・のかなぁ。
原作の流れを覚えてないのでもう一度見て再確認します。

今回はトシアキが全く役に立ってない。
何もしてねぇ! って感じでした。
間に別のこと(前回の投稿)を書くと本編のストーリーが思い浮かばないので遅くなりましたが、次回もトシアキが役に立たない感じになってしまうと思います。

久遠の昔の話も書きたいなぁ、と思ってるのですが、やはり本編を先に進めたほうがいいですよね?(苦笑)
意見や感想待ってます。
それでは次回の作品(おそらく第七話)で会いましょう。




[9239] 第七話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 01:40
昼の賑やかな海鳴の街をトシアキは久遠と共に歩いていた。

「今日もいい天気だなぁ」

「くぅ~」

トシアキは久遠と手をつないで歩き、話をしながら商店街を歩いている。

「こんなときに限ってフェイトもアルフもいないんだから退屈だよな」

そんなことを言いながら、トシアキは数時間前のことを思い出していた。

今から数時間前のトシアキと久遠はいつも通り、フェイトのマンションにいた。

「さて、フェイト。 今日はどうする? ジュエルシードを探しに行くか?」

「ううん、今日は今まで見つけたジュエルシードを母さんに渡してくる」

そう言ったフェイトは出かける準備をもう済ませていた。

「俺も行ったほうがいいか?」

「兄さんはゆっくりしてて。 私が一人で行くから」

「フェイトが行くならあたしも行くよ」

フェイトの横で狼姿のアルフがそう言った。

「そうか。 なら、今日はゆっくりしてるよ。 夜には帰ってくるんだろ?」

「うん、そのつもり。 他のジュエルシードも早く集めなくちゃいけないから」

「そんなに焦る必要はないと思うけどな」

そう言うトシアキにフェイトは首を振った。

「・・・・・・・・・あの子がいるから」

「なのはか」

トシアキの言葉に無言で頷くフェイト。

「まぁ、心配するな。 今日一日で全部なくなるわけじゃないからな」

「うん。 それじゃあ、行ってくる」

「いい子で留守番してるんだよ、トシアキ」

フェイトとアルフはそう言って部屋から出て行った。

「さて、俺たちはどうするか?」

「トシアキと一緒ならどこでもいい」

「そっか」

フェイトたちがいなくなったことで人間の姿になった久遠の頭を微笑みながら撫でるトシアキ。

「くぅん!」

嬉しそうに笑っている久遠を撫でて、しばらく久遠と遊んでいたが、だんだんと飽きてきたようだ。

「・・・・・・・・・外に遊びに行くか」

「いく!」

そういう訳で二人は外に出たのだが。

「久遠、尻尾と耳は隠そうな」

「くぅん・・・」

巫女服を着た格好の久遠はただでさえ目立つ。

そこに頭から狐の耳をだし、後ろから尻尾をだしているのだから余計に目立つ。

なんとか部屋で耳と尻尾を隠した久遠だが、集中していないとまた出てきてしまうらしい。

「巫女服のままってのも目立つよなぁ」

「トシアキ、早くいこう」

トシアキの服を引っ張り、外に出ようとする久遠。

「ちょっ、慌てるなよ。 ってか、外は嫌いじゃなかったのか?」

「トシアキと一緒なら平気」

「そうかよ・・・」

笑顔で微笑む久遠に突っ込む気もなくしたのか、そのまま外に出たトシアキ。

「♪~~」

「・・・・・・」

機嫌よく微笑みながら鼻歌を奏でている久遠と周りからの視線に居心地が悪くなっているトシアキ。

「久遠」

「くぅ?」

「ちょっと行きたい所ができたんだけど、いいか?」

前を歩いていた久遠は振り返り、トシアキの問に笑顔で答えた。

「久遠、トシアキが行くとこ、ついて行く」

「そうか。 じゃあ、行こうか」

久遠の手を取って早足で歩きだしたトシアキ。

久遠は急いで歩くトシアキに首を傾げつつも、手をつないでいることを嬉しそうに微笑んだ。

「ここが目的地だ」

「くぅん?」

着いた場所は海鳴の街にある商店街で、目の前にある店は洋服店であった。

途中、様々な人に疑わしい目でみられたが、久遠が嬉しそうにしていたため、特に問題なく目的地に到着した。

久遠が嫌がっていたらひと騒動あったことだろう。

「いらっしゃいませ~」

店内に入ったトシアキは暇そうにしている店員に声をかけた。

「すまないが、この子に似合う服を選んでくれないか?」

「はい、少々お待ち下さいね」

声をかけられた店員は久遠の姿を一瞥したあと店の中を歩きまわりだした。

「トシアキ?」

「いいか、久遠。ここで新しい服に着替えるんだ。 さすがにその格好はマズい」

よくわからないといった表情で首をかしげている久遠の頭を撫でつつ、トシアキは先ほどの店員を探した。

「お待たせしました、こちらへどうぞ」

現れた店員は服を数枚持って、久遠を試着室の方へ案内しようとする。

「ト、トシアキ・・・」

不安そうな表情でトシアキを見る久遠。

「大丈夫だ、その店員さんについて行って服を着てこい」

「くぅ・・・」

そう言われても不安なのか、久遠はなかなか進もうとはしない。

「・・・・・・はぁ、仕方ないな」

しばらく久遠と見つめあったトシアキはため息を吐いたあと、手をつないだ。

「一緒に行ってやるから、そんな顔するな」

「くぅん!」

トシアキと手をつないだ久遠は悲しそうな顔から、嬉しそうな顔へ瞬く間に変化した。

そして、その様子を服を選んできた店員が微笑ましい表情で見ていた。

「じゃあ、俺はここにいるから服を着替えな」

「うん、わかった」

試着室に入った久遠はトシアキから渡された服を手にとり、ジッと見つめる。

「・・・・・・」

「ん? どうした、久遠」

「これ、脱ぐの?」

そう言って久遠は自分が来ている巫女服を指す。

「そりゃ、服を着るには脱がないとダメだろ」

「わかった」

頷いた久遠はそのまま巫女服を脱ごうと手をかける。

「って、ちょっと待て! カーテンを閉めてからにしろよ!?」

「か~てん?」

「これだよ、これ! とりあえず閉めるから着替えたら出てこい」

そう言って慌てて試着室のカーテンを閉めるトシアキ。

「トシアキ、いる?」

「あぁ。 終わるまで待っててやるから、そんな不安そうな声をだすな」

トシアキは壁にもたれながら、久遠が着替えを終えるのを待つ。

時折、試着室の中からドタバタと音が聞こええるが、トシアキは静かに待つだけだ。

「・・・・・・トシアキ?」

「ん? 終わったのか?」

「うん、着替えた」

久遠の言葉を聞いて試着室のカーテンをあけるトシアキ。

「ほぉ・・・・・・」

そこには白いワンピースを着て少し恥ずかしそうに頬を染める久遠がいた。

「これが一番気に入った。 変じゃない?」

「あぁ、似合ってる。 可愛いよ、久遠」

「くぅん!」

トシアキの言葉に頬を染めながらもうれしそうに微笑んだ久遠。

「じゃや、それにするか」

「くぅ!」

久遠はそのまま嬉しそうに外へ出て行った。

「あっ、コラ! ったく、そんなにはしゃぐことないだろうに」

「お会計はこちらになります」

「あっ、はい。 これで」

ワンピース代を払い、おつりを待っている間にトシアキの目にあるものが飛び込んできた。

「おつりは・・・・・・」

「すいません、アレももらえますか?」

トシアキが外に出ると久遠は店の前で待っていた。

「あっ、トシアキ!」

店から出てきたトシアキを見つけた久遠は嬉しそうに駆け寄る。

「次はどこ行く?」

「そうだなぁ、腹も減ってきたし、飯でも食いに行くか」

「行く~!」

嬉しそうにはしゃぐ久遠の姿を見てトシアキは微笑みながら久遠の頭に麦わら帽子をのせた。

「く?」

「日差しが強いと暑いからな。 この帽子を被っとけ」

「えへへ・・・」

頭にのった麦わら帽子のつばを久遠は両手で確認するように触り、微笑んだ。

「よし、行くか」

「うん!」

歩きだしたトシアキの左手を掴むようにして、日差しの強い中二人は歩き出した。

商店街をしばらく歩いた二人はどこの店に入るか悩んでいた。

「ん~~、何を食おうか・・・・・・」

「久遠、おなかすいた」

「だよな。 ・・・・・・・・・おっ、ちょうどいいところに喫茶店が」

トシアキが見つけた喫茶店は『翠屋』と書かれていた。

「よし、ここにしようぜ」

「うん、そこにする」

二人の意見が一致したことで、トシアキは店のドアを開いた。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「えっと、二人で・・・・・・」

店員は長い髪を三つ編みにしており、メガネをかけている可愛らしい女性だった。

「はい。 マスター、二名様入ります」

「了解・・・・・・ん?」

マスターと呼ばれた男性はグラスを拭きながら返事をして、振り返ったときにトシアキと目があった。

「「あっ」」

『翠屋』のマスターである男性とトシアキの声が重なって発せられた。



***



私立聖祥大付属小学校の三年生の教室でなのはとアリサはともに考え事をしていた。

「はぁ・・・・・・」

溜息を吐いたアリサは前回の休みに出会ったトシアキが話す前にいなくなったため落ち込んでおり、どこか遠い目で教室を眺めていた。

「・・・・・・」

なのはも同じく前回の休みで出会い、戦ったフェイトのことを考えていた。

「え、えっと・・・・・・」

そんな二人を前にすずかはどうしたらいいのか分からず、視線を彷徨わせている

休み時間、授業中とこんな状態の二人にすずかは困っているのであった。

結局、その日の授業はすべて終わり、放課後になってしまった。

「アリサちゃん、今日もお稽古いくでしょ?」

「・・・・・・」

「アリサちゃん!」

呼びかけても返事をしないアリサにすずかは少し声を大きくして言った。

「えっ? あ、すずか。 どうしたの?」

「お稽古、行くんだよね?」

「あたりまえじゃない。 どうしてそんなこと聞くのよ?」

「だって・・・・・・」

そう言葉を濁すすずかにアリサは首を傾げつつ、隣のなのはに声をかけた。

「なのははどうするの?」

「えっと・・・・・・なにが?」

なのはも同じく考え事をしていたため、話を全く聞いてなかったのである。

「放課後よ。 あたしとすずかはお稽古に行くけど」

「今日は塾もないし、『翠屋』に寄ってかえろうかなぁって」

アリサはなのはの言葉を聞いてしばらく考えたあと言った。

「そっか。 それより、なのは。 トシアキを見つけたらすぐに連絡しなさいよね?」

「う、うん。 わかってるよ、何回も聞いたから忘れてないってば」

朝起きたときにトシアキがいなくなってから、アリサは何度もなのはそう言っていた。

「そう。 じゃあ、よろしくね。 すずか、行こっか」

「う、うん。 なのはちゃん、バイバイ」

「バイバイ、すずかちゃん、アリサちゃん」

なのはが見送るなか、アリサとすずかは教室から出ていった。

「なのはも帰ろ・・・・・・」

ひとり教室に残っていたなのはもカバンに教科書などを詰め、教室を出た。

帰り道を歩きながら、なのははフェイトのことを考えていた。

「・・・・・・」

俯きながら静かに、そしてゆっくりと歩くなのは。

そして目的地である『翠屋』に到着し、ドアを開けた。

「いらっしゃ・・・・・・あ、なのは。 おかえり」

「ただいま、お姉ちゃん」

なのはの姉である高町美由希が出迎える。

「おっ、帰ったか、なのは」

「うん。 お父さん、ただいま」

カウンターでは『翠屋』のマスターである高町士郎が迎える。

「お父さん、なのはも手伝った方がいい?」

今まで考え、悩んでいたことを表情に出さないようにして、なのははそう言う。

「そうだなぁ。 今日は恭也も忍ちゃんもいないから手伝ってくれると助かる」

「うん、わかった。 なのははなにをするの?」

カバンを邪魔にならないところに置きつつ、客席を見渡す。

相変わらず学校帰りの女生徒や近所の主婦たちがたくさん来ていた。

「洗い物を手伝ってくれ。 今、新人さんがいるからきちんと挨拶するんだぞ」

「は~い」

返事をして、なのははキッチンのほうへ入っていく。

そこでは、茶色い長髪を一つに束ねた一人の男性が食器を黙々と洗っていた。

「えっと、ここの店長の娘の高町なのはです。 今日はよろ・・・・・・
えぇぇぇ!?」

「ん?」

自己紹介をしている途中でなのはは食器を洗っている男性の顔を見て驚いた。

「な、なんでトシアキさんが・・・・・・」

「変か?」

『翠屋』と描かれたエプロンを着け、洗い物をしていたトシアキは自分の姿を見てそう言った。

「別に変じゃないですよ。 エプロン、似合ってます・・・・・・・・・じゃなくて! 急にいなくなったと思ったら、うちでバイトしてるなんて・・・・・・」

トシアキは洗い物を中断してその場にしゃがみ、なのはに視線を合わせた。

「バイトじゃなくて恩返しなんだよ。 ようするにタダ働きだな。 色々と士郎さんと桃子さんには世話になったからな」

「連絡くらいしてほしいです。 アリサちゃんが心配していましたよ」

「っていっても、携帯持ってないし、電話番号も知らないから連絡ができないんだよ」

苦笑しながらなのはの頭を撫でるトシアキ。

「それに今は仕事中だ。 続きは終わってからな?」

「はい・・・」

それから、なのははトシアキと並んで食器を拭いている。

「トシアキ君、なのは」

しばらく二人で食器の片付けをしていると、士郎がやってきた。

「どうしたの? お父さん」

「二人とも、今日はありがとう。 いろいろと助かった」

「いえいえ。 でも、まだ閉店時間じゃないですよね?」

「あぁ。 だが、店も落ち着いてきたし今日はもういいだろう。 君の連れも怒っているようだしな」

士郎の言葉にトシアキは思い出したように慌てて店へ走って行った。

「お父さん、なのはももういいの?」

「あぁ。 よく考えたら今日は塾が休みだっただろ? たまにはゆっくり休みなさい」

「うん。 ありがとう、お父さん」

なのはは士郎の優しい言葉に嬉しそうに微笑んで、トシアキが向かったほうへ走って行った。

なのはが店内に到着すると、トシアキが可愛らしい少女に必死に頭を下げているのを見つけた。

「ほんとにすまん! 忘れてたわけじゃないんだ!」

「久遠、ずっと待ってた。 でも、トシアキ全然来なかった」

トシアキの方を見ようともせず、久遠は可愛らしく頬を膨らましていた。

「と、とにかく帰ろうぜ? あいつらも帰って来てるだろうしさ」

「・・・・・・」

久遠は返事をせずにスタスタと店内から出て行ってしまった。

「はぁ・・・・・・あんなに怒らなくたっていいだろうに」

「トシアキさん」

肩を落として、溜息を吐いているトシアキのもとになのはがやってきた。

「ん? なのはか。 どうした?」

「さっきの可愛い子は誰ですか?」

「あぁ。 久遠って言って、俺の友達だよ」

トシアキの言葉に店内にいた他の客が不審者を見るような眼で見てきたが、トシアキは気付かないフリをした。

「久遠? く~ちゃんと同じ名前・・・・・・」

「(そりゃ、同じ人物だからなぁ)俺はそろそろ帰るぞ?」

トシアキはそう言って、久遠が食べた代金を払おうとレジの前にいた桃子に話しかける。

「すいません、いくらですか?」

「あの子ならなにも注文してないわよ? ずっと、あなたが帰ってくるのを待っていたんですもの」

「えっ・・・・・・」

財布をだしたまま固まってしまうトシアキ。

「あんまり、女の子を待たせちゃダメよ?」

「はい・・・・・・・・・じゃあ、シュークリームを六つほど持ち帰りで」

「はいはい。 ちょっと待っててね」

しばらくして、桃子がシュークリームを入れた箱を持ってきた。

トシアキは代金を払い、何度か頭を下げて店を出て行った。

「久遠」

「・・・・・・トシアキ、遅い」

「悪い。 じゃあ行こうか」

怒っている久遠とトシアキは歩き出した。

その途中でトシアキは後ろから誰かがついてきていることに気づいた。

「久遠、ちょっといいか?」

「・・・・・・・・・なに?」

「誰かがついて来てる。 久遠はこれを持って先に帰っててくれ」

そう言ってシュークリームの入った箱を久遠に渡すトシアキ。

「トシアキは?」

「俺は少し相手をしてから帰るよ」

「久遠も行く」

トシアキは久遠に視線をあわせて、ズレていた麦わら帽子を直してやる。

「いい子だから。 フェイトの家で待っててくれよ、な?」

「・・・・・・わかった」

そう言って久遠はフェイトが住んでいるマンションの方へ走って行った。

残ったトシアキはしばらく久遠を見て、それから反対側へ歩き出した。

「さて、どっちに来るかな?」

歩きながらトシアキは風の魔法を使い、後ろにいる人を確認した。

「よし、俺の方にきたな」

確認を終えたトシアキはそのまま人がいないところまで歩いて行く。

「さて、ここら辺でいいか・・・・・・なっ!?」

トシアキが振り返ろうとした瞬間、少し離れたところで魔力反応を確認した。

「ちっ、こんな時に」

魔力反応があった場所をみると同時に周りの景色が変化した。

「結界か?」

そして、後ろから付いて来ていたなのはが白い服に杖を持って、魔力反応はする方向へ飛び立っていくのが見えた。

「なのはか。 ってことはジュエルシードだな」

なのはが飛んでいった方へトシアキも向かう。

トシアキの視線の先には中に浮かぶ青い宝石と、その前で話しているなのはとフェレットだった。

「封印されちゃこまるからな」

上空でなのはがいるところに手を向ける。

「悪いな。 これもフェイトのためなんだ」

トシアキの背後で赤い火の玉が無数に出現する。

「はっ!」

トシアキの声を合図に無数の火の玉がなのはたち目掛けて襲いかかった。

「なのは! 危ない!」

「えっ!?」

ユーノがいち早く気づき、なのはに声をかける。

なのは自身は反応できなかったが、レイジングハートが素早く回避。

ジュエルシードを中心に周りに火の玉が降り注いだ。

「こんな魔法、見たことない」

「ユーノ君、一体何が・・・・・・」

「こんにちは、なのは。 それと・・・・・・フェレット君」

ジュエルシードのそばに降り立ったトシアキはなのはとユーノに挨拶をする。

「ト、トシアキさん!?」

「あなたは一体!?」

驚くなのはとユーノをよそに、トシアキは中に浮いているジュエルシードに手を伸ばす。

「ただの魔法使いさ。 もちろん、魔導師とは違うけどな」

「魔法・・・・・・使い」

「それはっ!?」

トシアキの言葉を反芻するなのはと、ジュエルシードを手にしたトシアキに驚くユーノ。

「悪いがこれは貰っていく。 大事な義妹がほしがってるからな」

「それは危険なものなんです! だから・・・・・・」

「危険って、ただの魔力の塊だろ? 使い方さえ間違わなきゃ大丈夫さ」

トシアキはそう言ってジュエルシードをポケットにしまう。

「じゃあな、なのは。 それとフェレット君」

「あっ!?」

そのままトシアキは飛び去ってしまった。

それをただ見ていただけのなのは。

「なのは、一体どうしたのさ?」

「・・・・・・」

「なのは!」

「あ、ご、ごめん。 ユーノ君」

結局なのはとユーノは目の前でジュエルシードをトシアキに奪われ、その日を終えてしまった。

トシアキの言っていた言葉を考えながら、なのはは帰路に着いたのである。



~おまけ~


帰宅したトシアキはフェイトとアルフがまだ帰っていないことに気づいた。

「あれ? まだ帰ってないのか・・・・・・久遠~~」

「くぅ?」

子狐の姿で出迎えてくれた久遠を抱き上げ、リビングに向かうトシアキ。

「久遠、口にクリーム付いてんぞ・・・」

「く!?」

久遠についているクリームを拭ってやり、リビングに入ってトシアキが見たものは、食べかけのシュークリームと床に落ちている白いワンピース、そして麦わら帽子だった。

「・・・・・・久遠、人間の姿になってくれ」

床に久遠を降ろしたトシアキはそう言って眺める。

「トシアキ、これでいい?」

久遠は巫女服を着た可愛い少女の姿になった。

「そう! それだよ! すっかり忘れてたけど、服を買ったときに着ていた巫女服はどうしたんだよ?」

「これは久遠の力でつくる。 だから、久遠から離れると消える」

「そ、そうだったのか・・・・・・じゃあ、ほかの服にもなるのか?」

「うん。 でも、細かく考えないとできない」

「細かいイメージが必要ってことか? しかし、それなら服を買う必要なんてなかったのか」

嬉しそうに食べかけのシュークリームを頬張る久遠を見ていたトシアキはふと、そんなことを思った。

「くぅ?」

そんなトシアキの視線に気づいたのか、再び頬にクリームをつけた久遠が振り返る。

「なんでもないよ。 それより、何度も頬にクリームをつけるな」

「く! くぅん・・・」

そばにきたトシアキにクリームを拭いとられた久遠。

「それより、もう許してくれるか?」

「うん、トシアキだから特別」

「ははは・・・・・・ありがとな」

トシアキは微笑みながら久遠の頭を撫でる。

それを嬉しそうに受け入れる久遠。

そこには微笑ましい、いつもの二人の姿があった。



~~あとがき~~


ようやく書けました!
待っていてくれた皆様お待たせして申し訳ありません。
といっても、話はあんまり進んでいないように感じられますが・・・
次回は管理局が登場!
今回でも出そうと考えたんですが、余計な内容ばかり書き、話を繋ぐことが不可能にorz

次回の更新もなるべくはやくしたいと思いますので、応援お願いいたします。
それではまた、次の八話でお会いしましょう!




[9239] 第八話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/08/27 01:56
早朝の高町家。

なのはは一人、誰もいない静かな道場で考え事をしていた。

「あれ? なのは?」

「あっ、お姉ちゃん」

そこにいつものランニングを終えた美由希が姿を見せた。

「どうしたの? 今日は早起きだね」

「うん、ちょっと目が覚めちゃって」

「そうなんだ」

頷いた美由希は壁に掛けてある木刀を二本取り出す。

「あれ? お兄ちゃんは?」

「今日は父さんと一緒に少し遠くまで走りに行ってる」

「あの・・・・・・」

何か言いたそうななのはの気配を感じたのか、振り返る美由希。

「お姉ちゃんの練習、お邪魔じゃなかったら見ててもいい?」

「ははは・・・・・・あんまり面白いものじゃないと思うけど・・・・・・」

そう言いながら持った木刀を手元で器用に回し、逆手に構える。

「それでもよかったら、いいよ」

「うん。 ありがとう」

美由希が一人、練習している様子を道場の隅で、正座をしながら眺めているなのは。

≪なのは?≫

≪ユーノ君≫

そんななのはのもとにユーノからの念話が届いた。

≪どうしたの? こんな朝はやくから≫

≪うん、ちょっと目が覚めちゃって。 それでねユーノ君、私考えたんだけど・・・≫

なのはは視線を落としながらユーノと念話で話している。

≪フェイトちゃんやトシアキさんのことが気になるの≫

≪気になる?≫

≪うん。 きっと、理由があると思うんだ。 ジュエルシードを集めている理由。 だから私、二人と話がしたい≫

そう念話でユーノに伝えると同時に美由希の一人稽古が終った。

「すごいね、お姉ちゃん」

「ねぇ、なのは。 なにか悩んでるなら言いなよ? 私も恭ちゃんも力になるからさ」

稽古中、なのはが俯いて考え込んでいるのを美由希はしっかりと見ていたのである。

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

「・・・・・・・・・そっか。 ならもう言わない。 でも、何かあったら言うんだよ?」

「うん、ありがとう」

二人の会話はそこで終了し、美由希は帰ってきた恭也と士郎と共に稽古を始め、なのはは三人の邪魔にならないようにそっと道場から出て行った。

そして、いつものように学校へ向かうバスに乗るなのは。

「あっ、なのはちゃん」

「すずかちゃん、アリサちゃんおはよう」

「おはよう、なのは」

バスに乗り、いつもの座席に座るすずかとアリサの姿を見て、なのはは思わず声をだした。

「あっ・・・・・・」

「どうしたの、なのはちゃん?」

「なに? あたしの顔を見て・・・・・・なにか付いてる?」

そう、アリサの顔を見て思い出したなのはだが、トシアキの姿を見かけたら連絡するように頼まれていたのであった。

「えっとね、アリサちゃん、怒らないで聞いてほしいんだけど・・・」

「一体どうしたのよ? なのはらしくないわね」

「実は昨日、トシアキさんに会ったの。 連絡忘れててゴメンね」

トシアキの名前を聞いた途端、アリサはなのはの両頬をつまんで引っ張った。

「ど・う・し・て・わ・す・れ・る・の・よ!」

「ふぇい、ほへんなさい・・・・・・」

「アリサちゃん、落ち着いて。 なのはちゃんの顔がすごいことになってるよ」

慌ててすずかが止めたが、なのはほ頬を少し赤くなっている。

「それで、どこで会ったの?」

「う、うん。 『翠屋』でお皿洗いのお手伝いしてたの」

「「・・・・・・」」

さすがにトシアキが皿洗いをしていたとは想像できなかったのか、アリサもすずかも思わず黙ってしまった。

「それでね、エプロンがとっても似合ってたの」

「そ、そうなんだ」

すずかは苦笑しながら相槌をうつ。

「トシアキと話はしたの?」

「うん、少しだけ。 だけど、携帯電話を持ってないって言ってたから生活に困ってると思うよ」

「そう・・・・・・」

それっきり黙ってしまったアリサを心配そう見つめるすずか。

なのはもトシアキに魔法で攻撃されたとは言えないので、ただ黙って学校に到着するのを待っていた。



***



フェイトとアルフが帰ってきたことに気づいたトシアキは玄関まで迎えに行った。

「よう、フェイト、アルフ。 おかえ・・・・・・」

「ただいま兄さん。 ごめんなさい、少し休むね」

「あぁ・・・」

出迎えたトシアキの横を通って、自分の部屋に入っていくフェイト。

ドアが閉まるのを確認してからトシアキはアルフに尋ねる。

「おい、アルフ。 フェイトのあの傷は・・・・・・」

「・・・・・・」

無言でトシアキの横を通ろうとするアルフの腕つかむ。

「おい! 聞いてんのか!?」

「・・・・・・聞いてるよ。 あの傷は、フェイトの母親につけられたのさ」

「っ!?」

アルフの言葉にトシアキは驚き、掴んでいた腕を離す。

「たった四つしか手に入れられなかったのかって、鞭で何度も・・・・・・」

「・・・・・・」

「フェイトは今日の夕方からまた探しに行くって。 ねぇ、トシアキ。 あんたも力を貸してやってくれよ」

今度は逆にアルフがトシアキの腕を掴んでそう言う。

「あぁ、わかってる。 これをフェイトに渡してやってくれ」

そう言ってトシアキはポケットに入れていたジュエルシードをアルフに渡す。

「トシアキ、これ・・・・・・」

「昨日、お前たちが出て行ったあとに久遠と街にいってな。 そのときに見つけた」

そのまま玄関で靴をはくトシアキ。

「俺はこのまま探しに行く。 アルフはフェイトについていてやれ」

「トシアキ・・・・・・・・・・・・わかったよ」

「じゃあ、行ってくる」

そうしてトシアキは外に飛び出して行った。

「頼んだよ、トシアキ」

静かに呟いたアルフの声は風の精霊のおかげでトシアキも確認することができた。

外に出たトシアキはまず、そのまま屋上へ向かう。

「我が身の周りに集まりし光の精霊よ。 この身を他者の意識から消し去りたまえ」

屋上でそう呟いたトシアキはそのまま風の力で空に飛び上がった。

昼間の人通りが多い中、空を飛んでいるトシアキ。

だが、誰も上空にいるトシアキには気づかない。

「フェイトにあんな傷を・・・・・・フェイトの母親は何を考えてるんだ」

そう呟いたトシアキの脳裏に一瞬、自分の妹と母親の姿が浮かび上がる。

「っく!」

幼いころからトシアキは高位の魔法を簡単に使えた。

そんなトシアキを両親はよく褒めてくれたが、妹は違った。

『なぜ兄のようにできない? 兄はもっと凄かった。 お前は私の子じゃ・・・』

そんな言葉を母親が妹に何度もいいながら頬を打つ姿を見てしまったのだ。

「・・・・・・」

それからトシアキは自分の住んでいる環境が嫌いになり、その世界にたまたま『歪み』の調整に来ていたゲンジとともに異世界への旅に出たのだ。

「アキ、元気にしてるかな」

今頃、トシアキの世界では第一皇子である自分がいなくなったため、妹があとを継いでいるであろう。

「けど、久遠がアキを知ってるって言ってたなぁ」

王女となる人物がそう簡単に異世界に行くことはできないはずだ。

しかし、久遠が嘘を言うとも考えられないトシアキは頭を乱暴にかきむしった。

「あぁ!! わからねぇ。 考えるだけ、無駄だな」

そう結論付けたトシアキは残りのジュエルシードを探すため、そちらに集中することにした。

トシアキが出て行ってから時間がかなりたったあと、フェイトが出かける準備をしていた。

「・・・・・・」

「ねぇ、フェイト。 今日は休んだら?」

もくもくと準備をするフェイトにアルフはそう呼びかける。

「大丈夫。 早くジュエルシードを集めて、母さんを安心させたいから」

「そうは言っても、その怪我じゃあ、心配だよ」

「私は大丈夫。 兄さんにも負担をかけたくないから。 バルディッシュ」

フェイトはバリアジャケットを装着し、黒いマントを羽織った。

「行こう、アルフ」

「わかった。 フェイトがそういうなら」

「うん、ありがとう」

二人が玄関から出て行こうとすると、久遠がそばに寄ってきた。

「くぅん」

「ん、お前のご主人様は私が連れてくるから心配しないで」

「そうだよ。 トシアキはあたしたちが連れてくるから留守番してな」

久遠はその場に座り、ジッとフェイトとアルフを見つめる。

「・・・・・・」

「行ってくるね」

「それじゃあね」

そんな久遠を数秒見つめて、フェイトとアルフは出て行った。

「くぅん・・・」

久遠は三人が無事に帰ってくることを思いながら玄関でジッと帰りを待っているようだ。

外に出たフェイトは屋上で魔力探索を行っていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

アルフもご主人様の行為を邪魔しないためにそばで静かに佇んでいる。

「もうすぐ発動する子が近くにいる・・・・・・」

「感じるね、あたしにもわかるよ」

フェイトとアルフは気配を感じて、その方向へ飛び去った。

その同時刻。

なのはが学校を終え、バスから降りたとき、魔力の気配を感じた。

「展開!」

なのはを迎えに近くまで来ていたユーノはすぐさま、結界を展開する。

あたりに人の気配がなくなり、なのははバリアジャケットを装備する。

「行こう、ユーノ君!」

ユーノを肩にのせ、なのははジュエルシードが発動した場所へ向かう。

「フオオオオオオ!!」

そこには木の化け物がいた。

おそらく、発動したジュエルシードが木に取り付いたのだろう。

「っ!」

なのはは化け物に対し、レイジングハートを突き付ける。

その時、反対側から黄色い魔法の光が化け物に襲いかかった。

「フオオオオオ!!」

しかし、化け物もなかなか手ごわく、シールドを張って防ぐ。

「ふ~ん、今回のは生意気にバリアまで張るのかい」

「うん、今までより、強いね。 それに、あの子もいる」

なのはの反対側から攻撃を仕掛けたのはフェイトであった。

「あっ!?」

「フオオオオオオオオ!?」

なのはがフェイトに気づいたのと木の化け物が攻撃を仕掛けるのが同時であった。

「ユーノ君、逃げて!」

木の根がコンクリートを破壊して外に出現し、なのはとユーノに襲いかかる。

ユーノはすぐさま後方へ避難し、なのははそこから上空へ飛び立つ。

「アークセイバー! いくよ、バルディッシュ」

フェイトが放った黄色い刃が化け物の根をことごとく切断していく。

「いくよ、レイジングハート!」

上空からレイジングハートを木の化け物に向けるなのは。

「打ち抜いて! ディバイン・・・バスター!!」

強大な、なのはのピンクの魔法が化け物を上から攻撃する。

「フオオオオ!」

フェイトも陸から手で魔法陣を描き、化け物を攻撃する。

「貫け! 強雷!」

陸と上空からの魔法の攻撃に木の化け物はそのまま消滅した。

「フオオォォ!?」

そして、その場に浮かび上がる青く輝くジュエルシード。

「ジュエルシード、シリアルⅦ!」

「封印!」

なのはとフェイトの言葉でジュエルシードはその場で漂う。

「ジュエルシードには衝撃を与えたらいけないみたいだ」

「うん、そうみたいだね」

そうして、二人はジュエルシードが浮いている高さと同じ位置に着く。

「だけど、譲れないから」

フェイトがそう言って構える。

「私はフェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど・・・・・・私が勝ったらお話聞いてくれる?」

「・・・・・・」

なのはの言葉にコクリとうなずくフェイト。

そして、二人の持つデバイスがぶつかり合おうとした瞬間、二人の間に青い閃光が現れた。

「「!?」」

なのはのレイジングハートを片手で止め、フェイトのバルディッシュをデバイスで止め、そうして二人の間に少年が現れたのである。

「ストップだ! ここでの戦闘は危険すぎる。 時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。 詳しい事情を聞かせて貰おうか」

「時空管理局・・・」

なのはの行動を見守っていたユーノがクロノの出現にそう呟いた。

「まずは二人とも武器を引くんだ」

三人はそのままゆっくりと地面に降り立つ。

「このままここで戦闘を続けるなら・・・・・・」

クロノがそう言ったとき、上空からフェイトを見守っていたアルフがクロノに攻撃を開始した。

「フェイト、撤退するよ。 離れて」

アルフの攻撃をシールドで防ぐクロノ。

その隙にフェイトは上空に浮かんだままのジュエルシードを手にしようと手を伸ばす。

そこに青い魔法がフェイトとジュエルシードの間に放たれる。

「きゃっ!?」

弾かれるような感じでフェイトはそのまま地上に落下する。

「フェイト!?」

「フェイトちゃん!!」

アルフが急いでフェイトの下に行き、クッション代わりになってフェイトを受け止める。

「・・・・・・」

「ダメ!」

再びフェイト向けて魔法を放とうとしたクロノの前になのはが立ちふさがる。

「なっ!?」

「やめて! 撃たないで!」

そんななのはに気を取られているクロノをよそに、アルフは背中に乗っているフェイトに話しかける。

「逃げるよ、フェイト。 しっかりつかまって!」

「はぁ・・・はぁ・・・」

頬を赤くして呼吸が荒いフェイトはうなずくので必至ようだ。

「あっ! 逃がす・・・・・・ぐはっ!?」

逃げようとするフェイトとアルフを見たクロノがそう言おうとしたとき、何かに叩きつけられ、地面に落とされた。

「きゃっ!?」

下にいたなのはのそばにクロノは落ち、二人で上空を見上げた。

「っ・・・・・・あなたは」

「トシアキさん!」

上空で浮かんでいるジュエルシードを手にしたトシアキは蹴り落としたクロノを睨みつけた。

「てめぇ、人の義妹になんてことしてくれたんだ」

「な、なにを・・・」

「こいつは俺が貰う」

手にしたジュエルシードをこちらを見上げていたアルフのもとへ降りて手渡す。

「トシアキ、あんた・・・・・・」

「それを先に持って帰ってろ。 あとをつけられないようにな」

「わ、わかったよ」

「兄さん・・・・・・」

アルフの上で弱々しく呟くフェイトの頭をトシアキはそっと撫でてやり、アルフに行けと視線を送る。

「心配するな。 ゆっくり休め」

「行くよ、フェイト」

「兄さん!!」

アルフはフェイトを乗せたままその場から去って行った。

「さて、待たせたみたいだな」

「・・・・・・」

振り返ったトシアキが見たものはこちらにデバイスを突き付け、敵意をむき出しにしているクロノであった。

「そんな目でみるなよ」

「・・・・・・あなたがやったことは公務執行妨害だ」

「はっ! 冗談を言うな。 俺は不審な男に攻撃されていた可愛い義妹を助けただけだぜ? お前の職業を俺が聞いたわけじゃないんでね。 公務かどうかもわからん」

そう言ってポケットに手を入れて不適に笑うトシアキ。

「ふざけたことを!」

「ふざけてるのはお前だろ? 一体、何様のつもりだ? さぁて、これ以上話しても無駄みたいだし、殺りあおうか!」

トシアキの背後に赤い火の玉が無数に現れる。

それと同時にクロノに向かって走り出す。

走るといっても風の力を使っているので通常の人間より遙かに早い。

「なっ!?」

あまりの早さにクロノが驚いていると、右側からトシアキの強烈な攻撃が放たれる。

しかし、とっさの判断でシールドを張って防ぐクロノ。

「・・・爆ぜろ」

トシアキの拳の先端が爆発し、クロノのシールドを破る。

「そ、そんなバカな!」

「終わりだ」

トシアキの背後に出現していた赤い火の玉がその言葉を合図にクロノに一斉に向かっていく。

「くっ! うわぁぁぁ!!」

最初の数発は避けていたが、なにせ数が多い。

避けきれず、赤い火の玉の集中攻撃を食らったクロノ。

そして、巻き上がる砂塵。

砂塵が風でながされ、そこにいたのは傷だらけで倒れているクロノと無傷でそのクロノを見降ろしているトシアキであった。

「・・・・・・ト、トシアキさん」

少し離れていたところで見守っていたなのはが、トシアキの名前を呼ぶ。

「・・・・・・なのはか」

「どうしてこんなことを・・・」

「俺はフェイトの仕返しをしただけだ。 他意はない」

そうしてなのはとトシアキが会話している間にユーノが立ち、トシアキを睨みつける。

「・・・・・・」

「なんだ? お前も俺と殺りあうのか?」

「・・・・・・なのはは傷つけさせない」

「ユーノ君・・・・・・」

なのはを守るように立つフェレットを見て、トシアキは笑い出した。

「はははっ!!」

「な、なにがおかしい!」

「俺と殺りあうのなら元の姿に戻れよ。 そのままじゃ即死だぞ?」

「!?」

今度はトシアキの背後に無数の尖った氷が現れた。

「さて、準備は・・・・・・」

「ダメぇ!!」

トシアキの言葉を遮ってなのはが涙を浮かべながら叫ぶ。

「なのは・・・・」

「そんなことしたらダメなの!」

涙目のなのはとしばらく見つめあっていたトシアキだが、小さなため息を吐くと後ろに浮かぶ氷を消した。

「・・・・・・わかったよ、なのは」

「トシアキさん・・・・・・」

「少しいいかしら」

トシアキの怒りが落ち着いたとき、空間に突然、女性の映像が現れた。

「誰だ、てめぇ?」

「ト、トシアキさん、落ち着いて」

「あら、ごめんなさい。 私は時空管理局のアースラという船で艦長を務めているリンディ・ハラオウンよ」

「時空管理局だと?」

その単語を聞いてトシアキが再び機嫌を悪くした。

「えぇ、それで少し事情を聴きたいからこちらの船まで来てくれないかしら?」

「ふざけるな。 聴きたいことがあるならてめぇが来い!」

「トシアキさん・・・・・・」

なのはは怯えながら、トシアキの服を少し掴んだ。

「放せ、なのは。 俺は帰る」

「そ、そんなこと言わずになのはと一緒にいて欲しいの」

「・・・・・・わかったよ。 なのはには恩もあるしな。 今回だけだぞ」

そう言ってトシアキはリンディに話しかける。

「いいぜ、行ってやる。 変なことしたらどうなっても知らないからな」

「・・・・・・肝に銘じておくわ」

「で、俺たちはどうすればいい?」

「そこからこちらに転移させるから、そこにいて頂戴」

その言葉を聞いてユーノはなのはの肩に飛び乗る。

「それから、そこにいるクロノも連れて来てくれるかしら?」

「そっちで転送させろよ」

「二度も使うとエネルギーが無駄になるのよ」

「ちっ」

軽く舌打ちをして、クロノを担ぎ、なのはのそばまで戻るトシアキ。

そして、足元が光ると同時にトシアキたちの姿がその場からかき消えたのであった。



~おまけ~


アースラの艦内でリンディはクロノとトシアキの戦闘を見ていた。

「・・・・・・すごいわね。 彼、魔法を使っていないんでしょ?」

「はい。 こちらの機械では魔力が反応しませんから、おそらく身体能力だけなのでしょう」

オペレーターの女性もただ、驚くばかりだ。

「分析できる?」

「やってみます」

分析をしているあいだ、画面に視線を戻したリンディ。

「えっ!? これは爆発? 魔法を使っている形跡は?」

「確認できません」

「そんな・・・・・・じゃあ、この爆発は一体・・・・・・」

「艦長! 分析終わりました」

オペレーターが声をあげて、モニターを指す。

「あれを見てください」

そこにはトシアキの能力が映し出されていた。

「魔法の適正がないのね。 でも、戦闘力は高いわ」

「詳しく調べないとわかりませんが、この数値も信頼できます」

「そうね。 クロノはうまくやってくれるかしら・・・」

「艦長!」

リンディがそう呟いたとき、ほかの職員に呼ばれモニターを見た。

「・・・・・・」

「嘘・・・」

そこには無傷で立っているトシアキと、傷だらけで倒れているクロノが映し出されていた。

「・・・・・・参ったわね。 今回の仕事は大変なことになりそうよ」

館長席へ戻りながら小さくそう呟いたリンディであった。



~~あとがき~~


どうも、久しぶりの感想の書き込みにうれしくなって続きを書いたT&Gです。
べ、べつに今日一日暇だったわけじゃないんだからね!

さて、管理局も登場しましたが、今回はどうだったでしょうか?
今までにないくらい戦闘シーンを書きましたが、正直、自分の国語力のなさに落ち込む私です。
そんな今回の作品ですが、楽しんで頂けたら嬉しく思います。

それでは次回、九話でお会いしましょう。 
(ちなみに次はそんなに早い更新ではないと思いますw)




[9239] 第九話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 21:44
光が収まると、先ほどまでいた海鳴の街ではなく、巨大な部屋の中にいた。

「ここ、どこだ?」

トシアキたちが出てきた場所の後ろには巨大な魔法陣が描かれており、おそらくその魔法陣の力によってここに連れてこられたのだろう。

「ユーノ君、ここは一体・・・・・・」

「時空管理局の次元航行船の中だね。 えっと、簡単に言うと、いくつもある世界を自由に行き来するための船」

「あ、あんまり簡単じゃないかも・・・・・・」

ユーノの説明に苦笑しながら首をかしげるなのは。

そこに気を失っているクロノを担いだトシアキがやってきた。

「この船があれば、どこの世界にも行けるってことだよな?」

「まぁ、そう言うことですね」

「にゃあ~。 よくわかんない」

トシアキとユーノの会話でますます意味が分からなくなっていくなのはであった。

「それより、早く元の姿に戻れよ。 動物と会話してると気分が悪くなってくる。 せめて人の姿になれ」

「そ、そうですか。 僕もずっとこのままの姿だったので忘れてたんですが・・・・・・」

言いながら、フェレット姿のユーノの体が光に包まれていく。

「・・・・・・へっ?」

その様子をそばで見ていたなのはは素っ頓狂な声をあげた。

「ふぅ・・・・・・なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな?」

「へっ、えっ、あ、ふぇ、ふぇぇぇぇ!!!?」

人間の姿になったユーノを見て、なのはは驚いて大声で叫んだ。

「なのは?」

「ユーノ君って、ユーノ君って!! あの、その・・・・・・なにっ!?」

「お前たちの間で何か見解の相違でもあったのか?」

なのはのあまりの取り乱している様子にトシアキが横から口を挟む。

「えっと、その・・・・・・」

「ト、トシアキさんは知ってたんですか!?」

「あぁ、魔力の流れ方が動物とは違ったからな。 大体の予想はしてた」

トシアキがそう言うと、ユーノはなのはに向かって尋ねた。

「な、なのは。 僕たちが最初に会ったときってこの姿じゃなかった?」

「違う、違う! 最初からフェレットだったよぉ~」

「う~ん・・・・・・・・・・・・あっ!?」

しばらく考えていたユーノだが、思い出したように声をあげた。

「ふむ。 姿を隠して可愛らしい少女に近づくとは、なんてサイテーな奴だ」

「えっ!? ちがっ・・・・・・ぼ、僕はそんなつもりじゃ・・・・・・」

トシアキの冗談にも動揺し、顔を赤くしながら必死に言い訳を始めるユーノ。

「と、とにかくごめん! なのは、その・・・・・・怒ってる?」

「う、ううん。 ちょっとビックリしただけだから大丈夫だよ」

なのはも段々落ち着いてきたところで、トシアキが話を進める。

「さて、ここに来たのはいいが、案内が誰もいないとはどういうことだ?」

「そ、そう言えばそうですね。 どこに行けばいいのか・・・・・・」

話の内容が変わったので、幸いにとトシアキの言葉に頷くユーノ。

「じゃあ、こいつに聞くか」

担いでいたクロノを床に放り投げるトシアキ。

「ト、トシアキさん、あんまり乱暴にしちゃダメです」

「・・・・・・わかったよ。 おい、ユーノとやら、お前が起こせ」

「ぼ、僕がですか?」

突然、トシアキに名指しされたユーノは驚いてトシアキを見る。

「俺がやると間違っていろいろと体の一部を切断してしまいそうだからな」

「あなたは一体どんな起こし方をしようとしてるんですか・・・・・・」

そう言いながら、仕方がないといった様子でクロノを起こすユーノ。

「うっ!? こ、ここは・・・・・・」

「目が覚めたかい?」

「君は? はっ!? 確か僕はあの男に・・・・・・」

目が覚めたらしいクロノはあたりを見渡す。

「お、お前は!?」

「ん? 起きたのか」

あたりを見渡したクロノは腕を組んで佇んでいるトシアキの姿を発見した。

「・・・・・・おいおい、何の冗談だ?」

トシアキを発見したクロノはすぐさま、自分のデバイスをトシアキに向ける。

「あなたは危険だ。 ここで拘束する」

「さっき負けたお前ができると思ってんのか?」

そう言いながらも、嬉しそうに微笑むトシアキ。

どうやら、再び戦えることが嬉しいようだ。

「あ、あの・・・・・・」

「ど、どうしよう、ユーノ君」

そんな状態のクロノとトシアキを見て、ユーノとなのはも困惑していた。

「やめなさい、クロノ」

「「「!?」」」

「やっと来たか」

突然の声に驚く年少組三人と、誰かが来ることを予想していたトシアキ。

その声の主はリンディ・ハラオウン艦長その人であった。

「か、艦長!?」

「クロノ、この人たちは私が呼んだの。 いいから武器をしまいなさい」

「で、ですが艦長・・・・・・」

それでも渋るクロノにリンディは命令した。

「クロノ・ハラオウン執務官、これは命令です」

「っ!?」

リンディの言葉でようやくデバイスをしまい、バリアジャケットを解除して管理局の普段着へと戻る。

「あなたもデバイスを解除しても平気よ?」

「あ、はい。 それじゃ・・・・・・」

なのはもバリアジャケットを解除して聖祥小学校の制服姿に戻った。

「・・・・・・なのはも本当に良い奴だよなぁ」

リンディの言葉に素直に従いって戦闘モードを解除したなのはを見て、トシアキは小さい声でそう呟いた。

「それじゃあ、私のあとについて来てくれるかしら? お話を聞かせて欲しいの」

「ユ、ユーノ君・・・・・・」

リンディの言葉に不安そうにユーノを見るなのは。

「大丈夫、管理局の人は親切でいい人たちだから」

「あなたも・・・・・・いいかしら?」

ユーノがなのはの不安を取り除いている横で、リンディはトシアキに話しかける。

「俺はなのはについてきただけだからな。 なのはがいいならいいさ」

「そう・・・・・・」

そうして、三人はリンディの後をついていき、ひとつの部屋に入った。

「あっ・・・・・・」

ドアが開いてなのはたちが見たものは壁際に置かれた盆栽と六畳の畳に置かれている御茶の道具だった。

「・・・・・・なんで、この部屋にこんなものがあるんだよ」

思わず頭を抱えてそう呟いてしまったトシアキであった。

五人分のお茶を用意したクロノ。

そして、それぞれの事情を話すなのはとユーノ。

トシアキは出されたお茶に手もつけず、ただ黙ってなのはたちの言葉を聞いていた。

「・・・・・・なるほど、そうですか。 あのロストロギア・・・ジュエルシードを発掘したのはあなただったのですね」

「はい。 それで、僕が回収しようと・・・・・・」

自分の所為でこうなったことを後悔して俯きながらそう言ったユーノ。

「立派だわ」

「だが、同時に無謀でもある」

クロノにそう言われ、さらに俯いてしまうユーノ。

それを見かねたなのはが、話題を変えるために質問をした。

「あの・・・・・・ロストロギアってなんですか?」

「簡単に言うと、文明が進化し過ぎて滅んでしまった世界の技術の遺産ってとこかしら」

「それらを総称して、ロストロギアと呼んでいる」

それからしばらくクロノが、ロストロギアがどれほど危険な物かを説明していたが、トシアキは別のことを考えていた。

(ってことは、あれが今回の『歪み』の原因なのか?)

視線をリンディたちに向け、さらに考えるトシアキ。

(あれを全て片付けたら、ゲンジが来られなくなるんじゃ・・・)

「「あっ・・・」」

リンディのほうを見ていたトシアキだが、お茶に角砂糖を入れているのを見て思わず声をだし、同じくその様子を見ていたなのはの声と重なってしまった。

「二人とも、どうかしたの?」

「な、なんでもないです」

「別に・・・・・・」

リンディの言葉になのはは慌てながら、トシアキはぶっきらぼうにそれぞれ答えた。

「そう。 ところで、あなたの事情は?」

角砂糖の入れたお茶を飲みながらトシアキに視線を向けるリンディ。

「話す必要があるのか?」

「一応、事情を聞いておきたいのだけれど」

「悪いが俺はなのはの付き添いできただけだ。 自分のことで話すことは何もない」

そう言ったトシアキに、今まで黙っていたクロノが口を開いた。

「そうはいかない。 あなたはジュエルシードを手にし、それを黒衣の魔導師に手渡している。 無関係とは言わせないぞ」

「俺は義妹が突然現れた変な奴から救い出し、義妹が集めていた青い宝石を渡しただけだぜ?」

不適に微笑みながらトシアキは言った。

まるで今の状況を楽しんでいるかの様だ。

「ふざけるなっ! そんな言い訳が通用すると思っているのか!?」

「ふざけてるのはお前らだろ? 突然現れて、公務執行妨害だとか、ロストロギアは危険だとか、正義の味方のつもりか?」

「なんだと!?」

今にもトシアキに掴みかかりそうなクロノをユーノが抑え、魔法を使いそうなトシアキの腕をなのはがしっかりと押さえこんでいた。

「・・・・・・そうね。 突然こんなことを言っても信じてもらえないわね」

「か、艦長!?」

「でも、あなたは一体何者なの? あんな魔法、見たことないわ」

リンディの言葉にクロノは落ち着き、それを見たトシアキを戦闘状態を解除する。

抑えていたユーノとなのははホッと息を吐いた。

「まぁ、少しならいいか。 俺は敷島トシアキ、ただの魔法使いだ」

「シキシマ?」

クロノがトシアキの名前を聞いて、もう一度その名を呟く。

「俺の名前に文句があるのか?」

「いや、ただの偶然だな」

「・・・・・・無視か、てめぇ」

トシアキが再び魔法を使おうとしている両腕を今度はなのはとユーノが必至に抑える。

「放せ! このガキを一度殺す!」

「お、落ち着いてください敷島さん!」

「そうなの。 戦っちゃダメなの!」

三人で絡み合っている様子を見て、リンディが微笑みながらお茶を飲む。

「あなたたち、仲がいいのね」

それからしばらくして、トシアキが落ち着いたところでリンディが本題に入る。

「これより、ロストロギア・・・ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

「「えっ?」」

リンディの言葉になのはとユーノが顔を見合す。

「君たちは今回のことを忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

「でも、そんな・・・・・・」

ユーノは仕方ないといった様子で黙って頷く。

なのはは納得がいかないのか、言葉を紡ぎだそうとした。

「次元干渉にかかわる事件だ。 民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」

「でもっ!」

クロノの言葉にさらに食いついていこうとするなのは。

「まぁ、落ち着けなのは。 元の生活に戻れるんならそれでいいじゃないか」

「トシアキさんはフェイトちゃんのことを放っておくの!?」

「彼らは専門家だ。 キチンと解決してくれるさ。 少し、俺たちと常識や価値観が違うみたいだが」

なのはの頭に手を乗せ、宥めながらそう言ったトシアキ。

「・・・・・・どういう意味ですか?」

トシアキの最後の言葉が気になったのか、怒気を発しながらクロノが尋ねる。

「説明もしないで公務執行妨害とか、事情を聴きたいからここに来いとか、どれだけ時空管理局は偉いんだよってことだよ」

「・・・・・・そうね。 確かにそのことに関してはこちらに非があるわ」

「まぁ、今更どうでもいいけどな」

「・・・・・・今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてお話をしましょ?」

トシアキから視線を外し、なのはに向けてそう言ったリンディ。

「・・・・・・はい」

「送っていこう。 元の場所でいいね」

なのはの返事を聞いてから、クロノが立ち上がって歩きだした。

「ほら、行くぞ。 なのは、ユーノ」

トシアキもさっさとこんな場所にいたくないのか、すでに歩き出したクロノの後ろについていた。

「あっ、今行きます」

「・・・・・・」

慌ててそれを追いかけるユーノと無言のままついて行くなのは。

それから三人はもといた海鳴臨海公園へ戻ってきた。

「さて、帰るかな。 じゃあ、またな。 なのは、それとイタチ少年」

「僕はイタチじゃありません!」

そう言い残して、トシアキは夕焼けで赤く染まっている空へ飛んで行った。

トシアキが見えなくなるまで見送ったなのはとユーノ。

「・・・・・・とりあえず、帰ろっか」

「・・・・・・うん」

「えっと・・・・・・同い年くらい?」

夕焼け空を眺めながら、ユーノにそう尋ねるなのは。

「あ、うん。 たぶん・・・・・・」

「そっか・・・・・・」

二人の間で再び沈黙のときが流れる。

「えっと・・・・・・普段はこっちの方が便利そうだから」

そう言ってユーノは人間の姿からフェレットの姿になる。

「うん、そうだね。 晩御飯食べてゆっくり考えよ、これからどうするか・・・・・・」

なのははフェレット姿のユーノを肩にのせ、帰路についた。



***



なのはたちが帰ったあとのアースラではなのはとフェイトの戦闘を分析していた。

「すごいや、どっちもAAAクラスの魔導師だよ」

「あぁ・・・・・・」

「こっちの白い服の子はクロノ君の好みっぽい可愛い子だし」

手元のキーボードをたたきながらそう言ったのはエイミィという名の執務官補佐でクロノの幼馴染でもある。

「エイミィ、そんなことはどうでもいいんだよ」

「魔力の平均値で見ても、二人ともクロノ君以上だね」

「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。 状況に合わせた応用力と適格に使用できる判断力が重要なんだ」

少し怒った様子でクロノが言い放つ。

「そりゃあ、勿論。 信頼してるよ? アースラの切り札だもん。 クロノ君は」

そんなクロノの拗ねている様子を見て微笑みながら、エイミィはそう答えた。

「それに、この男・・・・・・一体、どんな魔法をつかっているんだ?」

「う~ん、それがね。 魔力ランクはEなの。 戦闘だけで見るとSランクくらいかな」

「Sランク!?」

トシアキの戦闘映像を見ていたクロノが、エイミィの言葉に驚きの声を上げた。

「うん。 でも、この人がなんらかの力をつかっていたとしても、ここの装置じゃ確認できないみたいなの」

「なるほど。 Sランクと言っても身体能力だけじゃないかもってことだな」

「本局に戻ったら何かわかるかもしれないけどね」

そう二人で会話していると、後ろからリンディが現れた。

「あっ、艦長」

「あぁ、三人のデータを見ているのね」

二人が見ていたものを見て、リンディは納得したように頷いた。

「確かに、凄い子たちね。 なのはさんとユーノさんがジュエルシードを集めている理由は分かったけれど、こっちの女の子――フェイトさんと敷島さんが集めているのは何故かしら?」

今までの戦闘映像を見ながらリンディは考え込む。

「しかし、この男は妹と言っていたので、この黒衣の魔導師と理由は同じでしょう」

「そうね。 フェイトさんはずいぶんと必至みたいだけど・・・・・・」

リンディがそう言ったとき、クロノは思い出したように顔をあげた。

「そうだ、艦長。 本局のほうへ連絡を取る許可をください」

「あら、なぜかしら?」

「あの男の名前で少し気になることが・・・・・・」

真剣な表情でいうクロノにリンディは微笑んで許可をだした。

「えぇ、許可します。 何かわかったら、私にも教えてね」

「あっ、クロノ君。 わたしにも~」

戦闘映像を分析していたエイミィもリンディの言葉に手を挙げて賛同する。

「・・・・・・別にかまわないが、君が知ってどうする?」

「ん~、なんとなく知りたいだけ」

「まったく、君ってやつは・・・・・・」

そうやり取りした後、クロノは部屋から出て行き、通信ルームへ足を運んだ。

「えっと、確か本局は・・・・・・」

慣れた動作で入力するクロノ。

「暗証番号をお願いします」

「――――だ」

「照合中・・・・・・・・・クロノ・ハラオウン執務官ですね。 要件をどうぞ」

クロノはトシアキの名前を聞いた時から気になっていた。

「アキ・シキシマ執務官に繋いでくれ」

自分の同僚にトシアキと同じ苗字があったのだ。

幼いときに管理局に入り、自分の最年少記録を塗り替えて執務官になった同僚。

「なんですか? クロノ・ハラオウン執務官。 私も忙しいのですが・・・・・・」

画面に現れたのはなのはたちと同い年くらいの少女であった。

黒くて長い髪を後ろで一つに束ねており、無表情でこちらを見ている。

「すまない。 少し聞きたいことがあってね」

「手短にお願いします」

この少女はいつも無表情で淡々と任務をこなす。

友人と話している姿や笑っている姿をクロノは見たことがなかった。

「君が元いた世界。 そこも魔法の文化があったはずだな?」

「えぇ。 と言っても、私は才能がありませんでしたので、詳しくは説明できませんが・・・・・・」

そう答えながら、画面の向こうで山積みの書類を一枚一枚丁寧に処理していく。

「そうか・・・・・・わからないか」

「お役に立てず申し訳ありません。 では、切りますね? この書類を片付けなくてはならないので・・・・・・」

通信を切ろうとするアキにクロノは待ったをかける。

「待ってくれ。 最後に一つ聞きたい」

「なんです?」

「敷島トシアキと言う名前を知っているか?」

クロノがそう言った瞬間にアキの姿が画面から消えた。

「お、おい?」

「・・・・・・そ、その名前をどこで!?」

おそらく座っていた椅子から落ちたのだろう。

画面の下から顔をだしたアキは今まで見たこともないくらい驚いた表情をしていた。

「今、地球という管理外世界に調査にきているんだが、そこでその名の男に出会った」

「そ、そうですか・・・・・・」

「知っているんだな?」

椅子に座りなおしたアキは考えるように目を閉じた。

「はい。 その人は私の兄です」

「兄?」

「そうです。 兄様は私と違って魔法の才能がありました。 しかし、ある事件から突然姿を消したのです」

目を開いたアキの真剣は表情を見て一瞬、戦ったときのトシアキが頭に浮かんだクロノ。

「そうですか。 兄様は地球にいるのですね?」

「あぁ、そうだが・・・・・・」

「では、私もそちらに向かいます」

いつもの無表情でそう言ったアキの言葉をクロノは一瞬、理解できなかった。

「・・・・・・は?」

「ですから、そちらに私も行きますと・・・・・・」

「ち、ちょっと待て! 君には仕事があるんだろ!?」

意味を理解したクロノは慌てて画面に映る書類の山を指す。

「兄様の居場所がわかれば、管理局に用などありません」

「な、なにを・・・・・・」

「私は今日限りで管理局を辞め、兄様のもとで過ごします」

そう語るアキの表情はいつもより真剣だった。

「ぼ、僕が彼を管理局に連れて行くから、君はそこで待っててくれ!」

さすがに今すぐに辞められるといろいろと厳しいのである。

ただでさえ管理局は人手が足りないのに、実力のある執務官に辞められるのは正直、冗談ではない。

「・・・・・・わかりました。 あなたがそう言うなら信じて待ってます」

「あ、あぁ。 そうしてくれ」

「ただ、私は兄様のためなら世界を滅ぼしても構わないと思ってますので、約束を守らなければ・・・・・・どうなっても知りませんよ?」

「・・・・・・・・・」

あまりの衝撃的な発言にクロノは開いていた口が塞がらなくなった。

「それでは、お待ちしていますので」

そう最後に言い残して、アキとの通信は終わった。

その後、クロノは一人で頭を抱えながらリンディとエイミィになんて話せばいいのか悩むのであった。



~おまけ~


なのはたちと別れたあとトシアキはしばらく空を飛んでいた。

「・・・・・・ちっ、嫌な感じだな」

そう悪態を吐いたトシアキはゆっくりと人目がつかないところに降りたった。

「視線が気になって仕方が・・・・・・行くか」

呟いたトシアキは今度は飛ばず、自分の足で歩き出した。

「・・・・・・」

無言で歩くトシアキ、その横には終わりのなさそうな壁が続いている。

「・・・・・・」

その壁に沿ってしばらく歩いて行くと、ようやく終わりが見えてきた。

「・・・・・・やっと、着いたか。 さすがに長すぎるだろ」

そう言いながら、大きな門についている呼び鈴をならす。

「・・・・・・はい?」

「あっ、俺・・・・・・敷島ですけど」

対応した相手に自分の名前を名乗るトシアキ。

「・・・・・・少々、お待ちください」

相手の声が途切れてからしばらくして、大きな門が自動的に開いていく。

「・・・・・・すっげぇ」

口をあけながらその様子を眺めているトシアキ。

完全に開いたところでトシアキは敷地内に足を踏み入れた。

「って、俺がこの門閉めるの?」

そう言って敷地内に入ってから振り返るトシアキ。

すると、今度も自動的に門が閉じていく。

「・・・・・・さすが、金持ち。 なんでも有りだな」

そう言いながら、今度は目の前に見える屋敷まで歩いて行くトシアキであった。

屋敷に着いたトシアキは玄関のドアを叩く。

「すいませ~ん。 敷島ですけど~」

「どうぞ、お入りください」

「すいません。 また来ちゃいました」

扉を開けてくれた執事服を着た男性に苦笑してそう言ったトシアキ。

「いえ、あなたが来てくれるとアリサお嬢様はとてもお喜びになりますよ」

「なら、いいんですけど・・・・・・また、お世話になります。 鮫島さん」

こうして、アースラから帰宅したトシアキはアリサの家に訪ねてきたのであった。

「ところで、アリサは?」

「アリサお嬢様はご友人と翠屋へ行っておられます」

「そっか、翠屋か。 あそこのケーキやシュークリームは美味しいもんなぁ」

「それが理由ではないのですが・・・・・・」

トシアキの言葉を否定するように、鮫島が小さく言葉を発する。

「えっ?」

「いえ、何でもありません。 こちらの部屋でお待ちください」

そう言って案内された部屋は最初にアリサの家に来たときに使っていた部屋であった。

「ここは・・・・・・」

「敷島様がいなくなったときのままにしてありますので・・・・・・」

「ははは・・・・・・そうですか」

そう言いながら自分が寝ていたベッドまで進んでいくトシアキ。

「それでは、失礼します」

鮫島は一礼してから部屋を出ていった。

「・・・・・・懐かしいな」

一人残ったトシアキは物思いに耽るのであった。



~~あとがき~~


さて、皆様お待ちかねの第九話です(別に待ってないかw)

今回、新たにオリキャラが登場しました。
あまり、オリキャラを出すと訳が分からなくなるので、主人公だけにしようと最初は思っていたのですが、つい書いちゃったww
これ以上は増やさないつもりなので安心(?)してください。

前回は修正だけでした。
更新したと思って見に来てくださった方には申し訳なく思います。

それでは次は第十話となります。
いよいと二桁になりますこの話。
あんまり進んでる気はしないのですが・・・
これからも書いていきますので、感想・意見などの書き込みをお待ちしてます。
それでは、また次回でお会いしましょう。



[9239] 第九.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 22:07
地球とは別の世界。

科学が発達せず、人間が自然とともに生きてきた世界。

そこでは人間が自然に住む精霊たちと過ごしている。

人間は必要以上に自然を破壊せず、過ごしている。

そして精霊は人間の力となり、人間が生きていけるように協力する。

そのような関係がずっと続いてきたため、極一部の人間は『魔法』が使えるようになっていた。

精霊を直接見ることができる人間はいなかったが、精霊の気配を感じることがこの世界の人間では当たり前になっていた。

「ぐぅ・・・・・・ぐぅ・・・・・・」

緑色の草原の上で気持ちよさそうに眠っている青年がいた。

腕を組んで枕代わりにしている青年の前髪が、心地よく吹く風でサラサラとなびいている。

「兄様~~」

そんな青年のもとに可愛らしい服を着た少女が駆け寄ってきた。

「んっ・・・・・・ぐぅ・・・・・・」

しかし、青年は目覚めることもなく、そのまま眠りについている。

「兄さ・・・・・・お休み中でしたか」

そばにきた少女は青年が眠っているのを確認すると、青年の隣に腰をおろした。

「兄様、トシアキ兄様。 起きてください」

少女は幸せそうな表情で眠る青年の茶色い一つに束ねた長髪をクスクスと笑いながら引っ張った。

「ん~~・・・・・・・・・・・・アキ?」

顔を痛みで少し引きつらせながら、ようやく青年――トシアキは目を開けた。

「はい。 トシアキ兄様の妹のアキです」

黒い長髪をトシアキと同じく後ろで束ねている少女――アキがそう言って微笑む。

「どうしたんだ? いったい・・・・・・」

「母様がお呼びです」

「母上が? 使用人に呼びに来させればいいのに、なんでわざわざアキに・・・・・・」

横になっていた身体を起し、自分の母親に悪態を吐くトシアキ。

「違うんです。 私が兄様を呼びに行きたいって言ったのです」

「・・・・・・そうか。 なら、感謝だな」

そう言うアキを見て一瞬、寂しそうな顔をしたトシアキだが、すぐに表情を戻しアキの頭を撫でてやる。

「えへへ・・・・・・」

それを嬉しそうに受け入れるアキ。

「じゃあ、行くか。 あんまり遅いと母上に怒られるだろうし」

「それでは先に帰っててください。 私は飛べませんので・・・・・・」

トシアキは生まれたときから精霊に好かれていたのか、物心がついたときには既に魔法が使えていた。

しかし、アキはトシアキとは違い魔法の才能は全くなく、七歳になった今でも空を飛ぶどころか、火を出すこともできない。

「なに言ってんだよ。 ほら、行くぞ」

「えっ、に、兄様!? きゃっ」

魔法が使えないことにコンプレックスを抱いているアキの表情を見ていられなくなったトシアキが、アキを腕に抱き抱えた。

「しっかり、掴まってろよ?」

「きゃっ!?」

アキを腕に抱えたまま大空へ飛び立つトシアキ。

そんなトシアキの胸をしっかりと掴みながら、空から見る景色に笑顔がこぼれるアキ。

「わぁ・・・・・・すごく綺麗です。 兄様」

「だろ? お前もちゃんと飛べるようになる。 だから、気にしなくていいぞ」

「はい、兄様・・・・・・」

トシアキの胸に顔をうずくめて、小さく返事をしたアキの瞳は涙で濡れていた。

街が見えてきたトシアキとアキはそのまま上空を飛んで行く。

「しかし、今日の母上の用事は何なんだろうな?」

「ごめんなさい、私が聞いておけば・・・・・・」

「いいよ。 直接聞いてみるからさ」

そう言っている間に見えていた街を通りすぎ、目の前に大きな城が見えてきた。

「さぁ、そろそろ着くぞ」

巨大な城のバルコニーに着地したトシアキはそのままアキを降ろす。

「さて、母上はどこかな?」

「おぉ! トシアキ様」

母親を探しに行こうとしたとき、城の中から声が聞こえた。

「どこへ行っておられたのですか。 そろそろ、勉強の時間ですぞ」

「えぇ~。 俺、母上に呼ばれてるんだけど・・・・・・」

「お母様はそのことでお呼びになったのです。 さぁ、行きましょう」

そう言って嫌がるトシアキを引っ張って行く教育係の男性。

「じ、じゃあな、アキ。 また、話そうぜ」

「はい。 兄様も頑張ってください」

ズルズルと引きずられて、トシアキは去って行った。

残されたアキは笑顔でトシアキを見送っていたが、それが見えなくなると途端に表情を引き締めた。

「・・・・・・」

「あら、こんなところにいたのですか?」

そんなアキのもとに派手でとても高そうな服を着た女性が現れた。

「・・・・・・母様」

「トシアキは呼びに行ったのですか?」

「はい。 今、先生と共に行かれました」

先ほどのトシアキと会話していたような笑顔は今のアキにはなく、淡々と聞かれたことを返している人形のようであった。

「あなたが魔法を使えればもっと早く呼べたものを・・・・・・」

「・・・・・・」

「あなたはこの敷島家の長女なのよ? いずれは他の国のもとに嫁ぐ立場になるのだからしっかりと魔法を勉強しなさい」

アキのことを汚いものを見るような目で母親は見ている。

「でも、母様。 私、精霊の気配がわからなくて・・・・・・」

「それでもよ! あなたはこの家の娘なのでしょ!? どうして精霊の気配がわからないの!!」

「ご、ごめんなさ・・・・・・」

母親の怒鳴り声に怯えて顔を俯かせて謝るアキの頬にビンタが打たれた。

「謝る暇があるなら努力なさい! 本当にあなたは私の娘なの!?」

「・・・・・・」

「トシアキは生まれたときには神童と言われたのにこの子はほんとうに・・・・・・」

それから母親の気が収まるまで、アキはその場で立って返事をすることもなく、ずっと罵りを受けていた。

母親の気がすみ、ようやく解放されたアキは城の屋上に来ていた。

そこからは自分たちの住む街が小さく見え、アキはここからなら飛べるような気がしたのだ。

「・・・・・・」

石で造られた塀の上に立ち、深呼吸をするアキ。

そして、足を踏み出そうとした瞬間、隣から声をかけられた。

「死ぬのか?」

「!?」

いつの間にそこにいたのだろう。

トシアキが隣の塀に寄り掛かっていた。

「に、兄様・・・・・・」

「なにかあったのか?」

優しく、しかしどこか真剣は声で尋ねたトシアキ。

「いえ、なにもありません。 ここからなら私も飛べるかと・・・・・・」

「嘘だな」

アキが最後まで言い終える前に、トシアキは言葉を挟む。

「う、嘘ではありません・・・・・・本当に・・・・・・」

「俺の目を見て言え」

塀の上に立つアキと塀に寄り掛かっているトシアキ。

今の二人の身長差はほぼないに等しい。

「「・・・・・・・・・」」

そんな二人が静かに見つめあう。

しばらくして、アキが耐えきれなくなったのか、瞳に涙が浮かび上がる。

「に、兄様・・・・・・」

そんなアキをトシアキはそっと胸に抱きしめてやった。

「私、辛いです・・・・・・母様は私を見てくれないし、他の皆だってきっと・・・・・・」

「そうか」

泣きながら辛いことをトシアキの胸の中で言った。

まだ七歳の少女に耐えられることではなかったのだろう。

「ひっく・・・・・・うっぐ・・・・」

胸の中で泣きじゃくるアキの頭をそっと撫でながらトシアキは言った。

「心配するな。 俺がなんとかしてやる。 だから、俺を信じろ」

「は、はい。 兄様を・・・・・・信じます」

トシアキに頭を撫でられて落ち着いてきたのか、うずくめていた顔を上げ、トシアキを見つめる。

「ん? なんだ?」

「えへへ・・・・・・なんでもありません」

そんな視線に気づいたトシアキもアキを見る。

アキは嬉しそうに微笑んでパッと塀から飛び降りた。

「私、頑張ります。 兄様、見ててくださいね」

「あぁ、わかった」

「えへへ・・・・・・それじゃあ・・・・・・」

「も、申し上げます!」

アキの言葉を遮って、慌てて階段を上ってきた一人の兵士が大声をあげた。

「なんだ?」

「ただいま、城下に怪物が出現。 兵士や魔法士が戦っていますが現在苦戦中とのこと」

「父上は?」

「国王様は自ら指揮をとっておられます」

「わかった。 すぐに行く」

トシアキの返事を聞いて、兵士は来たときと同じように慌てて階段を下りて行った。

「に、兄様・・・・・・」

「アキ、俺は行ってくる。 お前はこの城から出るな」

そう言うと、その場でトシアキの身体が浮き上がり、そのまま城下街の方へ飛んで行った。

「兄様・・・・・・」

飛び去ったトシアキをアキはずっと見つめていた。

城下街に向かいながらトシアキは先ほど見た光景を思い出していた。

勉強道具を持っていなかったことから取りに行く時に偶然見てしまったのだ。

「アキ・・・・・・本当は辛いはずなのにな」

頬を打たれながら自分と比較され、実の母親から罵倒を受けているアキの姿を見ていられなくなり、そのまま走り去ったアキの姿を追いかけ、屋上にまでたどり着いたのであった。

「先生には悪いことしたかなぁ。 まぁ、今の緊急事態じゃ、そう言ってもいられないけどな」

そう言っている間に城下街にたどり着いたトシアキ。

「なっ!? なんだこれは!!」

いつも人々で賑わう街がことごとく破壊されていた。

まるで、巨大な怪物に踏みつぶされたように。

「そうだ。 父上は!?」

トシアキが上空からさがすと、炎に包まれている巨大な何かを発見した。

「あそこか!」

その場所に急いで向かうトシアキ。

行く途中で、兵士や魔法士があちこちで倒れていた。

「・・・・・・」

おそらく一撃であったのだろう。

出血の量がひどくてとても助かりそうにない。

そこには身体の一部がなくなっている者もいた。

「我が身を守りし聖なる炎よ。 我が意思に従い、我らの敵を打ち滅ぼしたまえ!」

トシアキの行く先でそう言葉を発している男がいた。

言葉を発し終えると、炎に包まれていた巨大な何かがさらに大きく燃え上がった。

「父上!」

「おぉ! トシアキか」

トシアキの父親である男は大きく燃え上がるのを確認して、トシアキの方へ振り返った。

「状況は?」

「見ての通りだ。 あの化け物に街を半分以上破壊された。 犠牲者も数えきれんだろう」

「どこからやってきたのでしょうか?」

トシアキの言葉に父親は首を振る。

「わからん。 目撃情報では突然現れたと・・・・・・」

「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!?」

父親の言葉を遮って燃えていた化け物は身体を動かす。

「「なっ!?」」

燃えていた火が化け物によって消火されてしまった。

「馬鹿な!? 今のは火の系統の最大魔法だぞ!? そう簡単に消せるわけが・・・・・・」

トシアキの父親はそう言ったあと、化け物の尻尾と思われる長いなにかに弾き飛ばされた。

「ぐはっ!?」

「父上!!」

トシアキの横から一瞬で後方へ飛ばされてしまった父親。

さっきの一撃で、もはや前線復帰はできないであろう。

「くっそう! この化け物め!!」

トシアキの背後に尖った氷の槍が無数に現れる。

「いっけぇ!!」

その言葉を合図に、氷の槍は高速に回転しだし、そのまま化け物に向かって一直線に飛んでいった。

「きしゃぁぁぁ!?」

氷の槍が身体中に刺さり、そのまま後方に倒れる化け物。

「よし、あとは風の魔法で切り刻んで・・・」

今度は風の魔法を使おうと倒れた化け物の近くまで下りて行ったトシアキ。

「皆の仇、取らせてもらうぞ・・・・・・なっ!?」

風の刃を放とうとしたトシアキが見たものは、氷の槍が刺さったまま起き上がっている化け物の姿だった。

「そ、そんな。 全部あたってるのに・・・」

「それは別の世界の力に守られているからさ。 この世界の住人には倒せないよ」

トシアキが慌てて声がした方へ向くと、まだ残っていた建物の屋根に立っているメガネをかけた黒い短髪の青年がそこにはいた。

「だ、誰だ!?」

「失礼。 僕は鷹見ゲンジという。 調整者さ」

「調整・・・者?」

トシアキがゲンジと名乗った青年を見ていると、彼が動き出した。

「・・・・・・解放」

「なっ!?」

動き出したゲンジの様子はトシアキには最初しか見えなかった。

トシアキが風の魔法を使っているときよりも完全に早い。

そして、消えたように見えたゲンジが次に現れたのは化け物の上だった。

「きしゃぁぁぁぁ!!?」

奇声を発した化け物には無数の切り傷があり、そのすべてから緑色の液体が流れ出ていた。

「す、すげぇ・・・・・・」

「すまないが。 この化け物をここに固定してくれないか?」

あまりの速に驚いていたトシアキにゲンジから声が掛る。

「あ、あぁ。 わかった」

トシアキの背後に再び氷の槍が出現する。

先ほどのものとは違いひとつひとつがかなり大きい。

「はっ!!」

それを化け物も身体中に刺し、地面に貼り付け状態にした。

「こんな感じでいいか?」

「あぁ。 すまない」

そう言ったゲンジは化け物に手をあてた。

「?」

「デリート・・・・・・」

そんなゲンジを不思議そうに上空から見ていたトシアキだが、ゲンジが言葉を発した瞬間に手を当てた部分から消えていくではないか。

「おぉ!!」

「ぐぎゃぁぁぁぁ!!」

身体が消えていることがわかるのか、化け物が大声をあげて暴れようとする。

しかし、先ほどのトシアキの氷の槍が邪魔してなにもすることが出来ないまま化け物は消えてしまった。

「ふぅ。 終了」

「すっげぇな! ゲンジ。 あっ、俺は敷島。 敷島トシアキだ」

「これが僕の能力だからね・・・・・・っと」

そう言って身体をふら付かせて、そばにあった壁に手をつく。

「大丈夫か?」

「あぁ。 能力を使った反動だ。 気にしないでくれ」

「そうか。 それで、さっき言ってた調整者っていうのを教えてくれよ」

新しいおもちゃを買って貰った子供のように目をキラキラと輝かせるトシアキ。

「そうだな。 世界は無数に存在するんだが、たまに世界のものが違う世界に移動してしまうことがあるんだ」

「さっきの化け物とか?」

「そうだね。 今回は移動のときに色々と歪んで、ああなったんだろうけど・・・」

壁についていた手を離して、トシアキに向きなおるゲンジ。

「そうして、移動した物体によってその世界に『歪み』が生じる。 そりゃあ、その世界にないものが突然現れたら歪みもするさ」

「って、ことはその物体がなくなった世界にも『歪み』とかいうやつはできるのか?」

「いや、それはない。 なくなった世界ではとくに何も起きない。 毎日どこかで壊れたり死んだりしてるんだから一つくらい増えても変わらないさ」

そう言ってメガネのズレを直すゲンジ。

トシアキも立ったまま聞くのが疲れたのか、途中から宙に浮いている。

「でも、移動してきた世界でも新しいものが生まれたりするだろ? それと同じことにはならないのか?」

「小さいものならそんなに影響はないが、大きいものだとそうはいかない」

「それもそうか・・・・・・」

納得した様子で頷くトシアキ。

「ここの世界でもそうだろう? あの城も最初からあったわけじゃない。 造る『過程』があり、あそこまで大きくなったんだ。 突然、完成された城が現れるわけではないからね」

そう言いながらトシアキが住んでいる城を指さすゲンジ。

「なるほどな。 で、『歪み』が大きいとどうなるんだ?」

「最悪の場合、『歪み』が大きいとその世界が崩壊する」

「なっ!?」

あまりのスケールの大きさにトシアキは驚きの声をあげた。

「そうならないために僕のような『調整者』がいるのさ」

「他にもいるのか?」

「あぁ。 僕はフリーで活動しているが、組織でやっている人たちもいるよ」

そう締めくくって、ゲンジは目を閉じて集中し始める。

すると、ゲンジの目の前の空間がねじれるように歪み、ねじれの中心から闇がにじみ出て、人間の身長程まで広がると止まった。

「それじゃあ、僕はもう行くね。 いつまでもここにいると僕自身が『歪み』の原因になるから」

「・・・・・・なぁ、俺も連れて行ってくれないか?」

「このゲートは世界間を移動できるけど、『歪み』があるところにしかつながらない。 つまり、一度通ると同じ世界には戻れないんだ。 それでも?」

トシアキの意志を確認するように尋ねるゲンジ。

この世界はトシアキにとっては生まれた場所、つまり故郷である。

家族もいる世界に帰って来れない、会えなくなる覚悟はあるのか聞きたいゲンジ。

「あぁ。 ちょうど、妹のために何かしてやりたかったんだ。 俺がいなくなれば、次期後継者は妹になるからな」

「ふむ。 君の覚悟があるなら僕は何も言わないよ」

「サンキュー。 ってか、君とか言わずにトシアキって呼んでくれよ、相棒」

「わかった。 では、トシアキ。 準備はいいか?」

「あぁ、いつでもいいぞ」

ゲンジはトシアキを、トシアキはゲンジをそれぞれ見て頷く。

「ここに入れば別の世界だ」

「よし、行こうぜ!」

まず、トシアキが闇の中に入り、続いてゲンジが入った。

そのあと、その闇がだんだんと小さくなり、そしてそこにはなにもなくなった。

こうして、トシアキとゲンジがともに『歪み』を治す『調整者』となって世界を渡り歩くたびが始まったのである。



~おまけ~


トシアキがいなくなったあとの屋上でアキは先ほどのことを思い出していた。

「兄様・・・・・・」

真剣な表情でアキのことを心配しているトシアキの顔が浮かんだ。

「えへへ・・・・・・」

アキは少し頬を赤く染めて、身体をクネクネと左右に動かしている。

「他の人は私を見てくれないけど、兄様は違う」

城に仕えている人たちは王女として一応は見てくれているが、父親や母親は兄であるトシアキにしか期待していない。

「いいの。 兄様さえいてくれれば、私は・・・・・・」

トシアキも幼い時から期待され、色々と重荷になっていた。

しかし、アキだけは実の兄として見てくれている。

そんな二人の環境がとても仲が良い理由であった。

「兄様、早く帰ってこないかなぁ・・・・・・兄様ならきっと簡単に退治できるよね」

そう言ってトシアキが飛んで行った城下街の方を見るアキ。

それからしばらくして兵士が知らせてきた内容は、化け物は消えたがトシアキの行方も分からないということだった。

「・・・・・・えっ?」

その知らせを聞いたのは怪我の治療を受けている父親のもとに訪ねているときだった。

「・・・・・・そうか。 トシアキの行方がわからんか」

「はい。 懸命に捜索しましたが、手がかりは・・・・・・」

「もうよい。 捜索は打ち切って復興に力をいれてくれ」

「はっ!」

兵士がさってから国王である父親がアキを見る。

「トシアキがいなくなった今、お前がこの国の後継者だ。 成人したときに恥をかかないようにしっかり、勉強するのだぞ」

「と、父様。 兄様は? 兄様の捜索を・・・・・・」

「トシアキはもういない。 おそらく化け物と戦って一緒に消えてしまったのだろう」

「そ、そんな・・・・・・」

アキはこの世が滅ぶと聞かされたかのように顔を真っ青にして震えだした。

「に、兄様が・・・・・・そんな・・・嘘・・・・・・」

そして、アキは踵をかえして走り去って行った。

アキが無我夢中で走ってたどり着いたのはトシアキと別れた屋上であった。

「に~~~~さま~~~~~!!」

この広い大地に向かい、自分で出せる最大の声で涙をながしながら叫んだアキ。

しかし、返事も反応もなく、アキの心に残ったのは絶望だけであった。

「・・・・・・化け物と消えたって言ってたから、兄様はきっと生きてる」

アキはそう自分に言い聞かせて、兄を探しだすために必死に勉強をした。

それからある事件が起き、時空管理局に入ることになったアキはそこで兄であるトシアキを探そうと心に決めたのであった。



~~あとがき~~


過去話です。
ようやく書くことができましたw
トシアキとゲンジの出会いを書きたかったのですが、アキが出てくるまで書けず、九話になってアキが登場したため、こうして書きあげたしだいです。

九話の続きが気になっていたかたには申し訳ないです。
次の更新で十話にいきたいと思います。
(感想・意見の書き込みを頂けると、私のやる気にもつながりますw)

それでは、次回。 第十話で会いましょう。



[9239] 第十話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 22:22
トシアキに助けられたフェイトとアルフは無差別に転移を繰り返しながら管理局の追跡を撒き、自宅まで帰ってきた。

「フェイト、しっかりするんだ。 もう、すぐそこだよ」

狼から人の姿になったアルフがフェイトに肩をかして歩いている。

「う、うん。 大丈夫、私は大丈夫だから・・・・・・」

そう言いながらも、フェイトの頬は赤く染まっており、呼吸もかなり乱れていた。

「くぅ~!」

玄関のドアを開けると、ずっと待っていたのだろうか、フェイトたちが出て行ったときと同じ状態で久遠が玄関で待っていた。

そんな久遠を見たフェイトが悲しそうな表情をつくり、久遠のもとへ行く。

「ごめんね。 兄さんを連れて帰ってこれなくて・・・・・・」

「くぅ」

悲しそうな顔で話すフェイトの指をペロッと舐める久遠。

「大丈夫だよ。 トシアキは強いし、きっとすぐに帰ってくるよ」

フェイトと久遠を後ろから見ていたアルフが二人を励ますように言う。

「それより、フェイト。 今はゆっくり休まなきゃ」

「うん。 ごめんね、久遠・・・」

最後に久遠に謝り、フェイトはアルフと共に自室に戻って行った。

「・・・・・・くぅん」

まだ帰ってこないトシアキを心配するように、久遠は玄関でただジッと待っているのであった。

自室に戻ったフェイトはアルフに簡単な治療をしてもらい、ベッドに座る。

「兄さん、大丈夫かな・・・・・・」

「大丈夫だよ。 トシアキは強いし、頼りになるからね」

そう言ってトシアキの無事を信じて疑わないアルフを見て、フェイトはクスクスと笑った。

「アルフ、いつの間にか兄さんを信頼してたんだね」

「えっ!? あ、その・・・・・・ほら、何度も手伝ってもらってるし・・・・・・」

アルフは少し動揺しながら言葉を紡ぐ。

「それに・・・・・・あいつは味方だって言ってくれたから」

「うん。 アルフの気持ちすごくわかるよ。 私とアルフは少しだけど精神リンクしてるからね」

目を閉じて胸にソッと手をあてるフェイト。

「兄さんにもアルフにも、たくさん迷惑かけてるのはわかってる。 でも、それでも私は母さんの願いをかなえてあげたい」

「フェイト~~」

「あと、もう少し。 もう少しだけ一緒に頑張ってくれる?」

アルフの頭に手をやり、ソッと撫でながらフェイトは問いかける。

「うん。 でも約束して。 自分のためにジュエルシードを集めるって、そうしたらあたしもきっと頑張れるから」

「わかったよ。 私、自分のためにジュエルシードを集めるよ」

フェイトの想いが伝わったのか、アルフは嬉しそうに微笑み、静かに涙をながした。



***



場所は変わって翠屋。

学校の帰りにアースラへ行ったため、両親が心配していると考えたなのはは海鳴臨海公園からそのまま翠屋へ向かった。

「えっと、ただいま~」

「あれ? なのは。 今日はずいぶんと帰りが遅いね。 母さんが心配してたよ?」

店に入ったところにいた美由希にそう言われ、シュンと落ち込むなのは。

「とにかく、謝ってきなよ」

「うん。 お母さんは?」

「たぶん、奥かな」

それだけ言って美由希は接客の仕事に戻って行った。

なのはは美由希の言葉にしたがい、桃子がいるであろう奥へ入って行く。

「あっ、お母さん」

「なのは! 心配したのよ? 家に電話しても誰も出ないから」

「ご、ごめんなさい・・・」

本気で心配している桃子の顔を見て、俯いてしまうなのは。

「無事に帰ってきたならいいわ。 これからはキチンと連絡するのよ?」

「うん」

それから思い出したようにポンと手をたたいた桃子。

「そうそう。 なのはに連絡しようとしたのは、お友達が来ていたからなのよ」

「お友達?」

「えぇ、アリサちゃんとすずかちゃんよ。 行ってきてあげなさい」

「うん!」

桃子の言葉に笑顔になって店に戻って行くなのは。

店に戻ったなのはは奥の席でケーキをつついているアリサを発見した。

「アリサちゃん、すずかちゃん。 いらっしゃい」

「あっ、なのはちゃん!」

「なのは!」

二人もなのはの姿を見つけると嬉しそうに微笑んだ。

「今日はどうしたの? お稽古は?」

「それがね。 なのはちゃん・・・・・・」

「すずか! 言わなくていいの!」

微笑みながら話そうとするすずかの言葉をアリサは赤くなりながら遮った。

「にゃ~。 アリサちゃん。 なのはにも教えてよ~」

「べ、別に理由なんてないわよ。 ただ、翠屋のケーキが食べたかっただけなんだから」

そう言うアリサを見て、対面に座るすずかが微笑んで話す。

「でも、全然食べてないよね? ケーキ」

「こ、これは、その・・・・・・」

「本当はトシアキさんに会えると思ってきたんだよね? アリサちゃん」

「す、すずか!!」

先ほどよりも顔を赤くして、すずかに怒鳴るアリサ。

しかし、怒鳴られているすずかはニコニコと笑っているだけだ。

「トシアキさん? 今日、公園で会ったけ・・・・・・ど?」

「ど・う・し・て、教えてくれなかったのかな?」

「ア、アリサちゃん、怖いよ・・・・・・」

つい先ほどまで魔法の世界にいる人たちと話してましたと、言えないなのははただ苦笑して誤魔化した。

「それで、どこに行ったのよ?」

「なにも聞いてないよ。 トシアキさん、すぐどこかに行っちゃったし」

「そ、そうなの・・・・・・」

なのはの答えに残念そうにするアリサ。

それを見て、すずかが再びニコニコと笑顔で話す。

「やっぱり、トシアキさんが気になるんだ」

「も、もう! すずか!」

そんな内容をなのはたち三人はとても楽しそうに会話していた。

そうして閉店時間になり、アリサとすずかも帰宅したあと、なのはとユーノは自宅にいた。

「ですから、僕もなのはもそちらに協力させていただきたいと」

なのはの部屋でユーノはレイジングハート越しにアースラと通信をしていた。

「協力ね・・・・・・」

そんなユーノの言葉を深く考えるクロノ。

「僕はともかく、なのはの魔力はそちらにとっても有効な戦力だと思います。 ジュエルシードの回収、あの人たちとの戦闘、どちらにしてもそちらにしては便利に使えるはずです」

「・・・・・・なかなか考えてますね。 それなら、まぁ、いいでしょう」

クロノと一緒に通信を聞いていたリンディがそう返事をする。

「か、母さ・・・艦長!?」

「手伝ってもらいましょう。 こちらとしても切り札は温存したいもの」

「・・・・・・はい。 了解です」

リンディの目を見て、クロノは渋々ながら頷いた。

「それと、敷島さんからは何か聞いてない?」

「はい。 戻ったあとも、すぐに帰ってしまって・・・・・・」

「そう。 こちらでも一応、フェイトさんのこともあるから監視はしているのだけれども、どうやら気づいてるみたいね。 フェイトさんと合流する気はないようだわ」

別のモニターに映し出されたベッドに座りながらこちらに視線を向けているトシアキを見て、リンディはそう話す。

「彼もこちらに協力してくれればいいのだけど・・・」

「艦長! それは反対です。 あんな男の力を借りる必要はありません!」

さすがにそれは嫌だったのか、クロノが必至に反対だと繰り返す。

「・・・・・・と、クロノ執務官は言ってるけど、ユーノさん。 あなたはどう思う?」

「はい。 僕としましても、戦力は多い方がいいかと。 でも、彼は管理局に良い印象を持っていないので、普通に頼んでは無理かと思います」

そのユーノの意見を聞いて、クロノも頷く。

「そうだ。 彼の言う通り、あの男の力は必要ない」

「普通にと、言いましたよね? 何かいい案があるのですか?」

クロノの言葉を無視して、リンディはユーノに続きを促す。

「はい。 この前、なのはたちの会話を聞いたときにお金がないと言っていたので、フリーの魔導師を雇うようにお金を払えば協力してくれるかもしれません」

「ふん。 君たちの協力がある今、戦力は十分足りている。 わざわざお金を払ってまで協力してもらう必要など・・・」

「そうね。 それでいきましょう。 フリーの魔導師を雇うなら経費で落ちるし、問題ないわね」

クロノの言葉を遮って、リンディが笑顔でその案に乗った。

「か、艦長!?」

「いいのよ。 より安全に任務を遂行するにはこれが一番ですもの。 もし、敵として現れたら厄介な相手なのだから」

「・・・・・・」

リンディの言葉に一度やられたクロノは無言でそっぽを向いた。

「それでは、敷島さんにそう伝えてくれるかしら?」

「はい。 なのはにも言っておきます」

「お願いね。 あと、あなたたちにも支払うことはできるけど?」

「そんな! もともとは僕の責任ですから・・・・・・なのはには一応、伝えときます」

ユーノはリンディの提案に首振って断りを入れた。

「それじゃあ、こちらからの条件を二つ受け入れてもらいます」

「はい」

「両名とも、身柄を一時的に時空管理局の預かりとすること。 それから指示を必ず守ること。 よくって?」

「・・・・・・わかりました」

ユーノはそう返事をして、アースラとの通信を終えた。

なのはがいない状態で条件を受け入れたことに少し罪悪感を覚えたが、管理局の手伝いが出来るならなのはも納得してくれるだろうとユーノは考えて条件を受け入れた。

≪なのは。 決まったよ≫

≪うん。 ありがとう、ユーノ君≫

なのはは桃子と一緒に今日食べた夕飯の食器を洗いながらユーノと念話をする。

「さて、桃子、なのは。 俺達はちょっと裏山まで出かけてくるから」

士郎がなのはたちにそう声をかけた。

「うん。 今夜も練習?」

「あぁ」

桃子の言葉には恭也が冷蔵庫を開けながら答えた。

「気をつけてねぇ」

「いってきます・・・・・・って!?」

なのはの言葉には美由希が答え、三人ともそう言って出て行った。

三人が出て行ったあと、何かをぶつける音が聞こえ、美由希の声が微かに聞こえたのであった。

「これでおしまいね。 さて、大事なお話ってなぁに?」

あらかじめなのはから聞いていたのか、桃子は食器を片づけ終えるとなのはにそう尋ねた。

「うん、実は・・・・・・」

そう言って、なのはは魔法やユーノの正体、トシアキとの関係を伏せて、今まで夜に外出していた訳を桃子に話した。

「それで、少し家を空けないといけないの。 危ないこともあるかもしれないけど、友達と始めたこと、最後までやり遂げたいの」

話終わったなのはは、母親である桃子の返事を待つ。

「・・・・・・うん」

最後まで聞き終えて、桃子は目を閉じながら静かにうなずいた。

「なのははもう決めてるんでしょ? 友達と始めたことやり遂げたいって」

「うん」

「じゃあ、いってらっしゃい。 後悔しないように・・・・・・ね?」

そう言って微笑みながら桃子は不安そうに見ているなのはの頭をソッと撫でる。

「お父さんとお兄ちゃんには私から言っておくから」

「うん! ありがとう、お母さん」

桃子の言葉を聞いて、なのはは笑顔になり、力強く頷いた。

そして、なのはは必要になりそうなものをカバンに詰め込み、家を出て行った。



***



アリサとすずかは翠屋に閉店ギリギリまでいたが結局トシアキは現れず、今日は帰ることとなった。

「アリサちゃん、帰ろ? 今日はもう来ないよ」

「・・・・・・そうね」

残念そうな表情で、すずかを迎えに来た車に乗り込むアリサ。

「ごめんね、すずか。 つき合わせちゃって・・・・・・」

「ううん。 私もトシアキさんに会いたかったから」

「そう・・・」

二人の会話はそれで終わり、車は夜の道を静かに走る。

そして、アリサの家の前に到着した。

「それじゃあ、アリサちゃん。 また明日ね」

「うん。 また明日」

そのまますずかは車で帰って行った。

「・・・・・・」

無言でアリサは自分の家に入って行く。

途中の門はパスワードを打ち込んだため自動で開き、玄関までの道のりはアリサにとってはもう慣れたものであった。

「お帰りなさいませ、アリサお嬢様」

「ただいま・・・」

玄関で出迎えた鮫島はいつもと同じように笑顔で迎え入れる。

「アリサお嬢様、少しお話が・・・・・・」

「ごめん。 明日にして、今日はお風呂に入って寝るわ」

鮫島の言葉を途中で遮って、アリサはスタスタと風呂場へ向かう。

風呂場の脱衣所に着いたアリサは制服を脱ぎ、綺麗に畳んで床に置く。

「どうして、今日はいないのよ・・・・・・」

下着を脱ぎながら、トシアキが翠屋にいなかったことに腹を立てるアリサ。

「・・・・・・あたしのこと嫌いなのかなぁ」

ただたんに運が悪く、すれ違いになっているだけなのだが、そんなことは知らないアリサが落ち込みながら言った。

そして、脱いだ下着を洗濯カゴに入れ、タオルを身体に巻いて風呂場に向かう。

「・・・・・・・・・」

風呂場へのドアを開けると、さっきまで探していたトシアキが白いタオルを頭にのせて浴槽にもたれ掛かり、こちらを見ていた。

「ア、アリサ?」

「なっ、なんであんたがここにいるのよ!!?」

のんびりと風呂に入っているトシアキを見て、思わずそう叫んだアリサ。

「いや、遊びに来たんだが、アリサがいなくてな。 待っていたら風呂でもどうですかと勧められたんでこうして入ってるわけだ」

「今日のあたしの一日はなんだったのよ!?」

「知るかよ!? ってか、そんなに暴れると・・・」

アリサが思った以上に動き回ったためか、身体に巻いていたタオルがヒラリと床に落ちた。

「「あっ」」

そして、それを見てしまったトシアキと、タオルを落としてしまったアリサの声が重なったのである。

「・・・・・・」

「・・・・・・大丈夫、隠す必要のないからd・・・・・・ぐぼっ!?」

トシアキがフォローしようと声をだしたあと、怒りと羞恥で顔を真赤にしたアリサが脱衣所にあったドライヤーを投げつけた。

「エッチ! 変態! 馬鹿! 信じらんない!!」

「・・・・・・」

ドライヤーの直撃を額に食らったトシアキはそのまま沈黙した。

しばらくして、目が覚めたトシアキの横にキチンとタオルを身体に巻いた状態のアリサがいた。

「ちょ!? おまえ、何で・・・・・・」

「う、うるさいわね。 あのままじゃ風邪引いちゃうでしょ」

そう言いつつ、頬が少し赤いアリサはトシアキと目を合わさないようにしている。

「・・・・・・じゃあ、俺は上がるよ」

そう言って身体を湯船から出ようとしたトシアキを呼びとめるアリサ。

「背中・・・・・・流してあげるわよ」

「そ、そうか・・・・・・サンキュー」

思わぬアリサの言葉にトシアキも少し困惑気味である。

ちなみにトシアキの大事な部分は額にドライヤーが当たった時に頭のタオルが落ちて、うまい具合に隠れていた。

「・・・・・・」

キチンとタオルを巻いたトシアキの背中をアリサがスポンジで擦っている。

「・・・・・・・・・傷、治ってるのね」

トシアキの背中を洗っていたアリサがそう呟いた。

「あぁ。 アリサには言ったよな? 魔法の力でな」

「そう・・・・・・・・・・・・今日はどうして来たの?」

「前に言っただろ? 今度遊びに来るって、だからだよ」

そう言葉を交わす間も、アリサはトシアキの背中をゴシゴシと洗っている。

「それじゃあ、いつまでいるの?」

「用事ができるまでかな」

「そうなんだ・・・・・・・・・はい、おわり」

そう言って、アリサはトシアキの泡だらけの背中にお湯をかけて流す。

「おぉ、サンキューな。 じゃあ、俺は先に上がるよ」

「・・・・・・今度はいなくならないわよね?」

前にもいなくなったことがあったため、不安そうに確認してくるアリサ。

「あぁ。 今日はアリサと話にきたんだからな。 邪魔なら帰るが・・・」

「別に、邪魔じゃないわよ。 あたしが上がるまで待ってなさいよ」

「了解」

そう言ってトシアキはアリサの方を見ずに、手だけを振って出て行った。

そのあと、アリサも風呂からあがり、軽い夕食を二人で食べた。

「どうして、トシアキが来てるって教えてくれなかったの!?」

「ですが、アリサお嬢様が明日にと・・・」

「うっ。 そ、それじゃあ、お風呂に誰か入ってることを教えてくれてもよかったじゃない!」

「黙っていた方がおもし・・・・・・いえ、脱衣所の洗濯カゴを見ればわかるかと思いまして」

「今、明らかに面白そうって言いかけたわよね!?」

「はて、なんのことでしょうか?」

と言ったやりとりが、夕食のときにアリサと鮫島の間で行われていた。

そして、トシアキが自分にあてがわれた部屋で寝ようとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい?」

「あたしよ。 入ってもいい?」

「どうぞ」

ドアが開いて姿を見せたのは、赤い可愛らしいパジャマを着て、枕を持ったアリサであった。

「・・・・・・なによ?」

「いや。 なぜ、枕を持っているのかと」

不思議そうな目で見るトシアキにアリサは不機嫌そうに答えた。

「トシアキは見てないとすぐに何処かへ行くから、あたしも今日はここで寝る」

「・・・・・・なんというアリサイズム」

「別にいいでしょ」

少し頬を赤くしながら枕に顔をうずくめて、そういったアリサ。

「アリサがそれでいいならいいさ。 それより、ちょっとこっちに来い」

「?」

呼ばれたアリサは首を傾げつつ、テクテクとトシアキのそばに寄ってくる。

「・・・・・・お前ら、本当に素直な奴らだな」

「? なに言って・・・きゃっ!?」

フェイトも疑いなくそばに寄ってきたことを思い出したトシアキはそう言いながら、アリサを抱えて自分の膝の上に乗せた。

「ちょ、ちょっと! なにするのよ!?」

「いいからおとなしくしてろって」

そう言いながらどこからとりだしたのか、櫛でアリサの髪を梳いてやるトシアキ。

「あっ・・・・・・」

髪を梳いていることがわかったアリサはおとなしくトシアキに任せている。

「妹もこんな感じの髪でな。 俺が昔、こうやってたんだ」

「トシアキ、妹がいたんだ」

「あぁ。 ずっと会ってないけどな。 ちょうどアリサたちと同い年くらいだ」

「ふ~ん」

そう会話している間に梳き終わったようで、アリサを膝の上から降ろす。

「あ、ありがと・・・」

少し頬を染めながら、上目づかいで礼を言うアリサ。

「背中流してくれた礼だ。 気にすんな」

トシアキに言われて、そのときのことを思い出したのか、アリサの頬の赤みが増す。

「そ、それじゃあ、今日はもう寝ましょ?」

「あぁ、そうだな。 アリサはこのベッド使えよ。 俺はあのソファで寝るから」

そう言って座っていたベッドから立ち上がり、ソファの方へ歩いていくトシアキ。

「そこで寝なさいよ。 あんたは離れているとすぐに何処かへ行くんだから」

「・・・・・・どんだけ俺の信用ないんだよ」

「自業自得でしょ?」

言われたトシアキはおとなしくベッドに戻る。

「じゃあ、アリサはどこでねるんだ?」

床はまずあり得ないだろう。

残っているのは少し遠くにあるソファだが、離れていては云々でアリサがそこで寝るわけはない。 

「そこよ」

そう言ってアリサが指したのはトシアキが座っていたベッド。

「・・・・・・・・マジ?」

「し、仕方ないじゃない。 ベッドはこれひとつなんだし、離れていたらトシアキはどこかに行っちゃうし」

顔をトマトのように真赤に染めながら必死にそう言うアリサ。

「じゃあ、俺が床で寝よう。 それなら・・・」

「ダメよ。 お客を床で寝かせたらバニングス家の名に傷がつくじゃない」

「・・・・・・」

トシアキが無言でいるうちにスタスタとそばにやってきて、ベッドに横になるアリサ。

「ほら、早く寝ましょ?」

「わかったよ」

そう言いながらトシアキもベッドに横になる。

トシアキはアリサが寝た後に床なりソファなり移ればいいや、と考えていた。

そして、アリサとトシアキは向かい形で寝ることとなった。

「・・・・・・すぅ・・・・・・すう・・・」

しばらくすると、アリサの寝息が聞こえてきたので、これ幸いにとベッドから抜け出ようとしたトシアキだった。

「げっ!?」

トシアキの服をしっかりと掴んだまま寝ているアリサであった。

「ったく、マジかよ。 しかたねぇな」

そんなアリサを見て諦めたのか、トシアキもそのまま眠ることに決めた。

そして、時間がたち、トシアキの寝息が聞こえてきたころ。

「・・・・・・バカ」

しっかりと起きていたアリサはそう小さな声で呟いて、離さないようにギュッと力強くトシアキの服を握り直すのであった。



~おまけ~


トシアキとアリサが部屋のどこで寝るかを揉めていたころ、使用人である女性二人が話していた。

「今日、来てた人って、前に怪我してた人だよね?」

「そうそう。 なんでもアリサお嬢様に会いに来たんだって」

「えぇ!? ひょっとしてあの人ロリコ・・・・・・」

本人たちがいないのをいいことに勝手に盛り上がる二人の使用人。

「でもでも、アリサお嬢様の方があの人のこと気に入ってるみたいよ」

「えぇ!? ってことは歳の差があるカップルになるのかしら」

「もしかして、あの人が次の当主様になるんじゃ・・・・・・」

「「きゃぁぁぁぁ!!」」

どこまでも勝手に話を膨らまして、盛り上がる使用人の二人であった。



~~あとがき~~

十話目更新です。
試験などがあってなかなか書けず、先ほどようやく書き終えましたが、全く物語進んでないじゃんorz
と、落ち込む私でした。

今回はアリサをメインに書いたつもりなんですが、どうだったでしょう?
こんなのアリサじゃない! と、思う方もいるかもしれませんが、これが私の中のアリサちゃんなのですww
と、いうことにしてください。

さて、次回は十一話。
次こそは物語を進めていきたいのですが、まだまだ書きたいことがいろいろありますので、物語を進めるのはもう少しあとになりそうです。
こんな作者の作品ですが、見て感想や意見を頂けるように精一杯頑張りますので、最後までお付き合いいただくようお願い申し上げます。

それでは次回の話でまた、会いましょう。



[9239] 第十一話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 22:37
目が覚めたトシアキは見覚えのない天井が視界に入り、思わず呟いた。

「・・・・・・知らない、天井だな」

そこまで呟いたときに昨日の出来事を思い出したトシアキ。

「そうか。 確か昨日はアリサと・・・」

言いながら視線をずらすとアリサがトシアキの服を掴みながら寝ていた。

「・・・・・・幸せそうな顔で寝てるなぁ。 俺を信頼してると考えていいのかな」

小声でそう言ったトシアキはまだ寝ているアリサの頬をつついた。

「おぉ、やわらけぇ・・・・・・さすが女の子ってところかな」

「んっ・・・・・・すぅ・・・・・・」

そんなトシアキの攻撃をアリサは不満そうにして顔を顰めたが、全く起きる気配がしない。

「仕方ない。 起こすか」

いつまでもベッドに横になっているのは辛いため、アリサを起して掴んでいる服を離してもらおうと考えたトシアキ。

「おい、アリサ。 朝だぞ、起きろ」

「んっ・・・・・・ん~~~?」

目を開けたアリサはまだ寝惚けている目を擦りながら、身体を起こした。

「起きたか。 寝顔もなかなか可愛かったぞ、アリサ」

冗談のつもりで言ったトシアキだが、目が覚めてきたアリサの表情がみるみるうちに変わっていく。

「な、なんでトシアキがあたしの部屋にいるのよ!?」

「おいおい、昨日はお前が俺のところに・・・・・・ぶっ!?」

寝起きのアリサは何を勘違いしたのか、トシアキの言葉を聞かず顔を赤くしながら枕を投げつけた。

ちなみに近距離からの枕攻撃を食らったトシアキはそのままベッドの下へ落ちた。

「この変態! 乙女の部屋に入るなんて信じられないわ!」

「じ、自分で俺のもとに来といて何言ってんだよ・・・」

ベッドの下に落ちた身体を起こしながらそう言うトシアキ。

「何って、ここはあたしのへ・・・」

「へ?」

「部屋じゃないじゃない!?」

今いる部屋を見渡したアリサはようやく自分が寝ぼけていたことに気づく。

「だからいっただろうが」

「あっ、そうだ。 そろそろ朝食の時間よね」

「待て、コラ」

明らかなごまかし方にさすがのトシアキも怒気を発する。

「じょ、冗談よ。 その・・・・・・ごめんなさい」

「・・・・・・わかってくれたならいいさ」

自分の非を認め、こちらの様子をうかがいながら謝罪するアリサを見て、トシアキは可愛い奴だなぁ、と思いながら微笑んだ。

「うん。 それじゃあ、あたしは着替えてくるわ」

「あぁ、わかった。 また飯のときにな」

そう言ってアリサは自分の枕を持って部屋から出て行った。

朝食は二人で食べ、アリサは学校へ行く時間になった。

「そろそろ時間じゃないのか?」

「そうだけど・・・・・・あんた、あたしがいない間にまた何処かに行くんじゃないでしょうね?」

聖祥小学校の制服に身をつつみ、カバンを背負ったアリサがトシアキに言う。

「俺に信用がないのは昨日の件を含めてよ~くわかった」

「自業自得よね」

「・・・・・・とにかく、用事が出来るまでいるから安心しろ」

そう言って、トシアキはアリサの手を握る。

「な、なによ・・・」

「バスに乗って行くんだろ? そこまで送って行くよ」

そう言うトシアキの手を握りながらアリサは答える。

「バスが来るのは家の前だけど?」

「家の前にバスが迎えに来るとか、どんだけ金を積んだんだよ・・・」

結局、家の前までアリサと手をつないで歩き、迎えにきたバスにアリサを乗せて、トシアキは一息ついた。

「ふぅ・・・・・・」

バスに乗るとき、アリサが少し寂しそうな感じで手を離したのが気になったトシアキであった。

「さて。 なにか用があるんじゃないか?」

誰もいない空間に向けて言葉を放つトシアキ。

「・・・・・・いい加減にしろよ? 最初から気づいてんだ」

「やっぱり、気付いてたのね」

誰もいない空間にモニターが現れ、リンディの顔が映し出された。

「なんか違和感があったんでな。 昨日の今日だし、あんたらの監視だと思ったんだよ」

「そう。 ごめんなさい、別に監視するつもりじゃなかったの」

「まぁ、ずっと監視してたわけじゃないのは知ってるが、関係ない人間まで巻き込むなよ。 あいつは一般人だぞ?」

先ほどバスで学校に向かったアリサの顔を思い浮かべながら、そう言ったトシアキ。

「わかっているわ」

「ふん、どうだかな。 ところで何か用か?」

リンディの答えを全く信用していないトシアキ。

しかし、姿を見せたということはなにか用があるのだろうと要件を尋ねる。

「実はなのはさんとユーノさんが管理局に協力してくれることになったの」

「ふむ。 で?」

「あなたにも協力し・・・」

「断る」

リンディが最後まで言い終わる前にトシアキは拒絶の意をあらわにした。

「なのはたちが協力するのは勝手だが、俺が協力する理由にはならない。 他をあたれ」

「それじゃあ、管理局があなたを雇うわ。それならどうかしら?」

「そんな胡散臭い組織に身を置くつもりはない」

「なんだと!? 時空管理局は立派な組織だ!」

リンディとの会話を横で聞いていたのか、クロノが管理局を馬鹿にされたことで怒り、画面に割って入ってきた。

「うるさいぞ、ガキ。 俺は今、艦長さんと話してんだ。 下っ端は引っ込んでろ!」

「なっ、なにを!」

画面越しににらみ合うクロノとトシアキ。

「クロノ、やめなさい。 今は私が話をしているのです」

「で、ですが、艦長!」

「クロノ・ハラオウン執務官! いい加減になさい!」

リンディはそう怒鳴りつけ、罰としてクロノに反省文の提出を命じた。

「で、もう終わったのか?」

「えぇ。 見苦しいところを見せてごめんなさい」

リンディはそう言って頭を下げた。

「それはいい。 ちなみに俺の答えはさっき言った通りだ」

「それじゃあ、一時的に雇うのはどうかしら? フリーの魔導師としてよ」

「・・・・・・・・・ふむ。 契約金は?」

少し考えるような素振りを見せて、頷くトシアキ。

「今回のジュエルシードの事件が終るまでで六百万円でどうかしら?」

「別に構わんが、命令には従わないぞ? 六百万程度で命を預ける気にはならないからな」

「・・・・・・わかったわ。 それで構いません」

トシアキの言葉に今度はリンディが考える素振りをみせる。

「了解した。 それで、俺はどうすればいい?」

「今からこちらに転送しますので、その場から動かないでください」

そうこう言ってるうちにトシアキの身体が光に包まれ、その場から消え去った。

「転送されたのはいいが、迎えがないってのはどういうことだよ」

トシアキは再びアースラの転送ルームに連れてこられたのだが、そこにはトシアキ以外誰もいなかった。

「警戒されてるのかね」

苦笑したトシアキは一度来たときの道を思い出しつつ、歩き出す。

「おっ?」

しばらく誰もいない通路を歩いていると、向こう側から人間の姿のユーノとなのはが歩いてきた。

「あっ、トシアキさん!」

トシアキに気づいたなのはは嬉しそうに微笑みながら近寄ってくる。

「やっぱり、トシアキさんも協力してくれるんですね」

なのははトシアキが協力することを信じて疑わず、ニコニコと笑みを浮かべている。

「なのは、彼は・・・・・・」

「いや、俺は雇われたんだ。 つまり、お金を貰うってことだな」

ユーノの言葉を遮って、トシアキはなのはの頭に手を置きながら答える。

「えっ・・・」

トシアキの言葉を聞いたなのはの表情が少し暗くなった。

「ようするに仕事だな。 なのはたちのように進んで協力するわけじゃない」

「そ、そうなんですか・・・」

明らかな落ち込み具合にトシアキは苦笑してなのはの頭に置いていた手で撫でる。

「まぁ、敵にはならないから安心しな」

「はい・・・」

そう会話していると、今まで見ているだけであったユーノが口を挟んできた。

「今から会議をするそうですので、ついて来てもらえますか?」

「あぁ、わかってるよ。 じゃあ、行こうか」

そうして、三人はリンディたちが待つ部屋に向かった。

部屋に入ると既に局員はそれぞれの席に座っており、トシアキたちを待っていたようだ。

三人は空いている椅子に座り、その様子を確認したリンディが話始める。

「という訳で、本日十二時より、本艦全局員の任務はロストロギアであるジュエルシードの確保に変更されます」

リンディの言葉を聞いて会議に参加している武装局員の顔つきが変わる。

「また本件においては特例として、問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導師でもある、こちらの・・・」

リンディの視線を受けて、緊張した面持ちで立ちあがるユーノ。

「はい。 ユーノ・スクライアです」

「それから、彼の協力者である現地の魔導師さんの・・・」

ユーノに続いて紹介されたなのはも緊張した様子で立ちあがる。

「た、高町なのはです」

「「よろしくお願いします」」

ユーノとなのはがその場で頭を下げ、自己紹介を終える。

続いてリンディは興味のなさそうに今までのやり取りを聞いているトシアキを見る。

「そして、今回の任務をより安全に解決するため、フリー魔導師の敷島トシアキさんに協力を依頼しました」

「よろしく」

紹介されたトシアキは座ったまま、それだけを言った。

そんな三人の様子を見ていたクロノの視線になのはが気付き、ニコリと微笑む。

「っ!?」

微笑まれたクロノは頬を少し赤くして、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「?」

「・・・・・・」

「クククっ・・・」

そんなクロノの態度になのはは首をかしげ、ユーノは無言でクロノを睨みつけ、そしてトシアキは楽しそうに笑っているのであった。

「さて、ジュエルシードはこちらで探すから、見つかったら確保の方をお願いね?」

「「わかりました」」

リンディの言葉になのはとユーノが頷く。

返事をしなかったトシアキは無言でモニターを睨んでいる。

「艦長、お茶が入りましたよ」

「あら、ありがとう」

エイミィが持ってきた湯呑の横に砂糖とミルクが置いてあった。

「?」

なにに使うのか、その様子を見ていたなのはであったが、徐々に顔を引きつらせていく。

リンディは鼻歌を奏でながら砂糖とミルクを湯呑に入れていく。

そして、そのまま飲んでしまった。

「そう言えば、なのはさん」

「あっ、はい!」

「学校の方は大丈夫なの?」

甘くなったお茶を飲みながらなのはに聞くリンディ。

「家族と友達に説明してありますので・・・」

そう言ったなのはの横で、今までモニターを見ていたトシアキが口を開く。

「俺は地球に戻る。 俺の力が必要になったら呼んでくれ」

「あなたにもここで待機していてもらいたいのだけれど?」

リンディがそう言ってトシアキを見る。

「精霊もいない人工的な空間に長時間いたくない。 なのはとユーノがいれば大丈夫だろう」

「・・・・・・わかったわ。 場所はここに来る前にいたところでいいわよね?」

「あぁ、それでいい。 じゃあな、なのは、ユーノ。 がんばれよ」

なのはとユーノの声をかけて、トシアキは転送ルームへ向かっていく。

「ト、トシアキさん・・・」

「そんな声をだすな。 もう会えないわけじゃないんだし。 手に負えなくなったら呼べ」

最後に不安そうななのはの頭をクシャっと撫でてトシアキは出て行った。



***



学校から帰ってきたアリサはカバンも置かず、走ってトシアキが寝泊まりしている部屋へ向かう。

「トシアキ!」

ノックもせずに扉を開けたアリサが見たものは、家で飼っている犬たちと戯れているトシアキの姿であった。

「そうか、やっぱりお前たちには見えるんだな」

「わふっ! わふっ!」

「キャンキャン!」

「ワンワン!」

トシアキの言葉にそうだ、と言うように鳴く三匹の犬たち。

「やっぱり動物には見えるんだな。 っと、アリサ。 おかえり」

「た、ただいま・・・」

トシアキにじゃれついている三匹の犬を見ながら近づくアリサ。

「どうしたんだよ、そんなに慌てて。 着替えもしてないみたいだし・・・」

「あ、あんたが何処かに行ったんじゃないかと思ってたのよ」

そう言って近づくアリサに犬たちも気づいたようで、今度はアリサに寄ってくる。

「やっぱり、俺って信用ないんだな・・・」

「自業自得でしょ・・・・・・って、これも三回ほど言ったわね」

肩を落として落ち込むトシアキに言いながら、寄ってきた犬たちの頭を撫でてやるアリサ。

「まぁ、いいわ。 トシアキ。 これから付き合いなさいよ」

そう言ったアリサにトシアキは少し考えるようにして、こう言った。

「・・・・・・落ち着けアリサ。 お前の気持ちは嬉しいが、少し歳が離れていると思・・・」

「ち、違うわよ! 買い物に付き合いなさいってことよ!」

トシアキの言葉の意味を理解したのか、真赤になりながら言い直すアリサであった。

「まぁ、そうだろうと思ったがな。 いやぁ、アリサは可愛い奴だな」

からかうことができて満足しているトシアキの笑みを見て、アリサは少し腹がたった。

「・・・・・・Go!」

アリサの掛け声とともに三匹の犬たちがトシアキに襲いかかる。

「ぐわっ!? おい! ちょっ!? 待てマテまて!!!」

三匹の大型犬にのしかかられたトシアキ。

顔を舐められ、手をあまがみされ、ボロボロになったトシアキ。

そのあと、トシアキが顔を洗ったり、犬の毛を落としている間にアリサはカバンを置き、私服に着替え終えて、二人で外へ出かけた。

「ったく、ひどい目にあった」

「あんたが悪いのよ。 反省しなさい」

そう言いながら二人並んで、商店街を歩く。

しばらく歩いていたトシアキだが、アリサがどの店にも入ろうとしないので、気になって聞いた。

「それで、買いたいものってなんなんだ?」

「アレよ、あれ」

そう言ってアリサが指した先には小さく、しかし派手な装飾がされている店だった。

「ここって・・・・・・携帯ショップ?」

「そうよ。 さぁ、行くわよ」

入口の前で立ち止っているトシアキの手を引いて、店の中で入って行くアリサ。

「どれがいいかしら?」

並べてある携帯を見ながらそう呟くアリサにトシアキは赤い携帯電話を差し出した。

「これなんていいんじゃないか?」

差し出された携帯を手にして、アリサは不思議そうな目でトシアキを見た。

「・・・・・・あんたって赤色が好きなの?」

「って、俺!? アリサの携帯を買うんじゃないのかよ!?」

「あたしはもう持ってるし」

そう言って自分の携帯を出して、見せるアリサ。

「あんたはすぐにいなくなるから、携帯を持っておけば連絡できるでしょ?」

「・・・・・・」

「な、なによ?」

無言で頭を抱えるトシアキを見て、不安そうに様子をうかがうアリサ。

「いや。 携帯を小学生に買ってもらおうとしてる俺って・・・・・・」

「・・・・・・確かに情けないわよね」

「それを言うなよ!?」

そういうやり取りを終えてトシアキは結局、真っ黒の携帯を選んだ。

「それじゃあ、あんたは外に出て待ってなさい」

「俺も一緒にいた方がいいんじゃやないか?」

いろいろな手続きがあるので一緒にいたほうがいいと思ったトシアキ。

「小学生に携帯買ってもらってるのを店員に見られたいの?」

「・・・・・・外で待ってます」

アリサの言葉に納得して、トシアキは外へ出て行った。

それからしばらくして、アリサが出てきた。

なぜだか急ぎ足でこちらに向かってきて、手に持つ携帯を差し出す。

「はい、これ。 トシアキの携帯」

「あ、ありがとな」

自分が選んだ真っ黒な携帯を受け取ったトシアキ。

「一応、あたしの番号とアドレス、登録しといたから・・・」

「サンキュー。 じゃあ、こっちの番号も渡しとかないとな」

「じゃあ、赤外線でいいわよね」

そう言って携帯を取り出したアリサだが、先ほど店の中で見せてもらった携帯と違っていた。

「あれ? アリサも携帯買えたのか?」

「そ、そうよ。 あたしのは型が古いやつだったから」

トシアキの言葉に少し慌てた様子のアリサ。

しかし、そんなことを気にせず、トシアキはもらったばかりの携帯の番号とアドレスをアリサへ送る。

「よし、これでいいな」

「そ、そうね・・・」

「買い物は終わりか?」

そう聞くトシアキにアリサは携帯をしまいながら答える。

「今日はお稽古があるから、早めに帰らないと・・・」

「それならそうと言えよな」

「えっ? ち、ちょっと、トシアキ! きゃっ!?」

トシアキはアリサを抱えて大空へ飛びあがった。

勿論、誰にも気づかれないように魔法を使用して飛んだのだが。

「これなら早く帰れる」

「ほ、ほんとに飛んでる・・・・・・」

アリサは飛んでいることが信じられないのか、トシアキの服にギュッとしがみついている。

「落とさないから安心しろって」

「そ、それでも怖いのよ!」

笑顔でそう言うトシアキだが、アリサは本当に怖がっているようで、身体が僅かに震えていた。

「もう少しだから我慢してくれよ?」

「・・・・・・うん、わかった」

トシアキの言葉で落ち着いたのか、家に着くころにはアリサは落ち着いていた。

そして、余裕の時間で帰宅したアリサはすずかとともにヴァイオリンの稽古へ向かった。

「もう、こんな時間か・・・・・・フェイトたち大丈夫かな」

夕日が沈む時間帯になり、トシアキはフェイトたちのもとへ未だに戻れないことを不安にしていた。

「フェイト、アルフ、久遠。 もう少しだけ待っててくれ・・・」

沈んでいく夕日を見ながらトシアキは静かにそう呟いたのであった。



~おまけ~


携帯ショップでトシアキを追い出したあと、アリサは店員のもとへ行った。

「すいません、この携帯電話で契約したいんですけど・・・」

「はい。 かしこまりました」

笑顔で申し出を受け入れる店員を見て、アリサは思い切って尋ねてみた。

「あの! これと同じ型で赤色のやつありませんか?」

「少々、お待ちくださいね」

声の大きさが変わったことに少しも驚かず、店員は笑顔で答える。

「一つだけ在庫がございましたが、この二台を契約でよろしいでしょうか?」

「は、はい! お願いします」

「ふふふ・・・・・・彼氏さんの携帯電話ですか?」

緊張した感じで答えるアリサに店員の女性は微笑んでそう尋ねた。

「えっ!? ち、違います!」

「そうですか。 これは先ほどの男性の携帯電話ですよね?」

「そ、そうですけど。 あいつは彼氏なんかじゃなくて、その・・・・・・」

顔を赤くしながら必死に話すアリサを見て、クスクスと店員は微笑んだ。

「そうなんですか。 恋人なら割引が付くのですが・・・」

「えっ!? でも、その、あの・・・・・・」

「ふふふ・・・・・・もう一度だけ、ご確認いたしますね? この携帯は彼氏さんの携帯ですか?」

微笑んでそう言う店員にアリサは頬を赤くして、俯きながら小さな声で答えた。

「・・・・・・・・・はい」

「それでは割引させていただきますね」

アリサの返事を聞いた店員は楽しそうに微笑んで、携帯二台分の契約手続きを済ませた。

「ありがとうございました」

女性店員に笑顔で見送られ、携帯を二台手にしたアリサ。

「・・・・・・」

外で待っているトシアキの背中を見つめながらしばらく店内で顔の熱を冷ますアリサであった。



~~あとがき~~


さて、十一話を書き終えました。
べ、別に感想が嬉しくてテンションが上がって書いた訳じゃないんだからね!?

今回書きましたが、フェイトが登場してません。
久遠も書けず、なんだか久遠ファンやフェイトファンの方々に申し訳なく思います。
次回こそは必ず二人を書き、そして戦闘シーンも書きます!

こんな感じの作品に感想を頂けることを祈りつつ、次回の話を書きあげます。
それでは、次回の話で会いましょう。



[9239] 第十二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 22:47
トシアキがフェイトの家に帰って来なくなってから二日ほど経った。

フェイトとアルフは何度かジュエルシードを探しに外へ出ていたが、久遠はずっと玄関でトシアキの帰りを待っていた。

「くぅ・・・」

一応、フェイトがパンを置いてくれてはいるが、トシアキが心配な久遠は食べようとはしない。

「久遠。 私たち今日も行ってくるね」

「いい子で留守番してるんだよ?」

フェイトとアルフがそう声を掛けて、ジュエルシードを探しに外へ出て行った。

「トシアキ・・・・・・」

誰もいなくなったため、久遠は人間の姿になって玄関に座りこむ。

「寂しい・・・・・・さびしいよ、トシアキ」

涙を流しながらそう呟く久遠は震えていた。

「アサが死んだ時も、アキがいなくなったときもこんな気持ちだった」

そこまで言って、久遠はハッと顔をあげる。

「・・・・・・トシアキもいなくなる?」

言葉にして、不安な気持ちが大きくなった久遠は玄関のドアを開けて外に飛び出した。

「くぅ!!」

子狐の姿になり、トシアキの匂いを辿って海鳴の街を走り回る久遠。

探し回っている間、野良犬に吠えられたり、女子高生に騒がれたりしたが、トシアキを探すのに必死になって、久遠はそれどころではなかった。

「くぅ・・・」

そして、海鳴臨海公園にたどり着いた久遠。

トシアキの匂いは海の匂いと混ざり、ここからわからなくなってしまったのだ。

さんざん走り回ってしたため、いつの間にか日が沈んでおり、街灯に光が点灯し始めた。

「・・・・・・」

海の向こうを眺めながら、ジッと動かない久遠。

そのとき、久遠の足元で青い光が輝きだした。

「く!?」

海に沈んでいたジュエルシードが久遠の想いに反応して魔力を解き放つ。

「く、くぅ!?」

いつもの久遠ならば自分の妖力で撃退することが可能だが、二日間、食事をろくに取らず、さらに今まで残っていた体力でトシアキを探して走り回っていたのだ。

久遠はジュエルシードに取り憑かれ、自我をなくしてしまった。

「フォォォォォ!!!!」

一つのジュエルシードの魔力が解き放たれたため、近くに沈んでいた残りのジュエルシードも発動し、久遠のもとへ集まってきた。

「・・・・・・」

久遠の姿は昔の大妖狐の姿となり、全長五メートルほどの大きさとなった。

そして、みるみるうちに海が荒れ始め、暗黒の雲が久遠を中心に広がり、雷が鳴り響くまでとなってしまった。



***



時は少し遡ってアリサ邸。

トシアキは今日もアリサの家で夕食をとっていた。

いつも申し訳なく思うトシアキだったが、アリサの笑顔があるのならば構わないと鮫島から言われている。

「ふぅ、今日もうまかった」

「行儀が悪いわよ、トシアキ」

食事を終えた二人は紅茶を飲みながら今日の出来事を話ている。

「それで、昨日からなのはが学校に来なくなったのよ」

「そうなのか・・・・・・ん!?」

アリサの話を聞きながらコーヒーを飲んでいたトシアキだが、巨大な魔力が発生したことに気づいた。

「どうかしたの?」

「悪い。 仕事ができた。 今から行ってくる」

飲んでいたコーヒーを全て流し込み、席を立つトシアキ。

「ま、待ちなさいよ! いきなり仕事ってなに!? どういうこと!?」

アリサも慌てて席を立ち、トシアキの腕を掴む。

「言っただろ? 用事ができるまでって。 今、仕事が入った」

「・・・・・・・・・・・・もう、行くの?」

トシアキの腕を掴みながら、俯いて寂しそうに呟くアリサ。

「あぁ・・・」

そして、トシアキはそう返事して、その場に立ち尽くす。

「・・・・・・・・・ちゃんと、連絡しなさいよ」

「あぁ、アリサにもらった携帯もある。 いつでもってわけじゃないが、ちゃんと連絡するよ」

そう言って、ポケットに入れていた携帯を取り出して見せるトシアキ。

「・・・・・・じゃあ、もう止めない。 いってらっしゃい、トシアキ」

「行ってきます。 今度は一緒にどこかに遊びに行こうな」

最後にアリサの頭をソッと撫で、トシアキは開け放った窓から飛んで行った。

「・・・・・・」

一滴の涙を流したアリサはトシアキの飛んで行った方をしばらく眺めているのであった。

魔力反応があった場所である海鳴臨海公園にたどり着いたトシアキは目を疑った。

「な、なんだあれは!?」

そこには大きな狐が海の上空を飛んでおり、雷が鳴り響く暗黒な雲を自在に操っていた。

「トシアキさん!」

「敷島さん!」

そこになのはとユーノが合流する。

二人も魔力の反応をアースラで見ていたのか、驚いて大きな狐を見ている。

「あ、あれは・・・・・・」

「おそらくジュエルシードの影響みたいだね。 でも、魔力が強すぎる」

なのはの言葉にユーノがそう説明する。

しかし、トシアキは二人の会話を聞いていなかった。

「な、なんで・・・・・・」

微かに発せられたトシアキの言葉は信じられないものを見たときのようだった。

「あっ! あそこ!」

なのはが何かを見つけたのか、指を指した方をユーノとトシアキが見た。

「フェイト・・・・・・」

そこにはフェイトとアルフが戦闘モードで大きな狐を見つめていた。

「今回は手こずりそうだね」

「関係ないよ。 フェイトとあたしならすぐに解決さ」

フェイトはその場で魔法陣を描く。

「貫け、強雷!」

そして、フェイトが大きな狐に向けて黄色い魔法を放った。

「「!?」」

しかし、その魔法は当たることなく、手前で起きた爆発でかき消されてしまった。

「この爆発は・・・・・・」

「トシアキ!!」

フェイトとアルフは誰がやったのか気づき、あたりを見渡す。

すると、大きな狐を守るようにフェイトとアルフの前にトシアキが現れた。

「あいつには手をだすな」

「に、兄さ・・・」

「あんた! 今までどこにいたんだい!? それにフェイトの邪魔をするなんて!!」

フェイトはトシアキがなぜ自分の邪魔をしたのか、判らずただ困惑している。

アルフは味方のはずのトシアキの行動に苛立ちを覚えた。

「細かい話はあとだ。 それより、フェイト、アルフ」

いつもと違い真剣は表情で名前を呼ばれたフェイトとアルフはビクッと体を竦ませる。

「それから、なのは、ユーノお前たちもだ」

「な、なのはも・・・?」

「僕も・・・?」

トシアキの少し上にいたなのはとユーノも名前を呼ばれて首をかしげる。

「お前たちは手をだすな。 あいつは・・・・・・久遠は、俺が止める」

「「「「えっ!?」」」」

四人の驚いて発した声は奇しくも重なった。

「ユーノ、アルフ。 お前たちは協力して結界を・・・・・・頑丈な結界を張れ」

「・・・・・・」

「な、なんでこんな奴と!」

ユーノは無言でトシアキとアルフを交互に見て、アルフは今まで邪魔をしてきた敵と協力することをためらっていた。

「アルフ」

「っ!? わかったよ、トシアキがそう言うなら・・・」

ためらっていたアルフだが、トシアキの灰色で鷹のような鋭い視線を受け、仕方なく従うことにした。

「あんた、今回は協力するよ」

「・・・・・・わかりました」

アルフとユーノによって強大で、しかも強固な結界が作られた。

「なのは、フェイト」

「「は、はいっ!?」」

親に怒られるときのようにビクッと体を竦ませ、揃って返事をしたなのはとフェイト。

「お前たち二人は俺の邪魔をする奴が来たら撃ち落とせ」

「えっ、でも・・・・・・」

なのははトシアキの言葉にためらいを見せた。

「なのは。 俺に協力すればいい」

トシアキの言葉になのははビクビクしながら、コクコクと頭を縦に振った。

「フェイトもいいな?」

「う、うん」

そうして、フェイトが頷く姿を見て、トシアキは大きな狐――久遠に向かって行った。

「グオォォォォ!!」

久遠は自分の上空にある暗黒の雲を丸い球にして、それを向かってくるトシアキに放つ。

もちろん雲には雷が流れており、簡単に言うとサンダーボールだろうか。

それらをいくつも放っていく。

「・・・・・・」

飛んでくるそれらをいとも簡単にかわしていくトシアキ。

その後ろでは、なのはが当たらないように慌てて回避行動をとっていた。

「わわっ!?」

「・・・・・・」

フェイトの方は無言で当たらないように避けていく。

「はっ!」

避けながらトシアキは久遠の真下の海に手を向ける。

すると、荒れていた海が久遠の真下だけ静まり、海水が久遠めがけて突き上がってきた。

「!?」

海水の直撃を食らった久遠だが、驚いた程度で大したダメージにはなっていない。

「ふっ!」

その隙に、久遠が支配下に置いていたサンダーボールの一つを久遠目掛けて投げつけるトシアキ。

「っ!?」

久遠がそのことに気づいたときにはすでにサンダーボールは目の前にあり、海水で水浸しになった久遠にぶつかり、電流が身体中に流れた。

「キギャァァァァァ!!!?」

身体中に電流が流れた久遠だが、それでもなお宙に浮いてトシアキと対峙している。

「はははっ・・・・・・さすが、久遠。 やっぱり強いな」

「・・・・・・」

さきほどのトシアキの攻撃で警戒したのか、久遠はトシアキの様子をうかがっている。

「じゃあ、今度はこっちからいくぜ!」

そう言ったトシアキの背後に氷の槍が無数に現れた。

そして、氷の槍は回転し始め、鋭さを増していく。

「いっけぇ!」

トシアキの声を合図に、先が鋭くなった氷の槍は久遠目掛けて飛んで行く。

「・・・・・・」

それを先ほどのトシアキと同じように素早く回避し、そのままトシアキに向かってくる久遠。

「やっぱり、お前は最高だよ!!」

向かってくる久遠にそう言って、トシアキは久遠が通ってくるであろう空間を見つめる。

「・・・爆ぜろ」

そうすると、その視線の先で小規模の爆発が起こった。

「まだまだまだまだぁ!!」

その後も立て続けに爆発が起こり、爆煙で久遠の姿が見えなくなるまで爆発は続いた。

「や、やったか・・・・・・」

久遠の姿が見えないため、トシアキは止めることに成功したと考える。

「っ!?」

爆煙の中から巨大な久遠の手が現れ、トシアキはそのまま爪で切り裂かれ、遠くまで飛ばされてしまった。

「げほっ!?」

そして、海の上から海鳴臨海公園の大きな木の根元まで飛ばされたトシアキはそのまま木に叩きつけられた。



***



トシアキと久遠が戦っている様子を遠くで見ていたなのはとフェイト。

「・・・・・・凄いね」

「・・・・・・うん」

今まで敵としてジュエルシードを巡って争っていた二人がこうして話をしていた。

「あの・・・・・・フェイトちゃん」

「・・・・・・なに?」

なのははずっと聞きたかったフェイトのジュエルシードを集めるわけを聞いてみようと思った。

「どうして、ジュエルシードを集めているの?」

「・・・・・・母さんが、必要としているから」

「そっか・・・・・・お母さんのために・・・」

フェイトとなのはが会話をしている間も、トシアキと久遠が戦っている。

「トシアキさんとは、どういう関係なの?」

「兄さんとは協力関係・・・かな? ジュエルシードを探すのを手伝ってもらう代わりに一緒に住んでる」

フェイトもいまいちよくわかっていないようで、首をかしげながら答える。

「じゃあ、兄妹じゃないんだよね?」

「うん、そうなるかな」

「どうして、兄さんって呼んでるの?」

なのははずっと気になっていたトシアキの呼び方について聞いてみる。

「・・・・・・兄さんがそう呼んでくれって」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

二人の間にしばらく沈黙の時間が流れる。

「そ、そうなんだ・・・」

トシアキの意外な一面を知り、苦笑しながらそう返すのであった。

「・・・・・・来る」

「へっ?」

フェイトがそう言ったあと、なのはとフェイトの目の前にバリアジャケットを装備したクロノが現れた。

「なのは! 君は一体なにをやってるんだ!?」

「えっ!? えっと・・・・・・」

突然現れ、なのはにそう怒鳴るクロノ。

「君の任務はジュエルシードの確保だろう。 こんなところにいないで早く止めにいくんだ!」

「で、でも、トシアキさんが・・・」

トシアキに言われたことを守ればいいのか、クロノの言う通り任務をこなせばいいのか分からずオロオロとするなのは。

「彼の言うことなんて聞かなくていい! さぁ、早く! 街が危険にさらされる前に!」

「で、でも・・・・・・」

クロノの言葉にやはり、戸惑いを見せるなのは。

そんな、なのはの姿を見ていたクロノが頭をかきむしった。

「もういい! 僕が止めに行く」

そう言って、クロノはなのはに背を向けて、久遠とトシアキが戦闘している場所に向かおうとする。

「・・・・・・なんの真似だ?」

そんなクロノの前にフェイトがバルディッシュを構えて立ちふさがった。

「兄さんの邪魔はさせない」

「そこを退くんだ! あの狐はジュエルシードの影響でSSクラスの魔力を持っている。 このまま彼だけに任せるわけにはいかない」

そう言ってクロノも自分のデバイスを構える。

「それでも、私は兄さんを信じてる。 だから、邪魔はさせない!」

「なら、君を倒して行くまでだ!」

クロノは自分の背後に青い魔法をいくつも出現させる。

「行かせない!」

対するフェイトも黄色い魔法を左右に展開させる。

そして、クロノとフェイトの戦闘が始まった。

「わっ! ど、どうしよう・・・」

遠くでは久遠とトシアキの戦闘が、そして目の前ではフェイトとクロノの戦闘が行われている。

ユーノとアルフは結界を維持するので精一杯のようで、なのはは助けを求めることもできない。

「ど、どうしたら・・・」

あちこちに視線をやりながら考えるなのは。

そのとき、遠くで戦っていたトシアキが吹き飛ばされ、海鳴臨海公園へ飛ばされたのが見えた。

「トシアキさん!!」

思わずなのははそう叫び、その声に気づいたフェイトとクロノも戦闘を中断して、トシアキの方を見る。

「あのバカっ!」

クロノはそう言って久遠を止めようとするが、やはりその前にフェイトが立ちふさがる。

「・・・・・・行かせない」

「君は! 彼がああなっているというのにまだそんなことを!」

「私は兄さんを信じてる。 だから、きっと大丈夫」

そうして、クロノとフェイトが再び戦闘を始めた。

「だ、ダメぇ! フェイトちゃん! クロノ君! やめて!」

なのはが必至に止めようとするが、二人の戦闘は止まらない。

「レイジングハート! お願い!!」

【わかりました。 バインド発動】

レイジングハートがバインドを発動して、クロノとフェイトの戦闘を止める。

「なっ!?」

「っ!?」

二人とも高ランクの魔導師だが、戦闘を行っていたため疲れがあり、いつものようにバインドを簡単に解除できない。

「二人ともおとなしくするの! ディバイン・・・」

そう言ったなのはが構えるレイジングハートに魔力が集まってくる。

「バスター!!」

そして、その魔力がバインドで動きを封じられたクロノとフェイトに襲いかかる。

「うわあぁぁぁ!!!?」

「きゃあぁぁぁ!!!?」

なのはの攻撃により、フェイトとクロノが沈静化されたのである。

その様子を見ていたアースラの面々。

「す、すごい魔力・・・」

「これは軽くSランクに達してるんじゃ・・・」

オペレーターの二人がなのはの魔力を見てそう呟く。

「そんなことより、クロノ君だよ! アースラの切り札がやられちゃったらダメじゃん!」

同じく映像を見ていたエイミィがそう言う。

「そうね・・・・・・このままじゃ大変なことになるかもしれないわね」

「どうします? 艦長」

リンディがモニターを見ながら考える。

フェイトとクロノは使えない状態で、ユーノとアルフは結界を張っているため無理。

唯一無事ななのはだが、先ほどのバインドとディバインバスターで魔力をかなり消耗している。

「・・・・・・彼はどうかしら?」

もう一つのモニターに映し出されているトシアキは木に背を預けながら、久遠が近づいてくるのを見て、微笑んでいた。

「・・・・・・彼に任せましょう。 なにか考えがようだし」

「よ、よろしいのですか?」

「えぇ。 もし彼でもダメだった場合は私が出ます」

そう言ってアースラの面々は様子見ということで落ち着いた。

ただ、モニターに映し出されているトシアキの笑顔が気になるリンディであった。



~おまけ~


木に背中を預けているトシアキは久遠が近づいてくるのを待っていた。

「いてて・・・・・・もし、あいつが魔法を使ってきたら危ないところだった」

遠くに見える久遠は一歩ずつ近づいてくる。

「おそらくさっきの戦闘で妖力を全部使い果たしたな」

そう言いながらも、立ち上がれないトシアキ。

トシアキも久遠に吹き飛ばされたとき、腹部を爪で引き裂かれ、血を流していた。

「ここで魔法を使えば、俺の魔力もなくなる・・・・・・我慢するしかねぇな」

血を流しながらも回復に使用すれば作戦が出来なくなる。

そうなってしまっては本末転倒だ。

「・・・・・・遅いな、久遠の奴」

先ほどの戦闘での警戒がまだ残っているのか、久遠は一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。

「・・・・・・・・・もしかして、俺。 魔法を使う前に死ぬかも」

出血多量で死んでしまうのではないかと心配するトシアキであった。



~~あとがき~~


さてさて、十二話更新ですw
再び登場した久遠がなんとジュエルシードにとり憑かれた!!

戦闘シーンを書きましたが、やはり難しい!
他の人たちはもっと上手くかいてるんだろうなぁ・・・などと思いながら書きあげました。

次回はジュエルシードに憑かれた久遠はどうなるのか!?
そして、やられたトシアキの命の行方は!?
さらに、なのはにやられたクロノ、フェイトの両名の運命は!?
と、いうところでお別れです。
今回の作品の感想や意見を頂けることを願って・・・また、会いましょうw



[9239] 第十三話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 23:00
海鳴臨海公園の大きな木の根元でトシアキが腹部から血を流して、寄りかかっていた。

「っ!? さすがに動いたら痛いな・・・」

痛みで思わず顔をしかめ、そう呟いたトシアキ。

そこに、ジュエルシードにより体を乗っ取られている久遠が降り立った。

「・・・・・・」

恐らく、敵と認識したトシアキにとどめを差すつもりなのだろう。

ジュエルシードから久遠を助け出すために戦ったトシアキだが、長年生きていた久遠は伊達ではなく、強敵であった。

「俺に、とどめを差しにきたのかよ?」

「・・・・・・」

トシアキの言葉にも答えず、ゆっくりと近づいてくる久遠。

そして、久遠の手がトシアキに届くかどうかというとき、突然、久遠の目の前の地面が割れた。

「!?」

「へっ・・・」

驚いている久遠に割れた地面から大きな木の根が出てきて、久遠に絡みつく。

それをトシアキは作戦が成功したと、微笑んだ。

「それで、動けなくなったろ・・・」

絡みつく木の根を振りほどこうと暴れる久遠だが、大きい木の根はそう簡単に引きちぎることは出来なかった。

「悪く思うなよ、久遠」

そう言ってトシアキは久遠の額に取り憑いていた三つのジュエルシードをもぎとった。

「俺の・・・・・・勝ちだ」

右手に三つのジュエルシードを握ったままで、トシアキは意識を手放した。

トシアキの意識がなくなったことにより、久遠に絡みついていた木の根はそのまま地面に戻って行った。

「・・・・・・」

木の根から解放され、ジュエルシードの影響がなくなった久遠は元の子狐の姿になり、地面に横たわる。

「・・・・・・く? くぅん?」

しばらくして、意識を取り戻した久遠は自分がいる場所を確認するためにあたりを見渡す。

「く!?」

そこで、血まみれのトシアキを発見した久遠は急いで人間の姿になり、トシアキのもとに駆け寄った。

「トシアキ! トシアキ!」

何度かトシアキを揺さぶった久遠だが、トシアキから流れて出ているおびただしい量の血を見て、顔色が真っ青になった。

「トシアキ、起きて。 おきてよぉ・・・・・・」

涙を流しながらそう言った久遠の願いが届いたのか、痛みで顔をしかめながらも目を開けたトシアキ。

「く、久遠か・・・・・・」

「トシアキ!」

嬉しそうに泣きながら微笑む久遠。

そんな久遠を見て、トシアキもホッと安心したようだ。

「よかった、元に戻ったんだな・・・」

「くぅ?」

ジュエルシードに取り憑かれているときの記憶がない久遠はトシアキの言葉に首を傾げる。

「なんでもない。 気にす・・・うっ!?」

左手で久遠の頭を撫でようとしたトシアキだが、体が動いたため傷口が刺激されたようだ。

「と、トシアキ!?」

「俺がいなくなっても、久遠は大丈夫だよな?」

そう言うトシアキにブンブンと首を振って否定する久遠。

「いや! 久遠、トシアキと一緒。 ずっと一緒!!」

「けど、俺・・・・・・」

言葉がかすれていき、目も段々と閉じていくトシアキを見て、久遠が泣き叫んだ。

「いやぁ! アサみたいに死んじゃヤダ!」

「はは・・・・・・誰だよ、アサって・・・」

苦笑したトシアキの意識も既に限界のようであった。

「いやぁぁぁ!!!」

久遠は泣いた。

涙を流し泣き叫んだ。

「久遠、トシアキとずっと一緒!!」

何かを決意した久遠は涙を流しながら、トシアキの血で染まった両手で地面に何かを描き始めた。

絵のようでもあり、文字のようなものでもあるそれは一般人から見ればただの落書きに見える。

「そ、その魔法陣は!?」

久遠が描き上げているものはトシアキの世界に伝わる契約の魔法陣であった。

おもに、魔法使いが使い魔を作るときに使用するものであった。

「ば、バカ! やめろ!! それは・・・・・・」

必死で止めようとするトシアキだが、もう体を動かす力すら残っていない状況だ。

「アサが教えてくれた。 一緒にいたい人が出来たらこれを使うって」

「久遠、お前・・・・・・」

久遠がトシアキの血で綺麗に描き上げた魔法陣。

そして、その上に立った久遠は自分の指を噛み、血を流す。

「これで、久遠とトシアキはずっと一緒」

「久遠!!」

久遠の指から血がポタリと魔法陣の上に落ちた。

すると、魔法陣が光に包まれ、久遠の姿を飲み込んだ。

「それは、その魔法陣は・・・・・・」

そう言ったトシアキの腹部の傷が徐々に回復していき、魔力も段々と戻ってくる。

そして、光が収まった魔法陣の上には腹部に傷を負い、白と赤の巫女服を真赤に染めていた久遠がいた。

「トシアキ、良かった・・・」

「バカヤロウ! 俺が無事でも、お前は全然、無事じゃないじゃないか!」

そう怒鳴りながら、戻った魔力で久遠の傷を治してやるトシアキ。

「あったかい・・・・・・」

「喋るな。 もう少し、魔力がいるな・・・・・・くそっ!」

久遠はトシアキの腕に抱かれながら傷を負っているにも関わらず微笑んでいた。

「・・・・・・久遠?」

「これで、トシアキと、ずっと、一緒・・・」

そのまま久遠は目を閉じて眠ってしまった。

「ちっ」

軽く舌打ちをしたトシアキは久遠を抱えてなのはたちがいる海上へ向かった。



***



少し前に遡って海上のなのはたち。

なのはの桃色の魔法が消え、撃たれたクロノはそのまま空中にいた。

「はぁっ、はぁっ・・・・・・」

肩で息をしているところをみると、バインドをなんとか抜け出し、咄嗟にシールドを張ったのだろう。

外傷はとくにないようであった。

そして、フェイトはバインドを抜け出すことが出来なかったようで直撃を食らい、真下の海へ向かって落ちていた。

「フェイトちゃん!!」

自分で撃っておいてなんだが、なのははフェイトを助けようとそちらに向かう。

「きゃっ!?」

しかし、なのはに橙色の魔法が襲いかかり、思わずなのははその場で立ち止ってしまう。

「・・・・・・」

フェイトの方を見ると、アルフがフェイトを抱えて、なのはを睨みつけていた。

「フェイトちゃん・・・」

そんななのはの呟きが聞こえたのか、怒りをあらわにしてアルフが叫ぶ。

「あんたは! フェイトをこんなにして!」

「で、でも・・・」

「うるさい!! トシアキが言ったから協力したけど、許せない・・・・・・フェイトをこんなに傷だらけにして・・・」

アルフに睨まれ、何も言えなくなってしまうなのは。

「アルフ!」

そこに傷を負っている巫女服を着た少女を抱えたトシアキがやってきた。

「トシアキ! あんた・・・」

「早く引くぞ!」

「う、うん・・・」

トシアキの言葉を聞いて、アルフは自分の魔法を海に叩きつけた。

「きゃっ!?」

その水しぶきで視界を遮られたなのは。

そして、気付いたときにはその場所には誰もいなくなっていた。

「・・・・・・あ、あれ?」

「エイミィ、探索は!?」

クロノも見失ったのか、アースラに連絡を取りすぐさま確認する。

「ご、ごめん、クロノ君。 こっちに次元干渉で魔力攻撃があってシステムが一時ダウンしてるの」

「くそっ!」

「・・・・・・」

エイミィからの連絡を聞いて、クロノは悪態をついた。

そして、なのははあのとき睨まれたアルフの怒りと悲しみが混ざった表情を忘れられなかった。

「三人とも、戻ってきて・・・・・・そして、なのはさんとユーノさんには私直々のお叱りタイムです」

リンディからの連絡を受けて、なのはたち三人はアースラへと帰還するのであった。

アースラに戻った三人はそのままの足で会議室へ向かう。

「お帰りなさい。 今回はよくやってくれました。 街にも被害は出なかったようですし・・・」

そう言って出迎えたリンディになのははパァと表情を明るくさせる。

「しかし、指示や命令を守るのは個人のみならず、集団を守るためのルールです。 勝手な判断や行動が他のみんなを危険に巻き込んだかも知れないということ、それはわかりますね?」

続けてリンディが言った言葉に今度はシュンと落ち込むなのはであった。

「「はい・・・」」

「本来なら厳罰に処すところですが、結果として被害が出なかったわけですし、今回のことについては不問とします」

そのリンディの言葉に怒られていたなのはとユーノは顔を見合わせた。

「ですが、二度目はありませんよ?」

「はい・・・」

「すいませんでした・・・」

なのはとユーノは反省した様子で揃って頭を下げた。

「それから、クロノ。 事件について何かわかったことは?」

そして、リンディは後ろに控えていたクロノに話を振った。

「はい。 いろいろと調べてみたのですが、フェイト・テスタロッサと名乗った少女のファミリーネームがこの・・・」

そう言いながらモニターに映し出された人を指して言う。

「ミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスサロッサと同じなのです」

「そう言えば、フェイトちゃん。 あの時、お母さんのためにって・・・」

海の上で話したことを思い出したなのはがそう言った。

「この人が、フェイトちゃんのお母さん・・・・・・」

モニターに映し出されたプレシアを見て、なのははポツリと呟いた。

「それから、敷島さんのことについてだけれど・・・」

「艦長! やはりあの男は信用なりません! 今だって、姿を消して現れない」

クロノは大声でそう言った。

「彼のことはわかってるわ。 確かにジュエルシードの暴走を止めたことは評価できるけど、姿を見せず、手にしたジュエルシードを持っていなくなる・・・・・・トシアキさんも対象にしておいた方がいいわね」

トシアキと契約を交わしたリンディだが、さすがに見過ごせない状態となった。

「そんな・・・・・・」

なのはがそんなリンディたちの会話を聞いて、トシアキと戦うことを考えたのか、表情が暗くなった。

「なのは・・・」

そんななのはを心配そうに見つめたユーノ。

「これから、プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ、敷島トシアキの三名を逮捕する任務につきます。 こちらで捕獲したジュエルシードの残りはこの三名が所持していると思われます」

リンディがユーノとなのは、そしてクロノにそう言った。

「これからは三名の探索、逮捕が最優先事項となります。 皆さん、気を付けて任務にあたってください」

そうして、その場での話合いは終了し、なのはたちはトシアキと戦うことになってしまった。



***



フェイトの家に着いたトシアキは傷を負った久遠をソファに寝かせ、自分の魔法を使って必至に治していた。

「頑張れ、久遠。 絶対に治してやるからな・・・」

そして、ボロボロになったフェイトの手当をしていたアルフが口を開く。

「まさか、久遠も人間の姿になれたなんてね。 驚きだよ・・・」

「こいつはもう数百年生きてるからな、お前より先輩なんだぞ?」

「・・・・・・確かに、あの魔力は凄かった」

傷の痛みで顔をしかめながら、フェイトも会話に入る。

「正確には妖力だがな・・・・・・そうだ、フェイト。 これ」

そう言ってトシアキは久遠に憑いていた三つのジュエルシードをフェイトに渡す。

「あ、ありがとう・・・」

ゆっくりとジュエルシードを受け取ったフェイトは今まで手に入れたジュエルシードを取り出す。

「・・・・・・九個だね」

「うん。 残りはあの子に取られちゃったから・・・」

宙に浮いているジュエルシードの数をアルフが呟く。

全部で二十一あるジュエルシードの九つがここにあった。

「母さんに渡してこないと・・・」

「フェイト! 無理しちゃダメだよ。 あとで行こう?」

傷だらけのフェイトが立ち上がったが、アルフが必至にそれを止める。

「早く、母さんを笑顔にさせてあげたいから」

「で、でも・・・・・・」

「兄さん、私は行ってくるね?」

そう言ってフェイトはそのまま玄関に向かう。

「あぁ。 俺はしばらくここにいて、久遠を治すよ」

「うん、それじゃあ」

その会話を最後に、フェイトは外に出て行ってしまった。

「トシアキ」

「ん?」

アルフが真剣な声でトシアキに呼びかける。

トシアキもそんなアルフの様子に気づいたのか、キチンとアルフの方へ向いて姿勢を正す。

「あたしに何かあったら、フェイトを頼むよ?」

「おいおい、なに縁起でもないことを・・・」

「・・・・・・」

真剣は目で見つめられたトシアキはアルフが何を思って、この言葉を発したか理解してしまった。

「・・・・・・お前がいなくても、フェイトは悲しむぞ?」

「あたしは、フェイトの使い魔だからさ。 フェイトを傷つける奴は許せないんだ」

そこまで言って、アルフはトシアキに背を向けて、フェイトのあとを追いかける。

「生きて、帰ってこいよ・・・」

「わかってるさ」

アルフはそれだけ言ってフェイトのもとへ転移していった。

転移が成功し、プレシアがいる時の庭園についたアルフの耳に聞こえたのは鞭の打つ音と、フェイトの痛みを耐える声であった。

「っ!? フェイト!!」

アルフがフェイトのもとにたどり着いたとき、傷を増やしたフェイトが床に倒れているだけであった。

「フェイトぉ・・・・・・」

そんなフェイトを抱き起し、安否を確認したアルフはキッと奥の部屋を睨みつける。

その奥の部屋では、フェイトが持ち帰ったジュエルシードを見て考え事をしているプレシア・テスタロッサがいた。

「たった九つ・・・・・・これでも次元震は起こせるけど、アルハザードには届かない・・・ゴホッ! ゴボっ!」

突然、咳込んだプレシアは真っ赤な血を吐きだした。

「もう、あまり時間がない・・・・・・」

その時、プレシアの後ろの扉が破壊され、そこから怒り心頭のアルフが姿を見せた。

「・・・・・・」

だが、そんなアルフを一瞥しただけで、プレシアはどうでもよさそうに顔をそらした。

「っ!?」

アルフはそんな態度をとったプレシアに我慢できず、後ろ姿に拳を叩きこむ。

しかし、強力なシールドによって、アルフは弾き返されてしまった。

それでもあきらめずに何度か拳を叩きこむとシールドは砕け散った。

「あんたは母親で! あの子はあんたの娘だろ!?」

プレシアの胸倉を掴み、そう怒鳴りつけるアルフ。

「あんなに頑張ってる子に・・・あんなに一生懸命な子に・・・何であんなにヒドイことが出来るんだよ!?」

そう怒鳴ったアルフは気が付くと、腹にプレシアの魔法を受けて、後方に飛ばされていた。

「っ!!?」

「あの子は使い魔の作り方が下手ね・・・・・・余分な感情が多すぎるわ」

そう言いながら飛んで行ったアルフに近づいてくるプレシア。

「フェイトは・・・あんたに笑って欲しくて、優しいあんたに戻って欲しくて・・・」

「ふっ」

アルフの言葉を聞いたプレシアはつまらなさそうに笑い、デバイスを取りだす。

「邪魔よ、消えなさい!!」

「っ!?」

プレシアが持つデバイスから魔法が放たれる瞬間、アルフは転移魔法を使用する。

「フェイト、トシアキ・・・・・・ごめん、約束守れそうにないよ」

薄れていく意識のなか、アルフはそう呟いてどこかに転移した。

「・・・・・・」

消えていくアルフの姿を見届けたプレシアはそのままフェイトがいる部屋に向かう。

「フェイト、起きなさい」

「っ・・・・・・はい、母さん」

プレシアの声に反応して、フェイトは傷の痛みに顔をしかめながら目を開けた。

「あなたが手に入れてきたジュエルシード九つ。 これじゃ足りないの」

「はい・・・」

返事をしたフェイトはそのまま体を起こそうとして、自分にかけられていた服に気がついた。

「アルフ?」

「あぁ。 あの子は逃げ出したわ。 怖いからもう嫌だって」

そう言って寂しそうに俯くフェイトを支えるプレシア。

「必要ならもっといい使い魔を用意するわ。 あなたの本当の味方は母さんだけよ。 いいわね、フェイト」

「・・・・・・はい、母さん」

プレシアの視線から目をそらし、静かに頷くフェイト。

そして、プレシアに言われるまま、ジュエルシードを手に入れるため再び地球に戻っていった。

「ただいま・・・」

「おぉ、フェイト。 帰ってきたか・・・・・・アルフはどうした?」

フェイトが自宅に戻ってくると、トシアキは笑顔で迎えた。

しかし、いつもフェイトのそばにいたはずのアルフの姿が見えず、表情を真剣なものに切り替えるトシアキ。

「うん。 アルフは私がダメな子だからいなくなっちゃった・・・・・・」

「・・・・・・」

そう言ったフェイトを黙って見つめるトシアキ。

「兄さんも、今までありがとう。 今日から私一人で頑張るから・・・」

「・・・・・・それが、お前の出した結論か?」

「うん。 兄さんに私の我儘で怪我をさせちゃったし、久遠にも・・・」

フェイトはトシアキと目を合わせず、俯き加減でそう言った。

「俺は・・・・・・俺と久遠、そしてアルフはどんなことがあってもお前の味方だぞ?」

「ううん。 私の所為で皆が怪我をする・・・・・・だから、私は一人で、母さんだけが味方でいい」

「・・・・・・・・・そうか」

フェイトの言葉を聞き終えたトシアキは静かに頷くとソファで眠っている久遠を抱きかかえた。

「今まで、世話になった。 フェイトも頑張れよ」

最後にトシアキは立ち尽くすフェイトの頭をソッと撫で、今までともに過ごしてきた部屋を去って行った。

「うっく・・・・・・ひっく・・・・・・」

誰もいなくなった部屋で、フェイトは泣き声が出て行ったトシアキに聞こえないように静かに涙を流した。



~補足説明~


久遠が使用したトシアキの世界の魔法陣は術者(以後、主)の血液を使用して魔法陣を描く。

その魔法陣の上に契約したい相手(以後、従者)を立たせ、従者自らの手で自らの血を魔法陣に落とせば契約は成り立つ。(両者の合意が原則となる)

契約が成立すると、本人たちだけに見える契約線が現れる。

主な効果や内容。

・主は従者の能力を得ることができる。(従者が主の能力を得ることはできない)

・主の負った傷を従者が変わりに負うことができる。(従者の意思でそれが可能)

・主は従者の力を得ることができる。(契約線から自動的に流れてくる)

・主の命令は従者にとって絶対的なものとなる。(ようするに逆らえない)

・お互いの場所がすぐにわかる。(契約線があるため)



~~あとがき~~


ようやく十三話更新しました。
かなり前回に比べてかなり時間がたってしまいましたが、なんとか書きあげました。

さてさて、今回の内容ですが・・・・・・プレシアついに登場!!
ここから戦闘シーンが多くなり、私の下手な文章で書いていきますが、最後まで見捨てないでくださいww

感想や意見、誤字の指摘など大歓迎ですので、たくさん書いて頂けると嬉しいですw
それでは、次回の作品で会いましょうw



[9239] 第十三.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 23:11
遥か昔、日本が戦国時代にあった頃、海鳴の街はまだ名もない小さな村だった。

その村は小さく、貧しいながらも、周りを海と山に囲まれていたため、漁や狩りを行うことができ、村人たちの食糧には困ることがなかった。

「ん? 誰だ!? うちの商品を勝手に持ってた奴は!!」

そんな平和は村でここ最近、毎日起きている事件があった。

「今度はあんたのところか。 しかし、いつも気づいたらなくなるんだよな」

店の商品や家に置いてあるものが一つ、無くなるのである。

「くそぅ! 犯人を見つけたらタダじゃおかねぇ・・・」

「まぁまぁ、そう怒るなよ。 みんな被害にあってるんだからさ」

そういう会話をしている村人たちを見て、屋根の上にいた少女はクスクスと笑みをこぼした。

「♪~」

聞いたこともない歌を口ずさみながら少女は人目につかないところへ飛び降りた。

そして、何事もなかったかのように村人に混じって表通りを歩きだす。

「ん?」

表通りに出てきた少女の姿を見た旅の法師は不審に思い、声をかける。

「お主、人間ではないな?」

「っ!?」

突然、声をかけられた少女は自分の正体が気付かれたことに驚いて、そのまま何も言わずに走りだした。

「逃がさん!!」

少女を追いかけるようにして、法師も走り出す。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

息を切らしながら少女は近くの森の中に入って行く。

森の奥深いところまで入った少女は、もう追ってはこないだろうと安心して、木に寄り掛かる。

「そこか!?」

しかし、少女の予想とは違い、法師は追ってきて何かを少女に投げつけた。

「くぅ!?」

投げつけられた何かは紙で出来ており、そこには読めない文字がたくさん書かれていた。

そして、その紙に触れた少女は痛みで思わず声をだし、姿が見えなくなった。

「むっ!? 逃げられたか・・・・・・」

法師が確認するように少女が先ほどまでいた場所に向かう。

「狐、それも子狐か・・・・・・」

そこには投げつけた紙を体に巻きつけた子狐がいた。

「今までの村での騒ぎはこの狐が化けて、悪戯をしていたのだな」

法師は懐から小さな刃物を取り出し、その場にしゃがみ込む。

「悪く思うな、これも村人が平和に過ごすためだ」

刃物を振り上げて、子狐に振りおろそうとした瞬間、法師の顔に強烈な蹴りが入った。

「ぐぉっ!?」

今の一撃で鼻が折れたのだろうか、鼻から大量の血が流れ出ていた。

「な~に可愛い小動物を殺そうとしてんだ、テメぇ?」

法師の顔面に蹴りを放ったのは、黒くて長い髪をポニーテールで纏めており、戦国時代ではありえない服装をした女性であった。

「な、何奴っ!」

「あたしか? あたしはアサ。 苗字は嫌いだから捨てたからない」

そう言いながらアサはポケットから煙草を取り出し、口にくわえる。

「えぇ~と、我が身に纏う火の精霊よ、力をかしたまえ」

面倒くさそう呪文を唱えたアサは指先に火をだし、煙草に火をつける。

「なっ!? 火が突然!!?」

「あ? まだいたの? さっさと行けよ」

煙草を吸いながら法師を見て、そういったアサ。

「おのれ! さてはお主も妖怪の類だな!? 成敗!!」

そう叫んだ法師は背負っていた巨大な筒を取り出す。

「なんだそれ?」

「火縄の巨大型よ・・・・・・消し飛べ! 妖怪!!」

アサに筒を向けた法師は点火し、火縄の巨大型を発射させる。

「えっと・・・・・・我が身を守りし風の精霊よ、どうしよっかな・・・・・・むかい来るものを・・・・・・ん~我が身から逸らしたまえ」

呪文のところどころに余計な言葉を入れながらそう呟いたアキ。

すると、向かってきた巨大な弾はアキの身体を避けるようにして進み、後ろの大きな木に被弾した。

「なっ!?」

「じゃあ、今度はこっちの番な?」

弾が目標を避けたことに驚いている法師に向かって、アキは再び呪文を唱える。

「我が身のそばに在りし、木の精霊よ。 適当にあいつを痛めつけて、放り出してくれ」

もはや呪文というより、お願いに近い形でそう言ったアキ。

すると、森の中の木が一斉にざわめき始めた。

「な、なんだ!? 何が起こっ・・・・・・ぐっ!!?」

驚いている法師の頭上に大きな木の枝が降ってきた。

「な、なぜこんなものが・・・・・・おぉ!?」

法師の足元からも木の根が現れ、足に絡みつく。

「う、動けん!? 貴様! 一体何を・・・・・・」

法師が足元から視線を戻したとき、すでにアキと子狐の姿は見えなくなっていた。

「ど、どこに・・・・・・・・・う、うわぁぁぁぁ!!?」

森の中に法師の叫び声が響き渡った。

「・・・・・・やり過ぎたかも」

子狐を抱えた状態で歩いていたアキは叫び声を聞いてポツリとそう呟いた。

さらに森の奥へ進んだアサは眠ったままの子狐を降ろして、起きあがるのを待つ。

「・・・・・・くぅん?」

「あっ? 目が覚めたのか?」

煙草をくわえたままの状態でアサは子狐に問いかける。

「・・・・・・」

子狐は警戒した様子でアサのことをジッと見ている。

「そんない警戒すんなよ、あたしはアサって言うんだ。 よろしくな?」

「・・・・・・」

自己紹介するアサを見つめるだけで、子狐は動こうとしない。

「ん? お前、怪我してんのか・・・・・・」

怪我を負っているらしい、子狐に近づいて、アサは怪我の場所を探す。

「足か・・・・・・よく、こんな傷で走っていたな」

そう言いながら怪我をしている足に手を当てるアサ。

「我が身を纏いし癒しの精霊よ、この子狐の怪我を治したまえ」

アサの言葉とともに、子狐の足の怪我がみるみるうちに塞がっていく。

「くぅ!?」

「よし、これでいいだろ。 もう人里に近づくなよ? この世界の人間は妖怪を退治するのが当たり前らしいからな」

そう言って、アサは子狐をその場に残して去っていく。

しばらく森の中を歩いていたアサだが、ふと後ろに気配を感じて振り返る。

「・・・・・・なんで付いて来てんだよ」

先ほどの怪我を治してやった子狐がアサの後ろをトコトコとついて来ていた。

「お前はここで生活してんだろ? 自由に過ごせ。 あたしなんかに付いても何もやれんぞ?」

「くぅ!」

それでも構わないというように鳴き声を上げ、子狐はアサの足元にすり寄ってきた。

「はぁ・・・・・・・・・仕方ない。 じゃあ、一緒に行くか」

「くぅん!」

そうして、アサと子狐が行動をともにするようになったのである。

数週間が経ち、アサは子狐が人間の姿に化けたときに困らないように言葉を教えていた。

「そう言えば、お前の名前を聞いてなかったよな?」

「くぅ?」

可愛らしい着物を着た少女に化けている子狐はアサの問に首を傾げる。

「名前だよ。 な・ま・え! あたしはアサっていうだろ? お前はなんて呼ばれてたんだ?」

「名前、ない」

「は?」

少女の言葉にアサは素っ頓狂な声を出してしまった。

「生まれたら誰もいなかった。 ずっと、一人。 だから、呼ばれたことない」

そう言う少女の表情は少し、寂しそうなものに見えた。

「そっか。 じゃあ、あたしが名前を付けても問題ないよな?」

「くぅ?」

「ん~~、そうだな・・・・・・・・永遠のときを生きて行けるように『久遠』という名前にしよう。 いや、する」

しばらく考えたアサはそう言って一人で頷く。

「く、おん?」

「そう。 久遠。 お前の名前は今日から久遠だ!」

「くおん・・・・・・久遠・・・・・・」

自分の名前を何度も確認するように呟く少女――久遠。

「くぅん!!」

そして、嬉しそうに微笑んだ。

「ははは・・・・・・喜んで貰えてなによりだ。 そうだ、ついでに御まじないを教えてやろう」

「く?」

アサはそばに落ちていた木の枝を拾い、地面になにか文字のようなものを描く。

「ここはこうやって・・・・・・そして、こうするっと・・・・・・」

「アサ、これなに?」

地面に書き上げられたものを見て、久遠は首を傾げる。

「これはお前がずっと一緒にいたいと思える奴に出会ったとき、その人の血でこれを描くんだ」

「難しい・・・・・・」

そう言って、眉をひそめながら地面に描かれたものをジッと見つめる久遠。

「それで、血で描かれたこれの上に久遠が立って、自分の血を一滴落とす。 そうすると、その人とずっと一緒にいられるようになる」

「じゃあ、アサとずっと一緒にいたい」

久遠はそう言って、アサを見つめる。

「あたしに血を出せってか? ダメダメ、あたしの血はそんなにないよ」

「くぅ・・・」

いかにも残念そうに俯く久遠を見て苦笑したアサは、久遠の頭に手を置いてグシグシと乱暴に撫でた。

「久遠にはあたしよりも良い奴がきっと見つかるさ」

「アサ、痛い・・・」

アサと久遠の平和な時が流れていたとき、その場に響く銃声が聞こえた。

「ぐっ!?」

「アサ!?」

撃たれたのだろうか、アサの左肩が一緒で真っ赤な血で染まる。

「ちっ、外したぞ。 他の奴らも呼べ! ここに妖怪がいるぞ!!」

「こないだの法師が呼んだのか・・・・・・」

アサがそう言ったとき、こちらに近づいてくる無数の足音が聞こえてきた。

「久遠、お前は逃げろ。 こいつらはあたしがなんとかする」

「で、でも・・・」

左肩を素早く治療したアサはそのまま上空に飛び上がった。

「上だ! 空へ逃げたぞ!!」

「早く殺せ! でなければ、村に被害が出るぞ!!」

アサを撃った男がそう言いながら、空に飛び上がったアサを追いかける。

「アサ・・・・・・」

一人残された久遠はそんなアサを心配そうに見守っていた。

上空に上がったアサは自分の足元に広がる村を見降ろす。

「あたしが人を殺すと思っているのか・・・・・・」

残念そうにそう言ったアサは、村人たちと平和的に話し合おうと降り立つ。

「ひ、人が空から・・・・・・」

「あの格好はなんだ? 俺たちとは違う・・・」

村に降り立ったアサを怪しげなものを見るような感じで、村人が見る。

「みんな、聞いてくれ。 あたしは・・・・・・」

そう言葉を続けようとしたアサの言葉を遮って、森から出てきた男たちが大声で叫ぶ。

「皆! そいつは妖怪の類だ! 早く逃げろ!!」

「違う! あたしは・・・・・・」

男の言葉を聞いて、村人たちの顔に怯えが見え、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

「う、うわあぁぁぁ!!?」

「に、逃げろぉぉ!?」

そんな村人たちを追いかけようとしたアサだが、森から出てきた男たちによって撃たれてしまう。

「ぐっ!?」

血を流しながら倒れそうになるのを踏みとどまったアサはすぐに怪我を治そうと呪文を紡ぐ。

「あいつは怪我を治せる! 早く息の根を止めろ!!」

その言葉を合図に次々と火縄銃が放たれ、アサの体は蜂の巣のように穴だらけになってしまった。

「ぐぅっ!?」

そして、怪我を治療する間もなく、その場に倒れこんだアサ。

「よし、仕留めたぞ!」

「妖怪を退治した!!」

村人たちが喜んで笑っているのを、アサが心配になり森から出てきた久遠が見ていた。

「あ、アサ・・・・・・」

そう名前を呼んだあと、タタッと子狐の姿で血溜まりの中で倒れて、動かなくなっているアサに近寄った久遠。

「くぅん」

「く、久遠か・・・・・・」

目を開けたアサだが、もう目が見えていないのか、焦点が合っていなかった。

「あ、あたしは・・・・・・こんなことを、するために・・・・・・国を、出てきたわけじゃ、ないんだけどな・・・・・・」

話すのもつらそうにそう言ったアサはゆっくりと手を久遠に持って行く。

「久遠、お前は生きろ。 あたしみたいに、殺られるな、今はまだ・・・・・・妖怪と、人間は、馴れ合えないが、いつか、きっと・・・・・・」

そう言ってからアサは動かなくなってしまった。

そして、仕留めたアサを見ようと村人たちが近づいてくる。

「ん? なんだ、この狐は」

「むっ!? その狐は以前から村を騒がせていた元凶だ」

そばに寄ってきた村人の中に久遠の正体を見破った法師もいた。

「なに!? じゃあ、こいつも妖怪か!」

「うむ、すぐに退治しなければ」

法師の言葉を合図に次々と、武器を持ち出す村人たち。

そして、久遠に鍬や斧が振り下ろされようとした瞬間、久遠の周りに雷が落ちた。

「「「ぎゃぁぁぁ!!!!!?」」」

周りにいた村人たちは雷に打たれ、大声で叫びながらその場に倒れる。

そのあと突然、雨が降り出した。

「あ、雨だ・・・・・・」

「風も出てきたぞ! 今までにないくらいの勢いだ!」

ほかの村人がそう叫んでいるのを後目に、久遠はアサをジッと見つめている。

「嵐だ! このままじゃあ、津波が来て村が飲み込まれるぞ!!」

「そんな!? さっきまであんなに晴れていたのに・・・」

「あの、妖怪を殺したからじゃ・・・・・・」

村人たちはそう話しあいながら、久遠とアサの方を見る。

「ひっ!?」

そこで村人たちが見たものは、久遠から溢れ出ている妖気であった。

人間の目で見えるほど、久遠の妖気がすごいのである。

「くぅぅぅぅ!!!!!」

雨が降り、雷が鳴り響く空へ久遠は大きく鳴き声を上げる。

すると、久遠のもとに大きな雷が落ち、まっ白な閃光が辺りを照らした。

「うわぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁ!!?」

村人たちはあまりの轟音と眩しさに目を閉じた。

そして、目を開けたとき、そこにいたはずの久遠とアサの姿が消えてしまっていた。

その後、雷が無差別に村へ落ち、海に近かった村は津波により飲み込まれてしまった。

それでも生き残った何人かの村人が再び起こるかもしれない祟りを恐れて、山にアサを奉って神社を建てた。

それが現在の八束神社であり、久遠はアサがいるその場所をずっと守っていた。



***



時が数百年流れ、八束神社にはアサを奉るほかに、久遠が封印されていた。

久遠は神社を守っているうちに人間に無差別に攻撃を加えていたため、危険と判断した法師三十人により、アサが奉られている場所に封印されたのであった。

「はやく、はやくぅ!」

「ま、まってよ。 お姉ちゃん!」

その神社で二人の幼い姉弟が遊んでいた。

「もう、相変わらず遅いんだから」

「お、お姉ちゃんが、早すぎるんだよ・・・」

仲の良さそうな姉弟がそう言いながら神社を探索する。

「ここって、凄い神様がいるんだって」

「凄いって、どんな?」

弟が姉の言葉に首をかしげながら問いかける。

「えっと、雷を好きな場所に落としたり、津波を呼んだり、嵐を引き起こしたりするんだって!!」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

姉の言葉に弟は少し元気がなくなった。

「どうしたのよ?」

「べ、別に。 なんでもないよ・・・」

そう言う弟だが、俯いて震えているのが分かる。

「あっ、わかった。 雷が怖いんでしょ?」

悪戯を思いついたように微笑んでそう言った彼女。

「ち、違うよ! 別に、怖くなんかないよ!」

対する弟は図星をつかれたのか、急に慌ててパタパタと手を振っている。

「大丈夫よ、それは昔のお話だし、何かあってもお姉ちゃんが守ってあげるから」

「お姉ちゃん・・・・・・」

微笑ましい姉弟の会話がされていると、神社の奥から急に光が現れた。

「きゃっ!?」

「な、なに?」

驚いた姉弟はお互いを抱きしめ合いながら目を閉じて震えている。

そうして、光が収まり目をゆっくりとあけると、そこには大きな狐がこちらを見降ろしていた。

「きゃぁぁぁ!!?」

「うわぁぁぁ!!?」

驚いた二人はそのまま叫んで逃げ出す。

対する狐も大声に驚いたのか、その場で暴れだす。

「うわっ!?」

大きな狐が暴れたことにより、地面が揺れて弟が倒れてしまう。

そして、狐の足で踏みつぶされそうになる。

「た、助けてぇ!!」

少年の叫び声が届いたのか、来るはずの衝撃がなかなか来ない。

「・・・・・・・・・えっ?」

ゆっくりと目を開けた少年が見たものは、姉と同い年くらいの少女が変わった服を着て、狐の足を受け止めていた。

「大丈夫ですか?」

「えっ、あ、はい!」

少女の問に答えた少年はそう言って立ち上がる。

「早く避難してください。 ここは危険です」

「で、でも・・・・・・」

心配そうに見つめてくる少年にニコリと少女は微笑んだ。

「心配いりません。 私が終らせます。 ですから、お姉さんと一緒に早く」

「わ、わかりました。 その、ありがとうございました」

頷いた少年はその場で頭を下げ、こちらを心配そうに見ていた姉のもとへ駆けだす。

そして、二三言葉を交わした姉弟は再びこちらに頭を下げ、去って行った。

「さて、あなたの相手は私がします」

「・・・・・・」

大きな狐はそんな少女をジッと見つめたかと思うと、子狐の姿になってしまった。

「?」

そんな様子に首をかしげながら、少女は警戒して子狐に向かっていく。

「アサ!!」

すると、突然子狐が巫女服を着た少女の姿となり、少女に飛びつく。

「きゃっ!? わ、私はアサという者ではありません!」

飛びつかれた少女はそう言いながら巫女服を着た少女を引きはがす。

「アサじゃない? でも、アサとおんなじ匂い」

「私は時空管理局、執務官。 アキ・シキシマです」

首をかしげている巫女服を着た少女に、そう自己紹介をするアキ。

「久遠の名前は久遠」

「久遠・・・さん、ですね? 失礼ですが、敷島トシアキという名前をご存じありませんか?」

聞かれた久遠は首をフルフルと左右に振って否定を示した。

「そう、ですか・・・・・・」

残念そうに俯くアキに、今度は久遠が問いかける。

「アキはアサを知らない?」

「アサ、という名前は聞いたことがありますが、その人はもう数百年前に亡くなっています」

アキの言葉を聞いて、今度は久遠が残念そうに俯く。

「あなたは何故ここに?」

「久遠、ずっと前に封印された。 それで、今出てきた」

そう言う久遠を見て、なるほどと頷く。

「そうでしたか。 それでは私はこれで・・・」

そして、アキはその場から去ろうと歩き出す。

「・・・・・・・・・なぜ、ついてくるのですか?」

「久遠、アキについて行く」

「ついて行くって・・・」

歩き出したアキが振り向くと、久遠がアキの後ろについて来ていた。

「アサと似た匂いのアキ。 久遠の友達」

「友達・・・・・・」

久遠の言葉にアキは立ち止まり、『友達』という言葉を繰り返し呟く。

「そう。 友達」

笑顔で頷く久遠。

「ごめんなさい、私にはやらなければならないことがあるので・・・」

「くぅ?」

頭を下げて謝るアキに首を傾げる久遠だが、徐々にアキの姿が消えていく。

「く!?」

「ここには兄様を探しにきたのです。 でも、ここにはいませんでした。 違う世界に探しにいきます。 ですので、あなたとは友達になれません」

そう言葉を残してアキは久遠の目の前から消えてしまった。

しかし、管理局の転送の概念が分からなかった久遠は突然消えたアキを探しに山を駆け回る。

「くぅ~!!」

そして月日はさらに流れて数年後。

遊びに来たなのはに大好きな油揚げを貰っていたとき、それは突然現れる。

「どうしたの? くーちゃん」

なのはの声を聞きながらも森の奥に感じた懐かしい匂い。

そうして、匂いがする方向へ足を進める久遠。

「どうしたのかしら?」

「なにかあったのかな?」

なのはの友達であるアリサとすずかの声を後ろで聞きつつ、歩き慣れた森へ入る。

そして、その場所にたどり着いた久遠が見たものは、茶髪の髪を後ろで束ねている青年が背中から血を流して倒れている姿であった。



~~あとがき~~


今回はおまけはなしです。
おまけを楽しみにしていた皆様、申し訳ありません。
どうしてもネタが思い浮かびませんでした。

さて、今回のお話ですが、久遠の昔話を書きました。
しかし、原作とは全く違ったかたちになり、原作ファンの皆様は納得できないかもしれませんが、許してください。
これでないと、話に矛盾が出来てしまうので・・・

前回の十三話で久遠が描いた魔法陣、実はずっと昔にアサという人に教えてもらっていたんですね。
そして、アキとの出会いとトシアキを見つけるまでを書きました。

次回は本編の続きを書きます。
この昔話は久遠を書き始めたときから考えていたもので、ようやく形にすることができたので投稿しました。
続きを楽しみにしていた人には申し訳ありませんが、この話の感想も頂けたら幸いです。
それでは次回の作品でお会いしましょうw



[9239] 第十四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 23:20
フェイトの家を出たトシアキは腕に眠ったままの久遠を抱えて屋上まで来た。

「さて。 これからどうするか・・・・・・」

フェイトに協力を断られた今、住む家をなくしてしまったトシアキは何処へ行こうか考える。

「・・・・・・・・・また、アリサの世話になるか」

行先を決めたトシアキは久遠を抱えて、夕日が沈みそうな空へ飛びだした。

そして、アリサの家に到着したトシアキは玄関から出てきたアリサと鉢合わせとなった。

「「あっ」」

声が重なり、お互いに沈黙のときが流れる。

「・・・・・・仕事、終わったのね」

「あぁ。 勝手なことで悪いんだけど、また世話になっていいか?」

そう言うトシアキにアリサはそっぽを向きながら答える。

「別にいいわよ。 あの部屋はトシアキのためにそのままにしてあるから」

「ありがとな、アリサ」

そっぽを向いているアリサの頭をソッと撫でるトシアキ。

そんなトシアキの手をアリサも満更でもない様子で受け入れていた。

「ん? それはなんだ?」

頭を撫でながら、アリサの手にあるお皿を見るトシアキ。

「あぁ、これ? 今日、怪我をしている大型犬を見つけたから手当してうちに連れて帰ったのよ。 それで、これはその子のご飯」

そっぽを向いていたアリサがトシアキのほうを見てそう言った。

「なるほどな。 相変わらず優しい奴だな」

「べ、別に、怪我をしてたからで・・・・・・・・・トシアキ、その子誰?」

トシアキの言葉に少し照れた様子で頬を染めて話すアリサであったが、トシアキの腕で眠る巫女服を着た久遠を見て、表情が固まった。

「あぁ、こいつか? 久遠って言うんだけど・・・」

「久遠ってこないだの狐の名前でしょ? トシアキ、誘拐は犯罪なのよ?」

トシアキの言葉を遮って早口で捲くし立てるアリサ。

「いや、だからな? 俺の話を・・・・・・」

「そ、そりゃ、トシアキも男の子だし、そういうのに興味があるのはわかるけど・・・・・・誘拐してコスプレをさせるなんて、それならあたしが・・・・・・」

最後に不穏な言葉を混ぜつつ、アリサはトシアキの言葉を聞かず、一人でブツブツと呟いている。

「・・・・・・・・・駄目だこりゃ、先に久遠を寝かせてくるか」

一人で呟くアリサを放っておいて、トシアキは勝手を知るアリサの家の自分がいた部屋のベッドに久遠を寝かせた。

「・・・・・・早く目覚めて、また一緒に遊ぼうぜ。 久遠」

眠ったままの久遠をソッと撫でて、トシアキは再びアリサがいる玄関に向かう。

「アリサ、大丈夫か?」

外で動かないアリサに声をかけたトシアキ。

「べ、別にトシアキのためにコスプレなんてしてあげないわよ!」

「何言ってんだよ、アリサ・・・・・・」

声をかけたトシアキにアリサは頬を赤くして、怒った口調でそう言った。

対するトシアキは訳が分からず、呆れてため息を吐いたのであった。

ようやくおとなしくなったアリサは本来の目的を思い出したのか、お皿を持って大きな檻へ向かう。

その後ろにトシアキもついて歩く。

「あっ、目が覚めた?」

檻の中で目を開けた橙色の犬にそう声をかけるアリサ。

「くぅ・・・・・・(あれ、このちびっ子、どこかで・・・)」

「あんた、頑丈にできてるのね。 あんなに怪我してたのに命に別状はないってさ」

目覚めた橙色の犬の前にエサが乗ったお皿を差し出して、頭を撫でるアリサ。

「怪我が治るまでうちで面倒見てあげるからさ、安心していいよ」

「くぅん・・・(あっ、トシアキの・・・・・・)」

そこまで言った橙色の犬はアリサの後ろにいるトシアキに気がついた。

「ん? 呼んだか?」

橙色の犬の言葉に反応したトシアキがそう言うが、当然アリサには犬の言葉はわからない。

「トシアキには何も言ってないわよ?」

「あれ? 確かに俺の名前が呼ばれたような気がしたんだけどなぁ・・・」

「グルル・・・・・・ワンワン!!(トシアキ、あたしだよ! アルフ!)」

トシアキに気づいてもらうため、橙色の犬――アルフは突然叫びだす。

「アルフ!? なんで、こんなところにいるんだよ!?」

「くぅん・・・・・・わふっ!(それが、ちょっとドジ踏んじゃってね)」

アルフの存在に気づいたトシアキは檻の前でアルフと会話する。

「・・・・・・・・・トシアキ、あんた犬と会話できるの?」

そんなトシアキの様子を見ていたアリサがポツリと言った。

「ん? そう言えば何でわかるんだろ?」

トシアキ自身もよくわかっていないらしく、首を傾げている。

その理由は久遠と契約したことにより、動物の言葉が理解できるようになったのだが。

「とりあえず、この子はトシアキの知り合いなのね?」

「知り合いというか、世話になった奴のペットだよ。 こないだ言っただろ?」

「あぁ、温泉のときの・・・・・・」

アリサはその時のことを思い出したようで、なるほどと納得した。

「ワンワン!(フェイトはどうしたんだい!?)」

「あぁ。 俺には迷惑をかけたくないから自分一人でするって言って追い出されたよ」

「くぅん・・・(そんな・・・)」

「なんか、犬と会話している人間を見るのはシュールな光景ね」

トシアキとアルフの会話を聞いていたアリサが静かに呟いた。

そして、日が変わった翌日。

アリサが学校から帰ってきたとき、なのはとすずかが遊びに来ていた。

「おかえり、アリサ。 それと二人とも元気にしてたか?」

トシアキはアリサの帰宅を迎えるとともに、遊びに来たなのはとすずかに声をかける。

「あっ、トシアキさん。 アリサちゃんの家に遊びに来てたんですね」

すずかは嬉しそうにトシアキに話かけるが、なのははトシアキの顔を見た瞬間、表情を強張らせた。

「と、トシアキさん・・・・・・」

「ん? どうかしたのか、なのは」

「う、ううん。 なんでもないの」

そんななのはを心配してトシアキが声をかけるが、なのはは首を振った。

「それでね、トシアキ。 学校で話してたんだけど、アルフを見せてあげたいのよ」

「なるほど、それで遊びにきたのか。 俺は邪魔になりそうだから部屋にいるよ」

アリサの言葉に頷いたトシアキはそれだけ言うと部屋に戻っていった。

「・・・・・・」

そんなトシアキの後ろ姿を静かに、そして悲しそうに見つめるなのは。

「それじゃあ、行きましょ?」

アリサに手を引かれ、なのはとすずかは庭にいるアルフのところへ来た。

アルフがいる檻の前で三人並んでいるなのはたち。

「ね? 変わった犬でしょ?」

「ほんとだ。 色も珍しいし、大きいね」

アリサとすずかはアルフの色や大きさに色々と珍しそうに眺めていた。

≪やっぱり、アルフさん・・・≫

≪あんたか・・・≫

そんな二人をよそになのはとアルフは念話で話しをする。

≪その怪我、どうしたんですか? それにフェイトちゃんは・・・≫

「ワンワン!!≪あんたの! あんたの所為で!!≫」

「「きゃっ!?」」

突然吠えたアルフに近くで見ていたアリサとすずかは驚いて、尻もちをついた。

そして、すずかの手に抱かれていたユーノが降り立ち、アルフの前に行く。

≪待って! 話を聞いて!≫

「こら、ユーノ危ないぞ」

「大丈夫だよ、ユーノ君は」

吠えているアルフに近づくユーノを注意したアリサだが、なのはには念話が聞こえているので、大丈夫だと微笑みかける。

「グルル・・・・・・≪あんたらは信用できない≫」

「でも、なんだか怒ってるよ?」

すずかにもアルフが怒っていることが理解できるのか、オドオドしながらそう言った。

≪なのは。 僕が話を聞いておくから、敷島さんを・・・≫

≪うん、わかった≫

ユーノとの念話を終えたなのははアリサとすずかへ視線を向ける。

「大丈夫。 動物同士だから仲良くなれるよ」

「それじゃあ、お茶にしましょ。 トシアキもいるし、あたしたちのために動いてもらいましょうか」

なのはの言葉でアリサは安心したのか、トシアキも入れてお茶を飲もうと言って踵を返す。

「なのはちゃんがそう言うなら・・・」

すずかもアリサに続いて家に向かって進みだす。

「でも、トシアキさんに迷惑かけないかなぁ?」

「大丈夫よ、あたしの頼みは断らないわ。 ここに泊めてあげてるんだもの」

「ふふふ・・・・・・アリサちゃん、嬉しそうだよね?」

「そ、そんなことないわよ!」

三人はそう言って楽しそうに話をしながらアルフとユーノをその場に残して家に戻って行った。

家に戻ったアリサは早速、使用人にお茶の用意をするように伝える。

「かしこまりました」

「それじゃあ、よろしくね。 あたしはトシアキを呼んでくるから」

「・・・・・・敷島様もご一緒されるのですか?」

アリサに頼まれた使用人はトシアキの名前が出てきて、思わず聞き返した。

「えぇ、そうよ」

「・・・・・・かしこまりました。 準備をしておきます」

「? よろしく頼むわね」

そう言って、アリサはなのはとすずかが待つ廊下へ走って向かう。

それを確認した使用人は早速、仲間に声をかける。

「アリサお嬢様がお茶をご友人と敷島様とお飲みになるそうよ」

「ってことは、あの作戦ね?」

「えぇ。 急いで準備をしましょう」

それから使用人である二人はお茶の準備にバタバタと屋敷内を走り回るのであった。



***



三人娘と別れたトシアキは自分に与えられた部屋に戻り、未だに眠り続ける久遠を心配する。

「久遠・・・・・・」

傷のほうは既に魔法の力で治っており、あとは久遠が目覚めるのを待つだけなのである。

しかし、何が原因なのか、全く目覚めることはなく、今もなお眠り続けていた。

「ごめんな、俺がもっとしかりしとけば・・・・・・」

久遠の頭をソッと撫でてやるトシアキ。

そのとき、ドアがノックされた。
「・・・・・・」

無視するわけにもいかないので、トシアキは久遠のそばを離れ、ドアを開く。

「・・・・・・アリサたちか」

ドアを開けてそこにいたのは、先ほど別れたばかりのなのはたちであった。

「どうかしたのか?」

「実は、トシアキさんとお茶を飲もうと思いまして」

三人を代表してすずかがそう声をかけた。

「ふむ。 しかし、俺が居ては三人の邪魔になるんじゃないか?」

そう思ったトシアキは確認の意味を込めて、アリサを見る。

「別に、トシアキならあたしは構わないわよ」

そっぽを向きながらアリサはそう言った。

「・・・・・・なのはは?」

先ほどから気まずそうにしているなのはにそう話かけるトシアキ。

「にゃっ!? な、なのははトシアキさんと一緒でも問題ないの」

声をかけられたことに驚いたのか、なのはは怯えた様子でトシアキに答える。

「・・・・・・なら、一緒に行こうかな」

「じゃあ、こっちよ。 ついて来て」

トシアキの返事を聞いてすぐにアリサは目的の場所に向かって歩き出す。

そうして四人がたどり着いた場所には美味しそうなお茶菓子が中央に用意され、カップも四人分並べられていたが、肝心の椅子が三つしかなかった。

「カップは四人分あるのに椅子が足りないなんておかしいわね・・・」

そんな不思議な状態に首を傾げるアリサ。

「俺は別に立ったままでもいいぞ? アリサたち三人で座るといい」

トシアキはそう言って、壁に寄り掛かる。

「・・・・・・・・・とりあえず、座りましょ?」

アリサはなのはとすずかを促して椅子に座る。

すると、そのときポットを持った使用人が部屋へ入ってきた。

「アリサお嬢様、お待たせいたしました」

「ちょっと、椅子が足りないんだけど・・・」

使用人はそれぞれのカップにお茶を注ぎながらアリサに答える。

「申し訳ありません、ただいま修理中でして。 現在使用できるものがこれだけとなっております」

「そんなはずないわ。 だって・・・・・・」

そこまで言いかけたアリサだが、使用人の視線で意図を理解したのか言葉を途中で止めてしまう。

「・・・・・・それでは、ごゆっくり」

使用人は一礼して、その場を退出した。

部屋から出て行くとき、壁に寄り掛かるトシアキをチラッと見て使用人は意味ありげに微笑んだ。

「・・・・・・俺、なんかしたか?」

「心当たりがないならいいんじゃない? そ、それより、トシアキ。 立ったままじゃ辛いでしょ?」

使用人に微笑まれたことに疑問を抱きつつ、トシアキはアリサに尋ねる。

アリサは少し頬を赤くして、立ったままでいるトシアキを気遣う。

「いや、俺は別にだ・・・」

「辛いでしょ!?」

「あ、あ~~。 そうだな。 辛いかもな・・・・・・」

トシアキはアリサの勢いに呑まれてしまい、棒読みだが頷いた。

「そ、そうよね。 じゃあ、ここに座りなさい」

アリサはそう言って、自分が座っていた椅子を指す。

「そうするとアリサが座る場所がなくなるが?」

「あ、あたしはトシアキの上に座るからいいのよ」

恥ずかしそうに言いながらアリサは一気にそう言った。

そんなアリサをすずかもなのはも驚いた様子で見守っている。

「・・・・・・・・・だが、しかし」

「駄菓子も菓子もないの! いいからここに座る!」

渋るのもどうかと思ったトシアキはアリサに言われたとおりに椅子に座る。

座った瞬間、先ほどの使用人の微笑みの意味を理解した。

「っ!?(もしかして、このためにワザとか)」

トシアキが座ったのを確認したアリサは顔を赤くしながらトコトコとトシアキに近づいてくる。

近づいてきたアリサをソッと抱え上げ、自分の膝の上に乗せたトシアキ。

「な、なによ」

トシアキの膝に乗り、頬が緩んでいたアリサはなのはとすずかの視線に気がついた。

「別に、なんでもないの」

「そうそう、気にしないで、アリサちゃん」

それから三人娘は楽しそうに会話をいている。

トシアキはその場にいるにも関わらず、女の子の話に全く付いていけなかった。

そのため、アリサを膝に乗せたまま、静かに紅茶を飲んでいるだけであった。

「悪い、アリサ。 ちょっと席を外すな」

「どこ行くのよ?」

「お手洗いだよ、あんまり女の子の前で言うことじゃないんだけどな」

そう言いながら膝の上のアリサを降ろすトシアキ。

「もう、デリカシーのない奴ね」

「・・・・・・アリサが聞いたから答えたんだぞ?」

「う、うるさいわね。 さっさと行ってきなさいよ!」

アリサに怒鳴られ、やれやれと首を振りながらトシアキは部屋から出て行った。

「じゃあ、なのはも・・・」

なのはもトシアキを追いかけるようにして、お茶を飲んでいた部屋から出た。

「あ、あれ?」

部屋を出たなのははトシアキを探すがどこにも見当たらない。

「どこ行ったんだろ・・・」

「俺はお手洗いに行くっていったぞ? なのは」

なのはの呟きに天井に逆さまの状態で立っていたトシアキが答えた。

「きゃっ!? と、トシアキさん・・・・・・」

「よっ、と。 それで、何か用があるんじゃないのか?」

天井から降り立ったトシアキは驚いているなのはにそう尋ねる。

「その、えっと・・・・・・」

話辛そうななのはを見てられなくなったトシアキは誰もいない空間に視線を向ける。

「おい、見てんだろ? なのはに代わって説明しろ」

「本当にあなたはこちらのことが分かるのね・・・」

そこへ現れたモニターに映し出されているリンディが驚いた様子でそう言った。

「その部分だけ、精霊がいなくなるんでな。 なにかあるって思うだけだ。 で、何を言いたい?」

「あなたにはジュエルシードを所持したうえでの逃亡容疑がかかっています」

「・・・・・・まぁ、あの状況じゃそうだよな。 でも、俺の友達を救うためにそっちに寄ってる暇はなかったんだよ」

そう言い訳するトシアキにリンディも追及を重ねる。

「あの女の子のことですね? こちらで治療できるとは考えなかったのですか?」

「考えはしたが、信用していない組織の船と信用している義妹の家なら行く場所は決まってるだろ?」

「・・・・・・」

トシアキの言葉に無言で考え事をするリンディ。

「それで、俺となのはを戦わせるのか?」

そのトシアキの言葉に黙って話を聞いていたなのはがビクッと体を動かす。

「・・・・・・ふぅ。 そういうことなら不問にしましょう。 先ほど、アルフさんからの事情を聞いてあなたはフェイトさんのために動いていたようですし」

「話たんだな、アルフは」

呟いたトシアキはそばにいるなのはの頭に手を置く。

「っ!?」

「そんなに怖がるなよ。 落ち込むだろうが・・・・・・」

「ご、ごめんなさい・・・」

なのはの頭に手を置いたトシアキはそのまま撫でてやる。

「それで、管理局としてはどうするんだ?」

「プレシア・テスタロッサを逮捕することにしたわ。 なのはさん、前に言ったフェイトさんとトシアキさんとはもう闘わなくていいのよ」

リンディの言葉を聞いたなのははパァと表情を明るくさせた。

「それで、なのはさん、トシアキさん。 あなたたちはどうしますか?」

「わたしは・・・・・・」

「俺は手伝うよ。 フェイトが助かるなら、まぁ、協力してもいいだろう」

なのはより先にトシアキはそう結論をだした。

そして、残ったなのはにリンディの視線が向かう。

「わたしは、フェイトちゃんを助けたい!」

「わかったわ。 こちらとしても戦力は多い方が助かるし、危険も少なくてすむもの。 アースラへの帰還は明日の朝でいいわね?」

リンディの言葉になのは頷くが、トシアキは顔を歪めた。

「・・・・・・俺も行くのか?」

「そうね。 トシアキさんにもこちらに来てほしいわ」

「・・・・・・わかったよ」

渋々トシアキは頷き、なのはと共にアースラへ明日の朝に行くことを決めた。

トシアキの返事を聞くと共にリンディを映していたモニターが消えた。

「それじゃあ、戻りましょうか、トシアキさん」

戦う心配がなくなったなのはは笑顔でトシアキに話かける。

「ちょっと待て、なのは」

対するトシアキはなぜか真剣な表情でなのはを見る。

「な、なんですか・・・・・・」

なのははトシアキの真剣な様子に思わず、身構えてしまう。

「俺はまだ、トイレに行っていない」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

トシアキ真剣は表情から放たれた言葉になのはは唖然として言葉もでない。

対するトシアキも、何も言わないなのはにどうしていいか分からず無言を貫く。

「・・・・・・トシアキさん、本当にデリカシーがないですね」

「ぐはっ!?」

なのはの言葉に心に傷を負ってしまったトシアキであった。



~おまけ~


トシアキがトイレへ行っている間に、なのはは先にアリサたちのもとへ戻り、再び会話に華をさかす。

「そう言えば、トシアキって動物と話が出来るらしいのよ」

「へぇ、そうなんだ」

「あっ、なのは信じてないわね?」

なのはの相槌にアリサはそう言って微笑む。

「本当にそんなことができるの?」

「そうなのよ、なんだかよくわからないけどね」

そう会話しているとトシアキが犬と話ながら部屋に入ってきた。

「ふむ、なるほど。 アリサはピンク色なのか」

「わふわふ!」

「「「・・・・・・」」」

そんな様子を三人娘は黙って見ている。

「ん? どうした、三人とも!?」

尋ねたトシアキに向かってフォークが飛んできた。

それを慌てて回避するトシアキ。

「なにをする、アリサ」

「な、なんてことを話しているのよ!?」

フォークを飛ばしたアリサは顔を赤く染めて肩で息をしながら怒鳴った。

「いや、帰り道にたまたま会ってな。 嬉々として教えてくれたぞ」

「わふ!?」

責任を犬に押し付けようとトシアキは自分に罪はないとアピールする。

犬のほうも、予想外の裏切りに驚くばかりだ。

「あ・ん・た・た・ちぃ!?」

「むっ、やばい。 アリサの怒りがバーニングだ。 逃げるぞ!」

「わふ! わふ!」

怒っているアリサからトシアキと一緒に入ってきた犬は逃げ出した。

「こらぁ! 待ちなさい!!」

アリサもそれを追いかけて部屋を出る。

残されたなのはとすずかはお互いに顔を見合せて静かに笑いあった。



~~あとがき~~


十四話更新です。
思ったより前々話の感想が多かったので、今回も頑張ってみましたw
書いたのはいいんですが、結果的に話があまり進んでないような気が・・・・・・

今回の話で再び管理局と協力関係になったトシアキ。
なのはも色々と大変な様子だったのですが、上手く表現出来てたでしょうか?

次回はいよいよ、フェイトとなのはの戦いです。
もう少しで無印編が終わりそうです。
そろそろチラシの裏から出たほうがいいのかなぁ・・・
ご意見、ご感想、待ってますw
それでは次回のお話でまた会いましょうww



[9239] 第十五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/09/26 15:08
アリサの家で少し騒動があった翌日の早朝。

高町家から一人の少女が外へ出てきた。

「よし、行こう、ユーノ君」

肩に乗せたフェレット――ユーノに向かって微笑む少女――なのは。

集合場所である海鳴臨海公園へ向けて走り出したなのは。

ふと気配を感じたので横を見ると、橙色の犬――アルフが塀伝いに走っていた。

「・・・・・・・・・まだ、あんたを信用したわけじゃない」

「・・・・・・うん」

隣で走るアルフがなのはにそう声をかける。

アルフはこないだの戦闘でのフェイトに対する攻撃をまだ気にしているようだ。

「でも、フェイトを助けるためだから・・・・・・」

「うん、今はそれでいいよ・・・・・・」

そうこう話している間になのはたちは約束の場所である、海鳴臨海公園にたどり着く。

「・・・・・・ここなら、いいよね? 出てきて、フェイトちゃん!」

誰もいない空間、一面に広がる海に向けてそう言ったなのは。

すると、静かな風が吹き、なのはの髪を揺らす。

「・・・・・・」

なのはが無言で振り返ると、そこには戦闘態勢を整えていたフェイトが立っていた。

「フェイト、もうやめよう・・・・・・・・・あんな女の言うこと、もう聞いちゃダメだよ」

「・・・・・・だけど、私は母さんの娘だから」

アルフの必至の呼びかけにも首を振って否定するフェイト。

その言葉を聞いて、なのはもバリアジャケットを装備する。

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね・・・・・・逃げればいいわけじゃもっとない」

目を閉じて、フェイトに語りかけるなのは。

「きっかけはジュエルシード・・・・・・だから賭けよう! お互いが持つ、全てのジュエルシードを!」

なのはの言葉とともになのはの周りに十二個のジュエルシードが現れる。

そして、フェイトの周りにも九個のジュエルシードが現れる。

「それからだよ、全部それから・・・・・・・・・始めよう、最初で最後の本気の勝負を!!」

「っ!?」

なのはの言葉を合図にフェイトは空へ飛び立つ。

それを追いかけるなのは。

両者はそのまま海の上空で戦うこととなった。

「なのは・・・・・・」

「フェイト・・・・・・」

地上に残されたフェレット姿のユーノと狼姿のアルフはそれぞれの少女を心配する。

「わりぃ、遅くなった」

そこへ空からトシアキが降り立った。

「敷島さん!?」

「トシアキ、あんた・・・・・・」

突然のトシアキの登場に驚くユーノとアルフ。

「・・・・・・おまえら、結界張ってるのか?」

「今回は管理局のほうで張っているので、僕は張っていません」

「あたしも、張ってないよ」

ユーノとアルフ、それぞれの言葉を聞きながらトシアキは考え込む。

「・・・・・・・・・嫌な空気だ。 ユーノ、アルフ。 お前らで二重に結界を張れ」

「えっ? でも、これだけの範囲に張っていたら大丈夫なんじゃ・・・」

「範囲じゃない、強度の問題だ。 いくら広く囲っても薄けりゃ意味ないだろうが」

「それはそうですが・・・・・・」

トシアキの言葉に納得が出来ない様子のユーノ。

「ユーノ。 なのはになにかあったらどうするんだよ?」

「っ!?」

その言葉にようやく決意したのか、チラリとアルフを見るユーノ。

「アルフも・・・・・・・・・張ってくれるな?」

「トシアキがそう言うならいいけどさ、こいつらは一度フェイトを・・・」

「今は協力してフェイトを助けるためなんだ。 もう一度だけ、信じてみようぜ?」

トシアキの言葉に静かに頷いたアルフはこちらの様子を伺っていたユーノを見る。

「・・・・・・今回で最後だよ。 今度、フェイトを裏切ったら容赦しないからね」

「・・・・・・わかった」

お互いが動物の姿であるため、若干の違和感を覚えたトシアキだが、もう何も言わない。

「「結界! 強化!」」

ユーノとアルフの声が重なる。

そして、海で戦っている二人の周りに強化された結界が張られた。

「あとはお前らで決着をつけろ。 なのは、フェイト」

結界を維持するために集中しているユーノとアルフの横で、トシアキは海の上で戦うなのはとフェイトを見てそう言った。



***



海上でなのはとフェイトがそれぞれのデバイスをぶつけ合う。

【フォトンランサー】

距離を取ったフェイトは自分の前に雷の弾を数個浮かべる。

「っ!?」

【ディバインシュート】

それを見たなのはも自らの魔力弾を数個出現させた。

「ファイア!」

「シュート!」

お互いの魔力弾がそれぞれすれ違い、相手に向かって飛んで行く。

ただまっすぐ進むだけのフェイトの雷の弾を避けて、なのはは近づく。

対するフェイトはしつこく付きまとうなのはの魔力弾をシールドで防ぐ。

「あっ!?」

防いだときに視線が一瞬遮られ、気がついたときにはなのはが次の魔力弾を放っていた。

「シュート!!」

向かってくるなのはの魔力弾をバルディッシュで薙ぎはらい、なのはに接近する。

「っ!?」

【ラウンドシールド】

向かってくるバルディッシュの魔力の刃を丸いシールドで防ぐなのは。

お互いの魔力がぶつかり合う中なのはは、先ほど飛ばしたディバインシュートへ意識を向ける。

フェイトがはらい損ねた魔力弾が一つ残っていたのだ。

「っ!」

後ろから飛んできたなのはの魔力弾をシールドで消滅させたフェイトは振り返って驚く。

「!?」

そこに、先ほどまで自分の攻撃を防いでいたはずのなのはの姿がなかったのだ。

「・・・・・・」

慌ててあたりを見渡すが、どこにもなのはの姿が見えない。

【フラッシュムーブ】

フェイトの頭上でなのはのデバイスであるレイジングハートの声が聞こえた。

「えぇぇぇい!!」

閃光のような動きでフェイトの頭上からまっすぐ向かってくるなのは。

「っ!?」

とっさにバルディッシュで受け止めたフェイトだが、二人の魔力がぶつかり合い、大きな爆発を起こした。

「・・・・・・」

大きな爆発の衝撃と閃光でフェイトの姿を見失ってしまったなのは。

【サイズスラッシュ】

それでもフェイトはなのはの姿をとらえていたのか、なのはに向かって切りかかる。

レイジングハートが素早く探知し、フェイトの攻撃から避ける。

「はっ!?」

しかし、避けた先にはフェイトの雷の弾が待ち構えていた。

【ファイア】

タイミングよくバルディッシュが声を発する。

雷の弾はその声を合図になのはに向かって襲いかかる。

「っ!? えいっ! はっ!」

飛んできた雷の弾をなのははシールドを使い、うまく受け流した。

受け流された雷の弾はすべて海に落ち、小さな水しぶきをいくつもあげた。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

なのはは呼吸を乱して、フェイトを見る。

「ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

フェイトもなのはほどではないが、呼吸を乱して、離れた位置でなのはを見る。

「・・・・・・さっきの爆発、そんなに大きくならなかった」

「えっ?」

フェイトはなのはに向かって話だす。

なのはは突然のフェイトの言葉に驚いてただ、返事をした。

「きっと、アルフと君の使い魔が結界を張ってくれたんだと思う」

「むぅ。 だから、ユーノ君は使い魔じゃなくて、お友達だってば!」

ユーノの使い魔発言になのはは頬を膨らまして訂正する。

「・・・・・・・・・きっと、兄さんも見てる」

なのはの言葉に返事をせず、ただ、自分の言いたいことを話すフェイト。

「?」

「だから・・・・・・」

フェイトがバルディッシュを正面に構えた。

そうすると、フェイトの足元に大きな魔法陣が現れ、周りにもいくつもの雷の弾が現れる。

「へっ!?」

なのははそれを見て迎撃態勢を整えようとするが、両腕両足ともフェイトのバインドで固定されてしまう。

「だから、負けても大丈夫だよね・・・・・・・・・」

誰にも聞こえないほどの声で小さくフェイトは呟いた。

「打ち砕け! ファイア!!」

フェイトの声とともに周りに浮かんでいた雷の弾がバインドで固定されているなのはに目掛けて飛んで行く。

その数はもはや数え切れないほどだ。

「っ!!」

向かってくる雷の弾をなのははバインドで体を固定されながらも止めようとする。

しかし、そんな簡単に止められるはずもなく、雷の弾がなのはに襲いかかった。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

フェイトは肩で呼吸をしながら、残った雷の弾を一つにまとめて大きな魔力弾を作り上げる。

爆煙から姿を見せたなのはは所々に傷を負いながらも平気な顔をしていた。

「にゃはは・・・・・・撃ち終わるとバインドってやつも消えちゃうんだね」

一人でそう言ったなのははレイジングハートをフェイトに突き付ける。

「今度はこっちの・・・・・・番だよ!」

【ディバインバスター】

なのはのディバインバスターがフェイトに向かって放たれる。

「はっ!」

先ほどの纏めた大きな魔力弾をなのはに向かって投げつけるフェイト。

しかし、なのはの魔力が大きいのか、そのまま飲みこまれてしまい、消えるフェイトの魔力弾。

「っ!?」

そして、なのはのディバインバスターがフェイトへ近づいてくる。

「はっ!!」

それをフェイトはシールドを張って防ぐ。

「っ!・・・・・・・・・あっ!?・・・・・・・・・」

なのはの魔力が強いため、シールドを張っていてもフェイトのバリアジャケットが剝がれていく。

ようやく終わったなのはの砲撃によって、フェイトの姿はもうボロボロになってしまった。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

もう魔力も残っていないフェイトに追い打ちをかけるようになのはは上空でフェイトにまだレイジングハートを突き付けていた。

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!!」

なのはの足元に巨大な魔法陣が出現し、周りから魔力をかき集めて大きな球体を作り出す。

「っ!?」

それを止めようと動こうとしたフェイトだが、いつの間にかなのはのバインドによって体を固定されていた。

「そんな! バインド!?」

「これが私の全力全開!!」

フェイトが慌てている様子を見ながらなのははそう言った。

「スターライトブレイカー!!!」

巨大な魔力の砲撃がバインドで固定され、防御できない状態のフェイトに上空から降り注いだ。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

さすがのなのはも魔力を使いきったのか、肩で息をしてフェイトの方を見る。

「あっ・・・・・・」

直撃を受けたフェイトはそのまま意識を失い、海に向かって落ちて行った。

「フェイトちゃん!!」

「っと。 よく頑張ったな、フェイト」

慌ててなのはが追いかけようとしたが、途中でトシアキに受け止められたフェイトを見て、速度を落とす。

「トシアキさん・・・・・・」

「なのはも凄かったな。 あんな魔法、初めて見たぞ」

「にゃ、にゃはは・・・・・・」

トシアキの言葉になのはは苦笑しながらそばに寄ってきた。

「・・・・・・うっ!・・・・・・ん?」

なのはが近づいてきたと同時にフェイトが痛みで顔をしかめながら目を開いた。

「よう。 気がついたか?」

「に、兄さん・・・・・・」

「大丈夫!? フェイトちゃん」

なのははフェイトの様子を心配して顔を覗き込む。

「・・・・・・」

対するフェイトはなのはと視線を合わさないようにしていたが、コクリと頷くことだけはした。

「私の・・・・・・勝ちだよね?」

「・・・・・・そう、だね」

確認したなのはにフェイトは今度こそ、言葉を出して頷いた。

【プットアウト】

フェイトが負けを認めたことを確認したバルディッシュが九個のジュエルシードを取り出す。

「それじゃあ、貰うね」

「・・・・・・うん」

なのはがレイジングハートに浮かんでいるジュエルシードを封印しようとした。

「っ!?」

「きゃっ!!?」

フェイトを抱えて無言で見守っていたトシアキが、急に表情を変え、なのはを蹴り飛ばした。

なのはが離れた直後、紫色の雷がトシアキに降りかかる。

「ぐっ!!?」

「に、兄さん!?」

抱えられているフェイトにはなんのダメージもないようだが、雷があたっているトシアキは顔を顰めている。

「と、トシアキさん!?」

蹴られたことに怒りを感じていたなのはだが、直後に落ちた雷を見て、庇ってくれたことに気づいた。

「・・・・・・」

フェイトを抱えたまま気を失ったトシアキはそのまま海に向けて真っ逆さまに落ちて行く。

そして、残っていた九個のジュエルシードは空高くへと消えていった。

「トシアキさん!!」

海に落ちる直前になのはの目の前でトシアキとフェイトの体が消えた。

「あ、あれ?」

「なのはさん、大丈夫です。 トシアキさんとフェイトさんはこちらに転送しました」

何もない空間にモニターが現れ、映し出されたリンディがそう言った。

「よ、よかったぁ・・・」

「なのはさんもこちらに転送させます。 ユーノさんとアルフさんのところへ」

「わかりました」

なのはがユーノとアルフのところへたどり着いた。

「・・・・・・」

「あ、あの・・・・・・」

無言のアルフにオドオドと話かけるなのは。

「・・・・・・フェイトを止めてくれてありがとう」

「う、うん!」

ぶっきらぼうなアルフの言葉にもなのはは嬉しそうに微笑んで頷いた。

その後、なのはたちもアースラへ転送された。

「あっ・・・」

転送された場所には管理局の職員が数十人待機していた。

「ん? 君たちか。 彼は医務室へ運ばれたよ」

「は、はい。 ありがとうございます」

一人の職員がなのはに気づき、トシアキが運ばれた場所を教えてくれた。

「行こう、なのは」

「そうだね。 アルフさんも・・・」

「わかった」

三人はトシアキが運ばれたという医務室へ向かって歩き出した。

「あっ・・・・・・」

医務室に到着し、扉を開けるとベッドで横たわるトシアキと心配そうに見つめるフェイト。

そして、フェイトを見張るようにしてクロノの三人が医務室にいた。

「ん、来たか。 君のおかげでプレシア・テスタロッサの居場所がわかった」

なのはたちに気づいたクロノがそう言って部屋を出て行く。

「あとは僕たちの仕事だ。 君たちはゆっくり休むといい」

その言葉を残してクロノは出て行った。

「フェイト・・・・・・」

「アルフ・・・・・・」

フェイトの名前を呼ぶアルフ。

フェイトもアルフの方へ振り返る。

「ごめんね、心配かけて・・・・・・・・・・・・また、一緒にいてくれる?」

「当たり前じゃないか! あたしはフェイトの使い魔なんだよ?」

「うん、ありがとう。 アルフ」

そう言って飛びついてきたアルフを優しく撫でてやるフェイト。

「うっ!・・・・・・・・・ここは?」

ベッドのそばで話す声に起こされたのか、トシアキが目をあける。

「に、兄さん・・・・・・」

「フェイトか。 無事でよかったな・・・・・・」

涙を流すフェイトの頭を軽く撫でてやるトシアキ。

「トシアキさん、大丈夫なんですか?」

トシアキを心配していたなのはもベッドのそばに寄ってくる。

「あぁ、なんとか無事らしい。 アルフとユーノ、二人の結界があってこれだ。 張ってなかったらヤバかったかもな」

「でも、どうしてわかったんだい?」

アルフが最もな疑問をトシアキに投げかける。

それにトシアキは苦笑しながら答えた。

「なんか最近、精霊の気配が以前にも増してわかるんだ。 それで、とっさになのはを蹴飛ばせたんだけどな」

「に、にゃははは・・・・・・」

蹴飛ばされたことを思いだしたなのはも苦笑する。

トシアキの能力は久遠と契約したことにより(ry

「そう言えば、フェイトの母親はどうなったんだ?」

「わかりません。 すぐにここに来たものですから」

トシアキの言葉に後ろの方で黙っていたユーノが答えた。

「よし。 気になるし、行こうか」

「えっ!? でも、まだ寝てたほうが・・・・・・」

なのはが心配になってそう言うが、トシアキは微笑みながらグリグリとなのはの頭を撫でる。

「大丈夫だって。 歩けないわけじゃないしな」

「あうあう・・・・・・」

そしてトシアキはベッドから立ち上がってフェイトとアルフを見る。

「フェイトとアルフも来るだろ?」

「で、でも、私たちは・・・・・・」

管理局と敵対していたことを考えて、行かないほうがいいと考えるフェイト。

「そんなの気にするな。 なにか言われても俺がなんとかしてやるよ」

なのはと同じようにフェイトの頭をグリグリと撫でる。

「うぅ・・・・・・」

困った表情を浮かべているフェイトを見て微笑んだトシアキ。

「じゃあ、皆。行こうぜ」

トシアキを先頭にゾロゾロとアースラの司令室へ向かう。

医務室を出てしばらくしたところでトシアキがピタリと足を止める。

「どうしたんだい?」

そんなトシアキの様子が気になったアルフはそう呼びかける。

「・・・・・・・・・道、わからねぇ」

振り返ったトシアキは苦笑しながらそう言った。

「「「「・・・・・・」」」」

トシアキに四人の冷たい視線が降りかかる。

「仕方ありません、僕が案内します」

一番後ろを歩いていたユーノが変わりの道案内を買って出て歩き出す。

そうしてアースラの司令室にたどり着き、ドアが開かれたときに見えたもの。

「・・・・・・」

それはプレシア・テスタロッサにデバイスを突き付けている数十人の管理局職員の姿だった。

その光景に思わず立ちすくむトシアキたち。

「あら? もう大丈夫なの?」

そんなトシアキに気づいたリンディはこちらに振り返ってそう尋ねる。

「・・・・・・おかげさまで」

「これで、この事件は無事解決。 あなたにも約束のお金は支払うわ」

そんな会話をしているトシアキたちをよそに、映し出された画面にはフェイトにそっくりの女の子が生体カプセルに入れられている姿が映し出された。

「えっ!?」

「フェイト?・・・・・・」

「っ!?・・・・・・・・・」

なのはは驚き、アルフは自分の主であるフェイトと間違え、そして本人であるフェイトは驚きのあまり、声が出ないようであった。



~おまけ~


そのころ、時空管理局本局。

アキ・シキシマ執務官は自分の部屋で黙々と書類を片づけていた。

「・・・・・・・・・」

目は書類をしっかり見て、手はその書類に書き込み、たまにほかの資料などと見比べてどんどん書き込まれていく手元の書類。

「し、失礼します!」

そこに、一人の男性職員が入ってきた。

「・・・・・・なんですか?」

手を止め、目線を入ってきた職員に向ける。

「つ、追加の書類です」

「・・・・・・っ!?」

その言葉を聞いた瞬間、無表情のアキの顔が一瞬、怒ったような印象を受けた。

「ひっ!? こ、ここに置いておきます! し、失礼しました!!」

アキの表情で怒ったことが分かったのか、追加書類を持ってきた男性職員はそばにある机に書類を置いて早々に退出して行った。

「ふぅ・・・・・・・・・」

先ほどのことでヤル気が削がれたのか、アキはため息を吐いてペンを置く。

「・・・・・・・・・兄様」

兄であるトシアキが見つかった喜びと、すぐに会えないという悲しみが合わさり、なんとも言えないような声でそう呟く。

「クロノ執務官はちゃんと連れて来てくれるのでしょうか・・・・・・」

そう言ったあと、天井を見つめるアキ。

「兄様・・・・・・・・・早く会いたいです」

その日のアキはそれ以上、仕事に手がつかなかった。



~~あとがき~~


お久しぶりです、今回の更新は少し遅くなりました。
実は就職試験が近くにありまして・・・・・・
と、私の近況なんてどうでもいいですよねw

さて、今回の話は戦闘シーンとなりましたが、相変わらず難しい・・・・・・
なんとか読めたと思いますが、気になることがあれば言ってください。

そして、なぜだか人気の妹アキ。
あまりにもアキ暴走フラグの予想が多かったので、今回のおまけに登場してもらいました。
こんな感じで仕事をしてるので、暴走なんてないですよ?ww

あとがきが長くなるのはマズいと思うので今回はこの辺で。
次回のお話も読んでもらえることを期待して・・・・・・また、お会いしましょうw



[9239] 第十六話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2010/01/18 23:17
モニターに映し出されている少女は間違いなくフェイトであった。

「フェイト、お前に姉妹なんていたのか?」

「・・・・・・」

モニターに映し出された少女を見て尋ねたトシアキだが、フェイト自身は何も知らないので、首を振るだけだ。

「この子の身代りの人形を娘扱いするのはもう、疲れたわ」

モニター越しでそう言ったプレシアにアースラにいた全員は驚いた。

「聞いているかしら? あなたのことよ、フェイト」

「っ!?」

「フェイトちゃん・・・・・・」

プレシアの言葉に体を強張らせるフェイト。

そして、そんなフェイトを心配するなのは。

「せっかくアリシアの記憶を与えたのに、似たのは見た目だけ・・・・・・役立たずで、ちっとも使えない私の人形」

一人、淡々と話すプレシアにクロノとリンディは顔を歪ませる。

「作り物の命は所詮、作り物。 本物とは似ても似つかないわ」

さらに続くプレシアの言葉にユーノとアルフも怒りを隠せない。

「アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。 アリシアは私の言うことをとてもよく聞いてくれた」

「・・・・・・やめて」

プレシアのひどい言葉になのははそう呟く。

「フェイト、あなたはやっぱりアリシアの偽物よ」

「やめて・・・・・・・・・やめてよ!」

なのはの言葉を全く聞かず、プレシアはさらに言葉を続ける。

「だからあなたはもういらないわ。 何処へでも消えなさい!」

「っ!?」

プレシアの言葉にショックを受けたフェイトは目に涙を浮かべ、俯く。

「お願い! もうやめて!!」

フェイトが悲しい表情をしているのを見ていられなくなったなのはは大声でプレシアに叫びかける。

「最後にいいことを教えてあげるわ、フェイト。 私はあなたを創り出してからずっと。あなたのことが大嫌いだったのよ!!」

「っ!!?」

その言葉に今まで耐えていたフェイトがとうとう倒れこんでしまった。

「フェイトちゃん!」

「フェイト・・・・・・」

倒れこんだフェイトに慌てて駆け寄るなのはとアルフ。

そんなとき、ブチッという何かが切れる音が聞こえてきた。

「悪い、艦長さん。 フェイトを医務室まで運んでくるわ」

今まで黙っていたトシアキがそう言って倒れたフェイトの体を抱き上げる。

「え、えぇ・・・・・・」

トシアキに声をかけられたリンディもただ、頷くだけであった。

フェイトを抱き上げたトシアキがアルフとともに司令室から出て行った。

「・・・・・・トシアキさん、怒ってたよね?」

「う、うん。 こないだのときと同じ雰囲気だった」

残されたなのはとユーノがそう言った。

トシアキを見たリンディも驚いたのか、ゆっくりと自分の椅子に座る。

「彼、本当に怒ってたわね・・・・・・」

そんなリンディたちをよそに、モニターではプレシアがアリシアの入った生体カプセルと共に広間へ歩いて行く。

「私たちは旅立つの・・・・・・」

プレシアは両手を広げて、九個のジュエルシードを出現させる。

「忘れられた都、アルハザードへ!!」

その言葉を合図に九個のジュエルシードが魔力を解き放とうと光り輝く。

「・・・・・・?」

しかし、九個のうちの五個は魔力が解き放てず、その場に落ちてしまった。

「そ、そんな! どうして!?」

五個はトシアキが手に入れたものであり、トシアキによって封印されていたので、簡単に封印を解くことが出来なかったのだ。

「くっ! 本当にあの人形は役に立たないのね・・・・・・」

そうとは知らずに、持ってきたフェイトに対して悪態を吐くプレシア。

「仕方ないわ。 これでなんとかしましょう」

残った四個のジュエルシードの魔力を使い、プレシアの居城――時の庭園内にガーディアンを生み出す。

「庭園敷地内に魔力反応! いずれもAクラス!!」

「その数六十! いや、八十!? どんどん増えていきます!!」

アースラ内のオペレーターが次々と報告してくる。

「まさか!!?」

クロノの驚きをよそに、プレシアは反応しない五つを放っておいて、四つのジュエルシードで次元震を起こそうとしていた。

「この力で全てを取り戻すの! さぁ、開きなさい、時空の扉!」

時の庭園内が激しい揺れに襲われ、あちこちが崩れていく。

「じ、次元震を確認! 小規模ですが、確認されました!」

アースラにも揺れが伝わり、被害の少ない場所へ移動するアースラ。

「馬鹿なことを!!」

「クロノ君!?」

出口に向かうクロノをそばにいたエイミィが呼びかける。

「僕が止めてくる! ゲートを開いて!!」

「わ、私も行きます!」

「僕も!」

そんなクロノを見たなのはとユーノも協力を申し出る。

「君たち・・・・・・・・・わかった、行こう」

「クロノ、なのはさん、ユーノさん。 私も現地に向かいます。 あなたたちはプレシア・テスタロッサの逮捕を」

「「「はい」」」

リンディの言葉に三人の返事が重なり、そのまま三人とも司令室から出て行った。

なのは、クロノ、ユーノの三人は向かう。

決戦の場所となるプレシア・テスタロッサのいる、時の庭園へ。



***



そのころのトシアキは、フェイトを医務室まで運び、ベッドに座らせる。

「大丈夫か、フェイト」

「・・・・・・」

トシアキの呼びかけにも反応せず、ただ虚空を見つめるフェイト。

「ふぅ・・・・・・いいか、フェイト。 あいつの言ったことは気にするな」

「・・・・・・・・・私、人形だったの?」

フェイトの言葉に思わず、ここにいないプレシアを殴りたくなったトシアキだが、我慢してフェイトを見つめる。

「・・・・・・っ!?」

フェイトを見つめていたトシアキは中指と親指で丸の形を作り、思いっきりフェイトの額へ中指を弾いた。

「痛いか?」

「・・・・・・」

要するにデコピンをしたトシアキがフェイトに問いかける。

聞かれたフェイトも額を抑えながら、コクリと頷く。

「あいつに・・・・・・母親にいらないと言われて悲しかったか?」

「・・・・・・うん」

今度は両目に涙を浮かべながら返事をしたフェイト。

「じゃあ、安心しろ。 フェイトは人形じゃない」

「えっ?」

「人形は痛みも感じないし、悲しみも感じない。 フェイトがそれを感じたなら人形じゃないってことだろ?」

そう言いながら涙を拭ってやるトシアキ。

「母親がなんだよ。 兄も立派な家族だろ? フェイトが俺のことを兄さんと呼んでくれる限り、俺達は家族だよ」

「に、兄さん・・・・・・」

再び涙を浮かべてトシアキを見つめるフェイト。

「俺の他にも久遠やアルフだっている。 みんな家族だろ?」

「・・・・・・・・・うん」

「フェイトが悲しんでいると他の家族、皆が悲しい。 だから、笑っていてくれフェイト」

そう言ったトシアキはフェイトの頭をソッと撫でながら、後ろで様子を見ていたアルフを呼ぶ。

「これから俺は少し出かけてくる。 フェイトはゆっくり休んどけ。 なのはとの戦いで疲れてるだろ。 アルフはフェイトと一緒にいてやってくれ」

「わかった」

「に、兄さん・・・・・・」

トシアキの言葉に頷くアルフと不安そうに見つめるフェイト。

「俺の義妹を悲しませた奴を殴ってくる。 フェイトが寝て、起きたらまた笑える平和な日になるさ」

そう言ってトシアキは先ほどデコピンを放ったフェイトの額にソッと口付けをした。

「じゃあ、行ってくる」

その言葉を残してトシアキは医務室から出て行った。

「・・・・・・」

「フェイト?」

トシアキの出て行ったドアをジッと見つめて動かないフェイトに呼びかけるアルフ。

「兄さん・・・・・・」

そして、しばらく経ってから頬をピンク色に染めたフェイトが自分の額に手を当てた。

「・・・・・・」

そんなフェイトを複雑な表情で見つめるアルフであった。

医務室を出たトシアキはそのまま転送ルームへと向かう。

「さてっと、ここでいいのかな?」

床で魔法陣が光を放っており、そこに立つトシアキ。

「おっ!?」

そして、そのまま光に呑みこまれてトシアキの姿はアースラから消えてしまった。

「い、いっぱいいるね・・・・・・」

「まだ、入口だ。 中にはもっといるだろう」

時の庭園の入口では、なのはたちがたくさんいるガーディアンに足止めをされていた。

「クロノ君、この子たちって・・・・・・」

「近くにいる奴を攻撃するだけのただの機械だ。 もっとも、力はAクラスだけどね」

クロノの言葉を聞いたなのはは安心した様子で微笑む。

「そっか、なら安心だね」

そう言ったなのはがレイジングハートを向けようとしたとき、目の前に眩しい光が現れた。

「な、なに?」

「この光は・・・・・・」

「転送魔法?」

なのはは突然の光の驚き、ユーノとクロノは光の正体がわかり首を傾げる。

「武装局員は全滅したはずだが・・・・・・」

ここへ来る前にプレシアによって全滅させられた武装局員を思い出しながら表情を歪ませるクロノ。

「そうか・・・・・・まだ、彼がいたな」

「到着! で、いいのかな?」

クロノの言葉のあとにトシアキが光の中から現れ、あたりを見渡す。

「あれ? 何でお前らがここにいるんだ?」

「僕たちはプレシア・テスタロッサの逮捕が任務なんです」

トシアキの問にユーノが答える。

それを聞きながらトシアキはその場に立ったまま、右手をガーディアンたちに向ける。

「なるほどな。 だが、逮捕は俺が殴ってからにしてくれ」

「あなたは一体なにを・・・・・・」

クロノがすべてを言い終わる前にトシアキの右手から雷の光線が放たれた。

「「「・・・・・・」」」

その光線が通った場所にいたガーディアンは腕の一部が消失していたり、身体の半分が無くなっていたり、跡形もなく消え去っていた。

「まぁ、こんなもんだろ。 これで簡単に通れるな」

「す、すごい・・・・・・」

「なのはの魔法よりすごいかも・・・」

手を振りながら言ったトシアキ。

それを見たユーノとなのはは、ただ驚くばかりだ。

「ほら、行くぞ」

扉まで消失していたが、気にせず先へ進むトシアキ。

そして、それを追いかけるなのはとユーノ。

「あの人はどこまで規格外なんだ・・・・・・」

最後に残っていたクロノがそう呟きながら三人のあとを追いかける。

「なんだ、この黒い空間は」

先に進んでいたトシアキが道のあちこちに見える黒い空間を指して言う。

「そこは虚数空間。 あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間だ」

後ろから追いついてきたクロノがそう説明する。

「なるほど。 落ちたら終わりってことだな」

「そう言うこと。 次元震が酷くなると虚数空間も増えるから急ごう」

今度はクロノが先頭を走り、虚数空間の少ない場所を選んで走る。

クロノが目の前にあるドアを開け放つと、そこにも無数のガーディアンが待ち構えていた。

「ここから二手に別れよう。 君たちは最上階にある駆動炉の封印を」

「クロノ君は?」

「プレシアを抑えに行く。 それが僕の仕事だからね」

なのはにそう言ったクロノに対して、横から口を挟むトシアキ。

「待て。 俺はプレシアを殴ると言ったはずだ。 俺も行くぞ」

「・・・・・・わかりました。 足を引っ張らないでくださいね」

何を言っても付いてくるとわかったのか、クロノはそう言って武器を構える。

「へっ! それはこっちのセリフだ!」

対するトシアキも宙に浮いて、戦闘態勢に入る。

【ブレイズキャノン】

「爆ぜろ!」

クロノのデバイスからの魔法とトシアキの魔法によってガーディアンが減った隙になのはとユーノは階段を上って行く。

「さぁ、殺り合おうか!!」

「いくぞぉ!!」

残されたトシアキとクロノはプレシアのもとへ行くため、まだいるガーディアンたちを次々と破壊していった。



***



アースラ内ではリンディも時の庭園に赴き、次元震の進行を抑えるようだ。

「私も向かいます。 あとのことは任せましたよ?」

「了解です、艦長! お気を付けて」

オペレーターたちに見送られるまま、リンディは転送ルームへ向かう。

それとは別の場所、医務室で休んでいたフェイトとアルフだが、アルフは突然立ち上がる。

「アルフ?」

「トシアキたちが心配だから、あたしもちょっと手伝ってくるよ」

「わ、私も・・・・・・」

フェイトも一緒に行こうとするが、アルフがそれを押しとどめる。

「トシアキがゆっくり休めって言ってたじゃないか。 すぐ、帰ってくるから」

アルフもそう言って医務室から出て行ってしまった。

「・・・・・・・・・アルフ、兄さん」

ベッドに座ったまま、フェイトは出て行った二人を心配する。

「母さんに認めてもらえないと生きていけないって思ってた・・・・・」

一人になったフェイトは今までのことを思い出しながら一人、呟く。

「でも、アルフや兄さんは私を家族だって言ってくれた・・・・・・」

思えばトシアキとの出会いも突然だった。

隠れ家にしていたマンションに現れ泊めてくれと言う変な男の人。

「あの子・・・・・・白い服の子も友達になりたいって・・・・・・」

その人が持っていたジュエルシードが欲しくて、家に入れて、何気なく言われた『兄さんと呼んでくれ』という言葉に素直に従った自分。

「私のことを認めてくれる人は母さん以外にもいる・・・・・・」

それからずっとそう呼び続けて、ジュエルシードを一緒に探して、でも最後には傷つけてしまったから一人で探すといった。

「けど、今でも母さんにも認めてもらいたい私がいる・・・・・・」

だけど、最後には助けてくれて、兄さんが一緒にいると安心する。

「私、どうしたらいいんだろう・・・・・・」

【行きましょう】

手元にあったバルディッシュがフェイトの独り言に反応を示した。

「えっ?」

【私たちも皆とともに。 そして、最後はマスター、あなたが決めるのです】

「私が・・・・・・決める?」

バルディッシュの言葉をフェイトは再び呟く。

【はい。 全てはそれからです】

「うん。 正しいかどうかわからないけど、私がやりたいこと、私が望んだ未来のために頑張るよ」

そうしてフェイトはバリアジャケットを装備して医務室から姿を消した。

なのはとユーノに合流したアルフはともに駆動炉を破壊するために上へと向かっていた。

「くっ! 数が多いよ!!」

ガーディアンを倒したアルフがそう言ってなのはを見る。

「数が多いだけならいいんだけど・・・・・・このっ!」

なのはも飛びながらアクセルシュートを何度も放ち、飛んでくるガーディアンたちにぶつけていく。

「なんとかしないと・・・・・・」

ユーノは巨大なガーディアンをバインドで押さえこんでいいたが、そのバインドが切れてしまう。

「しまった!? なのは!!」

動き出した巨大なガーディアンは宙に浮かぶなのはに斧を振りおろそうとする。

「っ!?」

不意打ちの攻撃になのはは思わず、目を閉じてしまう。

【サンダーレイジ】

その時、なのはたちの頭上から雷が落ちてきて、巨大なガーディアンを破壊した。

「フェイト!?」

驚いているアルフをよそに、ゆっくりとなのはの目の前に降りてくるフェイト。

「・・・・・・」

そんなフェイトを嬉しそうに見つめるなのは。

そこへ先ほどよりも大きなガーディアンが壁を破壊して現れる。

「大型だ。 バリアが強い」

「うん」

フェイトの言葉に敵を見据えながら頷くなのは。

「だけど、二人でなら・・・・・・」

「うん! うん、うん!!」

続けて言われたフェイトの言葉に嬉しそうに微笑みながら何度も頷くなのは。

「いくよ、バルディッシュ」

【了解】

フェイトが少しガーディアンから距離を取って構える。

「こっちもだよ、レイジングハート」

【わかりました】

なのはも離れてレイジングハートを遠距離砲撃モードに変更する。

「サンダースマッシャー!!」

「ディバインバスター!!」

フェイトとなのはの攻撃をバリアで防いでいる大型ガーディアン。

「「せぇ~の!!」」

二人の掛け声で二つの砲撃が一つに重なり、大型ガーディアンのバリアを貫いた。

そして、その攻撃によって破壊された大型ガーディアンの爆発で時の庭園が大きく揺れ動いた。

「フェイト~~!!」

落ち着いたあたりでアルフがフェイトに飛びつく。

「アルフ。 ごめんね、来ちゃって。 でも、私も考えたの。 だから・・・」

「いいんだよ。 フェイトが自分で考えた行動なら。 トシアキもきっとわかってくれるさ」

その後、四人で行動をともにし、駆動炉までたどり着く。

「ここが駆動炉」

「うん。 ありがとう、フェイトちゃん」

たどり着いたなのはとユーノは駆動炉の暴走を止めるためここに残る。

「私は行くね」

「フェイトちゃんは、お母さんのところ?」

「・・・・・・うん。 自分が望んでいる未来のために」

駆動炉から今度はプレシアのいる場所に向かうため、フェイトはなのはに背を向ける。

「私、その・・・・・・うまく言えないけど・・・・・・頑張って」

そんなフェイトの背中にそう言って励ますなのは。

「・・・・・・ありがとう」

なのはの言葉を聞いたフェイトはゆっくりと目を閉じて、お礼を言った。

「今、クロノと敷島さんが向かってる。 急がないと間に合わないかも」

ユーノがそう言ってフェイトに教えてやる。

フェイトはその言葉を聞いてアルフとともにプレシアがいる場所に向かって飛んでいった。



~おまけ~


時の庭園でプレシアが起こした次元震の影響は地球にも起こっており、軽い揺れがずっと続いていた。

「・・・・・・」

両脇に二匹の犬を抱えながらアリサはジッとしている。

「くぅ」

「わん! わん!」

「こら、大人しくしなさい」

揺れに対して落ち着いていられないのか、二匹の犬が体を動かそうとするが、アリサに怒られて大人しくなる。

「トシアキ、大丈夫かしら・・・・・・」

心配になったアリサは携帯を取りだし、トシアキの電話番号を入力する。

「・・・・・・」

しばらくコールが鳴り、ようやくつながったと思ったアリサだが。

「この電話は現在、電波の届かないところにあるか。 または電源を・・・」

業務的な言葉に落胆しつつ、電話を切ったアリサ。

「あのバカ。 電源入れてないと意味ないじゃないの・・・・・・」

目が覚めてトシアキの部屋に行くと、眠っていたのは巫女服を着た可愛い少女だけで、トシアキ本人がどこにもいなかったのだ。

「また勝手にいなくなるなんて・・・・・・」

鮫島は眠ったままの少女に被害が及ばないようにトシアキの部屋にいる。

「早く連絡よこしなさいよ、トシアキ」

先ほど切ったばかりの携帯に向かってそう言ったアリサであった。



~~あとがき~~


はい、ついにプレシアの秘密基地(?)に入った主人公たちです。
今回はフェイトを全面的に押し出す感じで書いてみました。

しかし、アリサに続いてフェイトまでとは、自分で書いておきながら主人公に殺意がめば(ry

私としてはアリサが大好きですので、今回のおまけに登場させましたw
ってか、女性キャラでアリサが一番登場話多いんじゃないの?
などと思いながらも好きなんだから仕方ない!w

次回でいよいよ決着がつきます(多分・・・)
そして、その次で無印終了(予定)
こんな感じですが、感想や意見を頂けることを願って、また次回お会いしましょうw



[9239] 第十七話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/03 13:57
なのはとフェイトの合同攻撃によって破壊された大型ガーディアンの爆発の影響がプレシアのいる場所にまで伝わってきた。

「・・・・・・もう。ここも終わりね」

≪プレシア・テスタロッサ≫

一人で呟いたプレシアのもとに外部からの念話が聞こえてきた。

「っ!?」

≪終わりですよ。 次元震は私が抑えています≫

それはアースラから出動したリンディによる念話であった。

≪駆動炉も時機に封印され、あなたのもとには執務官が向かっています≫

「そうね・・・・・・でも、もう遅いわ。 私はアリシアと共に・・・・・・」

そこまで言ったところでプレシアの背後の壁が破壊され、そこからトシアキとクロノが姿を現した。

「そこまでだ! プレシア・テスタロッサ、あなたを・・・・・・」

クロノが最後まで言い終わる前にトシアキがプレシアの頬を殴りつけていた。

「ぐっ!?」

「てめぇの所為で、フェイトは・・・・・・」

プレシアは殴り飛ばされて、アリシアの入った生体カプセルから離されてしまった。

「ど、どうして!? シールドが!?」

自分のシールドが役に立たず、殴られてしまったプレシアは驚いてトシアキを見る。

「俺には関係ないんだよ」

そう言いながら、そばにあった生体カプセルを見るトシアキ。

「私のアリシアに・・・・・・アリシアに近寄らないで!!」

離れたところから魔法を放ったプレシア。

魔法が着弾し、あたりは爆煙につつまれた。

「全く、あなたはいつも勝手なことを・・・・・・」

「俺はあいつを殴るって言ったぜ?」

爆煙が晴れて、現れたのはトシアキを守るようにしてシールドを張っていたクロノと、無傷なトシアキであった。

「くっ、忌々しい存在ね」

そんな言葉を吐くプレシアをよそにアリシアの入っているカプセルに触れるトシアキ。

「・・・・・・ふむ」

トシアキがそう言った瞬間、生体カプセルが割れてしまった。

割れたカプセルからは中に入っていた液体が流れ出ており、アリシアの体もともに出てきた。

「あ、アリシア・・・・・・」

その様子を見ていたプレシアが膝をついて顔を真っ青にする。

「ちゃんと埋葬してやるからな」

トシアキが抱え上げたアリシアがその言葉に微笑んだように見えた。

「・・・・・・・・・」

プレシアは離れた位置で放心して虚空を見つめている。

「あぁ・・・・・・あの子の魂が消えて・・・・・・」

そう言いながら何もない上に手を伸ばし、泣き崩れるようにして倒れた。

「なるほど。 こいつの魂をカプセルに一緒に入れてたわけだな」

「そんなことが可能なのか?」

納得したように頷いたトシアキに傍にいたクロノが問いかける。

「普通は不可能だが、お前らの技術を使えば出来たんじゃないのか? それとも、あいつが何か勘違いしているかだが・・・・・・」

そう言って、可哀そうなものを見るような眼でプレシアを見る。

「母さん!!」

そのとき、上空からアルフとともにフェイトが下りてきた。

「・・・・・・なにをしにきたの?」

上空から現れたフェイトを見て起きあがったプレシアが睨みつけながら言った。

「消えなさい、もうあなたに用はないの」

「・・・・・・あなたに言いたいことがあってきました」

睨まれたフェイトはその場で立ち止り、プレシアを見つめながら話す。

「「「・・・・・・」」」

そんなフェイトをアルフ、クロノ、そしてトシアキが静かに見守る。

「私はアリシア・テスタロッサではありません。 あなたが創った人形かもしれません・・・・・・」

「・・・・・・だから、なに?」

時間が惜しいのか、それともトシアキに抱かれているアリシアが気になるのか、苛立ちを見せながら続きを促すプレシア。

「でも、私は・・・・・・フェイト・テスタロッサはあなたに生みだして貰った、育ててもらった、あなたの娘です」

「あはははっ!!! それで? 今さら娘と思えというのかしら」

「あなたがそれを望むなら・・・・・・私は何を敵にしてもあなたを守ります」

ジッと見つめて言ったフェイトはそのまま歩きだし、プレシアのもとへ進んで行く。

「ふっ・・・・・・」

最後に微笑んだプレシアはトンと地面をデバイスで叩き、魔法陣を起動させる。

「アリシアが助からないのなら、生きている意味もないわ」

トシアキの所為で蘇生が不可能になったことを悟ったプレシアは魔法を発動した。

魔法の発動により庭園内が激しく揺れ、地面が割れる。

「か、母さん!!」

足場を失ったプレシアが虚数空間へ落ちて行くのを助けようと走り出すフェイト。

「フェイト!!」

そんなフェイトを後ろから飛びついて留めたアルフ。

そして、フェイトは落ちて行くプレシアをずっと見つめていた。

「クロノ君たちも脱出して! 崩壊まで時間がないよ!!」

エイミィからの通信を受けたクロノは傍にいたトシアキを見る。

「聞いた通りです。 早く脱出を!」

「わかった」

頷いたトシアキはアリシアを抱えながらフェイトを見る。

そのとき、崩壊した瓦礫がフェイトとアルフに向かって落ちてきた。

「ちっ! こいつを頼む!!」

「な、なにを!?」

抱えていたアリシアをクロノに任せ、トシアキはフェイトたちのもとへ急ぐ。

「フェイト! アルフ!」

名前を叫びながらトシアキは素早く呪文を発動させ、二人の上に落ちてくる瓦礫に向かって放った。

「きゃっ!」

二人の真上で大きな瓦礫が破壊され、パラパラと破片だけが落ちてくる。

「大丈夫か!?」

「う、うん。 なんとかね」

「に、兄さん・・・・・・母さんが・・・・・・」

心配するトシアキにアルフが頷くが、フェイトは虚数空間に落ちて行ったプレシアのことで頭がいっぱいだったようだ。

「そうか・・・・・・・・・フェイトはどうする?」

「えっ?」

突然、尋ねられたフェイトは訳も分からずに首を傾げる。

「母親のもとに今から行くか。 それとも、俺達と一緒に帰るか。 どちらか自分が好きな方を選べ」

「・・・・・・」

「トシアキ、あんた・・・・・・」

トシアキの言葉を考えるようにして俯くフェイト。

そんなことを尋ねたトシアキを睨むアルフだが、トシアキの視線はジッとフェイトだけを見ていた。

「わ、私は・・・・・・」

庭園内が崩壊していき、崩れているなかでトシアキたち三人はその場から動かない。

結論を出したフェイトが顔をあげたとき、天井に大きな爆発が起こった。

「フェイトちゃん!!」

その爆発した天井から駆動炉を封印していたなのはが姿を現した。

「帰ろう? 私たちと一緒に!!」

そう言って上空からフェイトに向かって手を差し出すなのは。

「お前は一人じゃない。 友達だっているんだ。 だから、安心しろ」

なのはを見つめるフェイトに微笑みかけるトシアキ。

「・・・・・・・・・うん」

静かに頷いたフェイトは上空に浮かぶなのはに向かって手を伸ばした。

「早く脱出を! もう、この庭園はもたない!!」

後ろでアリシアを抱えているクロノが大声で叫ぶ。

その声を聞いて、手をつないだなのはとフェイト、トシアキとアルフの四人が出口に向かって飛んで行く。

そうして、崩壊ギリギリのところで無事、アースラへ帰還することができたのであった。



***



帰還したトシアキたちは次元震の余波が収まるまで、アースラで待機することとなった。

そして、そのことが先ほど、集められた艦長室で聞かされ、不機嫌になったトシアキ。

「・・・・・・」

「それから、フェイトさん、アルフさんの二人は護送室にいてもらいます」

リンディがそう言ったとき、ついにトシアキの我慢が限界に達した。

「おいおい、俺の義妹をそんな部屋に閉じ込めるのかよ!?」

「今回の事件は小規模とはいえ次元震を引き起こしたんだ。 容疑者の処遇には慎重になる」

横から口を出したクロノにトシアキは眉を顰めて言い放った。

「俺は艦長さんに話してんだ。 フェイトの姉妹の裸を見て、興奮していた執務官は黙ってろ」

「な、なにを!?」

言われたクロノは顔を赤くしながら慌てて否定する。

しかし、周りにいた他の女性たちは疑いの眼差しをやめない。

「クロノ、後で家族会議ね?」

「クロノ君、あとでお話しようね?」

リンディとエイミィにそう言われ、クロノは顔を赤から青に変色させてしまった。

「でもね、トシアキさん。 さっきクロノが言ったことは正しいことなの」

「だからって・・・・・・」

「いいの、兄さん」

リンディにさらに食ってかかろうとしたトシアキを横にいたフェイトが諌める。

「私はみんなに迷惑をかけたから・・・・・・だから、仕方ないよ」

「・・・・・・・・・・・・わかったよ、フェイトが納得してるなら」

そうして、フェイトとアルフには特別な手錠がはめられ、護送室へ連れていかれた。

「さて、それから・・・・・・」

残ったトシアキ、なのは、ユーノの三人を見てリンディが姿勢を正す。

「今回の事件を解決するに至り、大きな功績があったものとして二人を表彰します」

どこから取りだしたのか、表彰状と書かれた紙をなのはとユーノに手渡す。

「あ、ありがとうございます!」

すごく緊張した様子で受け取ったなのはとユーノ。

「それから・・・・・・今回の任務を無事達成できたとして、トシアキさんにはこれを」

リンディは机の中から分厚い封筒を取り出してトシアキに渡す。

「・・・・・・・・・どういうことだ?」

「あら? 何か不満かしら」

トシアキが封筒の中身を確認すると、契約したときより多い額が入っていたのだ。

「何故、こんなに多い?」

「それはあなたの功績を称えてよ。 プレシア・テスタロッサに渡ったうちの五つのジュエルシード、それが発動しなかったのはあなたのおかげ」

「・・・・・・」

微笑みながら話すリンディの言葉をトシアキは黙って聞いている。

「おかげで次元震が小規模で済んだわ。 小規模なら私もなんとか抑えられたし、感謝の気持ちよ」

「なるほど。 額が多いのは理解した。 それで、これはなんだ?」

そう言ってトシアキは封筒にお金とともに入っていた徽章を取り出す。

「なっ!? 艦長!!」

トシアキが取り出した徽章を見たクロノが驚いてリンディを見る。

「どうして三等空尉の徽章を!!」

「それほどの功績を残したと思ったからよ」

「しかし、彼は敵対行動をとったではないですか!?」

納得がいかないクロノはリンディにそう言って怒鳴る。

「それが結果的に事件解決につながったのよ。 私はこれでいいと思ってるわ」

「・・・・・・」

何を言っても無駄だと思ったクロノは無言のまま、トシアキを睨む。

「なるほど。 これはあんたらの階級章か」

「えぇ、そうよ。 持っていても損はないでしょう?」

「・・・・・・・・・確かにな。 じゃあ、とりあえず貰っておく」

しばらく何かを考えたトシアキは徽章をポケットにしまい、封筒を手に取る。

「それじゃあ、しばらく休む。 何かあったら呼んでくれ」

そう言ってトシアキは艦長室から去って行った。

残ったなのはがリンディに話しかける。

「あの・・・・・・フェイトちゃんはこれからどうなるんですか?」

「事情があったとは言え、彼女は次元干渉犯罪の一端を担っていたのは事実だ」

なのはの問いかけにリンディの横に立っているクロノが答える。

「・・・・・・」

「数百年以上の幽閉となるが・・・・・・」

「そんなっ!!」

クロノの言葉を聞いてなのはが悲しそうな表情でクロノを見る。

「な・る・が! 状況が特殊だし、彼女が進んで次元干渉犯罪をしていたわけでもない」

なのはが悲しそうな顔から嬉しそうな顔へ変わっていく。

「そ、それじゃあ!」

「あぁ。 あとは僕が上手く偉い人たちに伝えて、罪がなくなるとまではいかないが、軽くなるようにしてみせるよ」

「うん! ありがとう、クロノ君」

なのはの微笑みを受けて、クロノは顔を赤くする。

それを見ていたエイミィとユーノがクロノを睨み、リンディは微笑ましくその様子を見ていた。

それから数日が経過し、トシアキたちが地球へ帰る時がきた。

「協力感謝します」

見送りに来たリンディがそう言ってトシアキを見る。

「俺は管理局が嫌いだが、艦長さんの依頼なら受けてもいいぜ?」

「あら、それはどういうことかしら?」

「フリーの魔導師の話さ。 艦長さんからの依頼なら受けるってことだよ。 その代り、報酬は弾んでくれよ?」

笑顔でそう言ったトシアキに自然とリンディも微笑む。

「そうね。 またそんな機会があればお願いするわ」

そう言って二人は別れの挨拶を済ませる。

その隣ではクロノとなのはが話をしていた。

「フェイトの処遇は決まり次第連絡する。 彼にも言っておいてくれ」

目でトシアキを見るクロノ。

「うん、伝えておくね。 それから、フェイトちゃんをお願い」

「大丈夫さ、決して悪いようにはしない」

「ありがとう」

なのはがそう言ったとき、準備が終ったエイミィがやってきた。

「準備終わったよ~」

「それじゃあ、またな」

「またね。 クロノ君、エイミィさん、リンディさん」

三人に見送られ、トシアキたちはアースラから転送され、地球の海鳴の街へ戻って行った。

海鳴臨海公園に戻ってきたトシアキたち。

「さて。 じゃあ、俺は行くな」

「えっ? トシアキさんはどこに行くの?」

せっかく一緒に帰ってきたのに、すぐに何処かへ行こうとするトシアキ。

「家だよ。 お金もらったんだから家を買おうと思ってな」

「ふ~ん、そうなの」

「あぁ、だから・・・・・・」

そう言ったトシアキのポケットで携帯電話が鳴り響く。

「あれ? トシアキさん、携帯持ってたんだ」

「あぁ、ちょっとな・・・・・・げっ!?」

なのはに返事をしつつ、携帯を開いたトシアキが見たものは、着信履歴十二件、新着メール三十五件の表示であった。

しかも、携帯の番号を知っているのはアリサだけなので、自然とすべてアリサからということになる。

「・・・・・・・・・」

「どうしたの? トシアキさん」

携帯を見たまま固まっているトシアキを不思議に思い、そう尋ねたなのは。

「いや、なんでもない。 少しな・・・・・・」

「?」

冷汗をかいているトシアキを見ながら首をかしげたなのはだが、思いついたように自分の携帯を取り出す。

「そうだ、トシアキさん。 なのはにもアドレス教えて」

「ん? あぁ、いいぞ」

言われるまま、なのはと携帯番号を交換したトシアキ。

「にゃはは・・・・・・」

トシアキのアドレスを手に入れたなのはは嬉しそうに微笑む。

「それじゃあ、もう行くな」

「うん! またね、トシアキさん!」

なのはに見送られ、トシアキは飛び立っていった。

「じゃあ、なのはたちも帰ろっか」

「うん」

今まで黙っていたユーノがなのはとともに高町家へ帰宅する。

こうして、なのはの魔法少女としてのお話は一旦終了することとなる。



***



数日後、なのはは海鳴臨海公園にいた。

「フェイトちゃ~ん!!」

走りながら待っていたフェイトに呼びかけるなのは。

「・・・・・・」

なのはを見つけたフェイトも嬉しそうに微笑む。

「あんまり時間はないんだが、少し話すといい。 僕たちは向こうにいるから」

駆け寄ってきたなのはを確認したクロノがそう言った。

「うん、ありがとう」

クロノ、アルフ、ユーノの三人がなのはとフェイトから離れた位置まで行く。

二人きりになったなのはとフェイトはしばらくお互いを見つめあう。

「たくさん話したいことあったのに、フェイトちゃんの顔を見たらわすれちゃった」

「そうだね・・・・・・私もうまく言葉にできない」

二人で海を眺めながら話す。

「でも、嬉しかった。 私とまっすぐ向き合ってくれて」

「うん。 友達になれたらいいなって、思ってたの」

笑顔ななのはを見て、フェイトも微笑む。

「今日来てもらったのは、その返事をするため・・・・・・でも、私、どうしたら友達になれるかわからない」

「簡単だよ。 すっごく簡単。 わたしの名前を呼んでくれればいいの」

「・・・・・・・・・なのは」

なのはの言葉を聞いたフェイトは緊張しながらもなのはの名前を呼んだ。

「うん。 フェイトちゃん・・・・・・」

呼ばれたなのはも返事をして、ソッとフェイトの手を握る。

「ありがとう、なのは。 今は離れてしまうけど、きっとまた会いにくるから・・・・・・それまで待ってて」

「うん、うん! 待ってるよ、わたしたち友達だもん!」

その微笑ましい光景を離れた位置で見守っていたアルフは涙を流す。

「うっ・・・・・・うっ・・・・・・」

「どうしたんだ?」

そばにいたクロノが突然、涙を流したアルフを見る。

「フェイトが、あんなに、笑ってるなんて・・・・・・よかった・・・・・・」

「・・・・・・・・・これから、もっと笑えることがくるさ」

「そうだね」

クロノの言葉に同意するようにユーノが頷く。

「それより、彼はどうした? ここに呼んだのか?」

「うん。 一応、なのが敷島さんに連絡を取っていたみたいなんだけど・・・」

なかなか姿を見せないトシアキについてクロノとユーノは話し出す。

「できれば彼にも管理局に来てほしいんだが・・・・・・」

「無理だろうね、敷島さん。 かなり嫌ってるみたいだし」

「そうか・・・・・・」

ここ数日間でトシアキの印象が変わったのか、クロノは少し残念そうにしていた。

「でも、フェイトには会いにくるよ、きっと」

いつの間にか泣き止んでいたアルフも会話に入ってくる。

「そうだろうね・・・・・・」

クロノがアルフの言葉に頷いたとき、風が頬を撫でた。

「よっと。 もしかして遅刻したか?」

アルフやクロノの目の前に突然現れたトシアキ。

「あなたはいつも、突然に現れるんだな」

「まぁ、色々あってな。 そう言うなよ、執務官」

「兄さん!!」

そんな会話をしていたトシアキのもとへフェイトとなのはが駆け寄ってきた。

「よう、フェイト。 元気にしてたか?」

「うん、兄さんも元気だった?」

「それなりにな。 ん? リボン変えたのか?」

そばに来たフェイトの髪をまとめているリボンが変わっていたのに気づいたトシアキ。

「うん、なのはと交換したの。 思い出に残るものとして」

「そっか。 よかったなフェイト」

微笑みながらフェイトの頭を撫でてやるトシアキ。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

クロノの言葉でフェイトとアルフ、そしてユーノが現れた魔法陣の上に立つ。

「またね、フェイトちゃん! アルフさん、ユーノ君、クロノ君」

「うん。 またね、なのは。 兄さんも・・・・・・」

「あぁ、元気でな」

そして、最後の別れの挨拶を終えて、クロノたちはアースラへ転送された。

「・・・・・・」

ふと風が吹いたあと、なのはが隣を見るといつの間にかトシアキがいなくなっていた。

「またね、フェイトちゃん」

青空に向かってなのは微笑んでそう言った。

これから、なのはの平和な日々が続くのである。



~おまけ~


トシアキたちが転送されたあとのアースラ。

「で、クロノ。 先ほどの話の件を聞かせてもらいましょうか?」

「そうだよ、クロノ君。 女の子の裸を見て興奮したってどういうことかな?」

両脇にいたリンディとエイミィにそう言われて、慌てるクロノ。

「べ、別に興奮なんてしてない! あの男が勝手に・・・・・・」

「そう。 やっぱり、あなたとは詳しくお話をする必要がありますね」

「お共いたします、艦長!」

クロノはリンディとエイミィに連れられて、一時間ほど話を詳しく聞かれたのであった。

「うぅ・・・・・・なんで僕がこんな目に・・・・・・」

愚痴をこぼしながらフェイトの取り調べを行うクロノ。

「クロノ。 さっき、兄さんが言ってたこと本当?」

そう言われたクロノは視線を上げ、フェイトを見ると庭園ないで抱えたアリシアの裸が頭に浮かんできた。

「っ!?」

慌てて首を振って雑念を消すも、顔は赤く染まったままである。

「・・・・・・・・・クロノのエッチ」

「ぐはっ!?」

フェイトの言葉に後ろに控えていたアルフがクロノに殴りかかる。

「フェイトの裸を想像するんじゃないよ!」

「ご、誤解だ!」

取り調べが通常より時間がかかったのは言うまでもない。



~~あとがき~~


どうも、新たな話を更新したT&Gです。
一応、これで無印編は終了となります。
ですが、持ち帰ったアリシアの遺体はどうなったのか?
アリサの電話やメールの内容は?
久遠は一体?
といった話をAs編に入る前に書きたいと思っております。
ですので、As編まではもう少しお待ちください。

これからも「魔法使いと魔法少女」を読んで頂けるように頑張っていきますので、どうか見捨てず、最後までお付き合いしてくれるようお願いします。

それでは、次回のお話で会いましょうw



[9239] キャラ設定
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/10 22:26
姓名:敷島 トシアキ(シキシマ トシアキ)
性別:男 年齢:十八 容姿:茶色い長髪を後ろで一つに束ねている。
詳細:生まれは科学が発達しておらず、自然豊かな星。
その星に存在する、人には見えない『精霊』の力を借りて使用する『魔法』を使いこなす。
その世界にある一つの国の王族として生まれ、幼いときから周囲に次期国王として期待されていた。しかし、自分が国王になることによって実妹であるアキが幸せになれなくなる環境に嫌気がさし、偶々その世界に『歪み』を調整に現れたゲンジとともに他の世界に旅立つことによってアキに国王の座を譲ることを考えた。



姓名:鷹見 ゲンジ(タカミ ゲンジ)
性別:男 年齢;十八(?) 容姿:黒い短髪でメガネをかけている。
詳細:生まれた場所は不明。
無数に存在する世界を渡り歩き、その世界に現れる特別な『歪み』を調整してまわっている。
世界を渡り歩くための『ゲート』は『歪み』が発生している場所にランダムで繋がる。(つまり、『歪み』を消した世界には戻って来られないことになる)
普段は普通の人間と同じだが、『歪み』に遭遇したときのみ、能力を発動させることが出来る。(詳しい原因や理由については不明)
能力を発動させることによって身体能力が上昇する。



姓名:敷島 アキ(シキシマ アキ) 管理局ではアキ・シキシマ
性別:女 年齢:七(九) 容姿:黒い長髪を後ろで一つに束ねている。
詳細:生まれはトシアキと同じ星。
トシアキの実妹であるのだが、生れたときから『精霊』の気配がわからず、『魔法』を使うことが出来なかった。
そのため、実の両親や周囲の人間はアキを『何も出来ない王女』として見ていた。しかし、実兄であるトシアキだけはアキのことを見てくれたため、トシアキにだけは本当の笑顔を見せ、懐いていた。
しかし、唯一心を開いていたトシアキが突然消えたため、探しに行こうと使えない『魔法』について勉強を始める。
そんな時にある事件に巻き込まれ、様々な事情が重なり管理局に入ることとなり、九歳になった現在は最年少執務官として働いている。



姓名:アサ(アサ)
性別:女 年齢:不明 容姿:黒くて長い髪をポニーテールにしている。
詳細:生まれた場所は不明。
しかし、トシアキと同じ『魔法』を使用していることから同じ世界の出身だと思われる。
地球で殺されそうになっていた子狐を助け『久遠』と名付ける。
名付けた久遠とともに過ごしていたが、村人たちに怪しげな力を使う妖怪だと思われ、話す間もなく殺されてしまう。



姓名:久遠(クオン)
性別:雌 年齢:不明 容姿:可愛らしい子狐。
詳細:生まれは地球。
長い時を生きてきた妖狐で人間に化けることが出来る。(人間の姿になったときは巫女服を着た少女となる)
かなり人見知りが激しく、見かけてもすぐに逃げ出してしまうが、一度懐いた相手には何もしなくてもすり寄ってくる甘えん坊である。
人間の言葉は助けてもらったアサに教えて貰った。
天候操作や雷撃、夢写し、不老など妖狐としての数々の特殊能力がある。
アキ、トシアキにはアサと匂いが似ているとの理由で懐いている。
そして、トシアキについてまわるうちに事件に巻き込まれ、そのことが原因で『使い魔の契約』をトシアキと結んでしまう。

原作のキャラについてはそのままです。
ただ、主人公(オリキャラ)たちと関わったことによって性格が若干変わっています。



[9239] 第十七.二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/13 00:48
なのはと携帯電話の番号を交換し終えたトシアキは急いでアリサの家に向かっていた。

「絶対、怒ってるよな・・・・・・」

飛びながら呟くトシアキ。

現在は午前六時ごろで街の人々はそんなに外にいないが、見つかると色々と面倒なことになるので、認知されないように魔法を使用している。

「ある意味この文章は恐ろしいな・・・・・・」

三十五件のメールのうち、十件は一文字しか打たれていない。

続けて読むと「い・ま・ど・こ・に・い・る・の・?・(怒)」となる。

「・・・・・・俺、死ぬかも」

そう言っている間に、アリサが住む大きな家が見えてきた。

「よっと、到着」

着地したのはアリサの家で一番高い所にある部屋のベランダであった。

「とりあえず、ここから電話して・・・・・・」

携帯を取り出し、アリサに電話をしようとしたトシアキの目に飛び込んできたもの。

「・・・・・・」

それはパジャマを脱いで、制服に着替えようとしているアリサの姿だった。

二人は目が合い、お互いにしばらく固まっている。

その中でトシアキが掛けた電話のコールだけが部屋の中で鳴り響く。

「・・・・・・・・・もしもし?」

沈黙を破ったのはアリサの声であった。

窓を挟んで向き合った状態で電話に出たアリサ。

「よ、よう。 何度も連絡してくれたのに返事できなくてゴメンな?」

「・・・・・・・・・言いたいことはそれだけ?」

「あえて言うなら、赤と白のストライプはなかなか似合っ・・・・・・ぐぇっ!?」

トシアキが話している間に窓をあけ、目覚まし時計を思いっきり投げつけたアリサ。

「この! 馬鹿トシアキ!!」

「す、すまん! 別にそんなつもりはなかったんだ!」

「いいから、後ろを向け! いつまでも見てるんじゃないわよ!」

ドタドタと朝から騒がしいアリサ家であった。

しばらくして状況が収まり、ようやく普通に話が出来るようになった。

「で? トシアキは今までどこにいたのかしら?」

「し、仕事です・・・・・・」

アリサの部屋で話しをしている二人。

アリサは自分のベッドの上に立って、床で正座しているトシアキを見降ろす。

「そう。 仕事でも休憩時間があるはずよね? それともメールを返せないほど忙しかったの?」

「えっと、はい。 忙しかったんです・・・・・・」

「そう・・・・・・」

トシアキを見降ろしていたアリサがクルリと後ろを向いた。

「?」

そんなアリサを不思議に思い、立ち上がるトシアキ。

「あっ・・・・・・」

「アリサ・・・・・・」

アリサの顔を見るように覗き込んだトシアキ。

「な、なによ?」

そのトシアキが見たものは涙を必死に隠そうとしているアリサであった。

「・・・・・・・・・悪かった」

「・・・・・・うん」

しばらく気まずい沈黙が流れる。

「べ、別にトシアキを心配してたわけじゃないんだからねっ!」

「あぁ・・・・・・わかってるよ」

気まずい空気を打ち破るようにアリサが大きく言い放つ。

そんなアリサの意図を理解したトシアキは静かに頷いた。

「そ、そういえば、トシアキが連れてきた娘。 昨日、目が覚めたわよ」

「ほ、本当か!?」

「また眠ったみたいだけど、鮫島が言うには一度目を開けたそうよ」

アリサの言葉に嬉しそうに微笑むトシアキ。

「そうか・・・・・・久遠、無事だったんだな」

久遠が描いた魔法陣が正確に描けていたのか、意識が薄れていたトシアキにはわからなかったのだ。

魔法を使う者にとって少しでもミスがあると大変なことになる。

久遠がなかなか目覚めないのは魔法陣が原因だとトシアキは考えていたのだ。

「それで? あたしはまだ、あの娘のこと聞いてないんだけど?」

「あ、あぁ、そうだったな」

嬉しそうに微笑むトシアキを見ながら僅かに怒気を滲ませているアリサ。

そんなアリサにビクビクしながらも、久遠との関係を話すトシアキ。

「一言でいえば・・・・・・・・・・・・友達?」

「友達? 誘拐したうえに無理やりコスプレをさせたんじゃないの?」

「違う! 断じて違うぞ!!」

必死で否定するトシアキに少し安心したアリサ。

「そ、そう。 二三日ここにいるけど、大丈夫なの? 両親が心配してるんじゃ・・・・・・」

「あいつ、両親いないんだよ。 それで、俺が一緒にいるんだ」

静かに話すトシアキに余計なことを聞いてしまったと悔やむアリサ。

「誘拐じゃないなら、どこで知り合ったのよ?」

「神社の・・・・・・じゃなくて、温泉だったかな」

思わず狐の姿をしている久遠との出会いを言ってしまいそうになったトシアキは慌てて、発言を切り替える。

「・・・・・・それじゃあ、あの久遠って名前は? 確か、子狐の名前じゃ・・・」

「あ、あぁ、それは、名前がないって言ってたから代わりに・・・・・・」

どんどん聞いてくるアリサに冷汗をかきながら答えるトシアキ。

誤魔化しが効きそうになくなってきたため、この会話を終わらせたいトシアキであった。

「住む家がないのに引き取ったの?」

「いや、それはな・・・・・・」

そこまで言ったところでトシアキの携帯電話が鳴り響く。

「・・・・・・鳴ってるわよ、電話」

「あ、あぁ」

言われて電話を取り出しながら、首を傾げるトシアキ。

トシアキが表示された番号を見ると、誰か分からない番号であった。

「・・・・・・誰だ?」

「あっ。 私、アースラでオペレーターをやってますエイミィです」

電話から聞こえてきたのは管理局所属のエイミィであった。

「何故、この番号を?」

「なのはちゃんにお聞きしまして・・・」

「そうか。 それで?」

勝手に個人情報を教えるなよと、ここには居ないなのはに心の中で悪態を吐きながら話を進める。

「実はあなたがお連れしたアリシアちゃんをどうするのか、お聞きするのを忘れておりまして・・・」

「そう言えば、言ってなかったな」

「ですので、一度こちらに戻って来ていただきたいと思いまして・・・・・・その・・・」

エイミィは緊張した様子でそう話す。

トシアキが管理局を嫌っているのを知っているため、いつ怒鳴られるのかと怯えているのだ。

「わかった。 いつもの場所に着いたら頼むな」

「り、了解です」

通話を終わらせて、目の前の不機嫌なアリサに話かける。

「悪い、また仕事ができた。 今から行ってくる」

「そんなことだろうと思ったけどね。 いいわ、あたしも学校に行かなくちゃいけないし、午後からなら大丈夫よね?」

アリサの言葉に午後からも詰問されるのか、と思ったトシアキだが、表情に出さずに窓へ向かう。

「あぁ、午後には戻る。 それから久遠を頼むな」

「鮫島が診ているから大丈夫よ」

アリサの言葉を聞きながら、トシアキは海鳴臨海公園へ向かって飛び立った。



***



公園についたトシアキは着地したその瞬間にアースラへ転送された。

「着地した瞬間に転送とか、ありえないだろうが・・・・・・」

ブツブツと文句を言いながら、アリシアがいる医務室へ向かうトシアキ。

「悪いな、迷惑かけて」

医務室へ入って最初に目に飛び込んできたのは、椅子に座るクロノであった。

「全くだ。 僕たち管理局は暇じゃないんだ」

「人が謝ってるんだから、素直に受け取れよ、執務官」

「・・・・・・それで、この子をどうするつもりだ?」

トシアキの言葉をそのまま無視して、話を進めるクロノ。

「地球の墓に入れようかと思ってる。 さすがにこのままってわけにもいかないだろう?」

「それはそうだが・・・・・・」

言いよどむクロノを見てトシアキがニヤリと悪戯を思いついた悪ガキのように不気味に微笑む。

「もしかして、アリシアを手放したくないんじゃないのか?」

「なっ!? なにをバカなことを!!?」

怒りと羞恥で顔を赤くしながら、必死に否定するクロノ。

「だって、あのとき。 俺がアリシアを預けたときにアリシアの体を凝視してたろ?」

「だ、断じて違う! 僕はそんなことは・・・・・・」

「わかってる。 お前くらいの年ごろなら異性の裸に興味を抱いてもおかしくはない」

クロノの言葉を遮って、わかっているとでもいうのに何度も頷くトシアキ。

「違う!!」

「いいか、執務官。 気持はわかるが死んでいる人をそんな目で見ては失礼だ。
生きている可愛い子だけにしとけ」

完璧にクロノの言葉を無視して、話を進めるトシアキ。

「フェイトもなのはも可愛いじゃないか。 もっとも、お前なんぞに大事な義妹はやらないがな」

「あ、あなたって人は・・・・・・」

トシアキの話す内容についていけなくなったクロノが肩を落として、諦めるようにトシアキを見る。

「冗談だ。 それと、俺のことはトシアキでいい。 いつまでも代名詞で呼ばれたくない」

「わかった。 ではトシアキ、僕のこともクロノでいい。 執務官は本局に行けば何人もいるからな」

そう言ってお互いが名前を呼び合う仲になったところで、トシアキはクロノの肩にポンと手を置く。

「俺を名前で呼ぼうと、フェイトはやら・・・・・・」

「その話から離れろ!!」

そして、医務室で眠るアリシアはトシアキが地球に連れて帰ることになった。

「だが、本当にいいのか? 地球の墓に埋めてしまっても」

「本来なら許されることではないのかも知れないが、このまま管理局に連れていっても、プレシア・テスタロッサが関わったものとして、色々と研究されそうだからな」

クロノの言葉を聞いて静かに頷いたトシアキ。

「なるほど。 執務官・・・・・・クロノも良い奴だな」

「それは褒めているのか?」

「俺なりに一応な」

そう言ってトシアキはアリシアの体を抱える。

裸のままだったアリシアはキチンと服を着ており、おそらく女性職員の誰かが着せてくれたのだろう。

「あっと、そうだ。 フェイトたちに会えるか?」

「・・・・・・本来は会わせることはできないが、色々と世話になった君の頼みだ。 なんとかしてみよう」

クロノは医務室に供えられていた電話を手に取り、誰かと話始める。

「あ、艦長。 トシアキがフェイト・テスタロッサとの面会を求めているのですが、許可してもよろしいでしょうか?」

「ふむ、艦長さんと話してんのか」

「はい、では」

しばらくして、クロノの会話は終了し、トシアキへ向きなおる。

「構わないそうだ。 ついて来てくれ」

「了解」

アリシアを抱えたままのトシアキは、先を歩くクロノの後ろをついて行った。

「ここだ」

歩いていたクロノが足を止め、扉を指し示す。

そのままクロノが先に入り、中から会話が聞こえる。

「・・・・・・」

「そんなに長く話せないぞ。 僕はここにいるから終わったら呼んでくれ」

通路で待っていたトシアキのもとにクロノがやってきて、入口を指す。

「サンキュー」

部屋の中に入ったトシアキが見たものは、暗い部屋で手錠をして俯いているフェイトと傍に寄り添っているアルフであった。

「よう、元気にしてるか?」

「トシアキ・・・・・・」

「兄さん・・・・・・」

アルフとフェイトは部屋に入ってきたトシアキを見て、顔をあげる。

「本当に裁判を受けるのか? 地球に住むつもりならわざわざ管理局の裁判を受ける必要はないんだぞ?」

トシアキの言葉にフェイトは無言で首を振る。

「・・・・・・・・・私はたくさんの人に迷惑をかけた。 だから、罪を償って、管理局で働こうと思ってる」

「あたしはフェイトについて行くだけだからさ」

フェイトはそう言って、トシアキの瞳を見つめる。

アルフはフェイトの使い魔ということもあり、意思はフェイトと同じようだ。

「お前が決めたならそれでいい。 俺は管理局で働くつもりはないからな、裁判はもちろん受けない」

「うん・・・・・・」

「それでな、フェイト。 お前の姉・・・・・・アリシアを地球の墓に入れようと思うんだが、構わないか?」

アリシアをフェイトのそばまで抱えていき、アリシアの表情を見せるトシアキ。

「うん。 兄さんに任せるね・・・・・・・・・」

そう言ってフェイトは、自分にそっくりなアリシアの顔を撫でる。

「わかった。 それと・・・・・・・・・もしよかったら俺の苗字を名乗るか?」

「えっ?」

トシアキの話にアリシアを見つめていたフェイトは顔をあげる。

「前に家族だと言ったが、見える絆があった方が安心だろう。 まぁ、テスタロッサの名前を捨てたくないなら別に構わないが・・・・・・」

「・・・・・・」

フェイトは考えるようにして俯く。

「まぁ、考えといてくれ」

そう言ってトシアキはアリシアを抱えて立ち上がる。

「トシアキ・・・・・・」

アルフは不安そうに立ちあがったトシアキを呼びとめる。

「大丈夫だ、ここの艦長さんもクロノも信用できる。 お前もしっかりフェイトを守ってやれよ?」

「あぁ、わかったよ。 あんたもしっかりやんなよ」

「おう、じゃあな。 フェイト、アルフ」

そしてトシアキは面会を終え、部屋から出て行った。

通路に出ると目を閉じて、壁に寄り掛かっているクロノがいた。

「・・・・・・終わったのか?」

「あぁ、我儘を聞いてもらって悪かった。 艦長さんにも謝っておいてくれ」

「わかった。 では送ろう」

クロノはそう言って転送ルームへ歩き出す。

その後ろにトシアキも付いて歩き、転送ルームへ到着したトシアキはアリシアとともに地球へ戻って行った。



***



トシアキが去った後の部屋でフェイトはいまだに考えていた。

「・・・・・・」

そんなフェイトを心配そうに見つめるアルフ。

「・・・・・・・・・・・・ねぇ、アルフ」

「な、なんだい?」

ようやく結論が出たのか、話しだしたフェイトに思わず驚いてしまうアルフであった。

「私が兄さんの名前を名乗ってもいいのかな・・・・・・」

「いいに決まってるよ、トシアキだってそう思ったから言ったんだって」

「でも、私・・・・・・ダメな子だから」

表情を暗くしてそう言ったフェイトにアルフが怒ったような口調で話す。

「そんなことはないさ! フェイトはダメな子なんかじゃないよ!」

「うん、ありがとう。 アルフ」

アルフに言われて、フェイトは笑顔を取り戻す。

そんなフェイトの笑顔を見てアルフも安心したように微笑む。

「私、兄さんの名前を名乗るよ。 それで、本当の家族になる」

「うんうん、トシアキならあたしは安心できるよ」

そうして、トシアキの提案を受け入れることにしたフェイト。

フェイトはすべてが片付いて、トシアキのもとに帰ったときのそのことを話そうと決意したのであった。

その提案を出したトシアキは地球に戻ってから認知されないように魔法を使用して海鳴臨海公園から飛び立つ。

「・・・・・・」

向かう先はトシアキが初めてこの世界に来た八束神社の山だ。

「到着っと・・・・・・」

山に到着したトシアキは眺めがいい広場へ歩き出す。

「俺はここでアリサたちに会ったんだよな・・・・・・意識がなかったけどな」

苦笑しつつ、トシアキは抱えていたアリシアを地面にソッと寝かせる。

「簡易で悪いが・・・・・・・・・安らかに眠ってくれ」

トシアキの言葉とともにアリシアの体が炎に包まれる。

しかし、その炎はあたりに広がることはなく、アリシアの体だけを包んでいる。

「・・・・・・」

しばらくすると炎は消え、その場には何もなくなってしまった。

「それから・・・・・・」

あたりを見渡して大きな木を見つけたトシアキは魔法で切り倒し、細工をしてから先ほどまで燃えていた場所にその木を突き刺した。

「・・・・・・」

その突き刺した木に何かを刻んでからトシアキは目を閉じて、手を合わせる。

「よし。 帰るか・・・・・・」

トシアキはそう言ってその場から去って行った。

残された細工が施された木には『アリシア・テスタロッサここに眠る』と文字が刻まれていた。



~おまけ~


トシアキがアリサの家を出て行ってしばらくしてから目を開けた久遠。

「・・・・・・」

静かに自分の周りを見渡し、状況を理解しようとする。

「おや? 目が覚めましたか」

そこに執事である鮫島が部屋に入ってきた。

「トシアキ、どこ?」

「敷島様ですか? 彼はここ数日見ておりませんが・・・・・・」

その言葉を聞いた久遠はバッとベッドから飛びおりる。

「久遠、トシアキのところに行く」

フラフラな状態で歩きだす久遠を鮫島が追いかける。

「いけません、あなたはまだ起きたばかりなのですよ」

「イヤ。 久遠、トシアキとずっと一緒」

「ですから・・・・・・」

鮫島と久遠の話声が聞こえてきたのか、アリサが顔を出す。

「なにしてるのよ?」

「アリサお嬢様。 彼女が起きたのですが、敷島様のもとへ行くと言って・・・・・・」

鮫島の言葉を聞いたアリサは部屋から出ようとする久遠の腕を掴む。

「放して。 久遠、トシアキのところに行く」

「トシアキはここにあなたを迎えに来るわ。 だから、大人しくしてなさい」

「でも、トシアキと一緒って約束した」

そう言ってアリサの手を振りほどこうとする久遠。

「いい加減にしなさいよ! あんたが無理して動いて倒れたらトシアキがまた心配するでしょ!?」

「・・・・・・」

「あなたが寝ている間、トシアキはすごく辛そうな顔をしてたのよ? あんたはまた、トシアキにそんな顔をさせるつもり!?」

「くぅん・・・・・・」

アリサに怒鳴られ、出て行くことをあきらめた久遠。

そのままアリサに引っ張られベッドに寝かされる。

「トシアキは今日の午後には戻るって言ってたからそれまでここで待ってなさい」

「・・・・・・わかった」

大人しくベッドで横になった久遠にアリサが話かける。

「ねぇ。 あんた、トシアキと友達なんだって?」

「前までそうだった。 でも、今は違う」

「?」

今は友達じゃないという久遠の言葉に首を傾げるアリサ。

「今はトシアキ、久遠のご主人様」

「「・・・・・・」」

久遠の言葉にアリサと傍に控えていた鮫島の二人が黙る。

「くぅ?」

そんな二人に訳が分からない久遠は首を傾げる。

「あの、変態トシアキぃ!!!」

大声で叫んだアリサの声は、丁度迎えに来た聖祥小学校のバスまで聞こえてきたそうだ。



~~あとがき~~


ようやく更新です。
予定より遅れての更新にもしかしたら、常連さんが見切りをつけてしまってのではないかとビクビクしております。

さて、今回はAs編までの間の話を書きました。
あと、.四、.六、.八、が続く予定です。
そのあとに十八話としてAs編に入ります。
ややこしい書き方ですみません。

おまけが長くなってしまった今回ですが、久遠を書いていたら長くなったのですw
私は悪くありませんww(おいおい
次回の更新はなるべく早くするつもりですので、心待ちにして頂けると幸いです。

それでは次回の十七.四話でお会いしましょうw



[9239] 第十七.四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/20 20:05
八束神社の山からアリサの家に戻ったトシアキを迎えたのは屋敷内にいるメイドたちであった。

「お帰りなさいませ、敷島さま」

「えっ、あの、俺って客扱いじゃないんで?」

二人の若いメイドに頭を下げられて迎えられたトシアキは驚きつつ、そう聞き返す。

「はい。 将来の旦那様になられるのですから当然・・・」

「へっ?」

「ちょ、ちょっと! 失礼しました!!」

淡々と話すメイドの言葉にトシアキは素っ頓狂な声をだし、それに気づいたもう一人のメイドが慌てて遮って、その場から立ち去って行く。

「・・・・・・・・・なんだかな」

一人残されたトシアキはそう言ったあと、本来の目的である久遠に会いに行くために部屋へ向かう。

「まだ寝てるかな・・・・・・」

久遠が眠っていると考えたトシアキは静かに扉を開けた。

「ぐぶっ!?」

開けたと同時にトシアキの腹部に何かがぶつかり、そのまま後ろへ倒れてしまうトシアキ。

「ってぇな! なんなんだよ一体!?」

悪態を吐きながら痛みがあった腹部に目を向けると、巫女服を着た少女が顔をうずくめていた。

「トシアキぃ~~」

「ひょっとして、久遠か?」

名前を呼ばれたことと、巫女服を着ていることからトシアキは久遠のことを連想して声をかける。

「くぅん!」

名前を呼ばれて嬉しそうに顔をあげた久遠。

「そうか。 起きたんだな・・・・・・よかった・・・・・・」

そう呟きながら、久遠をソッと抱きしめるトシアキ。

「トシアキ?」

久遠は抱きしめられながら、首を傾げる。

「身体は大丈夫なんだな?」

「うん。 久遠、元気」

そう言って微笑む久遠を撫でてやり、倒れていた体を起こそうとするトシアキ。

「あ、あんたたち何やってるのよ!?」

そこに学校から帰ったばかりのアリサが姿を現した。

アリサから見ると、トシアキと久遠が廊下の真ん中で抱き合っているように見えたようだ。

「おぉ、アリサ。 お帰り、俺も帰って・・・・・・」

「馬鹿! 変態!」

トシアキの言葉を聞かず、アリサは倒れているトシアキに近づき、身体を蹴りつける。

「痛っ!? なんで蹴るんだよ」

「うるさい! 廊下でそんなことやってるアンタが悪いのよ!」

トシアキの体を蹴りつけていたアリサだが、ふと視線を感じて行動を止める。

「・・・・・・なによ?」

「トシアキ、蹴っちゃダメ」

トシアキの抱きついていた久遠がそう言ってアリサを睨みつける。

「あ、あんたには関係ないでしょ?」

「ある。 トシアキ、久遠が守る。 だから、久遠がかわりに相手になる」

そう言って久遠とアリサの雰囲気が険悪なものに変わってきた。

「久遠、俺は平気だからさ」

「・・・・・・わかった」

トシアキに諭されて渋々ながらも納得した久遠。

そしてトシアキと久遠、そしてアリサは部屋に入って話をすることになった。

「まずはアリサにこれを渡しとく」

「? 何よ、これ」

トシアキが渡したのは分厚くなっている封筒であった。

中身はトシアキが稼いだお金が入っている。

「今まで世話になった分だ。 本当にアリサには感謝している」

「・・・・・・いらないわよ」

そう言って受け取った封筒をトシアキにつき返すアリサ。

「でも・・・・・・」

「デモもストもないの! アンタは借りがなくなるといなくなりそうだから、ずっと貸しておくわ!」

そっぽを向きながらそう言ったアリサに苦笑したトシアキは、つき返された封筒をそのまま仕舞う。

「わかったよ。 じゃあ、ずっと貸しといてくれ」

「仕方ないわね、ずっと貸しといてあげるわ」

そう言って二人は楽しそうに笑いあった。

ちなみに久遠はトシアキの隣に座りながらそんな二人を羨ましそうに見つめていた。

「あっ、そうだ。 俺の新しい家を教えとかないとな」

「トシアキの家?」

「そうそう、あそこだ。 見えるだろ? 一番高いマンションの・・・・・・」

窓から見える街で一つだけ突き出ているマンションを指すトシアキ。

「えっ!? あそこって、高級マンションじゃない!?」

「まぁ、色々あってな。 今はあそこの一番上の階に住んでる」

そのマンションとはかつてフェイトが拠点としていた場所であり、一番上の部屋はその時にフェイトが住んでいた部屋だ。

「あぁ、なるほど。 屋上なのね。 確かに屋上なら見つからなければ家賃もいらな・・・・・・」

「んなワケないだろ! 一番上の階の部屋だよ!」

そう突っ込んだトシアキだが、突っ込まれたアリサはクスクスと笑っている。

「わかってるわよ、冗談に決まってるじゃない」

「くっ、アリサのくせに・・・・・・」

そういうやり取りをしていたトシアキとアリサだったが、ついに我慢が出来なくなったのか、久遠がトシアキの腕を掴む。

「ん? 久遠?」

「・・・・・・」

無言でトシアキの腕を掴みながら、見上げてくる久遠。

「・・・・・・」

トシアキとの会話を邪魔されたのが気に入らないのか、アリサも不機嫌になっていた。

「どうしたんだよ?」

しかし、それに気付かないトシアキは久遠の顔を覗き込む。

「トシアキ、行こ」

トシアキの腕を引っ張って立たせた久遠はそう言って扉に向かおうとする。

「えっ? あぁ、わかった。 じゃあ、アリサ。 またな」

「・・・・・・」

そんな久遠にトシアキも引かれるがままに歩いていき、扉付近まできたときにアリサの方へ振り返る。

しかし、アリサも不機嫌なままでトシアキの言葉に返事もせずにそっぽを向いていた。

「アリサ?」

「ふん、その娘とさっさと行けば?」

そんなアリサの様子にようやく気付いたトシアキはアリサに二度目の声をかけるが、アリサは不機嫌なままさっさと行けと伝える。

「おいおい、何怒って・・・・・・」

「トシアキ、早く」

「おい、久遠。 ちょっと待・・・・・・」

扉付近で立ち止ったトシアキを今度は久遠が不機嫌になり、引っ張る力を強める。

結局そのままトシアキは久遠に引っ張られ、アリサの家から出て行ってしまった。

「・・・・・・・・・なによ、トシアキのバカ」

一人、部屋に残ったアリサはトシアキの悪態を吐きつつも、トシアキを強引に連れて行った久遠に対して嫉妬していたのであった。



***



外まで引っ張られてきたトシアキだが、そのままの状態はさすがに拙いので自分の足で歩きだす。

もう戻る様子ないのを確認した久遠は、腕を持ったままではあるが、トシアキの歩く方へついて行く。

「なぁ、久遠。 なんであんなに引っ張ったんだ?」

「久遠、寂しかった。 トシアキ、アリサと話してばかり。 久遠、寂しい」

久遠の言葉を聞いたトシアキは苦笑しながら、自由な手で久遠の頭を撫でてやる。

「くぅん・・・・・・」

「悪かったよ、確かに久遠を放っていたもんな」

「いい。 トシアキ、アリサのこと大事に思ってる。 だから仕方ない」

頭を撫でられながら言った久遠の言葉に、トシアキはさらに苦笑いする。

「そこまでわかるのか。 さすがだな、久遠」

「くぅん!」

そんな会話をしながらトシアキが向かった先は海鳴の街の商店街だった。

「確かここらへんだったはずだが・・・・・・」

そう呟きながらなにかを探しているトシアキ。

久遠はただ黙ってトシアキの腕を掴みながらついて行く。

「おっ、発見! あそこだあそこ!!」

トシアキが嬉しそうに指した先には『翠屋』と書かれたお店があった。

「くぅ?」

「いいから入るぞ」

首を傾げる久遠をそのまま引っぱるように連れていくトシアキ。

「いらっしゃいませ~。 あっ、トシアキさん!」

ドアをくぐると迎えたのはエプロンを着け、お盆を持ったなのはであった。

「おっ? なのは、店の手伝いか?」

「うん、今日はお姉ちゃんがいないからなのはがお手伝いしてるの」

「そうか。 ところで、士郎さんはいるか?」

そう尋ねたトシアキの言葉を聞いて、なのはが店の奥に入って行った。

「おや? トシアキ君じゃないか、久し振りだな」

なのはに連れられて、士郎が店の奥から出てきた。

「お久しぶりです、士郎さん。 カウンター席いいですか?」

「あぁ。 ちょうどここに二席空いてるから座るといい」

士郎の言葉通りに席に着いたトシアキと久遠。

「とりあえず、この娘にはシュークリームとオレンジジュースを。 俺はホットコーヒーでお願いします」

「了解」

注文を受けた士郎は早速コーヒーを沸かし始める。

なのははシュークリームとオレンジジュースの注文を桃子に伝えに行った。

「士郎さん、これ」

なのはが傍にいなくなってからトシアキは懐から先ほどアリサの家で出した封筒とは別の封筒を取り出す。

「これは?」

「今まで世話になった分です。 温泉の料金も入ってます」

トシアキの言葉を聞いた士郎はそのまま封筒をトシアキに返した。

「受け取れないよ。 俺はそんなつもりで支払ったわけじゃない」

「でも、金があるうちに返さないと、今度はいつになるか・・・・・・」

「お待たせいました、シュークリームとオレンジジュースです」

士郎とトシアキの会話を遮って、なのはが頼んだ品を運んできた。

「ほら、こっちも完成だ」

そう言って士郎はトシアキの前にホットコーヒーを置く。

「そのお金は君が自分のために使うといい。 そのために稼いだ金なんだろ?」

「ですが、いつまでも借りているわけには・・・・・・」

そう言うトシアキに士郎は微笑んで答える。

「なら、ここの常連になってくれ。 女性の客は多いが、男は少なくてね。 話相手が欲しかったのさ」

「・・・・・・・・・わかりました。 毎日とは言えませんが」

「構わないよ」

そうして、トシアキと士郎の会話が終った。

今まで静かにしていた久遠がクイクイとトシアキの服を引っ張る。

「ん? どうした、久遠」

「トシアキ、食べていい?」

目の前に置かれたシュークリームを指して尋ねる久遠。

なのはが運んできてからずっと我慢していたようだ。

「あぁ、いいぞ」

「くぅ!」

トシアキの返事を聞いて、嬉しそうにシュークリームを頬張る久遠。

その様子をトシアキと士郎が微笑ましく見守っていた。

「ん?」

すると、今度は反対側から服を引っ張られたトシアキ。

気になって見てみると、エプロンを外したなのはが隣の席に座って上目遣いでトシアキを見ていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

しばらく二人は見つめ合い、諦めたトシアキが静かに言った。

「・・・・・・なのはも頼んでいいぞ。 奢ってやる」

「ありがとう! トシアキさん」

トシアキの言葉を聞いたなのはは微笑んでお礼を言ったあと、店の奥へと消えて行った。

「ははは・・・・・・なのはにやられたな、トシアキ君」

「見てたんなら助けてくださいよ。 少女にあんな目で見られて断れるはずがないじゃないですか」

カウンターの向かいで士郎が笑いながらトシアキに話しかける。

対するトシアキも苦笑しながらホットコーヒーを飲む。

「君に奢ってもらうとうちも儲かるし、なのはも喜ぶ。 一石二鳥じゃないか」

「さっき、お金を受け取らなかったのに・・・・・・」

「それはそれ、これはこれだよ」

そう話しているうちになのはが自分の分のシュークリームを持ってこちらへやってきた。

「おかえり。 よかったな、なのは」

「うん!」

トシアキの隣に座ったなのはに士郎はそう話しかける。

なのはも嬉しそうに返事をして、自分のシュークリームを頬張る。

「そういえば、その娘は誰なんだい?」

先ほどから気になっていたのか、巫女服をきてシュークリームを食べる久遠を指して言った。

「えっと、親戚の子なんです。 うちに遊びにきて・・・・・・」

「なるほど。 そう言えば君はどこに住んでいるんだい?」

士郎に言われたトシアキは窓を見て、一番高いビルを指す。

「あのマンションの一番上の階に住んでいます」

「ふむ、屋上か。 俺も若いころは・・・・・・」

「って! そんなわけないでしょう!? それよりも若いころに屋上に住んでいたんですか!?」

先ほどアリサに突っ込んだように、士郎に突っ込みを入れたトシアキ。

まさかトシアキも同じ日に二度も同じ突っ込みをするとは考えていなかった。

「冗談だ。 だが、若いころに屋上から飛んだことはある」

「そっちの方が驚きですよ!?」

そんなことを話しつつ、長時間居座っていたことに気づいたトシアキ。

「あっ、そろそろ帰りますね」

「そうか。 また来てくれる日を楽しみにしているよ」

そう言ってくれた士郎にトシアキは微笑みながら会計を済ませ、店を出る。

「さて。 帰るか、久遠」

「くぅ!」

久遠の手をとり、フェイトと数日間過ごしたマンションに向けて歩き出すトシアキ。

部屋に着いたトシアキは海鳴の街を一望できる窓の前に置いてあるソファに座る。

久遠もそれに倣ってトシアキの隣に腰を降ろす。

「結局・・・・・・」

「?」

「結局、二人とも受け取らなかったよな・・・・・・」

一人で話し出すトシアキに久遠を首をかしげたが、気にせず続けるトシアキ。

「ほんと、この街の人たちは優しすぎる・・・・・・」

「トシアキ?」

呟きながら俯いたトシアキを不思議に思った久遠が顔を覗き込む。

「帰りたくなくなるじゃねぇか・・・・・・」

俯いたトシアキはそう言って涙を流した。

「・・・・・・くぅん」

そのことに気づいた久遠はソッとトシアキの頬に流れた涙を舐め取る。

「久遠・・・・・・」

「久遠はずっとトシアキと一緒」

自分の頬を舐められたことに驚いたトシアキは久遠を見つめる。

見つめられた久遠はただ、それだけを言ってトシアキの胸に顔をうずくめた。

「・・・・・・サンキューな」

「くぅん」

胸元にいる久遠の頭をソッと撫でて、悲しさを紛らわそうとするトシアキ。

撫でられた久遠もそのことに気づいているのか、されるがままに受け入れた。

海鳴の街の綺麗な夜景を見ながら、トシアキはこれからのことを考えるのであった。



~おまけ~


久遠の頭を撫でていたトシアキだが、ふと何かに気づいたようだった。

「そういえば、久遠」

「く?」

呼ばれた久遠はトシアキの方を見て首を傾げる。

「お前、人の姿になったときに出ていた耳と尻尾はどうした?」

そう、久遠はトシアキとの契約が終ってから、人間の姿になると出ていた狐の耳と尻尾がなくなっていたのである。

「よくわからない。 気がついたらでなくなってた」

実は久遠の妖力が体内から溢れる現象として、狐の耳と尻尾が出ていたのだが、トシアキと契約したことにより、妖力の一部がトシアキに流れるようになったため出て来なくなったのだ。

「そうか、ちょっと残念だな」

「くぅ?」

「いや、狐の耳と尻尾がある久遠も可愛かったからな。 見れないと思うと少し残念なような気がしてな」

トシアキの言葉を聞いて、久遠は可愛らしい声を出しながら力を溜めていた。

「く、くぅぅ」

「ん? なにしてんだ、久遠」

そんな久遠を不思議に思ったトシアキが話かけると同時にポンッという音が聞こえ、久遠の頭から狐の耳が出てきた。

「お、おぉぉ!?」

「久遠、頑張った」

満足そうに頷く久遠。

そして、頭に出てきた狐の耳がピクピクと可愛らしく動く。

「すげぇな」

「久遠、エライ?」

「あぁ、偉いぞ」

期待するような目でトシアキを見つめる久遠。

そんな目で見られたトシアキは久遠の言葉に頷きなら、頭を撫でてやる。

「くぅん!」

それを嬉しそうに受け入れる久遠。

こうして、トシアキと久遠の新しい生活が始まって行くのであった。



~~あとがき~~

.四話更新ですw
本当にややこしい題名ですいません。
自分がわかりやすいという理由でこんな題名にしております。

さて、今回のお話は稼いだ金で借りていた人に恩を返しに行くトシアキの話でした。
と言っても、誰も受け取りませんでしたがw

しばらく更新できなかったのを後悔しつつ、次の.六話を書いています。
ここだけの話ですが、.四話より先に.六話が出来上がりそう(ry

それでは次回の.六話をお楽しみにw
また、会いましょうww



[9239] 第十七.六話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/21 23:42
トシアキとなのはと別れてアースラに戻ってきたフェイトたち。

「さて、これからアースラは時空管理局へ向かう。 君たちもゆっくりしているといい」

「でも、あたしたちはあの部屋に戻るんだろ?」

クロノの言葉にアルフがそう言って尋ねてくる。

「いや、君たちももうあの部屋にはいかなくていい。 客室があるからそこに移るといいよ」

「えっ、でも私たちは・・・・・・」

「君たちは裁判でも確実に無実になれる。 そんな君たちをあんな汚くて暗い部屋に入れるわけにもいかないさ」

フェイトの言葉を遮り、クロノはそれだけ言って去ってしまった。

「えっと、僕の隣の部屋が空いてたから案内しようか?」

「うん、お願い・・・・・・」

残されたユーノが気まずさを紛らわすために提案したことに静かに頷くフェイト。

そして、ユーノの案内で空いている客室へ向かう三人。

「ねぇ、フェイト」

その途中でアルフがフェイトに声をかける。

「なに?」

「トシアキに兄妹になることを決めたって言わなくてよかったのかい?」

一度、アリシアを連れていくために訪ねてきたトシアキに言われたこと。

本当の家族になるためにトシアキの苗字を名乗ることを言っていたのだ。

「うん。 兄さんには裁判が終って、全部終わってから言うつもりだから」

「そうかい」

フェイトの言葉で納得したのか、アルフがそのことに対して質問することはもう無くなった。

「ここがそう。 僕は隣にいるからなにかあったら声をかけてね」

「うん、ありがとう・・・・・・」

案内を終えたユーノはそのまま自分に与えられた部屋に入って行った。

「あっ、フェイトさん」

部屋に入ろうとしたフェイトをクロノとエイミィを連れたリンディが声をかけた。

「あ、はい」

近づいてくるリンディに緊張しながらフェイトは立ち止まった。

「実はあなたにお話があってきたの。 ここではなんだから・・・・・・ね?」

「わかりました」

リンディの言葉で察したのか、真剣な表情で艦長室まで向かうフェイト。

艦長室についたあと、リンディは自分の椅子に座りフェイトを見つめる。

「ねぇ、フェイトさん」

「はい・・・・・・」

どんな言葉でも処分でも受け入れようと心で意志を固めたフェイトはしっかりと返事をする。

「あなた、ウチの子にならない?」

「へっ?」

しかし、予想外のリンディの言葉に素っ頓狂な声をだしてしまったフェイト。

後ろにいるアルフも驚いて声が出ないようであった。

「あ、あの、私の処罰の話じゃ・・・・・・・・・」

「あなたの処罰のことは裁判で決めるからここでは関係ないわ。 もっとも、裁判も無実で確定でしょうけど」

「そ、そうなんですか・・・・・・」

リンディの言葉で安心したフェイトは肩の力を抜き、少し落ち着きを取り戻す。

「それで、さっきの質問なんだけど、ウチの子にならないかしら?」

「えっと、それはどういう・・・・・・」

話の内容がよくわからないフェイトを助けるように、リンディの横に立っていたクロノが話だす。

「君の母親、プレシア・テスタロッサが死亡したことにより、君の保護者的立場の人がいない」

「そうなると、施設に入ることになるんだけど・・・・・・」

クロノに引き続いてエイミィがそう言う。

「そこで、私が変わりの保護者に立候補したいのよ。 もちろん、フェイトさんの意見を聞いてからだけどね」

微笑みながらリンディはそう言って話を締め括った。

「そうだったんですか・・・・・・」

「今すぐに返事をしなくても大丈夫よ? でも、考えていてくれると嬉しいかな」

考えるように俯いたフェイトにそう声をかけたリンディ。

その言葉を聞いてフェイトは、静かに首を振りながら顔をあげた。

「ありがとうございます。 でも、私には兄さんがいるから・・・・・・」

「そう・・・・・・それじゃあ、フェイトさんは敷島さんの正式な妹になるのね?」

「はい、兄さんには全部終わってから報告するつもりなんですけど」

フェイトの返事を聞いたリンディは微笑みながら頷く。

「そうね。 そう言えばフェイトさんにはもう、お義兄さんがいたものね」

リンディの言葉にエイミィも微笑み、クロノは首を竦めた。

「まぁ、そうだろうと思いましたけどね。 可愛い義妹が出来なくて残念だったね、クロノ君」

「僕にそんな気持はない。 じゃあ、敷島フェイト・・・・・・いや、フェイト・シキシマになるのか?」

エイミィの言葉を受け流しつつ、クロノはフェイトに尋ねた。

「えっと、まだ決めてないんだけど、母さんの名前は捨てたくないから・・・・・・」

「地球にはミドルネームがあると聞くわ。 だからフェイトさんは『フェイト・T(テスタロッサ)・シキシマ』にしたらどうかしら?」

そう提案したリンディに頷いたフェイト。

そんなフェイトを見たクロノは早速、書類を作り始めようとする。

「なら、裁判を受けるまでに管理局にはそう登録しておこう」

「うん。 よろしくね、クロノ」

「しかし、トシアキに妹が出来るのか・・・・・・ん? 妹?」

フェイトの裁判に使用する書類を作るために準備を進めていたクロノが、トシアキの妹という言葉で何やら考え始める。

「どうしたの? クロノ君」

そんなおかしなクロノの様子に気づいたのか、エイミィが近づいて声をかける。

「トシアキ、妹、シキシマ・・・・・・あっ、ああぁぁぁぁ!!?」

エイミィの言葉に耳を傾けず、ブツブツと呟いていたクロノが何かを思い出したのか、大声をあげてその場にうずくまる。

「ク、クロノ君!?」

「ど、どうしたのよ、クロノ」

突然のクロノの行動にエイミィとリンディが心配するが、本人にとってそれどころではないらしい。

「忘れていた! 僕としたことが!! 考えたくないことだから頭の隅に置いていたことが裏目に出たか! くそ!!」

大声で悪態を吐きながら立ち上がったクロノ。

「クロノ? いったいどうしたの?」

立ち上がったクロノを見て落ち着いたのか、リンディが自分の息子に優しく尋ねる。

「艦長、今すぐ地球に引き返すことはできませんか?」

「もう、管理局へ進路を取ったのよ? 余程の理由がないと許可できません」

そう言われてクロノは自分の髪をクシャクシャと掻きむしる。

「やはりそうですか・・・・・・以前、僕が敷島トシアキについて調べるために本局に連絡を取ったことを覚えていますか?」

「えぇ、確か私は許可したわよね? でも、そのことは結局聞いてないのだけれど?」

「あっ、そう言えばそうだったね」

クロノの質問にそう答えたリンディとエイミィ。

ちなみにフェイトとアルフはクロノの暴走を見て驚いたのか、大人しく話を聞いている。

「はい。 報告をしなかったと言うか、忘れていたと言うか・・・・・・」

「あなたが忘れるなんて余程のことがあったのね?」

自分の息子がよく出来る人間だということは母親であるリンディが一番分かっている。

そんな息子が忘れているなんて余程のことだろうと、気持ちを切り替えて話を聞く。

「実は彼・・・・・・敷島トシアキには実の妹が存在します」

「「「「えっ?」」」」

クロノの言葉にその場にいた四人とも、驚いて出た声が揃ってしまった。

「そして、その妹は管理局の最年少執務官です」

「えぇぇ!? 最年少執務官ってクロノ君じゃなかったの!?」

エイミィが驚いている横で、リンディが考えるように手を口もとに持っていく。

「聞いたことあるわね。 確か名前は、アキ・シキシマ・・・・・・」

「兄さんと同じ名前だ・・・・・・」

「あいつにも兄妹がいたんだねぇ・・・・・・」

リンディの言葉を聞いたフェイトとアルフがそれぞれ思ったことを口にする。

「でも、それが何か問題があるというの?」

「はい。 実は彼女は兄・・・・・・トシアキを探すために管理局に入ったそうで、居場所がわかれば管理局を辞めると・・・」

リンディの言葉にクロノは慎重に言葉を選びながら説明する。

「確かに最年少執務官が早期辞職なんてしたら管理局全体の士気がさがるよねぇ」

エイミィはそう言うがクロノはそれだけじゃないと首を振る。

「そのことを連絡したときから辞めるつもりだった彼女は僕がトシアキを管理局に連れて行くことを理由に留まって貰ったんだ」

「つまり?」

アルフがクロノの発言の先を促す。

「このままトシアキを連れずに本局に戻るとSSクラスの執務官が暴走する可能性がある」

「「「「・・・・・・」」」」

現実みのない話にクロノ以外の四人は無言で、クロノを見つめる。

「ほ、ほんとうだぞ!? 彼女は本当にやると言ったら・・・」

「いくらなんでも、局員が大勢いる本局で暴れることはしないでしょう」

「そうだよ、クロノ君。 心配し過ぎだよ」

クロノの焦りが伝わらないのか、リンディとエイミィは楽観視している。

「兄さんの妹・・・・・・私の姉? 妹?」

「どっちにしても家族が増えるのは嬉しいねぇ」

フェイトとアルフも全く気にしている様子はなく、新しく出来る家族を楽しみにしているようだ。

「後悔してもしらないぞ・・・・・・」

もはや誰も気にしていないその部屋で、クロノは冷汗を浮かべながら最後にそう呟いた。



***



それから数日が経ち、アースラは時空管理局の本局にたどり着いた。

「ふぅ・・・・・・無事、到着ね」

「はい。 これでしばらくはお休みが取れますね」

無事にアースラが着艦したことに艦長であるリンディは肩の荷が下りたようだ。

「そうね。 クロノにはフェイトさんの裁判の件を頑張ってもらうことになるでしょうけど、あの子なら大丈夫ね」

「では、早く報告を済ませて休暇を満喫しましょう!」

そう言いながらリンディとエイミィは揃ってアースラを降りる。

二人に続いて続々とアースラに乗艦していた局員が降りて行く。

「では、我々はこれから整備に移ります」

「お願いします」

降りた先で待機していた整備班にアースラの整備を任せたリンディ。

そこにはもう数人の局員しか残っていなかった。

「それじゃあ、行きましょうか」

歩き出そうとしたリンディたちの耳にドタドタと走りまわる音が聞こえてきた。

「なにかしら?」

首を傾げるリンディだったが、その音がだんだんこちらに近づいて来ていることに気づく。

「!?」

大きな衝撃がリンディの目の前の扉に起こり、扉は粉々に破壊されてしまった。

「兄様!!」

その破壊された扉から黒くて長い髪を後ろで束ねた少女が現れ、突然そう叫んだ。

「兄様!? トシアキ兄様!!」

その少女はリンディたちのことを見もせず、目的の人物を探して走り回っている。

やがて、目的の人物がいないことが分かったのか、トコトコとリンディの前にやってくる。

「はじめまして、リンディ・ハラオウン艦長。 私はアキ・シキシマ執務官です」

「え、えぇ。 はじめまして、噂はいろいろと聞いています。 凄い活躍をしているとか・・・」

黒髪の少女――アキの行動に驚きながらも、長年の経験でなんとか返事をしたリンディ。

「別に大したことではありません。 それより、この艦に敷島トシアキという人物が乗っているはずなのですが、心当たりはありませんか?」

「えっと、敷島さんはこの艦には乗っていませんけど・・・・・・」

リンディの答えを聞いて、一瞬だけ表情を変えたアキはそのまま話だす。

「っ!? それでは、クロノ・ハラオウン執務官はいますか?」

「クロノならあそこに・・・・・・」

リンディが指した先には、クロノがフェイトとアルフにここでの過ごし方を説明していた。

ユーノもクロノの隣で話しを聞いている。

「ありがとうございます」

無表情なままでお礼を言ったアキはそのままクロノのもとへ向かう。

「―――でだ、これから君たちは・・・・・・」

「クロノ・ハラオウン執務官」

説明しているクロノの言葉を遮って、アキはクロノに呼びかける。

「なんだ? っ!? あ、アキ・シキシマ執務官!!?」

「約束が違うようですが、どういうことですか?」

無表情で、しかしどこか怒っている様子でアキはクロノに詰め寄る。

「ぼ、僕は連れてこようとしたんだが、あいつ・・・・・・トシアキは管理局が嫌いだからと言って来なかったんだ」

「・・・・・・・・・そうですか」

クロノの言葉を聞いてアキは静かに、そしてゆっくりと頷いた。

一方、アキを見たフェイトは新しく出来た家族は私の妹なんだ、と嬉しそうに微笑んでいた。

「兄様が管理局を嫌っているのならば私も嫌いにならなければなりませんね」

「な、何を言って・・・・・・」

「スパイダー、起動」

【了解、マスター】

クロノの言葉が言い終わる前にアキは自分のデバイスを起動させ、宙に浮き上がってデバイスから伸びる魔力の糸であちこちを破壊しだす。

「な、なんだ!?」

「爆発!?」

アキの行動が素早くて見えないのか、他の局員はアースラの格納庫が独りでに壊れているように見えるらしい。

「兄様が嫌いな管理局は私がすべて破壊します」

無表情なままで自分のデバイスから延びる魔力の糸を操り、破壊してまわるアキ。

「くっ! まさかこんなことになるとは・・・・・・淫獣! 手を貸せ!」

「僕は淫獣じゃない!」

そう言いながらクロノは自分のデバイスを起動させ、アキを止めに向かう。

ユーノもその場でバインドを発動させ、アキの動きを封じようとする。

「っ!?」

ユーノの放ったバインドがアキの体を固定し、動きを止める。

自分の体を固定されたことに驚いたアキは表情を少し変えるが、また元の無表情に戻る。

「この程度で私は止められません」

その言葉と同時にユーノのバインドは砕けちり、アキは再び自由となる。

「そんな!?」

短時間で自分のバインドが解かれたことに驚いたユーノ。

「はぁぁぁ!!」

自由になったアキに今度はクロノがバリアジャケットを装着し、完全武装で襲いかかる。

「AAクラスで私に勝てると思っているのですか? クロノ・ハラオウン執務官

「これ以上ここを破壊させるわけにはいかない! それに君は誤解もしている」

お互いのデバイスをぶつけ、均衡を保ちながら話す二人。

「五回? もっと攻撃したはずですが?」

「攻撃した数じゃない! 誤って理解しているという誤解だ!!」

そう言う冗談を混ぜつつ、アキはクロノの話を聞くため、デバイスをしまって降り立つ。

「誤解? 兄様が管理局を嫌っているということがですか?」

「そ、そうだ。 確かに管理局は好かないみたいだが、今回は協力してくれた」

肩で息をしながらクロノもアキの向かい側に降りる。

ちなみにユーノは得意の魔法が簡単に解かれたことにより後ろの方でショックを受けていた。

「今回だけでは?」

「その可能性もあるが、かあさ・・・・・・艦長と話していた内容を聞く限りそういうわけではなさそうだ」

「そうですか・・・・・・」

クロノの言葉を信じたのか、アキはトコトコと歩いて出口へ向かう。

「私はこれから荷物をまとめに行きます。 ここの修理代は私の給料から支払うので気にせずに。 では」

それだけ言って、アキはアースラの格納庫から出て行った。

「「「「・・・・・・」」」」

残されたクロノたちはあまりの惨劇に言葉が出ないようであった。

もっとも、一般の職員は何があったのか理解していないようだが。

「本当に暴走したわね・・・・・・」

「母さん、だから言ったでしょう。 彼女はやると言ったらやる人なんです」

「フェイトちゃんの裁判が終わってもすぐに発進できないかもですね・・・・・・」

リンディの言葉にクロノが頷く。

エイミィは被害状況を見て、地球にフェイトを連れて行くのはまだまだ先だと感じたようであった。

「フェイト、大丈夫だったかい?」

「うん。 でも、兄さんの妹さんって凄いね」

被害が及ばないところに避難していたアルフとフェイト。

現在は魔法を使えない特別な手錠をしているので、仕方ないと言えば仕方ない。

「そうだね。 でも、トシアキも凄く強いだろ?」

「うん。 兄妹って似るんだね・・・・・・私も頑張らないと」

どこか思考がずれているフェイトはアキの強さを見て、自分ももっと努力しようと心に誓った。

「うぅぅ、僕って今回、役立たずなんだ」

格納庫の隅の方でユーノが未だにいじけていた。

そして、被害が酷かったアースラの格納庫だがどこからかの寄付金により、すぐ様元の状態に戻った。

しかし、アースラの整備は行われていないので、フェイトたちが地球に来るのはまだ先の話である。



~おまけ~


自室に戻ったアキは早速、荷物を整理しだした。

「これは・・・・・・・・・いらない。 これは・・・・・・いらない」

そう言いながら本や書類を箱に詰めていくアキ。

「・・・・・・」

気が付いてみると必要なのはデバイスと少しの着替えだけであった。

「兄様がいてくれるなら何もいらないよね・・・・・・」

自分の部屋をそう言って眺めていると、突然扉が開いた。

「アキ君、少し・・・・・・なにごとかね?」

部屋に入ってきたのは鬚を生やした男性であった。

「グレアムさんですか」

入ってきた男性――ギル・グレアム提督はアキの言葉に苦笑しながら答えた。

「ははは・・・・・・相変わらずだね。 それで、これはどうしたのかね?」

部屋のものが箱詰めされているのを見たグレアムはもう一度アキに尋ねる。

「私の兄が見つかったので、管理局を辞めようかと思いまして」

「!? そうか、ようやく見つかったのだな。 それで、場所は?」

「地球だそうです」

無表情で話すアキに嫌な顔一つせず、話を進めるグレアム。

「地球か・・・・・・私の母国がある星だな」

「そうでしたか・・・・・・・・・色々とお世話になりました」

グレアムの言葉に頷いたアキはそのまま向きなおり、頭を下げる。

「気にしなくてもいい、私が好きでやったことだ。 あの滅ぶ寸前の星で生き残りである君を助けられたのは偶然に近かった」

「それから色々と教えていただき感謝しています。 お元気でお過ごしください。 それと、リーゼ姉妹にもよろしくお伝えください」

そう言って、必要最低限の荷物を持って出て行こうとするアキ。

「うむ、わかった。 それから言い忘れたのだが・・・・・・」

「?」

「整備が終わり次第、アースラが地球に向かうそうだ。 君も執務官として乗艦してはどうかね?」

まるでアキを引きとめるかのように話すグレアム。

「ですが、私は退職届を・・・・・・」

「これかね?」

綺麗な文字で退職届と書かれた紙をアキに見せるグレアム。

そして、そのまま破いてしまった。

「・・・・・・」

「君は幼くして今の地位を手に入れた。 しかし、兄君は色々と困っていることだろう」

「・・・・・・兄様が?」

グレアムの言葉に反応して、視線をグレアムに向けるアキ。

「うむ。 そこで君が今の地位を使って助けてやれば兄君はきっと喜ぶだろう」

「兄様が・・・・・・喜ぶ・・・・・・」

兄が喜ぶと聞いたアキは嬉しそうに微笑む。

「だから、もう続けることを考えてみないか?」

「・・・・・・・・・はい、わかりました」

グレアムの言葉に頷いたアキ。

こうして、管理局の最年少執務官は辞めることなく、以前と変わらず仕事を続けることになった。



~~あとがき~~


ついにクロノがアキのことを思い出しましたww
このことはかなり引っ張っており、読んで頂いている皆様はかなり気になっていたと思います。
が、すべてはこの話を書きたいがため!(つまり、私の我儘ですw)

前回のあとがきで少し書きましたが、実はこの話、前回の.四話の続きではないため.四話より先に書きあがってしまいそうになったのです。
(急いで.四話を書きましたが・・・)

この話で伏線となるものはすべて使い切ったはずです(よね?)
もし、気になることがあれば書き込んで頂ければお答えしますので・・・
(ネタバレになるようなことはダメですよ?w)

それでは、次回の話からAs編(はやてたち登場)に入っていきます。
次回のお話まで気長に待って頂けることを祈って・・・
では、また次回ww



[9239] 第十七.八話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/26 21:47
トシアキはもの凄い速さで昼間の海鳴の街を走っていた。

かなりの速さであるが、交通ルールは守っているようでキチンと赤信号では止まっている。

「トシアキぃ、まだぁ?」

トシアキの背中にしがみついていた久遠が前にいるトシアキにそう尋ねる。

「もう少しだ。 我慢してくれよ?」

「久遠、これ、嫌い」

「そういうなって・・・・・・おっ、青だ」

久遠との会話の途中で信号が赤から青に変わったため、再びトシアキは走り出す。

「ぬ~すんだバイクで、はしりだす~♪」

トシアキの背中にしがみついていることに飽きてきた久遠は頭の中に流れてきた歌を歌い出す。

「盗んでない! 買ったんだよ! ってか、何でその歌を知ってるんだ!?」

走るバイクを運転しながら後ろから聞こえてきた歌に突っ込みを入れるトシアキ。

そのまま走り続け、鳥居が見えてきたところでバイクを止めるトシアキ。

「久遠、着いたぞ?」

「くぅ! 那美、いるかな?」

バイクから降りた久遠は鳥居の先に続く長い階段を見上げてそう言った。

「昼間ならいるだろう。 学生じゃない限りは」

「うん。 行ってくるね、トシアキ」

「おう、明日の朝には迎えに来るから、久し振りに楽しんで来い」

八束神社に続くであろう、その階段の前で振り返った久遠にトシアキはそう言った。

「わかった。 楽しむ」

「ちょっと待て、久遠」

微笑んで階段を上って行こうとする久遠をトシアキは呼びとめた。

「く?」

「ヘルメット、置いていけ。 持っていっても邪魔だろ」

ずっと被っていたヘルメットを外して、トシアキに渡した久遠は今度こそ八束神社の階段を上って行った。

「・・・・・・・・・さて、俺も行くか」

久遠が見えなくなるまで鳥居の前にいたトシアキだが、久遠が見えなくなると買ったばかりのバイクに跨る。

そのままバイクを走らせ、トシアキはある場所へと向かった。

「おぉ、さすがは図書館。 本がたくさんあるな・・・・・・」

トシアキが向かったのは海鳴の街にある『風芽丘図書館』である。

「ゲンジが迎えに来そうにないし、この世界の文化に触れるのも悪くないだろ」

今までいくつもの世界を渡り歩いて来たトシアキだが、ひとつの世界に長くいたことはない。

そのため、今回が良い機会だと思い、こうして図書館に足を運んだのであった。

「ほんと、ゲンジが作ってくれたこれのおかげだな」

そう言って自分の手首につけている緑色の数珠に手を触れる。

それからしばらく図書館で色々な本を手に取り、読んでいたトシアキ。

「勉強嫌いだった俺が長時間も本を読んでるとは自分で驚きだぜ」

苦笑しながら呟いたトシアキは、日が沈んできたことを確認し、そろそろ帰ろうかと外へ向かって歩き出した。

「お?」

図書館の出入り口に向かって歩いていたトシアキは本を読むスペースで見知った顔を発見した。

「よう、すずか」

「あっ、トシアキさん」

そこにいたのは学校帰りと思われる格好で車椅子に乗った少女と話しているすずかであった。

「・・・・・・」

車椅子に乗った少女はすずかの知り合いだとわかったからか、無言でトシアキに会釈した。

それを見たトシアキが車椅子に乗った少女に視線を合わせるためにしゃがみ込み、口を開く。

「はじめまして、俺はすずかの友人で敷島トシアキっていうんだ」

「あっ、はい! はじめまして、ウチは八神はやて いいます」

お互いの自己紹介を済ませたところですずかがトシアキに話かける。

「トシアキさんはどうしてここに?」

「ん? 俺が図書館にいるのがおかしいか?」

すずかの質問にトシアキは質問で返した。

「正直、本を読むイメージじゃありませんね」

「ぐはっ!?」

質問で返したトシアキにカウンターの答えが返ってきたため、トシアキは心に傷を負った。

「クスクス・・・」

そんな二人の会話を聞いていた車椅子に乗った少女――はやては楽しそうに微笑む。

「二人ともおもろい人なんですね」

「二人とも? すずかと八神さんは知り合いじゃないのか?」

はやての言葉に疑問を抱いたトシアキがすずかにそう尋ねる。

「実は私たちも今日、知り合ったところなんです」

「時々ここで見かけてたんですけど、話す機会がなくて」

すずかとはやての言葉になるほど、と頷いたトシアキ。

次にトシアキとすずかの関係が気になったはやてが質問する。

「すずかちゃんと敷島さんはどこで知りおうたんですか? 年がだいぶ離れとるみたいやけど・・・」

「すずかは俺の命の恩人の一人だ」

「そ、そんなのじゃないですよ、私は何も・・・・・・」

そうして、しばらく三人で話していたが長い間、図書館で話しているわけにもいかず外へ出ることになった。

すずかがはやての車椅子を押し、トシアキはすずかのカバンと二人が借りる本を持って外へ向かう。

外に出たところで金髪のショートカットの女性がこちらを見て、軽く会釈した。

「ありがとう、すずかちゃん。 敷島さんも」

その女性を確認したはやてがそう言って、金髪の女性に近づいて行く。

「お待たせ、シャマル。 迎えに来てくれたん?」

「はい。 ちょうど、夕飯のお買いものをはやてちゃんと一緒にしようと思いまして」

そう話すはやてと金髪の女性――シャマル。

その二人に近づいたトシアキはシャマルへはやてが借りた本を手渡す。

「これ、八神さんが借りた本です。 渡しておきますね」

「あっ、わざわざすみません。 えっと・・・・・・」

手渡された本を受け取ったシャマルだが、初めてみたトシアキに少し警戒した様子を見せる。

「この人は敷島トシアキさん。 うちの友達、すずかちゃんの知り合いの人や」

そんなシャマルにはやてはそばにいたすずかとトシアキを紹介する。

「はじめまして」

「どうも」

紹介されたすずかとトシアキはシャマルに対して、頭を下げる。

「それで、シャマルはウチの家族やねん」

「はじめまして、シャマルといいます」

すずかとトシアキに対してシャマルを紹介したはやて。

「すずかちゃんと敷島さん、これから何か用事ある?」

自己紹介を終えたはやては満足したように微笑み、すずかとトシアキにそう尋ねた。

「私は何もないけど・・・・・・」

「俺も、特に用というものはない」

二人の返事を聞いたはやては嬉しそうに微笑んで言った。

「ほんなら、晩ご飯、うちで一緒に食べへん?」

「は、はやてちゃん!」

「うちは新しく出来た友達と一緒にご飯食べたいねん。 シャマルは反対なん?」

車椅子に座るはやてが見上げるような形でシャマルを見つめる。

「・・・・・・いえ、はやてちゃんがそう決めたなら」

「ほな、決まりや! みんなで一緒に買い物に行こか」

すずかとトシアキが行くということを言っていないのに、いつの間にか決まってしまったようだ。

トシアキとすずかは無言で顔を合わせ、お互いに苦笑しながら先に進んで行ったはやてとシャマルの後ろについて行った。



***



買い物を終え、買いこんだ材料を抱えたトシアキが一言漏らす。

「まだ、つかないのか?」

どこか疲れた様子のトシアキ。

トシアキは男ということで買った材料を全て持って歩いていたのだ。

「もう、すぐやよ。 それにしても敷島さん、男の人やのに体力あらへんなぁ」

「いや、体力は、関係ない。 この量は、一人で持つのは、さすがに重い」

話す言葉を途切れさせながらもはやてに返事をするトシアキ。

「あの・・・・・・私も持ちましょうか?」

心配そうにそう言ったシャマル。

ちなみにすずかははやての車椅子を押して先を歩いていた。

「いえ、大丈夫ですよ。 もう少しで着くのなら、なんとかなります」

荷物を抱えなおして、トシアキは先に歩くすずかとはやてに付いて行く。

「ここがうちや!」

到着した家は住宅街に並ぶ家の一軒で、アリサの家ほどではないが大きく感じられた。

「ただいま~」

「お邪魔します」

玄関を開けて入って行くはやてとすずか。

すると、ドタドタと奥の方から音が聞こえてきて、赤い髪を左右に三つ編みにした少女が走ってきた。

「おかえり、はやて!」

「ただいま、ヴィータ。 今日はウチの友達が来てるからちゃんと挨拶するんよ?」

そう言われて赤い髪の少女――ヴィータははやての車椅子を押していたすずかを見る。

「・・・・・・」

「えっと、その・・・・・・」

見つめられ、というより睨まれるように見られたすずかは少し困惑気味だ。

「こら、ヴィータ!」

「・・・・・・いらっしゃい」

「お、お邪魔します・・・・・・」

はやてに怒られて渋々挨拶をしたヴィータ。

「ふぅ、ようやく着いたか・・・・・・」

そこに大荷物を抱えたトシアキが入ってくる。

それをみたヴィータが驚きをあらわにして、はやてに尋ねる。

「はやて! この男は誰だ!? はやての友達なのか!?」

玄関で疲れた様子のトシアキを指して、怒鳴るように言うヴィータ。

「この人はすずかちゃん、友達の知り合いの人や。 ちゃんと挨拶するんよ?」

「・・・・・・」

「そう、睨まれても困るんだが・・・・・・」

ヴィータの睨みつける攻撃を受けて、トシアキは苦笑気味に答えた。

「睨んでねぇです。 こういう目付きなんです」

「・・・・・・そうなのか」

ヴィータにそう言われて納得してしまったトシアキであった。

「こら、ヴィータ! ちゃんと挨拶せなアカンやろ」

「・・・・・・いらっしゃい」

「あ、あぁ」

はやてに怒られて渋々と答えたヴィータに困惑しながらも返事をしたトシアキ。

「さぁ、入って! ウチがご飯作るまでの間、すずかちゃんと敷島さんはリビングでゆっくりしててな」

それからシャマルと台所へ向かって行ったはやて。

残されたヴィータがついて来いと言わんばかりに、さっさと歩いて行った。

「・・・・・・とりあえず、お邪魔するか」

「そう、ですね」

トシアキとすずかもヴィータのあとを追って、八神家の中に入って行った。

リビングまで進んで行くと、ヴィータがテレビの前で座っていた。

「・・・・・・」

すずかもそれにならってソファに座り、ヴィータの後ろからテレビを見ることにしたようだ。

トシアキは庭が見える窓辺に腰を下ろす。

「?」

腰を下ろしたトシアキがふと、外を見ると一匹のネコがこちらを見ているのに気がついた。

「ふむ、ネコか・・・・・・」

気になったトシアキは窓をあけ、こちらを見ている猫に手招きをする。

「・・・・・・」

手招きされた猫は興味をなくしたのか、プイッとそっぽを向いて何処かに行ってしまった。

「・・・・・・」

トシアキは猫が何処かに行ったのを確認すると、やれやれと首を左右に振った。

「ただいま戻りました」

そうしている間に、リビングに桃色の髪をポニーテールにした女性と青い狼が入ってきた。

「む、客人か・・・・・・」

すずかを見た桃色の髪の女性がそう口にする。

「えっと、月村すずかです。 はやてちゃんが夕飯をご馳走してくれるそうなので、お言葉に甘えてきました」

「そうか。 私はシグナムという。 主の料理は美味しいからきっと満足できるはずだ」

「は、はい」

桃色の髪の女性――シグナムの言葉を聞いて緊張した様子で返事をしたすずか。

「ヴィータ、客人の相手をしないとはどういうことだ?」

「・・・・・・」

シグナムにそう言われて、顔をそちらに向けるヴィータだが、何も言おうとはしない。

「えっと、私もテレビを見てましたし、大丈夫です」

「そうか。 客人のあなたがそう言うなら・・・・・・」

シグナムはそう言ってトシアキがいた窓辺を見る。

「むっ、窓が開いているな」

窓辺に近づいたシグナムは開いていた窓をピシャリと閉める。

「あれ? トシアキさん?」

先ほどまでいたトシアキが姿を消していることに気づいたすずかがキョロキョロと首を動かすが、何処にもトシアキの姿が見えなかった。

「完成したで~。 すずかちゃん、敷島さん、こっちや!」

「あ、はやてちゃん。 トシアキさん、何処かに行っちゃったみたい」

「そうなん? トイレちゃうん?」

はやてがそう言ったが、玄関から入ってきたシグナムが首を振る。

「いえ。 靴は家族のもの以外ではこの客人のものしかありませんでしたよ」

「どこいったんやろ?」

「はやて、心配すんな。 あたしがはやてのギガ美味いご飯を全部食べるから!」

テレビを消していち早く席に座ったヴィータがそう言って声をあげる。

「トシアキさんはいつもすぐにいなくなるらしいから、心配しなくても大丈夫だと思うよ?」

以前からアリサに聞いていたすずかはそう言って、トシアキの行方を気にしているはやてに微笑みかける。

「そっか。 敷島さんにも食べてもらいたかったんやけどなぁ」

「はやて! 早く食べよう!」

ヴィータが目を輝かせながらテーブルに並ぶ料理を見つめている。

「そやな。 じゃあ、すずかちゃん。 こっちで一緒に食べよ?」

「うん、ご馳走になるね」

そうして、八神家のメンバーとすずかはともに食事をして、楽しい時間を過ごしたのであった。

その頃、先ほどの話題になっていたトシアキは猫が歩いて行く後ろをずっと付いて歩いていた。

八神家の窓辺から見つけた猫に魔力が流れていることに気づいたトシアキはそのまま追いかけていたのである。

「いつまで猫のフリしてんだよ?」

「・・・・・・」

先を歩く猫に話しかけたトシアキだが、猫の方は無視してそのまま歩いて行く。

「気づいてんだぞ? お前がただの猫じゃないってことは」

「・・・・・・」

トシアキの言葉にピクリと耳を動かしてその場に立ち止まった猫。

「おそらく使い魔の類だな? あのイタチ少年と同じ感じがするんだよ」

「・・・・・・ここじゃなんだから」

ついに言葉を発した猫はそれだけ言って、再び歩き出す。

トシアキも今度は黙って猫の後ろをついていく。

「ここに座って」

猫について来てたどり着いたのは、近くにある人の気配がしない公園であった。

その公園にある一つのベンチに座るようにトシアキに指示した猫。

「あぁ、わかった」

言われたトシアキも素直にベンチに腰を下ろす。

ベンチに並んで座るかたちになったトシアキと猫。

「どうしてわかったの?」

「おいおい、猫が堂々と話してもいいのか?」

「この周辺に結界を張ったわ。 気にしないで」

そう言った猫になるほど、と頷いたトシアキ。

「どうして分かったのか、だったな。 俺は魔力の流れが分かるんだ。 もっとも、大きい魔力だけだけどな」

「そう、それでわかったのね」

ベンチに座る猫が尻尾をユラユラと揺らしながらトシアキの言葉に頷く。

「・・・・・・あぁ。 動物は普通、魔力は持ってないか、もしくは持っていても小さいからな」

「それで、私のは見えたのね?」

トシアキの方を見てそう尋ねた猫。

「・・・・・・・・・そういうことだな」

「そう・・・・・・」

話している間も、猫の尻尾はユラユラと動いている。

「・・・・・・」

そんな尻尾が気になって仕方がないトシアキはつい、手を伸ばしてしまった。

「にゃっ!?」

「悪い。 動いているこの尻尾をみたら掴みたくなって・・・」

突然、尻尾を掴まれた猫は驚いて毛を逆立てる。

そして、謝りながら掴んだ尻尾を離すトシアキ。

「・・・・・・今度やったら吹っ飛ばすわよ」

「悪かったって。 そう言えば名前を聞いてないな? あと、お前のご主人様も」

謝るトシアキを見てもまだ警戒しているのか、先ほどよりも離れた位置で話す猫。

「教える義理はないのだけど?」

「それもそうか。 ちなみに俺は敷島トシアキってんだ」

「シキシマ?」

トシアキの名前を聞いて繰り返し呟く猫。

「俺の名前がどうかしたのか?」

「・・・・・・いいえ、何でもないわ。 私はもう行くわね」

そう言って猫はベンチから降りて歩き出す。

「おう、また話そうぜ?」

「・・・・・・聞かないのね」

歩き出していた猫がそう言って振り返る。

「基本、俺に被害がなければ構わない。 が、俺の知り合いが関わるなら話は別だがな。 すずかは関係ないんだろ?」

「えぇ。 あの子は関係ないわ」

「なら、聞かない。 まぁ、たまに俺の話相手になってほしいかな」

そう言って微笑んだトシアキに、こちらをジッと見ていた猫はポツリと呟く。

「・・・・・・気が向いたらね」

「おう、楽しみにしてるぞ」

小さい声で呟いたが、トシアキには聞こえたようで、ベンチで微笑みながら手を振っていた。

猫はそのまま公園から出て行き、そしていつの間にか姿を消したのであった。



~おまけ~


猫と会話し終えて、公園に一人残ったトシアキ。

「・・・・・・人が増えてきたな」

先ほどまで全くいなかった人が次々と姿を現していた。

「あの猫、もしかして凄く強い?」

一人でそう呟いたトシアキは空を見ながら楽しそうに微笑む。

「戦えたら楽しめそうだよなぁ~」

「ねぇ、ママ。 あの人、お空を見て笑ってるよ?」

「しっ! 見ちゃいけません!」

公園のベンチで一人、呟きながらニヤニヤと笑っているトシアキははっきり言って怪しい。

「まぁ、俺やすずかに興味はなさそうだったし、戦うこともないだろう」

結論が出たトシアキはベンチから立ち上がる。

「そういや、八神さんの飯、食べ損ねたな・・・・・・」

今さら思い出したトシアキだが、時間的にはもう終わっているころであろう。

「あっ。 バイク、図書館に停めたままだ」

さらにバイクに乗ってきたことも思い出し、これから図書館まで歩くことに少し憂鬱になったトシアキであった。



~~あとがき~~

ようやく外伝がすべて終了しました。
次回からはAs編が始まります。
長い間、あまり本編とは関係ない話にお付き合い頂きありがとうございましたw

さて、今回はなのはたちより先にヴォルケンズに会うトシアキの話でした。
(と言っても二人しか会ってませんが・・・)
この話がこれからの伏線になるかもなので、期待しててくださいw

それでは次回、ようやく始まるAs編の最初――十八話をお楽しみにww



[9239] 第十八話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/10/28 21:27
海鳴の街はもう十二月になり、朝の布団からなかなか出て来られなくなった時期となってきた。

八束神社にある山の中、人の気配がない場所で一人の少女が立っていた。

「それじゃあ、今朝の練習の仕上げ。 シュートコントロール、やってみるね」

白いリボンで髪をちょこんと結んでいる少女が誰もいない後ろに振り返って言った。

【わかりました】

しかし、その誰もいない場所から返事があり、その返事に頷いた少女は目を閉じて、持っていた空き缶を頭上に放りあげる。

「ディバインシューター、シュート!!」

そう声をあげた少女の指から桃色の光が放たれ、頭上に放りあげた空き缶に向かっていく。

「コントロール・・・・・・」

呟きながら少女は集中して桃色の光を一生懸命、空き缶に当て続ける。

【十六、十七、十八・・・】

誰もいない場所から少女が桃色の光を空き缶に当てた回数をカウントしていた。

「アクセル! っ!!」

さらに言葉を紡ぎ、桃色の光の速度を上げる少女。

しかし、予想以上に負担がかかるのか、途中で顔を顰めてしまった。

【六十七、六十八・・・】

そうしている間に、カウントの数も段々と増えてきた。

【九十八、九十九、百・・・】

「ふぁ・・・・・・」

百のカウントを聞いた少女は肩の力を抜いて頭上に浮かぶ空き缶を見上げた。

「ラスト!」

落ちてきた空き缶に指を動かして、最後の桃色の光を当ててゴミ箱まで飛ばす。

「ふぁ~」

だが、ゴミ箱の枠にあたって中に入れることはできなかった。

【よい出来ですよ、マスター】

残念そうな声を出した少女に向かって、誰もいない場所――ベンチの上に置いてあった赤い宝石がそう話す。

「にゃはは・・・・・・ありがとう、レイジングハート」

赤い宝石――レイジングハートに励まされた少女――高町なのはは空き缶をゴミ箱に捨てるため、歩いて行く。

「あっ・・・・・・」

しかし、空き缶を拾おうとしたなのはの手よりも先に落ちていた空き缶に手を伸ばした者がいた。

「残念だったな、なのは」

そう言いながら拾った空き缶をゴミ箱に捨てたのは茶色い長髪を後ろで一つに束ねている青年であった。

「と、トシアキさん!? どうしてここに?」

茶髪の青年――敷島トシアキはなのはの質問に答えるようにもう片方の手で持っていた花束を見せる。

「墓参りだよ。 ここにはフェイトの姉、アリシアの墓があるからな」

春先に海鳴の街で起こった事件で、この山にお墓を作ったトシアキはそのお参りに来たようであった。

「フェイトちゃんのお姉ちゃん?」

「そう。 管理局に任せると碌なことがなさそうだったから、クロノに頼んで地球に墓を作らせてもらったんだ」

そう答えながらなのはを置いて草木が生い茂る場所をどんどん進んで行くトシアキ。

「待ってよ~、トシアキさん」

「ん? なのはも来るのか?」

慌てて荷物を持ってトシアキの後ろを追いかけるなのは。

「うん。 フェイトちゃんのお友達としてちゃんと挨拶をしたいから」

「そうか・・・・・・」

なのはの言葉に頷いただけで、トシアキは止まっていた足を進める。

その後ろになのはも逸れないように付いて行った。

「あれ? ここって・・・・・・」

しばらくすると木々がなくなり、海鳴の街がよく見える広場に着いたトシアキたち。

なのははその場所に見覚えがあるのか、キョロキョロと首を動かしてなにかを確認しているようだった。

「ねぇ、トシアキさん。 ここって・・・・・・」

「あぁ。 俺がこの世界に初めて来た場所だ」

春先に起こった事件。

その事件に関わったなのはだが、その前にこの場所で血まみれで倒れているトシアキを発見したのであった。

トシアキは答えながら真新しい木でできている十字架の前に持っていた花束を供える。

「・・・・・・」

「ここに、フェイトちゃんのお姉ちゃんが・・・・・・」

無言で手を合わせたトシアキの横に立ったなのはがそう言い、トシアキに倣って目を閉じて手を合わせた。

「・・・・・・さて、帰るか。 なのは、送って行くよ」

「でも、なのは、歩いて来たよ?」

「心配するな。 俺はバイクで来てるから乗せてってやるよ」

そう言いながらアリシアのお墓に背を向けて、来た道を戻って行くトシアキ。

「トシアキさん、バイク持ってたんだ」

「あぁ。 少し前に買ってな」

先に歩くトシアキの横に並んで歩きだすなのは。

そう話しているうちに八束神社の鳥居の前までたどり着いた二人。

「でも、いつの間に免許取ったの?」

「はっはっはっ・・・・・・んなもんない」

笑いながら言ったトシアキの言葉にピタリと足を止めるなのは。

「じゃあ、どうしてバイクに乗ってるの?」

「んなもん無免許に決まってるだろ? それに俺は戸籍がないんだから免許なんて取れるわけないだろ」

言いながらヘルメットを装着して、エンジンを掛けるトシアキ。

「・・・・・・」

「ほら、早くしろよ。 学校に遅れるぞ?」

「・・・・・・なのは、死ぬかもしれないなら学校に遅刻したほうがいいの」

そう言って、先ほど立ち止まった場所から一歩も動こうとしないなのは。

「死ぬって大袈裟だなぁ。 魔法があるんだから簡単にしなないだろう?」

「・・・・・・バリアジャケットを着てまでバイクに乗りたくないの」

首を振りながらどうしてもバイクに乗らないなのはにイラついてきたトシアキ。

「だぁぁ! うるせぇ!! こうなったら最終手段だ!!」

そう言ったトシアキはどこから取りだしたのか、ロープをなのはに向かって放り投げる。

風の精霊の力を借りることが出来るトシアキにとって、そんなことは朝飯前だ。

「にゃ!?」

ロープで体を固定されたなのははそのまま引っ張られ、トシアキの乗るバイクの後ろに座らされる。

「これだけ括っておけば心配しなくて済むだろう」

そして、なのはの体はトシアキの体とロープで結ばれてしまった。

「と、トシアキさん。 せめて、手だけ出させてほしいの」

「我が儘言う奴は知らん。 よし、発進だ!」

なのはの言葉に耳を傾けず、トシアキはそのままバイクを走らせる。

「にゃゃぁぁぁぁ!!!?」

早朝の海鳴の街になのはの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。



***



深夜の海鳴の街。

ほとんどの人が眠りについている時間帯に男性の叫び声が響き渡った。

「ぐわぁぁぁぁ!!?」

地球にいる人間が着ているような服装ではなく、鎧のようなものを身につけている男性が倒れこんだ。

「雑魚いな」

その男性を倒したのだろうか、赤い髪を左右で三つ編みにした少女がそう呟く。

「こんなんじゃ、大した足しにもならないだろうけど・・・・・・」

呟きながら少女は持っていた本を開き、倒れた男性に向ける。

「うっ!?」

すると、男性の体から青く光る何かが出てきた。

「お前の魔力、闇の書のエサだ」

赤髪の少女の言葉で開いた本が輝きだし、男性から出てきた青く光るものを取り込んだ。

「どうだ、ヴィータ。 魔力は集まったか?」

そこに青い狼が現れ、赤髪の少女――ヴィータにそう尋ねた。

「ダメだ、ザフィーラ。 こいつらじゃ一ページにもならない」

尋ねられたヴィータは首を振り、青い狼――ザフィーラにそう答える。

「一度、広範囲で調べた方がよさそうだな」

「そうだな。 とにかく、上がろう」

二人でそう話しあった結果、上空にあがって広範囲に渡って調べることにしたようだ。

「・・・・・・」

上空に上がったヴィータは目を閉じて、魔力反応がないか調べる。

「いたか?」

「いるような・・・・・・いないような・・・・・・」

ザフィーラに対して曖昧な言葉を返しつつ、手に持つハンマーのようなものを肩に担ぐヴィータ。

「こないだから時々出てくる妙に巨大な魔力反応・・・・・・そいつを捕まえれば一気に二十ページくらい埋まりそうなんだけどな」

「別れて探そう。 闇の書は預ける」

ヴィータの言葉を聞いて手分けをして探す方が、効率がいいと考えたようだ。

「オーケー、ザフィーラ。 あんたもしっかり探してよ?」

「心得ている」

それだけ答えてザフィーラはどこかに消えてしまった。

「封鎖領域、展開」

担いでいたハンマーのようなものを前方に突き出し、そう言ったヴィータ。

すると、ヴィータの足元に魔法陣が現れ、そこを中心に封鎖領域が広がって行く。

「・・・・・・」

封鎖領域を展開してからしばらくして、大きな魔力反応を感じ取ったヴィータ。

「魔力反応、見っけ!!」

見つけてから封鎖領域の範囲をそれまでにとどめ、自分の持つハンマーのようなものに話かける。

「行くよ、グラーフアイゼン」

【了解】

そして、見つけた魔力反応がする場所に向かって飛び去って行く。

その頃、自宅にて勉強をしていたなのは。

【警告、緊急事態です】

傍に置いていたレイジングハートの言葉を聞いて、手を止めたなのは。

それと同時に広がる封鎖領域がなのはの家まで包み込んだ。

「っ!? 結界!!?」

【対象が高速で接近中です】

「近づいて来てる? こっちに!?」

レイジングハートからの言葉を聞いて、なのはは不安そうに窓から色が変わってしまった空を見上げる。

「・・・・・・よし」

決意したなのはは外に出て、大きなビルが立ち並ぶ場所にやってきた。

「ここからなら見えるかな?」

一つのビルの屋上にたどり着いたなのはは周りを見ながら向かってくるものを探している。

【来ます】

レイジングハートからの言葉で正面の空を見るなのは。

「っ!?」

そこから赤い光がなのは目掛けて飛んできたのであった。

【誘導弾です】

飛んできたものが魔法による攻撃だとわかったなのははその場でシールドを展開してそれを防ぐ。

「うぅ・・・・・・うっ・・・・・・」

「はぁぁぁぁ!!」

必死に誘導弾を防ぐなのはの後ろからヴィータがグラーフアイゼンでなのはに襲いかかる。

「きゃぁっ!?」

グラーフアイゼンの攻撃ももう片方の手で何とかシールドを張ったが、勢いが強かったため、なのははそのままビルから落とされてしまった。

「ちっ!」

対象を落としてしまったことに舌打ちしたヴィータがあとを追う。

「レイジングハート、お願い!!」

なのははビルから落下しつつ、バリアジャケットを装着する。

「ふっ!」

そんななのはに対して、後を追ってきたヴィータが銀色の丸い球をグラーフアイゼンで打ち、なのはに攻撃する。

その衝撃で爆煙が上がり、そこから桃色の光が二つほど飛び出していった。

「うぉぉらぁぁぁ!!」

銀色の球を打ったあと、自らもなのはに対し攻撃を開始するヴィータ。

しかし、先に着弾していた銀色の球の影響で爆煙があがり、なのはの姿をとらえることが出来なかった。

「いきなり襲いかかられる覚えはないんだけど!?」

爆煙から姿を見せたなのはは少し距離を取りつつ、そう叫ぶ。

「どこの子!? 一体なんでこんなことするの!?」

「・・・・・・」

なのはの声には返事をせずに、ヴィータは先ほどよりも小さな銀色の球を二三個取り出す。

「教えてくれなきゃ、わからないってば!!」

そう声をあげながらなのはは先ほど放った魔法を呼び戻す。

「っ!?」

後ろから飛んできた二つの魔力弾に気づいたヴィータはとっさに一つを避ける。

「っん!?」

何とか一つは避けたがもう一つは避けきれずグラーフアイゼンで受け止めるヴィータ。

「このやろぉ!!」

魔力弾をぶつけられたヴィータは怒り、なのはに向かって襲いかかる。

しかし、レイジングハートが機転を利かせ、素早く回避した。

「話を・・・・・・」

回避したなのははレイジングハートを襲いかかってきたヴィータへ向ける。

「聞いてってば!!」

【ディバインバスター】

なのはの声を合図にレイジングハートからディバインバスターが放たれる。

「っ!?」

巨大な魔力砲撃にヴィータはなんとか回避したが、威力が強かったため自分の帽子が飛ばされてしまった。

「あっ・・・・・・」

そして、落ちて行く帽子についていたウサギの顔が取れてしまったのを見た瞬間、ヴィータの顔つきが変わる。

「え、えっと・・・・・・」

凄い顔で睨まれたなのはは思わず、謝ってしまいそうになる。

「グラーフアイゼン! カートリッジロード!!」

【了解】

しかし、そんななのはを見ずに自分の持つグラーフアイゼンに指示を出したヴィータ。

それからグラーフアイゼンが変形した。

「ふぇ!?」

ハンマーだったグラーフアイゼンにドリルとジェットが備わったことに驚いたなのは。

「くらぇぇぇ!!」

グラーフアイゼンのジェットを噴射させ、スピードをあげたヴィータはドリルの部分をなのは目掛けて突進させる。

「っ!?」

とっさに避けようとしたなのはだが、ヴィータのスピードが速くて避けきれない。

そのためシールドを展開したが、すぐにドリルの部分によって破壊されてしまった。

「そんなっ!!?」

そのままレイジングハートがボロボロになってしまい、抑えきれなくなったなのはは後ろにあったビルまで飛ばされてしまった。

「きゃあぁぁぁぁ!!?」

窓ガラスを突き破り、建物の中でうずくまるなのは。

「うぅっ・・・・・・」

「でぇぇいぃ!!」

追い打ちを掛けるようにヴィータがなのはにグラーフアイゼンを叩きつける。

「えぇ!?」

【プロテクション】

驚いているなのはに代わって、レイジングハートがシールドを展開する。

しばらく均衡が続いていたが、ついになのはが耐えきれず後方の棚に背中を打ちつけた。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

肩で息をしているヴィータだが、段々と落ち着いていき、ゆっくりとなのはに近づいてくる。

「・・・・・・」

なのはは意識を失いそうな状況で、壊れかけたレイジングハートをヴィータに向ける。

しかし、なのは自身もボロボロになっており、まっすぐに構えることができない。

そして、ヴィータの持つグラーフアイゼンがなのはに向かって振り下ろされそうになった瞬間、それを受け止める一人の背中がなのはの目に入った。

「ごめん、なのは。 遅くなった」

「ユーノ君?」

そう言ってなのはの肩にソッと手を置いたのはユーノ・スクライア。

春先の事件でともに戦った仲間である。

「くっ・・・・・・仲間か」

そして、ヴィータの攻撃を受け止めたのはフェイト・T・シキシマ。

春先の事件で仲良くなったなのはの友達である。

「・・・・・・友達だ」

そう言って戦闘モードでなのはを庇う様に立ちはだかるフェイト。

こうして、半年ぶりに再開したなのはとフェイトであった。



~おまけ~


修理と調整が完了し、地球に向けて発進したアースラ。

その艦内には春先の事件――PT事件に関わったメンバーのほかに一人、新しい者が乗っていた。

「・・・・・・」

「順調に航行中、予定ではあと二日ほどで到着します」

「・・・・・・」

「なお、貴艦は調整後のため、出力の七十パーセントで航行します」

オペレーターが淡々と報告する中、不機嫌な表情をした少女がジッと立っていた。

「あ、あの・・・・・・アキ執務官」

「なんですか?」

不機嫌な少女――アキ・シキシマは執務官補佐を務めるエイミィに声をかけられ、振り返る。

「えっと、立ったままではなんですので、お座りになられたら・・・」

「いえ、結構です。 仕事上、立ったままでいることが多いので、問題ありません」

空いている椅子を指して言ったエイミィだが、アキは聞く耳を持たず、前方の画面を見ながら立っている。

「そ、そうですか・・・・・・」

肩を落とすエイミィに代わって、今度はエイミィの隣にいたフェイトが声を掛ける。

「あの、アキ執務官」

「・・・・・・なんです?」

「兄さんの兄妹なんですよね?」

フェイトの発した兄と言う言葉にピクリと反応するアキ。

「失礼ですが、あなたの言う兄とは?」

「えっと、敷島トシ・・・・・・」

フェイトが答え終わる前に無表情ではあるが、どこか怒った様子のアキが自分のデバイスをフェイトに突き付ける。

「兄様の名前を気軽に口にしないでください。 そうですか、やはり偶然ではなかったのですね」

デバイスを突き付けられたフェイトは驚きながらも、その動きが分からなかったため、感心していた。

「あ、アキ執務官! 艦内での戦闘行為は禁じられているんだぞ!」

クロノが慌てて注意するが、アキはデバイスを仕舞おうとはしない。

「いつ、知り合ったのですか?」

「えっと、半年前の事件で・・・・・・家族にならないかって・・・・・・」

フェイトの言葉を聞いたアキはようやくデバイスを仕舞う。

「・・・・・・そうですか。 兄様がそんなことを」

「だ、だから、私たちも家族・・・・・・だよね?」

どこか不安そうにしながらもアキにそう尋ねたフェイト。

「・・・・・・・・・兄様がそう望むなら」

アキのぶっきらぼうな答えにでもパァと顔を明るくさせたフェイト。

「そ、それじゃあ、名前で呼んでもいい?」

「・・・・・・・・・・・・好きにしてください」

それだけ言って、アキはその場から立ち去ってしまった。

「「「「はぁぁぁ・・・・・・」」」」

クロノとエイミィ、そしてオペレーターの二人は緊張感がなくなったことに安堵し、深いため息を吐いた。

「やった、これで兄さんと家族になれた」

そんな四人を背に、アキの答えを聞いて嬉しそうに微笑んだフェイトはしばらくその場で喜びをかみ締めていたのであった。



~~あとがき~~


書きあがりました十八話です。
ついにAS編に突入しました。

今回、皆様待望のアキはおまけのみでしたが、次回はキチンと出てきます。
そして、ついに再開する兄と妹!

急に書くことが頭に浮かんできたので前回から早くに投稿できましたが、次回もそうなるとは限りませんので、ご了承ください。

それでは、次回の十九話でお会いしましょう! 



[9239] 第十九話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2010/01/18 23:19
向かい合い、お互いのデバイスをそれぞれ構えるフェイトとヴィータ。

「・・・・・・民間人への魔法攻撃、軽犯罪では済まない罪だ」

「なんだ、テメェ? 管理局の魔導師か?」

フェイトの言葉に腹が立ったのか、睨みながらそう言い放つヴィータ。

「時空管理局、嘱託魔導師、フェイト・T・シキシマ。 抵抗しなければ、君には弁護の機会が与えられる、同意するなら武装を解じ・・・」

「誰がするかよ!」

フェイトの言葉を遮ったヴィータはそう言って破壊したビルから飛び出して行った。

「ユーノ、なのはをお願い!」

「うん」

ユーノにあとを任せ、フェイトもヴィータを追いかけるためにビルから飛び出す。

残されたなのはは傍にいるユーノに視線を向ける。

「ユーノ君」

「うん」

ユーノは頷いたあと、治癒魔法をなのはに掛けながら、今までのことを話す。

「フェイトの裁判が終って、皆でなのはに連絡しようとしたんだ。 そしたら通信は繋がらないし・・・・・・」

なのははユーノの話を聞きながら目を閉じて、治癒魔法に身をゆだねていた。

「アースラの方で調べたら広域結界が出来てるし。 だから、慌てて僕たちがきたんだ」

「そっか・・・・・・ごめんね・・・・・・ありがとう」

怪我が治っていき話す元気が出たなのははそう言って俯く。

「あれは誰? なんで、なのはを・・・・・・」

「わかんない。 急に、襲ってきたの・・・・・・」

「敷島さんは?」

ユーノに迷惑をかけて落ち込んでいるなのはは俯きながら首を振る。

「トシアキさんとは昨日、会ったけど・・・・・・」

そこまで言ったなのは対して、ユーノは微笑んで安心させようと言葉を紡ぐ。

「もう、大丈夫。 フェイトもいるしアルフもいる。 それに執務官が二人もいるからね」

「クロノ君の他に?」

執務官が二人、来ているという言葉にクロノを思い浮かべたなのはであったが、もう一人は心当たりがなかった。

「うん。 凄腕の執務官で、SSランクだったんだ。 僕の魔法も簡単に破られたし・・・・・・」

「そうなんだ」

「だから、きっとすぐに解決するよ」

ユーノはそう言ったが、なのは嫌な予感が頭の中から離れなかった。

先ほど飛び出したフェイトは上空でこちらを見ていたヴィータを見つけた。

「バルディッシュ!」

【了解】

フェイトの持つバルディッシュから黄色い魔法の刃が放たれる。

「グラーフアイゼン!」

【了解】

それを見たヴィータも銀色の球を四つ取り出し、全てをグラーフアイゼンで打ちつけてフェイトに向かって飛ばす。

「障壁!!」

自分の打ちだした球とフェイトの魔法がすれ違い、こちらに向かってくることが分かったヴィータはすぐさまシールドを展開する。

「っ!?」

同じく、銀色の球が自分のもとへ向かってくるとわかったフェイトは回避行動を取る。

「・・・・・・」

しかし、その銀色の球には追尾機能がついているのか、空中で逃げ惑うフェイト。

「ふん!」

そんなフェイトに対して小物を見るような眼で見ていたヴィータだが、下から何かが接近してくるのに気づいた。

「バリアブレイク!!」

人間形態のアルフがヴィータへ向かって己の拳を叩きつける。

それにより、ヴィータの障壁が破壊された。

「このっ!」

攻撃してきたアルフに対して、グラーフアイゼンで襲いかかるヴィータ。

すぐさま、シールドを展開したアルフだが、上空からのヴィータの攻撃に地上へと叩きつけられる。

「はっ!?」

アルフを叩きつけたヴィータに銀色の球から逃れたフェイトがバインドを仕掛ける。

「はぁぁぁ!!」

そこへフェイトがバルディッシュで攻撃を繰り出すが、バインドを簡単に解いたヴィータが身を避ける。

その攻防戦をビルの屋上からユーノに支えられて見ているなのは。

「フェイトちゃん・・・・・・」

「クロノたちはあの子を逃がさないように結界を張ってから合流する予定だよ」

心配そうにフェイトを見つめるなのはに、ユーノがそう言って安心させる。

「そっか・・・・・・」

そんな会話がされている上空で、ついにアルフのバインドによってヴィータを捕えることが出来たようである。

「くっ! この!」

両手、両足を固定されたヴィータは何とか体を動かそうとするが、バインドによって固定されているため、動かすことが出来ない。

「終わりだね。 名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」

ヴィータにバルディッシュを突き付け、そう言ったフェイト。

「くっ! ふぬぅぅぅ!」

何とか力を入れてバインドから抜け出そうとするヴィータ。

それを見つめていたフェイトとアルフであったが、突然の物凄い殺気をアルフは感じた。

「な、なんかヤバイよ、フェイト」

アルフの声と同時に、フェイトの足元から桃色の髪をポニーテールに纏めた女性が現れ、フェイトを弾き飛ばす。

「うわぁぁ!?」

「・・・・・・シグナム?」

バインドで身動きが取れないヴィータは突然現れた桃色の髪の女性――シグナムの名前を呼ぶ。

「うおぉぉぉ!!」

今度はアルフの後ろから人間の耳ではないものを生やした男性――人化したザフィーラがアルフに襲いかかる。

「くっ!?」

何とか一撃目は防ぐことが出来たが、二撃目の攻撃をまともに食らったアルフはそのまま飛ばされてしまう。

そして、有利であったフェイトたちは新しい敵の出現により不利な状況になってしまった。

「フェイトちゃん・・・・・・アルフさん・・・・・・」

遠くで見ていたなのはが表情を曇らせる。

「マズい、僕も加勢しなきゃ・・・・・・癒しの円に鋼の守りを与えたまえ」

ユーノも状況が不利だと感じたのか、なのはの周りに結界を張り、自分は戦闘が行われている場所へ向かう。

フェイトとアルフがヴィータのもとを離れたため、シグナムがヴィータのバインドを解除する。

「あんまり無茶はするな。 お前が怪我をすれば我らが主が心配する」

「わーてるよ!」

説教を食らった子供のように不貞腐れてそっぽを向いたヴィータの頭に帽子がのせられた。

「それから、落し物だ。 破損は直しておいたぞ」

「・・・・・・ありがと、シグナム」

それからシグナムは現在、戦闘を行っているアルフとザフィーラを見ながら話す。

「状況は実質、三対三。 一対一なら我らベルカの騎士に・・・・・・」

「負けはねぇ!!」

シグナムの言葉を引き継いで、ヴィータがそう声を荒げて言う。

そして、フェイトが吹き飛ばされた場所へ向かうヴィータとシグナム。

その途中、飛びながら背中に手をまわしたヴィータが驚きの声をあげる。

「あれ? 闇の書がない!?」

「僕が相手だ!」

そこへユーノが現れ、ヴィータは闇の書の行方を気にしつつも戦闘に入る。

その少し離れた場所では、シグナムとフェイトが向き合っていた。

「我が名はシグナム。 ヴォルケンリッターの将。 お前の名は?」

「私はフェイト・T・シキシマ。 時空管理局、嘱託魔導師」

お互い、デバイスを構えたままそう名乗り合った。

「シキシマ、その名を覚えておこう!」

「っ!?」

そうして、フェイトとシグナムの戦闘が再び始まったのである。

そんな三人の戦う姿を遠くのビルで、結界に守られた状態のなのはが見ていた。

「わたしも、手伝わなきゃ・・・・・・っ!?」

痛みで顔を顰めつつ、結界の外にゆっくりと歩いて行くなのは。

「わたしが、皆を、助けなきゃ・・・・・・」

そう言ったなのはは目を閉じて、桃色の魔法を三つ出現させる。

「ディバイン・・・シューター・・・・・・シュート!!」

なのはの声に反応して、三つの魔法があちこちで戦う仲間の援護に向かう。

毎朝、コントロールと魔法の複数使役を練習していたなのはにとって、魔法三つなど朝飯前である。

「皆を、助ける!!」

目を閉じたなのはがそれぞれの魔法をフェイトやユーノ、アルフの援護のためコントロールする。

≪フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、私が援護するから≫

≪なのは・・・≫

念話で心配するフェイト。

≪大丈夫なのかい?≫

アルフもなのはが受けたダメージを知っているため、心配してそう尋ねる。

≪大丈夫。 ディバインシューターなら毎日練習してたから≫

念話をしながら魔法のコントロールを器用にこなすなのは。

「っ!?」

「はぁぁぁ!!」

シグナムに攻撃したなのはの魔法。

その隙にフェイトがバルディッシュで攻撃する。

「なんだ、この魔法は!?」

飛んできたなのはの魔法を、障壁を張って防いだヴィータ。

「バインド!!」

動きが止まったヴィータに対して、再びバインドを仕掛けるユーノ。

「くっ! 一体、どこから・・・」

自分の周りを飛び回るなのはの魔法に対して悪態を吐くザフィーラ。

「てぇぇい!!」

油断していたザフィーラに拳を叩きこんだアルフ。

「もう一回、ディバイン・・・・・・あっ!?」

再びディバインシューターを放とうとしたなのはの動きがとまる。

そのため、先ほどまでコントロールしていた魔法が何処かへ飛んで行ってしまった。

「なの、は?」

なのはの魔法が何処かに飛んで行ったことに疑問を感じたフェイトは、なのはのいるビルへと視線を向けた。

「あっ・・・・・・・・・はっ・・・・・・っ!?」

フェイトが見たものは、なのはの胸から突き出ている人間の腕であった。

なのは自身も目を見開いてパニックに陥っている。

「なのはーーーーー!!?」

そんななのはを心配したフェイトが駆けつけようとするが、そこにシグナムが立ちふさがる。

「あっ・・・・・・あっ・・・・・・」

なのはは自分の胸から突き出ている腕を見ると、手の平になにやら桃色に光る球が見えた。

そして、それがどんどんと小さくなっていき、見えなくなるまで小さくなると突き出ていた腕が消え去った。

「・・・・・・」

なのははそのままフラフラと歩き、ついにはその場に顔から倒れこんでしまった。



***



なのはから少し離れたビルの屋上。

そこで金髪の女性が指にはめている二つの指輪から伸びる宝石。

金髪の女性はその宝石によってつくられた輪から腕を抜き去った。

「蒐集完了、後は離れるだけね」

そう言って金髪の女性は念話で他の三人に伝える。

≪シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、蒐集は完了。 一旦散って、いつもの場所に集合≫

≪心得た≫

シャマルからの念話にフェイトとの戦闘を中断して去るシグナム。

≪了解した≫

ザフィーラもそう返事をして、アルフの追跡を撒く。

≪ごめん、シャマル。 助かった≫

ユーノのバインドの嵐を完全に避けきったヴィータはそう念話で伝えて、すぐにその場を離脱する。

「あとは私ね」

「そこまでだ!」

金髪の女性――シャマルの後ろから黒い服を着た青年がデバイスを突き付けていた。

「君が奴らの仲間だということはわかってる。 大人しく、武装を解除し投降しろ」

「・・・・・・」

突然背後に現れた青年に驚きつつ、どうやってこの場を逃げ出すかを考えるシャマル。

「武装を解除しろと言っている! しないなら強制バイ・・・ぐはっ!?」

青年は言葉を言い終わる前に何者かによって吹き飛ばされてしまった。

「こらこら、女性にそんな危ないものを突き付けてるんじゃ・・・・・・って、クロノか!?」

「トシアキ! 君は何故、敵を助ける!?」

吹き飛ばされた黒い服装の青年――クロノ・ハラオウンは吹き飛ばしたトシアキにそう言って怒鳴りつける。

「遠くから見たらお前が悪い奴だと思ったんだ。 まさか、もう地球に来てるなんて思ってもいなかったし・・・・・・」

そう言って言い訳するトシアキにクロノはため息を吐いた。

「はぁ・・・・・・全く、君って奴は。 まぁ、いい。 結界を張り終えたからあの女性も逃げることは出来・・・・・・」

「あっ、すまん。 その結界、たぶん俺が入る時に壊したやつだ」

クロノの言葉を遮ってそう言ったトシアキ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

そして、しばらく無言の見つめ合いが続く。

「何をやってるんだ! あの結界を張るのにどれだけ時間がかかったかと・・・・・・ぐふっ!?」

ようやく復活したクロノが怒鳴り声をあげながらトシアキに詰め寄ろうとするが、何者かが上から降りてきて、クロノを踏みつける。

「兄様!!」

反対側で結界を張るためにいなかったもう一人の執務官――アキ・シキシマがクロノの上に着地したあと、トシアキの胸に飛び込む。

「ア・・・・・・キ?」

「はい。 トシアキ兄様の妹のアキです」

トシアキを見上げるような形でそう言ったアキは、今まで見たこともないような笑顔で微笑んでいた。

「な、なんでここに? それに、俺達の国は? 父上や母上はどうしたんだ!?」

「それはですね・・・・・・」

「君たち兄妹は・・・・・・敵に逃げられたというのにその会話はなんだ!?」

質問攻めをするトシアキに対して、一つずつ答えようとしたアキだが、クロノの怒鳴り声によって遮られてしまった。

「そんなこと、どうでも構いません。 私にとって最優先事項は兄様ですので」

クロノを見据え、そう答えたアキ。

「・・・・・・アキ。 お前、何か変わったな」

そんなアキに変わった印象を覚えたトシアキ。

「・・・・・・・・・とにかく、一度アースラに戻ろう。 トシアキ、君にも来てもらうぞ?」

そして、今回の作戦の失敗の原因がトシアキにあると考えたクロノはアースラに戻って艦長の意見を聞くつもりのようだ。

「まぁ、今回は確かに俺が悪いよな」

「そういうことだ。 一応、話を聞かせて・・・・・・」

「兄様は悪くありません! 心配しないでください兄様、私が兄様の無実を証明し・・・・・・」

騒ぐアキの口をとりあえずトシアキが抑え、クロノの合図で三人揃ってアースラに転送されるのであった。

アースラに転送された三人は同じタイミングで転送されてきたなのはたちを見つける。

「おっ、久し振りだな。 フェイト、アルフ、ユーノ・・・・・・」

三人の名前を言ったあとで、フェイトとアルフに支えられているなのはが目に入ったトシアキ。

「なのは、どうしたんだ?」

「なのはの胸から腕が出ていたところは確認したんですが、外傷はありませんし、何が原因なのか・・・・・・」

ユーノの答えを聞いて、歯をギリッと噛みしめるトシアキ。

「とにかく医務室へ運ぶね、兄さん」

「・・・・・・・・・あぁ、そうだな」

フェイトとアルフはそのままなのはを支えたまま医務室へ向かって行った。

「僕たちは艦長も元へ行こう」

クロノを戦闘にゾロゾロとアースラの司令室へ向かっていく四人。

「お久しぶりね、敷島さん」

「あぁ、そうだな。 艦長さん」

司令室についたトシアキたちを迎えたリンディは半年振りに会うトシアキに挨拶をする。

「それで、今回は事情を話してくれますよね?」

「あぁ。 今回は全面的に俺が悪・・・・・・」

「兄様は悪くなんかありません!」

リンディとトシアキが会話している後ろからアキが口を挟んで会話を中断させる。

「アキ、いいから少し静かにしていてくれ」

「・・・・・・はい。 兄様がそう言うなら」

シュンと顔を俯かせて落ち込んだアキに後ろ髪を引かれつつ、トシアキはリンディとの会話に戻る。

「でだ。 結果的に俺の所為でなのはがあんなことになってしまったんだが・・・・・・なのはは大丈夫だよな?」

「今、詳しく見ているけど、一度本局で本格的な治療を受けた方がいいと思うの。 それで、このままアースラで向かおうと思うのだけれど・・・」

「わかった。 俺も行こう。 詳しい話が知りたいしな」

トシアキの言葉にリンディは微笑みながらトシアキを見る。

「半年前のときと同一人物とは思えないわね。 あんなに管理局を嫌っていたのに」

リンディの言葉に肩をピクリと反応させるアキであったが、トシアキに言われたことを守るため、大人しく黙っている。

「確かに嫌いだがな。 なのはのためなら俺は我慢するさ」

「あら? どうしてかしら?」

「なのはとその友人二人は俺の命の恩人なんでね」

今度はトシアキの言葉を聞いて身体をピクリと動かすが、トシアキに言われたこ(ry

そんなアキの反応をクロノとユーノはまた暴れ出すんじゃないかと、ビクビクしながら見ていた。

「とりあえず、詳しい話は本局についてから聞きます。 だから、ゆっくりしていてね」

「・・・・・・わかった」

リンディの言葉に納得したトシアキは頷いて大人しくしていたアキを見る。

「それじゃあ、行こうか。 アキ、案内してくれ」

「はい! 兄様、こちらです!」

トシアキに声をかけられたアキは嬉しそうに微笑み、元気よく声を出して部屋に案内するためにトシアキと共に出て行った。

「「「・・・・・・」」」

その様子を唖然とした表情で見ていた三人。

「アキ執務官、物凄く嬉しそうだったわね」

「はい。 僕も彼女のあんな笑顔、初めて見ました」

「あのときとイメージが完全に違う」

残されたリンディ、クロノ、ユーノがそれぞれそう言って、アキが出て行った扉をしばらく見続けるのであった。



~おまけ~


ヴォルケンリッターがそれぞれ散って逃げるとき、アースラでエイミィはのんびりと映像を見ていた。

「エイミィ補佐官、あの四人の探知をしなくてもいいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。 クロノ君とアキ執務官が二人で張った結界からそんな簡単に出られるわけないよ」

そう言って安心して映像を見ていたエイミィとオペレーターの二人。

「そのまま、進むと結界の壁にドーンと・・・・・・」

エイミィがそう言ったが、四人のマークはそのまま遠くへ行ってしまった。

「あ、あれ?」

「結界が消えてますね」

「今から探知しても絶対間に合いませんよ」

結界に遮られずにその場から消えた四人のマークを見て、エイミィが乾いた笑みを浮かべる。

「・・・・・・もしかして、逃げられたのってあたしの所為?」

「「・・・・・・」」

そう尋ねるエイミィに答えず、オペレーターの二人は自分たちの仕事を再開し始めた。

「あははは・・・・・・・・・・・・はぁ~」

本当はトシアキが結界を破壊してしまったことが原因なのだが、そうとは知らないエイミィは苦笑いのあとに大きなため息を吐くのであった。



~~あとがき~~

十九話更新!!
実は二日前の深夜に出来ていたのですが、まさかのPCトラブル!!
ようやく、原因を突き止めて解決、そして今に至ります。

せっかく感想を書いてくれた人たちの期待にこたえようと思って早急に書きあげたのに、まさかのPCトラブル。
皆様も自分のPCはこまめにチェックしておきましょうねw

今回はアニメAs編の二話目にあたりますね。
少し、戦闘シーンを省略していますが、ダラダラと書くことが私には出来ませんでしたので、これで勘弁してくださいw

次回は管理局本局。
そして、アキの過去話を少しばかり書きます。
それではまたお会いしましょうww



[9239] 第二十話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/04 09:58
アースラに与えられたアキの部屋。

そこには二年ぶりに再会したトシアキとアキの兄妹がいた。

「ここが私の部屋になります」

「そうか。 で、俺の部屋はどこだ?」

トシアキは自分に与えられた部屋に案内してもらおうと思っていたのだが、連れて来られたのはアキの部屋であった。

「? ここではダメなのですか?」

「いや、話すならどこでも構わないんだが、向こうに着くまでの間に俺が寝る部屋も知っておきたいんだよ」

「ですから、ここではダメなのですか?」

トシアキの言っていることが理解出来ないというように首を傾げて尋ねるアキ。

「色々とダメだろ。 昔ならともかく、お前も年ごろの女の子になってきたんだし・・・・・・」

現在、兄であるトシアキは十八歳。

そして、妹のアキは九歳である。

「私は構いません。 むしろ兄様と同じ場所で寝・・・」

「おいおい!? 俺と会わなかった間に何かあったのかよ!?」

アキの言葉を遮って、昔と性格が変わってしまっていることに驚くトシアキ。

「・・・・・・兄様がいなくなってすぐ、父様があのときの怪我が原因で死んでしましました」

「父上が・・・・・・」

自分の知らないところで実の父親が死んでいた事実に衝撃を受けたトシアキ。

「それから国の跡を誰が継ぐのかで争いが起きました」

「おいおい、俺がいなくなったんなら必然的にアキが跡を継ぐことになるだろ?」

トシアキの言葉に無言で首を左右に振ったアキ。

「じゃあ、一体誰が・・・・・・」

「母様です」

「っ!?」

思わぬ人物の名前を聞いて、さらに驚くこととなったトシアキ。

「母様は魔法も使えない者が国を率いるのは無理であると・・・・・・」

アキは今でこそSSクラスの魔導師ではあるが、トシアキが使う魔法――精霊の力を借りて使用する魔法は全く使うことが出来なかったのだ。

「そして、私たちの国は私を王女にしようとする者たちと母様を王女にしようとする者たちで争いが起きたのです」

「・・・・・・」

自分がいなくなったことによって、そんな出来事が起こったことにトシアキはもはや言葉も出ないようであった。

「結果、私たちの国は滅びました。 そして、他国、隣国を巻き込んでの戦争・・・・・・」

一つの国が滅ぶと、その国が持っていた領地を巡って他の国が争いを始める。

争いが争いを呼び、いつしか星自体が滅亡するまでに至ったのである。

「アキはどうして助かったんだ?」

「私は兄様が必ず生きていると信じていたので、何とか生き延びようと争いから逃げました。 そこに偶々、調査をしに来た管理局の提督に助けてもらったのです」

助けてもらったアキが管理局で治療を受けた時にリンカーコアと呼ばれる魔導師の魔力の源が大きいことが判明したのである。

「その提督の力で私は管理局の上の立場になることができました」

「・・・・・・・・・そうか。 俺がいなくなったらアキが国を継げると思ってたんだがな」

アキの話す内容を聞き終えたトシアキはそう言って自嘲の笑みを浮かべ、アキをソッと抱きしめる。

「に、兄様!?」

「ごめん。 ごめんな、アキ・・・・・・」

アキを胸に抱きしめながら、自分の行いによって苦労することになったアキに何度も謝るトシアキ。

「・・・・・・いいんです。 私は兄様が傍にいてくれるなら」

そうして、しばらくの間トシアキのされるがままに抱きしめられていたアキ。

トシアキはさすがに嫌がられると思い、落ち着いたあたりからアキを離したが、アキ本人は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「一度、その提督に礼を言いたいな。 向こうに着いたら紹介してくれるか?」

「・・・・・・兄様にギュッてして貰った。 兄様にギュッて・・・」

トシアキの言葉に返事をしないアキは小さな声でブツブツと何かを呟いている。

「アキ?」

「はっ!? なんですか、兄様?」

「えっと、向こうに着いたらアキを助けた提督を紹介して欲しいんだけど・・・・・・」

突然正気に戻ったアキにビクビクしながら、再びそう言ったトシアキ。

「わかりました」

アキの返事をもらったところでトシアキはドアに向かって歩き出す。

「兄様? 何処へ行くのですか?」

「俺の部屋だよ。 適当に空いてる場所で寝てくるわ」

そのトシアキの言葉を聞いた瞬間、アキはトシアキの前に体を回りこませる。

「兄様はここで寝てください」

「ここはお前の部屋だろ? 俺は別の場所を・・・・・・」

「ダメ、ですか?」

トシアキを上目遣いで見つめながらアキは悲しそうな声でそう言った。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

そんなアキを見つめていたトシアキだが、久し振りに再会したことと、今まで寂しい思いをさせたことを思い出す。

「・・・・・・今日だけだからな」

「はい!」

トシアキの言葉を聞いたアキはパァと表情を明るくし、嬉しそうに返事をした。

結局、管理局本局に着くまでの間、トシアキはアキの部屋で一緒に寝る羽目になったのである。



***



管理局本局に到着したアースラ。

なのはは治療のため病棟がある建物に運ばれて行った。

その様子を心配そうに見つめるフェイト。

「フェイト、心配なら行ってやれ。 アースラでも付きっきりだったんだろ?」

「兄さん・・・・・・」

後ろからトシアキに声をかけられたフェイトはそう言ってトシアキを見上げる。

「ほら、早く行かないと見失うぞ?」

「うん。 行ってくる」

フェイトはなのはを追いかけてそのまま走って行った。

「兄様、彼女は・・・・・・」

「あぁ。 アキには言ってなかったな。 半年前の事件で家族がいなくなって、俺が変わり家族になろうって提案したんだ。 もっとも、返事はまだ貰ってないけどな」

苦笑しながらそう言ったトシアキ。

「そうでしたか。 でも、きっと大丈夫ですよ兄様」

「ん? 何がだ?」

「彼女が裁判を受けた時に管理局の戸籍に登録した名前・・・・・・私も執務官として拝見したんですが」

そう言いながら先を歩きだすアキ。

「『フェイト・T・シキシマ』で登録してましたよ」

「・・・・・・・・・そっか」

アキの言葉を聞いて、安心したように微笑んだトシアキ。

そんなトシアキを見て、アキは心の隅で思っていたことを口にだす。

「兄様が彼女を義妹にしたのは・・・・・・私の代わりとしてですか?」

「んなワケないだろ。 あいつが・・・・・・フェイトが心配だったからだ」

「そうですか。 それを聞いて少し安心しました。 私も彼女と家族になれるように頑張ってみます」

振り返ってトシアキにそう言ったアキ。

「あぁ、頼むな。  アキ」

トシアキの笑顔を見て、自分の判断が正しかったと理解したアキは再び前を向いて歩きだす。

「それでは提督のところへ向かいましょう」

「そうだな」

アキを先頭にトシアキと二人で提督の部屋へ向かうことになった。

しばらく歩いてたどり着いた扉の前で立ち止ったアキ。

「ここです、兄様」

「・・・・・・なんか、緊張するな」

あまり偉人や有名人に対して興味のないトシアキでも、実の妹を助けてもらった相手には些か緊張するようであった。

「失礼します」

アキがそう言って部屋に入る。

続いてトシアキも入室し、そこで見た人物。

「ん? おぉ、アキ君。 どうしたのかね?」

「グレアム提督、私がずっと探していた兄様を連れてきました」

髭を顔のまわりに生やした男性が猫耳と尻尾を付けた二人の女性と談笑している姿だった。

「そうか。 彼がそうなのか」

「はい」

「・・・・・・」

そんな風に和やかに話す二人を見て、緊張してした自分が馬鹿らしくなったトシアキであった。

「君がアキ君の兄君かね?」

「あ、あぁ。 敷島トシアキという。 妹が世話になったそうで、感謝する」

そう言って頭を下げたトシアキに鬚を生やした男性――ギル・グレアム提督は微笑みながらトシアキを迎え入れた。

「はははっ・・・・・・なに、立ち話もなんだ。 こちらに来て座りなさい。 ロッテ、アリア、客人に何か飲み物でも」

「はい、父様」

「・・・・・・」

グレアムはそばに立っていた二人の猫耳を生やした女性――リーゼ・ロッテとリーゼ・アリアにそう言って指示をだす。

髪が短めのロッテは頷いて部屋の奥へ向かって行ったが、髪が長めのアリアはトシアキをジッと無言で見つめていた。

「なにか?」

「・・・・・・いえ、何でもないわ」

視線が気になって尋ねたトシアキにアリアはそれだけ言ってロッテのところへ立ち去って行く。

そのままグレアムが座る対面に座ったトシアキとアキ。

「アキ君がずっと君のことを探していたのだよ」

「あぁ、アキから直接聞いた。 あんたは何でアキを助けてくれたんだ?」

見知らぬ世界の見知らぬ人物を助けたグレアムに対してそう尋ねるトシアキ。

「本当に偶然だったのだよ。 あの星が滅んでしまう少し前に私の部隊が調査をしていてね。 前線で指揮を執っていた私が森の中で倒れているアキ君を保護したのだよ」

確認するようにアキに視線を向けたトシアキ。

アキも頷いてその事実を確認した。

「本当は治療してもとの星に還すつもりだったのだが・・・・・・」

「私たちの星は戦争による膨大なエネルギーの使用により、人が住めるような環境ではなくなってしまったのです」

グレアムの言葉を引き継いでアキが淡々とそう話す。

「そうだったのか・・・・・・」

「あの星は地球と同じく管理外世界だったのでね。 何度か調査に行っていたのだが、まさかあんなことになるなんて思わなかったよ」

グレアムがそこまで話したところでロッテとアリアが紅茶を入れたカップを奥の部屋から運んできた。

「・・・・・・」

アキの前にはロッテが置き、トシアキの前にはアリアがそれぞれカップを置く。

そのとき、視界の隅で揺れ動く猫の尻尾に思わず手を伸ばしてしまったトシアキ。

「はにゃっ!?」

尻尾を掴まれたことに驚いたアリアは素っ頓狂な声をだした。

「あ、悪い。 つい手が・・・・・・ぶっ!?」

「兄様!?」

トシアキが最後まで言葉を発する前にアリアがトシアキの腹部に魔法を放った。

そして、直撃を受けたトシアキはそのまま後ろへ吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

「今度やったら吹っ飛ばすって言ったわよね?」

「ってて・・・・・・今度やったらって、俺とお前は初対め・・・・・・」

そこまで言って、前に公園で猫と会話したことを思い出したトシアキ。

「あのときの話す猫か!?」

「今、気付いたの? てっきり、魔力の反応でわかってるんだと思ってたわ」

そう話すトシアキとアリアをグレアムとロッテが唖然とした表情で見ている。

「いや、全く気付かなかった。 ん? 待てよ、ということは・・・・・・」

「スパイダー、起動」

いろいろと思いだしてきたトシアキだが、感情が込められていないアキの声で考えが中断された。

「・・・・・・アキ?」

「いくら私の師匠でも、兄様を攻撃するのなら容赦しません!」

デバイスを起動させ、漆黒のバリアジャケットを着こんだアキがアリアに向かってそう言い放つ。

「ち、ちょっと待って! あのときならいざ知らず、私たちの技を覚えたアキには勝てないって!」

アキにデバイスを向けられたアリアは焦ったようにそう言いながら、グレアムとロッテに視線を向ける。

しかし、グレアムもロッテも怒ったアキに関わりたくないのか、見て見ぬ振りをしていた。

「問答無用! 兄様の受けた痛み、思い知りなさい!」

「く!?」

アキのデバイスから延びる魔法の糸をシールドで防いだアリア。

しかし、すぐ様アキはアリアの傍まで近付き、ロッテ直伝の攻撃を繰り出す。

「きゃっ!?」

シールドを破られ、壁際まで吹き飛ばされたアリアはその場に腰をおろして、怯えた様子でアキを見つめる。

「アキ。 ストップだ」

「・・・・・・兄様?」

そんな様子を見ていられなくなったトシアキはアキに対して言葉を掛ける。

アキも兄の声が聞こえたようで、今までの雰囲気を取りはらい、トシアキに視線を向ける。

「俺が悪かったからいいんだ」

「ですが!」

「アキ」

なおもアリアに対して攻撃をしようとするアキだが、再びトシアキに名前を呼ばれて思いとどまる。

「・・・・・・わかりました。 兄様がそう言うなら」

デバイスを仕舞い、バリアジャケットを解除したアキはトコトコと座っていた場所に戻る。

「悪かった。 俺の妹が・・・・・・」

「・・・・・・」

倒れていたアリアに手を差し出したトシアキだが、アリアは手を取ろうとはせずジッとトシアキを見ている。

「どうした?」

「あ、ありがと・・・・・・」

トシアキの言葉に我に返ったアリアはゆっくりとトシアキの手を取り、立ち上がる。

トシアキの手を取ったときに一瞬殺気を感じたアリアだが、立ち上がって手を離すとそれもなくなったのでホッとしたアリアであった。

「すまない、部屋を滅茶苦茶にしてしまった」

トシアキも元いた場所に戻り、呆然とこちらを見ていたグレアムに対してそう謝罪する。

「あ、あぁ。 構わんよ。 それにしても驚いたな、アキ君がそんなに怒るところを見たのは初めてだよ」

「私も。 アキの師匠は一年半ほどしたけど、無表情で取り組むことばかりだった」

「そうか・・・・・・」

グレアムとロッテの言葉に複雑そうに表情を顰めるトシアキ。

「君に出会えたことでもう管理局にいる理由がなくなったわけだが、アキ君はこれからどうするのかね?」

「はい、私は兄様に従うともりですので・・・・・・」

そう言ってトシアキに視線を向けるアキ。

「アキ。 別に俺のことなんて気にしなくていいんだぞ? ここではかなりの地位にいるみたいだし、アキが気に入ってるなら・・・・・・」

「私は兄様と一緒にいたいです。 一緒にいるためなら管理局も辞めます」

はっきりと意思を示したアキにトシアキは苦笑しながら頭を撫でる。

「俺も一緒にいたいけどな、今の俺は無職だ。 前の管理局での仕事の金が残ってるうちはいいが、それも長くは・・・・・・」

「では、私のお金を使いましょう。 贅沢しなければ二人で生活していくことはできます」

アキは執務官として働いてから、必要以上にお金を使わなかったので、かなりの金額が貯まっているのである。

「いや。 妹に養ってもらうのは少し抵抗が・・・・・・」

「兄様は何もしなくてもいいんです! 私のそばにさえいてくれれば」

二人の会話に口を挟めなくなったグレアム。

アリアもそんな会話をしているトシアキをジッと見つめている。

ロッテはどうしていいか分からず、とりあえず散らかった部屋の片付けをすることにしたようだ。

「ゴホン! それではどうかね? 兄君が管理局に入るというのは」

トシアキとアキの会話を中断させるためワザとらしく咳をして、そう提案したグレアム。

「提督であるアンタにこう言うのはなんだが、俺は管理局をあまり信用してないんだよ」

「ふむ。 まぁ、不穏な動きをしている者たちも確かにいるがね。 しかし、君は先ほど管理局での仕事と言わなかったかね?」

グレアムにそう言われて苦笑しながら頭を掻いたトシアキ。

「あぁ~。 アレはフリーの魔導師として雇われただけだから」

「なるほど。 組織に属するのは嫌だが、短期契約なら構わないということかね?」

トシアキの言葉を聞いて、自分なりに話をまとめたグレアム。

「まぁ、そういうことかな。 契約金によって、俺のやる気や忠誠心がかわるけどな。 もともと人に指図されるのが嫌いなんだよ」

「それは確かに、組織の中でやっていくのは難しいだろう。 なら、今回は私と短期契約してみないかね? もちろん、契約金は保障しよう」

グレアムのその言葉に眉を顰めるトシアキ。

隣に座っていたアキも少し驚いた顔をしてグレアムを見る。

「アンタほどの階級の人間ならわざわざ雇わなくても部下がいるんじゃないのか?」

「そうなんだがね。 私が今回頼もうとしていることは極秘に、しかも独断でやろうとしていることなのだよ」

「「父様!?」」

グレアムがトシアキの言葉に返答した内容を聞いて、今まで黙っていたアリアとロッテが声をあげる。

「・・・・・・なるほど。 知ってるのはアンタと使い魔である二人だけなんだな?」

「あぁ。 長年ここに勤めているのだが、一つだけ心残りがあってね。 この仕事が終わったら引退するつもりなのだよ」

そう言って俯いたグレアム。

過去に何かあったのだと推測したトシアキだが、詳しいことは聞かないことにした。

「わかった。 アキを助けてくれたアンタの頼みだ。 引き受けよう」

「それでは私も協力いたします」

短期契約を受けることにしたトシアキとそのトシアキを手伝うことにしたアキ。

「そうか、やってくれるか。 それでは今回依頼する内容だが・・・・・・」

そこでグレアムとトシアキの契約が成され、再び管理局を手伝うこととなったトシアキ。

そこで話された内容は誰にも聞かれることはなく、秘密裏に行われることとなった。



~おまけ~


なのはは目覚めてすぐにフェイトとともにレイジングハートとバルディッシュの修理の様子を見ていた。

「バルディッシュ、ごめんね。 私の力不足で・・・・・・」

「いっぱい頑張ってくれてありがとね、レイジングハート・・・・・・」

二人で自分たちのデバイスにそう語りかける。

「ねぇ、そういえばさぁ。 あの連中の魔法ってなんか変じゃなかった?」

一緒にいたアルフがユーノとクロノにそう話しかける。

「あれは多分、ベルカ式だ」

「ベルカ式?」

クロノの言葉に首をかしげながら繰り返し呟くアルフ。

「その昔、ミッド式と勢力を二分した魔法体系だよ。 最大の特徴はデバイスに組み込まれたカートリッジシステムかな」

「かーとり? しすてむ?」

「カートリッジシステム。 儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで一時的に爆発的な破壊力を持たせるんだ」

ユーノが詳しくアルフに説明するが、本人は理解できてないようで首を傾げたままである。

「フェイト、そろそろ時間だ」

「うん、わかった」

「なのは、君もちょっといいか?」

クロノにそう呼ばれ、フェイトとなのはは先に歩いて行ったクロノのあとについて行く。

「ここだ」

着いた扉の前でノックしようとしたとき、突然扉が開いた。

「っと! あれ? クロノにフェイト、なのはじゃないか」

開いた扉からトシアキとアキが姿を見せた。

「トシアキ。 君がどうしてここから」

「あぁ。 あの人にアキを助けてもらった件に対してお礼を言いにな」

そうクロノに言って、なのはに視線を向けるトシアキ。

「なのは、元気になってよかった。 ごめんな、助けに行けなくて」

なのはに視線を合わるようにしゃがみ込んで、頭を撫でながら言ったトシアキ。

「だ、大丈夫です。 元気になりましたし」

「そうか。 今度、何かあったら呼んでくれ。 駆けつけるからな」

「はい」

頭を撫でられたなのはは少し嬉しそうに微笑みながらトシアキに返事をする。

「フェイトも何かあったら言えよ?」

「うん、兄さん」

フェイトに対しても頭を撫でたトシアキはそのままアキを連れて歩いて行った。

「・・・・・・さて、気を取り直して入ろうか」

「ねぇ、フェイトちゃん。 トシアキさんと話してたとき、寒気がしなかった?」

「あ、私も感じたよ。 なのはも感じたんだ?」

クロノが部屋に入ろうとするが、なのはとフェイトが話だして、再び入る機会を失われてしまったクロノ。

「・・・・・・・・・もう、いいか?」

「あっ、ごめんなさい。 クロノ君」

「クロノ、ごめん」

それから三人はようやく部屋に入り、そこにいたグレアムとフェイトの今後の処遇について話しあうことになった。



~~あとがき~~

管理局本局でのお話はこれで終了です。
次は地球に戻り、ヴォルケンズとの戦いが始まります。
(あっ、その前にフェイトの転校手続きが・・・

ようやくAs編に突入することができ、読んで頂いてる方々の数も増えて(?)いるので嬉しく思います。
これからも、こんな感じの作品ではありますが、最後までお付き合い頂けたらと思います。
次回の作品でまたお会いしましょうw



[9239] 第二十.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/13 18:23
地球とは全く違った世界。

科学が発達せず、人間が自然とともに生きている場所がある。

そこでは科学がないかわりに『魔法』というものが存在する。

『魔法』は自然世界に存在する『精霊』の力を借りて使用するものであった。

よって、この世界に生きる人間たちは『精霊』の存在を信じ、『精霊』の気配を感じることによって、『魔法』を使用するのである。

「敷島アサ・・・・・・この国の建国者。 凄い、この人は自分の力で世界を行き来することが出来たんだ」

誰もいない静かな部屋の中で、長くて美しい黒い髪を後ろで束ねている小さな少女が本を開いてそう呟いていた。

「この力があれば、兄様を探すことが・・・・・・」

本の中をジッと見つめる少女はそう言ったあとに深いため息を吐く。

「ふぅ・・・・・・ダメ、私には『魔法』が使えない」

残念そうに言った少女はすぐに別の本を開き、新たに中を読み始める。

「『魔法薬』なら・・・・・・・・・そんなの、今から勉強してたら何年掛るか分からない」

首を左右に振って諦めた少女は本をパタンと閉じ、天井を見上げる。

「兄様、一体どこに行ってしまわれたのですか・・・・・・」

天井を見つめる少女の目から涙が零れ落ちる。

「父様も先日、死んでしまわれました。 母様はそれ以来、様子がおかしいのです。 兄様・・・・・・・・・私はどうしたらいいんですか?」

数週間前に突如、この国に現れた謎の怪物。

国王であった少女の父親は前線に立って戦い、その時に受けた怪我がもとで数日前に死んでしまった。

そして、王位継承者であった少女の兄も、その時の戦いで怪物とともに姿を消してしまった。

「兄様・・・・・・・・・アキは寂しいです。 兄様がいないと、私は・・・・・・」

その戦いで兄の死体が発見されなかったため、少女――アキは兄が今でも何処かで生きていると信じているのであった。

「申し上げます!!」

その時、静かな部屋に突然現れた鎧を纏った兵士。

「な、何事ですか?」

「アキ様の母君が反乱を起こしました!」

「そ、そんな・・・・・・母様が・・・・・・」

本来、国を継ぐのはその王の子供であるのだが、アキは体質なのか、生れたときから『魔法』を使うことが出来なかった。

それどころか、『精霊』の気配を感じることもできない。

そんな子供に国を任せられないと、母親以下、国の重鎮たちが反乱を起こしたのである。

「事は一刻を争います、すぐにお逃げください!」

その兵士は次期国王になる者を守る近衛兵であり、アキの兄を警護していたことがあった。

「だ、だけど・・・・・・」

「アキ様が死んでしまうことになると、私たちがトシアキ様に怒られてしまいます」

逃げることに躊躇いをみせていたアキだが、兄の名前を聞いて決心する。

「・・・・・・私が逃げたあと、あなたたちはすぐに降伏してください。 母様も命までは取らないはずです」

自分を逃がしてくれようとする兵士にそう言ったアキだが、言われた兵士はその言葉を受けて首を左右に振る。

「いえ、私たち近衛兵はトシアキ様を守ることが使命でした。 しかし、前回の戦いでは役に立てず、トシアキ様が行方不明になるという結果を招くことに・・・・・・」

「・・・・・・」

跪き、頭を下げながら言葉を続ける兵士にアキは黙ったまま聞き届ける。

「ですから私たちは汚名を背負ったまま生きていくわけにはいきません。 アキ様がなるべく遠くへ逃げられるよう、最後の一人まで全力で戦い抜くつもりです」

「そんな・・・・・・『魔法』が使えない私なんかのために・・・・・・」

そう言ったアキに下げていた頭をあげた兵士はニコリと微笑む。

「そんなことは関係ありません。 私たちが守るものは次期国王様なのですから。 そして、現在の次期後継者はアキ様なのです、理由はそれで十分です」

「っ!!?」

今まで自分のことを誰も、兄であるトシアキ以外誰も見ていないと思っていたアキにとって先ほどの言葉は驚くことであった。

「さぁ、この部屋の避難通路はこちらです」

そう言って一つの本棚を倒し、そこにあった小さな扉を指し示す兵士。

「わ、わたし・・・・・・」

「我ら近衛兵二百名、アキ様が無事に脱出できるよう奮闘いたします!」

何かを言おうとするアキの言葉を遮って、兵士はその場で敬礼をして立ち去って行った。

「・・・・・・」

残されたアキはしばらくその場から動くことが出来なかった。

アキが我に返ったのは、城のあちこちで爆発する音が聞こえてきたときであった。

「っ!? に、逃げなきゃ・・・・・・」

そう呟いたアキは散らばる本を避けながら小さな扉を開く。

薄暗い一本道の通路がそこにはあり、壁の隙間から僅かに除く光が足元を照らしていた。

「・・・・・・」

最後にもう一度、自分がいた部屋を振り返り、目を閉じたアキ。

次に目を開いたときのアキの表情はまるで仮面を被ったように無表情になっていた。

「・・・・・・・・・さようなら、父様。 そして、母様」

ここには居ない二人に別れを告げ、アキは薄暗い通路を歩いて進む。

しばらく進むと上に昇る階段があり、その先には明るい光が何かに遮られている。

「ここ、でしょうか・・・・・・」

慎重に、そしてゆっくりと階段を昇ったアキは光が遮られている何かを力一杯押し上げる。

「ん、しょっ!」

可愛らしい声とともに障害物を退けたアキ。

今まで遮られていた光がアキを照らし、反射的にアキは目を閉じてしまう。

「っ!?」

光になれてきたところ目を開くと、城から少し離れた位置にある墓地がアキの目に入ってきた。

「お墓ですね」

まわりを見渡してそう言ったアキ。

城の方を見ると、あちこちから煙が上がっており、風によって焼けている匂いが微かに届けられる。

「・・・・・・・・・」

悲しそうな目で城を見つめたあと、背を向けて遠くへ行こうとするアキ。

「あっ・・・・・・」

その時に足元に転がる大きな石が目に入った。

それは自分が地上に出てくるときに退けた障害物であり、その石には沢山の名前が刻まれていた。

「父様・・・・・・兄様・・・・・・」

この国の王族の名前がその石には刻まれており、その中には先日亡くなった父親と、行方不明になっている兄の名前も刻まれていた。

「・・・・・・」

アキはその石を元の位置に戻して、手を合わせて静かに目を瞑る。

そして、今度こそ城に背を向け、道なき道を進んで行くアキであった。

「ここはどこでしょうか?」

宛もなく進んでいたアキであるが、自分が何処にいるのか分からないのであった。

「長時間歩いたとは記憶していますが、何も持っていないのでわかりません」

普段から着飾ることをしないため、着ている服は動きやすい服装である。

しかし、まさかこんなことになるとは思っていなかったため、アキは何も持っていなかった。

「唯一あるのはこれだけですが・・・・・・」

そう言って首から下げている銀色に輝く十字架を取り出す。

それは王族であるものが身につけているものであった。

ちなみに兄であるトシアキも首からアキと同じものを下げている。

「とりあえず、もう少し歩いてみましょう」

アキは『魔法』を使うことが出来ないが、体力や身体能力はもの凄く優秀であった。

そのため、子供ながらにして長時間歩いても平気であった。

「・・・・・・」

だがしかし、やはりずっと歩きっぱなしというのは辛かったようで、アキは呼吸を荒げながら、額の汗を拭う。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

ついに足を止めたアキはそばにあった大きな木に背を預ける。

「やはり辛いですね・・・・・・お腹も空いてきました」

道なき道を歩いていたため、今まで誰一人として出会うことはなかった。

だが、それが逆に空腹なアキを苦しめる。

「あぅ・・・・・・誰もいないので、食べ物を買うこともできません」

可愛らしく鳴ったお腹を押さえつつ、肩を落とすアキ。

草木が生い茂っている場所を歩いていたため、身体のあちこちに擦り傷や切り傷もある。

「なんだか、身体がフラフラしてきました・・・・・・」

大きな木に背を預けていたアキだが、いつの間にか身体が勝手に左右に揺れる。

「・・・・・・兄様」

そう言ったあと、アキの身体は地面に倒れこみ、アキ自身も意識を失ってしまった。



***



モニターが左右に表示されており、そのモニターを眺めながら一人の男性が唸り声をあげていた。

「むぅ・・・・・・」

「どうしたんです? 父様」

そこに短めの髪に猫耳を生やした女性がお茶を持って近づいてくる。

「おぉ、すまんね、ロッテ。 実はこの星についてなのだが・・・・・・」

短めの髪の女性――リーゼ・ロッテからお茶を受け取った男性は、そう言いながら見ていた画面を指す。

「これは・・・・・・・・・一ヶ所にエネルギーが集中している?」

画面を見ながら呟いたロッテに頷いて見せる男性。

「そうなのだ。 これが何の力によるものか分からなくてね」

お茶を飲みながらそう言った男性。

「あたしも詳しいことはわからないよ、父様。 アリアに聞いてみたら?」

「うむ、そう思って先ほど連絡したのだが・・・・・・」

「失礼します。 父・・・・・・グレアム提督」

男性――ギル・グレアムの言葉を遮って室内に入ってきた女性。

その女性はロッテと同じく猫耳を生やしており、顔もそっくりであった。

唯一違うのは、髪の長さと雰囲気だろうか。

「おぉ、来たかねアリア。 実はこれを見てもらいたいのだが・・・・・・」

ロッテよりも髪が少し長い女性――リーゼ・アリアはロッテとは双子であり、グレアムの使い魔である。

「はい、提督」

「アリア、ここにはあたしたちしかいないんだから呼び方なんて気にしなくてもいいのに」

ロッテがそう言うが、アリアは首を振って答える。

「規則は守らないと。 私たちだけならともかく、提督にまで迷惑がかかるかもしれないのよ?」

「相変わらずだねぇ」

アリアの言葉を受けてもロッテは気にした様子もなく、尻尾を振りながらソファに座る。

一方、アリアはロッテを半ば無視しつつ、グレアムが指す画面を覗き込む。

「これは、何かのエネルギーですか?」

「それがわからないのだよ。 科学によるものなのか、自然によるものなのか、それとも『魔法』によるものか」

自然によるものならば放っておいても問題はないのだが、科学や『魔法』によるものだと少々話は変わってくる。

「この星は何度か調査をしているので、データはある程度揃っています。 確か、科学が全く発達してない星だったのでは?」

「その通りだ。 そして、今回が定期調査の日だったのだがね、こんな状態でどうするものかと悩んでいたのだよ」

グレアムは自分が座っている椅子に背をもたれかけ、深くため息を吐く。

「確かに、科学や『魔法』が原因だとすると、次元震が起こる可能性がありますね」

「だったら、あたしたちで原因を調べてこようか?」

画面を見ながら悩むグレアムにソファに腰かけたロッテがそう言う。

「あたしとアリアの二人なら大抵のことは大丈夫だし、そこら辺の奴らに遅れをとることもないよ?」

「そうね。 父様、私たちで調査してきますので許可を・・・」

そこまでアリアが言ったところで、グレアムが待ったを掛ける。

「それは許可出来ん。 あのときのように部下を失うようなことは避けたい。 それが家族ならなおさらだ」

「「父様・・・・・・」」

使い魔の二人はグレアムの気持ちがわかり、俯く。

「・・・・・・でも、調査しないとダメなんでしょ?」

「だから、私が行こうと思う。 そこで二人には私が留守の間、この艦を任せたいのだ」

ロッテの言葉にグレアムがそう答えるが、今度は使い魔の二人から待ったが掛った。

「そんなっ!? 父様をそんな場所に一人で行かせることなんてできません!」

「アリアの言う通りだよ! 父様こそ、ここに残って留守番してて!」

自分たちの主が独りで未知の場所に行こうとしているのを止める。

「・・・・・・仕方ない。 ロッテ、私とともにあの星に降りて調査を。 アリアは艦に残って色々と調べてくれ」

「「・・・・・・はい、父様」」

どれだけ言ってもグレアムは調査に行くだろうと考えた二人は、片方がついて行くことで妥協することにした。

それからグレアムとロッテは問題の星に転送され、二人で調査を行うことにした。

「ここがあの星か・・・・・・自然が溢れてて空気が澄んでいるな。 私の故郷を思い出すよ」

「うん、本当に空気がキレイ・・・・・・父様の星もこんな場所だったの?」

「私が若いころの話だがね。 今はこんな空気を味わえる場所は少ないだろう」

自分の住んでいた地球を思い浮かべながらそう話すグレアム。

「さて、問題のエネルギー源だが・・・・・・」

「それらしいものは見当たらないね」

話を切り替え、調査しに来た謎のエネルギーを調べる二人だが、あたりには何も見当たらない。

「かなりの広範囲だったから、ここじゃないのかも?」

「そうかも知れん。 もう少し進んでみよう」

ロッテの言葉に頷いたグレアムは慎重に草木をかき分けながら、進んで行く。

「っ!? 父様、待って。 人の気配がする・・・・・・」

先に進んでいたグレアムに後から付いてきたロッテがそう言って呼びとめる。

「人数は?」

「一人。 でも、何か呟いているみたいだよ」

グレアムの問にピクピクと猫耳を動かしながらそう答えたロッテ。

「何を言っているのか、聞こえるかね?」

「食べ物・・・・・・身体・・・・・・兄様・・・・・・」

「それだけじゃわからないな」

ロッテが拾った声の内容を聞いたグレアムが首を傾げ、意味を探ろうとする。

「っ!? 父様! 倒れる音がしたよ!」

「むっ、行ってみよう」

グレアムとロッテは声が聞こえた場所に向かう。

そしてその場所にいたのは、身体中に怪我が負っている幼い少女であった。

「父様! 意識がないよ!」

「いかん。 調査を中断して、艦に連れて帰ろう。 アリア聞こえるか? すぐに転送を――」

そうして、幼い少女――アキは意識がない状態でロッテに抱えられたまま、管理局の艦に連れていかれた。

ベッドに寝かされていたアキが目を開けたのはそれからしばらくしてのことであった。

「・・・・・・・・・ここは?」

「気がついたかね?」

意識が朦朧としているアキの横でグレアムがそう声を掛ける。

「・・・・・・誰ですか?」

「私はギル・グレアム。 時空管理局の局員だ」

「じくう、かんりきょく?」

可愛らしく首を傾げるアキを後目にして、グレアムはロッテに呼びかける。

「ロッテ、食事を」

「はい、父様」

傍に控えていたロッテが手に持っていた簡単な食事をアキの前に差し出す。

「さぁ、これでも食べて元気をだしな」

「・・・・・・」

差し出された食事を見てゴクリと喉を鳴らすアキだが、手をつけようとはしない。

「? 食べないのかね?」

手をつけようとしないアキにグレアムはそう尋ねる。

「その前に、じくうかんりきょくとはなんですか?」

「食べてから説明しようと思っていたのだが・・・・・・」

「・・・・・・信用できない人からの物は貰えません」

無表情に、しかし決意を込めた目でグレアムを見つめ、そう言ったアキ。

「あんた! 父様がせっかく・・・・・・」

「ロッテ。 いいんだ」

「っっ!?」

アキに掴みかかろうとしたロッテだが、グレアムの声で踏みとどまる。

「では、簡単に説明しよう。 時空管理局とは――」

そうして、グレアムは簡単に管理局の存在する意味、活動する内容を話す。

「・・・・・・なるほど。 それで、私のいた星を調査しているときに倒れている私を見つけてくれたのですね」

「そうなるね。 本来は管理外の世界の住人と接触するのは禁止されているのだが、君を放っておけなくてね」

そう言ってアキを見るグレアムは孫を心配するような老人のようであった。

「・・・・・・助けていただいて、ありがとうございます」

「私が勝手にしたことだ、気にしないでくれ。 さぁ、食事を。 空腹だったようだが、大丈夫かね?」

頭を下げるアキに微笑みながらそう言ったグレアムは、アキに食事を進める。

「では、いただきます・・・・・・」

アキは先ほどの説明で安心したのか、目の前にある食事を美味しそうに食べる。

そこへ、血相を変えたアリアが現れ、大声でグレアムに呼びかける。

「と、父様!」

「どうしたんだ? アリア」

慌てた様子のアリアに、グレアムもただ事ではないと真剣は表情をする。

「あ、あの星が!!」

そう言って近くにあったモニターを触り、画面を表示させる。

「「っ!?」」

それを見たグレアムとロッテも驚いて、顔を強張らせる。

なんと、緑溢れていた星が段々と土色に変色していたのだ。

それも、調査しようとしていた謎のエネルギー源を中心にどんどんと広がっていく。

「一体なにが起きているんだ!?」

「わかりません、さっきからずっとこんな感じで・・・・・・」

そうしているうちに、星全体が緑色から土色に変わってしまった。

「・・・・・・自然が枯れ果て、砂漠になったように感じるな」

「そう、ですね。 そんな印象を受けます」

「生命反応・・・・・・なしだよ」

グレアムの言葉にアリアが同意し、映像を詳しく調べていたロッテがそう報告する。

「あの・・・・・・一体、どうしたんですか?」

食事に夢中でアリアが現れたことに今、気がついたアキがそう尋ねる。

「・・・・・・君が先ほどまでいた星が、たったいま、滅んでしまったのだ」

「っ!? そ、そんな!!?」

ショックを受け、落ち込んでいるアキに言葉を掛けるグレアム。

「君には辛い思いをさせてしまったようだ。 自分の生れた星が滅んでいくのを見ることに・・・・・・」

「で、でも、私は助かりました」

グレアムの言葉を遮って、自分が生き残れたのは助けてもらったからだと主張する。

「何も知らずに、生れた星と死んでしまうほうが幸せだったのかもしれない。 あそこには大切な家族がいたのだろう?」

「家族・・・・・・」

家族という言葉にアキは自分を見てくれなかった父親、怒ってばかりいた母親を思い浮かべる。

そして、最後に行方不明になった兄の顔が浮かんできた。

「・・・・・・・・・家族はまだ、生きてます」

「ん? どういうことかね?」

アキの言葉に疑問を抱いたグレアムが問いかける。

先ほど調べた結果では生命反応がなかったのだ、家族が生きているというのはおかしい。

「実は――」

アキは実の兄が行方不明になったこと、そして他の世界で生きているかもしれないことを伝えた。

「そうか・・・・・・稀に異世界に飛ばされてしまうことは確かにある。 もしかしたら、君の兄君はどこかで生きているかもしれないな」

アキの説明を聞いたグレアムがそう言って頷く。

「ならば、管理局に入らないか? 管理世界にいる可能性も十分にあるだろう」

「でも、私。 『魔法』が使えません」

先ほどグレアムから受けた説明で管理局員は『魔法』を使用することを聞いていたのだ。

しかし、アキは今まで『魔法』を使えたことがない。

「いや、あんたは使えるはずだよ。 最初の検査で分かったんだけど、ランクはSSだ。 訓練次第でどうにでもなる」

横で話しを聞いていたロッテがそう言う。

「私も、『魔法』が・・・・・・」

『魔法』を使いこなす兄が憧れであったアキは自分も兄のようになれるのかと、嬉しそうに微笑む。

「どうするかね? 管理局に入らなくても私が出来る限りのことはしてあげるが」

「いえ、私が自分で兄様を探します。 そのために管理局に入ります」

決意したアキの言葉を聞いてグレアムは頷く。

「うむ、私もできる限りの協力はしよう。 ロッテとアリアに戦闘技術と魔法技術を教わりなさい」

「父様がそう言うのなら協力するわ」

「覚えるまで何度もするから、覚悟しときなよ?」

アリアとロッテがそれぞれそう言って、アキの訓練を手伝うことになった。

「はい。 お願いします」

「そういえば、名前を聞いてなかったよね?」

アリアに言われて気がついたアキは姿勢を正し、頭を下げて自己紹介をする。

「敷島アキです。 これからよろしくお願いします、師匠」

そうして、アキは管理局に入る前の一年半ほど、ロッテとアリアに戦闘技術と魔法技術を教えてもらい、見事に最年少執務官として入局することになる。



~おまけ~


グレアムがアキに管理局について説明し終えたあと、アキは自分が着ている服が変わっていることに気がついた。

「そう言えば、私の服は?」

「あぁ。 汚れていたので、着替えさせてもらったよ」

その答えを聞いたアキは少し頬を赤らめ、顔を俯かせて静かに涙を流す。

「ど、どうしたのかね!?」

そんなアキを見て、なにかしてしまったのかと焦るグレアム。

「そんな・・・・・・知らない男性に、私の体を見られるなんて・・・・・・」

「・・・・・・」

涙を流しながら呟くアキの言葉を聞いて、グレアムはホッと安心する。

「なんだ、そんなことか。 それなら・・・・・・」

「そんなこととはなんですか!?」

グレアムの言葉を遮って、アキは俯いていた顔をあげてグレアムを睨みつける。

「私の体は兄様のものだったのに・・・・・・・・・兄様、私は穢されてしまいました」

ここにはいない兄に涙を流しながらそう報告するアキ。

「着替えさせたのは私じゃなくて、ロッテなのだが・・・・・・」

それからグレアムが誤解を解くのにしばらく時間が掛ってしまったのであった。



~~あとがき~~

更新しました。
はい、また中途半端な題名で申し訳ありません。

グレアムとアキの出会いを書いておいた方がいいかなぁ、と考えているといつの間にか書いちゃいましたw
少し無茶な話の繋げ方ですが、勘弁してください。
私としましてはこれが限界ですorz

次回こそは主人公たちが地球に帰ってヴォルケンズとのお話(戦闘)を書きます。
それまで、この二十.五話で我慢してくださいww

では、次回の作品で再びお目にかかれることを願って、また会いましょうw



[9239] 第二十一話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/13 18:48
トシアキとアキの兄妹はグレアム提督との話を終えて本局内を歩いていた。

その際、最年少執務官であるアキに対して、慌てて敬礼する職員が見られたが、本人は特に反応もせず、トシアキとともに歩いていた。

「・・・・・・おい、アキ」

「なんです? 兄様」

慌ただしく敬礼した職員の横を通り過ぎてから、隣に並ぶアキに話かける。

「あの職員、お前に対して敬礼してたろ? 返さなくてよかったのか?」

「そんなことをしていたら目的地到達まで何時間もかかります。 上官である私が返礼する必要はありません」

アキの言葉に、そう言えば自分ももとの星にいた時は頭を下げる人たちに対して特に何もしなかったな、と思いつつ納得して頷くトシアキ。

「あれ? トシアキじゃん」

すると、通りかかった休憩所から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ん? あぁ、アルフとイタチ少年か」

「僕はイタチじゃありません!」

飲み物片手に話していたアルフとユーノが通り掛かったトシアキに声をかけたのだ。

「間違えた。 確かフェレ・・・・・・」

「ユーノ・スクライアです! 変身形態の呼称で呼ばないでください!」

必死にそう言うユーノに傍にいたアルフも苦笑気味であった。

トシアキに対して怒鳴るユーノをアキが静かに睨みつけるが、特に行動は起こさなかった。

「悪かった。 ユーノ、それからアルフ。 お前たちはここで何をしてるんだ?」

「フェイトとなのはのデバイスの様子をさっき見てきて、それからはここで待機中だよ」

「なんでも、リンディさんがアースラスタッフをここに集めているとか聞きましたけど」

トシアキの言葉にアルフとユーノはそれぞれ答える。

そうしていると、見知った職員が何人か集まってきた。

「俺もここにいた方がいいか?」

「たぶん・・・・・・」

居心地が悪そうなトシアキがユーノにそう尋ねるが、ユーノもトシアキの扱いがわからないので、曖昧に頷く。

「トシアキ、ここにいたのか」

すると今度はなのはとフェイトを連れたクロノが姿を見せてトシアキに話しかける。

「君を探して歩いてたんだが、ここにいるのなら都合がいい」

「一体、何があるんだ?」

「すぐにわかる」

そう答えたクロノの後ろからリンディが姿を見せ、休憩所に集まっているメンバーを見て、満足そうに微笑んで頷く。

「うん、皆揃っているわね」

リンディの言葉に談笑していたアースラスタッフたちは姿勢を正し、一列に整列する。

なのはとフェイトも慌てて椅子に座りリンディを見つめる。

ユーノとアルフ、クロノも揃って座りはじめ、なんだか居心地がさらに悪くなったトシアキは隅の方へ行き、壁に背中を預ける。

アキはトコトコとトシアキの隣に並んで、トシアキと同じように壁に背を預けた。

「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア――闇の書の捜索及び、魔導師襲撃事件の調査を担当することになりました」

全員が真剣にリンディの話を聞いている中、トシアキは別のことを考えていた。

(そういえば、結局ジュエルシードは封印されたんだよな。 もしかして、ゲンジが地球に来れない?)

「ただ、アースラが使えないため、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります」

(今から俺が封印した分を解除するか? いや、そうするとここに『歪み』が出来て結局ゲンジが地球に来れない)

考えれば考えるほど、眉を顰めて真剣に悩むトシアキ。

そんなトシアキの表情を、全体を見渡しながら話していたリンディが気付く。

「敷島さん? なにか問題でもありましたか?」

「・・・・・・いや、何でもない。 続けてくれ」

リンディの言葉に全員はトシアキの方を見たが、結局リンディの説明が再開されたため、全員は再び真剣な様子で聞き始める。

「・・・・・・兄様?」

ただ、アキだけが心配そうにトシアキの顔を見つめる。

(ということはやはり、あの依頼通りにしたほうがいいってことだな)

自分の中で結論がでたトシアキはこちらを心配そうな目で見つめるアキの頭を撫でてやり、微笑む。

「なんでもない。 心配するな」

「はい、兄様」

頭を撫でられたことで嬉しさがいっぱいなアキはトシアキに何も聞こうとはしなかった。

「―――ちなみに司令部は、なのはさんの保護を兼ねて、なのはさんの住んでいる街になります」

説明が終ったあとなのはとフェイトは嬉しそうに微笑み合い、これからのことを話しだす。

他のアースラスタッフも任務を言い渡されたのか、休憩室から次々と退出していく。

「敷島さん、少しいいかしら?」

「なんだ? 艦長さん」

壁に背中を預けていたトシアキも休憩所から出て行こうとして、リンディに呼び止められる。

「実は、今回の件でもあなたと契約を結びたいのだけど、いいかしら?」

以前のPT事件でフリーの魔導師として契約したトシアキに今回の事件についても依頼を持ちかける。

「悪い。 実はえぇ~と、なんて言ったかな・・・・・・グ、グリム提督?」

「グレアム提督です、兄様」

グレアムの名前が出てこないトシアキに横からフォローするアキ。

「そう! その提督にすでに依頼を頼まれているんだ。 アキを助けてくれた人だし、お礼も兼ねてな」

「・・・・・・そう、それじゃあ、仕方ないわね」

まさかここでグレアムの名前が出てくるとは思わなかったリンディは、驚きつつも予定していた戦力ダウンにため息を吐く。

「でも、闇の書についての依頼だから協力は出来る。 指揮系統から外れることになるけどな」

「そうなの? なら、助かるわ。 戦力は多い方がいいし・・・・・・アキ執務官も?」

トシアキのそばにいるアキに話を振るリンディ。

「はい、私も提督からの正式な任務です。 詳しいことは話せませんが、兄様と共に就きます」

「そう・・・・・・」

何か思うことがあるのか、そう言って頬に手をあてて考え込むリンディ。

「そうだ、艦長さん。 俺も聞きたいことがあったんだった」

「なにかしら?」

思い出したように手を叩いたトシアキは考え込むリンディに話かける。

「実はフェイトとアキになのはたちと同じ学校に通わせたいんだが、戸籍とか大丈夫かな?」

「えぇ。 アキ執務官はグレアム提督がなんとかしているみたいだし。 フェイトさんについても問題ないわ」

その言葉にホッと安心するトシアキ。

「よかったよ。 俺みたいに戸籍がないならどうしようかと・・・・・・」

「ちょっと待って、敷島さん。 あなた、地球での戸籍はないの?」

トシアキの言葉を遮って、リンディが驚いた様子でそう言う。

「あぁ。 俺の場合、仕事は管理局がらみだし、住んでいる場所は家賃を一年分払ってたから、俺には関係なかったしな」

「・・・・・・・・・わかったわ。 フェイトさんとアキ執務官の手続き、それと、敷島さんの戸籍の件は私がなんとかしておきます」

何かを決心した様子でリンディがそう言うが、トシアキは首を振る。

「俺は同じ場所に滞在する気はないから必要ない。 今までも何とかしてきたしな」

「私も必要ありません」

話を横で聞いていたアキも自分の分の入校手続きはいらないと言う。

「アキ、お前もまだ勉強している年だろ? いい機会だから学校に行けば・・・・・・」

「私は勉強する必要はありません。 執務官になるためにかなりの勉強をしましたので。 兄様が行けというなら行きますが・・・・・・」

そう言いながら上目遣いでトシアキを見つめるアキ。

アキとしては勉強をするよりも、トシアキとずっと居たいという気持ちが大きいようだ。

「・・・・・・わかったよ。 まぁ、執務官になる試験を受けているなら大丈夫だよな」

リンディに確認するような目で話しかけるトシアキ。

「えぇ。 執務官は簡単になれるわけではないので、その試験を合格しているアキ執務官なら大丈夫だと思うわ」

「なら、フェイトの分だけで頼む」

「わかったわ。 それじゃあ、私はこれで・・・・・・執務官が二人もいるならこの事件はすぐに解決しそうね」

トシアキの言葉に頷くとリンディは嬉しそうにそう言って休憩所から去って行った。

「・・・・・・・・・なら、いいんだけどな」

苦笑気味に呟いたトシアキの言葉は隣にいたアキにだけ聞こえ、またアキもそのトシアキの言葉に静かに頷いたのであった。



***



地球に戻ってきたトシアキたちは臨時の作戦本部となる場所を見つめる。

その場所は自分がよく知る場所であり、フェイトやアルフも驚いていた。

「って! ここは俺の家の隣じゃねぇか!」

そう、臨時の作戦本部が置かれたのは現在のトシアキの家であり、PT事件中のフェイトとアルフの隠れ家があったマンションの隣の部屋であった。

「そうなの。 高級マンションの最上階で部屋は広いし、敷島さんの家が隣だからすぐに協力してもらえると思ってね」

そう微笑むリンディに何を言っても意味がないと感じたトシアキは、なのはと楽しそうに話すフェイトに声を掛ける。

「フェイト、お前の部屋はそのままにしてあるから、遅くならないうちに帰ってこいよ?」

「あ、うん。 あとで帰るね、兄さん」

まだどこか遠慮がある様子で頷いたフェイトを後目に、トシアキはアキとともに自分の家である隣の部屋に移動する。

「ここが今の俺の家だ。 アキ、フェイト、アルフそれから・・・・・・」

扉の前でアキに説明しつつ、ドアノブに手をかけたトシアキ。

そのとき突然扉が開き、巫女服を着た少女がトシアキに飛びかかり、胸に顔をうずくめた。

「トシアキぃ!!」

「ぐぇっ!? く、久遠。 人間の姿で飛びかかるなよ・・・・・・」

トシアキは胸の中にいる巫女服の少女――久遠の頭を撫でつつ、そう注意する。

「トシアキ。 久遠、いい子で待ってた。 えらい?」

「あぁ、偉いぞ久遠。 まさか、一週間も留守になるとは思わなかったんだ、悪かった」

トシアキの言葉を聞いていたのか、いないのか、返事もせずに久遠はトシアキに自分のことをアピールする。

トシアキも苦笑しながら、自分が長期に渡って留守にしていたことを謝る。

「く?」

「兄様から離れて下さい。 だいたい、何なんですか、あなたは」

そんな久遠の首根っこを掴み、トシアキから引きはがしたアキは首を傾げている久遠にそう尋ねる。

「アキぃ!!」

「きゃっ!? ちょ、ちょっと、なんですか!?」

アキの顔をジッと見つめていた久遠は、ふと笑顔に変わり、そのままアキに飛びつく。

さすがのアキも近距離からの飛びつきを予想できなかったのか、久遠に押し倒される形で通路に倒れる。

「・・・・・・そういえば、最初に久遠に会ったとき、アキのことを知ってたな」

そんな様子を見ていたトシアキが、思い出したように頷く。

「に、兄様。 たすけ・・・・・・きゃっ!? ちょっと、どこ触って・・・・・・んっ・・・」

久しぶりの再会で嬉しさのあまりに久遠は、アキのまだ立派とは言えない胸に顔をうずくめる。

「アキぃ~~。 ずっと探してた。 アサとおんなじ匂い」

「だ、だから私はアサという者では・・・・・・んっ・・・・・・やめ・・・」

さすがにそれ以上見ていられなくなったトシアキは倒れているアキの上にいる久遠を抱えあげる。

「く?」

「ほら、久遠。 大人しくしてな。 とりあえず家に入ろうぜ」

抱えられた久遠は首を傾げながらトシアキを見つめる。

トシアキはそんな久遠を諭しながら、家の中へ入れる。

「ほら、アキ。 大丈夫か?」

久遠を先に家に入れたあと、未だに倒れているアキに手を差し伸べるトシアキ。

「あ、ありがとうございます、兄様・・・・・・」

どこか疲れた様子でトシアキの手をとり、立ち上がったアキ。

「久遠とは知り合いだったのか?」

「えぇ・・・・・・少し前に、地球に調査したときに出会いました。 前にも同じように抱きつかれたのですが・・・」

そう言いながら先ほどのことを思い出したのか、僅かに頬を赤く染めるアキ。

「まぁ、なんだ。 とりあえず中に入ろうぜ」

「・・・・・・はい」

恥ずかしそうに俯いているアキをなるべく見ないようにしつつ、家へアキを促し二人とも部屋に入って行く。

落ち着いたところで、三人でソファに腰を下ろす。

「それで、兄様。 なぜ神社にいた久遠がここにいるんですか?」

向かい合った方が話しやすいのだが、何故だかアキはトシアキの隣に座り、見上げるようにして尋ねる。

「あぁ、それはな・・・・・・」

「トシアキ、久遠と契約した。 トシアキ、久遠のご主人様」

トシアキの言葉を遮って、座るトシアキの膝の上から顔を覗かせた久遠がそう言った。

「「・・・・・・」」

その言葉を聞いたトシアキは前にもこんなことあったな、と考えつつアキを見る。

アキはまるで世界が滅んだ、と言われた人のように驚いて固まってしまった。

「くぅ?」

そんな二人の様子に首をかしげながら、久遠は二人の顔を交互に見つめる。

「な、なんてうらや・・・・・・ではなく、そこを退きなさい。 兄様に失礼でしょう!」

久遠の発言に固まっていたのではなく、久遠がトシアキの膝の上に乗っていることに衝撃を受けていたようであった。

「くぅ、アキもここ好き?」

「そ、そんなの好きにきまっ・・・・・・でもなく、兄様の邪魔になるでしょう?」

不穏な発言が見え隠れするアキを静かに見つめていたトシアキが口を開く。

「・・・・・・アキも頭乗せるか?」

「そ、そんなっ! その・・・・・・いいのですか? 兄様」

遠慮する様子を見せつつ、トシアキの膝に頭を乗せている久遠を見る。

「あぁ、久遠には一週間留守番してもらったしな。 アキもたまにはいいだろ? 俺の膝じゃ役不足かも知れんが・・・・・・」

「そ、そんなことありません! で、では、失礼します・・・・・・」

全力でトシアキの言葉を否定したアキは、ゆっくりとソファに座るトシアキの左足に頭を乗せる。

ちなみに久遠は右足に頭を乗せている。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「くぅ」

膝に頭が乗っている二人を無言で見つめるトシアキ。

アキも頬を赤くして、緊張した様子で無言のままトシアキを見つめる。

久遠は今の状況が嬉しいようで、トシアキを見つめながら微笑む。

「トシアキさん! これから皆でうちに行くんだけど、良かったら・・・・・・」

そんな均衡を崩したのは、フェイトやアリサ、すずかを連れたなのはが部屋に入ってきたときであった。

「だってよ。 どうする? アキ、久遠」

「私はもう少し、このままの方が・・・・・・」

「久遠はトシアキに任せる」

なのはの視線を気にすることなく、膝の上にいる二人に話しかけるトシアキ。

「あ、あんた! 何やって・・・・・・」

なのはの後ろから姿を見せたアリサは顔を赤らめながらトシアキを見る。

すずかは手で顔を覆い恥ずかしそうにしているが、指の隙間からこちらをはっきり見つめる目が見える。

「・・・・・・いいな」

ポツリと呟やかれたフェイトの声は、フェイトに抱えられた子狼形態のアルフにしか聞こえていなかった。

「だ、そうなんで、俺たちはいかな・・・・・・ぶっ!?」

二人の意見を聞き終えて、顔をあげたトシアキにアリサが投げた靴が直撃した。

「兄様!?」

「トシアキ!?」

とっさにアキと久遠の頭を自分の足から降ろしたトシアキは、直撃を食らった靴とともにソファの後ろへ身体を倒す。

「幼気な少女二人になんてことしてんのよ! トシアキは!」

「別に無理やりやったわけじゃ・・・・・・」

そう言いながら身体を起こしてトシアキが見たものはアリサの前に立ち、怒りで今にも襲いかかろうとしているアキの姿であった。

「・・・・・・なによ?」

「私の兄様に手をあげた罪、只ではすみませんよ?」

そんな風に言われたアリサも負けずにアキに向かって言い返す。

「兄様? ということはトシアキの妹なのね、いつまでも兄に甘えてるんじゃないわよ!」

「あなたも、人の兄に手をあげるなんて失礼なことよく出来ましたね?」

二人の剣呑な雰囲気に周りにいたなのは、フェイト、すずかは距離をとってトシアキのもとにやってくる。

「と、トシアキさん、早く止めないと!」

「そうだよ、兄さん。 このままじゃアリサが!」

「トシアキさん・・・・・・」

慌てた様子でなのはが、早くしないとアリサがやられるとフェイトが、悲しげな表情で見つめるすずかが、それぞれトシアキに訴えかける。

「たしかにそうだな・・・・・・・・・アキ」

頷いたトシアキは静かにアキの名前を呼ぶ。

呼ばれたアキはビクッと体を震わせ、ゆっくりとトシアキの方を見つめる。

「に、兄様・・・・・・」

「俺は大丈夫だから、戦闘はするなよ?」

そのトシアキの言葉を聞いていたアリサが、今度はトシアキに突っかかる。

「トシアキ! あんたは黙っ・・・・・・」

「はい、兄様・・・・・・」

アリサの言葉を遮って、そう言ったアキがトコトコとトシアキのそばに駆け寄る。

「・・・・・・なによ。 結局、トシアキの言うことは聞くんじゃない。 あんた、なさけ・・・んんんっ!?」

怒鳴る相手がいなくなり拍子抜けしたアリサが言おうとしたのを慌てて口を塞ぐ形で止めるなのはたち。

「いいかアキ。 アリサやすずかは前に話した俺の恩人だ。 くれぐれも注意してくれよ?」

「・・・・・・・・・兄様がそう言うなら」

傍に寄ってきたアキに静かにそう言ったトシアキは、渋々納得した様子のアキの頭を撫でてやる。

「喧嘩はいいけど、戦闘はダメだ。 この違い、わかってくれるよな?」

「はい、兄様」

頭を撫でてもらい、元気になったアキはトシアキの言葉にしっかりと頷いた。

「じゃあ、皆で行くか。 なのは、翠屋でいいよな?」

「う、うん! それじゃあ、早く行こう!」

急いでこの空気をなんとかしたいなのはたちは、アリサを半ば引きずるような形で連れ出す。

トシアキもアキと久遠を連れて、先行くなのはたちの後ろを付いて行った。



~おまけ~


目が覚めた久遠は薄暗い部屋の中、あたりを見渡す。

「・・・・・・くぅ?」

いつもいるはずのトシアキの姿が見えず、不安になってきた久遠は身体を起こす。

しかし、契約線が見えるためいなくなったわけではないと少し安心した久遠。

「・・・・・・くっ!?」

ソファのそばにあるテーブルに何か書かれた紙が置いてあるのを発見した久遠。

「・・・・・・」

久遠はソファを降りてテーブルにあるその紙を見てみた。

『ちょっと、魔法の気配を感じたから見てくる。 久遠はいい子で待っててくれ』

そんな内容が書かれた紙であったが、久遠は難しい漢字を読むことが出来ない。

「ちょっと、見てくる。 いい子で待ってて・・・・・・わかった。 久遠、待ってる!」

断片的に理解した久遠は紙にそう言って頷き、ソファに戻る。

「久遠、いい子。 トシアキの帰り、待ってる」

二三日が経過したが、久遠はその場から一歩も動かなかった。

「くぅん!」

何も食べていないが、トシアキから供給されている魔力があるため、意外と平気な久遠。

「くぅん・・・・・・」

さらに三日過ぎ、今度はトシアキがなかなか帰ってこないことに不安になってきた久遠。

「く!?」

玄関の扉の前から何かの気配がし、ドアノブがガタガタと震える。

「トシアキ、帰ってきた。 久遠、いい子にしてた」

部屋に入ってくるトシアキを待てなかった久遠は玄関に向かい、扉を開いて、目の前にいる青年に飛びかかる。

「トシアキぃ!!」

こうして、約一週間の久遠のお留守番は幕を閉じたのであった。



~~あとがき~~


次話完成しましたw
感想板を見て、急にやる気が出てきたので、急いで書きあげましたw
(なので、文章がおかしい点があるかも知れません)

今回の話は地球に戻ってきた主人公たち。
しかし、よく考えたら全然話が進んでいない!?
どこで間違えたんだろ・・・・・・原作通りに進んでたはずなのに、原作一話で三話になってしまってる。
物語がなかなか進まなくてもどうか見捨てないでくださいw

それでは、次回こそ進めるように頑張ります。
では、また会いましょうww



[9239] 第二十二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/19 21:09
海鳴の街にある喫茶翠屋。

そこのオープンカフェで可愛らしい六人の少女たちが丸いテーブルを囲うようにして座っていた。

しかし、雰囲気はどこか暗く、誰も話そうとはせずに静かな時間がゆっくりと流れている。

「・・・・・・」

自分の目の前に置いてあるオレンジジュースを飲みながら左側を見るなのは。

「・・・・・・」

なのはの右側に座り、子狼形態のアルフを抱えたフェイトはなのはがいる方とは別の方向をジッと見つめる。

「・・・・・・」

フェイトの向かい側に座り、フェレット形態のユーノを抱えているすずかはどこか困った様子で隣を見る。

「ふんっ!」

なのはとすずかに見つめられているアリサは怒った様子で顔をそむけており、向かい側に座るアキとは目を合わせようとはしない。

「・・・・・・」

アリサの向かいに座り、フェイトに見つめられているアキはそんな視線に気づかずに落ち着かない様子で、喫茶翠屋の入口を見ていた。

「くぅ!」

そして、目の前にあるケーキを美味しそうに食べる久遠はこの重苦しい空気を気にせず、笑顔で微笑んでいた。

「あっ・・・・・・」

そこへ小包を抱えたアースラスタッフがやってきたのをなのはは確認した。

「えっと・・・・・・フェイトちゃん、少しいいかな?」

可愛い少女たち六人もいるテーブルが重苦しい空気に包まれているのを不思議に思いながらも、アースラスタッフはなんとか声を掛ける。

「・・・・・・えっ? あ、はい。 なんですか?」

声をかけられたフェイトもアリサとアキのことを気にしていたため、返事が少し遅れてしまう。

「これ、艦長から。 なんでも、敷島さんが頼んでいたものらしいんだけど・・・・・・」

「えっと、兄さんがですか?」

フェイトは首を傾げながらも、そう言って小包を受け取る。

「っ!?」

「・・・・・・」

フェイトの『兄さん』という言葉に素早く反応したアキ。

それに中身が気になったのか、アリサも視線をフェイトが持つ小包に向ける。

「じ、じゃあ、僕はこれで!」

アキの発したオーラに驚いたのか、アースラスタッフは小包をフェイトに渡して、素早く立ち去って行く。

「なんだろ?」

「あけてみようよ」

すずかの疑問の声と、なのはの発言によってゆっくりと小包をあけるフェイト。

「「「「あっ」」」」

「・・・・・・」

中を見た聖祥メンバーとフェイトが揃って声をあげる。

どこか予想していたアキは視線をフェイトから再び、喫茶翠屋に向ける。

「くぅ!」

そして、ケーキを食べ終えた久遠は頬にクリームをつけたまま、満足そうに微笑むのであった。

場所は変わって喫茶翠屋の店内。

そこでトシアキはカウンター席に座りながら、なのはの両親である士郎と桃子と話していた。

「―――というわけで、今まで遠くにいた妹たちが一緒に住むことになったんで、色々とよろしくお願いします」

「そうか。 君の妹だったんだな、フェイトちゃんは」

「なのはの新しくできた友達はトシアキ君の妹さんだったのね」

そう言いながらトシアキの前にコーヒーとケーキを出す二人。

「えぇ、まぁ。 あと、フェイトの一つ上のアキって妹もいます」

「ほぉ、そうなのか。 それで、学校はどこを?」

トシアキの言葉に頷いた士郎はそのままフェイトたちが通う学校について尋ねる。

「えっと、実は・・・・・・」

「兄さん」

トシアキの言葉を遮って、店内に入ってきたフェイトが声をかける。

「あの・・・・・・これ・・・・・・」

開けられた小包をゆっくりとトシアキに差し出すフェイト。

「おっ? もう、届いたのか。 さすがに仕事が早いな、管理局」

小包の中身である聖祥小学校の制服を見たトシアキがそう言いながら微笑む。

「これって・・・・・・」

まだ信じられないフェイトが確かめるようにトシアキを見つめる。

「あぁ。 艦長さ・・・・・・リンディさんに頼んで転校手続きを取ってもらったんだよ。 週明けからなのはたちと同じ学校だ」

「聖祥小学校か、あそこはいい学校だよ」

話を聞いていた士郎が微笑みながらフェイトに話しかける。

「よかったわね? フェイトちゃん」

フェイトの顔を覗き込んでそう言った桃子。

「はい。 その・・・・・・ありがとう、兄さん」

桃子の言葉に頷いて、トシアキにお礼を言うフェイト。

「礼なら艦・・・・・・リンディさんに言っておけよ? 俺はただ、頼んだだけだし」

「ううん。 それでも、ありがとう」

照れ隠しにコーヒーを飲むトシアキに、頬を少し染めたフェイトが再びお礼を言った。

そして、聖祥小学校の制服を大事そう抱え込んだのであった。

「君がアキちゃんかい?」

そんな微笑ましい様子をなのはたちが見守る中、士郎は今まで見たことのない少女がいることに気づき、声を掛ける。

「はい、敷島アキです」

「君はなのはたちの一つ上だと聞いたのだが、学校には行かないのかい?」

制服の入った小包を持つフェイトとは違い、手ぶらのアキに対してそう質問する士郎。

そんな士郎の言葉に驚きを見せるなのはとフェイト。

「えぇ!? わたしたちの一つ上だったの!?」

「妹じゃなくて、お姉ちゃんだったんだ・・・・・・」

八歳であるなのはたちに対して、アキは九歳である。

身長がなのはたちより小さかったため、自分たちより年上だとは思わなかったようだ。

「はい、私は向こうで卒業しているので、その必要はないんです」

なのはとフェイトの言葉を無視しつつ、士郎の問にしっかり答えるアキ。

「だが、学校は学ぶだけでなく、友人と出会う場所でもあるんだぞ?」

そう言った士郎だが、アキはその言葉に首を振った。

「私は兄様と離れて過ごしていたので、今は一緒にいたいんです」

「・・・・・・そうか、余計なことを言ってしまったな。 すまない」

悲しそうな表情をしたアキに、兄妹が離れて暮らしており、寂しい思いをしていたことを理解した士郎はそう言って謝る。

「いえ、大丈夫です。 今は兄様と一緒に住んでいますから・・・・・・」

そう言いながらカウンター席に座るトシアキに視線を向けたアキ。

「トシアキ、これ食べていい?」

「あぁ、いいぞ。 久遠」

視線を向けた先でトシアキの膝の上に座り、トシアキに出されたケーキを食べる久遠を見つけたアキは表情を変える。

「っ!? 久遠! 兄様の上に乗ってはいけません!」

そう言ってトシアキの方へ駆けよって行った。

「・・・・・・トシアキ君も大変だな」

久遠に向かって怒るアキと、そんなことを気にせずケーキを食べる久遠。

そして、そんな二人を困った様子で見守るトシアキを見た士郎はポツリとそう言ったのであった。



***



夕方になり、それぞれが自分たちの家に帰ることとなった。

ケーキをたくさん食べて、満足した久遠はトシアキの背で寝息を立てている。

「じゃあ、帰るか。 アキ、フェイト、行こうか」

「はい、兄様」

「うん、兄さん」

久遠を背負ったトシアキは喫茶翠屋で会計を済ませて外へ出て行く。

ちなみに、なのはたち六人が最初に食べていたケーキとジュースもトシアキが支払っている。

「・・・・・・ちょっと待ちなさい」

外に出たアキは追いかけてきたアリサによって呼び止められた。

「・・・・・・なんですか?」

少し不機嫌な様子でアリサに向きなおるアキ。

ちなみにトシアキとフェイトは少し離れた先でこちらを見ている。

「その・・・・・・さっきは悪かったわ、兄に甘えてるなんて言って・・・・・・アンタはずっとトシアキと一緒にいたわけじゃなかったのね」

「別に構いません。 離れていたのは事実ですが、兄様が好きなことも事実なので」

淡々と話すアキに思わず、固まってしまったアリサ。

「・・・・・・っ!? ア、アンタ! す、す、す、好きって!!?」

再起動したアリサはアキの発言に顔を赤く染めながら言葉を発する。

「はい。 私は兄様が好きです。 ですから、兄様への攻撃に私は怒りました」

「・・・・・・」

「これからも同じようなことがあれば、私は同じ行動を起こします」

何も言わなくなったアリサを放っておいて、アキはそう話す。

「・・・・・・そう。 アンタ、トシアキのこと好きなんだ」

「はい」

「兄妹でしょ?」

「関係ありません。 私は兄様が傍にいてくれるだけでいいのです」

揺らぎがないアキの瞳を見つめていたアリサは真剣な表情を一転させ、笑みを浮かべる。

「そっか。 あたし、なのはたちが羨ましかったんだ。 兄や姉、兄妹がいて」

「・・・・・・」

今度は話すアリサの言葉を黙って聞いているアキ。

「だから、アイツを・・・・・・トシアキを兄のように見ていたのかも知れない」

「・・・・・・そうですか」

「うん。 だから、トシアキにアンタが甘えているのを見て嫉妬・・・・・・したのかな」

アキはアリサの言葉に相槌を打ち、なにかを理解したアリサはそう言った。

「けど、本当の妹がいたとしても、私は・・・・・・」

「・・・・・・」

アリサの続きの言葉を待っていたアキだが、その考えはあっさり覆される。

「なんてね。 あたしはもう帰るわ。 アキ、アンタも早く行きなさい」

「・・・・・・」

続きを言わなかったアリサを恨めしい目で見つめるアキだが、アリサに言われて待っているトシアキとフェイトの方を向く。

「・・・・・・・・・負けないから」

背後からアリサの小さい声が聞こえ、アキが振り返ったときにはアリサは遠くにいた。

「あたしはアリサ・バニングスよ! ちゃんと覚えておきなさい!」

遠くでアキに対して自分の名前を叫んだアリサ。

「・・・・・・アリサ・バニングス」

そして、アリサの名前をしっかりと覚えておくために、自分で小さく呟くアキ。

胸にアリサの名前を刻みこんだアキはトシアキたちが待つ場所へ向かって行った。

「アリサとなに話してたんだ?」

「・・・・・・いえ、大したことではありません」

トシアキに尋ねられたアキだが、先ほどのことは胸に仕舞っておこうと考えたため何も話さなかった。

「そっか・・・・・・」

対するトシアキも深く聞かず、そのまま三人で自宅に戻って行った。

家に戻ったトシアキたちは夕飯を食べ終え、のんびりと過ごしていた。

「もう、こんな時間か・・・・・・アキ、フェイト、寝る準備をしようか」

時計を見たトシアキは明日に備えて早く休むように言った。

ちなみに久遠は一週間ほどの留守番が疲れたのか、子狐形態でアルフとともに眠っていた。

「はい。 それではお風呂に入りましょう、兄様、フェイト」

「そうだね、アキ。 兄さん、行こう?」

なんの疑問も持たず、アキとフェイトはトシアキと一緒に風呂に入ろうとする。

「・・・・・・アキ、フェイト。 お前らは女だろ? 男の俺と一緒に入るのはダメだ」

「? 家族は一緒にお風呂に入るんじゃないの?」

トシアキの言葉に首を傾げながらそう言ったフェイト。

そう言えばアルフも同じことを言ってたな、と思いつつ、トシアキは説明する。

「いいかフェイト。 家族でもある程度成長したら男と女は別に入るんだ」

「そうなんだ・・・・・・」

トシアキの簡単な説明に納得した様子のフェイト。

「しかし、それは一般家庭の話です。 兄様とずっと離れていた私は兄様と一緒に入りたいです」

「・・・・・・」

フェイトの次はアキか、などと心の中で悪態を吐きつつも今度はアキに説明する。

「あのな、アキ。 年頃の女の子がそんなことを・・・・・・」

「・・・・・・」

アキを諭すように言葉を発したトシアキだが、アキは目に涙を浮かべながら上目遣いにトシアキを見つめる。

「・・・・・・そんな顔をしてもダメだ。 フェイトと仲良く入ってきなさい」

「・・・・・・」

そう言われてもトシアキから視線を離さないアキ。

「・・・・・・フェイト、アキを連れて行って来い」

「う、うん・・・・・・」

トシアキに言われ、アキを引っ張って風呂場に向かって行ったフェイト。

見えなくなるまでアキに見つめられていたトシアキはため息を吐いて、ソファに座りこむ。

「はぁ・・・・・・アキの奴、どこであんなに性格が変わったんだろうか」

久遠とアルフが眠る隣でそう呟いたトシアキであった。

アキとフェイトは二人で浴槽に浸かり、静かな時が流れていた。

「・・・・・・」

「あ、あの・・・・・・」

無言で何も話さないアキに不安を覚えたフェイトは、なんとか声を出す。

「なんですか?」

「アキって、私のお姉さんになるんだよね?」

浴槽の中で向かい合う形になったアキとフェイト。

「・・・・・・そうですね。 一応、書類上ではそうなります」

「だ、だったら、『姉さん』って呼んでいい?」

「・・・・・・」

フェイトの言葉にアキは何も答えず、浴槽から出て身体を洗い始める。

そんな様子を見たフェイトがシュンと落ち込んでいると、アキから名前を呼ばれた。

「フェイト、背中を洗ってくれますか?」

「えっ? あ、うん・・・・・・」

アキにそう言われ、フェイトも浴槽からでて、アキの背中をゴシゴシと洗う。

「・・・・・・・・・先ほどの答えですが」

「?」

唐突にアキが口を開いてそう言う。

そのアキの言葉にフェイトはなんのことか分からず首を傾げる。

「構いませんよ。 私を姉と呼んでも」

「・・・・・・うん! 姉さん!!」

アキの言葉を理解したフェイトは嬉しそうに微笑んで、洗い終わったアキの背中をお湯で流す。

「では、私は先に上がります」

そう言って出て行ったアキの頬は少し赤らんでいた。

風呂から出てきたアキが見たものは、ソファの上で座ったまま眠るトシアキの姿であった。

「・・・・・・」

そのトシアキの横では子狼形態のアルフと子狐形態の久遠が仲良く寄り添って眠っている。

アキは別の部屋から毛布を持って来て、トシアキにソッとかけてやる。

「おやすみなさい、兄様・・・・・・」

そう言ったアキはアルフたちが眠っている場所とは反対側に座り、トシアキの肩に寄り添って目を閉じた。

「上がったよ、兄さ・・・・・・」

アキに遅れて風呂から出てきたフェイトは言葉を途中で止めて、仲良く眠るトシアキたちを発見する。

「・・・・・・」

そして、自分の部屋から毛布を持ってきたフェイトはアキの隣に腰を下ろす。

「おやすみ、兄さん、姉さん・・・・・・」

アキに寄り掛かるようにして目を閉じたフェイト。

「・・・・・・家族っていいな」

隣に眠るアキの体温を感じつつ、自分の毛布をスッポリ被ったフェイトは眠る皆を起こさないように、静かにそう呟いた。

そして、この日のトシアキたちは一つのソファに座ったまま横一列に並んで眠るのであった。

そして場所は変わって海鳴の街にあるオフィス街。

トシアキたちが眠っていたその時間帯に二人の女性と一匹の狼が誰もいないビルの屋上で海鳴の街を見つめていた。

そして後ろの扉が開き、新たにそこへ一人の少女が駆けてくる。

「・・・・・・来たか」

先にいた女性――シグナムがそう言った。

「うん」

後から来た少女――ヴィータがそう頷いて隣に並ぶ。

「管理局の動きも本格化してくるだろうから、今までのようにはいかないわね」

本を持っていた女性――シャマルが言いながら本を開く。

「今、何ページまできてるっけ?」

本を開いていたシャマルにそう尋ねるヴィータ。

「三百九十ページ。 こないだの白い服の子でかなり稼いだわ」

「よし、半分は越えたんだな。 ズバッと集めてさっさと完成させよう」

「・・・・・・行くか」

ヴィータの言葉に賛同するように青い狼――ザフィーラがそう言う。

「少し遠出するほうがいいだろう。 管理局に見つかると面倒なことになる」

シグナムの言葉に皆が頷き、それぞれのデバイスを持ち出す。

「行くぞ、レヴァンティン!!」

「導いて、クラールヴィント!」

「やるよ、グラーフアイゼン!」

それぞれがデバイスを起動させ、普段着から騎士の姿に変わる。

「じゃあ、夜明け前にまたここで」

「ヴィータ、あまり熱くなるなよ」

「わーてるよ!」

そして、海鳴の街から三人と一匹はそれぞれ別の世界へ飛び去って行った。



~おまけ~


喫茶翠屋のオープンカフェで小包を開けたフェイトは驚いた様子で中身を見つめる。

「これって・・・・・・」

「聖祥の制服だよね?」

一緒に中身を見たすずかとなのはもそう言って見つめる。

「聖祥って・・・・・・」

「あたしたちの通っている学校よ」

フェイトの言葉にアリサが答える。

「これがフェイトちゃんのってことは・・・・・・」

「私たちと同じ学校だね」

その考えに至り、嬉しそうに微笑むなのはとすずか。

フェイトも嬉しそうに微笑む。

「・・・・・・ねぇ、フェイト。 さっき言ってた『兄さん』って?」

そんな三人を見ながら、先ほどの言葉を思い出したアリサはそう言って尋ねた。

「うん? 兄さんのこと? 兄さんは・・・・・・」

「私の兄様と同一人物です」

フェイトの言葉を遮って、横から口を挟むアキ。

そして、アキの言葉を聞いたアリサは表情を変えてフェイトに詰め寄る。

「フェイト! アンタ、トシアキの妹だったの!? どうして教えてくれなかったのよ!」

「こ、怖いよ、アリサ・・・・・・」

身を乗り出しているアリサにフェイトも少し引き気味だ。

「ってことは、あの家でフェイトと久遠、あの子と一緒に住むっていうの!?」

アリサはそう言いながらケーキを食べている久遠と喫茶翠屋の入口を眺めているアキを指す。

「う、うん。 皆、家族だから・・・・・・」

「なにかあったら言いなさい、すぐに助けにいくから!」

どうやらアリサはトシアキと一緒に住むことを危険視しているようであった。

「あ、ありがとう・・・・・・」

勢いに押され、フェイトは思わずお礼を言ってしまう。

「あのトシアキ! こんなに可愛い子たちと一緒に住んで何をしようっていうのよ。 あ、あたしのときだって・・・・・・」

ここには居ないトシアキのことをブツブツと一人で呟くアリサ。

ちなみに最後の方は顔を赤くしながら小さい声で言ったので、誰にも聞かれることはなかった。

「と、とりあえず、トシアキさんに聞いてみよう?」

「そ、そうだね。 この制服を頼んでくれたのはトシアキさんみたいだし」

一人で熱くなっているアリサを放って、なのはとすずかはそう提案する。

「う、うん」

フェイトはなのはたちに連れられて、喫茶翠屋に向かって行った。

久遠とアキもトシアキのもとに行くために一緒に向かう。

「その、色々あったし・・・・・・・・・って! 待ちなさいよ!」

回想が終ったのか、アリサも慌ててなのはたちのあとを追って喫茶翠屋に入って行った。



~~あとがき~~

ようやく終わりました、原作As編の三話目。
長きに渡り、お付き合い頂きありがとうございますw

やはり原作にはいないオリキャラを入れて書くのは難しいですね。
他の作者様方の作品にはいつも驚かされております。
私も負けずに頑張っていきますので、暖かい目で見守ってくださいねww

それでは、次回はヴォルケンズとの二度目の戦い。
そして、その時のトシアキの行動とは!?

ではでは、またお会いしましょうw



[9239] 第二十三話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/11/27 18:47
マンションに差し込んできた朝日の光によってトシアキは目を開けた。

「・・・・・・んっ、ふぁぁ・・・・・・朝か」

大きな欠伸をしたあとに自分に掛っている毛布に気づく。

「これは・・・・・・」

そのまま視線を動かすと、自分の隣で眠るアキとそのアキに寄り掛かるようにして眠るフェイトを見つける。

「ベッドがあるのに皆でソファに寝てたのか」

苦笑しながら静かにそう言ったトシアキは、アキを起こさないようにゆっくりとソファから身体を離す。

「さて、飯でも作るか・・・・・・」

トシアキはそのままキッチンへと消えていく。

「・・・・・・・・・うみゅぅ? にぃさま?」

それからしばらくして、眠たそうな目を擦りながらアキが目覚めた。

そして、隣にいたはずのトシアキを探すために立ち上がる。

「はふっ!?」

アキが動いたため、アキに寄り掛かるようにして眠っていたフェイトがそのまま倒れ、ソファに顔を突っ込んでしまう。

「にぃさま~~~」

まだ寝惚けているのか、目を閉じたままリビングを歩きまわるアキ。

「ね、姉さん?」

ソファに顔を突っ込んだことで目が覚めたフェイトは、普段と違うアキの姿を見て少し困惑気味であった。

「ん? 呼んだか?」

そのとき、キッチンの方からトシアキが顔を覗かせる。

「あ、兄さん。 お、おはよう・・・・・・」

「あぁ。 おはよう、フェイト。 それで、アレはなんだ?」

まだ朝の挨拶をするのに照れがあるフェイトはどこかぎこちない。

そんなフェイトに挨拶を返しつつ、トシアキは目を閉じて歩きまわっているアキを指す。

「えっと、姉さん・・・・・・だと思う」

いつものアキとは違うため、フェイトの返事も曖昧であった。

「だよな。 まったく、昔と変わってないところもあったか・・・・・・」

「あぁ! にぃさまだ~~!」

フェイトとの会話でアキに呆れた様子を見せていたトシアキだが、そんなトシアキを寝惚けているアキが発見した。

「おう、俺はここにいるぞ・・・・・・って!?」

トシアキの名前を呼び、トコトコと近づいてきたアキがトシアキの腰に抱きつく。

「えへへ・・・・・・にぃさま~~~」

本当に寝惚けているのか怪しい勢いで、トシアキに顔をうずくめる。

「おい、アキ。 起きろって」

「ん~~~」

いつもはすぐに反応するアキだが、今回は生返事をしただけで特に変化はない。

「起きろって言ってるだろ、じゃないと飯が焦げる・・・・・・」

「にぃさま~~~」

何度呼んでも変わらないアキにさすがに怒りを覚えたトシアキ。

「・・・・・・私もしてもいいのかな?」

そんな兄姉の様子を見ていたフェイトが、自分も加わってもいいのかと悩み始める。

「い・い・加・減・に・しろ!!」

「ふみゅっ!?」

腰に抱きついていたアキについに拳を振りおろしたトシアキ。

その攻撃を受けて、奇声を発したアキはそのまましばらく固まる。

「・・・・・・・・・・・・あっ、兄様。 おはようございます」

再起動したアキは、目の前にいたトシアキにそう言って頭を下げて挨拶をする。

「あ、あぁ・・・・・・」

「フェイトもおはよう」

「う、うん・・・・・・」

突然普段のアキに戻ったことに驚いたトシアキ。

フェイトは兄の拳を受けて痛くないのかな、と内心思っていたが、口には出さない。

「それでは顔を洗ってきますね」

アキは何事もなかったように洗面所に向かって行った。

「「・・・・・・」」

そして、残ったトシアキとフェイトはお互い顔を見合せる。

そのとき、トシアキの背後から黒い煙が立ち上ってきた。

「に、兄さん!」

「やっべ! 魚が焦げてる」

慌ててキッチンへと戻って行くトシアキ。

そしてフェイトは未だに眠ったままの久遠とアルフを起こすことにした。

朝食を食べるために皆で食卓に着く。

ちなみにアルフと久遠は子狼形態と子狐形態でいるため、床で待機中だ。

「・・・・・・兄様。 これはなんですか?」

席についたアキは目の前に置かれている黒い謎の物体を指して尋ねる。

「魚だったものだ。 こうなったのはアキの所為だぞ」

フェイトやトシアキの前にも同じ黒い謎の物体が置かれている。

他は白いご飯とみそ汁、それと簡単な料理が置かれている。

「? 私の所為ですか?」

心当たりがないアキは首を傾げるが、フェイトとトシアキは原因がアキなのはわかっているため二人で頷く。

「そうですか・・・・・・それはすみませんでした」

二人に頷かれたためアキは素直に謝る。

もっとも、トシアキに言われたためかも知れないが。

「ちなみに久遠には油揚げ、アルフにはドッグフードをあげよう」

そう言って床で待機中だった二匹の前にそれぞれ置いてやる。

「くぅ!(油揚げ、好き!)」

「くぅん!(これ結構美味しいんだよね!)」

二匹は嬉しそうに鳴きながら食べ始めた。

「それじゃあ、俺達も食うか」

トシアキの言葉でアキとフェイトもそれぞれ食べ始める。

結局、誰も黒い謎の物体には手をつけなかった。

「「ご馳走様でした」」

「お粗末さまです」

フェイトとアキがそう言ったあとにトシアキも笑顔で答える。

それからゆっくりと三人と二匹で過していた。

「ふぅ・・・・・・今日は月曜日か・・・・・・」

何気なしにカレンダーを眺めて呟いたトシアキ。

アキもそれにつられてカレンダーを見る。

フェイトは家族の温かさに嬉しくなり微笑んでいた。

「・・・・・・・・・今日はフェイトの初めての学校では?」

トシアキの言葉でカレンダーを見たアキが、思い出したようにそう言った。

「あっ・・・・・・・・・」

その言葉に反応したのはトシアキであり、肝心のフェイトは幸福感に包まれて微笑んでいるだけだ。

「おい、フェイト! 今日は学校だぞ!!」

「ふぇっ? なに? 兄さん」

トシアキに呼ばれ、ようやく現実世界に戻ってきたフェイト。

「今日は初登校日だよ! このままじゃ遅刻するぞ!」

「・・・・・・・・・あっ」

言われて思い出したのか、長い間のあとにそれだけ呟く。

「とにかく着替えろ! 学校までは送ってやるから」

「う、うん。 わかった」

トシアキの言葉に焦ったのか、フェイトはその場で服を脱ぎ始めた。

「だぁぁ!! ここで服を脱ぐな! 部屋で着替えろ!」

「ご、ごめんなさい・・・・・・」

慌ただしい二人を見ながらアキは子狐形態の久遠を膝に乗せてソファに座っていた。

「平和ですね」

「くぅ!」

「わふわふ!」

アキの言葉に膝の上の久遠も足元にいたアルフも楽しそうに鳴き声をあげた。



***



いつもの通学路を歩き、迎えのバスに乗ってアリサやすずかと合流し、聖祥小学校にたどり着いたなのは。

「今日はフェイトちゃんの転校日だよね?」

「そうだね。 同じクラスになれるといいなぁ」

なのはの言葉にすずかも賛同して、嬉しそうに微笑む。

「でも、バスには乗ってなかったわよ?」

「えっと、初日だけトシアキさんが連れて来て、先生とお話するって聞いたよ」

アリサのもっともな答えに、事情(管理局のこと)を知るなのはがそう説明する。

「な・ん・で・アンタはそういうことを初めに言わないかな?」

「ご、ごへんにゃさい、はりさちゃん・・・・・・」

少し怒った様子のアリサがいつものようになのはの両頬を引っ張る。

「それじゃあ、もう職員室にいるかもしれないね」

すずかの言葉でなのはの頬から手を離したアリサ。

なのはも両頬を抑えながら話を聞く。

「そ、それじゃあ、一度会いに行きましょうか。 も、もちろん、フェイトによ?」

「ふふふ・・・・・・本当はトシアキさんに会いたいんでしょ?」

全てが分かっているようにアリサを見つめたすずかはそう言いながら微笑む。

「ち、違うわよ! ただ、別のクラスになったらフェイトも困るだろうし、先にあたしたちがいることを伝えて、安心させてあげた方がいいでしょ?」

「本当にそれだけ?」

何かを確かめるようにアリサに笑顔のまま尋ねるすずか。

「にゃ?」

なのはもそんな二人のやり取りを首を傾げながら見つめる。

「そ、それだけよ! さ、早く行きましょ」

すずかとなのはの視線から逃げるように学校に入って行こうとするアリサ。

そのとき、後ろからとても大きな音を出したバイクがやってきた。

「もう! こんな朝に、しかも学校の近くにバイクで来るんじゃないわよ!」

通り過ぎると思っていたアリサは振り返りながらバイクに向かってそう言い放つ。

「悪い。 遅刻しそうだったんで許してくれ、アリサ」

しかし、その八当たりに近い言葉に返事があり、驚いてバイクに乗る人物を見る。

「ト、トシアキ!?」

「おはよう、アリサ。 すずかとなのはもおはよう」

目があったアリサにまず挨拶をして、続いて近くにいたなのはとすずかにも挨拶をするトシアキ。

「な、なんでアンタがここに・・・・・・」

「フェイトの転校の件で少し話があってな。 まぁ、すっかり忘れてて遅刻寸前になったんだが・・・・・・」

そう言いながら後ろに乗っていたフェイトを降ろしてやる。

「あっ! フェイトちゃん、おはよう!」

「お、おはよう。 なのは、すずか、アリサ」

少し暗い顔をしたフェイトがなのはたちに挨拶をする。

「フェイトちゃん、どうしたの? 顔色、悪いよ?」

顔色が悪く、元気がないフェイトを心配したすずかが声を掛けるが、何となく原因が分かったなのははトシアキを見る。

「・・・・・・トシアキさん、もしかして」

「ん? 後ろに乗せただけだぞ? ちゃんとヘルメットもしてたし・・・・・・」

なのはの疑うような視線を受けて、そう答えるトシアキ。

「そうなの? フェイトちゃん」

「な、縄で固定されて、両手も一緒に・・・・・・それで、凄い速さで・・・・・・」

なのはに答えながらガクガクと身体を震わすフェイト。

「フェイトちゃん、大丈夫。 もう、大丈夫だからね」

そんな様子のフェイトをなのはが抱きしめて慰めてやる。

同じような体験をしたことがあるなのはには気持ちが分かったのだろう。

「・・・・・・アンタ、この二人に何をしたのよ?」

二人の様子を見ていたアリサがトシアキに問いかける。

「だから、落ちないように縄でバイクに固定しただけだって」

「そんな方法で後ろに乗せるんじゃないわよ!」

抱き合う二人に変わってトシアキに鞄を投げつけるアリサであった。

「ふふ・・・・・・やっぱり、トシアキさんと話がしたかったんだね」

アリサの元気な様子を見ながらすずかは微笑んでそう言った。

校門前での騒ぎが原因で転校早々に職員室で話しを聞かれることになったフェイト。

「す、すみません・・・・・・」

「いえ、フェイトさんは悪くないんですよ。 問題は・・・・・・」

すまなさそうに顔を俯かせるフェイトにそう言って視線を別の方へ向けた。

「いや、本当に申し訳ないです」

同じく頭を下げて謝るトシアキがそこにはいた。

「あれほど車やバイクでの登校は止めてくださいと言いましたのに・・・・・・」

なのはたちの担任の先生がそう言う。

「仕方なかったんです。 遅刻寸前で、フェイトに転校早々遅刻させるわけにも・・・・・・」

「そうならないために予め説明してたでしょ? しっかりしてくださいよ、お兄さん」

「はい。 以後気をつけます・・・・・・」

再度、頭を下げたトシアキに対してため息を吐いた先生はゆっくりと立ち上がる。

「それではフェイトさんは私のクラスに連れていきますね。 あと、必要事項はそのプリントに書いてますので」

「わかりました。 それと色々とすみません」

先生は教科書と出席簿を手に取り、歩き出す。

「ほら、フェイト。 お前も先生についていけ」

その場から動こうとしないフェイトにそう言ったトシアキ。

「えっと、その・・・・・・兄さん」

フェイトは何かを悩みながらトシアキに話しかける。

「ん? なんだ」

「い、いってきます」

「・・・・・・あぁ、いってらっしゃい」

頬を赤らめながらそう言ったフェイトにトシアキも微笑んで送り出してやる。

そして、フェイトは少し先で待っていた先生のもとへトコトコと走って行った。

「・・・・・・俺も帰るか」

いつまでも職員室にいるわけにもいかないので、トシアキはプリントを手に持って学校から立ち去って行った。

「さて、皆さん。 実は先週、急に決まったんですが、今日から新しいお友達がこのクラスにやってきます」

トシアキが帰宅したあとの学校でフェイトがなのはのクラスに転校してきた。

「海外からの留学生さんです」

なのは、すずか、アリサの三人はニコニコと微笑んでフェイトの登場を待っている。

「フェイトさん、どうぞ」

「し、失礼します・・・・・・」

先生の声を合図に、緊張した様子でフェイトが教室に入ってきた。

そんなフェイトを見て、クラスの中が騒がしくなる。

「あの・・・・・・フェイト・T・シキシマと言います。 よろしくお願いします」

緊張した様子で頭を下げたフェイト。

そんなフェイトを歓迎するかのように、クラスの皆は拍手で温かく迎え入れた。

そのあとの休み時間、フェイトの周りにはクラスメイトで溢れていた。

「ねぇ、向こうの学校ってどんな感じ?」

「わ、私、学校には・・・・・・」

質問にオドオドと答えるフェイト。

「急な転入だよね? どうして?」

「その、色々あって・・・・・・」

最後まで言い終わる前に次の質問が飛んできて、そちらも答えるフェイト。

「朝に見かけたんだけど、一緒にいたかっこいい人は誰?」

「えっと、兄さん・・・・・・」

次々と質問が飛んできてさすがのフェイトもどうしていいのか分からなくなり困惑する。

「転入初日の留学生に皆で質問しないの! 困ってるでしょ?」

「ア、アリサ・・・・・・」

途中で助けてくれたアリサを嬉しそうに見るフェイト。

「順番にしなさいよね、フェイトもクラスメイトの顔と名前も覚えたいだろうし」

アリサの仲介によってフェイトへの質問は滞りなく終了し、早くもクラスに馴染むことが出来たフェイトであった。



***



管理局の臨時作戦本部。

トシアキたちが住むマンションの隣の部屋で、クロノは管理局本局と通信していた。

「クロノ君、臨時の作戦本部はどう?」

「機材の運び込みは済みました。 今は周辺探索を主にしています」

通信の相手の女性――レティ・ロウラン提督は母親であるリンディの親友でもある。

「そう。 ご依頼の武装局員一個中隊だけど、グレアム提督やアキ執務官のおかげで指揮権を貰えたわよ」

「ありがとうございます。 レティ提督」

通信画面越しに頭を下げたクロノ。

「それから、グレアム提督の使い魔たちが会いたがってたわよ?」

「リーゼたちですか・・・・・・その、適当に理由をつけてもらってもいいですか」

レティの言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまうクロノであった。

リビングでエイミィが冷蔵庫を物色していると、通信を終えたクロノがやってきた。

「あっ、クロノ君。 どう? そっちは」

「武装局員の中隊を借りられた。 捜査を手伝ってもらうよ」

そう言いながらソファに腰を下ろすクロノ。

傍に寄ってきたエイミィもクロノの隣に腰を下ろす。

「昨日もやられたみたいだよ。 少し、遠くの世界で魔導師が十数人」

「なんとか見つけられないものか」

そう言いながらエイミィが持ってきたオレンジジュースに視線を向けるクロノ。

「闇の書のデータを見たんだけど、なんなんだろうね、これ」

エイミィは目の前に画面を開く。

「魔力蓄積型のロストロギア。 魔力の根源となるリンカーコアを喰ってそのページを増やしていく・・・・・・」

「全ページである六百六十六ページを集め終えると、その魔力を媒介にして真の力を発揮する」

今まで調べてきたことを話すエイミィ。

そして、それに付け加えるクロノ。

「ふむ。 じゃあ、なのはがやられたのはそれが原因か」

「あぁ、そうなるな。 って! いつの間に入ってきた、トシアキ!!」

クロノとエイミィの説明を聞きながら、置いてあったオレンジジュースを飲むトシアキ。

「あぁ、私のなのに・・・・・・」

後ろで悲しそうな声で言ったエイミィを無視して、クロノはトシアキに詰め寄る。

「どうやって入ってきたんだ!? 玄関にカギは掛ってたぞ!?」

「窓から」

そう言ってトシアキが指した窓は開いており、冷たい風が部屋を通る。

「まったく、君は・・・・・・」

「それで、他にはなにかないのか?」

呆れ顔のクロノを無視して、エイミィに尋ねるトシアキ。

ちなみにオレンジジュースを恨めしい目で見ていたエイミィと目が合うことになる。

「ふぇっ!? え、えっと、本体が破壊されるか、所有者が死ぬかすると白紙に戻って別の世界で再生する・・・・・・んですけど」

「なるほど。 大体わかった」

頷いたトシアキはそのまま玄関に向かう。

「お、おい! トシアキ」

「邪魔したな。 これから俺の方でも色々と調べてみる。 何かわかったら連絡するよ」

オレンジジュースを片手にトシアキは玄関から出て行ってしまった。

「・・・・・・トシアキはグレアム提督からの依頼を受けていると言ってたな」

「うぅ・・・・・・オレンジジュース・・・・・・」

そのまま持っていかれたオレンジジュースが気になって、クロノの言葉を聞いてなかったエイミィ。

「エイミィ、ジュースくらいいいじゃないか」

「だって! あれは果汁百%なんだよ!? せっかく買ったのに・・・・・・」

エイミィの言葉に静かにため息をついたクロノは首を振って呆れるのであった。

臨時の作戦本部である部屋の玄関を出たトシアキ。

「兄様」

「くぅん!(トシアキ!)」

外には可愛らしい服を着たアキと子狐形態の久遠が待っていた。

「アキの言ってた通りだな。 あまり闇の書についてわかっていないみたいだ」

「私も直接担当したことがないのでわかりませんが、話はグレアム提督に色々と聞いていたので」

トシアキとアキが会話している間に、アキの腕の中にいた久遠がトシアキに飛び移る。

「く!(ここ、久しぶり)」

「ははは・・・・・・ここに久遠がいるのも久しぶりだな」

肩に乗った久遠を見て微笑むトシアキ。

「・・・・・・兄様、これからどちらへ?」

そんな久遠を羨ましそうに見つつも、アキはトシアキに行先を尋ねる。

「あぁ。 あの金髪の人を見たとき、どこかで会った気がしてたんだが、やっと思い出してな。 そいつがいる家に行くんだよ」

「わかりました。 私も行きます」

行先を確認したアキはそう言ってトシアキの隣に並ぶ。

「頼りにしてるよ。 そうだ、これをやろう」

頼りになる妹が一緒にいることに嬉しくなったトシアキは冗談交じりで、持っていたオレンジジュースを渡す。

「俺の飲みかけだけどな。 いらなかったら捨て・・・・・・」

「いります! ありがとうございます! 兄様」

目に見えない速さでトシアキの手からオレンジジュースを奪ったアキは、お礼を言ったあと大事そうに抱え込む。

「そ、そうか。 喜んで貰えてなによりだ」

そんなアキの態度に苦笑しつつ、トシアキは目的地に向かって歩き出す。

「・・・・・・兄様のジュース」

トシアキから受け取ったオレンジジュースを持って嬉しそうに微笑み、アキは先に歩くトシアキの後ろをついて行った。



~おまけ~


無事に午前中の授業が終わり、昼休みになった聖祥小学校。

「フェイトちゃん、初めての学校はどう?」

お弁当を手に持って屋上へ向かう道を歩きながらすずかはそう尋ねる。

「歳の近い子がこんなに沢山いるのは初めてだから、なんだかもうグルグルで・・・・・・」

「にゃはは・・・・・・」

そんなフェイトの言葉になのはも嬉しそうに微笑む。

「まぁ、すぐになれるわよ。 きっと」

隣のアリサもそう言ってフェイトに微笑む。

「うん。 だといいな」

フェイトも微笑みながらそう言って、四人で屋上へ向かって行った。

「それじゃあ、食べましょ!」

屋上に着くなりそう言ったアリサは空いているベンチに座り、お弁当を開ける。

「うわぁ。 相変わらずアリサちゃんのお弁当は美味しそうだね」

アリサのお弁当を覗きこんだなのはがそう言いながら自分のお弁当を開ける。

「なのはちゃんのも美味しそうだよ」

「さすが桃子さんね」

なのはの弁当に対してもすずかとアリサがそう言って評価する。

「すずかのは?」

気になったアリサはすずかのお弁当を早く開けるように急かす。

「私は自信ないかな。 今日は自分で作ったから・・・・・・」

ゆっくりとお弁当を開けたすずかだが、中身はかなり綺麗に並んでおり、とても美味しそうであった。

「すずかのも美味しそうじゃない!」

「うん。 すずか、料理上手なんだね」

すずかのお弁当を見たアリサとフェイトはそう感想をもらす。

「あ、ありがとう・・・・・・フェイトちゃんは?」

「あ、うん。 兄さんが作ってくれたから・・・・・・」

そう言いながら、自分の持つお弁当を開けたフェイト。

「「「「・・・・・・」」」」

美味しそうなおかずが並んでいるのだが、一つだけ周りとは違ったものがある。

それを見て、皆固まってしまったのだ。

「・・・・・・フェイト。 これ、なに?」

一つだけ真っ黒の塊をした物体を指し示すアリサ。

「えっと、確か・・・・・・お魚だったかな?」

そう言えば朝食にも同じものがあったなぁ、と思いつつフェイトはそう答える。

「トシアキさん、料理出来るのに魚は焼けないのかな?」

どこか違う考え方をしているなのは。

「他の料理も見た目だけで、味はダメだったりして・・・・・・」

すずかが苦笑しながらそう言った。

「・・・・・・フェイト。 辛くなったらいいなさい。 あのバカをやっつけてあげるから」

「えっと、大丈夫だよ。 たぶん・・・・・・」

アリサの言葉に曖昧な返事をしたフェイト。

こうして、昼休みのちょっとした出来事は幕を閉じたのであった。



~~あとがき~~


素早く二十三話投稿ww

さて、まずはすみませんです。
ヴォルケンズとの戦いを書こうと思い原作四話を見たのですが、よく考えたらフェイトの転校イベントあったじゃん!?
と、いうことを思い出しまして、急遽書くことになりました。

次回こそバトル要素を入れ、はやてやヴォルケンズを書きますので、お待ちくださいw

それでは、呆れずに次回を見ていただけることを祈って・・・・・・
また、会いましょうw



[9239] 第二十四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/12/15 01:04
久遠を肩に乗せたトシアキはアキとともに海鳴の街の住宅街を歩いていた。

「えっと、確か・・・・・・・・・あった! ここだ」

なんの変哲もない少し大きい一軒家で足を止めたトシアキ。

「・・・・・・ここですか?」

同じく足を止め、表札を確認するアキ。

トシアキは呼び鈴を鳴らし、家の人が出てくるのを待つ。

「は~い、どちら様ですか? あっ・・・・・・」

そう言って玄関の扉を開けたのは以前、トシアキが図書館で知り合った金髪の女性――シャマルであった。

「お久しぶりです。 八神はやてさんはいらっしゃいますか?」

出てきたシャマルに対して頭を下げたトシアキはそう尋ねる。

「・・・・・・はい、いますけど・・・」

対するシャマルは警戒心を見せながらそう答える。

「シャマル、お客さん?」

そのシャマルの声を遮り、後ろから車椅子に乗ったはやてが姿を見せた。

「八神さん、久しぶり」

「へ? あぁ!? あのときの兄ちゃんか! 確か、すずかちゃんの知り合いやったよな?」

外から手を振ったトシアキに気づいたはやては覚えていたようで微笑んでそう言った。

「そう。 すずかの知り合いだよ。 少し、八神さんに頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「えぇよ。 ウチは後で病院に行かなあかんから、長い時間は無理やけど」

トシアキの頼みを頷いて受け入れたはやてはそう言いながら家の奥に入って行く。

「まぁ、入って。 家の中で詳しく聞かせてぇな」

はやてにそう言われトシアキとアキは家の敷地内に足を踏み入れる。

「っ!?」

「・・・・・・」

一歩足を踏み入れた瞬間、トシアキの表情が強張る。

そんなトシアキの変化にいち早く気づいたアキは兄を無言で見つめる。

「・・・・・・これは、結界か?」

「はい。 ですが、私が使うミッド式ではありません」

トシアキの疑問の言葉にそう答えるアキ。

「やはり、ここが当たりだな」

「そうですね、兄様」

二人で小さく、そう言い合いながら家の中に入る。

そんな二人を観察するようにして、後ろを静かにシャマルが付いてきた。

「まぁ、座って」

はやてに勧められ、ソファに腰を下ろすトシアキとアキ。

そして、腰を下ろした二人ははやてと向かい合う形になる。

「ほんで、頼みたいことってなんなん?」

興味津々な様子ではやてがトシアキにそう尋ねてくる。

「実は俺の妹――アキっていうんだけどな」

そう言いながら隣に座るアキの頭にポンッと手を乗せるトシアキ。

「ずっと離れて暮らしてて、最近こっちに来たばかりなんだよ」

「ふむふむ・・・」

トシアキの言葉に頷くはやて。

アキはトシアキの手が頭の上に乗っていることに嬉しそうに微笑みながら黙っている。

「それで、近所に同じ年の友達がアキにはいないんだ」

「学校には行ってへんの?」

はやての最もな疑問にトシアキは苦笑しながらアキの頭に乗せている手を動かし、撫でてやる。

「アキは頭が良くてな。 向こうで学校は卒業してるんだ。 だからこっちでは行ってないんだよ」

「なるほどなぁ~」

感心した様子ではやてがアキを見つめる。

しかし、アキはそんな視線に気づくことなく頭を撫でられて微笑んでいる。

きっと尻尾があれば勢いよく振っていたことだろう。

「俺自身もそんなに知り合いがいなくてさ。 すずかにも頼んだんだけど、やっぱり友達は多い方がいいだろ?」

「うん、わかった。 そういうことやったらウチに任せてや!」

トシアキの言いたいことが分かったのか、笑顔で頷いたはやて。

「そう言ってくれると助かる。 ほら、アキ。 挨拶しな」

「・・・・・・はっ!? えっと、敷島アキです・・・・・・」

兄であるトシアキの言葉に我に返ったアキは、目の前でこちらを見ているはやてに自己紹介をする。

「ウチは八神はやてや、よろしゅうな、アキちゃん」

「・・・・・・」

はやての自己紹介にコクリと無言で頷くアキ。

「悪いな、アキはこんな奴でな。 少し話しにくいかもしれないが仲良くしてやってくれ、八神さん」

「ウチのことははやてでえぇよ。 アキちゃんのお兄さんなんやからな」

そう言って微笑むはやて。

そんなはやてにトシアキも笑みを浮かべ、答える。

「なら、俺のことも好きに呼んでくれていいぞ」

「ほな、トシアキさんで」

場も和んできたとき、はやての後ろに控えていたシャマルが話しだす。

「はやてちゃん、そろそろ病院の時間ですよ?」

「そやったね」

「じゃあ、俺達も帰るよ。 八が・・・・・・はやて、これからよろしくな」

はやてが病院に行くということで、帰るために席を立つトシアキとアキ。

「うん。 ウチこそよろしくな、トシアキさん、アキちゃん」

「・・・・・・うん」

アキも静かに頷き、それを確認したトシアキは一足先に外に出る。

「くぅ?(トシアキ?)」

「・・・・・・なんでもないよ、久遠」

今まで大人しくしていた久遠が、トシアキを心配して頬を舐める。

「お待たせしました、兄様」

「じゃあ、行こうか」

遅れて出てきたアキと合流したトシアキは自宅に戻るため足を進めた。



***



地球にある臨時の作戦本部として使っている部屋でエイミィは本局と通信していた。

「そう、無事に修理出来たんだね」

通信の相手はユーノであり、彼とアルフはレイジングハートとバルディッシュの修理が終わったのでその受取に行っていた。

「あと、なのはのリンカーコアも完治したそうで一緒に戻ります」

なのはは本局でリンカーコアの検査があったため、学校が終ったあとにすぐに本局に向かっていたのだ。

ちなみに、フェイトも付き添いとして一緒に行っている。

「よかった。 今、どこにいるの?」

「二番目の転送ポートです。 あと、十分くらいでそっちに戻れますから」

ユーノの言葉を聞いて、ホッと安心するエイミィ。

彼女なりになのはのことを心配していたようだ。

「じゃあ、こっちに戻ってきたら新しくなったレイジングハートたちの説明をするから・・・・・・」

そこまでエイミィが言ったところで、画面にレッドアラームが鳴り響く。

「うわぁ、大変だ! 艦長、至近距離にて緊急事態!!」

その報告を受けたリンディは画面を開き、捜査を行っていた武装局員に連絡を取る。

「・・・・・・状況は?」

「都市部上空にて、捜索指定の対象二名を捕捉しました。 現在、結界内部で待機中です」

報告を受けたリンディはすぐに指示を出す。

「対象相手は強敵よ、交戦は避けて外部からの結界の強化と維持を」

「はっ! 了解しました」

「現地には執務官を向かわせます!」

そうして通信は切れ、リンディはクロノと隣の部屋にいるアキに連絡を取った。

その頃の海鳴の街上空。

ヴィータと人間形態のザフィーラが管理局員に囲まれていた。

「管理局か・・・・・・」

「でも、雑魚いよ、こいつら。 返り討ちだ!」

ザフィーラの言葉に余裕を見せるヴィータ。

二人は背中合わせで身構え、周りの武装局員と対峙する。

「っ?」

しかし、ヴィータがグラーフアイゼンを構えたところで管理局員は離れて行く。

そんな様子に首を傾げているヴィータにザフィーラが答える。

「上だ!」

二人でさらに上空を見上げると、青い魔法陣が描かれており、その周りには剣の形状をした魔力がいくつも浮かび上がっていた。

「スティンガーブレイド!」

青い魔法陣の中心に立っていたクロノの声を合図に青い魔力の剣は二人目掛けて降下していく。

そして、いくつもの魔力の剣は見事に目標に当たり、爆発を巻き起こす。

「はぁっ、はぁっ、少しは・・・・・・通ったか」

かなりの魔力を消費したのだろうか、肩で息をしながらそう呟くクロノ。

「ザフィーラ!?」

爆発したあとに発生した煙が晴れて、見えてきたのは腕に何本か青い剣が刺さっているザフィーラの姿であった。

「気にするな、この程度でどうにかなるほど軟じゃない!」

ヴィータの心配する声を聞きながら、ザフィーラは腕に刺さった青い剣を抜きとり、握りつぶす。

「さすが!」

なんともないザフィーラを見て安心したヴィータは上空に浮かぶ、クロノを睨みつける。

「くっ!?」

睨まれたクロノも攻撃が効かなかったと悟り、自らのデバイスを構えなおす。

「私も手伝いましょう、クロノ執務官」

そんなクロノの隣にいつの間に現れたのか、アキがバリアジャケットを装着してそこにいた。

「ア、アキ執務官・・・・・・」

「スパイダー、起動」

【了解、マスター】

デバイスを起動させたアキは素早く対象の二人のそばに接近する。

「なっ!?」

「早い!!」

驚くヴィータとザフィーラを無視して、アキはデバイスから出る魔力の糸を操る。

「遅いです」

いくつも現れた魔力の糸だが、魔力を流しているアキにしか見えず、クロノは何をしているのか分からなかった。

「ちくしょー! なんだよこれ!?」

「くっ!?」

対するヴィータとザフィーラも魔力の糸が見えず、自分たちがなぜ動けなくなっているのかがわからない。

「私の攻撃です。 あなたたちを縛っているのはこの見えない糸・・・・・・あちこちに張り巡らしていますから逃げられませんよ?」

身動きが取れない二人を前にして淡々と話すアキ。

「っ!?」

しかし、突然表情を変え、その場から飛び去って行く。

そこにレヴァンティンを振りあげたシグナムが現れ、見えない糸を断ち切った。

「シグナム!?」

「大丈夫か、二人とも」

驚くヴィータをよそにそう尋ねるシグナム。

「あぁ。 しかし、よく見えない糸を切れたな」

シグナムの言葉に頷いたザフィーラが縛られていた体を動かしながらそう言った。

「いや。 奴を切ろうと振りおろしたらたまたま切れただけだ」

「「・・・・・・」」

思わぬシグナムの答えにヴィータもザフィーラも黙ってしまった。

「それより、結界が張られている。 入るのは簡単だったが、出るのは難しいぞ?」

「大方、先ほどいた管理局の連中が張ったのだろう」

「けっ! やるなら正面からこいってんだ!」

三人でそう話していると、視界に見慣れた姿を発見した。

「あいつっ!」

「シキシマか・・・・・・」

ヴィータがなのはの、シグナムがフェイトの姿を見てデバイスを構える。

三人の様子を見ていたなのはとフェイトも視線に気づいたのか、デバイスを構えて叫ぶ。

「私たちはあなたたちと戦いに来たわけじゃない、まずは話を聞かせて」

「闇の書の完成を目指している理由を・・・・・・」

しかし、なのはの言葉の途中でヴィータが遮って言葉を発する。

「あのさ、ベルカの諺にこういうのがあんだよ」

「「・・・・・・」」

そう言ったヴィータをシグナムとザフィーラが黙って聞いている。

「和平の使者なら槍はもたない」

ヴィータの言葉の意味がわからず、言われたなのはとフェイトは顔を見合してお互いが首を傾げる。

「話合いをしようってのに、武器を持ってやってくる奴がいるかってことだよ! バァーカ!」

「なっ!? いきなり有無を言わさずに襲いかかってきた子がそれを言う!?」

思わぬ言葉になのはが突っ込む。

「それにそれは諺ではなく、小話のオチだ」

隣で聞いていたザフィーラもそう言って補足説明を行う。

「うるせぇ! いいんだよ、細かいことは」

「確かにな。 今は奴らを倒してこの結界内から脱出するのが優先だ」

ヴィータの言葉に頷いたシグナムはそう言って、フェイトを見つめる。

「・・・・・・シグナム」

見つめられたフェイトも相手の名前を呟いて、バルディッシュを構える。

「クロノ君! アキさん! 手を出さないでね。 私、あの子と一対一だから!」

そう言ったなのはは飛びだして、ヴィータに迫る。

対するヴィータも飛び出し、なのはと正面からぶつかり合うことになった。

「本気か・・・・・・」

「そのようですね、クロノ執務官」

今までの成り行きを見守っていたクロノとアキが上空で見降ろしながらそう言葉を交わした。

「クロノ、姉さん。 私も・・・・・・彼女と・・・・・・」

今までシグナムと視線を交わしていたフェイトもそう言って飛びだす。

「なのはもフェイトも、本来の目的を忘れているんじゃないか?」

「そうみたいですね。 ですが、結界を張ってる今、彼らは逃げ出せません。 少しくらいなら構わないのでは?」

そう話すクロノとアキの足元ではすでにフェイトとシグナムがお互いのデバイスをぶつけ合っていた。

「仕方ない。 残った一人は・・・・・・」

「俺がやろう」

トシアキが姿を見せ、クロノの言葉を遮ってそう言った。

「トシアキ!?」

「兄様?」

突然のトシアキの登場にクロノは驚き、アキは首を傾げている。

「アルフには結界の強化を頼んだ。 あとこいつも連れてきたぞ」

「きゅぅ・・・・・・」

そう言いながら差し出したトシアキの手にはフェレット形態のユーノが目を回してグッタリとしていた。

「・・・・・・ユーノをどこで?」

「俺が結界内に入るために転送魔法を使って貰ったんだが、思ったより魔力を使ったらしくてな、この状態になった」

答えながらユーノをクロノに手渡すトシアキ。

「兄様・・・・・・」

そして、そんなユーノには目を向けず、アキは心配そうな目でトシアキを見つめる。

「俺はあいつと戦ってくる。 アキは探索を頼むな?」

「・・・・・・はい、わかりました」

軽くアキの頭を撫でたトシアキは上空で待っていたザフィーラのもとへ向かう。

「待っていてくれたみたいで悪いな?」

「気にするな。 それに我らベルカの騎士は一対一なら負けはない。 誰が相手でも同じだ」

言いながら戦闘態勢をとるザフィーラ。

「へっ! 言ってくれるな・・・・・・・・・殺り合おうぜ!!」

そのままトシアキとザフィーラは空中で格闘戦を始めた。

魔法を打ちあうなのはとヴィータ。

己のデバイスをぶつけ合うフェイトとシグナム。

そして、拳や蹴りでぶつかり合うトシアキとザフィーラ。

「・・・・・・それでは、私は探索に行きます」

三者三様の戦闘を見つめていたアキがそう言った。

「アキ執務官、探索とは?」

飛び立とうとしていたアキを呼びとめたクロノ。

その手にはグッタリとしたユーノが抱えられており、このシリアスな場面を色々と台無しにしていた。

「闇の書の騎士は全部で四人・・・・・・一人足りてません」

「あっ!?」

アキの言葉にその事実を気づいたクロノ。

「それに、闇の書の主もいる可能性があります。 ですので、私は探索に向かうのです」

「そうか、確かにその可能性は十分にある。 僕も手伝おう」

フェレット形態のユーノを近くのビルへ置き、アキにそう言ったクロノ。

「・・・・・・それでは私はここから時計周りに」

「僕は反対側だな」

そう言って二人は反対側へそれぞれ飛び出していく。

「きゅぅ・・・・・・」

置いて行かれたユーノはまだグッタリとして動けていなかった。

空中でヴィータと魔法を打ちあっていたなのは。

【マスター。 カートリッジロードを命じて下さい】

「うん。 レイジングハート、カートリッジロード!!」

レイジングハートからの助言を受け、戦闘の隙にカートリッジロードを行うなのは。

離れた位置ではフェイトもバルディッシュにより助言を受けていた。

【マスター】

「うん、私もだね。 バルディッシュ、カートリッジロード!!」

フェイトもバルディッシュに新たに加わったカートリッジシステムを使い、魔力を一時的にアップさせる。

そして、二人の様子を離れた位置で見ていたザフィーラとトシアキ。

「・・・・・・デバイスを強化したのか」

「みたいだな。 俺にはよくわからないが」

お互いが既に攻撃の手を止めており、少し離れた位置で話していた。

「しかし、先ほどの話は本当か?」

「信じる、信じないは勝手だけどな。 でも、俺は嘘を言ったつもりはないぜ?」

「ふむ・・・・・・」

不適に微笑むトシアキを見て、少し考える素振りを見せたザフィーラ。

「まぁ、すぐにわかる。 それまでゆっくりしてようぜ?」

「そうだな。 お前の拳はなかなかだったぞ」

「アンタの蹴りも強烈だったぜ」

宙に浮いたままそう言った二人はお互いのことを認めたのか、笑みを浮かべながら会話していた。

「我が名はザフィーラ。 ベルカの騎士であり、闇の書の守護騎士だ」

「俺は敷島トシアキ。 異世界からの旅人であり、とある国の王族だ」

二人は名乗りを終え、再び向き合う。

「結果がわかっているからと言ってなにもしないのは退屈だ」

「同感だな。 じゃあ、再び殺り合いましょうか」

そして、お互い拳を構えて正面からぶつかる。

「はあぁぁぁぁ!!!」

「てえぇぇぇぇ!!!」

こうして、トシアキとザフィーラの戦いが再び始まったのであった。



~おまけ~


はやてとの話が終わり、先に出て行ったトシアキ。

それを見たアキも付いていこうとするが、はやてに呼び止められた。

「アキちゃん、待って!」

「・・・・・・なんですか?」

呼びとめられたアキは仕方なくといった様子で足を止め、振り返ってはやてを見る。

「話しとったときから気になってたんやけど、そのジュースなんなん?」

そう言ってはやてはアキが持つ、果汁百%と書かれたオレンジジュースの紙パックを指す。

「これは、ジュースです」

「いや、そんなことが聞きたいんやなくて。 なんで飲まずにずっと持ってんの?」

アキの答えに苦笑したはやてはそう言いながら近づいてくる。

「飲むのが勿体ないからです」

「・・・・・・ジュースは飲むもんやで?」

大事そうにオレンジジュースを抱え込むアキを見ながらはやてはそう口にする。

「私にとって、このジュースは大切なものです。 飲むわけには・・・・・・」

「そやけど、飲んでまわんとそれこそ勿体ないんちゃうん?」

「・・・・・・」

はやての言葉に何かを気づかされたのか、アキが目を見開いて固まる。

「アキちゃん?」

「(そうです、早く飲まないと兄様との・・・)」

呼びかけにも気づかずにアキはジッとジュースを見つめる。

「えっと、アキちゃん?」

そして、そのままジュースをゴクゴクと飲みほしてしまったアキ。

「はやて。 あなたは素晴らしい人です。 よく教えてくれました」

「えっと、とにかくありがとう?」

なぜ褒められたのか、よくわからないはやては首を傾げつつもお礼を言う。

「私は今なら管理局も潰せそうなくらい元気が出ました」

「管理局って、漫画かなんかか?」

「そんな感じです」

はやての疑問に答えつつ、アキは踵を返して玄関に向かって行く。

「それでは、お邪魔しました」

入口で再度振り返ったアキははやてとシャマルに対して頭を下げて出て行った。

「・・・・・・な、なんだったんでしょうね?」

「変わった子やったね」

アキの口から『管理局』という言葉が出て一瞬驚いてしまったシャマルであった。

「あっ、そう言えば、空になった紙パック持って帰って、どないするんやろ?」

飲みほしたジュースのパックをもって帰ったことに疑問が残ってしまった二人であった。



~~あとがき~~


ヴォルケンズとの二度目の戦闘開始しました。
戦闘シーン・・・・・・私の最も苦手なシーン、書けるかなぁ?
と、思う作者です。

次の話はこの話の続きとなります、書けるかな・・・・・・
いつまでもウダウダやってられないので前を見て進みますw

誤字の指摘や感想はいつも心待ちにしていますので、よろしくお願いしますw
それでは、また次回のお話でお会いしましょうw



[9239] 第二十五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/12/15 01:21
ヴィータとなのはは魔法のフィールドを身体に纏いつつ、上空を素早く移動していた。

「ふん! 結局やんじゃねぇかよ」

「私が勝ったら話を聞かせてもらうよ! いいね!?」

後ろから追いかけてくるなのはの言葉を聞いたヴィータは移動を止め、ポケットから銀色の球を四つ取り出す。

「やれるもんなら、やってみろよ!!」

四つの球を放り投げて、魔法陣を素早く展開したヴィータはグラーフアイゼンで魔力を込めた球をなのはに向かって打つ。

追いかけていたなのはも攻撃が来るとわかると、さらに上空へ回避する。

「アイゼン!!」

回避行動を取ったなのはを追撃する形でヴィータは、グラーフアイゼンの形状を変える。

「やあぁぁぁ!!」

ジェットとドリルが加わったグラーフアイゼンでなのはに攻撃を仕掛けるヴィータ。

「っ!?」

前回、この攻撃でやられたなのはは今度こそ受け止めるためにバリアを張る。

「かてぇ・・・・・・」

なかなかバリアを貫けないヴィータは思わずそう呟く。

「あっ、ほんとだ」

なのは自身もカートリッジシステムの影響で魔力が高まっており、バリアの強度が上がっていることに気づいた。

しばらく均衡が続いたが、魔力と魔力のぶつかり合いだったため爆発が起き、両者とも吹き飛ばされてしまった。

「きゃっ!?」

「うわぁぁ!?」

飛ばされたなのはだが、バリアを張っていたため素早く体制を立て直すことが出来た。

「アクセルシューター、シュート!!」

レイジングハートから放たれた無数の桃色の魔力弾はあちこちに飛んで行く。

「えっ!?」

魔力弾のあまりの多さに放ったなのはも驚き、制御が疎かになってしまったのだ。

「バーカ。 そんな大量の弾を全部制御できるわけねぇ」

飛びまわるなのはの魔力弾を無視して、ヴィータは先ほど飛ばした四つの銀色の球に魔力を込めなおす。

なのはに避けられて宙に浮いたままだった銀色の球は、ヴィータの魔力によって再びなのはに襲いかかる。

「・・・・・・」

自分の魔力弾を制御するため、集中していたなのはは目を閉じているためヴィータの攻撃に気づかない。

しかし、当たる寸前のところで、なのはの魔力弾が銀色の球を全て叩き落としてしまった。

「・・・・・・っ!?」

その事実に、自分の攻撃が当たることを予想していたヴィータも驚いて声がでない。

「約束だよ! 私たちが勝ったら、事情を聞かせてもらうって!!」

なのはの言葉にヴィータは警戒して、自分の周りにバリアを展開する。

「アクセル・・・・・・・・・シュート!!」

そんなことはお構いなしに、なのはは飛びまわっている自分の魔力弾をヴィータにぶつける。

ヴィータのバリアに何度も魔力弾を当てるなのは。

「このっ・・・・・・」

攻撃の嵐から出ることが出来ないヴィータはバリアの中で遠くにいるなのはを睨みつけるのであった。

そのころ、結界内の離れた場所でフェイトとシグナムがお互いの武器を交えていた。

「はあぁぁぁ!!」

「やあぁぁぁ!!」

素早く移動しつつ、近づくたびにバルディッシュとレヴァンティンが激しくぶつかる。

そして、間合いを取って離れたフェイトは黄色い魔力槍を展開させる。

「っ!?」

展開されたフェイトの魔力槍を見て、僅かに顔を顰めるシグナム。

「プラズマランサー、ファイア!」

それを気にせず、すぐに魔力槍をシグナムに向かって放つフェイト。

「はっ!!」

まっすぐに向かってきたそれを、シグナムはひと振りで弾き飛ばしてしまう。

だが、そんなことになるのは予想していたのか、フェイトも表情を変えずに魔力槍に力を込める。

「っ!?」

四方八方に飛ばされたフェイトの魔力槍が再びシグナムに襲いかかる。

さすがに今度は防げないと悟ったのか、そのまま上空へ回避するシグナム。

だが、フェイトの魔力槍はそのままシグナム目掛けて向かってくる。

「レヴァンティン!」

シグナムはカートリッジを使い、迫りくるフェイトの魔力槍を炎の壁で遮った。

その隙をついてフェイトがカートリッジを使用したバルディッシュで襲いかかる。

しかし、シグナムも慌てることなくフェイトの攻撃を防ぎ、そこで魔力の衝突による大きな爆発が起こった。

「・・・・・・強いな、シキシマ。 それにバルディッシュ」

「あなたと、レヴァンティンも・・・・・・」

お互い、身体のあちこちに切り傷をつくり、己のデバイスを構えたまま話す。

「この身になさねばならぬことがなければ心躍る戦いだったはずだが、仲間たちと我が主のため、今はそうも言ってられん」

そう言いながらレヴァンティンを鞘に戻し、構えるシグナム。

「殺さずに済ます自信はない。 この身の未熟を許してくれるか?」

そして、足元に魔法陣が現れる。

それを見ていたフェイトも、バルディッシュを構えなおし、シグナムに答える。

「構いません。 勝つのは、私ですから」

両者は見つめ合い、いつ攻撃をしてもおかしくない緊張感が辺りに漂う。

「うわぁぁぁ!?」

しかし、シグナムとフェイトの間に飛んできた人物によって、緊張感が霧散してしまった。

「に、兄さん?」

「むっ、ザフィーラか」

二人の間に飛んできたのはトシアキであり、上空では拳を振りおろした形で静止しているザフィーラがいた。

「おっ? フェイトか」

「ん、シグナム。 邪魔をしてしまったようだな」

トシアキがフェイトのそばに、ザフィーラがシグナムのそばに寄ってきて、そう話す。

「兄さん、大丈夫?」

「あぁ。 大丈夫だ。 あいつの攻撃はなかなか痛いけどな」

心配するフェイトの頭を撫でてやりながら答えるトシアキ。

フェイトは久しぶりに撫でて貰ったため、嬉しそうに微笑んでいた。

「状況はあまり良くないな。 お前やヴィータが負けるとは思わんが、ここは引くべきだろう」

「うむ、そうだな。 しかし、結界を破壊する必要がある」

ザフィーラとシグナムも今の状況を見て、そう判断を下す。

「さて、続きといきますか」

二人の言葉が聞こえたのか、会話に区切りがついた後で不敵に微笑みながらそう言ったトシアキ。

「はっ!!」

右手を大きく横に振ったトシアキ。

「避けろ!!」

トシアキの行動に首をかしげたフェイトとシグナムだが、突然のザフィーラの言葉に反応して身体を動かすシグナム。

「なっ!?」

今まで自分の身体があった場所を風の刃が通過していったことに驚いたシグナム。

そして、トシアキの放った風の刃はそのまま遠くへ飛んで行ってしまった。

「助かったぞ、ザフィーラ。 しかし、見えなかったあの刃がなぜわかった?」

「俺は鼻が利く。 突然、風向きが変わったことに違和感を覚えただけだ」

トシアキの魔法の影響を受けた風は、通常時に吹いている風とは違う力が働いている。

そのため、自然の流れとは違う風の動きをザフィーラは感じ取ったのだ。

「ちっ! 当たらなかったか・・・・・・」

「兄さん、一体なにをしたの?」

自分の攻撃が当たらなかったことに舌打ちをしたトシアキに対して、先ほどの行動の意味を理解できなかったフェイトが首を傾げて尋ねる。

「いや、ちょっとした不意打ちをしたんだが、避けられた」

そう答えたトシアキに、フェイトは少し怒った表情でトシアキを見つめる。

「ん? なんだ、フェイト」

「シグナムの相手は、私」

どうやらトシアキがシグナムに攻撃したことがフェイトの怒りに触れたらしい。

「いや、この状況で相手は誰でも・・・・・・」

「・・・・・・」

『敵は敵』という考え方のトシアキだが、フェイトに無言で見つめられ言葉を飲み込む。

「・・・・・・悪かったよ、今度から気をつける」

「うん」

トシアキの言葉に満足そうに頷いたフェイトであった。

フェイトが頷いた瞬間、周辺に張り巡らされた結界が突然、消え去ってしまった。

「「「っ!!?」」」

「あっ・・・・・・」

結界が解けたことにシグナムとザフィーラ、フェイトの三人が驚き、トシアキは心当たりがあるように言葉をもらした。



***



少し時は遡る。

シグナムとフェイトが戦っているとき、結界の外側にいたシャマルはどうやって仲間を助けるか悩んでいた。

「管理局が外から結界を張ってて、強化までされてる。 私の魔力じゃ破れない」

結界の上空では、管理局の武装局員が結界を張っており、その中心でアルフが強化に努めていた。

「シグナムやヴィータの攻撃なら・・・・・・」

中に閉じ込められている仲間を思い浮かべながら、何とか結界を破壊する方法がないか考える。

「闇の書の魔力を使えば・・・・・・」

そこまで言ったところで、シャマルは後ろからデバイスを向けられていることに気がついた。

「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します」

シャマルの後ろには、デバイスを付きつけたクロノがいた。

結界内をアキと探し終えて見つからなかったため、結界の外を探していたのだ。

ちなみにアキは真反対側を捜索している。

「抵抗しなければ弁護の機会があなたにはある。 同意するなら武装の解除を・・・・・・」

「ふんっ!」

クロノがそこまで言ったところで、何者かがクロノを横から蹴り飛ばした。

「かはっ!?」

数十メートルほど飛ばされたクロノはフェンスに背中から激突し、動きを止めた。

「な、仲間・・・・・・?」

クロノを吹き飛ばした相手は男性のような体格で白い仮面を付けた人間であった。

「あなたは?」

助けてもらったシャマルだが、見たこともない相手に警戒心を見せ、そう尋ねる。

「少し待っていろ。 結界は直に消える」

シャマルの質問に答えず、仮面の男はそう言った。

「えっ?」

自分がどうにかして破壊しようとしていた結界が直に消えると教えられ、思わず聞き返す。

「闇の書の力を使おうとするな。 再び蒐集するのに時間がかかる」

「でも、あんな頑丈な結界が消えるなん・・・・・・」

シャマルの言葉は大きな音によってかき消されてしまった。

大きく、頑丈に張られていた結界が突然、大きな音を立てて消えてしまったのだ。

「えっ!?」

「なっ!?」

仮面の男が言った通りに結界が消えたことに驚いたシャマルと、武装局員数十人とアルフの強化で出来た結界が消えた事実に驚いたクロノ。

「これで仲間は助かるはずだ。 見つからないようにすることだ」

それだけ言って仮面の男はその場から姿を消した。

「ま、待てっ!」

仮面の男にそう言ったクロノだが、思ったよりも身体がダメージを受けたのか、その場から動くことが出来なかった。

≪皆、いつものように一度散って、いつもの場所に≫

≪≪おう!!≫≫

シャマルの合図とともに、シグナム、ヴィータ、ザフィーラはそれぞれ転移して消えていく。

「・・・・・・」

最後にシャマルも、睨むように見つめるクロノを一瞥してから転移して、その場から消え去った。

「・・・・・・・・・くそっ!!」

動けないクロノはその場で拳を地面に叩きつけて、追い詰めながら捕えられなかったことを後悔した。

「大丈夫ですか、クロノ執務官」

そこに、今まで結界の反対側を捜索していたアキが現れ、そう声をかけた。

「・・・・・・あぁ。 だが、逃げられてしまった」

「仕方ありません。 あの結界が破壊されることを予想していなかった私にも責任があります」

なのはとフェイトの一対一の我儘を受け入れたアキもそう言って反省する。

「しかし、一体誰があの結界を・・・・・・」

アキとクロノが話しているうちに皆がその場に集まってきた。

「クロノ君、大丈夫?」

気を失っているフェレット形態のユーノを抱えいるなのはがそう言った。

「僕は問題ない、この程度の怪我はすぐに治せる。 それより、ユーノは?」

「うん、まだ気を失ってるみたい」

「きゅ~」

今回は全く役に立てなかったユーノであった。

「アルフ、大丈夫だった?」

「あぁ。 大丈夫だよ。 でも驚いたねぇ、あたしの強化ごと破壊するなんて」

フェイトは外で結界を強化することに努めていたアルフが、結界が破壊されたことによって巻き込まれたのではないかと心配する。

「確かに。 あの破壊のされかたは妙でした。 まるで中から切り裂いたような・・・・・・」

アキも外から結界の様子を見ていたため、破壊されたときも細かく見ていた。

「えっと、その、すまん。 たぶん、俺の魔法の所為だ」

みんなで状況整理や原因追及をしていたところに、トシアキが苦笑しながらそう言った。

「「「「・・・・・・」」」」

「さすが兄様です」

トシアキの告白にアキ以外が黙ってトシアキを見つめる。

アキはアキで、どこかずれたように兄の凄さを褒め称えていた。

「また、君が原因かぁぁぁ!!!」

前回も同じようなことがあったため、思わず怒鳴りつけてしまったクロノ。

「悪かったって! まさか、アレが避けられるとは思わなかったんだよ」

「あっ、アレが原因なんだ・・・・・・」

その場に居合わせたフェイトはそう言って納得した。

「全く! 君は本当に―――」

それからしばらくトシアキはクロノに怒鳴られるのであった。

なお、トシアキを庇おうとしていたアキはフェイトとアルフに両腕を抑えられ、早々に臨時の作戦本部に帰ってしまった。

なのはもユーノを心配して一緒に戻っている。

「―――なんだ。 聞いているのか!?」

「・・・・・・おう、聞いてるよ」

クロノの説教はしばらく続き、トシアキはげんなりした様子で相槌を打っていた。

「そう、そんなことがあったの。 それで敷島さんは疲れているのね」

「彼は今後、結界を張った捕獲作戦のときは使わないほうがいいでしょう」

クロノはそう言ってリンディと話始める。

ソファには身体を完全に預けたトシアキが黙って座っていた。

「わかったわ。 敷島さんの魔法の効果を忘れていた私も問題よね」

PT事件のとき、クロノのバリアを破壊しているのを目撃しているリンディ。

「・・・・・・とにかく、逃げられてしまったから仕方がない。 今度は逃がさないように注意しよう」

クロノがそう話をまとめて今日は解散となった。

「・・・・・・んじゃ、帰るか」

トシアキの言葉でアキとフェイト、アルフはぞろぞろと部屋を出て行く。

「私も帰るね? あんまり遅くなっちゃうと、お母さんに怒られるし」

フェレット形態のユーノを抱えたなのはも一緒に外へ出て行く。

玄関でなのはと別れ、自分たちの家に入ったトシアキたち。

「悪い、俺はもう寝る。 思ったよりクロノの説教が利いた・・・・・・」

そう言いながら玄関のドアをあけたトシアキは腹部に衝撃を受け、そのまま倒れてしまう。

「に、兄さん!?」

「兄様!?」

「大丈夫かい? トシアキ」

三人から心配されたトシアキの腹の上では、人間形態の久遠がトシアキに抱きついていた。

「トシアキぃ!」

トシアキが帰って来るのをずっと待っていた久遠は嬉しそうに微笑む。

「久遠、兄さんは疲れているから・・・・・・」

フェイトにそう言われ、大人しくトシアキから離れる久遠。

「久遠、開けた瞬間に飛びつくのは勘弁な」

苦笑しながら起きあがったトシアキは久遠の頭を軽く撫でてから、部屋に入って行く。

「・・・・・・くぅ」

そんなトシアキの様子に心配する久遠。

「兄さん、大丈夫かな?」

「まぁ、明日には元気になってるよ。 あたしたちも入ろうか」

アルフの言葉に従い、フェイトと久遠は家の中に入って行く。

「・・・・・・」

「アキ?」

「姉さん?」

そんな中、黙ったままで動かないアキの名前を呼ぶ久遠とフェイト。

「兄様に元気になってもらいましょう!」

「「「??」」」

アキの突然の提案に、内容が全く分からない三人は首を傾げるのであった。



~おまけ~


トシアキたちが住んでいるマンション。

最上階であるここは部屋もそれなりに広く、ロフトまである高級住居だ。

フェイトはアルフとともに前に使っていた部屋を使用しており、もう一部屋はアキと久遠が一緒に使っている。

そしてトシアキは一人、男ということもありロフトのスペースにベッドを置いてそこで寝ていた。

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

アキも久遠もフェイトもトシアキと一緒に寝てもいいと思っている。

しかし、トシアキ自身は妹とはいえ年ごろの女の子と寝るのはよくないと思っており、こうして一人で寝ているのである。

ちなみにアルフはフェイトの意見に従うので、どっちでもいいらしい。

「ね、姉さん。 ほんとにするの?」

「はい。 兄様の疲れを癒すのは私たちの仕事です」

「くぅ!」

お風呂に入り、パジャマに着替えたフェイトは未だに迷っているのか、歩む速さが遅い。

「早く行きましょう」

対するアキはパジャマに自分の枕を抱え、意気揚々とロフトへと続く梯子へ向かう。

「くぅ!」

子狐形態になっている久遠はアキの頭の上で手をあげて賛同する。

「フェイトぉ、眠いよぉ」

同じく子狼形態になったアルフはフェイトの腕の中で目が閉じかかっていた。

そうこう言っているうちに、二人と二匹はトシアキが眠るベッドのそばに到着した。

「・・・・・・」

「くぅ!」

アキと久遠はトシアキが眠る布団に潜り込み、右腕にしがみ付く。

「兄様・・・・・・」

「くぅ・・・・・・」

トシアキの右腕にしがみついたアキはそのまま深い眠りに落ちて行った。

ちなみに久遠もトシアキとアキの間で幸せそうに眠っている。

「・・・・・・」

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

残されたフェイトはどうしようかと真剣に考え、視線を泳がせる。

ちなみにアルフは我慢できず、フェイトの腕の中で眠ってしまった。

「兄さんはいつも一緒に寝たらダメって・・・・・・でも、姉さんはいいって・・・・・・」

義兄と義姉の言葉、両方を思い浮かべながらどちらを優先するか考えるフェイト。

「・・・・・・うん、いいよね」

結論が出たフェイトはアキがいる方とは反対側、トシアキの左側に潜り込む。

「暖かい・・・・・・」

布団の中の暖かさと兄と眠れる幸せを噛み締めながらフェイトも目を閉じる。

「おやすみなさい、兄さん、姉さん・・・・・・」

こうして、三人と二匹はともに夜を過ごしたのであった。



~~あとがき~~


遅くなりましたが二十五話、更新です。
就職活動で忙しくなかなか書けなかったのですが、もう諦めました(就職活動を)
どれだけ頑張っても働けない(雇ってくれない)orz
今年はもうしない!

と、私の近況などはゴミ箱に捨てておいて・・・・・・
ようやく戦闘シーン終了です。(書けてるかな?)
まぁ、As編は戦闘シーンが多いので頑張らなければならないのですが・・・

次回は普通の日常編を書きます!
もう、しばらく戦闘シーンは嫌なのでw
こんな作品でも読んでくれる人がいて嬉しいです。
あまり長くなるのもアレなので・・・・・・それではまた、会いましょうww



[9239] 第二十五.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2009/12/25 07:33
海鳴の街にそびえ建つビルやマンション。

その中の高級マンションの最上階の部屋で彼、敷島トシアキはソファに腰をおろしながら、窓から見える景色を眺めていた。

「・・・・・・・・・暇だ」

そう呟いたトシアキの傍にはいつもいるはずの家族の姿が見えない。

「フェイトは学校行ったしなぁ・・・・・・」

義妹のフェイトは平日のため、なのはたちと同じ学校で勉強中だ。

「アキは仕事があるって言ってたし・・・・・・」

実妹のアキは今まで溜めていた管理局の仕事がそろそろ間に合わなくなっているらしい。

アキの執務官補佐が泣きながら連絡してきたくらいだからかなりピンチなのだろう。

「久遠とアルフは仲良く散歩だしなぁ・・・・・・」

子狐姿の久遠と子狼姿のアルフは仲良く散歩中だ。

一応、トシアキも誘われたのだが、アルフの首輪に繋がる紐を持つのに抵抗があったのと、この寒いときに外に出たくないという理由で断ったのだ。

ちなみにアルフの紐はエイミィが持って出かけた。

「俺も散歩に行けば良かったかなぁ・・・・・・」

勝手に何処かに出かければいいのだが、こないだの件で外出するときはクロノかリンディに伝えなくてはならないのだ。

「子供じゃないんだから・・・・・・」

独りでそう呟くが、答えてくれる者はおらず、静かな空間を冷蔵庫の音だけが聞こえてくる。

「・・・・・・・・・やっぱり、出かけるか。 手続きが面倒だけど」

そこまで言ったところで呼び出し音が鳴った。

「おっ?」

高級マンションであるため、新聞の勧誘や宗教の勧誘はほぼないと言っていい。

つまり、訪ねてくるのは知り合いに限られる。

「なのはたちは学校だし・・・・・・ここに俺の知り合いなんて数えるくらいしかいないからなぁ」

独りでそう言いながら玄関に向かう。

なんだかんだ言って、暇を潰せる相手なら何でもいいトシアキであった。

「はい、はい。 ・・・・・・・・・っと?」

外にいる相手に返事をしながらドアを開けたトシアキだが、そこには誰もいなかった。

「・・・・・・・・・イタズラ?」

首を覗かせて左右の廊下を見るが誰もおらず、さっきまでいた気配もない。

「なんだったんだ、一体・・・・・・」

「下よ、下」

首を傾げたトシアキの足元から声が聞こえてきた。

「・・・・・・お前、アリアか?」

声を辿って足元を見ると、ネコが可愛らしく座りながらトシアキを見上げている。

「そうよ、今回はわかったみたいね」

「まぁな。 猫で話すのはアリアかロッテだろうし・・・・・・」

トシアキの答えに満足そうにユラユラと尻尾を揺らすアリア。

「でも、アキはいないぞ? あいつなら管理局に行ったんだが・・・」

「いいのよ。 今回はあなたに用事があるから。 入ってもいいかしら?」

言いながら首を傾げるアリア。

「あ、あぁ」

通路を譲ったトシアキ。

そして、アリアは猫の姿のままトコトコと部屋に入って行った。

「俺に用事? 依頼の追加か何か?」

アリアの発言を考えつつ、ドアを閉めてアリアのもとへと向かった。

リビングに入るとアリアは相変わらずの姿でソファに座っていた。

「座らせてもらったわよ?」

「あぁ、いいんだけどよ・・・・・・」

言いながらアリアの横に腰を下ろすトシアキ。

「何?」

眉を顰めて隣に座ったトシアキの様子が気になったのか、アリアはそう質問する。

「猫の姿で人間の言葉を話すのやめてくれねぇ?」

「・・・・・・」

「人間の言葉で話すなら人の姿に、猫のままでいたいなら動物の言葉で話してくれ。 体中に鳥肌がたつ」

「・・・・・・みゃぁ~(・・・・・・わかったわ)」

トシアキの言葉を聞いたアリアはそう返事をする。

「それで、俺に用事ってなんなんだ?」

「みぃ、みぃ、みゃぁ(この間の件よ、結界を破壊してくれて、ありがと)」

猫の姿でそう言ったアリアは、その場で軽く頭を下げる。

「依頼だったからな、気にするな」

「みゃぁ、みゃぁ(でも、本当に破壊出来るとは思わなかったわ)」

「あぁ。 なんか俺の魔法がお前らのところと違うみたいでな。 俺も詳しくわからないんだが」

言いながらソファに背中を預けるトシアキ。

隣に座ったため、姿を見ながら話すのに疲れが出てきたのだ。

「みゅぅ。 みゃ!(私もよくわからないわ。 にしても寒いわね)」

ソファの上で体を丸めたアリア。

季節は冬で、しかも部屋は広い、そのため暖房を入れないと寒いのだろう。

「さすがに一人だと勿体ない気がしてな」

苦笑しながらそう言ったトシアキは、体を丸めたアリアを抱きかかえる。

「みゃっ!?(ちょっ!? なによ!?)」

自分の尻尾を二度も掴まれたことがあるアリアは警戒する。

「ここにいれば多少はマシだろう。 おぉ、暖けぇな」

そんなアリアを無視して、トシアキは抱えたアリアを自分の膝の上に乗せる。

「みゅぅ・・・(ほんと、暖かい・・・)」

「今さらだが、猫の姿でいるのは何故だ?」

人の姿になっていればトシアキも暖房のスイッチを入れていただろう。

「みゃぁ、みゃぁ(私がここに来たことをクロノたちに知られるわけにはいかないのよ)」

トシアキの膝の上で体を丸めたアリアがそう答える。

「・・・・・・猫の姿でも同じじゃねぇ?」

「みゃぁ、みゅっ(この姿を知っているのは父様とロッテ、それからあなただけよ)」

その事実に思わず固まるトシアキ。

まさか、付き合いの長いクロノやアキも知らないとは思わなかったのだ。

「にゃぁ、にゃ?(あなた、前に会ったときは言葉なんて気にしていなかったでしょ?)」

公園で話したときのことを思い出したのか、アリアは驚きで固まっているトシアキに尋ねる。

「人の言葉しか話せない猫だと思ったんだよ」

「・・・・・・・・・バカ?」

「うるせぇ! まさか人の姿になれるなんて思わないだろ、普通!」

思わず人間の言葉で返してしまったアリア。

自分のことを誰かの使い魔だと見破りつつ、人の姿になれるとは思わなかったらしい。

「みゃぁ(普通は猫が人の言葉を話すなんてあり得ないけどね)」

「魔力を持っている使い魔なら話せても不思議はないと思ってた」

「みゅぅ(なるほどね)」

そこで会話は終了し、静かなときがしばらく流れる。

その間、アリアはトシアキの膝の上で先ほどと同じように丸くなっており、トシアキもアリアを乗せたまま天井を眺めていた。

「・・・・・・なぁ」

そんな沈黙を破ったのはトシアキであった。

「みゃ?(何?)」

アリアも普通に返事をする。

静かなので寝ているのではないかと思っていたトシアキであったが、口には出さない。

「俺に用事ってさっきのことだけか?」

「・・・・・・・・・」

確認するように尋ねたトシアキだが、アリアは黙ってそっぽを向いてしまった。

「アリア?」

返事をしないアリアが気になり、視線を天井からアリアに移す。

「・・・・・・くせに」

「ん? なんて言った?」

小さい呟きだったため、トシアキは聞きとることができなかった。

人間の呟き程度なら風の精霊のおかげで聞き取れるのだが、猫の小さな口から洩れる呟きはわからなかった。

「話相手になってほしいって言ったくせに!」

そう怒鳴るように言って、トシアキの膝の上から飛び降りたアリア。

「お、おい、アリア!」

「知らない!」

トシアキの呼びとめる声も無視して、アリアは玄関に向かって走って行く。

「あっ・・・・・・」

走り去るアリアの後ろ姿を見て、トシアキは公園で会話した内容を思い出した。

「アリア!!」

思い出してから、トシアキは玄関に向かって走り出す。

そして、玄関でアリアの姿を見つけたトシアキ。

「・・・・・・」

猫の姿のままで玄関のドアを爪で引っ掻いているアリアがそこにいた。

「アリア」

「・・・・・・」

トシアキの呼びかけにドアを爪で引っ掻く作業を中断するアリア。

「悪かった。 確かに俺が頼んだよな」

「・・・・・・」

両手を合わせて謝るトシアキに視線を向けたアリア。

「でも、まさか本当に来てくれるとは思ってなくて、そのことを頭の隅に追いやってた」

「・・・・・・楽しみにしてるって言った」

どこか拗ねたような口調でそう言ったアリア。

「確かに言った」

「だから、お礼を言うついでにと思って仕事を片づけたのに・・・・・・」

「本当にすまん。 何か埋め合わせするから」

トシアキの態度に許す気になったのか、再びリビングに向かって歩き出すアリア。

「みゃぁ(今回だけだからね)」

振り返ってそう言ったアリアに思わず苦笑いを浮かべたトシアキであった。



***



管理局本局のとある一室。

書類や本で埋め尽くされた机に向かって座るアキがいた。

「はっ!? 今、兄様が危険な状態に!!」

そう言って椅子から立ち上がったアキだが、横にいた管理局員に止められる。

「この仕事の山が終わるまでダメです。 というか、何度も同じことを言って立ち上がらないでください」

そう言って再びアキを椅子に座らせるアキの執務官補佐。

「これが三週間前の書類です。 そしてこっちがその資料」

アキの目の前に一枚の書類と三冊の資料を並べる。

「お願いしますね? アキ執務官」

本来のアキなら兄であるトシアキと片時も離れなかっただろう。

しかし、兄のために管理局から去るわけにはいかなくなったアキは仕方なく溜まった仕事を片づける。

「うぅぅ・・・・・・・・・兄様ぁ・・・・・・」

そして一つ片付けるたびに先ほどのように立ち上がり、五分ごとにこうやって呟く。

「はいはい、兄様に早く会うためにお仕事、頑張ってください」

執務官補佐である彼女は三人目となるアキの執務官補佐だ。

前にいた二人はアキの無言、無表情の圧力に耐え切れず辞めてしまった。

「・・・・・・」

三人目である彼女もそうなってしまいそうだったが、ある日を境にアキの性格が変わって表情が豊かになり、話しやすくなった。

そのため、見たこともないアキの兄様に感謝しつつ、自分の職務を全う出来る彼女であった。

「お、終わりました。 兄様のもとへ・・・・・・」

「これもあります。 まだまだ終わりまで遠いですよ?」

先ほど渡した書類を片づけたアキはそう言って立ち上がろうとする。

そこへ透かさず、新たな書類と資料を置く。

「・・・・・・」

無言で書類を睨みつけたアキ。

「はっ!? 今、兄様が危険な状態に!!」

そして、先ほどと同じ言葉を発して椅子から慌てて立ち上がる。

「ならば早く終わらせて下さいね?」

アキは執務官補佐に肩を押され、再び椅子に座りなおす。

そして、また同じことを呟きつつ、仕事を片づけるのであった。

アキの執務官室とは別室。

管理局本局の一室でロッテは唸りながら、目の前の書類を睨みつけていた。

「うぅ・・・・・・終わらない・・・・・・」

隣の席に座り、いつも手伝ってくれるアリアが今日はいない。

自分の分を片づけるとさっさと出て行ってしまったのだ。

「どうしよ。 クロ助は地球だし、アキは自分の仕事で忙しいし・・・・・・」

双子の片割れがいないことに悪態を吐きつつ、頭を抱えて考えるロッテ。

「・・・・・・そうだ! 父様に相談しよう」

「私がどうかしたかね?」

アイデアを思いつき顔をあげると、目の前にグレアムが立っていた。

「父様ぁ~~~。 仕事が片付かないよぉ~~~」

情けない姿を見せつつ、ロッテはグレアムに駆け寄る。

「ふぅ。 また溜めていたのかね。 アリアのように毎日やっていれば問題ないはずだろう?」

そんな情けない姿を見せる自分の使い魔に呆れた様子で問いかける。

「その・・・・・・戦闘訓練や教導をやってたら忘れてて」

「いつも手伝ってくれるアリアはどうした?」

なんだかんだ言いながらも毎回、最終的に手伝っているアリアの姿が見えないため、グレアムが所在を尋ねる。

「なんか自分の分を終わらせて出て行った。 念話も通じないし」

「ふむ・・・・・・なら自分でするしかないな」

考えたグレアムだが、ロッテの希望を打ち砕く答えを出す。

「えぇ~~~。 父様、手伝ってくれないの?」

「私も少し仕事が溜まっていてな。 アリアに手伝ってもらおうと思ってきたのだが、いないのならば自分でやるしかないだろう」

実は訪ねてきたグレアムも仕事が溜まっているらしい。

提督クラスの仕事を普通は出来るはずないのだが、アリアはそう言った面でも優秀なため手伝いをすることが出来る。

「アリアぁ~~~。 帰ってきてよぉ」

「呼んだ?」

まさに打つ手なしという状況にロッテが情けない声をあげる。

すると、タイミングよくアリアが部屋に入ってきた。

「アリア! どこ行ってたのよ? それより、あたしの仕事がピンチなんだ、手伝ってよ!」

次々と話すロッテの言葉を聞きとったアリアはため息を吐く。

「はぁ。 ロッテってば、仕方ないんだから。 いつかこの貸し、返してよね?」

「うん、うん! 今度返すから。 さぁ、手伝って!!」

ロッテに急かされてアリアは机に積まれていた書類を半分自分の机に持って行く。

「父様はどうしてここに?」

その途中、グレアムの存在に気づいたアリアは書類を手に持ちながらそう尋ねる。

「私も自分の仕事が溜まっていてな。 アリアに手伝ってもらおうかとおもっていたのだが・・・」

そこまで言って、ロッテの残りの仕事の多さに自分の仕事を手伝ってもらうのは無理だと諦めたグレアム。

「父様も? 珍しいね。 ロッテはいつものことだけど・・・」

「あぁ。 あの件で色々と思うところがあってね」

アリアの言葉に後ろで騒いでいたロッテも、グレアムのその言葉で静かになる。

「・・・・・・大丈夫よ」

その沈黙を破ったのはアリアであった。

「ん?」

アリアの言葉にグレアムもロッテも首を傾げてアリアを見る。

「だって、彼が手伝ってくれるのよ? アキもいるし。 大丈夫に決まってるわ」

そう言って微笑むアリア。

アリアの笑顔を見てグレアムもロッテも考えを改める。

「・・・・・・そうだな。 彼とアキ君の協力もあるし、デュランダルも完成している」

「うん。 あとは、時が来るのを待つだけだね」

グレアムの計画が順調に進んでいることを確認しあった三人。

「さて。 私は戻るとしよう」

「あっ、父様。 これが終わったら手伝いに行きますから」

部屋から出て行こうとするグレアムに声を掛けるアリア。

「あぁ。 時間が空いたらで構わんよ。 私もやれるだけやっておこう」

そう言ってグレアムは部屋から出て行った。

「・・・・・・ねぇ、アリア」

グレアムが出て行ってしばらくしてロッテが隣に座るアリアに呼びかける。

「なに?」

手を動かして書類を片づけながら返事をするアリア。

「どこに行ってたの? 念話も通じなかったし・・・・・・」

ロッテの言葉を最後まで聞かずにアリアは立ちあがり、書類の山を積み上げる。

「これ、終わったから父様のところに行ってくるね」

「えっ? えぇぇ!? 早いよ!?」

質問した答えが返ってこず、先ほどやり始めた書類を一瞬で片づけたアリアに驚くロッテ。

「それからさっきの答えだけど・・・・・・」

「?」

ドアの前で振り返ったアリアは人差し指を唇にソッと当てた。

「内緒♪」

そう言い残してアリアは部屋から去って行った。

「・・・・・・」

残されたロッテは先ほどのアリアの表情を思い出し、ポツリと呟く。

「アリア、変わったね・・・・・・」

それから自分の残っている仕事を片づけることに集中したロッテであった。



~おまけ~


なんとかアリアの機嫌をなおしたトシアキは再び、猫の姿をしたアリアを膝の上に乗せてソファに座る。

「んで、埋め合わせはどうする?」

尋ねたトシアキは視線をアリアに向ける。

「・・・・・・みゃぅ(撫でて欲しい)」

しばらく黙っていたアリアだが、小さい声で何かを呟いた。

「ん、了解」

今度は聞きとることが出来たトシアキは膝の上で丸くなっているアリアを撫でてやる。

「にゃぁ・・・・・・(気持ちいい・・・)」

「満足して貰えてよかったよ」

そうしてアリアが満足して帰って行くまで特に何も話さず、トシアキは静かにアリアを撫で続けるのであった。



~~あとがき~~


更新しました。 今回は少し短めですね。
アリアの話を書きたくて書いたんですが、難しいですね。
原作でも猫姉妹はそんなに出てこないから性格や話し方がいまいちつかめなかったですorz
(私の勉強不足かもしれませんが・・・)

次回は二十六話!
年が変わる前になんとかもう一話載せたいです。
それでは、また会いましょうw



[9239] 第二十六話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:7aff6c0e
Date: 2010/01/09 20:20
管理局本局の廊下をクロノとユーノ、そしてトシアキが歩いていた。

闇の書についての詳しい情報が欲しいということでクロノが何かを思いついたのだ。

「三人でこっちに来たけど、大丈夫だろうか」

前を歩くクロノが心配そうにそう呟く。

また、いつ敵が現れるかもしれない状況で戦力となる三人が抜けたのを気にしているようだ。

「まぁ、大丈夫だろ。 なのはやフェイト、アルフもいるし。 いざとなったら久遠も手伝ってくれるさ」

クロノについて行く形で後ろにいるトシアキがそう答える。

「それで、僕は闇の書について調査をすればいいんだよね?」

トシアキの隣を歩いているユーノがクロノにそう尋ねる。

ちなみにユーノの今の姿はフェレット形態ではなく、人間の姿だ。

「あぁ。 これから会う二人はその辺に顔が利くから、調べやすいだろう」

そう答えたクロノは目的地である扉をくぐり、部屋へ入る。

そして部屋にいた二人に向かって挨拶をするクロノ。

「リーゼ。 久しぶり、クロノだ」

「わぁお!」

ソファでくつろいでいた猫耳ショートカットのロッテはクロノの顔を見るや否や、飛びついて抱きしめる。

「クロ助! お久しぶり~~~」

「ロッテ!? わぶっ!?」

何かを言おうとしたクロノだが、ロッテの胸に顔を押しあてられ上手く話せない。

「ふむ、クロノはロッテが好きだったのか。 帰ってエイミィに報告だな」

そんな様子を見たトシアキが頷いてそう言う。

ちなみにユーノは本能的に猫が苦手なのか、冷汗を浮かべている。

「勝手なことを言うな、トシアキ! こら、離せ、ロッテ!」

トシアキの言葉に反応したクロノはロッテの拘束を解こうと身をよじる。

「なんだとぉ? 久しぶりに会った師匠に冷たいじゃん」

対するロッテもクロノを放そうとせず、意地悪い笑みを浮かべて再びクロノの顔を胸に押し付ける。

「わぁぁぁ!!? アリア! これをなんとかしてくれ!」

慌ててクロノはロッテの片割れである猫耳セミロングのアリアに助けを求める。

「来たのね?」

「あぁ。 アキを迎えるついでに連れて来て貰ったんだよ」

しかし、肝心のアリアは何故かトシアキと楽しそうに会話しており、クロノの方を見てもいなかった。

「そ、そんな・・・・・・」

「うにゃぁぁぁ!!」

助けがなく、絶望したクロノをロッテが押し倒し、しばらくされるがままになってしまった。

「アキ? まだこっちにいたんだ」

「これからいろんな意味で忙しくなりそうだからな。 早めに連れて帰ろうかと思ってる」

ロッテとクロノの声を聞きつつも、自分たちの会話を優先させるトシアキとアリア。

ちなみにユーノはロッテに押し倒されているクロノを見て、部屋の隅でガタガタと震えていた。

「そうだね。 私のほうからも言っておくよ。 優先順位はわかってるから」

「そうしてくれると助かる。 俺が何言ってもここのお偉いさんは聞かないだろうからな」

トシアキがそこまで言ったところでロッテが満足したのか、クロノの上から退き、こちらへ向かってくる。

「ご馳走様。 あっ、敷島兄じゃん!」

「・・・・・・その呼び方は止めてくれ。 俺のことは『トシアキ』でいい」

ロッテの呼び方が気に入らなかったトシアキは名前で呼ぶように言った。

「わかったよ、トシアキ。 それで、今日は何の用?」

「あぁ、実は・・・・・・」

ロッテに名前を呼ばれて答えようとしたトシアキだが、隣にいたアリアが不機嫌な顔になっているのに気が付く。

「どうした? アリア」

「何か怒ってる?」

トシアキの言葉でロッテも気づいたのか、片割れであるアリアの顔を覗き込む。

「別に・・・」

それだけ言って、アリアは顔をプイッとそむけてしまった。

「一体どうしたんだよ?」

「何でもないわ。 あなたの用事をロッテに教えてあげたら?」

『あなた』という代名詞を強調して話すアリアにロッテは意地悪く微笑む。

「ふ~~~ん。 アリアってば、羨ましいんだ?」

「っ!!?」

耳もとでロッテが小さく言った言葉に思いっきり反応するアリア。

トシアキはトシアキで、何もわかっていないのか、首を傾げながら二人を見ている。

「アリアってば、トシアキのこと気に入ってるの?」

ロッテは笑みを浮かべながらアリアと小さい声で話している。

「そ、そんなんじゃないわ。 彼はあの件でお世話になったからであって・・・・・・」

いつも冷静なアリアはどこか慌てている様子で言葉を紡ぐ。

「そっか・・・・・・じゃあ、あたしが貰ってもいいよね?」

「えっ?」

ロッテの言葉に慌てていたアリアが急に大人しくなる。

「トシアキって、なんか、こう・・・・・・天然猫じゃらし、みたいな感じがするんだよね」

「・・・・・・」

「つまり、構いたくなる? ううん、構って欲しくなるのかな」

言いながらロッテはトシアキの方を見て、ウズウズと動きだした。

「・・・・・・少しわかるかな。 彼の膝の上って落ち着くのよ」

「膝の上って・・・・・・アリア」

「っ!? ち、違うわよ!? 猫の姿で乗っただけで、深い意味は・・・・・・」

自分の発言で何を思ったのか、顔を赤くしたアリアが慌てて訂正する。

「そ、そろそろ本題に入っていいか?」

今までロッテにやられて倒れていたクロノが置き上がり、アリアの言葉を遮る。

「そ、そうね! そろそろ本題に入りましょう!」

話が終ることを期待していたアリアが、素早くクロノの言葉に答える。

「なるほど、そういうことか・・・・・・」

今まで黙ってアリアとロッテを見ていたトシアキが最後にそう呟いた。

そして、怯えていたユーノも並んで座り、ロッテと向かい合う。

「なるほどねぇ、闇の書の捜索ね」

クロノの向かいに座っているロッテが話を聞き終えて頷く。

「事態は父様から伺っているわ。 出来る限り力になるわね」

ロッテの隣に座っているアリアもクロノにそう答える。

「よろしく頼む」

三人が会話している隣でユーノがトシアキに小声で話す。

「敷島さん、この二人のことはご存じですか?」

「あぁ、少し面識がある。 アキやクロノの魔法と戦闘の師匠だったはずだ」

「へぇ・・・・・・」

アキとクロノの実力を知っているユーノは興味深そうに二人を見つめる。

「ん? ふふ・・・」

視線に気づいたロッテがユーノに微笑みかける。

ロッテの微笑みを受けて、ユーノは苦笑いしながら対応する。

「―――それで二人に地球にある、臨時の作戦本部に来てもらいたいんだが・・・・・・」

「悪いわね。 武装局員の新人教育メニューが残ってて、それが終らないと行けそうにないわ」

アリアが済まなさそうにそう言った。

そして、チラッとトシアキに視線を向ける。

「?」

目が合ったトシアキだが、意図がわからず首を傾げる。

「いや、それは構わないんだが、時間が空いた時に少し手伝って欲しいことがある」

クロノが話しだすと、アリアも視線をトシアキから外してクロノを見る。

「・・・・・・なんだったんだ?」

アリアに数秒見つめられたトシアキは小さくそう呟く。

「彼なんだ」

「そう言えば、この子の名前聞いてないね?」

「そうね」

クロノによってロッテとアリアの視線はトシアキとユーノへ向く。

ロッテたちはユーノの名前を知らないため、そう言って促す。

「ユ、ユーノ・スクライアです・・・・・・」

椅子から立ち上がり自己紹介をしたユーノ。

「それで、手伝ってほしいことって?」

ユーノの名前を聞いたところでクロノに話の続きをさせるアリア。

「彼の無限書庫での調べ物に協力してほしい」

「「ふ~~ん」」

クロノの言葉に声を揃えて、興味深くユーノを見つめる猫姉妹。

「え、えっと・・・・・・」

苦手な猫に見つめられて動揺を隠しきれないユーノ。

「兄様!!」

そんな中、突然ドアが開いたかと思うとアキがトシアキの胸に飛び込んできた。

「っと、アキ? どうしてここがわかったんだ?」

飛び込んで来たアキを受け止めながら、自分の居場所がなぜわかったのか尋ねる。

「兄様の匂いを辿ってきました!」

満面の笑みでトシアキの顔を見上げるアキ。

主人のもとに帰ってきた忠犬が褒めて欲しいと尻尾を振っているように見える。

「「・・・・・・」」

そんなアキの発言にクロノもユーノも少し引き気味だ。

「まぁ、俺が迎えに行く手間が省けたと思えばいいか」

最近、アキのことを理解してきたトシアキは特に何も言うことなく、アキの頭を撫でてやる。

「と、言うわけでクロノ。 俺はアキを連れて一足先に帰るな」

「・・・・・・あぁ、わかった。 僕もすぐ戻るよ」

アキの発言で驚いていたクロノは我に返り、トシアキとアキを見送る。

「アリア。 悪いけど、転送ポートまで道案内頼んでいいか?」

「兄様、私がいるから大丈夫ですよ?」

「・・・・・・アキはこう言ってるけど?」

そう言ってトシアキを見つめるアリア。

「俺はアリアに頼んでるんだが、ダメか?」

「に、兄様ぁ・・・・・・」

アキが泣きそうになりながら立ち上がったトシアキの腕にしがみ付く。

「・・・・・・・・・ふぅ、仕方ないわね。 案内してあげるわ」

しばらくトシアキと見つめあっていたアリアがそう言って立ち上がりドアへ向かう。

「それじゃあ、ロッテ。 クロノから詳しい話を聞いておいてね」

「ほいほい。 それじゃあ、トシアキ、アキ、またねぇ」

椅子に座りながらヒラヒラと手を振るロッテを後目に、トシアキたちは部屋から出て行った。

部屋を出たトシアキたちはまっすぐ、転送ポートまで歩いている。

「・・・・・・」

しかし、三人とも無言で歩いているため、すれ違う職員が怪訝な顔をして通って行く。

「着いたわよ」

結局、会話はなく転送ポートまでたどり着いたトシアキたち。

「サンキュー、アリア。 じゃあ、行こうか」

「はい、兄様」

二人揃って中に入る。

アリアはその二人を離れたところから見守る。

「アキ、今回の件、頼んだわよ。 あなたも、お願いね。 父様の願いなんだから」

「わかってます。 兄様がいるから私は頑張れます」

「そうね」

アリアとアキが会話を終えるのを見計らって、トシアキがアリアに声を掛ける。

「なぁ、アリア。 少しいいか?」

「なに?」

「さっき言った『あなた』って言うのを止めてくれ。 ロッテと同じで、俺のことは『トシアキ』でいい」

トシアキがそこまで言ったところで、トシアキとアキの体が光に包まれる。

「今度会ったときは名前で呼んでくれよな!」

トシアキの言葉だけ残して、光に包まれた二人は転送されてしまった。

「・・・・・・」

残されたアリアはしばらくその場で立ちつくしていた。

「・・・・・・トシアキ」

そして最後に、アリアは嬉しそうに微笑みながら、先ほど転送されて行ったトシアキの名前を小さく呟いたのであった。



***



そのころ、臨時の作戦本部となっている海鳴の街のマンションの一室。

そこでリンディは友人であり、同僚でもあるレティと通信を行っていた。

「こっちのデータは以上よ、お役に立ってる?」

「えぇ、ありがとう。 助かるわ」

受け取ったデータを整理しながらリンディはレティと話す。

「ねぇ。 今日はこっちに帰ってくるんでしょ?」

「うん、アースラの件でね」

「時間合わせて食事でもしようか。 あの子たちの話も聞きたいし」

データの整理を終えたリンディは複数に渡って、展開されていた画面を消していく。

「あの子たち?」

そして、レティの言葉の中でわからないものがあったため、首を傾げながら尋ねる。

「ほら、あなたが養子にしたいって言ってた子。 それと、それを取った青年のことよ」

「あぁ。 フェイトさんと敷島さんね」

納得した様子で頷いたリンディ。

「そう、その子たちよ。 上手くやってる?」

「うん。 二人とも協力してくれてるし、彼――敷島さんのお陰でアキ執務官にも協力してもらっているわ」

そう言いながら、リンディは温かいお茶に角砂糖を数個入れて飲む。

「アキ執務官? あの無表情で無口だけど、仕事は完璧にできるアキ執務官?」

本人がいないのをいいことに、好き放題言うレティにリンディは苦笑する。

「そうよ。 私もそう思っていたのだけど、彼女は普通の女の子だったわ。 敷島さんと話しているときは可愛く笑うもの」

「か、可愛く・・・・・・ちょっと、想像できないわね」

画面越しのレティはアキの笑顔を想像したのか、眉を寄せる。

「今度会わせてあげるわ。 もちろん、敷島さんと一緒にね」

「そう言えば、その彼。 かなり強いらしいじゃない?」

トシアキのことで思い出したのか、レティは興味深そうに聞いてくる。

「そうね・・・・・・・・強いというか、こっちの魔法を破壊出来るみたいなの」

「結界やバリアジャケットは無意味になるのね」

「私も詳しくわからないけど、今のところそんな感じね」

そう言った会話をしているとリビングが騒がしくなってきた。

「どうしたの?」

画面越しにレティが尋ねるとリンディは笑みを浮かべて答えた。

「その噂の彼とアキさんが帰ってきたのよ。 会ってみる?」

「・・・・・・いえ、遠慮しておくわ。 またの機会まで取っておくわね」

「そう? 残念ね」

それからしばらくリンディとレティは久しぶりの会話を楽しんでいた。

そしてリビングでは管理局本局から帰還したトシアキとアキがフェイトとなのはに迎えられていた。

「おかえり、兄さん、姉さん」

「お帰りなさい、トシアキさん、アキさん」

「ただいま。 学校は楽しかったか?」

出迎えてくれたフェイトとなのはの頭を撫でながら尋ねるトシアキ。

嬉しそうに微笑むなのはとフェイトをアキが睨んでいたが、三人ともそれには気付かなかった。

「うん! アリサちゃんやすずかちゃんが会いたがってたよ?」

笑顔で答えたなのははそう言ってトシアキに報告する。

「そっか。 今度、顔でも出してくるよ」

「あの、兄さん。 ちょっとお願いがあるんだけど・・・・・・」

少し俯きながらフェイトはトシアキにそう話す。

「なんだ?」

話を聞くためにトシアキはしゃがんで、フェイトに視線を合わせる。

「携帯電話、買って欲しいの・・・・・・」

買って欲しいとお願いしつつ、断られるかもしれないという不安な目でトシアキを見つめる。

「携帯? あぁ、いいぞ。 今度買いに行こうか」

「あ、ありがとう、兄さん」

お礼を言われたトシアキは微笑みながら立ち上がり、後ろで何故だか拗ねているアキに声を掛ける。

「アキ。 いつまで怒ってるんだよ」

「怒っていません」

そう言っているアキだが、先ほどのアリアとトシアキの会話が原因なのは間違いないだろう。

「アキもいるだろ? 携帯」

自分の携帯を取り出して見せるトシアキ。

「別に・・・・・・私は兄様から離れることはないので必要ありません」

「あっ、その携帯、アリサちゃんとお揃いだ」

トシアキの携帯を見たなのはがそう言った。

「っ!?」

そして、なのはの言葉に素早く反応したアキ。

「ん? そうなのか? あいつの携帯は赤だろ」

「そうじゃなくて、型が同じってことなの。 色違いなだけだよ、トシアキさん」

苦笑しながらトシアキに説明するなのは。

「私も同じのにしようかなぁ・・・・・・」

トシアキの手元にある黒い携帯電話を見つめながらポツリと呟くフェイト。

「っ!!? に、兄様! 私もやっぱり欲しいです!」

最後のフェイトの呟きが聞こえたのか、先ほどと意見を変え、欲しいというアキ。

「そうか。 なら、明日にでも行くか、早い方がいいだろうし」

そうして、トシアキたちは明日に携帯電話を買いに行くことになった。

「どこに行こうか・・・・・・・・・商店街に一軒あったな」

考えたトシアキは、自分の携帯を買った場所を思い出す。

「あっ、兄さん。 アリサがデパートにある携帯ショップの方が種類が沢山あるって言ってたよ?」

「ふむ、アリサがそう言うならその方がいいか。 明日、学校が終わるくらいに迎えに行くよ」

迎えに行くという言葉に体を震わせるなのはとフェイト。

「・・・・・・トシアキさん、バイクだけはもうやめてね?」

最後に不安そうな声でトシアキに釘をさすなのはであった。



~おまけ~


聖祥小学校での休み時間。

なのはたちは一ヶ所に固まって何かの雑誌を広げていた。

「な、なんだか、いっぱいあるね・・・・・・」

食い入るように見ていたフェイトが感想を言った。

「まぁ、最近はどれも同じような性能だし、見た目で選んでいいんじゃない?」

そう言ったのは椅子に座っているアリサ。

休み時間になると、なのはたちはアリサの机の周りに集まるのだ。

「でも、やっぱりメール性能がいいやつの方がいいよね」

なのはがそう言ってフェイトの持っている雑誌に指を指す。

「これこれ、これなんかいいと思うよ」

「う、うん・・・・・・」

なのはに教えて貰った携帯を見つめながら、まだ考えが決まらないフェイト。

「あと、カメラが綺麗だと色々楽しくなるよ?」

悩むフェイトに今度はすずかが横から助言する。

「う~~~ん」

三人の意見を聞いて真剣に携帯電話の雑誌を見つめるフェイトはちょっと可愛いらしく見える。

「でも、色やデザインが大事でしょ? ちなみに私はこれ!」

そう言って自分の真っ赤な携帯電話を取り出すアリサ。

「操作性も大事だよ。 なのはのはこれ!」

なのはも自分の携帯を取り出し、開いて見せる。

ボタンが少し大きく、他の携帯より操作がしやすそうだ。

「外部メモリーがついているといろいろと便利なんだけど・・・・・・」

すずかも雑誌を手に取り、そう呟いて探し出す。

「そうなの?」

携帯の言葉よくわかっていないフェイトは首を傾げて尋ねる。

「うん。 写真とか音楽とかたくさん入れておけるし、メールに添付して友達に送ることもできるよ」

「そうなんだ。 今日、兄さんに聞いてみるよ」

「まぁ、トシアキなら別にいいって言うでしょうね」

フェイトの言葉にそう言ったアリサだが、自分が携帯を変えたときの出来事を思い出して赤くなる。

「じゃあ、商店街のお店が近いかな?」

「うん、そうだね。 一緒に買いに行こうよ」

すずかとなのはが話をすすめていたので、アリサは慌てて待ったを掛ける。

「し、商店街の店より、デパートにある携帯ショップのほうが種類がたくさんあるんじゃない?」

一緒に行くとなると、商店街のあの店員に何か言われるような気がしたアリサはデパートを勧める。

「そうだよね、確かにデパートの方がいいかも」

「な、なんなら鮫島に頼んで車を出してもらうからそっちにしない?」

三人ともアリサの不審な言葉に気づかず、携帯の話に戻っていった。

「・・・・・・えへへ」

話を商店街の店からそらすことができたアリサは自分の持つ、真赤な携帯を見て恥ずかしそうに、でも嬉そうに微笑むのであった。



~~あとがき~~


今年最後の更新となりますw
ようやく原作(As編)の半分まで終わりました。
残りも頑張って書いていきますので、応援お願いしますねw

クリスマスはAs編で書くからいいとして、正月、バレンタイン、ホワイトデー、etc、etc・・・・・・
その他のイベントが書けない!?
と、気づいたので、As編が終わってからSts編に行くまでの間に書きたいと思ってます。

Sts編を書くのがかなり遅くなると思いますが、最後までお付き合い頂けるようお願いいたしますww



[9239] 第二十七話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/01/18 23:20
トシアキとアキは冷たい風が吹く寒い中、私立聖祥小学校の校門の前でフェイトが現れるのを待っていた。

ちなみに、アルフと久遠は家で待機して貰っている。

久遠も来たがっていたが、人が多いデパートに行くため、今回は諦めて貰ったのだ。

「うぅ・・・・・・しかし、寒いなぁ」

「そうですね」

二人は並んで壁に背を預けていた。

そんな怪しい二人に先ほど、聖小の警備員が声を掛けてきたが事情を説明し、納得してもらっている。

「六時間授業ならそろそろのはずだが・・・・・・」

「・・・そうですね」

寒さを紛らわすために話をするトシアキだが、アキはいつもとは違って返事をするだけである。

「今日の飯は鍋にしようぜ。 アキは何鍋がいい?」

「・・・・・・そうですね」

「アキ?」

さすがに様子がおかしいと感じたトシアキは再びアキに声を掛ける。

「・・・・・・・・・くしゅん!」

言葉の代わりに可愛らしいクシャミが返ってきた。

どうやらアキは寒いのを我慢しているらしい。

「クシャミするくらい寒いなら言えよな」

苦笑しながらトシアキはアキの体を自分のコートの中に入れてやる。

そして、そのまま後ろからアキを抱きしめる形になった。

「暖かいです・・・・・・・・・・・・に、兄様っ!?」

しばらく暖かさにうっとりしていたアキだが、今の自分の状況を理解したのか、慌てて背後にいるトシアキを見る。

「おっ? 元気がでたみたいだな」

微笑みながらアキの頭を撫でてやるトシアキ。

「寒いなら寒いって言えよ? 我慢は身体に毒だからな」

「はい・・・・・・兄様」

兄の優しさを感じたアキは素直に頷き、トシアキとの二人きりの時間を楽しむ。

「ん?」

しばらくすると、学校から生徒が少しずつ出てきた。

基本的にバスでの送迎があるのだが、家の近い生徒たちはこうして徒歩で帰宅している。

「敷島様」

そんな生徒たちを眺めていたトシアキの横に執事服が似合う鮫島が頭を下げてそこにいた。

「鮫島さん? どうしてここに・・・・・・」

「アリサお嬢様のお迎えでございます。 今日はデパートに行くとお聞きしていますので」

トシアキの言葉を遮ってそう言った鮫島は自分の背後にある高級な車を指し示す。

「どうぞ、こちらでお待ちください。 お連れの方もご一緒にどうぞ」

「んじゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・行こうか、アキ」

「・・・・・・」

アキはトシアキの言葉にコクリと頷く。

初めて見る人に警戒心をだすアキであったが、トシアキが一緒にいるため大人しくしていた。

温かい車の中でしばらく待っていると、静かにドアが開いた。

「お邪魔しま~す! あっ、トシアキさん!!」

元気な声を出しながら嬉しそうに車内に入ってきたなのは。

「えっ? 兄さん?」

続いて、トシアキがいることに少しばかり驚いているフェイトも入ってくる。

「トシアキさん、お久しぶりです」

先に入った二人の言葉を聞いていたのか、すずかは入ってくると同時に可愛らしく頭を下げる。

「もう、来てたの? ということは、これで全員ね。 鮫島、お願い」

車内にいるトシアキを確認したアリサは最後に入ってきて、ドアを閉める鮫島にそう言った。

ドアが静かに閉じられ、車はそのままデパートへ向けて発進する。

「さぁ、目指すは携帯ショップよ!!」

元気よくそう言ったアリサを先頭にトシアキたちも続く。

ちなみに鮫島は車とともに駐車場で待機だ。

「い、いっぱいあるね・・・・・・」

携帯ショップに入ったフェイトはあちこちに展示されている携帯電話を見てそう呟く。

「行こ、フェイトちゃん!」

なのはは戸惑うフェイトの手をとり、店内を探索し始めた。

「私も新しい機種を見てきますね」

姉と同じく機械が好きなすずかは最新そ携帯の機能をみるために一人で去っていった。

「ほら、アキも選んでこいよ」

「私は兄様と同じものがいいです」

自分の傍から離れないアキを促したトシアキだが、アキはそう言って離れようとしない。

「もう! イライラするわね、来なさい! あたしが選んであげるわ!」

そんな様子のアキに苛立ったアリサはアキの手を取り、引きずっていく。

「あぁ!! 兄様!!」

「ほら、行くわよ。 アンタの携帯はあたしが選んであげるから」

アキはアリサに引きずられ店内に消えていく。

結局、一人になってしまったトシアキは展示されている携帯電話を何となく眺めていた。

「いらっしゃいませ。 新しい携帯電話をお探しですか?」

そんなトシアキに店員が笑顔で声をかけてきた。

「いや、俺は自分のを持ってるから・・・・・・今日は妹たちのを買いに来たんだよ」

「そうですか・・・・・・・・・・・・あれ?」

トシアキの言葉に笑顔で頷いた店員だが、しばらくトシアキの顔を見たかと思うと、首をかしげた。

「もしかして・・・・・・こないだ、商店街でお買いになられたお客様ですか?」

「ん? 確かに商店街で買ったが・・・・・・アンタは?」

女性店員の質問に首を傾げながら答えたトシアキ。

その答えを聞いた店員はパァと表情を明るくした。

「やっぱり!! 私がそのときに手続きを取らしてもらったんですよ」

「あぁ・・・・・・なるほど、そういうことか」

「はい! おかげで支店からここ、本店勤務となりまして」

どうやら、トシアキとアリサの携帯購入で出世したらしい。

「そうだったか。 まぁ、今回、俺は買わないから、妹たちのを見てやってくれ」

「妹さんですか?」

「あぁ、黒い髪を後ろで束ねてる子と金髪の・・・・・・」

トシアキがそこまで言ったところで、店員は不思議そうに首を傾げる。

「金髪って、あの子は妹さんだったんですか?」

そう言った店員の視線を追いかけると、不機嫌な顔をしたアキとなにやら携帯の機能を説明しているアリサが目に入った。

「違うよ。 黒髪の方は妹だが、その隣の子は妹の知り合いだ」

「・・・・・・と、いうことは妹さんの友人と付き合ってるのかしら?」

トシアキの言葉を聞きながら、店員は小さくそう言った。

「・・・・・・一応、言っとくけど、違うからな」

「えっ!? き、聞こえてたんですか」

そんな風に会話していると、なのはとフェイトが近づいてきた。

「トシアキさん! フェイトちゃん、買うの決めたんだって!」

「うん。 兄さん、私、これがいい」

そう言って、フェイトが見せた携帯はなのはが持っている携帯と同じものであった。

「なのはとお揃いなんだよ」

「そうか。 色は黒でいいのか?」

「うん。 色は兄さんと同じのが良かったから・・・・・・」

少し照れた様子で俯くフェイトを微笑みながら撫でてやるトシアキ。

「そっか。 なら、この店員さんに渡しな」

「あ、うん。 お願いします」

「えっ、あ、かしこまりました。 お預かりしますね」

突然、話を振られた店員だが、すぐに営業スマイルを浮かべ、奥へと去っていく。

「決まったわよ。 って、フェイトももう決めたのね?」

店員と入れ違いでアキとアリサが姿を現した。

「うん。 いま、店員さんに手続きをしてもらってるところ」

「そう。 トシアキ、アキはこの携帯だって」

アリサに手渡された携帯を見るトシアキ。

それは最新のスライド式の携帯電話であった。

もちろん、色は黒色である。

「ふむ。 アキはこれでいいんだな?」

「はい。 兄様と同じ色の携帯にします」

アリサとの会話で何かを言われたらしい。

最初はまったく同じ携帯を買うつもりのアキだったが、別のものに変更したようだ。

「じゃあ、俺は手続きしてくるよ。 なのはとアリサはすずかを探してきてくれ」

未だに戻ってこないすずかを探しに行くように二人に頼む。

「兄さん、私と姉さんは?」

「お前たちは俺と来い。 手続き上でなにかあるかもしれないしな」

そう言って、なのはとアリサはすずかを探しに、アキとフェイトはトシアキとともに先ほどの店員がいる場所へ向かった。



***



そのころの時空管理局本局。

「管理局の管理を受けている世界の書籍やデータが全て納められた超巨大データベース」

本棚がズラリと並んでおり、先が見えないくらい続いている部屋。

「いくつもの歴史が丸ごと詰まった・・・・・・言うなれば、世界の記録を納めた場所」

何冊並んでいるのかわからない本棚を見つめながら説明するアリアとロッテ。

「「それがここ、無限書庫」」

高さもそれなりにあるため、宙に浮かんだアリアはさらに言葉を続ける。

「でも、本来はチームを組んで年単位で調べる場所だから苦労するわよ?」

同じく宙に浮いているユーノに向かってそう言う。

「過去の歴史の調査は僕らの一族の本業ですから・・・・・・」

「そっか。 君はスクライアの子だっけね」

自己紹介の内容を思い出しながらロッテは微笑む。

「私もロッテも仕事があるし、ずっとってわけにもいかないけど、なるべく手伝うわね」

「アリアってば、暇な時はトシアキのところに行きたいくせにぃ」

ユーノに話すアリアを後ろからニヤニヤと笑みを浮かべてからかうロッテ。

「そ、そんなことないわよ! キチンと手伝います!」

「ホントかなぁ?」

そのまま二人で話始めたアリアとロッテを放っておいて、ユーノは魔法を発動させる。

「・・・・・・」

数十冊の本を周りに浮かべて、目を閉じながら中身を確認していくユーノ。

周りに浮かぶ、全ての本がパラパラと捲れていく。

そして、その中身を頭の中で順に整理していくユーノ。

「「へぇ・・・・・・」」

そんなユーノをいつの間にか会話を止めていた猫姉妹が見つめていた。

「やるわね、あの子」

「うん。 これだけの数を一度に調べるんなら、案外早く終るかもね」

アリアとロッテも自分たちでできる範囲で資料を出して、調べ始める。

「それじゃあ、手分けして・・・・・・」

ロッテがそこまで言ったところで、何かのアラームが鳴り響いた。

「あちゃぁ、もう時間か」

「・・・・・・何か用事でもあるんですか?」

アラームの音で集中力が途切れたユーノはそう言って猫姉妹を見る。

「うん。 これから新人の訓練があってね」

「私は仕事。 どうにも片付かなくてねぇ」

「そうですか。 それじゃあ、しばらくは僕一人で調査しておきますね」

申し訳なさそうにする猫姉妹にユーノはそう言って微笑む。

「それじゃあ、悪いけど行くわね」

「また、終ったら手伝いにくるよ」

アリアとロッテはそう言って、無限書庫から去って行った。

「・・・・・・・・・さて、やるか」

一人、残されたユーノは再び集中して、あちこちにある資料を調べ始めた。



***



アリサやすずかと別れて、家に帰ってきたトシアキとアキ。

なのはとフェイトは隣の作戦本部に行っている。

「さて、ゆっくりするか」

「くぅ!(うん!)」

家で大人しく留守番していた久遠がトシアキに抱きあげられ、嬉しそうに鳴く。

「ちゃんといい子にしてたか? 久遠」

「くぅ!!(久遠、いい子)」

元気よく返事をした久遠を撫でてやりながら、拗ねているアキを見るトシアキ。

「アキ。 そんなに気にすることないだろ?」

「アリサ・・・・・・この恨み、いつか晴らします」

そう言って、決意した目で宣言したアキ。

「アリサに手を出すなって前に言ったろ? そんときは俺が相手するぞ」

「で、でも、兄様!!」

「アリサは金がなかった俺の為に安くなるプランを使用してくれたんだよ」

先ほど携帯を購入したとき、自分の携帯料金を自分の口座から引き落としするよう手続きをしたトシアキ。

今までアリサが払ってくれていたのだが、今はお金に余裕があるため、自分で払うことにしたのだ。

「あれ? なんか値段が安い?」

そして、今まで払っていた料金を確認させてもらったときにその事実に気付いたのだ。

「それは恋人限定プランで契約させていただいたからですね」

アリサが携帯を購入した時に手続きを取った女性店員がそう言って教えてくれた。

「なるほど、だからか・・・・・・」

「こ、恋人!? アリサが兄様と恋人!?」

携帯購入の為、トシアキの隣にいたアキがその話を聞いて、立ち上がる。

「おいおい、どうしたんだよ?」

急に立ち上がったアキを見て、トシアキは首を傾げる。

「抹殺です」

「は?」

「ですから、抹殺です。 兄様と恋人など、そんな羨ま・・・・・・ではなく、不純なこと許せません」

そう言って、耳につけている銀色の十字架に触れるアキ。

「スパイダー、起・・・・・・」

「アホか」

デバイスを人前で起動させようとしたアキを軽く叩いて、隣に座らせるトシアキ。

「痛いです、兄様・・・・・・」

頭を押さえながら、上目づかいにトシアキを見つめるアキ。

「いいから落ち着け。 そんなことで起動させるな」

「そんなことではありません! 兄様の恋人となるなら私を倒せるほどの者でないと・・・」

「お前は俺の母親か何かか!?」

「いえ、妹です」

アキの返事の言葉に頭を抱え込むトシアキ。

ちなみにアキとは反対側に座っていたフェイトもさり気なく、ポケットに入れていたバルディッシュを握っていた。

「か、可愛い妹さんですね」

今までの会話を聞いていた店員も苦笑いしながらトシアキに言った。

それから手続きを終え、帰るまでの間ずっとアリサを睨んでいたアキ。

しかし、トシアキが一緒にいるため下手なことは起こせない。

そしてそのまま家に帰ってきたのであった。

「それでも、兄様と恋人なんて・・・・・・」

「はぁ・・・・・・アリサもきっと嫌々だったと思うぞ?」

「・・・・・・」

トシアキの言葉を聞いて、アキは無言でトシアキを見つめる。

「な、なんだ?」

「兄様、乙女心がわかっていません」

それだけ言って、アキは自室に戻ってしまった。

「アリサにも言われたけど、なんなんだろうな?」

「くぅ?」

腕に抱えた久遠に尋ねてみても、久遠は首を傾げるだけであった。

「兄さん!!」

その時、フェイトが勢いよく玄関から入ってきた。

「どうした? そんなにあわてて」

「シグナムが来たの。 私、行ってくる」

「・・・・・・そうか」

フェイトの言葉にただ、頷くだけのトシアキ。

「うん。 それじゃあ」

フェイトはアルフを抱えて、元来た道を戻り、隣の部屋まで走って行った。

フェイトが出て行った後、久遠を抱えたままトシアキも隣の部屋へ向かう。

「敵が出たんだって?」

モニターを見つめていたエイミィとなのはに声をかけたトシアキ。

「あっ、トシアキさん」

「敷島さん、フェイトちゃんをお借りしますね」

「フェイトが行くって言ったんだろ? 俺は何も言わないよ」

そう言ってモニターを見ると、フェイトがシグナムを助けている場面が見えた。

「は?」

「フェイトちゃん! 助けてどうするの!? 捕まえるんだよ!」

呆気に取られていたトシアキの隣で通信しているのか、フェイトにそう言ったエイミィ。

「あっ、ごめんなさい。 つい・・・・・・」

「にゃはは・・・フェイトちゃんらしいね」

モニター越しのフェイトの言葉を聞いて、なのはも苦笑気味にそう言った。

それと同時に別のモニターでアラームが鳴り響く。

「今度はなに!?」

エイミィが苛立ちながらキーボードをたたくと、闇の書を抱えたヴィータが飛んでいる姿が映し出された。

「本命はこっち? なのはちゃん!」

隣にいるなのはを見るエイミィ。

「はい! 行ってきます」

なのはもヴィータの姿を見たときから思っていたのか、真剣な表情で頷く。

「エイミィ、俺は?」

「敷島さんはここで待機。 クロノ君や艦長に言われましたよね?」

「そういや、そうだったな・・・・・・」

前回の戦いで大掛かりな結界を破壊してしまったため、捕獲作戦では出番がないトシアキ。

砂漠の世界でフェイトとシグナムが、荒れた海の世界でアルフとザフィーラが、木々が生い茂った自然の世界でなのはとヴィータがそれぞれ戦う。

「・・・・・・」

「くぅ・・・(トシアキ・・・)」

それをモニター越しで見つめるトシアキと久遠。

エイミィは武装局員を応援に行かせようと連絡を取り合っている。

「―――高町なんとか!!」

「ぷっ!?」

モニター越しでなのはを見守っていると、ヴィータの声が聞えてき、思わず吹きだしてしまったトシアキ。

「た、高町なんとか・・・・・・ぷっ!!」

自分でもう一度そう呟いて笑うトシアキ。

そんなトシアキをジト目で見るエイミィ。

いろいろとシリアスな雰囲気が台無しであった。

「―――手伝えることとか、あるかもしれないよ?」

そして、なのはのその言葉を聞いて、トシアキは表情を真剣なそれに戻す。

「相変わらず、優しい奴だな。 士郎さんや桃子さんのいい部分を受け継いでる」

小さく呟いた言葉は腕に抱かれた久遠にしか聞えていない。

「だけど、それが全て、解決につながるとは限らないんだぜ、なのは」

モニターに映るなのははレイジングハートを構え、遥か遠くにいるヴィータを狙っている。

そして、なのはから放たれたディバインバスターは転送しようとしていたヴィータに直撃する。

「やった! これで一人、確保できるね!」

モニターを見ながら嬉しそうにそう言ったエイミィだが、爆煙から現れた姿を見て、その笑顔が消える。

「あ、あれは・・・」

仮面を付けた男がヴィータを守るようにして、なのはの砲撃を防いでいた。

「・・・・・・」

次にトシアキは砂漠の世界で戦うフェイトとシグナムが映るモニターを見る。

「・・・・・・ごめんな、フェイト」

「くぅ?(トシアキ?)」

モニターを見て小さな声で謝ったトシアキを不思議そうに久遠は見つめる。

「あっ!? フェイトちゃん!!?」

そして、エイミィの声で久遠は視線をモニターに戻す。

そこには胸から腕を生やしたフェイトの姿が映し出されていた。



~おまけ~


携帯ショップから車を停めた駐車場までの帰る道のり、アリサはアキにずっと睨まれていた。

「ちょっと、トシアキ」

「ん? なんだ、アリサ」

睨まれる覚えのないアリサはアキの兄であるトシアキに原因を聞こうと話しかける。

「アキって、どうしてあたしを睨んでるの?」

「あぁ・・・・・・俺の携帯の料金プランのことでちょっとな」

「っ!? ど、どうして知ってるの!?」

トシアキの言葉に頬を赤く染めながら聞いてくるアリサ。

「いや、フェイトとアキの携帯を買った時の店員が、こないだ俺のを買った時の店員と同じだったんだよ」

「嘘、だってあの人は商店街に・・・」

「なんか出世して本店勤務になったっていってたぞ」

トシアキの言葉を聞いて、それなら商店街にすれば良かったと悔やむアリサ。

「それから、俺の携帯代は自分で持つから。 今までサンキューな」

「べ、別にいいわよ。 それくらい・・・・・・」

「あの料金プランだって、金のない俺の為に安くなるやつを選んでくれたんだろ?」

そう言ったトシアキの顔を無言で見つめたアリサ。

「今まで払ってくれてた分は今度まとめて返すから・・・・・・」

「トシアキ」

トシアキの言葉を遮ってアリサが名前を呼ぶ。

「アンタ、乙女心をわかってないわ」

「は?」

「それじゃあ、またね。 すずか、早く行かないとお稽古に間に合わないわよ」

唖然とするトシアキを放って、アリサはすずかとともにヴァイオリンの稽古へ行くために車に乗り込む。

「アリサちゃん、すずかちゃん。 また明日ね!」

「アリサ、すずか、また明日」

車で去っていく二人をなのはとフェイトは手を振って見送る。

そして、トシアキはアリサに言われた言葉の意味を頭の中で考えるのであった。



~~あとがき~~


今年最初の投稿ですw
しかも新しく買ったPCで。 なのでIDが違うかも知れませんが、お気になさらずに。

さてさて、携帯購入イベントの後に戦闘シーン。
今回、主人公は出ませんでしたが、うまく表現できてたでしょうか?
相変わらず、戦闘シーンを書くのが苦手な私です・・・・・・

本当は正月イベントを書きたかったのですが、クリスマスのAs編の途中で正月って・・・と思ったので自重します。
As編を書き終えてから書きますので、季節外れになるかも知れませんが、そこはご勘弁ください。

それでは、次回の話も読んでもらえるよう神様に祈って・・・・・・
また会いましょうww



[9239] 第二十八話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/01/14 21:53
地球にある管理局の臨時作戦本部。

そこでモニターからなのはやフェイトの戦闘を見ていたトシアキ。

そして、フェイトが今、仮面の男によってリンカーコアを抜き取られていた。

「あっ!? フェイトちゃん!!?」

同じモニターを見ていたエイミィの声を聞いて、トシアキは口を開く。

「エイミィ。 俺が行く。 もう、止めないよな?」

「は、はい。 敷島さん、お願いします・・・」

トシアキの何かを我慢している様子に気圧されつつ、エイミィは頷く。

「すぐに向かう。 座標はわかっているんだろ?」

「大丈夫です。 転送ポートに乗り次第、開始します」

「頼む」

エイミィの言葉を聞いて、トシアキは久遠を抱えたまま転送ポートへ向かう。

「くぅ・・・(トシアキ)」

「ん? どうした、久遠」

久遠は先ほどのトシアキの謝罪の意味を聞きたかったが、悲しそうは表情をしているトシアキを見て、言葉に詰まる。

「久遠?」

こちらをジッと見つめて何も言おうとしない久遠に首を傾げたトシアキ。

「く!(なんでもない)」

「そうか・・・・・・」

久遠の返答を聞いて、転送ポートに乗り込むトシアキ。

そして、光が体を包み込み、そのままトシアキと久遠の姿が消えてしまった。

眩しさで目を閉じていたトシアキが目を開けると、辺り一面が砂漠になっていた。

「ふむ、無事成功ってとこか・・・」

「くぅ!(トシアキ!)」

転送が無事に成功したことに安堵していたトシアキを久遠が呼びかける。

二人の視線の先には闇の書を抱えたヴィータとシグナム、そして仮面の男が気を失ったフェイトを囲んでいた。

「・・・・・・てめぇら! 覚悟しやがれ!」

トシアキの怒鳴り声で気付いたのか、シグナムがこちらに向かってくる。

「久遠、任せた!」

「くぅ!!」

トシアキの腕から飛び降り、巨大化した久遠がシグナムと対峙する。

「なっ!?」

「フォォォォ!!」

前回、ジュエルシードの影響で巨大化してしまった久遠だが、今回はトシアキとの契約が効いているのか、暴走せずに済んだようだ。

「くっ!」

シグナムもまさか、こんなに大きくなるとは思わなかったのだろう、その場に立ち止まり様子を見る。

「はぁぁぁ!!」

そのシグナムの横を通り抜け、ヴィータと仮面の男に向かって行くトシアキ。

「しまった!」

トシアキを止めようとするシグナムだが、久遠に攻撃されていてそれどころではない。

「ふっ!」

トシアキの拳を受け止めたのは仮面の男。

ヴィータはフェイトのリンカーコアを闇の書に蒐集中だ。

「邪魔、するな!」

右手を掴まれているため、空いている左手で再び殴りかかったトシアキ。

「安心しろ。 死んではいない」

しかし、左手も仮面の男に掴まれてしまい、さらにそんな言葉も聞かされる。

「当たり前だ! もし、死んでたら・・・・・・タダじゃ済まさないぞ!」

トシアキはそう言って、両手を掴まれている状態から右足で仮面の男の横腹を蹴り飛ばした。

「くっ!?」

仮面の男はそのまま砂の山へ突っ込んでいく。

そして、トシアキがフェイトの方を見たとき、既にヴィータは消えていた。

「フェイト!!」

倒れているフェイトに駆け寄ったトシアキ。

仮面の男が言ったように、気を失っているだけのようだ。

「・・・・・・とにかく無事みたいだな。 久遠!!」

フェイトが気を失っているだけということがわかり安堵していたトシアキだが、先ほどまでの戦闘音が聞こえなくなり、久遠が心配になって振りかえる。

「・・・・・・」

久遠は巨大化したままバインドで固定されており、身動きが取れない状態になっていた。

「このバインドは・・・・・・あの男か」

青色のバインドを見て、呟いたトシアキはそれを切ってやる。

「くぅ・・・・・・」

バインドが切れると同時に元の子狐の姿に戻った久遠。

「ご苦労さん。 大丈夫だったか?」

気を失ったフェイトを抱きかかえたまま、砂漠に倒れこんだ久遠に声をかけてやる。

「くぅ・・・(逃げられた・・・)」

「仕方ない。 俺があの男を仕留めていたらよかったんだろうけどな」

苦笑いしながら辺りを見渡すトシアキ。

「誰もいない・・・・・・三人とも逃げたんだな」

「くぅ?(フェイト、大丈夫?)」

トシアキの足を登ってきた久遠はフェイトの顔を覗き込み、頬をペロリと舐める。

「気を失ってるだけみたいだ。 それにしても、エイミィから連絡がこないんだが・・・・・・」

エイミィからの連絡がないと地球に帰ることができないトシアキたち。

「・・・・・・もしかして、このままここに居ろってことか?」

「さすがにそれはない」

突然、目の前に映像が浮かびあがり、映っているクロノが一人で呟いていたトシアキにそう言った。

「クロノ?」

「エイミィからの連絡を受けた。 今、そっちにアースラで向かっている。 しばらく待っていてくれ」

クロノの映像が消えたと同時にトシアキたちの体が光に包まれる。

「結局、今回も役立たずだったな・・・・・・」

砂漠の世界からアースラへ転送される前、トシアキはポツリと呟いた。

眩しい光がなくなっていき、トシアキはフェイトを抱えたままソッと目を開けた。

「・・・・・・・・・アースラか」

「遅れてすまない、トシアキ」

トシアキの到着を待っていたようにクロノがそう言いながら歩いてくる。

「悪い。 今回も逃げられた」

「気にするな。 僕も遅れてすまないと言っただろ」

「そうだったな。 フェイトを頼む」

クロノはトシアキの言葉に無言で頷き、アースラ内の医務室へ向かって歩き出した。

ベッドにフェイトを寝かせたトシアキは優しく頭を撫で、ソッと立ち上がる。

「トシアキ?」

そんなトシアキの様子を不審に思ったクロノがそう呼びかける。

「悪い、クロノ。 俺を地球へ転送してくれないか?」

「・・・・・・理由を聞いてもいいか?」

「あぁ。 なのはに続いてフェイトもやられて、これ以上大人しくしていられなくてな」

トシアキの言葉を聞いて、クロノは考えるようにして目を閉じる。

「グレアムのおっさんからも頼まれてたし、地球を本格的に捜査しようと思ってる」

「・・・・・・・・・わかった」

結論が出たのか、クロノは閉じていた目を開け、トシアキの言葉に頷く。

「サンキュー。 久遠はここにいて、フェイトを診てやってくれ」

「くぅ!(わかった!)」

トシアキの言葉に頷いた久遠はベッドで眠るフェイトの傍に降りる。

「それじゃあ、行こうか」

「あぁ」

クロノとトシアキは眠るフェイトを起こさないようにソッと医務室から退出していった。



***



アースラ内の会議室。

そこにリンディをはじめとして、管理局のメンバーが勢揃いしていた。

「フェイトさんはリンカーコアに酷いダメージを受けているけど、命に別状はないそうよ」

リンディの言葉を聞いて、なのはとアルフが安堵する。

「なのはの時と同じように、闇の書に蒐集されたようだ」

クロノも映像を確認しながらそう結論付ける。

「敷島さんを転送してから、システムの殆どがダウンしちゃって・・・それで、連絡が出来なくて・・・ほんとに、ごめんなさい」

エイミィが俯きながら謝罪する。

トシアキが言っていた連絡が取れないというのはこれが原因のようだ。

「ですが、素早くシステムを復旧させたため、アースラと連絡が取れました」

エイミィを励ますようにアキが言いながらモニターを出す。

「それに、仮面の男の映像も残っていましたし、問題ないでしょう」

映し出されたモニターには仮面の男がフェイトのリンカーコアを抜き出している様子が残されていた。

「でも、おかしいわね。 地球のシステムも管理局のものを使ってるのに、外部からクラッキングなんて出来るものなのかしら?」

「そうなんですよ!」

リンディの言葉にエイミィが立ち上がり、説明する。

「防壁も警報も、全部素通りして、いきなりシステムをダウンさせるなんて」

「それだけ、すごい技術者がいるってことですか?」

なのはは向かいに座るアキにそう尋ねる。

「そうですね。 もしかしたら、組織で行動しているのかもしれません」

アキの言葉に会議室にいる全員が沈黙に陥る。

「エイミィ、アースラの航行に問題は?」

そんな空気を吹き飛ばすように、クロノがエイミィにそう尋ねる。

「ないよ、クロノ君。 他のスタッフからも聞いてるけど、航行に問題はなし」

「艦長。 問題はないそうです」

「それでは、これより司令部をアースラへ戻します。 各員は所定の位置に」

リンディの言葉に従い、それぞれが席を立ち、会議室から出ていく。

「なのはさんはお家に戻っていて。 何かあったら連絡するわ」

「あ、はい。 わかりました」

そんなやり取りがあってしばらく後、アースラの医務室で眠っていたフェイトが目を覚ました。

「うっ・・・・・・うぅ・・・・・・」

「気がつきましたか?」

「姉、さん?」

フェイトが目を覚まして最初に見たのはベッドの横で座っていたアキであった。

「・・・・・・ここは?」

「ここはアースラの医務室です。 あなたは砂漠での戦闘中に背後から襲われ、気を失いました」

フェイトにそう説明するアキ。

「そっか・・・・・・やられちゃったんだ、私」

悲しそうな表情でそう言ったフェイトはゆっくりと体を起こす。

「あっ」

フェイトの足元に子狐姿の久遠と、子狼姿のアルフが仲良く眠っていた。

「アルフも久遠もあなたのことを心配していましたよ」

「そう、なんだ」

家族が皆、揃って心配してくれていることに嬉しさと申し訳なさがあるフェイト。

「・・・・・・兄さんは?」

その中で唯一、義兄であるトシアキの姿が見えず、アキに尋ねる。

「兄様は地球です。 フェイトがやられたことで本格的に捜査することにしたそうです」

「兄さん、いないんだ・・・・・・」

トシアキがこの場に居ないことで寂しそうに顔を俯かせる。

「・・・・・・兄様は誰よりもフェイトを心配していましたよ?」

フェイトの悲しそうな表情を見ていたくなかったのか、アキはそう言って口を開く。

「えっ?」

「兄様は砂漠に誰よりもはやく駆けつけ、仮面の男にダメージを与えました。 フェイトのことを大切に思っていますよ」

「兄さん・・・・・・」

アキの言葉を聞いて、トシアキが自分を見捨ててないことを知り、微笑むフェイト。

「学校は家の用事で休むと伝えてあります。 もう少し安静にしていてください」

「うん、わかった。 姉さん」

「何か食べますか? 私は作れませんが、食堂に行けばあるでしょう」

傍の椅子から立ち上がり、入口に向かいながらそう言うアキ。

「えっと、姉さんに任せるよ」

「わかりました。 すぐ戻りますので」

そう言ってアキは医務室から出て行った。

「・・・・・・」

フェイトは足元で眠る久遠とアルフをソッと撫でる。

「ありがとう、心配してくれて・・・・・・・・・私、頑張るから」

アキが戻るまでの間、フェイトはそうして二匹をずっと撫でているのであった。

アースラの司令部ではクロノが無限書庫で調べ物をしているユーノと連絡を取っていた。

「ここまででわかったことを報告しとく」

「あぁ、頼む」

モニターに映し出されたユーノに頷くクロノ。

「まず、『闇の書』っていうのは本来の名前じゃない。 正式名称『夜天の魔導書』」

それからしばらくユーノの説明が続き、クロノとエイミィは考えるようにして俯く。

「なるほど。 それで、停止や封印方法についての資料は?」

正式名称やこうなるまでの経緯を聞き終えたクロノは次の質問をする。

「それは今調べている。 だけど、完成前の停止はたぶん難しい」

「なぜ?」

「夜天の魔導書のマスターでないとプログラムの書き換えができないようになっているんだ。 無理に外部から行おうとするとマスターを吸収して、別の場所へ転移してしまう」

ユーノの言葉を一緒に聞いていたエイミィが頷く。

「なるほどねぇ。 そりゃあ、簡単にいかないわけだよ」

「だから『闇の書』の永久封印は不可能って言われてる」

モニターにアリアが映し出され、ユーノの続きを話した。

「わかった。 調査は以上か?」

「今のところはね。 でもさすが無限書庫、僕たちでも知らない歴史や資料がたくさんある。 時間をかければもっとわかるかも」

ユーノが調査を中断して、周りにある本を見ながらそう話す。

「すまないが、もう少し頼む。 何かあれば連絡をくれ。 アリアもよろしく頼む」

「わかったわ。 それと、ロッテはそっちにいる?」

クロノの近接戦闘の師匠であり、アリアの姉妹であるロッテの姿をクロノもエイミィも見ていない。

「いや、こっちには来ていない。 仕事が残ってるんじゃないのか?」

「あぁ、そうかも。 そろそろ交代してくれないと私も仕事があるのに・・・」

アリアの愚痴を最後に本局との通信は終了した。

「ふむ・・・・・・エイミィ、仮面の男の映像を」

「うん」

通信を終えたあと、クロノは仮面の男について詳しく調べることにした。

「この人の能力もかなりすごいね。 というか、あり得ないよ」

モニターになのはがいた世界とフェイトがいた世界での映像を映し出す。

「なのはちゃんの新型バスターを防御。 いくら距離があったからって簡単に防げないよ」

「それに、その長距離でバインドか・・・・・・」

なのはがいた木々が生い茂った自然の世界での映像を見ながら二人で考える。

「それに、そのあと十分もしないうちにフェイトちゃんの後ろから一撃」

「この二つの世界はかなり離れているから最速で転移しても三十分は掛るな」

次に砂漠の世界での仮面の男の映像を見る。

「ん? トシアキは魔法を使っていないのか?」

そのまま流して映像を見ていたクロノがトシアキの攻撃方法に疑問を抱く。

「あっ、ホントだ。 でも、後ろにいるフェイトちゃんに当てたくなかったからじゃないの?」

「いや、トシアキの魔法は僕たちとは違う。 かなり細かい調整が可能なはずだ」

クロノはそう言いながら映像を止めて確認する。

「・・・・・・やっぱり変だ。 トシアキが魔法を使わないなんて」

「・・・・・・・・・もしかして、敷島さんが内通者?」

エイミィがそう言ってからしばらく沈黙が続く。

「・・・・・・だとしても、管理局のシステムをダウンさせることはできない」

「でも、アキ執務官も一緒に行動していたら?」

クロノの言葉を遮るようにしてエイミィは自分の推理を言ってみる。

そして、その言葉にクロノが何かを言おうとした。

「エイミィ、それは・・・・・・」

「私がどうかしましたか?」

何かを話そうとしたクロノの言葉を遮って、アキが二人の後ろから声をかけた。

「きゃっ!?」

「っ!?」

気配もまったく感じさせず、背後から声が聞えたため、エイミィもクロノも驚いてしまった。

「失礼。 それで、私がなにか?」

無表情で、しかしどこか威圧感が漂うアキに冷や汗を流すエイミィ。

「いや、なんでもない。 この男と君ならどちらが強いかと話していたんだ」

クロノはそう言いながら画面に映る仮面の男をさす。

「・・・・・・・・・そうですか」

納得したのか、モニターをチラリと一瞥したあと、アキはそれだけ言って去ってしまった。

「はぁぁ・・・・・・ビックリした」

「僕もだ。 まさか後ろにいるとは思わなかった」

アキが去った後、幼馴染の二人はため息を吐いて、心を落ち着ける。

「今の、聞かれてないよね?」

「さぁな。 彼女の表情から読み取ることはできなかったが」

「うぅ・・・・・・明日の朝、私の命がないかも」

涙目でクロノにそう問いかけるエイミィ。

「いくら彼女でも、そんなことしないだろ」

「でも、アキ執務官ってクロノ君と同じお師匠様から教わってたんだよね?」

クロノの言葉を信じたのか、あっさりといつものように戻るエイミィ。

「あぁ。 僕が執務官になったときだから、丁度入れ違いだな」

「同じことを教わってたのに、アキ執務官の方が強いのはなんで?」

疑問を感じたエイミィがクロノにそう尋ねる。

クロノは仕方がないな、という感じで首を振りつつ、教えてやる。

「まず、魔力量が違う。 僕はAA、彼女はSSだからな」

「でも、こないだ魔力量が全てじゃないって教えてくれたじゃん」

以前、なのはとフェイトが戦っているときのデータを見ながら話したことを思い出して、エイミィはそう言った。

「確かに言ったが、彼女は僕よりも遥かに覚えがいいし、センスもいい」

「そうなの?」

「あぁ。 彼女が執務官になりたての頃に一度、模擬戦をしたが、勝てなかったよ」

思えばあのときから彼女と話すようになったクロノ。

自分より年下、自分より優秀、そして、自分よりも強い。

何が彼女をそこまで強くしたのか気になっていたクロノは一度尋ねたことがあった。

「どうして、そこまで強くなりたかったのかな?」

「・・・・・・『兄様を探すため』と、言ってたな」

エイミィの質問にクロノは、数年前に彼女が言った言葉をそのまま口にする。

「兄様って、敷島さんだよね?」

「あぁ。 目標があり、それを目指しているから頑張れる。 そして、それが報われたんだろう」

「クロノ君?」

どこか遠い目をして話すクロノに首を傾げるエイミィ。

「いや、なんでもない。 忘れてくれ」

クロノにそう言われ、何も聞かなかったエイミィ。

しかし、その時のクロノの表情がずっと頭から離れることはなかった。



~おまけ~


無限書庫で調査を続けていたユーノとアリア。

アリアはもうすぐ新人の訓練指導があるのだが、交代要員であるロッテがなかなか姿を見せないため、ここから去ることが出来ないでいた。

「あの、リーゼ・アリアさん。 しばらくは僕一人でも大丈夫ですから・・・」

アリアの仕事の都合を心配して、そう言ったユーノ。

「そういうわけにはいかないわ。 私たちも出来るかぎり協力する約束をしているのだし・・・・・・」

言いながら本棚に並べられている一冊の本を何気なく手に取る。

「僕としては助かるのですが、管理局の仕事があるのなら・・・・・・」

長々と言葉を並べるユーノだが、アリアは途中から話を聞いていなかった。

「・・・・・・」

何気なく手に取った一冊の本、そこには『好きな異性の落とし方』と書かれていたのだ。

「リーゼ・アリアさん?」

「えっ!? な、なに?」

ユーノに名前を呼ばれ、慌てて振り返るアリア。

「大丈夫ですか? なにか見てたみたいですけど・・・」

アリアがジッと見つめていた本をさして、尋ねるユーノ。

「ううん、な、なんでもないの。 わ、私、そろそろ行ってくるわね?」

「あ、はい。 お仕事頑張ってください」

慌てているアリアを見て、やはり時間がないんだと勘違いするユーノ。

「君もね。 ロッテにはあとでキツク言っておくから」

「ははは・・・・・・お願いします」

アリアの言葉に苦笑しながらそう返すユーノ。

そしてアリアは例の本を抱えたまま、急いで無限書庫から立ち去って行った。

「・・・・・・」

新人の訓練をするにあたって、更衣室で着替えを済ませたアリア。

「ま、まだ少し時間があるわよね」

他に誰ものいないが、言い訳を一人で呟いて持ち帰った本を開く。

[まず、最初に気になる異性を人があまりこない階段に呼びましょう]

「い、いきなり呼び出すの? ずいぶんと急な展開ね」

本を読みながら、書かれている文章に一人で突っ込みを入れるアリア。

[次に、大事なことがあるからと言って、目を閉じて貰います]

「目、目を!? ま、まさか・・・・・・きs・・・」

読みながら頬を赤くして、慌てて次のページをめくる。

[これで目撃者はいません。 安心して、突き落としてやりましょう]

「・・・・・・」

予想した展開とは違い、思わず無表情で文章を見てしまったアリア。

そして、次のページを見る。

[階段でダメなら、屋上がオススメ!]

そこに書かれていた内容を見て、アリアはパタンと本を閉じた。

「・・・・・・・・・落とし方ってそっちなの!?」

怒りながら本を床に叩きつけるアリア。

彼女はそのまま新人たちの訓練を行ったため、いつもの数倍ハードであったと訓練を受けた新人は語っていた。



~~あとがき~~


二十八話更新ですw
今回で原作As編の半分を越えた(はずな)のですが・・・・・・
記事が四十になりました。
このまま書くとSts編完結するころにはとんでもない話数になっているのではと心配してしまいます。

ここまで書いておいてなんですが、はやてと主人公の絡みが少ない気がしますw
もう少し絡みがないとせっかくのAs編が台無しになってしまいますね・・・

と、反省をここまでにして、次回も読んでいただける人がたくさんいることを願いつつ・・・・・・
また、会いましょうw



[9239] 第二十八.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/01/18 23:37
フェイトをアースラに預けたあと地球に戻ってきたトシアキは自室のベッドで横になり、天井を見上げていた。

「はぁ・・・・・・どうするかな」

ため息を吐きながら考え込むトシアキ。

クロノには闇の書の主を探すためと言ってきたが、トシアキにはもう居場所が分かっている。

「けど、グレアムのおっさんとの約束もあるしなぁ」

以前、管理局本局に行ったときにアキの世話を見てくれていたグレアムの依頼を引き受けたトシアキはそう言いながら悩む。

「まぁ、クロノたちはしばらくアースラに居るだろうし、適当に時間を潰して、見つからなかったと言えばいいか」

そう結論付けたトシアキは眠ろうと目を閉じる。

「・・・・・・・・・ん?」

目を閉じてしばらくしてから、呼び出し音が部屋に鳴り響いたのだ。

「誰か来たのか?」

首を傾げつつ、自室から玄関まで歩いていくトシアキ。

「はいはい、誰ですか?」

そう言いながらドアを開けたトシアキだが、そこには誰もいなかった。

「・・・・・・イタズラ? いや、待て。 前にもこんなことあったような」

開けた扉の先には誰も居らず、イタズラかと考えたトシアキだが、少し前に同じようなことがあったと思い、ゆっくり視線を下へ向ける。

「・・・・・・」

しかし、視線を下へ向けたトシアキだが、そこには予想に反して何もなかった。

「やっぱり、イタズラだったか・・・・・・」

そう言ってドアを閉めて自室へ戻るためリビングを通る。

「・・・・・・・・・何故そこにいる?」

「やっほ~、トシアキ」

リビングから自室へ行こうとしたトシアキの視線の先に、ソファに座って尻尾を振る猫の姿があった。

「その声はロッテだな? いつの間に入った?」

「そうだよ。 ちなみに入ったのはトシアキがドアを開けてすぐ」

どうやら、トシアキがドアを開けた時に足元から侵入していたらしい。

「・・・・・・・・・まぁ、いいけどな」

「それよりトシアキ!」

どこか諦めた様子でロッテの横に腰を下ろしたトシアキに手を挙げて抗議する。

「何も本気で蹴ることないじゃんか! おかげで痛くて辛いんだよ?」

「・・・・・・」

最初、そう言われたトシアキは何のことかと首を傾げる。

「あぁ・・・・・・あの時はお前だったのか」

そして何のことか理解したのか、ポンッと手を打つトシアキ。

「そうだよ。 けど、意外だったよ、トシアキがそこまで武術が出来るなんて、あたしはてっきり・・・・・・」

「ちょっと待て、ロッテ」

次々と言葉を並べていくロッテに思わず待ったをかけるトシアキ。

「?」

待ったをかけられたロッテは可愛らしく、首を傾げている。

「アリアにも言ったんだが、猫の姿でいるときに人間の言葉で話すの止めてくれねぇ?」

「どうしてさ?」

「はっきり言って気持ち悪い。 俺は動物の言葉もわかるから、猫の姿でいるのならそっちで話してくれ」

トシアキの言葉を聞いて、しばらく考えていたロッテ。

「んじゃ、これなら問題ないでしょ?」

そう言って、初めて会ったときの猫耳を生やした人間の姿になった。

「いや、別にいいんだが・・・・・・クロノたちにここに居ることがバレたらマズいんじゃ?」

「確かに、クロ助たちに見つかったらマズイね。 でもその心配はないよ」

ソファに背を預けながら偉そうに言い放つロッテ。

「ん? どうしてそんなことが言えるんだ?」

「ここはアキが住んでるんだよ? あの子がそんなことさせるとは思えないからね」

「なるほど」

昔とは違い、とても頼もしくなった実妹の顔を思い浮かべて、トシアキは微笑む。

「で? 本当にここへ何しに来たんだ?」

トシアキはそう言ってロッテを見る。

ロッテもその言葉が聞きたかったのか、嬉々として教えてくれた。

「あたしの体に傷をつけたんだから責任とってね♪」

微笑みながらトシアキを見つめるロッテ。

「・・・・・・」

ロッテの思わぬ言葉に固まってしまうトシアキ。

「あれ? 聞えなかったのかな? あたしのから・・・」

「いや、聞えたからもう言わなくていい」

もう一度言おうとしたロッテの言葉を遮り、ため息を吐くトシアキ。

「なんだ、聞えてたんだ。 それで、返事は?」

隣に座るトシアキの顔を覗き込むようにして、自分の顔を近づける。

「・・・・・・見せてみろ」

「へ?」

「だから、俺が傷を付けたところだよ。 見せてくれるよな? 本当にあるならな」

トシアキはロッテが自分をからかっているだけだろうと思い、そう口にした。

言われたロッテは少し頬を染めて、落ち着きがないように見える。

「えっと、それは、その・・・・・・」

「ホントは傷なんてないんだろ? 俺をからかうなんて百年はや・・・」

そこまで言って、トシアキは言葉を止めてしまった。

いや、驚きが強くてそれ以上に何も言えなくなってしまったのだ。

「ほ、ほら、ここだよ・・・・・・」

頬を赤く染めながら上着を脱いだロッテが自分の左脇腹を指し示す。

確かにトシアキが蹴ったあたりに青紫色の痣がついていた。

「お前、下は?」

「し、仕方ないだろ!? この服は上下で切り離せないんだから!」

普段、ロッテとアリアが着ている服は上下が繋がっているため、脱いでしまうと下着だけになってしまうのだ。

「・・・・・・」

「ほ、ほら、ちゃんと有ったでしょ?」

自分が嘘を言っていないということを証明するように、下着姿のままでトシアキに迫る。

「た、確かに嘘じゃなかったな。 だからってそのまま迫ってくるな!」

女性経験がないわけではないトシアキだが、さすがに照れているのか、ロッテを直視しようとはしない。

「責任、取ってくれる?」

「っ!? わ、わかったよ! 治せばいいんだろ!」

どこかやけくそ気味に叫んだトシアキは、迫ってきていたロッテをソファに押し倒す。

「きゃっ!? ちょ、ちょっと、トシアキ!?」

突然のことでロッテもかなり慌てている。

だが、嫌な顔はせずどこか嬉しそうな気配すらある。

「動くな、静かにしろ。 まったく、他人には使いたくなかったんだがな・・・」

慌てているロッテにトシアキも緊張している様子でそう言い放つ。

「う、うん・・・・・・」

トシアキの真剣な表情にロッテは大人しくなった。

そしてロッテが静かになると、トシアキはロッテの左脇腹にある青紫色の痣に自分の右手をあてる。

「ト、トシアキ?」

「・・・・・・」

痣に手をあてられたロッテは痛みで一瞬、顔を顰める。

「あ、あれ? 痛くない?」

しかし、それもほんの少しの間だけで、徐々に痛みが消えていく。

「あっ・・・・・・ん!? んんっ!?」

だが、突然痛みが消えた代わりに、こそばゆい感覚がロッテの体を支配する。

「だから他人には使いたくなかったんだよ・・・・・・もう少しだから、我慢しろ」

「そ、そん、なこと、言ったって! んっ!? あん! んんんっ!!?」

しばらくの間、ロッテのそんな声が部屋中に聞えていたが、トシアキが手を退けると落ち着いたのか静かになる。

「ほら、終ったぞ。 痣は完璧に消えたはずだ」

「はぁっ、はぁっ・・・・・・」

トシアキの言葉を聞いているのか、いないのか、ロッテは下着姿のまま頬を赤くした状態で呼吸を荒くしている。

「・・・・・・これで責任は取ったぞ」

「よ、余計酷くなったじゃないか! あんな姿を見られて・・・・・・ホントに責任とってよね!?」

今の自分の状況を思い出したロッテは慌てて服を着込み、トシアキに怒鳴りつける。

「痣は治したろ? 何が不満なんだ?」

いつもと変わらぬ顔で首を傾げたトシアキに対して、ロッテの怒りは爆発した。

「このっ!? 鈍感! 馬鹿!」

「おいっ! 危っ!? 何怒ってんだよ!?」

ロッテから繰り出される拳や蹴りをギリギリで躱しながらトシアキも怒鳴る。

「うるさいっ! トシアキの馬鹿!」

最後に放たれたロッテの回し蹴りを躱すことが出来ず、トシアキは壁に叩きつけられる。

「ぐっ!? 痛ってぇな・・・・・・」

「あっ・・・・・・」

吹き飛ばされたトシアキを見て、ロッテはようやく大人しくなる。

「ご、ごめん・・・」

壁に背を預け、座り込んでいるトシアキに近づいたロッテは済まなさそうに顔を俯かせ謝る。

「いや。 よく考えたら女性にあんな姿をさせた俺の方が悪いよな・・・・・・ごめんな、ロッテ」

俯くロッテの頭をそう言いながら撫でるトシアキ。

「っ!?」

頭に手を置かれたロッテはビクッと肩を強張らせたが、撫でられていると徐々に静かになっていく。

「ロッテ?」

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

気になって呼びかけると、ロッテは座ったまま眠ってしまっていた。

「座ったまま寝るなんて器用だな」

寝ているロッテを見て、ソッと撫でていた手を退けて苦笑したトシアキ。

「お? おぉっ!?」

手を退けたため、ロッテの体がトシアキの方へと倒れてきたのだ。

「うみゅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

トシアキの足の上に顔を不時着させたロッテだが、そのまま枕の代わりにして寝息を立ててしまう。

「こないだはアリアだったのに、次はロッテかよ」

言いながら、膝の上で眠るロッテの頭を優しく撫でてやる。

「ふぁぁ・・・・・・俺も寝よ」

大きな欠伸をしたあと、トシアキも壁に背を預けたままの姿勢で眠りについた。



***



あれからかなり時間が経ち、ロッテは慌てて帰って行った。

なんでも、アリアと交代でユーノの手伝いをしなくてはならないらしい。

「ふむ。 俺も行くか・・・・・・」

ロッテを見送ったあと、トシアキはそう言って自宅から外に出る。

外に出たトシアキはポケットに入れている携帯電話を取り出す。

「時間はまだ、大丈夫だな・・・・・・何か、持っていくか」

そう呟いたトシアキは歩いてどこかへ向かって行った。

再びトシアキが姿を見せたのは海鳴大学病院であった。

「確か、ここって聞いたんだが・・・・・・」

入口付近で辺りを見渡すトシアキ。

「あっ、くーちゃん!」

知り合いの声が聞えたので、そちらの方へ向くと子狐姿の久遠がトシアキに飛びついているのが視界に入った。

「くぅ!(トシアキ!)」

「おっと・・・・・・久遠、元気にしてたか?」

飛びついた久遠を抱きとめ、話かけるトシアキ。

久遠もトシアキに会えて嬉しいのか、腕の中で尻尾を振りながらこちらを見上げる。

「あっ、兄さん」

「トシアキ、アンタいたの?」

「こんにちは、トシアキさん」

久遠を追いかけてきたのだろう、フェイトにアリサ、すずかがトシアキの姿を見つけ、そう声をかける。

「あれ? なのはの声が聞えたのに、あいつがいないぞ?」

なのはの姿が見えないことに首を傾げたトシアキだが、その言葉に三人が苦笑する。

「なのはは運動苦手だから・・・」

「もう、来るんじゃない?」

「み、みんなぁ、はやいよぉ」

聖祥小学校の制服を着ているなのはが息を切らしながらトシアキたちのもとへやってくる。

「皆揃ったし、早く行きましょ?」

「あっ、部屋番号は私が聞いてるから」

なのはが合流したのを確認して、アリサとすずかは病院内へ入っていく。

「くーちゃんはしばらくここで大人しくしててね?」

トシアキの腕から久遠を受け取ったなのはは自分の鞄の中へソッと入れる。

さすがに病院内に動物を連れてはいけないので、なのはなりの配慮であった。

「俺たちも行こうぜ」

小さな鞄の中へ入れられた久遠を可愛そうに思ったトシアキだが、自分ではどうしようも出来ないので、先に行くアリサとすずかを追いかける。

「そういえば、フェイト」

「何? 兄さん」

なのはもアリサたちと先を歩き、楽しそうに会話したのをきっかけに、トシアキは隣で歩いているフェイトに声をかける。

「もう、大丈夫なのか?」

「あっ、うん。 魔法はしばらく使えないけど、怪我もなかったし、大丈夫だよ」

「そうか。 それなら安心だな」

そう言って微笑んだトシアキを横から見ていたフェイトは言いづらそうに言葉を紡ぐ。

「あの、兄さん。 その、心配かけて、ごめんなさい」

前を歩く三人には聞こえないような小さな声で謝るフェイト。

「わ、私、もっと強くなるから、だから・・・・・・」

何かに怯えるような様子で話すフェイトに悲しそうな顔をするトシアキ。

「そんなこと気にするな」

「で、でも・・・・・・」

トシアキの言葉に戸惑いを見せるフェイト。

「お前が無事でいるならそれでいい」

そう言って、こちらを窺っているフェイトの頭を優しく撫でてやった。

「あっ・・・」

「ほら、なのはたちが先に行ってるぞ。 お前も行って来い」

先を歩きながら楽しそうに会話しているなのはたちのもとへ送りだすトシアキ。

「う、うん。 兄さん・・・」

頷いたフェイトは少し進んでから振り返り、トシアキの名を呼ぶ。

「ん?」

「ありがとう」

頬を少し染めながら、年相応の笑顔で微笑んだフェイトはなのはたちのもとへ行ってしまった。

「・・・・・・将来、美人になるな」

今のフェイトの微笑みをみて、そう呟くトシアキであった。

そして、しばらく病院内を歩き回り、目的地に着いた五人。

「は~い、どうぞ?」

すずかが代表して扉をノックすると、中から元気な返事が聞えてきた。

「「「「こんにちはぁ」」」」

四人の少女たちがきれいに声を揃えてそう言ったあと部屋に入っていく。

その後ろから続いていくトシアキ。

「こんにちは、いらっしゃい」

トシアキたちを出迎えたのはベッドに座ってこちらを見つめる八神はやてであった。

「はやてちゃん、大丈夫?」

「うん。 平気や! あっ、皆、座って、座って」

すずかの気遣う言葉にもはやては元気な様子を見せ、四人に椅子を勧める。

「よっ、はやて。 元気か?」

「あぁ! トシアキさんや! 今日はどないしたん?」

四人がコートを掛けたり、椅子に座るなりしている間にはやてに話しかけるトシアキ。

「どうしたって、お前の見舞だよ。 あ、これお土産な」

そう言って持っていた箱をはやてに渡す。

「あ、それ、ウチの箱だ」

その箱を見ていたなのはがそう言って声を上げる。

「ということはケーキかシュークリームね」

「ちゃんと人数分あるから安心しろ。 皆で仲良く食べな」

トシアキはそう言って、部屋の入り口近くの壁に立ったまま背を預ける。

「そういえば、今日はアキちゃんおらへんの?」

「あぁ、少し用事があってな。 今度連れてくるよ」

それからはやてはすずかに他の三人を紹介してもらったり、色々と楽しそうに話しをしていた。

「ん?」

話している五人は気付いていないが、なのはの鞄がモゾモゾと動いているのをトシアキは気がついた。

「久遠か」

しかし、病院内で出すわけにはいかないので、そのまま見守ることにしたトシアキ。

「くぅ~~」

そして、しばらく動いていた鞄がついに開け放たれ、久遠が顔を出した。

出てきた久遠を再び鞄に戻そうと壁から離れたトシアキ。

「く!!」

「あ、こら!」

しかし、トシアキの手が届く前に久遠は足元を走って外へ逃げ出してしまった。

「トシアキさん?」

「どないしたん?」

楽しそうに話していた五人の少女たちが、突然叫んだトシアキを不思議そうな眼で見つめる。

「久遠が逃げた」

「えぇっ!?」

「ちょっと、トシアキ! ちゃんと見ときなさいよね」

なぜかアリサに怒られたトシアキだが、会話を邪魔してしまったという気持ちもあり、素直に謝る。

「すまん。 俺は探してくるから、心配するな」

「兄さん、手伝おうか?」

「いいよ。 フェイトも友達との楽しい時間を過ごしとけ」

そう言って、久遠を追いかけて部屋から出たトシアキ。

「さて、どっちに行ったかな?」

意識を集中させて、久遠と契約した時に結ばれた契約線を探す。

「こっちか・・・・・・」

線が導く方へ足を進める。

幸い、人の気配がなかったので久遠が誰かに見つかったわけではなさそうだ。

「おっ?」

少し行ったところで久遠が何者かに向かって威嚇していた。

人嫌いで知らない人を見ると隠れる久遠がそんなことをしているなんて珍しい光景である。

「久遠、何やって・・・・・・」

久遠の傍まで寄って、抱き上げるトシアキ。

ちょうど、廊下の角で見えなかった相手の姿が見えた瞬間でもあった。

「あ、あなたは・・・・・・」

「・・・・・・確か、シャマルさんですよね?」

久遠を抱き上げたトシアキを見て、驚いた顔をするシャマル。

そして、トシアキはアキと八神家に訪ねたときの記憶を呼び戻し、相手の名前を確認するようにそう尋ねたのであった。



~おまけ~


ポケットの中で震える携帯で目を覚ましたトシアキ。

膝の上のロッテを起こさないように気をつけながら携帯を取り出す。

「フェイトからか・・・・・・」

フェイトはなのはたちの学校が終わり次第、入院している友達のお見舞いに行くらしい。

「自分もしばらく安静にしてなきゃダメだろうに」

苦笑しながらその旨をフェイトに連絡する。

「んっ~~~。 ここは・・・・・・?」

フェイトにメールを送ると同時にロッテが目を開け、周りを見渡す。

「おはよう、ロッテ。 よく眠れたか?」

「あっ、うん」

まだどこか寝ぼけているらしいロッテに声をかけるトシアキ。

「男の膝でよく眠れたなぁ。 ゴツゴツしてたろ?」

そんなトシアキの言葉に腕を組んで、悩んでいるロッテ。

「ん~~~。 確かにそうだけど、なんていうのかな? トシアキの膝は安心出来る場所なんだよ?」

「いや、聞かれてもわからないんだが・・・・・・」

疑問形で話すロッテに苦笑したトシアキは時計を指して尋ねる。

「そういや、お前。 仕事あるんじゃないのか? ここにかなり居てるが、大丈夫なのか?」

「えっ? あ、あぁぁぁぁ!!?」

時計を見たロッテの顔がどんどん蒼白になっていく。

「ヤバい! このままじゃアリアに怒られる!」

慌てて玄関に向かって行ったロッテ。

「やれやれ、騒がしい奴だな」

「・・・・・・トシアキ?」

既に出て行ったとばかり思っていたロッテが玄関から顔だけを覗かせ、トシアキの名を呼ぶ。

「ん? どうした、忘れものか?」

そう尋ねるトシアキに、ロッテは猫耳をピクピクと動かして小さな声で言った。

「・・・・・・また、来てもいい?」

「あぁ。 いつでもいいぞ。 今度は時間があるときに遊びに来い」

「うん!」

トシアキの返事を聞いて、ロッテは満面に笑みを浮かべて元気よく頷き、今度こそ出て行った。

「・・・・・・俺も行くか」

最後に残ったトシアキはそう呟いて、外出の準備をするのであった。



~~あとがき~~


次話更新です。
本当はロッテの話だけで.五話を終わらせるつもりだったのですが、ネタ(書くこと)がなくなったので、本編とくっ付けてみました。

というか、何書いてんだろ・・・
アリアに続いてロッテまでなんて・・・・・・やり過ぎですよね(苦笑

次回はついになのはたちとヴォルケンズがはやての病室で出会います(おそらく・・・)
トシアキとシャマルの会話もお楽しみに!
では、また会いましょうw



[9239] 第二十九話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/02/01 02:30
海鳴大学病院で顔を合わせることになったトシアキとシャマル。

二人は今、誰もいない場所にあった長椅子に腰かけている。

「くぅ・・・・・・くぅ・・・・・・」

ちなみにシャマルに対して敵対心を見せていた久遠はトシアキに任せることにしたのか、トシアキの膝の上で眠っている。

「・・・・・・ザフィーラから聞きました。 あのときの結界を破壊してくれたのはあなただったんですね」

長い沈黙の時を破ったのはシャマルであり、俯きながら話す。

「あぁ。 俺はある人物からの依頼でな、お前たちの手伝いをするように頼まれた」

「それって、仮面を付けた人ですか?」

「ん、まぁ、そんなところだ」

別に仮面の男の依頼でもないのだが、適当にそう頷いておくトシアキ。

「そう、ですか・・・・・・」

「はやての具合はどうだ?」

考えるような仕草を見せたシャマルに対して、今度はトシアキが話始める。

「はやてちゃんの具合は正直、あまりよくありません」

「・・・・・・」

トシアキは膝で眠る久遠を撫でながら黙ってシャマルの話を聞いている。

「足の麻痺が徐々に上にあがってきているみたいで、このままだと・・・」

「心臓までたどり着く、か・・・・・・」

トシアキの言葉にシャマルは静かに頷いた。

「それで。 あと、何ページ必要なんだ?」

「えっ?」

シャマルはハッとした様子で隣のトシアキを見る。

「闇の書だよ。 はやてを助けるために蒐集してんだろ?」

「ど、どうしてそのことを・・・・・・」

「依頼主から聞いた。 だから、犯罪行為に力を貸してるんだよ」

そう言って、こちらを見つめるシャマルに視線を合わす。

「それで、後何ページなんだ?」

「・・・・・・八十四ページです」

「あとそれだけか。 ずいぶん頑張ってるんだな」

六百六十六ページの闇の書を残り八十四ページにしていることに感心したトシアキ。

「はやてちゃんのためですから・・・・・・」

「そうか」

頷いたシャマルを確認して、トシアキは久遠を抱えたまま立ち上がる。

「あ、あの・・・・・・」

「心配するな、なのはたちには言わないよ。 それに、俺も表立って協力は出来ないからな」

何か言いたそうなシャマルを残して、トシアキは病院から出て行ってしまった。

病院から出たトシアキは残してきたフェイトにメールを送っておく。

「これでよしっと」

メールを送信し終えたトシアキは携帯をポケットに仕舞おうとした。

「ん? 電話か?」

見たこともない番号から掛ってきた電話を首を傾げながら取るトシアキ。

「誰だ?」

「アキです。 兄様」

電話の相手は実妹のアキからであった。

「アキ? こないだ買った携帯の番号と違うぞ?」

「はい。 今はアースラの通信室から掛けていますので」

電話越しに聞えるアキの言葉に納得したトシアキ。

アキは管理局員として、アースラで待機しているのであった。

「なるほど。 それで、何かあったのか?」

「そちらに泥棒ねk・・・・・・いえ、師匠が来ませんでしたか?」

「あぁ。 ロッテなら午前中に訪ねてきたぞ。 昼には帰って行ったが」

トシアキの持つ電話の向こうで『やはり抹さt』とか、『姉妹揃っt』などの言葉が聞えてきたが、気にしないことにした。

「・・・・・・他に用件は?」

「あ、はい。 クロノ執務官とエイミィ執務官補佐が私たちのことに気付きつつあります」

「ふむ。 まぁ、結界を破壊したり、魔法を使わなかったり、怪しいところを見せてるからな」

「どうします? 消しますか?」

何やら不穏な発言をする実妹に対して、苦笑するトシアキ。

「アキ、周りに誰もいないのか?」

「はい。 私がいるのは使われていない第三通信室ですから」

「そうか。 まぁ、放っておけ。 何か聞かれたら俺の手伝いをしたと言えばいい」

トシアキの言葉を聞いたアキが何やら慌てて聞き返してくる。

「そ、それでは兄様に罪が及ぶのでは?」

「俺は依頼を受けただけと言うつもりだ。 もともと管理局はどうでもいいから、いざとなったら戦うだけだ」

「・・・・・・わかりました。 では、そのように」

電話越しではあるが、実妹のアキが心配してくれていることに気付いているトシアキは次の話題に移る。

「それとアキ、本当にいいのか?」

「はい。 全ては兄様の為です」

具体的な内容を話していないが、アキには理解できたらしい。

「・・・・・・悪いな。 迷惑ばかりかけて」

「私は兄様の為なら世界を滅ぼしても構いません」

心強い言葉を聞いたトシアキは嬉しそうに微笑みながら目を閉じて、心を込めてお礼を言う。

「ありがとう。 頼りにしてるよ、アキ」

「はい、兄様。 ではまた」

そう言ってアキとの電話は終了した。

携帯をポケットに戻したトシアキは沈む太陽を見つめ、自虐的な笑みを浮かべる。

「フェイトに続いてアキもか・・・・・・サイテーな兄貴だな」

幸い、その言葉は誰も聞いておらず、腕の中で眠る久遠も目を覚ますことはなかった。



***



それから数日間、平和な時が流れてトシアキたち敷島家は高町家に招待されていた。

「はい、どうぞ」

「おぉ、美味そうだな」

桃子が最後に並べた料理を見て、士郎がそう言って微笑む。

「えっと、俺までお邪魔してよかったんですか?」

高町家の食事にフェイトが誘われたのがそもそもの始まりであった。

フェイトがトシアキの許可を取りに来たので、送っていくついでに挨拶しに行ったトシアキ。

「なに、構わんよ。 君とは面識がないわけでもないし、大勢で食べた方が楽しいだろ?」

勿論、トシアキが行くのにアキが行かないわけもなく、アルフと久遠もそのまま付いて来て、高町家訪問となった。

「そうよ。 ウチのなのはもお世話になってるみたいだし、遠慮なんてしなくても大丈夫よ?」

フェイトとアルフだけのつもりだったのだが、挨拶に行ったときに士郎に言われ、そのまま敷島家全員が招待されることになったのだ。

「・・・・・・それじゃあ、ごちそうになります」

「・・・・・・」

そう言って頭を下げたトシアキと無言のままトシアキに倣うアキ。

「フェイトちゃんも遠慮せずに沢山食べてね?」

「はい、ありがとうございます」

それから皆で手を合わせて、いただきますと声を合わせてから食事に取りかかる。

「ほら、なのは。 取り皿」

なのはの兄である恭也からお皿を受け取ったなのはは隣にいるフェイトへ渡す。

「はい、フェイトちゃん」

「ありがとう。 姉さんも」

そのままフェイトは隣に座るアキへお皿を渡す。

「はい。 兄様、取り皿です」

「おっ、サンキュー、アキ」

そして、トシアキにまで渡ったところで士郎がワインを取り出してくる。

「どうだ、トシアキ君も一杯」

「あ、いただきます」

士郎とトシアキはそのまま楽しそうにお酒を飲みながら食事を取る。

「でね、アリサちゃんが―――」

「そうなんだ」

フェイトとなのはも学校での出来事を楽しそうに話す。

「ん?」

なのはの姉である美由希がテーブルの下を覗くと、久遠とアルフが美味しそうに食べている姿が見えた。

「・・・・・・」

そんな中、静かに食事を続けているアキ。

「アキちゃん、どうしたの?」

「いえ・・・・・・」

桃子の問いかけにも無表情のまま返事をするアキ。

兄であるトシアキは士郎とともに恭也を巻き込んで、酒を持ったまま姿を消していた。

「もしかして、美味しくなかった?」

「そんなことはありません。 少し、考え事を・・・」

そう言って桃子に答えたあと、持っていたスプーンをテーブルに置くアキ。

「少し、夜風に当たってきます」

「えぇ、行ってらっしゃい」

アキの言葉に桃子は微笑みながらその背中を見送った。

一方、トシアキは士郎に連れられて、高町家にある道場にいた。

「すごいですね、家に道場があるなんて」

「まぁ、ウチの家は少々特殊だからな」

「ところで、なんで俺まで?」

士郎に連れてこられた恭也はそう愚痴をこぼす。

「さて、トシアキ君」

恭也の疑問を華麗にスルーした士郎は珍しそうに道場を眺めていたトシアキに話しかける。

「はい?」

「何か悩み事があるのだろう? 話してくれないか?」

話を切り出した士郎の瞳は真剣な色を帯びている。

「・・・・・・やだなぁ、士郎さんの気のせいですよ」

士郎の言葉に苦笑しながら答えたトシアキ。

「いや、そんなことはない。 挨拶に来た時から不思議に思っていたんだが・・・・・・何を後悔している?」

「っ!?」

士郎の言葉に思うことがあったのか、驚きを顔に出してしまうトシアキ。

「私はそういう気配を察するのが他人より敏感なんだ。 恭也はどう思う?」

「俺もそう思う。 が、他人の事情に踏み込むべきではないと俺は思う」

親子揃ってトシアキの様子がおかしいことに気付いていたらしい。

「・・・・・・」

「温泉で会った時も気になっていたが、あの時は知り合ってまだ間もなかった」

「そう、ですね。 あの時はお世話になりました」

温泉旅館で初めて士郎たちに出会ったトシアキ。

その時、同じように士郎に尋ねられたことがあった。

「だが、今回は違う。 知り合って時間も経った。 それになのはの友達であるフェイトちゃんの兄妹だ」

「・・・・・・」

「困っていることがあるなら力になる。 だから、話してくれないか?」

黙っているトシアキを諭すように言った士郎。

最初に踏み込むべきではないと答えた恭也も手伝ってくれそうな気配はある。

「・・・・・・今度、話します。 それまで待ってもらえませんか?」

「・・・・・・ふぅ。 君がそう言うなら仕方がない」

トシアキの回答に緊張に包まれていた空気が霧散していく。

「ん? 電話か?」

その時、トシアキのもつ携帯電話が鳴り響いた。

「失礼・・・・・・もしもし?」

士郎と恭也に断りを入れてから、電話に出たトシアキ。

「あ、敷島さん! 大変なんです! アキ執務官が、アキ執務官が!!」

電話から聞えてくるエイミィの焦った声。

その電話の内容を聞いたトシアキは慌てて外へと飛び出す。

「アキ!」

道場から家まで移動したトシアキは、皆が楽しそうに会話していたリビングへ向かう。

「兄さん?」

「どうしたの? トシアキさん」

そこにいたフェイトとなのはが大声を出して入ってきたトシアキに首を傾げる。

「フェイト、なのは。 アキはどこにいる?」

「えっ? 姉さんなら少し前に出て行ったよ?」

「夜風に当たってくるって・・・・・・お庭にいるんじゃ・・・・・・」

なのはの言葉を最後まで聞かずに庭へ飛び出たトシアキは持っていたままの携帯電話の存在に気付く。

「エイミィ! アキがどうしたんだ!?」

「あっ、やっと気付いてくれた。 実は守護騎士たちの襲撃にあって、リンカーコアの魔力を・・・・・・」

そこまで聞いたトシアキは無言で電話を切った。

後ろから、トシアキの行動を不思議に思ったなのはたちがやってくる。

「トシアキさん?」

「・・・・・・すまん。 アキのところに行ってくる」

「姉さん? そう言えば、どこまで行ったんだろ・・・・・・」

家にも庭にも姿が見えないアキに対して首を傾げるフェイト。

「士郎さん、フェイトたちを頼みます」

「・・・・・・あぁ、わかった。 気を付けてな」

トシアキの様子で何事か事情を察したのか、士郎は何も言わず見送ってくれる。

「はい」

そしてトシアキは士郎の言葉に頷いき、走って高町家から去って行った。

しばらく走り、誰もいない場所までたどり着いたトシアキ。

すると、すぐに足元に魔法陣が現れ、トシアキの体を光が包み込む。

「トシアキ、こっちだ」

アースラへと転送されたトシアキは、転送ルームにいたクロノに案内され、数度足を運んだアースラの医務室へ行く。

「・・・・・・アキ」

医務室についたトシアキが見たものは、ベッドで静かに眠るアキの姿であった。

「ごめんなさい、敷島さん。 私が気付いたときにはもう・・・・・・」

ベッドの傍にいたエイミィが申し訳なさそうにそう言って謝る。

「いや、いい。 アキのことだから監視されないようにしてたんだろうし」

「あぁ、なのはやフェイトには何かあった時にと色々していたんだが、アキ執務官と君には何もしてなかったんだ」

クロノがトシアキの後ろからそう言ってエイミィをフォローするように話す。

「だろうな・・・・・・なのはやフェイトには黙っててくれ、心配させたくない」

「わかった」

トシアキの言葉に頷くクロノ。

「・・・・・・・・・悪い、一人にしてくれないか?」

「あぁ、そうだな。 エイミィ」

「う、うん・・・・・・」

クロノはエイミィを連れて医務室から去っていく。

そして、医務室には眠ったままのアキとトシアキだけが残った。

「・・・・・・」

トシアキは眠るアキの頭を無言で優しく撫でてやる。

「・・・・・・ごめん、ごめんな、アキ」

俯きながら発した言葉を聞き取れる者はこの場には誰もいなかった。



***



少し時間を遡って、アースラの内部。

クロノは一人で何かを探しているようであった。

「・・・・・・」

モニターに映し出されている幾つもの資料に目を通しながら何かを考えている。

「やはり、そうなのか・・・・・・」

結論がでたらしいクロノは最後の資料を眺めて、そう呟いた。

「あれ? どうしたの、クロノ君」

そこにエイミィが入ってきたため、クロノは慌てて見ていた資料を消す。

「ちょっと、調べ物を・・・・・・」

「なんだ、言ってくれればやるのに」

そう言って近づいてくるエイミィを避けるように、反対側から扉に向かうクロノ。

「いいんだ。 個人的なことだから」

扉の傍まで来たところで、クロノは振り返り、エイミィに話す。

「そうだ。 闇の書についてのユーノのレポート、なのはたちにも送っておいてくれたか?」

「うん。 なのはちゃんたちも闇の書の過去については複雑な気持ちみたい」

「そうか・・・・・・」

エイミィの答え聞いて今度こそ部屋を出ようとしたクロノだが、突然アラームが鳴り響く。

「っ!?」

「敵!? こんなときに!?」

エイミィが素早くモニターで映し出すとそこには胸から腕を生やしているアキの姿が映しだされた。

「アキ、執務官・・・・・・」

あれほど強かったアキが守護騎士たちにやられている姿をみて、呆然と立ち尽くすエイミィ。

「くっ!? こんな状態になるまで気付かなかっただと!」

モニターに映し出された映像を見て、クロノは舌打ちをしてバリアジャケットを装備する。

「僕が行く! エイミィはトシアキに連絡を!!」

「う、うん!」

そうしている間にリンカーコアを蒐集されたアキはその場に倒れこむ。

「くっそぉ、間に合え!!」

しかし、クロノの願いも空しく、現場にクロノがたどり着いた時には倒れて、意識を失っているアキの姿しかなかった。

「・・・・・・」

「クロノ君・・・・・・」

無言のクロノを心配するように、エイミィがアースラから話しかけてくる。

「エイミィ、転送を。 彼女をアースラまで」

「うん、わかったよ」

アキはアースラに回収され、医務室で治療を受けている。

トシアキとも合流し、今は医務室でアキの傍に付いている。

「敷島さんとアキ執務官が内通者っていうのは私の考え過ぎだったね」

トシアキとの会話を終えたエイミィが後ろから付いてきたクロノに話しかける。

「・・・・・・」

「ははは・・・・・・味方を疑っちゃって、敵を逃がしちゃ意味ないよね」

アキからリンカーコアの魔力を奪った守護騎士を早期に発見できなかったことを悔やんでいるのだろう。

「・・・・・・いや、アースラのシステムが反応しなかったんだ、仕方ない」

「でも! 私がシステムに頼らず、自分で探索していれば防げたかも知れないんだよ!?」

クロノの慰めも意味をなさず、エイミィは涙を浮かべながら言い放つ。

「それでもかもしれないだ。 悔やんでもしかたない」

「でも・・・・・・」

「エイミィ、君はこの失敗を活かして、次に同じようなことをしなければいい。 幸い、今回は命に別条はないんだ」

俯いて悔やむエイミィをそう言って慰めるクロノ。

エイミィもそんなクロノの優しさに気付いているのか、涙を拭ってモニターを見つめる。

「・・・・・・うん、そうだね。 今度は失敗しない、私、頑張るよ」

「それでこそ僕の補佐官だ」

「よ~し、やるぞ!」

エイミィは元気を取り戻し、敵の早期発見の為、自分の目で探索を開始する。

そんなエイミィを見て安心したクロノは静かに部屋から出て行く。

「・・・・・・っ!」

通路に出たクロノは無言で壁を叩きつける。

「何が時空管理局・・・・・・何が執務官だ・・・・・・何一つ、守れてないじゃないか」

そう呟いてクロノはその場から去っていく。

そのときの表情は何かを決意したような真剣な表情であった。



~おまけ~


トシアキが出て行った後のはやての病院室。

乙女たちは楽しそうに今までのことを話していた。

主に学校での出来事や、休みの日の過ごし方などである。

「そういえば、はやてちゃん」

「ん? どないしたん?」

話に一区切りついたところで、すずかが話し出す。

「トシアキさんの妹のアキさんとはいつ知り合ったの?」

「そうそう、あたしも聞きたかったのよ」

すずかの言葉に便乗する形でそう言ったアリサ。

「アキちゃん? アキちゃんはトシアキさんが連れてきたときに会ったんよ」

「兄さんが連れてきた?」

「そや。 すずかちゃんと来た数日後に来てな? アキちゃんと友達になって欲しいって言われたんよ」

フェイトたちが知らないのは学校に行っている時間の話だからである。

「ふ~ん、そうなんだ」

「ちょっと変わってる子でな? ジュースのパックをずっと持っとったんよ」

相槌をうつなのはに説明するはやて。

はやての説明を聞いてピクリと眉を動かしたアリサ。

「なんや、飲むのが勿体ない言うとったな」

「・・・・・・で、結局どうなったの?」

突然、不機嫌な声になったアリサに気付かず、そのまま説明を続けるはやて。

「飲まない方が勿体ないって教えてあげたら、嬉しそうに飲んどったよ?」

「・・・・・・・・・絶対、トシアキからの貰いものね」

そう呟いたアリサの声を聞き取れたのは、隣にいたすずかだけであった。

「飲んだ後も大事そうに抱えてるし、不思議な子やったわ」

「きっと、大切に保管してるんでしょうね」

「ア、アリサちゃん」

アリサの不機嫌な呟きに苦笑しながら宥めるすずかであった。



~~あとがき~~


ようやく次話更新です。
時間がかかってすいません。
PSPのなのはのゲームやってたら書くことを忘れていましたw

さて今回のお話ですが、アキがやられた!
というまさかの展開。 まぁ、会話から予想されていたかもしれませんが・・・
これでアキちゃんの(As編での)出番は終わりです。
なのはたちより出てるって・・・・・・と思ったため、このまま寝ててもらいます。

次回はいよいよ闇の書との対決!?(か、どうかはまだ未定w)
それではPVと感想が増えることを願って・・・・・・また、会いましょうw



[9239] 第三十話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/02/07 00:09
アースラ内の医務室で眠ったままのアキの傍についていたトシアキ。

「トシアキ・・・・・・」

「ロッテ、それにアリアか」

アキとトシアキしかいない部屋に入ってきたのはロッテとアリアであった。

「その・・・・・・ごめんなさい。 アキのことを・・・・・・」

俯きながらそう言ったアリア。

実はアキが襲われた時にアースラのシステムが反応しなかったのはアリアが細工をしたからであった。

「気にするな、本人が了解したんだ。 俺に謝る必要はない」

「でも・・・・・・」

トシアキにそう言われてもなお、何か言おうとしたアリア。

「謝罪はいいって。 それで、現在の様子は?」

苦笑しながら傍に来たアリアを撫でて、それ以上言わせないトシアキ。

「うん、残り数ページだよ。 でも、あの子たちと会ったみたい」

黙ってしまったアリアに代わって説明したのがロッテ。

ロッテもアキが一人の時に守護騎士たちを手引きしたのである。

「そうか・・・・・・・・・最後のページはどうすんだ?」

「守護騎士たちになってもらうよ。 私たちもこれから出る予定」

「これで、闇の書は封印される」

ロッテに続いてアリアが話す。

二人の瞳には長く続いた呪いを終わらせる使命感が浮かんでいた。

「よし、俺も行こう」

「えっ?」

「アキについていてあげなくていいの?」

トシアキの言葉が意外だったのか、ロッテもアリアも驚いた表情でトシアキを見る。

「あぁ。 しばらくは目を覚まさないだろうから・・・・・・何かあったときの為にな」

「そう・・・・・・あなたがいれば安心ね」

「そうだね。 じゃあ、行こっか?」

医務室から出て行こうとする二人を先に行かせたトシアキ。

「行ってくるな、アキ」

部屋から二人が出て行ったのを確認したトシアキがベッドで眠るアキの頭を優しく撫でる。

そして、優しい表情から真剣は表情に切り替えたトシアキは先に行ったロッテとアリアの後を追いかけた。

「―――邪魔すんなぁぁぁ!!!」

トシアキたち三人が地球へ転送された時、一番に聞えてきたのはヴィータのそんな言葉だった。

「うわぁ・・・・・・なのは、大丈夫なのかよ」

転送されたトシアキが見たのはヴィータのグラーフアイゼンがなのはに向けて振り下ろされた瞬間であった。

「大丈夫」

「あの子、バリアを張ってたわ」

転送されてから仮面の男に姿を変えたロッテとアリアが横でそう教えてくれる。

ちなみに三人とも姿を消しているので、ビルの上で戦っている五人とも気付くことはない。

「悪魔め・・・・・・」

炎の中からバリアジャケットを装備した無傷のなのはが姿を現し、それを見たヴィータがそう呟く。

「悪魔で、いいよ」

悲しそうな表情でそう呟くなのは。

「ふむ。 これからなのはのことは『悪魔』と呼んでやろう」

「ちょっと、あんまり声をだすと気付かれるわよ」

なのはの呟きに頷いて答えたトシアキ。

そのトシアキに注意を促すアリア。

「悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!」

しかし、そんなトシアキたちの会話が聞えることもなく、ヴィータにそう宣言するなのはであった。

それからなのはとヴィータの空中戦が始まったので、当たらない場所に移動するトシアキたち。

「おっ? フェイトと・・・」

「闇の書のプログラム、守護騎士シグナムだね」

移動したトシアキとロッテはビルの屋上にいる三人に視線を移した。

シグナムとフェイトが話している場所から少し離れた場所でシャマルが魔法陣を展開していた。

おそらく、通信妨害と結界を兼ねた魔法を使用しているのだろう。

「―――さらに薄くしたか」

シグナムのそんな声が聞え、シャマルから視線を外すトシアキ。

「フェイト! お義兄さんはそんな格好許さな・・・ふぐっ!?」

視線を外した先にいたフェイトの新しいバリアジャケットを見たトシアキが、思わず叫んでしまう。

「ちょ、ちょっとトシアキ! 聞えるってば!!」

そんなトシアキの隣にいたロッテが慌てて口を塞ぐ。

トシアキとロッテのじゃれ合う様子を羨ましそうに見つめるアリア。

「ロッテってば、もう。 役目のこと忘れてるんじゃないかしら」

アリアは空中戦を始めたなのはとヴィータの傍で様子を窺っている。

「・・・・・・トシアキもトシアキよ。 あんなに楽しそうに笑って・・・」

アリアの怒りの矛先はロッテからトシアキに移っていた。

「にしても、トシアキって不思議よね。 なんか、傍に居るだけで楽しくなるし」

なのはとヴィータが激しい空中戦を行っているのだが、姿を消しているアリアは飛び交う魔法弾に当たらないように避けながら一人で呟く。

「今度、管理局で調べてみようかしら? もしかしたら、アキと同じで高ランクかもしれないし」

「―――ホントの名前が、あったでしょ?」

一人であれこれ考えているうちに、なのはとヴィータの戦いが止まる。

「隙有り」

止まってヴィータと話しているなのはに向かってバインドを仕掛けるアリア。

「バインド!? またっ!?」

「これで一人・・・・・・ぐっ!?」

なのはにバインドを仕掛けて油断していたところにフェイトの攻撃が当たってしまう。

「はぁぁぁ!!!」

そして、素早いフェイトのバルディッシュによる物理攻撃で姿を見せてしまうアリア。

もっとも、今現在も仮面の男の姿である。

「こないだみたいには、いかない!」

バルディッシュを構えてアリアに向き合うフェイト。

「トシアキ、止めないよね?」

「・・・・・・あぁ」

離れていたところからフェイトとシグナムを見ていたロッテが隣のトシアキに確認をとる。

そして、トシアキの返事を聞いたロッテは、アリアを助けるべくフェイトの脇腹に強烈な蹴りをお見舞いする。

「ふっ!」

「きゃぁぁぁ!!」

蹴飛ばされてビルに叩きつけられる手前でアリアのバインドによって捕獲されるフェイト。

「二人!?」

なのはが驚いている間に守護騎士たちに次々とバインドを仕掛けるアリア。

「これって、いったい?」

「すまんな、なのは、フェイト」

全員がバインドで動きを止められているのを見て、呟いたなのはにトシアキが現れて謝罪する。

「ト、トシアキさん!?」

「兄、さん?」

突然現れたトシアキの姿に驚いた二人だが、バインドを掛けられていないことに疑問を抱く。

「どうして、トシアキさんは無事なの?」

「ん? あぁ。 俺があいつらと仲間だからだよ」

「「えっ?」」

いつもと変わらぬ様子でそう答えたトシアキになのはもフェイトも固まる。

もっとも、動きはバインドによって取れない状態ではあるが。

「この人数だと、バインドも通信防御もあまり持たん」

「トシアキがどちらか出来れば助かったんだが・・・」

そう話しながら仮面の男であるロッテとアリアが話してくる。

「悪いな。 俺はこっちの魔法は使えないんだ」

「そ、そんな・・・・・・」

「嘘、だよね?」

仮面の男に返事を返したトシアキにフェイトは悲しそうな顔をし、なのはは嘘であってほしいと表情が語っていた。

「本当だよ、なのは。 俺は金とお前たちの命の保障というのを引き換えにこいつらに協力してる」

「そんな・・・・・・トシアキさんはそんなにお金が大切なんですか!?」

トシアキの発言になのはが必死になって叫ぶ。

「あぁ。 家族を養うためには金がいる。 士郎さんだって同じようなことをしてたんだろ?」

「で、でも、今は・・・・・・」

「そう、今は違うな。 士郎さんの若いころの話だ」

その言葉を聞いて何も言わなくなってしまったなのは。

「に、兄さん・・・・・・」

今度はなのはの代わりにフェイトが泣きそうな眼をして呼びかけてくる。

「私、いらない子なの?」

「そんなわけないだろ。 お前となのは、あとアリサとすずかの命は保障してもらってる」

「私、たちの?」

トシアキの言葉に首を傾げるフェイト。

「あぁ。 お前たち四人の命は奪わないって約束だ。 大切な義妹を危ない目に合わせるわけないだろ?」

そう言ったトシアキの笑顔は、いつも優しく頭を撫でているときと同じ笑顔であった。

「きゃ!?」

「くっ!?」

いつの間にかビルの屋上に居たはずの守護騎士の姿が消えており、ロッテとアリアが傍まで来ていた。

「おいおい、義妹と恩人に手荒なマネはすんなよ?」

「わかっている。 邪魔されないようにするだけだ」

「四重のバインドとクリスタルケージを使用する」

そして、アリアによってなのはとフェイトはバインドで縛られたまま、クリスタルケージに閉じ込められた。

「んじゃ、俺はここにいるから、早く済ましてこい」

「わかった」

「行ってくるね」

そう答えたロッテとアリアは仮面の男からなのはとフェイトに姿を変えていた。

そして、ビルの屋上でなにやら行っている。

「・・・・・・」

それを離れた位置でクリスタルゲージに閉じ込められた二人と見ていた。

「はやてちゃん!?」

「はやて!」

「あぁ、はやてだな」

魔法によって転送されてきたのは病人服姿で苦しそうに胸を押さえているはやてであった。

「トシアキさん! 助けなきゃ!」

「兄さん! 早く!」

閉じ込められている二人が騒ぐが、トシアキは動こうとはしない。

「・・・・・・・・・俺は、お前たちが無事ならそれでいい」

トシアキの呟きと同時にはやての足元に魔法陣が現れる。

そして、白い魔法陣がどんどん黒く染まっていった。

「もう! トシアキさんのわからず屋!!」

「兄さん・・・・・・」

なのはが怒り、フェイトが悲しそうにそれぞれトシアキを見て、自分たちの力でバインドとクリスタルゲージを破壊する。

「はやてちゃん!!」

「はやて!!」

そして、傍にいたトシアキを無視してはやてのもとへ向かう二人。

「・・・・・・やっぱ、間違ってたのかな」

残されたトシアキは夜空を見上げてそう呟く。

「うっ、うっ・・・・・・うわああぁぁぁぁ!!!!!」

はやての悲しくて苦しい叫び声がトシアキの居る場所まで聞えてくるのであった。



***



はやてが叫び声をあげ、膨大な魔力が放出された場所から離れた位置。

「よし、結界は張れた。 デュランダルの準備を」

「出来ている」

仮面の男へと姿を変えているアリアとロッテがそう話す。

その時、大きな爆発が起きる。

闇の書による魔法攻撃が放たれたのであった。

「・・・・・・もつかな? あの二人」

「暴走開始の瞬間まで、もって欲しいな」

その爆発を離れた場所から見ていた二人は背後にいる人の気配に気づかなかった。

「ん?」

「なっ!?」

ロッテが首を傾げ、アリアが驚いている間にバインドが仕掛けられる。

「・・・・・・ストラグルバインド」

後ろにあった気配――クロノがそう言いながら近づいてくる。

「相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する。 あまり使いどころのない魔法だけど、こんなときには役に立つ」

自分の持つデバイスをクルクルと回して、仮面の男二人へ突き付ける。

「変身魔法も強制的に解除するから」

「「うわぁぁぁ!!」」

そうして、仮面の男の姿から猫耳をはやした女の姿に戻ってしまったロッテとアリア。

「クロノ! この・・・・・・」

「こんな魔法、教えてなかったはずなんだけどね」

バインドで動きが取れないまま、猫姉妹がクロノを睨みつけて話す。

「一人でも精進しろと教えたのは君たちだろ? アリア、ロッテ」

自分に魔法技術と戦闘技術を教えた師匠が敵だったことに、悲しそうな表情で二人を見つめるクロノ。

「一緒に来てもらうよ」

そして、後方に控えていた武装局員とともに管理局本局へ転送されていった。

管理局本局でクロノは三人の人間と向かい合っていた。

「リーゼたちの行動はあなたの指示ですね? グレアム提督」

クロノの視線の先にはバインドで捕えたロッテとアリア、そして、彼女たちの主であるグレアムが座っていた。

「違う! クロノ、あれは」

「私たちの独断よ、父様は関係ない」

ロッテとアリアはグレアムを庇うようにそう発言する。

「ロッテ、アリア、いいんだ。 クロノのことだ、既に全部わかっているのだろう」

庇ってくれた二人にそう言って、クロノに尋ねるような視線を向けるグレアム。

「十一年前、闇の書が転生してからあなたは独自に探していたんですね」

「・・・・・・」

クロノの話を三人は黙って聞いている。

「そして、発見したのはいいが、完成前の主を押さえてもあまり意味はない」

「うむ・・・・・・」

「だから、干渉しながら闇の書の完成を待った。 見つけたんですね? 永久封印の方法を」

そこまでクロノが話終えたあと、グレアムは目を閉じて今までのことを語り始めた。

そして、話を聞き終えたクロノは静かに立ち上がる。

「それでも、提督のプランには問題があります。 凍結の解除は簡単に行えてしまう、そうするといつかは誰かが使おうとする」

「・・・・・・」

「怒りや悲しみ、欲望や切望、そんな思いが『闇の書』という力を求めてしまう」

クロノの話を聞いたグレアムがソッと立ち上がる。

「クロノ」

「はい?」

「立派になったな。 若い時のクライド君を見ているようだったよ」

自分の父親に似ていると言われたクロノは黙って頭を下げて出て行こうとする。

「アリア、クロノにデュランダルを」

グレアムの言葉にクロノの足がピタリと止まる。

「父様・・・・・・」

「そんな・・・・・・」

そして、同じくグレアムの言葉を聞いたアリアとロッテは悲しそうに主を見つめる。

「私たちにもうチャンスはない。 持っていても役には立たないだろう」

「これが・・・・・・」

「どう使うかは君に任せる。 氷結の杖、デュランダルだ」

受け取ったカードをジッと見つめるクロノ。

「それから、クロノ。 ここで通信しても構わんかね?」

デュランダルを見つめていたクロノにそう言ったグレアム。

「・・・・・・えぇ、僕がいる間なら」

「すまない」

そう言って通信を開いた先に居たのは、夜空をジッと眺めているトシアキであった。

「ん? どうかしたのか、おっさん」

トシアキは急に現れたモニターを疑問にも思わず、そう話しかけてくる。

「すまない。 私たちはもう手を出すことが出来なくなってしまった」

「ごめんね、トシアキ」

「その・・・・・・ごめんなさい」

グレアムの後ろからロッテとアリアも一緒に謝罪する。

「そうか・・・・・・クロノにバレたんだな」

三人の言葉に苦笑したトシアキはそう言ってモニターから視線を外す。

「闇の書となのはたちが戦ってるのに、ロッテもアリアも来ないと思ったら捕まったのか」

「あぁ。 君にも色々と迷惑をかけた。 最初に決めてあったように依頼料は振り込んでおくよ」

そこで言葉を切ったグレアムは新たに別の言葉を紡ぐ。

「そして、もう一度依頼したい。 クロノに協力して、闇の書の暴走を止めてくれ」

「・・・・・・」

「料金は今回の倍だそう。 危険だが、やってくれないかね?」

グレアムの言葉に考える仕草で目を閉じていたトシアキはソッと目を開ける。

「・・・・・・わかったよ。 そこにクロノはいるんだろ?」

「あぁ、いるぞ、トシアキ」

トシアキの言葉に答えてクロノが画面に出てきた。

「そういうことらしい。 指示をくれるか?」

「とりあえず、僕が戻るまで持ちこたえてくれ」

「了解」

そう返事をしたトシアキは戦うなのはたちのもとへ飛んで行ってしまった。

それを確認したクロノは通信を切る。

「トシアキに依頼していた内容は、闇の書の完成を助けることですね?」

「あぁ、なのは君やフェイト君、それにアキ君にも申し訳ないことをしたと思っている」

「やはり、結界を破壊したり、魔法を使わなかったのは、そういうことですか」

クロノは今までのトシアキがとった不審な行動を思い出してそう言った。

「ふぅ、前回のPT事件につづき今回の事件まで・・・・・・アイツにも裁判に出てもらわないと」

何気なくそう口に出してしまったクロノ。

それを聞いていたアリアとロッテが慌てて言葉を発する。

「で、でも、今回は私たちの依頼を受けただけだし?」

「何も裁判に彼を出す必要はないんじゃないかしら?」

「「・・・・・・」」

猫姉妹が二人揃って、トシアキを弁護するような発言をしたため、思わず顔を見合わせたクロノとグレアム。

「それに、今から手伝ってもらうんでしょ?」

「それでチャラにしてあげたらいいんじゃない?」

このまま放っておけばまだまだ続きそうなので、クロノは二人の言葉を無視して、グレアムに向き直る。

「・・・・・・では、僕も現場に向かいます」

「・・・・・・あぁ。 全てが終わったらまた話そう」

後ろでクロノを引き留めるような言葉が聞えたが、彼は聞えない振りをして戦いが行われている地球へ向かっていくのであった。



~おまけ~


クロノが去って行ったあとも猫姉妹はクロノのことを話していた。

「もう、クロ助ったら最後まで話を聞かないんだから・・・」

「ほんと、昔はあんなに素直で可愛らしい子だったのに」

自分たちが戦闘技術と魔法技術を教えていた時のクロノを思い出して、そう呟く二人。

「それにしても、リーゼ。 彼のことをずいぶん気に入ったようだね」

「えっ!? そ、そんなことないですよ、父様」

「そ、そうだよ。 父様の勘違いだよ、勘違い」

グレアムの言葉に顔を赤らめて首を振るアリアと、笑みを浮かべながら手をヒラヒラと振るロッテ。

「・・・・・・ふむ、そうか。 私の勘違いだったか」

二人の返事を聞いたグレアムは少し考えてそう頷く。

「はい、きっとそうです」

「うんうん、そうだよ」

グレアムの頷きに便乗して頷く猫姉妹。

「ということは、彼に対しての弁護はいらないな」

「「えっ?」」

しかし、次のグレアムの言葉に驚いて声を揃えてしまう。

「娘のようなリーゼたちが気に入ってるのなら、私だけ罪を被ろうかと思っていたのだが、私の勘違いならその必要もないな」

「「・・・・・・」」

「なに、彼は依頼を受けただけだし、たとえ裁判を受けたとしてもそんなに重い罪には・・・」

そこまでグレアムが言ったところで、アリアとロッテが身を乗り出してくる。

「「父様!!」」

「なんだね?」

しかし、そんなことは予想の範囲内だったのか、冷静に返事をするグレアム。

「えっと、その、彼に裁判を受けさせると色々とマズいと思うの」

「そうそう、えっと・・・・・・アキもいるし、あの子が暴れちゃうかもしれないでしょ?」

慌ててトシアキの弁護を始める二人をみたグレアムは静かに笑いだす。

「はははっ・・・・・・冗談だよ。 なに、彼には裁判なんて受けさせないさ、私からクロノに言っておくよ」

「もう、父様ったら・・・」

「イジワルだね」

楽しそうに笑うグレアムを恨みがましい目で見つめながらそう言った猫姉妹であった。



~~あとがき~~


三十話更新しましたw
なんか、主人公が最悪最低なキャラになってる!?
こんなはずじゃなかったのに、どこで間違えたんだろ・・・・・・

猫姉妹は原作通りにクロノに捕まり、管理局本局へ連れ戻されました。
まぁ、結構出番有ったし、いいだろうという私の判断ですw

それにしてもアースラスタッフあんまりでてない・・・・・・
Sts編とかでも結構出てくるのに、今まで名前とか出してないような気が・・・

ま、まぁ、細かいことは気にせず、次回の話も読んでいただけるとこと願っておりますですw
ではでは、また次にお会いしましょうw



[9239] 第三十一話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/02/28 22:27
戦いが繰り広げられている場所にたどり着いたトシアキ。

そこでは、義妹であるフェイトと黒い羽根を生やした闇の書の管理人格が戦っていた。

「・・・・・・誰だ、あれ」

「あ、トシアキさん・・・・・・」

トシアキの呟きが聞えたのか、振り返ったなのはは暗い表情でトシアキを見つめる。

「そんな顔するなよ」

なのはの表情を見たトシアキは苦笑しながら隣に並んで浮かぶ。

「・・・・・・トシアキさんは仮面の人たちの仲間なんでしょ?」

「さっきまではな。 色々と事情があって、闇の書が暴走しないように時間を稼ぐことが仕事になった」

そう言って、フェイトと戦う闇の書の管理人格を見る。

「あいつが闇の書の主、はやてでいいのか?」

「えっと、はやてちゃんじゃなくて、闇の書の管理人格? って言うのかな?」

なのはもよくわかってないらしく首を傾げながらトシアキに説明する。

そのうちにいつの間にいたのか、ユーノとアルフによって闇の書の管理人格はバインドで動きを止められる。

「おいおい、三対一じゃ絶対勝てるだろ。 俺、いらないんじゃ・・・」

そこまでトシアキが言ったところで、二人のバインドを破壊する管理人格。

「ファイア!」

しかし、時間稼ぎは十分だったのか、フェイトの魔法攻撃が放たれる。

「シュート!」

そして、隣にいるなのはもフェイトと挟み撃ちするように魔法攻撃を放つ。

「・・・・・・俺、空気扱いですか」

そう言って落ち込むトシアキの周りに赤黒いナイフが浮かび上がる。

「っ!?」

身の危険を察したトシアキは素早く上昇。

同じようにナイフに狙われていたなのはとフェイトはバリアを張って防ぐ。

しかし、それによってこちらの攻撃が止まってしまったため、管理人格である彼女の足元に魔法陣が現れる。

「まさか・・・・・・」

「あれは・・・・・・」

そして、徐々に集まる魔力にアルフとユーノが驚きをあらわにする。

「スターライト、ブレイカー・・・・・・?」

自分の魔法であるスターライトブレイカーが相手に使用されて思わず呟いたなのは。

そうしている間にも魔力が集まっていき、巨大な塊となっていく。

「アルフ! ユーノを!!」

傍にいたアルフにユーノを連れて離れるように指示を出すフェイト。

「なのは、早く」

「う、うん」

驚きで呆然としていたなのはもフェイトに連れられ管理人格から距離をとる。

「凄いことになってんなぁ」

フェイトとなのはに並ぶ形で避難するトシアキ。

「兄さん・・・・・・」

トシアキの姿を確認して、先ほどのなのはと同じように悲しそうな表情をするフェイト。

「心配すんな。 今度は味方だ」

「・・・・・・うん」

そう話しながらどんどんと離れて行く三人。

「ね、ねぇ、フェイトちゃん、そんなに離れなくても・・・・・・」

「至近で当たったら防御の上からでも落とされる。 回避距離を取らなきゃ」

「そうだぜ、なのは。 自分の魔法の威力はよくわかってんだろ?」

相手から離れ過ぎだと思っていたなのはにそう突っ込みを入れる義兄妹。

「・・・・・・」

二人の言葉に何も言えなくなるなのはであった。

【左方向三百ヤード先に一般市民がいます】

しばらく飛んでいるとフェイトの持つバルディッシュがそう教えてくれる。

【人数は二人。 成人ではなく子供だと思います】

さらに、なのはの持つレイジングハートも補足して知らせてくれた。

「「えっ?」」

二機のデバイスに驚くフェイトとなのは。

「で、どうすんだ?」

決定権を二人に任せたトシアキはそう尋ねる。

「とりあえず、そっちに行こう」

「うん。 兄さんも、いい?」

確認するように尋ねたフェイトの表情はどこか不安そうであった。

「・・・・・・あぁ。 二人がそう決めたなら従うさ」

フェイトの表情を見て、苦笑したトシアキはそう返事する。

その会話からしばらくした後で、なのはを引っ張っていたフェイトが手を離す。

「兄さん、なのは、この辺」

「うん」

「了解」

フェイトの言葉通りに、なのはは地面に着地して辺りに人がいないか探す。

そしてトシアキは宙に浮かんだまま人の気配を探す。

「っ! あの! すみません!!」

地面に降り立ったなのはが路地から出てきた人影に気づき、そう声をかける。

「って、おいおい、マジかよ」

その人物をトシアキも確認したのか、頭を手で押さえてそう呟く。

「・・・・・・なのは?」

「フェイトちゃんも・・・・・・」

なのはの声に気付いた二人――アリサとすずかが振り返る。

それと同時に管理人格がなのはの魔法であるスターライトブレイカーを放った。

「フェイトちゃん! トシアキさん!」

魔法の攻撃に気付いたなのはは素早く二人に声をかける。

「わかった」

フェイトは簡易結界をアリサとすずかの周りに張って、自らもシールドを展開する。

「我が声を聞きし風の精霊よ、あらゆるものから我が身を守りたまえ」

なのはの呼びかけに答えるかのように、一番前に立ち、珍しく呪文を唱えるトシアキ。

そして、管理人格である彼女が放った魔法の爆発がトシアキたちに襲いかかる。

「くっ!? 耐えれるか、なのは! フェイト!」

アリサたちを守るため、トシアキ、なのは、フェイトの順で一列になりシールドを展開している。

「う、うん! なんとか」

「大丈夫、二人のおかげでかなり楽になってるよ」

爆発が収まったのを確認したトシアキはすぐさま、アリサとすずかのもとへ駆け寄る。

「二人とも! 大丈夫か!?」

最後尾にいた二人は爆発の衝撃から身を守るようにお互い身を寄せ合って目を閉じていた。

「・・・・・・トシアキ?」

「・・・・・・トシアキ、さん?」

トシアキの声が聞え、恐る恐る目を開けた二人。

「無事か・・・・・・よかった」

アリサとすずかの無事な姿を見て、ホッと安心するトシアキ。

「あの・・・・・・トシアキさんたちはどうして?」

「ねぇ、ちょっと、どうなってるの?」

他の人の姿が見えないことや、先ほどの爆発、それになのはたちの姿など、聞きたいことが色々ある二人。

「悪い、終わってから全部説明するから・・・・・・エイミィ!!」

トシアキの叫び声と同時にアリサとすずかの足元に魔法陣が現れる。

「な、なにが・・・・・・」

「なんか光って・・・・・・」

アリサとすずかの言葉が聞える前に二人の姿がここから消えてしまう。

「見られちゃったね・・・・・・」

「うん・・・・・・」

二人の姿が消えた後、トシアキの後ろでなのはとフェイトがそう話す。

「気にするな。 あの二人には後で説明すれば納得してもらえるだろ」

会話が聞えてきたトシアキが後ろから俯く二人の頭に手を置いて、そう言ってやる。

「それと、ちょっと殺る気が出た。 お前ら、手を出すなよ?」

そして、そのまま前に進んでいくトシアキ。

「トシアキさん?」

「兄さん?」

二人が顔をあげたとき、既にそこにはトシアキの姿はなかった。



***



宙に浮かびながら先ほどの魔法で相手を倒せなかったことで次の手段を考えていた闇の書の管理人格。

「・・・・・・」

「よぉ」

そこへ不敵な笑みを浮かべたトシアキが現れる。

「・・・・・・」

「なんか答えろよ、闇の書」

しかし、言葉を発しない相手にそう言ったトシアキ。

「・・・・・・その名で、私を呼ぶのだな」

少し間をあけて、トシアキの言葉に答えた管理人格。

「まぁ、名前なんてどうでもいい。 さっきの魔法で俺の大切な人たちが傷つきかけたんだが、どうしてくれる?」

「お前たちも、我が主の心を傷つけた。 当然の報いだ」

しっかりとトシアキを見つめ、そう言った管理人格。

「お前たちって、俺は何もしてないぞ? むしろ、お前に協力した方だ」

「そう、だったな。 だが、我が主の願いを邪魔するなら容赦はしない」

キッとトシアキを睨みつけた彼女は身の回りに赤黒いナイフを幾つも出現させる。

「くっくっくっ・・・・・・久しぶりに強い相手と戦える。 嬉しいぜ、闇の書」

嬉しそうに微笑んだトシアキはポケットに両手を入れて管理人格を見つめる。

「さぁ、殺り合おうか!!」

その言葉とともに相手に向かって突撃するトシアキ。

「・・・・・・」

そんなトシアキに対して無表情のまま、出現させていたナイフを放つ。

ナイフがぶつかったのか、爆煙がトシアキのいた辺りに立ち込める。

「他愛ない」

トシアキに対しての興味を失ったのか、管理人格は先ほどまでの殲滅対象であったなのはとフェイトがいる場所に視線を移した。

「はぁぁぁ!!」

視線を移してすぐに爆煙からトシアキが姿を現し、拳を彼女に向かって放つ。

「くっ!?」

バリアで防ごうとした管理人格であるが、トシアキの魔法によってバリアは砕かれ、そのまま頬に拳を受けてしまう。

「まだまだ!!」

風の精霊の加護を受けているトシアキのスピードはかなり早い。

そんなトシアキが追撃とばかりに、吹き飛んだ管理人格へと襲いかかる。

「・・・・・・なぜ、バリアが砕ける?」

数発殴られ、危険を感じた管理人格はトシアキから距離をとり、そう口にする。

「はっ!」

そんな彼女のもとにトシアキの放った風の刃が襲いかかる。

「くっ!? これもなのか・・・」

風の刃を防ごうと展開したバリアだが、まるでそこに何もないかのように通り抜け、威力が衰えることなく彼女の体を切り刻む。

「さて、そろそろチェックメイトだな」

傷を負った彼女のもとへゆっくりと近づいてくるトシアキ。

「・・・・・・」

そんなトシアキを無表情で見つめる管理人格。

「あぁ~、大変言いづらいんだが、黒いの、見えてんぞ?」

トシアキの魔法によって管理人格のバリアジャケットは切り刻まれている。

そして、当たり所が悪かったのか、下の方に黒いものが見えていた。

「・・・・・・」

だが、そんなトシアキの言葉を気にする様子もなく、管理人格はただ、ジッとトシアキを見つめる。

「まぁ、気にしてないならいいさ。 さて、遺言は決めたか?」

「・・・・・・・・・そうか、理解した」

何を思ったのか、トシアキの言葉に返事をせず、そう言った彼女。

「はっ? 何言って・・・・・・」

「防げないので有れば避ければいいだけのこと」

トシアキの言葉を遮って、そう言った管理人格は行動を開始する。

「っ!?」

なんと、素早く動き、近づいてきていたトシアキの横腹目掛けて蹴りを放ったのだ。

「ふむ、物理防御は弱いと見える」

とっさに防いだトシアキだが、相手の足を腕で止めたときに顔を顰めてしまった。

「舐めるな!」

トシアキはそう言って、空いている手で管理人格に襲いかかる。

「遅い」

だが、拳は当たることなく、彼女の姿が目の前から消えてしまう。

「なっ!?」

「蜘蛛の糸」

トシアキの攻撃を避けた彼女は上空からアキの魔法である蜘蛛の糸を使用する。

「? なにをしたんだ?」

蜘蛛の糸は魔力を細めて糸のようにしたものであり、発動したものしか見えない。

そのため、体に巻きつけられるか、張り巡らされているのに引っ掛かるかしないと見つけることは不可能なのである。

「お前も大切な人が傷つくのを見たくないのなら、我が内で眠るがいい」

「何わけのわからないことを言ってやがっ!?」

トシアキが魔法を放とうと腕を動かした瞬間、その腕が動かなくなってしまったのだ。

「み、右手が動かない!?」

「我が魔力で生成された糸だ。 簡単には切れまい」

以前、アキが生み出した糸をシグナムが断ち切ったことがあったが、それは糸に魔力を流していなかったためである。

丈夫で切れない糸を作るためには魔力を流し続けなければならないのだ。

「くそっ! 焼き切ってや・・・」

トシアキが最後まで言葉を発する前に、トシアキの体が白い光に包まれていく。

「な、なんだ、これ?」

【吸収】

管理人格が持つ闇の書が光を放ち、トシアキの体を包んでいた白い光を吸収していく。

「全ては、安らかな眠りのうちに」

一人、上空に残った彼女が夜空を見上げてそう呟く。

そして、敷島トシアキはこの世界から姿を消してしまった。



***



誰もいなくなった結界内。

先ほどまで一緒にいたトシアキを探して辺りを見渡すなのはとフェイト。

「どこにもいないね、フェイトちゃん」

「うん。 でも、『手をだすな』って言ってたから・・・・・・」

そう言って暗い空を見上げるフェイト。

「もしかして、闇の書さんのところに!?」

「その可能性が高い」

「早く行かないと! フェイトちゃん」

トシアキが負けるとは思っていないが、闇の書に取りこまれているであろう、はやても一緒に倒してしまうんじゃないかと心配するなのは。

「・・・・・・」

だが、慌てているなのはとは違って悩むように俯くフェイト。

「フェイトちゃん?」

「・・・・・・兄さんが手を出すなって言ってたし、怒られないかな」

顔をあげて、不安そうな表情でなのはにそう尋ねるフェイト。

「でも! はやてちゃんが大変なんだよ!?」

「わかってるよ、なのは。 でも、私は兄さんに怒られて、呆れられて、捨てられたくない・・・・・・一人はもう、嫌・・・・・・」

そう言って再び俯いてしまうフェイト。

トシアキがそんなことするはずはないのだが、一度絶望を体験したことがあるフェイトにとって、それはとても辛いことである。

そのため、言われたことをキチンと守っていればそんなことにはならないと考えているフェイト。

「フェイトちゃん・・・・・・」

「ごめん、なのは・・・・・・」

とても小さく、消えてしまいそうな声色でフェイトは話す。

そして、そんなフェイトの様子を見て、なのははフェイトをそっと抱締める。

「大丈夫だよ、フェイトちゃん」

「なの、は?」

「トシアキさんはそんなことする人じゃないし、もうフェイトちゃんは一人じゃないでしょ?」

なのはのその言葉にハッとなって顔を上げるフェイト。

そして、なのはの優しい笑顔を見つめる。

「だから、大丈夫。 新しい友達を助けに行こ?」

「・・・・・・うん、そうだね。 兄さんはそんな人じゃない。 だから、助けに行こう、はやてと兄さんを」

なのはに言われて、気持ちの整理をつけたフェイトは真剣な眼差しでなのはを見つめ、しっかり頷く。

「うん! じゃあ、行こう!」

二人はそうして、トシアキと闇の書が戦っているであろう、空へ飛び上がる。

ビルより高く上がったところで、遠くに爆発が見えた。

「きっとあそこだよ! フェイトちゃん!」

「うん、急ごう」

そして、戦いの場所へとたどり着いたなのはとフェイトが見たもの。

「な、なんだ、これ?」

それは白い光に包まれているトシアキの姿であった。

「えっ?」

「兄、さん?」

白い光に包まれたトシアキが目の前で消えてしまい、呆然と立ち尽くす二人。

「全ては、安らかな眠りのうちに」

闇の書を持った管理人格である彼女が夜空を見上げてそう呟く。

「そして、愛する騎士たちを奪った者たちには永久の闇を」

彼女はそう言いながらなのはとフェイトを視界に捉え、魔法陣を展開する。

魔法陣によって使われた魔法は、アキの『蜘蛛の糸』。

「えっ? あ、きゃっ!?」

「うっ!? こ、これは、姉さんの・・・・・・」

見えない糸によって体を拘束されてしまったなのはとフェイト。

「お前たちは我が主を傷つけた。 容赦はしない」

「に、兄さんを、どう、したの?」

体を拘束されながらも義兄であるトシアキのことが気になるのか、糸が首を絞めているのも気にせずフェイトは尋ねる。

「彼は大切な人が傷付くことを嫌がった。 だから、傷つくことがない我が内で永遠の眠りについた」

「っ!?」

彼女の答えに驚き、そして怒気を発するフェイト。

しかし、そんなフェイトに関係なく事態は進んでしまう。

「な、なに?」

突然、地面が揺れ始め、いたるところからマグマが噴き出したのだ。

「早いな、もう崩壊が始まったか。 私も直、意識を無くす」

驚くなのはの言葉に対してそう話す管理人格。

「意識を無くす前に、主の願いを叶えたい」

糸で身動きがとれないなのはとフェイトの周りに赤黒いナイフを多数、出現させる。

「闇に、沈め」

その言葉を合図に、多数のナイフが二人に襲いかかり爆発する。

「?」

しかし、爆煙が消えて出てきたのは傷一つない二人の姿であった。

そのかわり、フェイトのバリアジャケットは素早さを重視したものに切り替わっている。

「兄さんを」

表情を怒りで染め上げたフェイトがバルディッシュを大きく構え。

「返せぇぇぇぇぇぇ!!!!」

大声で叫びながら素早い動きで管理人格に襲いかかる。

「フェイトちゃん!!」

そんな友人の行動に気付かなかったのか、なのはがそう叫んだときにはバルディッシュが管理人格に襲いかかる。

「お前も我が内で眠るといい」

フェイトの攻撃をバリアを張って防いだ彼女はそう言って、手に持つ闇の書をフェイトに向ける。

「っ!? えっ?」

そして、フェイトは黄色い光に包まれ、トシアキと同じようにその場から姿を消してしまった。



~おまけ~


トシアキたちのもとから離れた場所に転送されたアリサとすずか。

「・・・・・・ここは?」

「トシアキさんたちがいないよ、アリサちゃん」

結界内の戦いの場所から遠く離れたところに姿を見せた二人。

「一体、なにがどうなってるのよ・・・・・・」

そう呟いたアリサのもとにやってくる者たち。

「アンタたちがフェイトとなのはの友達だね?」

「間違いないよアルフ。 この二人だ」

そこに現れたのは人間の姿のユーノと耳と尻尾を生やしたアルフであった。

「な、なによ、アンタたち。 なのはの知り合い?」

すずかを後ろ手で庇いつつ、警戒して話すアリサ。

「えっと、僕はユーノ・スクライア。 なのはの友達です」

「あたしはアルフ。 フェイトの使い魔だ」

二人の自己紹介でなのはとフェイトの名前が出たため、警戒を解くアリサ。

「そう、あたしはアリサ・バニングス」

「・・・・・・月村すずかです」

そう言って自分の名前を言った後に、アリサとすずかは早速質問する。

「さっき、トシアキに会ったんだけど、どういう状況か教えてくれない?」

「なのはちゃんやフェイトちゃんのことも・・・・・・」

詰め寄ってくる二人に困惑するアルフとユーノ。

「ユーノ、どうする?」

「うん、敷島さんに任せた方がいいかもしれない。 僕たちが言っても信じてもらえないかもしれないし・・・・・・」

初めて会った人間からの説明より、知り合いから話を聞いた方が納得できると考えたユーノ。

「ユーノ? アンタの名前、どこかで聞いたことあると思ったら・・・・・・」

「フェレットの名前と同じだね」

アルフの言葉を聞いたアリサとすずかがそう言って話す。

「あぁ、こいつはそのフェレ・・・・・・もがもが」

「ちょ、ちょっとアルフ! それは秘密だってば!」

危うくユーノの正体を話してしまいそうになったアルフの口を塞ぐ。

フェレット体型の時に一緒に寝たり、温泉に入ったりしたため、知られたくなかったのだろう。

「「?」」

そんな二人の様子に首を傾げて、顔を見合わせるアリサとすずか。

こうして、戦いが終わるまで二人を守る役目を受けたアルフとユーノは遠くでなのはたちのこと見守っているのであった。



~~あとがき~~


ようやく三十一話更新です。
かなり遅くなって申し訳ないです、色々と忙しかったもので・・・

さて、原作では闇の書に取り込まれたのはフェイトだけですが、この作品ではトシアキも取り込まれました。
前から予定していた展開ですが、やはり原作に沿うのは難しい。
オリキャラを入れただけでここまで変わってしまうとは・・・・・・

あと、リインⅠですが、名前が決まってない段階で書くのもどうかと思い、管理人格にしていますが、他に良い表現があれば教えてくださいw
さすがにちょっとどうかなぁ、と思っているもので・・・

もう少しでAs編が終了します。
そして、次には欠片事件編、Sts編と続くわけですが、今年中に書けるかなぁ、とか考えてたりしますw
あまり伸ばしても面白くなければ飽きてしまうでしょうし・・・・・・

ではでは、次回での作品で会いましょうwww



[9239] 第三十一.五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/03/18 07:25
トシアキが目を開けると、そこには木目が何かの絵であるような工夫がされた天井が見えた。

「知らない天井・・・・・・いや、ここは知ってる?」

「起きたか、トシアキ」

一人で何となく呟いた言葉を聞いている者がいたのか、トシアキの隣からよく知っている声が聞えてきた。

トシアキが布団から起き上がり、慌てて声の主を見る。

「げ、ゲンジ?」

そこには長い間、行動を共にしてきた相棒――鷹見ゲンジが壁に背を預けて本を読んでいた。

「長い間眠っていたようだが、昨日の戦いで無理をし過ぎたからじゃないのか?」

「お、お前、いつここに来たんだ!?」

ゲンジの言葉に返事をせず、自分の胸に現れた疑問をぶつけるトシアキ。

「? 何を言っているんだ、君は。 ここには一週間ほど前に君と来ただろう?」

「一週間前? 俺と?」

先ほどまで闇の書の管理人格と戦っていたはずなのだが、そんな痕跡は見えない。

「ふむ。 どうやら僕の相棒はまだ、寝ぼけているようだな」

そう言って読んでいた本を閉じ、鞄にしまったゲンジはトシアキのもとへとやってくる。

「そんな様子では彼女が心配して倒れてしまうぞ?」

言いながら自分の右手をトシアキの額に当てる。

「彼女? 一体誰のことだ?」

「・・・・・・おいおい、本当に大丈夫か? 熱はないようだが、昨日の戦闘が原因か、それとも・・・・・・」

トシアキの疑問を余所にブツブツと考えを呟くゲンジ。

「おい、ゲンジ。 一体ここは・・・・・・」

考え事を始めたゲンジにもっと詳しい事情を尋ねようとしたトシアキ。

「失礼します」

そんなトシアキの言葉を遮ったのは扉の向こうから聞えてきた女性の声であった。

「なっ!?」

そして、そんな女性の声を聞いたトシアキは驚いて、目を見開く。

「トシアキ様、ゲンジ様、朝食のご用意が出来ました」

そう言って襖を開けて姿を現したのは巫女服を着た長い黒髪の女性であった。

彼女は頭を下げたまま目を閉じ、二人の返事を待っていた。

「や、ヤヨイ?」

「はい、なにかご用でしょうか、トシアキ様」

トシアキに名前を呼ばれ、下げていた頭を上げた女性――ヤヨイは綺麗な瞳でトシアキを見つめる。

「な、なんで・・・・・・」

そこにはかつて敷島トシアキが愛し、そして守ることが出来なかった女性が微笑みながらトシアキの言葉を待っていた。

「トシアキ様?」

トシアキの様子がおかしいことに気付いたヤヨイ。

「風巫女、どうやらトシアキは昨日の戦いで記憶がおかしくなっているらしい」

そんなヤヨイに説明するようにして、ゲンジがそう話す。

「っ!? そうなのですか、ゲンジ様!?」

「あぁ。 ここは何処で自分は何をしていたかわからないようだ」

ゲンジの言葉を聞いたヤヨイは慌てた様子で立ちあがり、トシアキのもとへ駆け寄ってくる。

「・・・・・・」

布団の上でヤヨイを見つめたまま固まっているトシアキ。

「さて、僕は朝食をいただいてこよう。 あとはゆっくりしていてくれ」

歩き出したゲンジは後ろ手で襖を閉めて、そのまま去って行ってしまった。

駆け寄って来たヤヨイはそのまま止まることなく、布団の上で座っているトシアキに抱きついた。

「トシアキ様・・・・・・私のことを忘れてしまったのですか?」

悲しそうな声でそう言われたトシアキは抱きついてきたヤヨイを抱締める。

「・・・・・・いや、覚えているよ。 ヤヨイ」

大切な存在であったヤヨイを離さないよう、抱締める腕に力を込めるトシアキであった。

まだ機械が存在しない世界。

日本で言うところの平安時代の文化である世界にたどり着いたトシアキとゲンジ。

彼らはそこで『風の国』という一つの国に降り立つ。

突然、現れた二人を神様のような高貴な存在だと考えた人々は風の国で一番上にたつ『風巫女』のもとへ案内する。

そして、二人は『風の国』の中で一番偉い存在である『風巫女』、ヤヨイに出会ったのであった。

「やはり、昨日の戦いの疲れがまだ残っているのですか?」

「昨日の、戦い・・・・・・」

ヤヨイの言葉で過去にあった出来事を思い出したトシアキ。

トシアキとゲンジがこの世界へ来たのには勿論、理由がある。

本来その世界にはないものがなんらかの原因で現れることがある。

それが『歪み』となって現れ、やがて世界を滅ぼしてしまうのだ。

そして、その『歪み』を調整し、本来あるべき姿に戻すのがゲンジの役目であり、トシアキはその旅に同行しているのであった。

「(もし、過去に戻ったんならヤヨイを助けられるかもしれない)」

ヤヨイの言葉と自分の考えを合わせて、傍にいるヤヨイを見つめ、心の中でそう思うトシアキ。

闇の書との戦いの途中で意識を失ったトシアキは、魔法の力で過去の世界へと戻ってしまったのだと考えていた。

「そう言えばさ、いつ火の国へ攻め込むんだ?」

もともとこの世界にはヤヨイが治める『風の国』以外に三カ国ある。

『水の国』、『土の国』、そして『火の国』である。

この四つの国々は特に争いもなく、平和に過ごしてきた。

ところが、ある時、『火の国』が『水の国』へ攻撃を仕掛けたのだ。

死なない兵士と未知の兵器とともに。

「火の国へ、ですか?」

人間は死んでしまう。

それは寿命であったり、怪我であったり、病気であったりするわけだが、襲いかかってきた兵士は何度倒しても起き上がってきたのだ。

その死なない兵士により、水の国は滅ぼされてしまう。

「あぁ、最終決戦の日はいつなんだ?」

そして、この世界ではありえない武器。

この世界での飛び道具としては槍を投げたり、矢を弓で放ったりするのが普通だが、もの凄い速さで鉄の弾が飛んでくるのだ。

所謂、銃の出現である。

その未知の武器により、土の国は滅んでしまう。

「トシアキ様・・・・・・」

残った風の国が襲われそうになった時、戦場にトシアキとゲンジが姿を現したのであった。

ゲンジの能力で『歪み』の原因となる死なない兵士と未知の武器が消し去られていくのを見ていた風の国の人々は彼を救世主と呼ぶ。

そんなゲンジを守ったり、手助けするために『魔法』を使うトシアキを風の国の人々は風神(かざかみ)と呼んだ。

「心配するな、今度は負けないから・・・・・・」

過去の最終決戦でヤヨイを死なせてしまったことを後悔していたトシアキは、今度の最終決戦がいつなのか気になって仕方がなかった。

そして、同じ失敗を繰り返さないと誓うように、言葉を呟く。

「昨日、戦いは全て終わってしまったではないですか」

「・・・・・・へっ?」

ヤヨイの言葉に思わず、素っ頓狂な声を出してしまうトシアキ。

「やはり昨日の戦いの疲れが残っているのですね」

「(そんなバカな!? 過去に戻ったんじゃ・・・・・・ない?)」

心の中で驚くトシアキだが、闇の書の管理人格との戦いで意識を失う前に聞いた言葉を思い出した。

『大切な人が傷つくのを見たくないのなら、我が内で眠るがいい』

「はははっ・・・・・・そういうことかよ」

つまり、トシアキが無意識のうちに望んでいた世界で、進まない時間を生きていけということだったのだ。

「トシアキ様はそこにいてください。 朝食は私が運んできますので」

様子がおかしいトシアキを気遣ったのか、ヤヨイはそう言って慌てて部屋から出て行く。

「・・・・・・つまり、俺がいつまでも引きずっているってことだよな」

出て行ったヤヨイの後ろ姿を思いながら、トシアキは知らずに苦笑するのであった。



***



しばらくそんな世界で愛したヤヨイと共に過ごしていたトシアキだが、頭の中には今まで出会った人々の顔が浮かんでいた。

命を救ってくれたなのは、すずか、アリサ。

新しく家族になったフェイト、アルフ、久遠。

もう二度と会えないと思っていた妹、アキ。

そして、自分を助けるために離れ離れになってしまった相棒、ゲンジ。

「・・・・・・やっぱ、ダメだよな」

星空が美しく見える広場で、大きな木に背を預けながら夜空を見上げて呟いくトシアキ。

「はい? 何がですか?」

そんなトシアキの肩に頭をのせて、目を閉じていたヤヨイが呟いたトシアキの言葉の意味を聞き返す。

「いつまでも夢の中にいるのがだよ」

「・・・・・・気付いていたんですね?」

ヤヨイはそう言って、閉じていた目を開けてトシアキを見つめる。

「あぁ。 俺はお前を守れなかった。 好きだったお前を、ヤヨイを守れなかったんだ」

自分を見つめるヤヨイに気付いたトシアキは夜空からヤヨイへと視線を移す。

「知っています。 私はあなたの望んだ姿なのですから」

「そうだよな・・・・・・」

ヤヨイの言葉に思わず苦笑を浮かべてしまうトシアキ。

「でも、いいじゃないですか」

「ん?」

そんなトシアキにヤヨイは微笑んでソッと立ち上がる。

「夢でも、夢の中でもいいじゃないですか」

立ち上がったヤヨイは座るトシアキを見降ろして微笑む。

「私はここにいれば生きていられます。 大好きだったあなたの傍で」

「・・・・・・・・・そうかもな」

「いつまでも私はあなたと共にいられます。 あなたの望んだ姿で」

「けど・・・・・・」

そう言いながらトシアキは立ち上がり、身長が低いヤヨイを見降ろす形になる。

「それは所詮、夢なんだよ」

そして、微笑みながら見上げるヤヨイの肩を持って悲しそうにトシアキはそう言った。

「・・・・・・」

「お前が死んでから俺も色々な世界を渡り歩いた。 恩を返してない人や、面倒をみなくちゃならない人、んで、俺を探してる人もいる」

「・・・・・・はい」

悲しそうな表情で涙を流しながら、トシアキを見上げるヤヨイ。

「だから、俺は帰らないとダメなんだ」

「もう、あなたは、トシアキ様は私だけの人ではないのですね」

「悪いな。 ヤヨイをちゃんと守れてたら別の未来があったかもしれないがな」

トシアキの言葉に無言で首を振ったヤヨイ。

「私は死んでしまいましたが、きっと、後悔はしてなかったと思いますよ?」

「何故だ?」

「だって、愛している人・・・・・・トシアキ様の身を守ることが出来たんですから」

そう言って涙を流しながら、ヤヨイはトシアキの顔をソッと引き寄せ、自らの唇をトシアキのそれに重ね合わせた。

「っ!?」

突然のことに驚いたトシアキだが、目を閉じて涙を流すヤヨイを見て、静かにヤヨイのことを抱締めてやるのであった。

やがて、重なり合った唇が離れ、自然と体も離れる二人。

「ヤヨイ・・・・・・」

「待っているのですよね? トシアキ様の大切な人たちが」

「あぁ・・・・・・」

ヤヨイの問いかけに静かに、だがはっきりと頷くトシアキ。

「行ってあげてください。 あなたのことを待っている人たちのもとへ」

「すまん。 それとごめん。 守ってやれなくて・・・・・・」

二度謝ったトシアキを見て、クスッと笑みをこぼすヤヨイ。

「いいんです。 また、どこか、別の世界で、あなたと、会えます、ように」

その言葉を残してヤヨイの姿は消えてしまった。

「・・・・・・・・・本当に、ごめん」

誰もいなくなったその場所で、トシアキは涙を流しながらもう一度静かに謝るのであった。

「・・・・・・行くか」

静かにトシアキは歩き出す。

皆がいる戦いの場所へ向かうため。

「と言っても、帰り方がわからないんだが・・・・・・」

広場から建物の中へと歩いてきたトシアキだが、元の世界への帰り方がわからなかった。

「全部ぶっ壊してみるか? それとも、誰かに聞くかだが・・・・・・」

言いながら辺りを見渡すが、人の気配は全くない。

「まぁ、俺の夢の中だし、当然と言えば当然なんだがな」

一人で苦笑したトシアキはふと、思い出したように歩みを止める。

「そう言えば・・・・・・」

そして、元来た道を戻り、目の前にある一つの襖を開け放つ。

「やっぱりここにいたか」

「やぁ、待っていたよ。 トシアキ」

最初にトシアキが目を覚ました場所で相棒のゲンジが座りながら壁に背を預けて本を読んでいた。

「元の世界へ帰るのかい?」

読んでいた本を閉じ、立ち上がったゲンジ。

「あぁ。 ヤヨイやゲンジには悪いが、いつまでもこんなところにいるわけにいかないんでな」

「そうか。 僕としても残念だが、君が決めたのなら仕方ない」

ゲンジはそう言って目の前に黒いねじれの歪み――ゲートを出現させる。

「ここに入れば元の世界へと戻れるよ」

「サンキュー、ゲンジ」

そう言って、目の前に出来たゲートをくぐろうとするトシアキ。

「トシアキ、君はこれが偽物の出口だと考えないのかい?」

何の疑いもなくゲートに入ろうとしたトシアキをゲンジがそう言って引き留める。

「何言ってんだよ。 お前は俺の相棒だぜ? 相棒を信じなくてどうするよ?」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、僕は本物じゃない。 君をここから出さないようにするかもしれないよ?」

そんなことを言ったゲンジに対して、トシアキはため息を吐いて肩を竦める。

「はぁ・・・・・・何を言うかと思えばそんなことかよ」

そして、トシアキはそのまま続けて言葉を紡ぐ。

「お前が本当にそう考えているならヤヨイがいたときに現れて、言葉巧みに俺を騙すだろうが」

「騙すって、人聞きが悪いなぁ」

トシアキの言葉にゲンジは苦笑して、先を促す。

「なのにそうしなかったってことは、ゲンジは最初からどうするか決めていたんだろ?」

「まぁね。 君がこの世界にいるのならそれでいいと思ったし、帰りたいと思ったのなら手伝うって決めていたよ」

微笑みながら掛けていた眼鏡をクイッと上げるゲンジ。

「だろうな。 思いつきで動く俺とは違って、最初にあらゆることを考えて動くのがゲンジだもんな」

一緒に旅をしていた時のゲンジとまったく変わっていないことに嬉しく思い、笑顔で話すトシアキ。

「本当に、いつも君には苦労させられたよ」

「でも、見捨てず、ついて来て助けてくれるゲンジ君なのでした」

そんな言葉に二人揃って楽しそうに笑うトシアキとゲンジ。

「最後に一つ、聞いていいかい?」

「ん? なんだ」

「君が今から帰る世界、そこに僕はいるのかな?」

答えを知っているが、トシアキの口から聞きたいと思ったゲンジはそう尋ねる。

「・・・・・・いや、今は居ない。 ひとつ前の世界で離れ離れになった」

「そうか・・・・・・」

「でも、俺はお前が迎えに来てくれるのを待ってるぜ?」

ポケットに手を入れて不敵に微笑むトシアキ。

「まったく、君はどうしてそんなに信じられるのかな」

「決まってるだろ? それはお前が俺の相棒だからだよ」

トシアキの答えを聞いて笑いだしたゲンジ。

「はははっ・・・・・・そうだったね。 僕も頑張って君のもとへ向かうよ」

「あぁ、期待してる。 んじゃ、そろそろ行くわ」

「気をつけて」

ゲンジの言葉に後ろ手で返事を返したトシアキはゲートの中へ入って行った。

トシアキが入ったのを確認したゲンジは静かにゲートを閉じる。

「さようなら、僕の相棒。 きっと、迎えに行くから」

そして、ゲンジの姿も消えてなくなり、夢の主がいなくなったこの世界は静かに消滅していった。



~おまけ~


ゲートをくぐったトシアキは暗い空間を移動していた。

「はぁ、相変わらずゲンジの能力はすごいよな・・・・・・」

足が地面についているわけではないが、自らの魔法で空を飛ぶ感覚とも違う。

不思議な感じのまま流れに身を任せているトシアキ。

「出口に向かってるんだよな? いや、吸い込まれている?」

未だこの不思議な感覚になれないトシアキであった。

「おっ? あれが出口かな?」

暗い空間の先に明るい光が見えてきた。

「よし、このまま出るぞ・・・・・・って待て、前にもこんなことがあったよな?」

言いながらも体は光の方へと勝手に進んでいく。

「前はかなり高い位置にでて、そのまま森に落ちたよな。 もしかして今回も?」

そう考えると急に不安になってくるトシアキであった。

「今度は無事に着地出来ますように。 もし、無理でも柔らかい場所でお願いします」

そんなことを言っているうちにトシアキの体は光のもとへと吸い込まれていった。

「うわぁぁぁぁ!!?」

「「きゃぁぁ!?」」

ゲートから吐き出されたトシアキは何かにぶつかってそのまま倒れてしまう。

「いてて、高いところじゃなくて良かった・・・・・・ん? 柔らかい?」

倒れた場所を手で触れて柔らかい何かを確認したトシアキ。

「きゃっ!?」

「きゃ?」

女の子の声を聞いたトシアキは顔を上げると真っ赤な顔をしているすずかとアリサがいた。

そして、柔らかいものを確認していたトシアキの手はすずかの体へと伸びている。

「あぁ~~。 その、悪い」

「この! 変態!!」

怒りで顔を真っ赤に染めたアリサの拳がトシアキの頭へ振り下ろされたのであった。



~~あとがき~~


ようやく続きを書くことが出来ました。
しかし、オリキャラをまた出すなんて、何やってんだろorz

今回はトシアキの過去を書いたわけですが・・・・・・
誰もわかりませんよね(苦笑
オリジナル展開でオリキャラしか登場しなかったわけですし・・・・・・
まぁ、メインの話ではないので、気にしない方向でお願いします。

次回はついに決戦! 闇の書の闇との戦い!!
トシアキたちは勝つことが出来るのか!?

と、いうわけで、次回の作品を沢山の人に見ていただけることを願って・・・
また会いましょうww



[9239] 第三十二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/06/11 22:58
海鳴の街から見える綺麗な海は現在、青色から紫色に変わっていた。

勿論、結界の影響の為であるが、そんなものの存在を知らないアリサとすずかはわかるはずがない。

「で? これは一体、どういうこと?」

海を眺めながら隣に立つトシアキにそう尋ねるアリサ。

尋ねているアリサはどこか怒っている様子だ。

「と、聞かれてもなぁ・・・・・・」

同じく海を眺めながらトシアキが答える。

そのトシアキの頬に真新しい傷跡があったが、本人は真剣な表情のままだ。

「だ・か・ら! アンタがいきなり出てきたこととか、あの海に浮かぶ物体とか、他の人たちはとか色々答えなさいよ!」

マシンガンのように次々と言葉が飛び出してくアリサであったが、それを受けたトシアキは短く答える。

「面ど・・・ぐふっ!?」

短く答えようとしたトシアキはアリサの強烈な蹴りによって顔を顰める。

「ちなみに、ちゃんと答えないと蹴っとばすからね」

「もう蹴って・・・・・・いや、なんでもない」

何か言いかけたトシアキだが、アリサに睨まれ黙ってしまう。

「早く事情を説明しなさいよ」

「あの、私も気になります」

両方からの視線にトシアキは肩を竦ませ、諦めたように口を開いた。

「仕方ないな。 俺が魔法使いだっていう話はしたよな?」

「えぇ、聞いたわ。 実際、アンタが飛んで行ったのを見たんだし」

「私もアリサちゃんから話だけは・・・・・・」

二人の返答に静かに頷いたトシアキは再び口を開く。

「それと、なのは、フェイト、アキも魔法使いなんだよ」

「「えっ?」」

驚きと困惑が入り混じったような言葉がアリサとすずかから紡ぎだされる。

それを気にせず、トシアキは続けて話す。

「もっとも、俺とは違う『魔法』みたいだけどな。 とにかく、なのはたちも魔法使い・・・・・・いや、魔導師だったかな」

「「・・・・・・」」

トシアキの説明に沈黙してしまった二人の少女たち。

「で、アレについてだが・・・・・・」

海に浮かぶ黒ずんだ物体を指し示したトシアキ。

「そ、それよ! なのはたちのことはわかったとして、アレは一体なに!?」

トシアキの次なる言葉に我を思い出したのか、アリサがそう発言する。

「アレは要するに敵ってやつかな。 なのはたちが今、戦ってるんだよ」

「そ、そんな・・・・・・」

「なのはちゃんたちが・・・・・・」

海に浮かぶ物体の正体を聞いた二人は顔を真っ青にして、肩を震わす。

「ちなみに俺はアレに捕まってた」

「「ええぇぇっ!!??」」

いつもと変わらぬ口調でそんなことを言われた二人は驚いてトシアキを見る。

「ち、ちょっと、トシアキ! 大丈夫だったの!?」

「あぁ、特に問題ない。 この傷以外はな」

そう言って、頬に出来た真新しい傷を指すトシアキ。

「そ、それはトシアキがすずかに・・・・・・」

闇の書に吸収されたトシアキは脱出したときにゲートの出口の先にいたアリサとすずかに激突してしまったのだ。

そして、頭はアリサの体に、手はすずかの体にそれぞれあたってしまったのである。

「それは謝っただろ?」

「お、乙女の体に触っといてそれだけで済んでよかったと思いなさいよ!」

ゲートから出たトシアキはアリサに殴られ、引っ掻かれと闇の書の中より酷い目にあったのである。

「ア、アリサちゃん、もういいから・・・・・・」

その時のことを思い出したのか、すずかが顔を赤くしながらアリサを止める。

「・・・・・・すずかに感謝しないよ」

まだ怒りが残っていたアリサだが、すずかに言われたのでこれ以上は諦める。

「話を戻すぞ? 捕まってた俺が脱出して、出てきたのがこの場所だったんだよ」

「事情は分かったけど、他の人たち・・・・・・この街の人は何処に行ったの?」

「魔法という存在を知られないようにするために結界を張ったんだよ。 それがこの結果だ」

そう言って、紫色の空や海を指して答えるトシアキ。

「じゃあ、私たちはどうしてここに・・・・・・」

「それは知らん。 結界だって俺が張ったわけじゃないからな。 大方、なにかトラブルでもあったんだろ」

すずかの言葉にトシアキがそう答えたその時、眩い光が遠くに確認出来た。

「こ、今度はなにっ?」

「綺麗・・・・・・」

突然の光に驚いたアリサが隣にいるトシアキにしがみつき、すずかは黒い世界の中に突如現れた白い光に見とれていた。

「・・・・・・そろそろか」

先ほどまで白い光が輝いていた場所に人の姿を確認したトシアキはポツリとそう呟く。

そして、その言葉が聞えたアリサはしがみついていたトシアキの服をギュッと強く握りしめる。

「アリサ?」

「トシアキも、行くの?」

尋ねるようにではなく、確認するようにアリサはトシアキに問いかける。

「あぁ。 なのはやフェイトがいるからな」

「そう・・・・・・」

トシアキの答えにアリサは静かに視線を落とす。

そんなアリサの頭に手を置いたトシアキは笑みを浮かべながら口を開く。

「なんだ、アリサ。 心配してくれてんのか?」

そう言ったトシアキはいつものようにアリサが怒った顔で突っ掛ってくるものと思っていた。

「・・・・・・そうよ、悪い?」

しかし、アリサから返ってきた言葉は心配している声色であった。

「・・・・・・」

「無事に、帰ってきなさいよ」

「わかった」

少し頬を染めて話すアリサの言葉に静かに頷いたトシアキ。

トシアキの返事を聞いて、握っていた服を名残惜しそうに放すアリサ。

「じゃあ、行ってくる。 危なくなるだろうから二人は離れとけ」

「わ、わかったわ」

「はい、わかりました」

アリサとすずかの返事を確認したトシアキの体が静かに浮き上がる。

「・・・・・・終わらせてやる。 俺にヤヨイと会わせたことを後悔させてやる」

飛び立ったトシアキは皆がいるであろう場所に行くまでにそう言い、拳を握りしめた。

トシアキが飛んで行ったあとに残された二人。

アリサとすずかはトシアキの姿が確認出来なくなるまで、しっかりと目で追っていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ、アリサちゃん」

そしてトシアキの姿が見えなくなってからすずかは、未だに海を見つめる隣のアリサに声を掛ける。

「どうしたの? すずか」

アリサは呼ばれて初めて、視線を海からすずかに向ける。

「好きなの? トシアキさんのこと」

「えっ!?  べ、別に、そんなことないわよ!?」

すずかの言葉にアリサは慌てて言葉を紡ぎ、視線をすずかから海へ向ける。

「さっきだって、私のこと忘れて、二人の世界に入ってたんじゃない?」

意地の悪い笑みを浮かべながら海を見つめるアリサの顔を覗きこむすずか。

「そ、そんなことないわ! ちゃんと、すずかのこと覚えてたもん!」

そんなすずかから逃げるように今度は顔を海から背け、後ろを向くアリサ。

「ふふふ・・・・・・じゃあ、そういうことにしておくね?」

「だから、そんなんじゃないってば!」

「ほら、トシアキさんも言ってたでしょ? 早くここから離れよ?」

アリサの言葉をまったく聞かず、すずかは微笑みながら海から離れて行く。

「違う! 違うんだからね! すずか!!」

そんなすずかをアリアは否定の言葉を何度も口にしながら追いかけて行った。



***



「時間がないので簡潔に説明する」

暴走していた闇の書と戦っていたなのは。

闇の書に吸収されていたフェイト。

そして、夜天の書の主として覚醒したはやてとその騎士たち。

そんな彼女たちのもとへやって来たクロノがそう言って話を進める。

「あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがあと数分もしないうちに暴走を開始する」

海に存在している黒い淀みのすぐ近くで説明するクロノ。

「僕らはそれを何らかの方法で止めなければならない」

「あの・・・」

クロノがそこまで話したところで、おずおずとフェイトが手を上げた。

そんなフェイトに皆の視線が集中し、ビクッと肩を震わしてしまうフェイト。

「・・・・・・どうかしたのか?」

話し出さないフェイトに仕方がないといった様子でクロノが尋ねる。

「えっと、その・・・・・・兄さんは?」

ためらっていた様子のフェイトだが、クロノに促されて一番聞きたかったことを尋ねることに成功した。

「ん? トシアキか。 そう言えば見かけていないが・・・・・・」

「わたしも、ずっとここにいたけど、出てきたのはフェイトちゃんだけだったよ?」

クロノ、なのはがそう答え、フェイトの視線ははやてたちのもとへ向かう。

「すまぬ。 我らも今出てきたばかりでわからない」

「確認してみたけど、夜天の書の中にはおらへんかったよ?」

シグナム、はやてもそう言ってトシアキの行方に心当たりはないようであった。

「あの・・・・・・もしかして」

そんなとき、不安そうな表情をしたシャマルが口を開く。

「防衛プログラムと一緒に切り離してしまったのではないでしょうか?」

「「「・・・・・・」」」

シャマルの発言にその場にいる皆が静かに顔を見合わせる。

「確かに、可能性としてはあり得るね」

いつの間に合流したのか、ユーノがシャマルの言葉に頷いて同意する。

「っ! 助けなきゃ!!」

我に返って慌てたのはフェイトである。

バルディッシュを構え、黒い淀みへ向けて飛び立とうとする。

「お、おいっ!? ちょっと待て!」

そんなフェイトをクロノは慌てて引き留める。

何が起こるか分からないのに作戦も決めずに行かせるわけにはいかなかったのだ。

「離して、クロノ! 早く行かないと兄さんが!!」

「俺がどうかしたのか?」

フェイトの叫びに答えたのは紛れもなく、トシアキ本人であった。

「に、兄さん?」

「ん? どうした、フェイト。 そんな顔して・・・・・・」

「兄さ~~~ん!!」

涙を浮かべたフェイトがクロノの手を振りほどき、トシアキに抱きつく。

「一体どうし・・・・・・はっ!? さてはクロノ! 俺の可愛い義妹に何かしたんだな!!」

「ご、誤解だ! 僕はただ・・・・・・」

「五回も六回もねぇ! 今ここであの時の決着をつけてやる!」

左腕でフェイトを抱えながら、空いている右手をクロノに向かってビシッと突き付ける。

「あぁ、もう! 君たち兄妹は本当に・・・・・・」

そう言いながらここにはいないトシアキのもう一人の妹を思い浮かべるクロノ。

「あの~~~早くしないと闇の書の防衛プログラムが活動開始しちゃうんだけど・・・・・・」

クロノとトシアキの中間地点に現れたモニターに映し出されたエイミィが暗い表情でそう言ってくる。

「ちっ! 仕方ないな」

エイミィの言葉に渋々と突き付けた右手を下げる。

「まったく・・・・・・さて、先ほどの話の続きだが、僕らはアレを何とかして止めなくてはならない」

先ほどのトシアキとの会話を無かったかのように話始めるクロノ。

「そして、現在ある停止のプランは二つだ」

クロノの言葉に耳を傾けていたなのはたちが緊張した様子で頷く。

「一つ目は極めて強力な氷結魔法で停止させること」

そう言って、クロノはグレアムから渡されたデュランダルを皆に見せる。

「二つ目は軌道上にいるアースラの魔導砲――アルカンシェルで消滅させる」

そして上空を見上げたあと、クロノははやてたち夜天の書の騎士たちに視線を向ける。

「これ以外に何か手はないか? 闇の書の主とその守護騎士たちに聞きたい」

聞かれた皆は色々と意見を出していく。

「えっと、最初のはたぶん難しいと思います。 主のない防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから」

シャマルはそう言って顔を顰めて発言する。

「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん」

シャマルの意見に同調して、シグナムもそう言って顔を顰める。

「アルカンシェルも絶対ダメ! そんなことしたらはやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」

ヴィータが二つの目の意見も否定するように大きくバツ印をして声を上げる。

「むっ、確かにそれは困る。 俺の家もなくなるってことだからな」

トシアキもヴィータの意見に賛成のようで、フェイトを抱えながらそう頷く。

「そ、そんなにすごいの?」

ヴィータとトシアキの言葉でようやく凄さを実感したなのはが隣にいたユーノに尋ねた。

「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲、と言えばわかるかな?」

そんな説明されてもわからないなのはだが、広い範囲が消滅すると理解は出来たのか、焦った様子でクロノを見る。

「あの! わたしもそれ反対!」

「僕も艦長も使いたくないよ。 でも、アレの暴走が本格的に始まったら被害はそれより遥かに大きくなる」

「暴走が始まると触れたものを浸食して、無限に広がって行くから・・・」

クロノの言葉に付け加える形で説明するユーノ。

「「・・・・・・」」

結局、二つあるプランがどちらも行えないということで皆、黙りこんでしまう。

「あ~~~もう! 皆でズバッとぶっ飛ばすわけにはいかないのかい!?」

難しい話で会話に参加してなかったアルフが、苛立ちをあらわにしながらそう言って皆を見る。

「あ、アルフ・・・」

「これはそんなに単純な話じゃ・・・」

アルフの発言にユーノとクロノは冷や汗を浮かべながら苦笑してしまう。

「・・・・・・魔法でズバッとぶっ飛ばす?」

アルフの発言に何か思うところがあったのか、そう呟いて考え込むなのは。

「さすが、魔王。 考え方が素晴らしい」

そして、なのはの呟きを聞きとったトシアキも小さな声でそう言って微笑む。

「に、兄さん・・・・・・」

トシアキの腕に抱えられたままのフェイトは声を聞いて困ったような表情を浮かべる。

「ここで撃ったら家が壊れてまう・・・・・・」

「ここ以外なら問題はないな」

はやての呟きも聞きとっていたトシアキはそう言って、腕に抱えたフェイトに微笑みかけた。

「う、うん。 そうだね・・・・・・えっ? あ、あぁ!!」

トシアキの顔を見て何となく頷いたフェイトだったが、言われた言葉を頭の中で繰り返して気付く。

「く、クロノ! アルカンシェルって何処でも撃てるの?」

「ん? 何処でもって、たとえば?」

「今、アースラがいる場所。 宇宙空間で」

そのフェイトの言葉を聞いたなのはとはやてはお互い、顔を見合わせて微笑む。

「うん! それならズバッとぶっ飛ばせるよね!」

「街も家も壊れんで済むし!」

「お、おい! ちょっと待て、君たち。 まさか・・・・・・」

クロノ、そしてユーノも驚いてなのはたちを見る。

「この戦力なら可能だろ? 足りないなら、呼び寄せてもいいぞ?」

そして、最後のそう言ったトシアキのもとに皆の視線が集まる。

「呼び寄せる?」

「一体、誰を・・・・・・」

他のメンバーたちもトシアキの言葉に疑問を覚えたのか、首を傾げながら答えを待つ。

「お呼びですか? 兄様」

「くぅ!」

「闇の書の防衛プログラムを消滅することができるなら」

「協力するしかないよねぇ」

丁度良いタイミングで子狐姿の久遠を肩に乗せたアキと、管理局の制服に身を包んだリーゼ姉妹が姿を見せる。

「ナイスタイミングだ、アキ」

傍に現れたアキの頭を優しく撫でてやるトシアキ。

「あ、ありがとうございます、兄様」

嬉しそうな表情でトシアキの手を受け入れるアキ。

「くぅ!(トシアキ!)」

その手を伝って久遠がトシアキの肩に移動する。

「おっ、久遠。 アキの看病御苦労さま」

「くぅん!」

久遠も嬉しそうにトシアキの頬に頭をすりよせた。

「り、リーゼ。 君たちまで・・・・・・」

「まぁ、あたしたちも本来は闇の書をどうにかしたかったわけだし」

「封印しか方法がなかったけど、破壊が出来るならそっちの方がいいに決まってる」

クロノにそう答えたロッテとアリア。

「勿論、もう邪魔はしないわよ」

「父様からも言われてるしね」

「・・・・・・わかった。 そこまで言うなら僕は何も言わない」

リーゼ姉妹やグレアムの気持ちが理解できたのか、クロノはもう何も言おうとはしなかった。

「な、なんだかすごいことになっちゃったね」

「そ、そやな。 あと、初めて魔法使うし、失敗するかもしれへんから緊張するわ」

「ご安心ください、主はやて。 我ら守護騎士がお傍でお守りします」

シグナムが緊張しているはやてを落ち着かせようとそう声をかける。

「そうですよ、はやてちゃん。 私たちが付いてます」

「・・・・・・守る」

「早く終わらせて帰ろうぜ、はやて!」

シャマルが、ザフィーラが、ヴィータが、それぞれはやてを励ましていく。

「皆・・・・・・うん、そやな。 皆で一緒に帰ろ」

周りにいる守護騎士たちに微笑みかけたはやては、キッと真剣は表情に切り替え、敵である防衛プログラムを見据える。

トシアキたちやクロノたちも会話を止め、海に浮かぶ敵へ視線を向ける。

「・・・・・・さぁ、殺りあおうぜ!」

そしてトシアキの言葉が戦いの始まりの合図となるのであった。



~おまけ~


アースラの医務室で目を覚ましたアキ。

「・・・・・・兄、様?」

「くぅ!」

アキの呟いた言葉を聞き取った久遠が傍に駆け寄ってくる。

「久遠・・・・・・兄様は何処にいったのですか?」

「くぅん! くぅ!」

「そうですか・・・・・・」

久遠の言葉を聞き取ることが出来たのか、少し残念そうな表情をするアキ。

そんな二人のもとに突然、リーゼ姉妹がやって来た。

「あ、起きてる」

「ほんと。 リンカーコアはまだ完全に回復してないみたいだけど」

ベッドから体を起こしているアキを見て、ロッテとアリアが近づいてきた。

「・・・・・・兄様が何処に居るのか知っていますか?」

「えぇ。 トシアキは闇の書の防衛プログラムを消滅させるために地球に居るはずよ」

アキの質問に答えたアリアはそのまま話を続ける。

「私たちはこれからその手伝いに行くんだけど、アキはどうする?」

「行きます」

即答する形で頷いたアキ。

そんなアキを見て、心配そうな表情でロッテは口を開く。

「原因のあたしたちが言うのもなんだけど、リンカーコアが回復してないのに行くの?」

「問題有りません。 兄様がそこに居るなら私は傍に居るだけです」

「ホントに、兄様が大好きなのねぇ」

「勿論です。 兄様は私にとって何よりも優先されるんですから」

「「・・・・・・」」

からかうつもりで言ったロッテだが、そんな風に返されるとは思ってもいなかったため、思わずアリアと顔を見合す。

「さぁ、行きましょう。 ここの転送装置を使えば兄様のもとまで行けます」

「くぅ!!」

いつの間にか立ち上がったアキとその肩に乗る久遠。

「そうね。 トシアキも待ってるだろうし」

「あたしたちが手伝いに行ったら驚くよ? きっと」

こうして四人は皆が戦うであろう戦場に向かうのであった。



~~あとがき~~


お久しぶりです、T&Gです。
ずっと更新が止まっていましたが、ようやく再開です。
本当はもっと早く復活する予定だったのですが、新しい仕事がなかなか忙しくて出来ませんでした。
そろそろ慣れてきたので、ちょくちょく更新していきますww

さて、闇の書から脱出したトシアキは沢山の仲間(?)たちと共に敵を倒します。
そして、As編もそろそろ終了に近付いて来ました。
他にも書きたい話があるのでSts編のに入る前に色々と書きますw

更新が止まってからもPVが少しずつ増えていたようで、忘れられないような作品に出来たらと思います。
これからも皆さまの感想や意見を頂けたら幸いです。
それでは、次回の更新でまた会いましょうwww



[9239] 第三十三話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/06/25 18:54
トシアキの言葉と共に闇の書の防衛プログラムが姿を現した。

近辺の海から気持ちの悪い触手がユラユラと動いており、本体を守るように覆っている。

本体の方も足や手と言っていいのか、それらが固い装甲で覆われており、傷を付けられそうにない。

あと、黒い羽根を生やしており飛ぶこともできるようであった。

「爆ぜろ!」

まず、最初に攻撃を開始したのはトシアキである。

敵本体に手を指し向け、大きな声でそう言い放った。

「&D$G#¥KKK*#$SY%AAA!!!」

わけのわからない叫び声を上げながら防衛プログラムは爆発に包まれてしまう。

リンカーコアから生み出された魔法を消してしまうトシアキの魔法により、相手の結界は瞬く間に消えてしまった。

「続きまして、水の精霊たちによるアクアカッター」

誰かに説明するかのようにトシアキは言う。

そして、トシアキの言葉を合図にして目標の周りに水柱が上がる。

水柱から中央にいる敵に向かい、次々と水が凄い速さ飛んでいく。

「%FU&EFJVD#%!!!??」

上空から見ている他の面々はトシアキとアキ、久遠を除いて何が起こっているのかわからないようであった。

ただ、次々と防衛プログラムが細切れになっているようにしか見えていない。

それほど水の動きが早く、理解することが出来なかったのだ。

「じゃあ、交代な」

「はい、兄様」

爆発と細切れによって傷を負った敵本体であったが、修復機能が凄まじく、どんどんもとに戻ってしまう。

嫌気がさしてきたトシアキは隣にいたアキに役目を変わる。

「スパイダー、殲滅モード」

【了解、マスター。 殲滅モードに移行します】

右耳に付けている銀色の十字架がアキの言葉に答え、マスターであるアキを光で包む。

数秒後、光の中から出てきたアキはリーゼのようなバリアジャケットを着込み、両手の指先に長く鋭い爪が付いた防具を付け、黒いマントをなびかせながら現れた。

「兄様の望み、叶えるため・・・・・・管理局執務官アキ・シキシマとスパイダー、行きます」

もの凄い速さで防衛プログラムの傍に降り立ったアキは、両手の指から出した魔力の糸を相手に絡みつける。

「終わりです」

その言葉と共に両手をクイッと手前に引いたアキ。

それにより、絡みついた糸が引っ張られ、相手の体をバラバラにしてしまった。

「「「・・・・・・」」」

トシアキとアキの攻撃で原型がわからないほどバラバラになってしまった闇の書の防衛プログラムに他の皆は唖然としている。

「くぅ?」

久遠の声でハッと我に返ったなのはたち。

その頃には露出したコアが再生していく体に隠れて見えなくなってしまった。

「おいおいおいおい、せっかく見えたのに誰も何もしなかったのかよ」

トシアキの次に攻撃を加えたアキを除き、ただ見ているだけだったメンバーに呆れてしまうトシアキ。

「もういいや。 俺は手を出さないことにするから勝手にやってくれ」

「では、私も兄様と同じく、手を出さないことにします」

そう言って見学体制に入った敷島兄妹。

「っ!? ほ、ほら! 早く攻撃しないと!!」

「まずは私たちが行くわよ」

本当に何もしようとはしない敷島兄妹にいち早く反応したのはリーゼたちであった。

とりあえず、トシアキたちの攻撃で闇の書の防衛プログラム本体の周りにあった触手が完全に消え去った。

「アリア、お願い」

敵を見据えて、構えたロッテは隣にいるアリアに声をかける。

「わかってる」

アリアもロッテが何をしてほしいのかわかっているようで、素早く魔法を発動させる。

「よし! リーゼ・ロッテ、アリアの強化魔法でいっくよぉ!!」

アリアの魔法による効果で力と素早さを上げたロッテは、敵に向かって一直線に進んでいく。

「そぉぉれ!!」

魔法効果と勢いを付けたロッテのパンチは敵の障壁を破壊する。

「・・・・・・ネコパンチか」

ロッテの攻撃を見ていたトシアキが思わずそう呟く。

「・・・・・・兄様は猫がお好きなのですか?」

「くぅ・・・」

そして、トシアキの呟きに反応して残念そうな表情をしたアキと久遠であった。

「次、早く!」

ロッテが障壁を破壊し、素早く離脱したのを確認したアリアがそう叫ぶ。

「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」

「ヴィータちゃんもね!」

アリアの声で次に行動を開始したのはヴィータとなのはであった。

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

【ギガントフォーム】

小さなヴィータがさらに小さく見えてしまうくらい大きくなったグラーフアイゼン。

「ギガントシュラーク!!」

掛け声とともに振り下ろされたグラーフアイゼンによって、防衛プログラムの纏っている体の一部がヘコんでしまう。

「高町なのはとレイジングハートエクセリオン、行きます!」

【ロード、カートリッジ】

ヴィータの攻撃が終わると同時になのはがレイジングハートを構える。

「スターライト・・・・・・」

レイジングハートの先になのはの桃色の魔力が集束していく。

「ブレイカーーーーー!!!」

そして、集まっていた魔力が大きな砲撃となって一直線に相手へ向かう。

「$#%JGU‘&E&%!!?」

なのはの攻撃により防衛プログラムの再生された内の半分以上を削り取ることに成功した。

だが、失われた根元からどんどんと元の状態に戻っていく。

「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン」

その様子を見つめながらシグナムは剣と鞘を繋ぎ合せて弓を生みだす。

「駆けよ、隼!!」

魔力で生成された矢を目標に向かって放つ。

矢は修復しきれていない結界を越え、見事目標に当たり爆発を起こした。

「フェイト・T・シキシマ、バルディッシュザンバー、行きます!」

鎌のようなバルディッシュが巨大な剣となり、フェイトが両手でしっかり握って構える。

「撃ち抜け、雷刃!」

そう言って身体全体を使って巨大な剣を振り下ろす。

「KYAAAAAAAAAAAAA!!?」

フェイトの攻撃を受けて奇声を上げた闇の書の防衛プログラム。

露出していたコアに罅が出来た音をトシアキだけが聞きとった。

「・・・・・・少し、面倒なことになりそうだな」

「兄様?」

「くぅ??」

隣に居るアキとトシアキの肩に乗った久遠は可愛らしく首を傾げた。

「楯の守護獣、ザフィーラ。 何人たりとも主には触れさせん!」

再生しつつ反撃してきた防衛プログラムの攻撃をザフィーラがシールドを展開して防ぐ。

「さすが闇の書、攻撃しても簡単に戻っちゃうね」

「そうね・・・・・・どうするの? クロノ」

コアを露出させてもすぐに装甲で覆われてしまう様子を見ていたリーゼ姉妹が現場の指揮官であるクロノに意見を求める。

「だが、攻撃は通ってる。 プラン変更はなしだ」

「はいよ。 皆、気合入れて行くよ!」

「トシアキやアキが動いてくれたら楽なんだけどね」

クロノの答えを聞いたロッテは周りのメンバーを激励しつつ、自分も攻撃態勢に入る。

補助担当のアリアは最初の攻撃以来、手を出さない二人を見て苦笑する。

「そうだな。 だが、彼らの最初の攻撃に反応できなかったこちらにも非はある。 仕方ないだろう」

「・・・・・・あなたのことだから無理やりにでも手伝わすのかと思ってたんだけど?」

執務官として被害を抑えるために、なにより自分の父親の敵である原因を排除するためにクロノは手段を選ばないとアリアは考えていた。

「そんなことすれば逆効果だよ、彼らの好きにさせるのが一番いい」

「よく見てるのね」

アリアの言葉を聞いたクロノは苦笑しながらデュランダルを構える。

「提督の前で彼を弁護した君たちには負けるさ」

「・・・・・・」

クロノの切り返した言葉に何も言えなくなってしまったアリア。

そんな師匠の様子に気を良くしたクロノは気持ちを切り替える。

「・・・・・・いくぞ、デュランダル」

クロノの足元に浮かびあがった魔法陣。

そこから目標に向かって海の表面が凍りついてゆく。

「凍て付け!」

【エターナルコフィン】

デュランダルの氷結魔法によって闇の書の防衛プログラムは完全に動きを止めてしまった。

「いくよ、フェイトちゃん! はやてちゃん!」

「「うん!!」」

そして、目標が動かなくなったのを確認したなのは、フェイト、はやての三人がそれぞれ詠唱に入る。

「「「―――ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」」

三方からの巨大魔法同時攻撃によって中心では爆発が起こり、大気が震え、海が波立って爆発の凄まじさが伝わってくる。

「ふむ、凄いな。 アキはアレを防げるか?」

「難しいですね。 兄様が防げと仰るならなんとかしてみせますが・・・」

そう言って隣にたつトシアキを上目遣いで見つめるアキ。

その表情はどこか不安げだ。

「いや、その時は俺と一緒に逃げよう。 俺もあれを中心で受けたくない」

「はい、兄様」

トシアキの返答が自分も望んでいたものだったためか、アキは嬉しそうに微笑んで頷いてみせた。

「・・・・・・本体コア、露出。 つかまえ、た!」

シャマルの魔法により、爆発している場所から相手のリンカーコアを摘出する。

「長距離転送!」

「摘出したリンカーコア!」

「目標、軌道上!」

コアを確認したユーノ、アルフ、アリアが三人で転送魔法を仕掛ける。

「「「「転送!!!」」」」

摘出を行ったシャマルも協力し、四人の魔法によって闇の書の防衛プログラムの中心となっているコアが宇宙空間で待機しているアースラの前へ転送される。

「さて、帰るか」

「はい、兄様」

敵となるものが軌道上へ転送され、味方だけが残り緊張感が漂う中、トシアキはそう言って踵を返した。

そして、アキもトシアキの後に続く。

「お、おい! まだ終わってないのに帰るのか!?」

「ここに居たって何も出来ないだろ。 それに俺がいなくてもなんとでもなるだろ?」

実際、最初以外は何もしていないトシアキだったが、この状況で帰ろうとする思考がクロノには理解できなかった。

「だからって・・・・・・」

「現場の皆、お疲れ様でした!!」

クロノの声を遮って、決着がついたらしいアースラからエイミィのそんな報告が聞えてきた。

「だ、そうだ。 じゃあな」

手をパタパタと振ってトシアキと久遠、アキの三人はその場から立ち去ってしまった。



***



管理局本局のとある一室。

そこで地球での戦いをずっと見ていた一人の男――ギル・グレアムは深いため息を吐いた。

「ふぅ・・・・・・これで、私の役目は終わったな」

長きに渡り管理局で働いてきたグレアムは闇の書の事件を終え、もう遣り残すことがなくなったようであった。

「・・・・・・地球へ戻ってゆっくり過ごそうかと思っているのだが、どう思う?」

「いいんじゃないか? あと頼みがあるんだが・・・」

グレアムと向かい合う形で座っていた男――トシアキが返事をしながらコーヒーを口に含む。

ちなみにアキは本局に帰ると同時に補佐官に見つかり、書類の山が出来あがっている自分の執務室へ連行されていった。

「なにかね? 私に出来ることならしよう」

「ロッテかアリアを貸してくれないか? 少し面倒なことになりそうなんだ」

「ふむ。 二人が了承するなら構わんよ。 して、面倒なこととは?」

トシアキの頼みは簡単に了承できるものであったため、グレアムは迷わず許可をだす。

ただし、当人が了承すればという条件をつけてだが。

「実はフェイトの攻撃がコアに当たったとき、罅が出来たみたいでな、その後の三方同時攻撃で一部が砕けてどこかに飛ばされたんだよ」

「なんだと!? それでは闇の書はまだ残って・・・・・・」

トシアキの言葉を聞いて、珍しく取りみだした様子を見せたグレアム。

ついつい声を荒げてしまったがそれを止めるようにトシアキが口を挟む。

「話を最後まで聞け。 おそらく砕けた部分だけでは再生されない。 だが、どんなことが起こるか分からないから人手が欲しいんだよ」

「そういうことならクロノやリンディ提督に頼めばいいんじゃないかね?」

今もなお、現場に残り事件の処理を行っているであろう二人の名前をだす。

しかし、その名前を聞いたトシアキは顔をしかめながら答えを返した。

「正義感が強い人間はちょっとな。 確かに考え方は立派だと思うが、綺麗事だけで解決できるものは少ない」

膝の上で静かに眠る子狐姿の久遠を撫でながら、トシアキはさらに続ける。

「なのはたちも同じ理由でダメだな。 それに比べてアンタなら、一人の犠牲で大勢を救う方法を取ろうとしたアンタなら理解してくれると思ってな」

あいつらなら全員を救う方法を考えるだろう、とトシアキは言葉を付け加えた。

「理解?」

「俺は自分の組織を作る。 管理局に負けないくらいの精鋭を集め、管理局を滅ぼせるほどの力を持った組織を」

そして闇の書の残りを殲滅することが組織の初仕事になる予定だ、と笑みを浮かべながら答えたトシアキ。

その考えを聞いて驚いたグレアムだが、不思議と反対しようという気持ちにはなれなかった。

「・・・・・・理由を聞いてもいいかね?」

「管理局の考え方が納得いかない。 俺は俺が納得いかないものをそのままにしておきたくないんだ」

「ふっふっふっ・・・・・・はっはははははっっ!!」

トシアキの言葉を聞いて最初は小さく、そして段々と大きな声で笑い始めたグレアム。

「君はそんな理由の為に管理局と戦えるほどの組織を作るのかね?」

「アンタにとってはそんな理由でも俺にとっては重大なことだ。 勝手に作った法律で裁かれたくないんでな」

グレアムは笑みを抑え、静かに頷いたあと口を開いた。

「わかった。 人手の件はロッテかアリアに言っておこう。 しかし、私はもう引退だ。 手伝えることはもうないと思うが?」

「いや、アンタ・・・・・・グレアム提督にはまだやってほしいことが残ってる」

「・・・・・・退職する前に管理局内部で暴れてくれなんて言わないで欲しいんだが」

苦笑しながらそう言ったグレアムに首を振って否定して見せたトシアキ。

「そうじゃない。 簡単なことだ」

一度そこで言葉を切ったトシアキは意地の悪い笑みを浮かべてこう言った。

「―――アキに自分の地位を譲ってから退職してくれ」



***



トシアキたちが去っていたあと、飛んでいく二人の後ろ姿を見つめるフェイト。

「・・・・・・兄さん、姉さん」

「行っちゃったね、トシアキさん」

「せやな・・・・・・」

無事終わったことの喜びを分かち合おうと思っていたなのはとはやても残念そうな表情で二人の背を見つめる。

「それじゃあ、あたしたちも帰るよ」

「父様を長く一人にしてられないから」

デュランダルをしまっていたクロノにそう話しかけるロッテとアリア。

「あぁ、あとで僕も行く。 君たちの処分はその時に」

「クロ助も随分偉くなったね。 嬉しいのやら悲しいのやら」

「大丈夫。 逃げも隠れもしないで、父様と待ってるわ」

そう言い残してリーゼ姉妹は一足先にこの場から去って行った。

そのあと、なのはが結界内で出会ったアリサとすずかのことを尋ねたり、

ユーノがその名前を聞いて、正体がバレたんじゃないかと心配したり、

未だ遠くを見つめるフェイトを心配したアルフが話しかけたり、

騒がしかった戦いから平和になった時間をそれぞれが楽しんでいた。

「こんな時に言うのもなんだが・・・・・・」

皆、動きを止めて突然そう言ったクロノを見つめる。

「八神はやてとその守護騎士たち、君たちには一緒に来てもらいたい」

「えっ?」

クロノの言葉に声を上げたのは本人たちではなく、なのはであった。

「わかってます、ウチの子たちがやったことはキチンと償います」

「はやて・・・・・・」

はやての顔を心配そうに見つめるヴィータであったが、本人はしっかりとこれからのことを考えているようで真剣そのものだ。

「クロノ君、はやてちゃんは・・・・・・」

「わかっている。 だが、何もしないで解放なんてしたら今まで闇の書の被害にあった人々がどうなるか・・・」

クロノ自身もはやてが悪いわけではないと思っていても、立場上どうしても行わなければならないことがある。

個人の気持ちだけで解決させるわけにはいかないのだ。

「なのはたちも休息の為に一緒に来てもらって構わない」

「うん、わかった」

その後、アースラへ帰還した一同は疲れを癒すべくそれぞれの形で休息をとることになった。

ある程度落ち着いたのを確認したクロノとリンディは皆を食堂に集めて話を始める。

「まず、フェイトさんとアルフさん」

「は、はい!」

はじめに名前を呼ばれ、緊張した面持ちで一歩前へ出るフェイト。

「保護観察期間中の嘱託魔道師としての活躍、おかげで助かったわ」

「い、いえ、そんな・・・・・・」

「先ほど、グレアム提督からの通信でフェイトさんの保護観察を終了するとのことよ」

リンディの言葉に皆、笑顔を見せる。

フェイトは裁判でも無罪となっているため、これで罪を償ったとも言えるだろう。

「次に、高町なのはとユーノ・スクライア」

皆が喜んでいるところに今度はクロノの言葉が聞える。

「君たちは管理局に所属していないが、立派に戦い、事件解決への手伝いをしてくれた。 よって後日、感謝状を授与する」

「うん! ありがとう、クロノ君」

自分が役に立ったことが嬉しいのか、満面の笑みでクロノにお礼を言うなのは。

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。 なのはやユーノには色々助けられた」

「僕も役に立てて嬉しいよ」

クロノのお礼にユーノも微笑んで返す。

「それから敷島トシアキさんについてですが、本人が居ないため後日、改めてお話を聞きたいと思います」

なんだかんだ言って、トシアキは闇の書復活に力を貸していたのだ。

グレアムやリーゼ姉妹のように逮捕や指名手配はないにしろ、事情聴取は行われるだろう。

「最後に、八神はやてとその守護騎士たち」

クロノの言葉に今までの楽しい雰囲気がなくなり、静かに報告を待つなのはたち一同。

「・・・・・・はい」

静かになったなか、はやての小さい、しかし力強い返事が聞える。

「本局で行われる裁判に参加してもらうため、一緒に来てもらいたい」

「わかりました」

「いつ決着がつくか分からないが、罪が酷くならないよう僕たちの方でも弁護する」

「はい、よろしくお願いします」

そう言ってはやてはふかぶかと頭を下げた。

なのは、フェイト、アルフの三人は地球で今まで通りの生活をすることになり、

はやてと夜天の守護騎士たちは事情聴取と闇の書事件での裁判の為、アースラに乗ってそのまま時空管理局本局へ行くことになった。

まだまだ残されたことは沢山あるが、とりあえず闇の書事件はこうして幕を閉じたのである。



~おまけ~


自宅があるマンションへ戻って来たトシアキたちは自分の部屋に向かわず、隣の部屋に入って行く。

そこは闇の書事件の臨時作戦本部として、リンディたちが借りていた部屋であった。

「ここには本局へ行くための転送ポートがあったな?」

「はい、そちらの部屋にあります」

トシアキの言葉に頷いたアキは部屋へ案内する。

「じゃあ、行こうか」

「はい、兄様」

疲れて眠る久遠を抱えたトシアキとアキは転送ポートに乗り込み、管理局本局へ向かった。

「グレアム提督の部屋は・・・・・・」

「あちらです、兄様」

キョロキョロと辺りを見渡すトシアキにわかりやすく指示したアキ。

「そうだったな。 よし、行くか」

「アキ執務官!!」

アキがトシアキに返事をしようとしたとき、後ろから大きな声で名前を呼ばれてしまう。

「・・・・・・なんですか?」

兄との至福の時間を邪魔されたアキは不機嫌そうな声色で返事をして振り返る。

「なんですかではありません! まったく、すぐに居なくなって・・・・・・仕事が溜まってるんですよ!?」

アキが振り返った先に居たのはアキの執務官補佐を務めている女性であった。

「後で片付けます。 今は用事がありますので」

「後って、期限がもうギリギリなんですよ? いいから来てください」

そう言ってアキの腕を掴んで歩いていく。

魔力量が多いと言ってもアキの体は小学生なのである。

大人の女性の力には到底かなわない。

「ち、ちょっ!? は、離しなさい! 私にはやらなければならないことが・・・・・・」

必死の抵抗を試みているアキを見かねたトシアキが傍によって耳元に話しかける。

「アキ、これからの為に仕事はキチンとしておけ」

「っ!? はい、わかりました。 兄様」

耳元で囁くように話しかけられたアキは少し頬を染めて小さく頷き返す。

「じゃあ、行きますよ」

トシアキとアキの会話は聞えなかったが、抵抗しなくなったアキをこれ幸いにと連れて行く補佐官。

「・・・・・・俺も行こう」

そして、誰もいなくなった通路でトシアキはそう呟いてグレアムのいる部屋へ向かって行くのであった。



~~あとがき~~


ようやく終了しましたAs編。
細かいところはこれから書いていきますが、こんな感じでのAs編終了です。
あと、マテリアル編(PSPのゲームでの話)も書いていくため、原作とは違った終わり方にしてみました。

本編のほうだけでなく、外伝の方もいくつか思いついている話が有るのでおいおい、書いていきますw
(その度に更新が遅くなるんですが・・・)

それから、気になることや疑問に思ったことなどを書き込んでくださっても構いません。
一応、矛盾が出ないようにしているつもりなんですが、ミスもあると思いますので、その時は指摘をください。
答えたり、修正したりさせてもらいますので・・・・・・

では、次回は事件後の皆の様子を書こうと思っています。
本編とは関係がありませんが、楽しみにしてくださったら幸いですw
それでは、また会いましょうw



[9239] 第三十四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/07/14 23:30
闇の書事件から一夜明けた十二月二十五日。

トシアキは頭の上で鳴り響く自分の携帯電話の音で目を覚ました。

「んだよ・・・・・・俺は眠いんだよ」

昨夜はグレアムとこれからのことを話合っていたため、眠りに就いたのがつい先ほどだったのだ。

「・・・・・・」

しばらく鳴っていた携帯電話だが、音が止まったため再び目を閉じるトシアキ。

しかし、もう一度鳴りだした携帯電話についにトシアキがキレた。

「だあぁぁぁぁ! うるせぇ!」

乱暴に携帯を手にしたトシアキは相手を確認せず、そのまま耳にあてる。

「遅ぉぉぉい!! 早く出なさいよ! トシアキ!」

通話ボタンを押した直後に聞えてきたのはアリサの大きな怒鳴り声であった。

「・・・・・・アリサか。 悪いが俺は眠いんだ、話なら後で・・・」

「トシアキ。 今日の夜、暇? 暇ね? って言うか、暇よね?」

トシアキの言葉を聞いていないのか、電話の向こうでアリサが言葉を次々と出していく。

「・・・・・・あぁ。 一応、予定はないな」

何を言っても無駄だと感じたトシアキはとりあえずそう答えておく。

「そ、それじゃあさ、その・・・・・・」

「ん?」

急に言葉を濁したアリサに電話越しながらも首を傾げるトシアキ。

「えっと・・・・・・こ、今夜、すずかん家でクリスマス会をするんだけど」

「フェイトか? 直接言えばいいだろうに・・・・・・」

クリスマス会という単語を聞いて、アリサと同じクラスである義妹、フェイトのことが頭に浮かんだトシアキはそう答える。

「フェ、フェイトはもう誘ってるの。 じゃなくて・・・・・・」

「あぁ、アキだな? 一応、言っておくよ」

フェイトではないとすると他にアリサと関わりがあるのは実妹のアキくらいである。

「アキもいいんだけど、来て欲しいのは・・・・・・」

「なのはなら直接本人に言えよな」

「じゃなくて! アンタの予定を聞いたんだからトシアキに来てほしいの!!」

そう電話越しに怒鳴られてトシアキはおぉ、と最初に聞かれたことを思い出して頷く。

「悪い、なんか寝ぼけてたみたいだ。 参加していいなら参加させてもらうよ」

「そ、そう!? それならいいのよ。 待ってるから絶対来るのよ?」

「はいはい、了解しました」

それから数分話をしたあと、電話を切ったトシアキ。

「・・・・・・寝よ」

呟き、再び布団の中へ戻ろうとしたトシアキのもとに今度はフェイトが姿を見せた。

「あの、兄さん・・・・・・」

「・・・・・・・・・どうした、フェイト」

梯子がある場所からヒョイっと顔を出してこちらを見つめるフェイトにトシアキは眠気を我慢して答えてやる。

「あのね、その・・・・・・」

何か話そうとしているフェイトだが、躊躇う様子を見せてなかなか話そうとしない。

「まぁ、とりあえず上がって来い。 さすがにそのままじゃ辛いだろ」

ずっと立ったまま、梯子に足を掛けているフェイトに上がってくるように促すトシアキ。

「うん。 それじゃあ、お邪魔します・・・・・・」

フェイトが部屋に入って来たことを確認したトシアキは体を起して、ベッドに座る。

「ほら、ここに座れ。 んで、なにか話があるのか?」

ベッドの空いたスペースに座るように言ってやり、トシアキは先ほど躊躇っていた言葉の先を聞く。

「えっと・・・・・・私、執務官になりたいの」

「いいんじゃないか?」

「兄さんは反対するかもしれ・・・・・・えっ、いいの?」

反対されると思っていたフェイトだが、思わぬトシアキの返答に聞き返してしまう。

「あぁ。 誰かに強制されたんじゃなく、フェイト自身がそう思ったのならな」

そう言いながらトシアキはここにはいない管理局の某艦長と某執務官を思い浮かべる。

「私、今回の事件を手伝ったことが認められてね、保護観察期間が終わったの」

「そう言えばそんなことを聞いたな」

フェイトの保護観察官だったグレアムからそんな話を聞いたことを思い出す。

「それで考えたんだけど、私の魔法の力で困ってる人を助けてあげたいと思ったの」

「それで管理局の執務官か?」

組織に入らなくても人助けはできるんじゃないのか、という意味合いを込めた視線を向けるトシアキ。

「うん。 姉さんが執務官だから・・・・・・」

「あぁ・・・・・・そういうことか」

もう一人の妹であるアキのことを思い浮かべたトシアキはフェイトの考えを理解した。

「わかった、お前の決めた道だ。 頑張れよ、フェイト」

「ありがとう、兄さん」

トシアキの了承を得ることが出来たフェイトは満面の笑みでトシアキにお礼を言う。

「あっ、ついでだし渡しとくか」

立ち上がったトシアキは机の上に置いてあった箱を手に取り、フェイトへ差し出す。

「兄さん?」

「メリークリスマス、フェイト」

フェイトが受け取った箱はトシアキからのクリスマスプレゼントだったのだ。

「えっ!? あっ、その・・・・・・あけていい?」

「おう、開けてもいいぞ」

ゆっくりと慎重に箱を開けたフェイトが見たものは、銀色の十字架が装飾されているブレスレットであった。

「わぁぁ・・・・・・」

輝く銀色の十字架を見て、感嘆の声を上げる。

「銀色の十字架は俺たち家族の証だ。 フェイトもちゃんと身につけておけよ?」

「うん! ありがとう、兄さん!」

嬉しそうに微笑んだフェイトは早速、自分の左腕にブレスレットを付ける。

「似合ってるぞ、フェイト」

そう言ってトシアキはフェイトの頭を優しく撫でる。

「えへへ・・・・・・」

フェイトは嬉しそうに微笑みながら、自分の左腕に付けたブレスレットを右手で優しく包み込む。

「じゃあ、俺は寝る。 フェイトもゆっくり休めよ?」

「うん。 わかったよ、兄さん」

「おやすm・・・・・・Zzz」

最後まで言わずにベッドに倒れこみ、眠りについてしまうトシアキ。

「・・・・・・お休みなさい、兄さん」

眠ってしまったトシアキの頬にそっと唇をあてたフェイト。

フェイトは自分の行いに頬が熱くなることを感じつつ、その場を静かに去っていく。

「何をしていたのですか?」

兄の部屋に続く梯子を降りきったフェイトは突然、後ろから義姉であるアキに声を掛けられた。

「っ!!?」

思わず、ビクッと肩を震わせてしまうフェイト。

「ね、姉さん・・・・・・」

「もう一度聞きます。 フェイト、兄様の部屋で何をしていたのですか?」

普段は見せないアキの怖い顔にフェイトはビクビクしながら左腕を見せる。

「こ、これをクリスマスの、プレゼントって・・・・・・」

フェイトの左腕についている銀色の十字架を見たアキは険しい表情をいつもの無表情へ戻す。

「そうですか。 これであなたも本当の家族の一員ですね、フェイト」

「う、うん。 兄さんにもそう言ってもらったよ」

「私も兄様と再開するまで、これをずっと身につけていました」

そう言ったアキは胸元から銀色の十字架が付いているネックレスを取り出す。

「そう言えば、姉さんのデバイスも・・・・・・」

フェイトの視線はネックレスから片耳だけに付いているピアスへ向く。

「はい、銀の十字架です。 これは私たち敷島家の紋章ですね」

「へぇ、そうなんだ・・・・・・」

銀の十字架が家族の証というトシアキの言葉の意味を理解して、頷いたフェイト。

「ところで、兄様は?」

「あ、うん。 今は寝てるよ。 疲れてるみたいだったけど・・・・・・」

「・・・・・・そうですか」

フェイトの言葉を聞いたアキの瞳が一瞬、キラリと光ったように見えた。

「? 私、なのはと今日のクリスマス会のプレゼント買ってくるね?」

「わかりました。 私も休むことにします」

そう言って、自分の部屋へと入って行ったアキ。

「気のせいだったのかな?」

アキの後ろ姿を見てそう呟いたフェイトは首を傾げながら見送る。

そして、子狼姿のアルフを連れて外へ出て行くのであった。



***



その日の夜。

綺麗な雪が降っている外でトシアキは久遠を肩に乗せ、アキと手を繋ぎ歩いていた。

「いい加減やめろよ? 一緒に寝るのは」

「ダメ、ですか?」

繋いでいる手を強く握り、上目づかいにトシアキにそう尋ねるアキ。

「いや、さすがにそろそろ兄離れしないと・・・・・・」

「っ!? 嫌です! せっかく会えたのに、兄様から離れるなんて!!」

「・・・・・・そういう意味じゃないんだけどなぁ」

盛大な勘違いを仕出かしている実妹にトシアキは苦笑してしまう。

そうこうしている間に目的地に到着した三人。

「でっけぇ・・・・・・」

「・・・・・・」

「くぅ・・・」

巨大な門の前を見てトシアキは感嘆の声を、アキは無言で、久遠は退屈そうに、それぞれ反応を示した。

「ここがすずかの家か。 よし、呼び鈴を・・・・・・」

呼び鈴を押そうとしたとき、巨大な門が自動的に開かれていった。

「うぉ!?」

「お待ちしておりました。 トシアキ様、アキ様」

そこにはいつかの街で出会ったメイド服を着たノエルが頭を下げていた。

「え? えぇぇぇぇ!!?」

「兄様?」

「くぅ?(トシアキ?)」

思わぬ再開に驚いて、大声を出してしまうトシアキ。

そんなトシアキにアキと久遠はどうしたのか、という視線を投げかけてくる。

「お久しぶりですね、トシアキ様。 この街にはもう慣れましたか?」

「あ、えぇ。 あの時はどうもお世話になりました。 今はおかげ様で・・・」

トシアキもようやくいつもの調子に戻ることが出来たようで、そう答えを返す。

「私もすずかお嬢様からトシアキ様のお名前を聞いた時には驚きました」

「そうか・・・・・・すずかの家のメイドさんだったんだ」

「はい。 それではご案内します。 皆さま、もうお待ちですよ?」

クルリと身を翻し、トシアキたちを案内するように進んでいくノエル。

「・・・・・・兄様。 あの女、誰ですか?」

アキが不機嫌そうな表情でトシアキに尋ねる。

そんなアキの様子に気づかずにノエルの後を付いて行きながら答える。

「俺がこの街へ来た時に道を教えてもらった人だよ」

「そう、ですか」

トシアキとは大した関係ではないと知ったアキは表情をもとに戻す。

そうこうしているうちに屋敷にたどり着いたトシアキたち。

トシアキたちはノエルに案内されるまま門からかなりの距離を歩いていた。

「外から見ても凄かったが、中も凄いな」

屋敷の中に足を踏み入れたトシアキはそう言葉を漏らす。

「そうですね、兄様。 ん?」

湯づいて入って来たアキもトシアキの言葉に頷くが、何か違和感を覚えた。

「にゃ~~~!(お客さんだ~~~!)」

「にゃ、にゃ!(遊んで、遊んで!)」

「みゃう!(行け!)」

「みゃぁ!!(トシアキ!!)」

屋敷のいたる所から猫が現れ、トシアキを見るなり近づき、飛びかかって来た。

そして、最後にはなぜか猫に名前を呼ばれてしまう。

「えっ!? ちょ、お前ら!? 待て! うわっ!?」

「くぅぅ!?」

無数の猫に飛びかかられ、その場に倒れてしまうトシアキ。

肩に乗っていた久遠も一緒に猫に埋もれてしまう。

「兄様っ!?」

「トシアキ様!?」

一瞬覚えた違和感に気を取られてしまったアキはトシアキの惨状に慌ててしまう。

同じく、猫たちの行動を予想出来なかったノエルも驚き、慌ててしまう。

「こらっ! 止めなさい!」

そんな中、廊下の奥からめったに聞けないすずかの大きな声が聞えてきた。

すずかの声を聞いた猫たちは怒られると思ったのか、四方八方に散って行く。

ただ、二匹を除いて。

「うわぁ、ビックリした。 まさか、こんなことになるとは」

「ごめんなさい、トシアキさん。 ウチの子たちが・・・・・・」

近づいてきたすずかは未だにトシアキのもとに残る二匹を抱える。

「あれ? この子たち、ウチの猫じゃない」

「そういや、名前呼ばれたような・・・・・・」

「師匠たちですね?」

トシアキの声を遮ってアキが静かに、しかし怒りがわかるような声でそう言った。

その途端、すずかが抱えている二匹の猫がビクッと震える。

「さっき覚えた違和感は魔力の反応だったんですね。 まさか猫になって兄様に近付くとは・・・・・・」

「にゃぅ・・・」

「にゃぁ・・・」

毛並みがそっくりな二匹の猫は揃って鳴き声を上げる。

「この泥棒猫! 覚悟しなさい!!」

「「にゃぁぁ!!?」」

アキの言葉を聞いて、このままじゃヤバイと感じた二匹の猫――ロッテとアリアはすずかの腕から逃げ出し、そのまま廊下を走って行く。

「待ちなさい!」

そして、アキも二匹を追って進んでいってしまった。

「「「・・・・・・」」」

残されたトシアキ、すずか、ノエルは思わぬ展開に沈黙して顔を見合わせる。

「・・・・・・えっと、招待サンキューな?」

「いらっしゃい、トシアキさん」

「それでは私は準備の方へ」

まず我を取り戻したトシアキの言葉にすずかが答え、ノエルは自分の仕事の為にその場から去って行った。

「それじゃあ、私が案内しますね」

嬉しそうに微笑んだすずかはそのまま廊下を進んでいった。

「久遠、大丈夫か?」

「く、くぅん(だ、大丈夫)」

猫にもみくちゃにされた久遠をそっと抱き上げ、先に進むすずかについていくトシアキ。

すずかに連れられて来た部屋にはなのはとフェイト。

そしてアリサ、はやて、が既にトシアキたちの到着を待っていた。

「あっ! トシアキさん!!」

「もう! 遅いじゃない、トシアキ!」

先になのはがトシアキに気付き、続いてアリサがそう言って怒る。

「あれ? 姉さんは一緒じゃないの?」

「フェイトちゃんのお姉さんって、アキちゃんのことなん?」

フェイトとはやても話に加わり、そうしてクリスマス会が始まった。

そこではなのはが今まで秘密にしていた魔法の話や、フェイトとの出会い。

そして、はやての身に起こった先日の事件のことも簡単に説明した。

その間にアキがボロボロになった二匹の猫を連れて現れたり、ノエルが料理を運んできたり、猫たちの襲撃があったりと色々なことが起こった。

「で、どうしてここに来たんだ?」

お子様たちが楽しそうに会話しているのを聞きながら、少し離れた位置で猫の姿をしたアリアとロッテを膝に乗せてそう言ったトシアキ。

「みゃぁ(父様から話を聞いてね)」

「あぁ、もう聞いたのか。 早いな」

アキがボロボロにしてしまったアリアの毛を撫でながら話をするトシアキ。

「みゅぅ!(あたしたちも協力するよ!)」

「そりゃあ、助かる。 けど、退職したあとは何処に行くんだ? 遠い所だったら困るんだが」

今度は反対の膝に乗るロッテの毛を撫でてやるトシアキ。

「にゃ!(それはお楽しみ!)」

人間の顔だったら満面の笑みで言うであろうセリフを言ったロッテ。

「にゃ~~(そういうことでね)」

ロッテに賛同するようにアリアもそう言って三人の会話は終了した。

そうして、そろそろ終了するかと思われたクリスマス会だが、なのはが突然トシアキの方へやって来た。

「そう言えばね、トシアキさん」

「ん? なんだ?」

「リンディさんとクロノ君が『お・は・な・し』したいって言ってたよ」

満面の笑みでなのはにそう言われたトシアキは思わず、なのはがヴィータに放ったディバインバスターを思い浮かべてしまった。

「お、おう。 けど、俺も忙しいから・・・・・・」

「じゃあ、なのはと今、する?」

おそらく、ヴィータがその場にいたら悪魔め、と言ってしまうような表情をしているなのはにトシアキは首を振って答えた。

「いや。 忙しくないな! 明日にでも行くと伝えてくれ!」

「うん! 伝えとくね!」

トシアキの返事に天使のような微笑みを見せて、アリサたちのもとへ帰って行くなのは。

「・・・・・・悪魔だな」

なのはが去って行ったあと、思わずトシアキはポツリとそう言ってしまう。

「みゃぁ・・・(情けないわね・・・)」

「みゃう(ほんと、ほんと)」

「うるせぇ」

膝の上に乗って呆れるアリアとロッテにそう返して、その日のクリスマス会は解散となった。



~おまけ~


フェイトとアルフが出て行ったことを確認したアキはソッと部屋から出てきた。

「今、兄様は疲れて寝ている・・・・・・チャンスです!」

小さな声でそう言ったアキはガッツポーズを作り、笑みを浮かべながらトシアキの部屋に続く梯子を登る。

「失礼します、兄様」

勿論、寝ているトシアキが答えるはずもなく、アキは返事を待たずに部屋へ入る。

「兄様?」

「Zzz・・・・・・」

アキの呼びかけにも答えず、トシアキは深い眠りについていた。

「し、しつれいします・・・・・・」

緊張した様子でアキはベッドに乗り、トシアキ隣へ向かう。

「く!?」

「あ、久遠・・・・・・」

途中、ベッドでずっと眠っていた久遠の尻尾を手で踏んでしまい、久遠を目覚めさせてしまう。

「んん~~~? 久遠、静かにしてくれぇ・・・・・・」

久遠の鳴き声でトシアキの目が覚めてしまったのではないかと考えたアキだが、どうやらトシアキの眠気はかなり強いらしい。

「申し訳ありません、久遠。 一緒に兄様と寝ましょう」

「くぅ・・・」

仕方ないな、とでもいうように、久遠はトシアキの上に乗り再び眠りに就く。

アキも眠るトシアキに抱きつくように腕を絡めて微笑む。

「兄様ぁ・・・・・・」

そうして、トシアキの隣で目を閉じたアキの表情は年相応の可愛い寝顔であった。

ちなみに夕方、目が覚めたトシアキが驚き、年頃の女の子がそんなことをするんじゃないとアキを諭すように話したのは言うまでもない。



~~あとがき~~


本編にはまったく関係ない話でしたが、楽しんでいただけましたでしょうかw
と言っても、殆ど省略してしまった感がありますが・・・
(アリサやすずかとの絡みなど)

この話はマテリアル編に向けて少しずつ進んでいきます。
なのはのゲーム(PSP)を知らない人には申し訳ないですが、書いてみたいので書きますw
わからない人でもわかるように頑張りたいと思いますが、あまり期待しないでください(自分はこんな文章しか書けませんので)

それでは、次回も読んでいただけることを願って・・・・・・
また、会いましょうww



[9239] 第三十四.二話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/09/25 23:41
トシアキはアースラ内の静かな廊下を無言で歩いていた。

「・・・・・・」

そして、その両脇にはトシアキを連れてきたなのはと転送ポートで出迎えたクロノが歩いている。

「・・・・・・あの、クロノ君」

「ん? どうかしたのか?」

沈黙で歩くことに耐えられなくなったなのははトシアキを挟んだ隣にいるクロノへ話しかける。

「その・・・・・・一応、トシアキさんと一緒に来たんだけど、どうなるの?」

なのはのその言葉に今まで黙っていたトシアキの肩がピクリと震える。

「なのはは別に問題ない。 問題なのは彼だ」

そう言って、クロノは黙ったまま隣を歩くトシアキに目を向ける。

「・・・・・・」

トシアキも肩を少し反応させただけで、表情は変わらず無言のまま歩き続けている。

「ト、トシアキさん、どうなっちゃうの?」

「最終的判断を下すのは艦長だが・・・・・・僕の個人的な意見を言わせてもらうと」

そこまで言って立ち止まるクロノ。

どうやら目的の部屋までたどり着いたようである。

「公務執行妨害、捜査を撹乱、犯人の隠匿行為、職権乱用を促したこと。 他にも色々あるが、主だったのはそれくらいだな」

トシアキが行ってきた行為を指折りで数えたクロノ。

「・・・・・・」

「そ、それで?」

それに対して沈黙したままのトシアキと、罪状が気になってしまうなのは。

「本来なら懲役五十年。 その後、保護観察五年といったところだが・・・」

「そ、そんなに!?」

あまりの刑の重さに驚いてしまったなのは。

「本来ならだ!!」

「あぅ・・・・・・」

前回のフェイトの時と同様、話を最後まで聞かずに声を出してしまったことに落ち込んでしまうなのは。

「さっきも言ったが、最終判断は艦長だ。 それに・・・・・・」

そう言って言葉を濁してしまったクロノ。

「それに?」

「いや、なんでもない。 それじゃあ、入ろうか。 艦長が待ってる」

なのはがすぐに聞き返すが、クロノは何も言わずトシアキとなのはを部屋に入るように促した。

「いらっしゃい。待ってたわよ、敷島さん」

部屋に入ったトシアキたちを迎えたのはアースラの艦長を務めているリンディ。

前回の時のように畳の上ではなくキチンと机に向かって座っており、ことの真剣さが窺える。

「どうも、艦長さん」

ここに来て初めて口を開いたトシアキはそう挨拶をして机の前に用意してあった椅子に腰を下ろした。

「今回の事件では色々とお世話になりましたね。 つきましては・・・・・・」

「御託はいい。 要件を言え」

笑顔で話を続けていたリンディの言葉をピシャリと止め、呼び出した本当の要件を聞き出そうとするトシアキ。

「・・・・・・わかりました。 では、要件を言います」

笑顔を引っ込めて、真剣な表情に切り替わったリンディ。

相変わらず不機嫌なままのトシアキ。

そんな二人をオロオロしながら見ているなのは。

リンディの横に立ち、無言でトシアキを見つめるクロノ。

そんな四人がいる部屋はとても空気が悪かった。

「今回、闇の書完成の為に動いていた件ですが・・・」

「アレは依頼を受けただけだ。 文句なら依頼主に言え」

リンディが最後まで言い終わる前にそう答えるトシアキ。

「・・・・・・依頼主――グレアム提督ですが、今回の一件で自主退職される形になりました」

「・・・・・・で?」

「そして、グレアム提督の後任にアキ執務官・・・・・・いえ、アキ提督が就かれました」

長々と管理局内部の事情を話すリンディにイライラしてきたトシアキ。

「何が言いたい?」

「結論を言いますと最高評議会からの要請で今回の件を不問にするとのことです」

アキはグレアム提督の後任として就任したため、人脈もそのまま引き継いだと思われる。

その人脈の一部が評議会と繋がっていたのだろうとリンディは推測する。

アキのブラコンぶりは直接見ているため、容易に想像がついたのだ。

「なっ!?」

リンディも人脈がないわけではないが、さすがに評議会まで出て来ると頷くしかない。

「艦長! しかし、それでは!!」

リンディの判断にクロノが抗議の声を上げる。

「仕方ないわよ。 最高評議会まで出てきたら私たちじゃどうしようもないんだもの」

隣に居るクロノを見て、肩を竦めるリンディ。

そして、その様子を見ていたトシアキが椅子から立ち上がる。

「それじゃあ、俺はもう帰っていいな?」

「そうね。 ・・・・・・最後に一つだけいいかしら?」

背を向け、出口に向かうトシアキに声をかけたリンディ。

「なんだ?」

「あなた、最高評議会を知ってるの?」

リンディの質問にトシアキは笑みを浮かべて、振り返る。

「いや、知らないな。 今、初めて聞いた名前だ」

「・・・・・・そう、それならいいわ」

しばらくトシアキの表情を観察していたリンディだが、結局答えを得られなかったのか、話をそこで終わらせる。

「んじゃ、俺はこれで」

部屋から出たトシアキはそのまま来た道を戻って行く。

転送ルームまでたどり着いたトシアキだが、携帯が震えていることに気が付いた。

「誰だ?」

「兄様、私です」

短いトシアキの問いに短い答えを返したアキ。

「アキ? 確か引き継ぎがあるとかで管理局に居るはずじゃ?」

「はい。 たった今、私はグレアム提督から色々と譲り受けました」

「色々ねぇ・・・・・・」

先ほどの会話の中に出てきた最高評議会という単語を思い出しつつ、そう答えるトシアキ。

「そこで、兄様に判断して頂きたいことがいくつかありまして」

「ん、了解。 俺は今、アースラの転送ルームに居るんだが・・・・・・」

「アースラ? あぁ、あの人たちは兄様を無駄なことに付き合わせたんですね」

電話の向こうからアキの冷たく静かな声が聞えてくる。

「詳しい話は直接話そうか。 ここに居ればいいか?」

「はい。 その部屋からこちらに来れるようにしますので・・・・・・出来ました。 今から転送します」

その言葉を聞いているトシアキの体が光に包まれ、その場から消えてしまう。

「お待ちしていました、兄様」

「おう」

場所が変わったのを確認したトシアキは携帯電話をしまい、アキの隣に立つ。

「・・・・・・って、何処だここ?」

「拠点候補の一つだったんですが・・・・・・」

新しく組織を作ることにしていたトシアキがアキに言って、拠点となるような場所を何箇所か探させていたのだ。

「だった? 何か問題があったのか?」

「はい。 先客がいたようでしてそのことについても兄様に判断して頂こうかと」

「先客ねぇ・・・・・・」

呟きながら何かを考えるかのように腕を組むトシアキ。

「邪魔になるなら排除しますが、どうします?」

「先客とやらの情報はわかってんのか?」

先客の情報がないか尋ねたトシアキだが、アキは既にデバイスを起動させ、戦闘態勢にはいっていた。

「はい。 相手の名前はジェイル・・・・・・っ!?」

アキは名前を言いかけたところで何かを感じ取ったのか、奥へ続く通路を睨みつける。

「ほぉ、私のことを知っているのかい? アキ執務官・・・いや、アキ提督と言った方がいいのかな?」

通路の奥から紫色の髪に白衣を着た男と、その傍に控えるように付いてくる一人の女性。

「ジェイル・スカリエッティ・・・・・・」

名前と役職名まで言われたアキは先ほど言い損ねた相手の名前を呟く。

「光栄だな、君のような優秀な魔導師に名前を覚えてもらえるなんて」

「あなたの名前は管理局世界では有名ですからね。 それに、最高評議会からも聞きましたから」

アキの言葉にピクリと僅かに反応を示したトシアキだが、幸いにもこの場に居る他の三人は気付かなかったようだ。

「おや? ということは君が新たな協力者というわけかい?」

「一応、そういうことになっていますが、それを決めるのは・・・・・・」

アキはそこで会話を止め、隣に立つトシアキに視線を向ける。

そしてアキの視線を追うようにジェイルも視線を変える。

「ん? 俺が決めるのか?」

二人の視線を受け、トシアキは少しだけ考える仕草をみせて口を開いた。

「・・・・・・なら、しばらくは不干渉にしよう」

「いいんですか?」

「あぁ、俺が協力を求めたときに手伝ってくれたら、こちらからも手伝うということにしようか」

一方的に条件を出したトシアキに対して、ジェイルの隣にいた女性が険呑な気配を見せる。

「それはそちらに都合が良すぎないかい?」

「はっ、こんなところにいて、管理局世界で有名ってことは指名手配でもされてんだろ? 通報しないだけでもありがたく思うんだな」

そう言いきったトシアキを見て、ジェイルはアキに確認するように視線を向ける。

「兄様がそう決定したのなら、私はそれに従うまでです」

「・・・・・・そうかい。 なら君たちから連絡が来るのを待っているとしよう。 行こうか、ウーノ」

「よろしいのですか? ドクター」

ジェイルの傍にいた女性――ウーノが確認するように尋ねるが、彼は笑顔のまま答えた。

「心配はいらない。 すぐに私たちとは協力関係になるさ」

どこからその自信がくるのかわからないウーノであったが、ジェイルの言葉にただ頷く。

「わかりました。 全てはドクターのお心のままに」

「それではまた会える時が来るのを願っているよ」

そう言って二人は通路の奥へと進んでいってしまった。



***



二人の姿が見えなくなった後、そのままあの場所にいても意味がないので、自宅に戻って来たトシアキとアキ。

「とりあえず、さっきあいつらとの関係はさっき言ったとおりだ」

「はい、兄様」

ソファに座りながら隣にいるアキにそう言ったトシアキは見ていた資料をテーブルへ放り投げた。

「管理局も所詮、人間の組織だよな。 いろんな考えがあって纏まってないじゃないか」

トシアキが見ていた資料はアキが密かに持ち帰った管理局の資料である。

本来、データ化されているものばかりなのだが、アキがトシアキの為にわざわざ写して来たらしい。

「そうですね。 自分のことしか考えてない者、自分の正義を貫く者、数えたらキリがありません」

「アキはどうなんだ?」

「私は兄様のためになることですね」

真剣な眼差しでそう答えたアキにトシアキは微笑みながら頭を撫でてやる。

「そうか。 もしもの時は頼むな」

「はい、兄様」

嬉しそうに微笑みながら頷くアキであった。

「ん? 誰か来たのか?」

玄関のベルが鳴ったのを確認したトシアキは静かに立ち上がろうとする。

「兄様、私が行きます」

兄との楽しい時間を邪魔されたアキは表情には出さず、心の中で来客者を抹殺することを考えていた。

「そうか、なら頼むな」

アキに任せることにしたトシアキはソファに座ったままで視線だけを向ける。

「はい。 この楽しいひと時を邪魔する者を排除してきますね」

「・・・・・・いや、待て。 それはダメだ」

アキの呟きを聞き取ったトシアキは慌てて玄関に向かったアキを追う。

「・・・・・・」

玄関まで行ったトシアキは無言で佇むアキと、どこかで見たことのある人たちがいることを確認した。

「なんで、こんなところに居るんだよ」

「何故って・・・・・・隣に引っ越してきたからだよ、トシアキ君」

「やっほ~、トシアキ」

「これからよろしくね」

そこには管理局を辞めたグレアム元提督とその使い魔、ロッテとアリアがいたのだ。

「隣? 確か、管理局の臨時作戦本部ってやつじゃなかったか?」

「闇の書事件が終わったのだ、いつまでも作戦本部など必要あるまい」

「まぁ、確かにそうだけどよ・・・・・・」

グレアムとトシアキが話している後ろでアキと猫姉妹が何やら話合っているのを横目で確認したトシアキ。

「出身はイギリスだが、長く管理局にいた私には親族はもういない。 そこで孫同然のアキ君がいる日本に来たのだよ」

「そうか・・・・・・なら、これからよろしく頼むわ」

「そんなっ!? 兄様っ!?」

先ほどまで猫姉妹と会話していたアキがトシアキの答えに驚きを現す。

「うむ、君ならそう言ってくれると信じていたぞ。 二人同時は無理だが、今日から頼む」

「ん?」

何やら話が食い違っていると感じたトシアキが首を傾げて考えていると、ロッテが腕を組んで頬ずりし始めた。

「よろしくね、トシアキ。 何日かごとでアリアと交代だから」

「はっ? ロッテ、ここに住むの?」

「そうだよ? トシアキの手伝いをしなさいって父様から言われてるからね」

別に同じ場所に住む必要はないだろ、と文句を言おうとグレアムを見たが、そこには既に誰もいなかった。

「いねぇし・・・・・・」

「はっ!? ロッテ! 兄様に引っ付き過ぎです! 離れなさい!」

トシアキの腕に張り付いているロッテを引きはがそうとアキがそう声を上げる。

「いいじゃん、減るもんでもないし。 ここは師匠に譲ってよ」

「良くありません! 兄様の邪魔になります!」

ロッテとアキが言いあっているのを聞きながら静かにため息を吐いたトシアキであった。

あれからしばらく話しあった結果、ロッテは猫の姿でいることになった。

必要な時以外は猫の姿でいることになったようである。

「なんか、また家族が増えたな」

膝の上で眠る子狐姿の久遠と猫の姿のロッテを撫でながらそう言ったトシアキ。

「トシアキも大変だね」

子狼姿のアルフがトシアキの座るソファの正面からそう言った。

「そういや、アルフはずっとその姿か?」

「うん、なるべくフェイトに負担がかからないようにしたいからね」

「フェイトか・・・・・・そろそろ学校から帰ってくる頃か」

フェイトは今まで通りなのはたちと同じ学校に通っている。

ちなみに先ほどまでいたアキは管理局からの呼び出しであちらへと渋々向かっていった。

「ただいま」

「おかえり、フェイト!」

フェイトの声にいち早く反応したアルフは玄関までお出迎えに行く。

「ただいま、アルフ」

「あのね、トシアキが猫を連れてきたんだよ!」

アルフを抱えながらリビングにやって来たフェイトは話を聞いて頷く。

「そうなんだ。 あ、兄さん、ただいま」

「おかえり、フェイト」

「その子が連れてきた猫?」

近くに来たフェイトはトシアキの膝の上で眠るロッテをソッと覗き込む。

「あぁ。 連れてきたというか、押しつけられたというか・・・・・・」

「?」

最後の呟きは聞えなかったのか、首を傾げて不思議そうにトシアキを見るフェイト。

「撫でてみるか?」

「か、噛みつかない?」

「寝てるんだぞ?」

苦笑いしながら答えたトシアキ。

その言葉を聞いたフェイトは恐る恐るといった感じで手を伸ばす。

「にゃぁ~~(なんだよぉ~~)」

睡眠を邪魔されたのが気に食わないのか、フェイトの手から逃れるように寝返りをうつロッテ。

「か、かわいい・・・・・・」

「まぁ、こいつもこれから一緒に住むことになったからよろしくな」

「うん! 頑張ってお世話するね!」

可愛らしく笑顔でそう言ったフェイトにそう言う意味でいったんじゃないと伝えそびれてしまうトシアキであった。



~おまけ~


トシアキとグレアムが玄関で話しているのを聞きながら、アキは自分の師匠たちのもとへ行く。

「何度来ても兄様は渡しません」

「そう言われてもねぇ?」

アキの言葉に苦笑いを浮かべながらアリアを見るロッテ。

「そうよ、アキ。 これはトシアキからのお願いなんだから仕方ないじゃない」

「に、兄様のお願い?」

トシアキがグレアムに話した内容を知らないアキは首を傾げる。

「そうよ、私たちは片方ずつだけど、トシアキの作る組織を手伝うことになったのよ」

「そうそう、これからは仲間だから仲良くしようね、アキ」

確かに師匠とともに戦えることを嬉しく思うアキだが、兄との二人だけの時間が減ってしまうことに気付いたアキ。

「な、なにかの間違いでは・・・・・・」

「そうか・・・・・・なら、これからよろしく頼むわ」

アキの言葉を遮り、グレアムと話していたトシアキの声が聞えてきた。

「そんなっ!? 兄様っ!?」

「そういうことだからよろしく」

落ち込むアキの横をすり抜けてトシアキの腕に抱きつくロッテ。

「アキ君もよろしく頼む。 娘同然のロッテとアリアを頼む」

「じゃあ、今日はロッテだから私は帰るわね」

アキにそう声をかけてグレアムとアリアは隣の部屋へと帰ってしまった。

「いねぇし・・・・・・」

トシアキのその言葉で現状を思い出したアキはロッテの姿を見つける。

「はっ!? ロッテ! 兄様に引っ付き過ぎです! 離れなさい!」

こうして、敷島家に住む家族がまた増えることになったのである。



~~あとがき~~


更新までにかなり時間がかかってしまいました。
待っていてくれた皆さまには申し訳ないです。

最近、現実が忙しかったため全然書けませんでした。
これからも遅れてしまうことが多々あると思うのですが、ご勘弁を・・・・・・

しばらくはどうでもいいような日常編が続きます。
そしてマテリアル編へ続き、Sts編へと・・・・・・
どれだけ時間がかかるかわかりませんが、頑張りますんでよろしくお願いしますw

それでは、再び皆さまと会えることを願って、次回の作品で会いましょうww



[9239] 第三十四.四話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/09/27 22:49
突然だが、この家の主である敷島トシアキは大変なことに気付いてしまった。

「な、なんだと・・・・・・」

あまりの出来ごとに風呂場であるにも関わらず膝をついて頭を抱える。

「なんてことだ、まさかこんなことになっていたなんて」

普段と何も変わらないような日常であったが、自宅の風呂掃除をしているときにトシアキは気付いてしまったのだ。

「壊れてやがる・・・・・・使いものになりゃしねぇ」

そう、生活には欠かせない自宅の風呂が壊れていたのだった。

「と、いうわけでスマン! 昨日は問題なかったんだが、今日は完全に動かなくなってるんだ」

場所が変わって敷島家のリビング。

この家の住人を集めて開口一番に謝罪したトシアキは事情を説明する。

「に、兄さん、そんなに頭を下げなくても・・・・・・」

信頼する兄が自分たちに頭を深く下げていることに慌てるフェイト。

「そうだよ、一緒に住んでるあたしたちも気付かなかったんだから仕方ないさ」

子狼姿のアルフもフェイトの腕に抱かれながらそう言って慰めてくれる。

「そうです、兄様。 別にお風呂に数日入らなかったからと言って死にはしません」

もう一人の妹であるアキも特に風呂が使えないからといって困るわけではないらしい。

「くぅ~(久遠、お風呂嫌い)」

「にゃぁ~(あたしもシャワーでいいし)」

アキの膝の上にいる久遠とロッテも風呂がなくてもシャワーがあればいいという考えである。

「・・・・・・」

「トシアキが真剣な顔をして何を言うかと思えば」

「うん、少し意外だったね」

アルフとフェイトはもっと重大なことを言われるものかと心構えをしていたが、拍子抜けに終わってしまったようだ。

「兄様、私たちはお風呂がなくても大丈夫です。 だから心配しないでください」

いつまでも黙ったままのトシアキを気遣ってか、アキがそう言ってトシアキに声をかける。

「おまえら、もっとこうあるだろ! 女の子なんだから少しは身だしなみに気を使いなさい!」

思わずそう言って叫んでしまったトシアキだが、他の者の反応はそれほどでもなかった。

「あたしたち、元は動物だからあんまし気にしないよ?」

「くぅ」

「にゃぁ」

アルフの言葉に久遠とロッテが同意するように鳴き声を上げる。

「わ、私はちょっと気になるけど、ずっとじゃないし、お風呂が直るまでなら我慢出来るよ?」

少し頬を染めて自分の身だしなみを確認しながらそう言ったのはフェイト。

「私は兄様に嫌われない程度でしたら問題有りません。 他人の目はどうでもいいので」

相変わらずの主張をするのは兄様至上主義のアキであった。

「・・・・・・・・・よし、銭湯だ」

家の女性陣の反応に頭を抱えたトシアキは小さい声でそう呟いた。

「せん、とう?」

「なんだい、それは?」

言葉の意味がわからないのか、フェイトとアルフは揃って首を傾げる。

「まだまだですね、フェイト。 つまり兄様は『戦闘』を行ってお風呂を確保しようとしているのです!」

「そ、そうなの!? 兄さん!?」

「そうですよね! 兄様!!」

自分の解答が正解だと信じて疑わないアキとお風呂に入るために戦わなければならないのかと本気で心配するフェイト。

「・・・・・・んなわけないだろ。 戦闘じゃなく銭湯だ」

「? 戦闘ですよね?」

トシアキの発音が悪いのか、銭湯という単語をアキが知らないのか、どうやら会話が成立していない。

「とにかく! 今日、行くからな!」

「みゃう(あたし、パス)」

湯船につかることがあまり好きでないロッテは行かないようである。

そもそも、銭湯に動物を連れてはいけないのだが。

「フェイトとアキは強制参加だ! 久遠とアルフは来るなら人間の姿でな」

「はい、兄様」

「う、うん。 頑張るよ、兄さん」

トシアキの言葉に素直に返事をしたアキと、先ほどの会話の戦闘という単語が消えないのか、緊張した様子で頷くフェイト。

「トシアキが行くなら久遠も行く」

素早く子供の姿になった久遠が参加を表明。

「フェイトが行くんなら勿論、あたしもいくよ」

同じく、子供の姿になったアルフも行く気満々である。

「アルフ」

「なに?」

だが、そんなアルフを見て、トシアキは思わず声をかけてしまう。

「せめて、耳と尻尾は隠せ。 いくら子供でもそれではダメだ」

「えっ? あぁ、そうだったね。 ごめんごめん」

思い出したように手をポンッと打ったアルフは苦笑いを浮かべながら耳と尻尾を隠した。

「ロッテは留守番頼むな」

「にゃ~~(はいよ)」

ロフトに上がってしまったロッテの姿は見えなかったが、返事があったため大丈夫だろうとトシアキは判断した。

「じゃあ、各自準備してここに集合だ!」

トシアキの言葉にそれぞれ自分の部屋へ入って行った。

「・・・・・・風呂に行こうってのに、誰も風呂場に行かないのは何故なんだ?」

残されたトシアキがポツリと小さな声でそう呟いたのであった。



***



敷島家総出でやって来たスーパー銭湯、その名もニコニコランドである。

その正面に五人で並び、他の客に不審な目で見られていたが、そんなことを気にしている状態ではなかった。

「・・・・・・で、アキ」

「はい、兄様」

「それはなんだ?」

トシアキは隣にいるアキの姿を見て思わず聞いてしまう。

「はい。 銭湯(戦闘)態勢です、兄様」

そう、アキは自分のデバイスを起動させてバリアジャケットを着込んだ完璧な戦闘態勢であった。

「俺たちは風呂に行くんだぞ?」

「はい。 ですから、他の利用者を亡きものにして風呂場を占領するんですよね?」

「・・・・・・いいから、解除して普通の姿になりなさい」

完璧に勘違いをしてしまっているアキに何を言ってもわからないと思ったのか、トシアキはとにかくバリアジャケットを解除させる。

「? 兄様がそう言うなら・・・・・・」

首を傾げつつ、兄の言葉に素直に従うアキであった。

「んで、フェイト。 お前はちがうよな?」

「ふぇっ!? に、兄さん、ちょっと怖いよ・・・・・・」

アキとは反対側にいるフェイトを凝視して確認するトシアキにフェイトは少し涙目であった。

「よし、普通の服装だな。 しかし、着替えやタオルを持ってきてないのか」

「う、うん。 アリサに聞いたら必要ないって・・・・・・」

アリサのような金持ちが利用しているのは銭湯ではなく温泉宿のレベルである。

着替えも浴衣があるし、タオルも施設のものがあるからだろう。

「アリサめ、金持ちはこれだから・・・・・・」

ここにはいないアリサに悪態を吐きつつ、再びフェイトに確認を取る。

「じゃあ、何も持ってきてないのか?」

「えっと、一応、姉さんが言ってたからバルディッシュは持ってるけど・・・・・・」

「フェイト、お前もか」

妹二人には色々と教えないといけないな、と考えつつ残りの二人を確認する。

「くぅ!」

久遠嬉しそうに微笑みながら頭の上にタオルを乗せていた。

「そういや、前に温泉に入ったときそんなことしてたな」

そう言ったトシアキだが、やはり久遠も手ぶらである。

「アルフはどうだ? 温泉入ったことあるからわかるよな?」

「ん? 今から行くのはせんとうってところだろ? 温泉とは別物じゃないの?」

やはりアルフもタオルしか持っていないらしい。

温泉と銭湯は確かに別物であるが風呂に入るのだからせめて着替えは持ってきて欲しかったトシアキである。

「まぁ、別にいいんだけどな。 普通に入れるし」

ただやっぱり、女の子として少し気にするようになって欲しいというのがトシアキの考えであった。

「わぁぁ・・・・・・」

「人が多いですね」

初めて入った施設にフェイトは興味深そうに辺りを見渡し、アキは予想以上の人の多さに顔を顰めていた。

「さて、と。 んじゃ、風呂に入って上がったらここに集合な?」

受付で人数分のお金を支払い、男湯と書かれた暖簾に手を掛けたトシアキ。

「では行きましょう」

「くぅ!」

声をかけたトシアキの後をアキと久遠が付いてくる。

「ちょっと待て、お前たちはあっちだろ」

トシアキが指を向けた場所には女湯と書かれた暖簾が吊るしてある。

「せっかくのお風呂なのですから兄様と一緒に入りたいです」

「久遠、トシアキと入る」

そう言った二人にトシアキはため息を吐きながら説明してやる。

「いいか、俺は男。 お前たちは女。 入るところが違うんだ」

「ですが・・・・・・」

トシアキの話しを聞きながら、アキは看板に書かれた文字を指す。

「ん?」

アキの指を辿って見てみるトシアキ。

『十歳未満のお子様はどちらでも入れます』

そんな内容が書かれた看板が目に入って来た。

「・・・・・・確か、アキって」

「はい。 今年で九歳になりました」

トシアキの問いかけに満面の笑みで答えたアキ。

そんなアキの答えに肩を落としたトシアキだが、ふと視線を感じたので顔を上げる。

「・・・・・・」

受付にいるお姉さんがこちらをニコニコしながら見つめていた。

「あの、すみません」

施設の人に言ってアキを女湯の方へ入れようと考えたトシアキは声をかける。

「はい? お客様、どうかなさいましたか?」

営業スマイルなのだろうか、相変わらずの笑顔を浮かべたままこちらへ来た店員。

「ウチの妹、今年で九歳なんですが、女湯の方へ案内して上げてくれませんか?」

「そうでしたか・・・・・・じゃあ、お姉さんと一緒に行きましょ?」

アキに視線を合わせるように店員がしゃがみ込んで話しかけるが、アキはトシアキの後ろへ隠れてしまう。

「私、兄様と一緒がいいです・・・・・・」

少し目を潤ませて上目遣いで店員のお姉さんにそう言ったアキ。

「そう・・・・・・なら仕方ないわね」

アキの潤んだ瞳に負けたのか、店員が立ちあがりトシアキを見つめる。

「妹さんはお客様と入りたいそうですよ?」

そして、笑顔でそうトシアキに言った。

「・・・・・・」

この店員使えねぇと思ったトシアキだが、口には出さずため息を吐く。

「だが、アキ。 男湯ってことは俺以外にも人はいるんだぞ?」

「問題有りません。 私の裸を見ていいのは兄様だけです。 よって・・・・・・切り刻みます」

デバイスにソッと手を触れながら静かにそう答えたアキ。

「それはやめなさい。 仕方ない、何とかして・・・・・・」

そこまで言ったところで、フェイトが何か言いたそうにこちらを見ていることに気が付いた。

「あ、あの、姉さんがそっちに行くなら私も・・・・・・」

「フェイト、お前もか」

「フェイトが行くならあたしも行くよ」

「アルフ、貴様もか」

そんな小さな子たちの様子をみた店員が笑顔のままでトシアキを見る。

「可愛らしい妹さんたちですね」

「あぁ、まぁ、そんな感じかな・・・・・・」

しかし、このまま行くと男湯に居る一般人がアキによって切り裂かれてしまうと考えたトシアキ。

「すみません」

「はい?」

再び笑顔のままトシアキの方を見つめる店員。

「家族風呂ってありますか?」



***



家族風呂に入るためにさらに料金を支払ったが、人が死んで騒ぎになるよりはマシかと考えながら風呂に浸かるトシアキ。

「はぁ・・・・・・良かった、家族風呂がある大きな施設で」

心の底からそう思ったトシアキは洗い場で体を洗っている妹たちを見る。

「ほら、久遠、大人しくしなさい!」

「く、くぅ!?」

久遠の体を洗っているのはアキだ。

温泉は大好きな久遠であるが、石鹸で体を洗うのは好きではないらしい。

「フェイトぉ、痒いところはないかい?」

「うん、大丈夫だよ、アルフ」

フェイトの長い髪を洗っているのはアルフである。

ずっと一緒に入っていたためか、アルフの洗う仕草も慣れたものであった。

「くぅ!!」

体を洗い終わったのか、久遠がトシアキの入っている浴槽へ飛び込んできた。

「うわっ!? こら、久遠! 飛び込むな!!」

「くぅ・・・・・・ごめんなさい」

前回温泉に入った時は泳ぐなと怒られ、今回は飛び込むなと怒られた久遠。

少し落ち込んだのか、鼻から下までお湯につかりブクブクと息を吹きだしていた。

「さぁ、兄様! お背中を流し・・・・・・」

久遠を洗い終えたアキは少し興奮した様子でトシアキに近づいてくる。

「俺はいいから自分を洗いなさい」

アキに最後まで言わさず、とりあえず隅へ追いやるトシアキ。

それからしばらくして、結局みんなでお湯に体を沈める。

「はぁ・・・・・・やっぱ風呂はいいなぁ」

「そうだねぇ・・・・・・」

トシアキとアルフがリラックスした状態でそう言った。

「くぅ・・・・・・」

少しのぼせたのか、久遠は頬を赤くした状態で目を閉じている。

「家族皆でお風呂・・・・・・気持いい・・・・・・」

フェイトは今の状態を楽しんでいるようで終始笑顔のままであった。

「兄様の隣で一緒にお風呂・・・・・・幸せですぅ」

アキもトシアキの隣で風呂に入れているのが嬉しいのか、頬が緩んでいた。

「さて、そろそろ帰るか」

トシアキの言葉で皆、風呂からあがろうとしていたが、一人だけ動かない者がいた。

「・・・・・・久遠?」

「くぅ・・・・・・ブクブク・・・・・・」

目を閉じたままの久遠がそのままゆっくり沈んでしまったのだ。

「ちょっ!? おまっ! 久遠!!」

慌てて抱き上げ、脱衣所まで運びこんだトシアキはタオルを掛けて扇風機をあててやる。

「のぼせるまで入っとくなよ」

苦笑いを浮かべながらそう言ったトシアキは目を閉じている久遠をソッと撫でてやる。

「まぁ、久しぶりにずっと一緒にいたしな。 ゆっくり休めよ」

「・・・・・・くぅ」

気を失っていてもトシアキの声がわかったのか、小さく返事を返した久遠。

「そういや、あいつらはどうしたんだ?」

残りの三人がいつまでたってもこちらに来ないことに首を傾げたトシアキ。

ちなみに残された三人はというと。

「・・・・・・なかなかいいモノ持ってたね」

頭の上に乗せたタオルで顔を隠しながらそう呟いたアルフ。

「・・・・・・」

フェイトは顔を真っ赤に染めて俯いたまま動こうとしない。

「す、すごいです兄様」

アキも珍しく顔を染めて先ほど見たものを頭に浮かべながらそう呟いた。

そして、結局三人が出てきたのはそれからかなり時間が経ってからであった。

「ゴクゴクゴク・・・・・・うん、風呂上がりはやっぱ牛乳だな」

「くぅ!」

意識が戻った久遠とトシアキが仲良く牛乳を飲んでいると、残りの三人が家族風呂から出てきた。

「よう、遅かったな。 ほら、お前たちの分」

牛乳瓶を三本持って、フェイトたちへ渡そうとしたトシアキ。

「「「っ!!?」」」

しかし三人は、顔を赤くしていたり、そっぽを向いていたり、ジッと見つめてきたり、それぞれ様子がおかしかった。

「? ほら、アルフ」

「えっ!? あ、その・・・・・・ありがと」

そっぽを向いていたアルフだが、牛乳を受け取るさいトシアキの顔を見てしまい、恥じらう様子で牛乳を受け取る。

「フェイトの分もあるぞ」

「ふぇっ!? えっと! その! あの!」

顔を赤くしていたフェイトはトシアキに声を掛けられて慌てた様子で両手をパタパタと動かす。

「なにやってんだよ。 ほら、牛乳だ」

「う、うん・・・・・・ありがと、兄さん」

慌てていたフェイトはトシアキから牛乳を両手で持ち、再び顔を赤くさせる。

「んで、アキの分な」

「兄様」

最後の一本をアキに渡したトシアキ。

今までトシアキをジッと見ていたアキは牛乳を受け取りながら声をかける。

「ん? どうかしたのか?」

「どうやって大きくなったのですか?」

「「ぶっ!!?」」

牛乳を両手に持ったまま、アキはトシアキにそう質問する。

そして、その質問に受け取った牛乳を飲んでいたアルフとフェイトと噴き出してしまった。

どうやら風呂場で見たものを思い浮かべてしまったらしい。

「くぅ・・・・・・」

噴き出された牛乳は久遠に全てかかり、牛乳色に染まってしまった。

「そりゃ、大人になってきたら成長するもんだろ」

「なるほど、だから兄様は大きいのですね」

「? まぁ、同年代にくらべりゃ大きい方かな」

アキと話しながら自分の頭に手をあてて、身長を確認するトシアキ。

「わかりました! 流石兄様です!」

「ん? あぁ、サンキュー」

よくわからない会話であったが、アキが納得して褒めてくれたのでとりあえずお礼を言っておくトシアキ。

「じゃあ、牛乳飲んだらかえるぞ・・・・・・って、フェイトとアルフ、何してんだよ」

牛乳をこぼしてしまっている二人に呆れながら、牛乳色に染まってしまった久遠を撫でてやる。

「可愛そうにな、久遠。 また風呂に入ってくるか?」

「いい。 帰ってしゃわー浴びる」

そう言った久遠をとりあえずタオルで拭いてやり、床にこぼれた牛乳も拭き取る。

片付けを終えで五人は揃って帰宅することになった。

帰り道の間、アルフとフェイトはずっと無言で歩いており、その理由がわからないトシアキは首を傾げていたのだった。



~おまけ~


トシアキたちが出て行ったことを確認したロッテはベッドに飛び乗った。

勿論、猫の姿のままである。

「ここがトシアキの寝室よね」

寝室というより、ロフトのスペースで寝ているのだが、意味的には同じである。

「・・・・・・」

ベッドの上を歩いていたロッテは枕を見て無言で立ち止まる。

「にゃぁ~」

枕に頭を乗せて嬉しそうな鳴き声を上げるロッテ。

「トシアキの匂いがする・・・・・・」

しばらく枕に顔を乗せていたロッテだが、ふと視線を感じたので顔を上げてみた。

ちなみに猫の姿のままである。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

そこには自分と同じ姿をした猫がこちらをジッと見つめていたのだ。

最初は鏡かと思ったロッテだが、昼からアリアと交代することになっていたのを思い出した。

「・・・・・・アリア?」

「なに? 変態のロッテさん」

怯えている様子で自分の片割れの名前を呼んだロッテに冷たい視線と言葉を返したアリア。

「にゃぁぁぁぁ!!!!!」

自分の恥ずかしい一面を見られたロッテは叫び声を上げながら敷島家から出て行った。

何度も言うが猫の姿のままである。

「まったくもう、ロッテったら・・・・・・」

ロッテと交代したアリアはその場で丸くなって自分の片割れの行動に呆れかえる。

「・・・・・・トシアキの匂いがする」

結局ベッドの上で丸くなったアリアはロッテと同じ言葉を呟いてしまうのであった。



~~あとがき~~


.二話に続いて.四話です。
まぁ、別に必要のない日常なんですけど、前から銭湯へ行く話を書きたいと思っていたので書きました。 
勿論、後悔はしてません!

そろそろマテリアル編に向けて話を進めていかないといけないのですが、書きたい日常編が多くあってかなり迷ってますw
まぁ、完結してから書いてもいいんですがね(苦笑

次回は管理局へ向かう八神家の話を書こうかと思っています(確定ではありませんので・・・)
マテリアル編は原作(ゲーム)の展開とは違った形になること思いますが、ご了承ください。

それでは、次回の作品も皆さまに見ていただけることを願って・・・・・・
また、会いましょうww



[9239] 第三十四.六話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:b0646942
Date: 2010/10/25 10:05
すずかの家で行われたクリスマスパーティ終了後、はやてと守護騎士たちはアースラへ来ていた。

「すまないな、せっかく楽しいイベントが終わった後だというのに呼び出して」

アースラ内の転送ルームで彼女たちを出迎えたのは執務官のクロノ。

「ううん、ウチの子たちが悪いことしたんはわかってるから仕方あらへんよ」

「はやて・・・・・・」

「はやてちゃん・・・・・・」

悲しそうな瞳でそう言ったはやてに済まなさそうな瞳で見つめるヴィータとシャマル。

「それで、我らはどうすればよいのだ。 執務官殿」

そんな中、はやてを抱えたシグナムがここに呼ばれた理由を聞くべく、クロノに尋ねる。

「あぁ、詳しい話は艦長がすることになっている。 悪いが付いてきてくれ」

クロノはそう言って踵を返し、歩き始める。

「あの・・・・・・」

そんなクロノに向かって声をかける銀色の長くて美しい髪の女性。

「ん? どうかしたのか?」

彼女の言葉に振り返り、続きを促すクロノ。

「その・・・・・・私たちを拘束しなくていいのか?」

「リインフォース!」

銀色の髪の女性――リインフォースの言葉にはやては思わず声を荒げる。

確かに今回の事件の原因だったとしても、家族が拘束されている姿をはやては見たくなかったのだ。

「ふむ。 確かに君たちは今回の事件の重要参考人だが、拘束する必要はないだろう」

はやての声を意図的に無視し、クロノはリインフォースにそう告げた。

「今回の事件は『闇の書』が原因だ。 君たちは『夜天の魔道書』の守護騎士だろう?」

「だが、それは・・・・・・」

今まで闇の書として様々な犯罪行為をしてきた自覚があるリインフォースはクロノの言葉にどこか納得がいかないようであった。

「まぁ、闇の書の防衛プログラムの破壊を手伝ってもらったんだ、拘束する必要はないと判断したというのが本音かな」

「執務官殿・・・・・・」

リインフォースがクロノを見つめて、そこまで信頼してくれているのかと感動した。

「と、とにかく! 艦長が待ってる。 早く行こう」

美人に見つめられて照れてしまったクロノは顔を少し染めながら、先を急ぐ。

「リインフォース? どないしたん?」

「っ!? い、いえ。 なんでもありません」

茫然と佇んでいたリインフォースを不思議に思ったはやては横から声をかける。

「ふむ。 主、どうやらリインフォースは執務官殿に見とれていたようです」

「なっ!? 将!! 私は別にそんな・・・・・・」

「なんや、そうやったんや。 確かに、クロノ君はカッコええからなぁ」

シグナムの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言ったはやて。

「リインフォース、あんな奴がいいのか」

「人の好みはそれぞれであろう」

「リインフォースも女の子ですね」

はやてに合わせるかのように、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルも続く。

「ち、違うぞ! 私が本当に気になっているのは・・・・・・」

はやてと守護騎士たちに次々と言葉を浴びせられ、心の奥にしまっていた一人の人間を思い浮かべるリインフォース。

「気になってるんは?」

「あ、いえ、その・・・・・・なんでもありません」

自分が言ったことをはやてに聞き返され、我を取り戻したリインフォースは言葉を飲み込み静かになる。

「あぁ、惜しかったなぁ。 もう少しで聞けたのに・・・・・・」

「君たち、会話するのは構わないが、キチンと付いてきてくれないか?」

はやての言葉を遮るようにして、前を進んでいたクロノが苦笑を浮かべながらそう言った。

いつの間にか、はやてたちはアースラの通路で立ち止まって話をしていたようだ。

「将、執務官殿もそう言ってるのです、早く行きましょう」

はやてを抱えているシグナムにそう言ってクロノのもとへ急ぐリインフォース。

そのときのリインフォースの頬が少し赤くなっていたのを気付いたのは誰もいなかった。

「ごめんなさいね、急なことになってしまって」

艦長室に集められた八神家の代表はリンディにそう言われ、慌てて首を振る。

「そんなっ! クリスマスパーティまで待って貰っただけで十分です」

奇しくもはやてが今、座っているその場所はトシアキが取り調べを受けたときに座った場所であった。

「そう言って貰えるとこちらも助かるわ」

はやての対面に机を挟んで座るリンディはそう言って笑みを浮かべる。

「それで、こちらはなにをすればいいのだ?」

座るはやての周りに、まるではやてを守るようにして立つ守護騎士たちの代表格シグナムがそう問いかける。

「簡単に言うと、管理局本局まで行って裁判を受けて貰うだけ」

「なるほど。 だが、その裁判が容易ではないと思うのだが?」

返って来た答えに今度はザフィーラが問いかける。

「それについては僕から説明しよう」

案内のあと、リンディの後ろに控えていたクロノがそう言って話始める。

「確かに、闇の書事件によって出た被害は大きい。 だが、今回のことだけを見るとそうでもないんだ」

「どういうことだよ?」

はやての膝の上に座りながらクロノを睨みつけるヴィータ。

「今までの闇の書事件とは違い、今回は死人が出ていない」

「ということは、無罪にはならないけど、罪はそんなに重くはならない?」

守護騎士参謀役であるシャマルがそう呟く。

その声を聞いたヴィータとはやては笑みを浮かべて喜びあう。

「ほんなら、皆につらい思いをさせんですむんやな」

「やったな、はやて!」

「ところがそうはいかない」

「「えっ?」」

喜んでいるはやてたちに水をさしたのは先ほど話をしていたクロノ執務官である。

「今回の事件だけみればそうなるだろうが、管理局の他の者は今までの闇の書が関わった事件まで掘り返してくるだろう」

「それこそ何年、何十年前のものまでね」

クロノの言葉を引き継いで、リンディもそう言って真剣な表情を作る。

「だが、その罪は私だけが受ければ・・・・・・」

「何言うてんねん! リインフォースだけが受ける必要はない、ウチら家族の問題や!」

話を聞いていたリインフォースが声を出すが、はやてに遮られてしまう。

「まぁ、僕らとしてもそんな過去にまで遡って裁くということはしたくない。 だが、そういう者もいるということだけ覚えておいてくれ」

「「「・・・・・・」」」

クロノの言葉を聞いて八神家一同は沈黙してしまう。

「本局までの航海は一週間近くある、それまでは客室を使うといい」

「裁判は本局で行われるから、それまで艦内では自由に過ごしてていいわよ」

「・・・・・・はい、お心遣いありがとうございます」

代表してシグナムが頭を下げ、クロノとリンディを残し退室していった。

「・・・・・・よかったのですか?」

室内に残ったのはリンディとクロノの二人だけのはずなのに、まだ幼さが残る女の子の声が聞えて来る。

「何が、とは聞きませんよ、アキ提督」

そう、聞えて来たのは未だ地球に居るはずのアキ・シキシマの声だったのだ。

「あなたたちが納得しているのなら私は何も言いません。 ですが、話はグレアム提督から聞いていたので」

八神家へのこれから先のことを説明する時、アキも通信越しで話を聞いていたのであった。

「僕たちは管理局員だ。 父さんのことは納得している」

「・・・・・・そうね」

立派に育ったクロノの発言と、それに同意しながら目を閉じるリンディ。

「・・・・・・そうですか、なら私からは何もありません」

そう言ったきりアキからの通信は途絶え、室内が沈黙に包まれた。

「では、かあ・・・・・・艦長、僕も戻ります」

「えぇ。 クロノ」

扉の前まで行ったクロノはリンディに呼ばれ、振り返る。

「少しの間、お願いね」

「・・・・・・はい」

短く返事をしたクロノはそのまま指令室へ向かう。

ただ、扉が閉まったあとに部屋の中から聞えて来る声をクロノは聞えなかったフリをしたのだった。



***



しばらく平和な航海が続き、八神家もアースラ内で平穏に過ごしていたとき、その連絡が入った。

「クロノ君、地球のアキ執務官から連絡がきてるよ?」

「繋いでくれ」

「了解~~~」

エイミィは目の前にあるキーボードを操作して、クロノの前に通話画面を映し出す。

「お久ぶりですね、クロノ執務官。 リンディ提督。 それとエイミィ執務官補佐、私は既に提督です。 お間違いのないようお願いします」

「ご、ごめんなさい、アキ提督・・・・・・」

少し怒気を含んでいる言葉に完全に小さくなって謝るエイミィ。

「まぁ、いいです。 それよりリンディ提督にお伝えしたいことがありまして」

「あら、なにかしら?」

艦長席に座りながらアキから発せられる言葉を待つリンディ。

「簡単に言いますと、闇の書の防衛プログラムの一部が再活動しました」

「なっ!? なんだと!!」

「・・・・・・それは本当なの?」

アキの報告に驚きをあらわにするクロノと冷静に状況を聞こうとするリンディ。

「はい。 兄様が買い物の帰りに襲われまして、その時に発生した結界が闇の書事件の時のものと酷似していたのです」

「なるほど・・・・・・で、その相手は倒したのか?」

「いえ。 今、家で兄様と遊んでますが?」

「「「なぜっ!??」」」

アキの答えに思わず、その場にいたアースラスタッフ全員で突っ込みを入れてしまった。

「トシアキが襲われたんだろ? 君はそれでいいのか?」

兄が襲われたのに怒ることもしないアキについつい聞いてしまうクロノ。

「確かに、兄様を襲うなんて万死に値することですが・・・・・・」

「ですが?」

「兄様が許してしまっては仕方ありません。 私は兄様に従うまでです」

「「「・・・・・・」」」

アースラスタッフ全員があまりのことに絶句してしまうのであった。

「そ、それでどうしてこちらに連絡を? 話を聞く限りでは解決しているように聞えたんだが」

再びクロノが皆を代表して疑問に感じたことを尋ねる。

「つまり、何が原因で再活動したのか聞きたいのです」

「残念ながら僕たちは何も・・・・・・」

「いえ、あなたたちではなく」

クロノの言葉を遮ったアキはそのまま続けて連絡した本命を告げた。

「今、そちらで護送中の八神はやてとその守護騎士たちに聞きたいのです」

アキのその言葉により、八神家一同がアースラの指令室へと呼び出された。

「ここに来たんははじめてやけど、凄い場所やなぁ」

「艦内は自由とは言ったが、さすがにこういう場所はな」

指令室に入ったはやての言葉に苦笑して答えるクロノ。

「お久しぶりですね、はやて」

「あっ、その声はアキちゃん!」

はやての到着を待っていたアキは早速、通信画面越しに話しかける。

「実はこちらのほうで少々、面倒なことが起きているので解決策を知りたいのですが」

「う~んとな、わたしでええん?」

「闇の・・・失礼。 夜天の書の主であるはやてならわかるかと思いまして」

アキの言葉に腕を組んだり、頭を捻らせたりと色々な動作をしているはやて。

「まぁ、話を聞いてからやな。 いっぺん、言うてくれへんか?」

「では、こちらで起こっている事件の内容を説明します」

そう前置きしたアキは地球で今、起こっている現象を話す。

トシアキが買い物帰りに襲われたこと。

その襲撃者が張ったと思われる結界が闇の書の防衛プログラムのものの酷似していること。

そして、襲撃した者がフェイトの容姿をしていたことを説明した。

「そ、そんなっ!? 確かに防衛プログラムは高町なのはとフェイト・T・シキシマ、そして主の攻撃で破壊したのちアルカンシェルで消滅したはず」

アキの話を最後まで聞いた後、リインフォースが驚きをあらわにしながら先ほどの説明を否定する。

「はい、本体自体はそうなりました」

そう言ってリインフォースの言葉を肯定して頷くが、話をそのまま続ける。

「詳しく調べなければわかりませんが、兄様によると三人同時攻撃の際、コアの一部が砕けて散らばったということです」

「バカなっ! それならなぜ、トシアキはそのことを僕たちに言わない!」

話を一緒に聞いていたクロノが横からトシアキの報告漏れに対して文句を放つ。

「兄様は管理局員ではありません。 報告義務などありません」

「そ、それはそうだが、まだ危険が残っていたんなら・・・」

「確かに一理ありますが、兄様が言ったことをあなたはそのとき信じましたか? アースラから調査した時は何もなかったのに?」

「ぐっ!!」

通常、管理局が大きな事件を解決した際には直ぐに撤収するのではなく、何も危険がないと判断してから撤収を行う。

つまり、はやてたちがクリスマスパーティに参加している間にこういった捜査を完了させていたのだ。

「正直に言ってしまえば、それはこちら・・・管理局側のミスです。 あなたに兄様を責める資格などありません」

「そうね、確かにそうだわ。 それで、アキ提督は何が聞きたいのかしら?」

クロノがアキに言い負けていると感じたリンディが横から口をだし、本来の目的へ話を切り替える。

「そうですね、聞きたい内容は三つ。 一つ目はどうやってアースラの調査から逃れたのか、ですね」

「おそらく、砕けて散らばった一部のコアに魔力が残っていなかったからだと思う」

アキの質問に答えるリインフォース。

もっとも、正解かどうかわからないので、おそらくや思うなどという言葉を使ってはいるのだが。

「なるほど。 だとしたらなぜ今になって活動を?」

「闇の書の防衛プログラムの再生機能の為だろう。 砕けても再生機能が残っていたんだと思う」

「それなら納得です。 次に二つ目、何故フェイトの容姿をしているのか、ですね」

通信画面越しで納得した様子をみせたアキは続いて、二つ目の質問を行う。

「今回の蒐集で魔力値の高い者の姿を取っている可能性が高い」

「つまり、高町なのは、フェイト・T・シキシマ、アキ・シキシマの容姿をした者もいるということだな?」

横で話を聞いていたシグナムも話の内容が見えてきたのか、リインフォースにそう問いかける。

「将の言うとおりだ。 あとは、私や主、それに守護騎士たちの姿を取っているかもしれん」

「それは砕けたコアの数だけいてもおかしくはないんですね?」

「そういうことになるな・・・・・・」

アキの言葉に答えつつ、リインフォースは声のトーンを落としていく。

また自分の所為ではやての罪が重くなると感じたリインフォースは気落ちしてしまう。

「こら! リインフォース、自分だけの所為やと思ってんちゃうか?」

「あ、主・・・・・・」

「ウチら皆で償っていくんやから、勝手に落ち込んだらアカンで?」

八神家一同で和やかな空気を出していたので、クロノが思わずアキに先を促す。

「ゴホン! それで、アキ提督。 三つ目は?」

「・・・・・・三つ目は兄様を襲った理由、ですね」

クロノとアキの声を聞いて、自分たちがいま居る場所を思い出し、慌てて答えるリインフォース。

「そ、そうだな。 これもおそらくの話になってしまうんだが・・・・・・『チカラ』を集めていると思う」

「『チカラ』?」

聞き返したクロノに頷いてみせるリインフォース。

「防衛プログラムは砕けてしまい、小さな欠片が残ることになった。 だが、『チカラ』さえあればまた元に戻るはずだ」

「その『チカラ』とはなんなのですか?」

どうにも『チカラ』というものが定義出来なかったアキはそう尋ねる。

「なんでもいい。 『強い想い』、『膨大な魔力』、それらは持主によって違うが、他の者にはないものを私は『チカラ』と呼んでいる」

「他の者にはないもの? そんなものでどうやって元に戻る?」

「防衛プログラムはそれらを自分のものに出来る。 つまり、他人の魔法を使えたり、記憶を覗いたり、自分の魔力へ変換したり・・・・・・」

そのリインフォースの言葉を聞いたクロノ、リンディ、エイミィは事態の大きさに沈黙してしまう。

「それは厄介ですね」

ただ、通信画面越しに話を聞いていたアキはいつもと変わらぬ口調でそう返した。

「厄介とか、それどころじゃないでしょう!? 艦長、僕らも戻りま・・・・・・」

「必要ありません」

急いで地球に戻り、防衛プログラムの砕けた欠片を破壊しようと考えたクロノ。

しかし、その提案をリンディへとしている最中にアキからピシャリと断られてしまった。

「この件はこちらにいる私、フェイト、アルフ、そして高町なのはで片付けます」

「そんなっ!? 純粋な管理局員はアキ提督だけではないですか!」

「フェイトと高町なのはの魔道師としての素質は知っているはずですよね?」

他の者を放っておいて、討論を始めたアキとクロノ。

そして、そんな二人の会話を止めたのは勿論、リンディであった。

「クロノ、少し落ち着きなさい」

「艦長!?」

「今まで協力してくれたフェイトさんやなのはさんを見ていたでしょう?」

クロノを諭すようにそう言ったリンディだが、言われた本人はまだ納得していないようであった。

「で、ですが、これ以上関係のない者を巻き込むのは・・・・・・」

「既に関係ないとは言えないくらい協力してもらってます」

「うっ!? た、確かにそうだが・・・・・・」

アキの追撃の言葉もあり、クロノは渋々と頷くことにした。

「ふぅ・・・・・・わかりました。 この件はアキ提督に任せます、これでよろしいですね? 艦長」

自分の中で整理が付いたのか、クロノはそう決断してリンディへ最終確認を取る。

「えぇ、構いません。 アキ提督、お願いしますね」

「任せてください、リンディ提督。 それとはやて」

最初の話以外、口を閉じていたはやてに通信を切る前にアキが話しかけた。

「えっ!? な、なんや、アキちゃん」

突然、話掛けられたはやては驚きつつ返事をする。

「今回の情報提供に感謝します。 よって、裁判ではあなたが無罪になるように働きかけることにします」

「えっ・・・・・・」

「私の新たに手に入れた人脈を使えば裁判員の三分の一はなんとでもなります」

公式の通信で色々と危ないことを話しているアキだが、本人は全く気にしていない。

「完璧に無罪には出来ませんが、罪を軽くすることは出来ますので」

「あっ・・・・・・ありがとう、ありがとうな、アキちゃん!」

アキの言葉の意味が理解出来たはやては喜びの涙を流しながらお礼を言う。

「いえ。 友達を助けるのは当然のことですので・・・・・・それでははやて、アースラの皆さん、失礼します」

そう言ってアキは通信を終了してしまった。

残された八神一同は喜びをその場で分かち合い、話を聞いてしまったアースラスタッフは苦笑気味であった。

もっとも、こんなに嬉しそうなはやてたちの前で余計なことを言える雰囲気ではなくなっていたからなのだが。

その後は何も起こることはなく、アースラは管理局本局へ無事に到着したのであった。



~補足説明~


・高町なのは、フェイト・T・シキシマ、八神はやての三人同時攻撃で砕けて散らばってしまった防衛プログラムの欠片、通称マテリアル。

・それらはいくつかに散らばり、それぞれで人格を作成し、それぞれで活動している。

・特徴としては今回蒐集された高魔力の魔道師の容姿をしているとのこと。

・今現在、見つかっているのはフェイトの容姿をしている者だけ。

・作成した人格によりそれぞれ行動理念が違うため、マテリアル同士で戦うこともあり得る。

・マテリアルに再生機能が残っているためこれから出現してくると予想される。

・『チカラ』を集めるため、他人が持っていないものを持つ者・・・・・・兄様、私、フェイト、高町なのはに襲いかかると予想される。

以上のことから、この件が解決するまで兄様の傍で警護する必要あり。

管理局員 アキ・シキシマ提督のPCより抜粋。



~~あとがき~~


ようやくマテリアル編の頭が見えてきたかな? と思う私です。
なんだかだんだんとオリジナル展開になっているような気がする・・・・・・
題名にオリジナル展開有りって書いた方がいいのかな。

さて、今回ははやてたちに登場してもらいましたが、なんか守護騎士が半分空気でしたね(苦笑
もっとセリフを言わしてあげないと、コイツいたの? って展開になりそうだorz

次回からはマテリアル編!
楽しみにしていた人、お待たせしました!
では、次回の作品を読んでくださることを祈って・・・・・・また、会いましょうw



[9239] 第三十四.八話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:00b868e9
Date: 2011/01/11 18:26
アキがアースラへ通信する少し前の出来ごと。

闇の書事件も終わり、平穏な時を過ごしているトシアキたち敷島家。

フェイトはなのはたちと学校に行っており、家にはいない。

アキも管理局での仕事があるからと二日前から帰ってきていない。

久遠とアルフ、そしてロッテが家で待っている中、トシアキは商店街へ買い物に来ていた。

「おっちゃん! この大根、もう少し負けてくれねぇ?」

「おいおい兄ちゃん、大根しか買わないのに負けてくれなんてそりゃないぜ」

「じゃあ、ジャガイモも買うからさ!」

そう言ってトシアキは店頭に並んでいるジャガイモと大根を両手で持つ。

「しかたねぇな。 少しだけだぞ」

「サンキュー、これで妹たちに美味しい飯を食わせてやれるぜ」

値段交渉が成立したのか、笑顔のまま大根とジャガイモを袋に入れるトシアキ。

「おっ!? そういや、買い物した客にはこれを渡さないといけねぇんだった」

思い出したように八百屋のおじさんは小さな紙切れを数枚、トシアキに渡す。

「ん? 商店街福引券??」

「おう、今日で終わりだし、そのまま持って行きな!」

「ありがとな!」

二十枚くらいある福引券を手に、トシアキは笑顔でその店から立ち去った。

「ふむ、せっかくもらったものだし、やって行くか」

商店街の丁度中央に位置する場所で行われていた福引。

そこでは普段見ることは出来ない服を着た女性が真剣な表情でガラガラを回していた。

「・・・・・・」

「残念! こちらが残念賞となっております」

福引の係の人に手渡された棒付きのアメを眺めながら少し残念そうな表情をしている女性。

「えっと、ノエルさん?」

「はい? あっ、トシアキ様」

トシアキの姿を確認したノエルはその場で静かに頭を下げる。

「この間は来ていただきありがとうございました。 すずかお嬢様も大変喜んでいましたよ」

メイド服を着たノエルに頭を下げられているトシアキ。

そんな二人を物珍しそうな目で見つめる街行く人々。

「い、いえ、そんな! 俺の方こそ呼んでもらって嬉しかったですし」

慌てた様子でそう答えたトシアキだが、ノエルが先ほどまで行っていたことを思い出した。

「そういえばノエルさん、何してたんですか?」

「はい。 ここの福引券をいただきましたのでせっかくなのでと思いまして」

そう言われて景品の一覧に目を向けたトシアキ。

「えっと・・・・・・五等、お米一キロ。 四等、一か月分の非常食。 三等、商店街お買い物券五万円分」

「はい、その三等を目指して頑張っていたのですが、残念ながら残念賞のアメばかり当たってしまいまして」

手にした棒付きのアメを数個見せながら苦笑いを浮かべたノエル。

「いや、お買いもの券って、すずかん家ってお金持ちじゃないですか」

「はい、確かにそうなのですが、使わないことに越したことはないですので」

「節約ですか・・・・・・ノエルさんって使用人の鑑みたいな人ですね。 よければウチで働いてくれませんか?」

少しでも節約しようと心がけているノエルの話を聞いてそう言ったトシアキ。

「申し訳ありませんが、私には忍お嬢様という立派な主がいますので」

「まぁ、そうですよね。 すみません、変なこと言っちゃって」

話に区切りがついたところでノエルは仕事があるからと先に帰ってしまった。

残されたトシアキは先ほど八百屋のおじさんから貰った福引券を取り出す。

「そういえば俺もさっき貰ったな」

そう言いながら係の人に福引券を手渡す。

「はい、二十枚ですね。 それでは一等目指して頑張ってください!」

笑顔で話す店員の言葉で先ほどの景品一覧の続きに目を向ける。

「三等が商店街お買い物券五万円分だろ、二等が温泉の宿泊券。 一等が海外旅行か」

商店街の福引にしては一等の景品が豪華だと思いつつ、トシアキはガラガラに手を伸ばした。



***



「くそっ、結局全部残念賞かよ」

両手で棒付きのアメを抱えながら商店街を歩くトシアキ。

あの後、ガラガラを回したが全て残念賞で終わってしまったのだ。

「こんなにアメを貰ってもなぁ・・・・・・せっかくだし、食うか」

一本を口に含んでそのまま商店街を歩いていたが、ふと違和感を覚えた。

「・・・・・・人がいない?」

先ほどまで買い物をする主婦や学校帰りの子供、客を集める店員など人の気配で溢れていた商店街が一瞬にして静かになっていたのだ。

「とりあえず、帰るか」

人の気配がなくなったので、トシアキはそのまま空へと上がり自宅へ向けて飛行を開始する。

「やっぱり、飛ぶ方が楽だよなぁ。 ん?」

しばらく飛んでいると前方に見たことのある姿を発見したトシアキ。

「あれは、ザフィーラ?」

まるでトシアキが来るのを待ち構えるかのようにその場で止まっているザフィーラ。

トシアキもその場へ向かって飛んでいく。

「よう、ザフィーラ。 こんな所でなにしてんだ? というか、管理局へ行ったんじゃ?」

「!? 貴様、何故俺の名前を知っている?」

「はっ?」

何度も顔を合わせたことがあり、さらには拳で闘ったこともある相手にそんなことを言われ、トシアキは思わず呆けてしまう。

「それに管理局だと? 我らの存在を知られてしまうわけにはいかないのだ!」

「っと!?」

言葉と共にいきなり拳をトシアキに放ってきたザフィーラ。

「お、おい? 一体どうしたんだよ?」

「貴様には悪いが、この場で消えて貰おう」

「ちょっ!? 待てって!!」

次々と放たれてくる拳を躱しながらトシアキは必死に声をかける。

「むぅ・・・・・・貴様、なかなか出来るな」

「そりゃあ、前に闘った時と拳の軌道が同じだからな」

苦笑いを浮かべて話すトシアキを不快に思ったのか、ザフィーラは今まで見たことのない構えをした。

「本来ならば使いたくなかったがしかたあるまい・・・・・・」

「えっ? 一体何を・・・・・・」

トシアキが初めて見るザフィーラの構えに警戒し、いつでも魔法で防御出来るように備えた。

「縛れ! 鋼のく・・・・・・ぐおぉぉぉ!!?」

何やら技を放とうとしたところでザフィーラの後ろで爆発が起きた。

「な、なんだ?」

トシアキも次々と起こる出来事についていけないまま、呆然と立ちつくす。

「お、俺の身体が・・・・・・」

そして、そんなセリフとともに今までトシアキが闘っていたザフィーラの姿が消えてしまった。

「ざ、ザフィーラが・・・・・・消えた?」

「そう、僕の勝利だ!」

トシアキの独り言に答えるようにしてフェイトの姿をした何者かが上空からゆっくりと降りて来る。

「・・・・・・フェイト?」

「違う! 僕は雷刃の襲撃者。 どうだ、カッコいいだろ!」

雷刃の襲撃者と名乗ったフェイトの姿をした者。

確かによく見ると髪の色が金髪ではなく蒼髪であるし、話し方も少し違う。

「お、おう、確かにカッコいいな。 で、本名は?」

「うん? これが僕の名前だぞ?」

「いやいや、『雷刃の襲撃者』っていうのは異名みたいなものだろ」

トシアキの言葉に雷刃の襲撃者は腕を組み、首を傾げながらトシアキを見つめる。

「わからないか・・・・・・じゃあ、君は何処から来たんだ?」

「僕は欠片から生まれたんだ! それで、消えないように他の欠片を集めてる」

「欠片?」

彼女の言葉にわからない単語があったため、今度はトシアキが首を傾げてしまう。

「それよりキミのそれはなんだい?」

トシアキの両手で抱える棒付きのアメを指差して雷刃の襲撃者はそう言った。

「これか? これはアメと言って・・・・・・食べてみるか?」

説明するのが面倒になったトシアキは試しに一つ与えてみることにした。

「えっ!? いいの!!?」

嬉しそうに微笑みながらトシアキに近づいてくる彼女。

「ほら、これ。 で、包み紙を外して・・・・・・そうそう」

始めてみるかのように、ゆっくりとした動作でアメの包み紙を外す。

「もう、口に入れても大丈夫だぞ。 こんな風にな」

自分の咥えているアメを見せてそう言ったトシアキ。

「ぱくっ・・・・・・・・・おいしぃ!!」

棒付きのアメを咥えた雷刃の襲撃者はそう、叫んで笑顔でトシアキを見つめる。

「そうか、そりゃよかったな」

なんだか手のかかる娘が出来たような気分で、トシアキもつられて笑顔を浮かべる。

「あっ・・・・・・無くなった」

口に含んでいた棒を取り出して、先端を見つめる雷刃の襲撃者。

「噛んだのか。 アメは舐めて味を楽しむ物だぞ」

「うぅ・・・・・・あめ・・・・・・」

噛んでしまったことを後悔しているのか、悲しそうな表情で先が無くなった棒を見つめる。

「仕方ないな。 ほら、これもやるから」

「ホントッ!? ありがとう!!」

トシアキの言葉に一瞬で笑顔になり、棒付きのアメを受けとる彼女。

「それで、これからどうするんだ?」

「へっと、はへらほあつえる」

「・・・・・・口からアメを離して話せ」

何を言ったのかわからなかったトシアキは苦笑しながら再び問いかける。

「えっと、欠片を集める」

「場所はわかってるのか?」

「も、勿論、わかってるよ?」

トシアキの目を見ず、少し言葉を濁しながら答える雷刃の襲撃者。

そんな彼女の様子を見て、何も考えてないと思ったトシアキ。

「・・・・・・ウチに来るか? 色々聞きたいことあるし、アメもあるから」

「ホントッ!? 行く行く!!」

「・・・・・・」

先ほどまで場所がわかっていると言っていたのに、家に来ると素早く返事した彼女に思わず苦笑を浮かべてしまう。

その後、この付近に張られていた結界を解いてもらい、トシアキと雷刃の襲撃者は二人揃って、トシアキの家へと帰ったのである。



***



海鳴市にある高級マンションの最上階。

トシアキたちの家に隣には管理局を退職したグレアムが住んでいた。

この部屋は闇の書事件の際に管理局の臨時作戦本部となっていた場所であり、本局へとつながる転送ポートも存在している。

その転送ポートから仕事を終えたアキ・シキシマが姿を現した。

「ふぅ・・・・・・到着です。 早く、兄様に会いたいです」

そう言いながら部屋を出ると、リビングでリラックスしていたグレアムを発見する。

「おぉ、アキ君。 今帰ったのかね?」

「はい、グレアムさん。 ようやく仕事が片付きました。 あと、例の件も・・・・・・」

「そうかね。 まぁ、詳しくは君の兄君に伝えておきなさい。 私はもう退職した身なのだから」

そう言いながら静かにコーヒーを飲むグレアム。

「わかりました。 ところで師匠たちは?」

「うむ、ロッテはアキ君の家に居るよ。 アリアは・・・・・・」

「と、父様。 ほ、本当にこれで・・・・・・」

話をしていたアキとグレアムのもとへ、噂をしていたアリアが姿を現した。

しかし、その姿はいつもの服装ではなく、かなり短めのスカートに胸元ははっきりと見えるようなメイド服を着ていたのだ。

「・・・・・・師匠、何をやっているのですか?」

いつも真面目なアリアがそんな格好をしているとは思わなかったのか、アキが質問するまでの時間に若干のタイムラグがあった。

「えっ、アキ!? ど、どうしてここに!?」

「ここの家には転送ポートがあるので・・・・・・それで、師匠はどうして?」

「あ、え、その・・・・・・」

アキがいることに気付かなかったアリアは自分の格好を思い出して頬を染め、慌ててもといた部屋へ引っ込んでしまった。

「はっはっはっ! なに、アリアが若い男性が喜ぶ服装を教えてくれと頼むから教えていただけだよ」

「なるほど、そういうことですか。 師匠にもついに好意を寄せる男性が出来たのですね」

どちらかと言うと控え目なアリアにもそんな相手がいたのだと思い、素直に祝福しようと考えるアキ。

「うむ。 どうやらロッテもアリアもトシアキ君・・・・・・君の兄君に好意を寄せているようなのだよ」

グレアムが自分の娘のような二人が同じ男に好意を寄せていることを嬉しそうに話す。

「・・・・・・」

だが、そんな嬉しそうなグレアムとは反対にアキの周囲の温度が五度ほど下がっていく。

「私も先は短い。 どうせなら安心出来る彼に二人を任せたいと・・・・・・」

グレアムもそこまで言ったところで、アキの様子がおかしいことに気付いた。

「そうですか。 あの泥棒猫たちは兄様を・・・・・・」

「う、うむ、アキ君?」

「グレアムさん、急ぎの用を思い出しましたのでこれで失礼します」

呼びかけに気付いたのか、アキが無表情のままグレアムにそう頭を下げ、スタスタと部屋から出て行った。

「・・・・・・」

「父様? アキはどこへ?」

奥の部屋でいつもの服装に着替えたアリアがリビングに居るグレアムにそう話しかける。

「アリア」

「は、はい」

真剣な声色で名前を呼ばれたアリアは緊張した面持ちで返事した。

「トシアキ君を狙うならロッテと二人で協力して命を掛けて狙いなさい」

「はい? えっ? あの、父様?」

それっきりグレアムは静かに目を閉じ、すっかり冷めてしまったコーヒーをゆっくりと飲みほした。

急いで自宅へと戻ったアキは予想していた出来ごとより酷い事態に立ち尽くしていた。

「それでね、それでね! 欠片を早く集めないと僕が消えちゃうんだ」

「そうなのか。 なら、急いで集めないとな」

アキが見たものはフェイトの姿をしている女の子が兄の膝の上に座り背中を預けている様子だった。

「あとね、僕の他に大きな欠片が三つあって」

「ってことは・・・・・・ん? おぉ、アキ! おかえり」

リビングの入り口で立ち尽くしていたアキに気付いたトシアキがそのままの体勢で声をかける。

「た、ただいま戻りました、兄様。 フェイト、あなたは何をやっているのですか?」

トシアキの言葉で我を取り戻したアキはとりあえず挨拶を返し、フェイトの姿をしている彼女にそう言って話しかける。

「違う! 僕はフェイトじゃない! 僕の名は雷刃の襲撃者だ!」

「・・・・・・フェイト、急いで病院へ行きましょう」

自分がいない二日間でここまで義妹が変わってしまったことにショックを受けたアキはそう言って彼女の手を取る。

「離せ! 僕はこれから兄さんと欠片を集めるんだ!」

「髪も蒼色に染めて、一人称は『僕』に・・・・・・そんなに嫌なことがあったのですね」

「いや、違うんだアキ。 実は―――」

とんでもない勘違いをしているアキに苦笑しながら、トシアキは今まで聞いたこと話してやった。

買い物帰りに謎の結界が張られたこと。

今、ここに居るはずのないザフィーラが現れたこと。

そして、フェイトの姿をした雷刃の襲撃者がザフィーラを倒し、欠片を集めていると話したこと。

これらをアキに話したトシアキ。

「そうなのですか。 つまり、兄様はあの雷刃の・・・・・・言い難いですね、名前を変えましょう」

「おいおい、そんなのアイツが認めるか? かなりあの名前、気に入ってるみたいだったぞ?」

その話題の彼女―――雷刃の襲撃者は現在、起きてきた狐姿の久遠とじゃれ合っている。

「問題有りません。 単純でアホのk・・・・・・間違いました。 純粋で素直な彼女なら兄様が言えば納得するかと」

「アキ。 今お前、アホの子とか言いそうになったろ?」

「はい。 思わず本音が出そうになってしまいました」

否定しないアキの言葉にトシアキも苦笑を浮かべるしかない。

「しかし、名前なぁ・・・・・・フェイトの姿で雷刃の襲撃者だろ・・・・・・フェイト、ライジン、ライト・・・・・・」

「それにしましょう」

トシアキの呟く声を聞き取ったアキはそう言って席を立つ。

「雷刃の襲撃者、話があります。 こちらへ来なさい」

「えぇ・・・僕、もう少しのこの子と遊んでいたいなぁ」

「くぅ!」

雷刃の襲撃者の意識がアキにそれた瞬間、久遠は素早くその身を動かし、トシアキのもとへ飛びつく。

「あぁ・・・・・・狐さん」

視線を向けると、久遠がトシアキの膝の上で気持ちよさそうに撫でられていた。

「・・・・・・もう一度言います、雷刃の襲撃者。 兄様から話があります、直ぐに来なさい」

「わかったよ、もう!」

少し不機嫌な様子でトシアキの向かい側に座る雷刃の襲撃者。

アキもトシアキの隣にゆっくりと腰を下ろす。

「話しってなに?」

「あぁ、それがな・・・・・・」

「兄様があなたに名前を与えてくださるそうです」

何も考えていないトシアキの言葉を遮って、アキがそう言って話始める。

「僕の名前は雷刃の襲撃者だって言ったでしょ!」

「話を最後まで聞きなさい。 兄様があなたに『ライト・T・シキシマ』と言う名前をくださるのですよ」

まさかの展開にトシアキも驚いた表情で隣のアキを見つめる。

「だから、僕は・・・・・・」

「『僕の名前はライト・T・シキシマ。 またの名を雷刃の襲撃者』と名乗った方がカッコいいでしょう」

まだ何か言いたそうな雷刃の襲撃者の言葉を遮り、感情を込めた台詞で言い放ったアキ。

「おいおい、いくらなんでもそんなの・・・・・・」

「か、カッコイイ!!!」

アキの台詞を聞いてそんなのありえないとツッコミを入れようとしたトシアキだが、雷刃の襲撃者の大声でかき消されてしまった。

「僕の名前はライト・T・シキシマ。 またの名を雷刃の襲撃者!」

早速、教えて貰った通りに言い放つ雷刃の襲撃者―――ライト。

「強いよ! 凄いよ! カッコイイよ! 兄さん!」

瞳をキラキラと輝かし、トシアキに向かって飛びつくライト。

ちなみに久遠はいち早く危険を察知し、トシアキの膝の上から逃げ出していた。

「そ、そうか? まぁ、気に入ったんならそれで・・・・・・」

そこまで言って隣を見たトシアキだが、既にアキの姿は無かった。

「アキ?」

部屋を見渡してみたが、やはりアキの姿は見つからなかった。

しかし、アキには考えがあるのだろうと思い、トシアキはじゃれ付いてくるライトの対処に意識を傾けるのであった。



~おまけ~


ライトがトシアキに尊敬の眼差しを向けたときからアキは既に行動を開始していた。

「なるほど。 彼女は闇の書の防衛プログラムの生き残りですか」

グレアムの家に転送ポートがあるように、前回の事件の時に使用された機材までそのままにしていたのだ。

その機材を使い、トシアキが結界に巻き込まれた時間帯に発生していた魔力反応を調べていたのだ。

「上手くいけば兄様の為になりますね」

アリアやロッテ、久遠などと強力なメンバーがいるが人数が少ない。

トシアキの考えている計画を実行するためには信用できる人員が必要なのだ。

「それも、兄様の言うことだけを聞く人物が望ましいですね」

先ほど、密かにデバイスで記録したライトのデータを機材に入れ、色々と調べていくアキ。

「これが彼女のリンカーコア。 思ったより小さいですね」

あれこれと機材の前で考えていたが、自分一人では限度がある。

「本人たちに聞くのが一番早いですかね」

そう言って、アキは目の前の機材を使い、アースラへと連絡を取る。

「地球在勤のアキ・シキシマです。 アースラ艦長、リンディ提督とクロノ執務官に繋いでください」

そして、ここから闇の書の防衛プログラムの欠片事件、通称『マテリアル事件』が始まっていくのであった。



~~あとがき~~


あけてしまいました今年、どうぞよろしくお願いします。
久しぶりの更新でもう覚えていないかもしれませんが、そんなときはもう一度読み直してくださいww

これからいよいよマテリアル編へと突入です。
Sts編に行くのはいつになるのやら・・・・・・

感想や意見、誤字の指摘などいつでも待っていますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは、次回も読んでくれた皆さまが来てくれることを願って・・・・・・
また会いましょう!



[9239] 第三十五話
Name: T&G◆d394b2f8 ID:00b868e9
Date: 2011/01/15 22:42
「と、言うわけなので、師匠たちにも手伝ってほしいんです」

グレアム家のリビングで珍しく揃ったリーゼ姉妹を前にアキはそう言った。

「いや、いきなり言われても内容も聞かずに答えることなんてできないよ」

珍しく揃ったというのは、リーゼ姉妹は普段、交代でトシアキの家にいるからである。

「そうよ、アキ。 状況くらい説明してくれないかしら?」

突然呼び出されたロッテは不機嫌そうな表情で答え、アリアも事情がわからないため返答出来ないでいた。

特に、トシアキのベッドで気持ちよく昼寝をしていたロッテは機嫌がかなり悪い。

「今、兄様と共にいる彼女――ライトは闇の書の防衛プログラムの残滓です」

「・・・・・・詳しく聞かせて貰えるかね?」

リーゼ姉妹の中央に座り、今まで黙っていたグレアムがアキの言葉を聞いて真剣な表情でそう尋ねる。

「詳しい結論はまだ出ていませんが、アルカンシェルで消滅させる前に地球に残った残滓が再生機能によって現れたと考えています」

「ふむ・・・・・・トシアキ君が言っていたことが現実になったか」

「? 兄様が何か言っていたのですか?」

防衛プログラムを消滅させたあと、アキは補佐官に連れて行かれたためトシアキたちの会話を聞いていないのだ。

「フェイト君たちの攻撃でコアに罅が出来て、一部が散らばったと言っていたのだよ」

「なるほど。 闇の書の魔力反応が同じなのはそれが理由ですか」

「うむ。 おそらく、その散らばった欠片がコアとなって彼女・・・ライト君と言ったかな、が現れたのだろう」

頭の回転が速いアキと、長年の経験を持っているグレアムが次々と意見を交わしていく。

「じゃあ、父様。 今、トシアキの傍に闇の書の防衛プログラムがいるってことですよね?」

「っ!? 大変じゃん! 早く助けに行かないと!」

隣で話を聞いていたアリアが結論を言い、それに反応したロッテが慌てて部屋を出て行こうとする。

「待ちなさい、ロッテ」

「でも、父様! トシアキが!」

静かな、けれども威厳のあるグレアムの声がロッテを引き留める。

ロッテもつい先日戦った闇の書の防衛プログラムの恐ろしさを知っているため、慌てているのが理解できる。

「トシアキ君は無事だ。 アキ君がここに居ることが何よりの証明と言えるだろう」

「そうですよ、師匠。 兄様に危険が少しでもあるなら私は傍を離れません」

グレアムとアキにそう言われ、少し落ち着きを取り戻したのか、ロッテは再びもとの位置に座る。

「ごめんなさい、あたしったらてっきり・・・・・・」

本来なら自分がトシアキの家にいる時間帯であるため、トシアキに何かあったらと考えると落ち着くことが出来なかったのだ。

「気持ちはわかるわ、ロッテ。 今や彼は私たちのトップ、何かあったら困るものね」

「問題ありません。 兄様の傍には久遠、それにアルフも付いています」

もっともアルフはフェイトの部屋で寝ていますが、と付け加えるアキ。

「それでは本題に戻るが、アキ君。 君はリーゼに何を頼みたいのだね?」

ロッテも落ち着き、話の区切りがついたところでグレアムは本題に入る。

「おそらく、兄様が予想したとおりに防衛プログラムの欠片が散らばっているでしょう」

「そうね、アキや父様の話を聞いてるとそう思うわ」

アキの言葉に同意するように頷くアリア。

「そこで、師匠たちには散らばった欠片を集めて欲しいのです」

「欠片を集める? そんなことが可能なの?」

欠片がコアとなってライトという存在が現れているのにそれらを集めることなんて出来るのか、とロッテは問いかける。

「厳密に言えば不可能です。 ですが、ライトのように会話が成立すれば集める・・・連れて来ることが出来るでしょう」

「・・・・・・確かに、その考えかたなら可能だろう。 しかし、会話が成立するのかね?」

「そこで見てほしいのがコレです」

そう言ってアキがポケットから取り出した電子機器を机の上に置く。

「ここにはライトのデータが簡単に載っているのですが・・・・・・」

「あれ? この子、リンカーコアの魔力が少ない?」

データを見ていたアリアがふと気付いたように呟く。

「その通りです師匠。 彼女は散らばった欠片の一部で存在しています」

「だから、素となる魔力が少ないんだね」

「そして、彼女はこう言ってました・・・・・・『欠片を集めないと消える』」

アキの最後の言葉を聞いた瞬間、話を聞いていた三人は驚きをあらわにする。

「ということは、防衛プログラムの再生機能は無くなっている?」

「だけどさっき、再生機能によって復活したって言ってたわよ?」

「そこです」

ロッテとアリアの会話を聞いて二人に視線を向けながら頷いた。

「おそらく、再生機能を使用するにあたって膨大な魔力が必要だと推測します」

「ふむ、つまりアキ君は欠片から姿を変えたのはいいが、魔力が足りないため他の欠片を集めようとしている、と考えているのかね?」

「さすが、グレアムさん。 話が早くて助かります」

アキが考えていることを言いあてたのか、グレアムの答えに満足そうに微笑んで頷くアキ。

「と、なると確かにさっき言ってたことが可能になるわね」

「えっ? えっ? どういうこと??」

グレアムの言葉を聞いてアリアも理解したのか、先ほどの本題へと頭を切り替えた。

ただ、ロッテはよくわかっていないのか、アキやグレアムの顔を見比べて首を傾げている。

「つまり、魔力を欲しているなら用意してやればいいのよ」

「そうすれば、欠片・・・・・・ライトのような存在たちを連れて来ることが出来ます」

ロッテにわかりやすく説明するアリアとアキ。

「しかし、魔力を与えるなど・・・・・・そんなことが出来るのかね?」

「一応、心当たりは有ります。 しかし、問題は魔力を与えた後です」

先ほどの満足そうな表情から一転して、真剣な表情をつくったアキ。

「後?」

「はい。 私が欲しているのは信用できる仲間。 さて、手段を選ばず魔力を集めようとしているモノが思った通りに行動してくれるでしょうか」

「「あっ」」

アキの言葉にロッテとアリアが気付いたように揃って声を上げた。

「私は兄様の為に人員を集めようと思っています。 しかし、兄様の指示に従えないモノははっきり言って邪魔でしかありません」

「「・・・・・・」」

「この際だから師匠たちにも聞いておきますが、あなたたちは兄様が指示したことを何の感情も疑問も持たず、実行できますか?」

兄であるトシアキのことを最優先で考えているアキの言葉にしばらく考え込んでしまうアリアとロッテ。

「出来ないのなら構いません。 この話はなかったことにしても問題有りませんので」

「・・・・・・私には聞かなくてもいいのかね?」

娘のようなリーゼ姉妹が黙ったままなのを気にしてか、グレアムがそう言ってアキに問い掛ける。

「グレアムさんは既に兄様と話をしているのでしょう? ですから何の問題もありません」

何がどう問題ないのか、グレアムにはわからなかったが、アキはそれで話を終了してしまった。

「ちなみに先ほど言った条件に当てはまるのは現在では、私と久遠のみですね」

「・・・・・・フェイトって子は違うのかい?」

「フェイトはまだダメですね。 もしかしたらリンディ提督やクロノ執務官と同じような思考になる可能性があります」

義妹でも容赦なく切り捨てたアキの言葉に二人は覚悟を決めた。

「わかった。 私はトシアキの指示に従う」

「同じくあたしも」

アリアとロッテは真剣な表情でアキを見つめ、トシアキに従うことを誓った。

「わかりました。 では早速ですが、グレアムさんを二人で殺してください」

まるで、買い物にでも行って来てくれというような軽い感じで言い放ったアキ。

「なっ!?」

「えっ!?」

「・・・・・・」

驚きをあらわにしたアリアと戸惑いの声をだしたロッテ。

そして、目を閉じたまま沈黙するグレアム。

「兄様の命令です。 早く実行してください、師匠」

「そ、そんな・・・・・・」

「う、うそ・・・・・・」

いつも通りの無表情で淡々と話すアキに顔を真っ青にして震えるアリアとロッテ。

それからアリアとロッテが静かに立ち上がり、魔法陣を組み上げていく。

「・・・・・・」

そんな二人に対してグレアムはやはり目を閉じたまま動かない。

「さぁ、早くしなさい! リーゼ・ロッテ! リーゼ・アリア!」

「「っ!?」」

アキの怒鳴り声にビクリと身体を震わすリーゼ姉妹。

しかし、結局魔法は放たれることなく、その場に二人とも座り込んでしまった。

「ごめん、アキ。 それはできない・・・・・・」

「私たちにとって父様は大切な人なんだ・・・・・・」

「合格です」

俯いて謝罪の言葉を紡ぎだす二人にいつもと変わらぬ口調でそう言ったアキ。

「「えっ!?」」

「ですから、合格です。 師匠たちは晴れて私たちの仲間ということです」

先ほど怒鳴り声を上げたとは思えないほど、落ち着いた声色のアキに二人は未だにその場から動けずにいた。

「では、先ほどの話の続きですが・・・・・・」

「ち、ちょっと待って! なんで合格なの!? あたしたち結局何も出来なかったんだよ?」

「そうよ、アキ。 一体、どうして・・・・・・」

何事もなかったかのようにグレアムと話始めようとしたアキに猫姉妹は慌てて詰め寄る。

「私は兄様の指示に従ってくれればいいんです。 私の指示はたとえ兄様が言ったと発言していても従わなくても問題有りません」

「そ、そういうことだったのね」

「ですが、兄様の口から先ほどのような指示が出た場合、実行しなくてはなりませんよ?」

もっとも、兄様はそんなことを言う人ではありませんが、と無表情のまま付け加えた。

「き、肝に銘じておくわ」

「が、頑張ります」

額に汗を浮かびながら頷くアリアとロッテ。

これで正式な組織のメンバーが増えたとアキは心の中で考える。

「何度も話が飛んでしまいましたが、魔力を与える相手は兄様が話して決めます」

「ん、了解」

決まった方針に頷いて了解するロッテ。

「話が通じなかったり、魔力量がライトより低ければ連絡せずに消してください」

「わかったわ」

いつもの調子を取り戻したのか、アリアも頷いて答える。

「兄様は念話が使えないので、連絡を取る場合はこの部屋にある機材でお願いします」

「うむ、了解した」

最後にグレアムが頷きかえして、アキは話の締めに入る。

「おそらく、この街のあちこちで欠片が動き出し、結界が発生するでしょう。 この部屋の警報がなるので、そうなったら・・・・・・」

アキがそこまで言ったところで、室内に警報が鳴り響く。

「結界が発生したようですね。 師匠たちは現地へ飛んでください」

「「了解」」

ロッテとアリアはベランダの窓を開け放ち、そこからそれぞれの方向へと飛んで行った。

「グレアムさんは機材を使い、師匠たちに指示をお願いします」

「・・・・・・アキ君」

そう言って出て行こうとしたアキを呼びとめるグレアム。

「先ほどの試験のようなやり取り、本当に必要だったのかね?」

「・・・・・・」

「私にはトシアキ君を優先しすぎている君が心配なのだよ。 リーゼは何も言わなかったが、アキ君に・・・・・・」

「グレアムさん、あとはお願いします」

呼びとめられたアキは結局、グレアムの言葉を最後まで聞かないまま部屋を出て行ってしまった。

言葉を遮られたグレアムは心配そうな眼差しでアキが出て行った扉を見つめ続けるのだった。



***



グレアム家で警報が鳴り響いたころ、トシアキの膝を枕に眠っていたライトは突然、目をあけて起き上がった。

「ん? どうした?」

「大きな欠片が近くにいる」

静かにそれだけ言ったライトはスタスタとベランダに近づく。

「待てって、ライト。 俺も手伝うって言ったろ?」

「うん・・・・・・ありがとう」

引き留められたライトの表情は少し嬉しそうであった。

「それに寝癖、ついてんぞ」

そう言ってライトに近づき、頭の上をポンポン叩くトシアキ。

「あわわ・・・・・・今のナシ! 今のナシだからね!」

「わかったよ」

何がナシなのかよくわからなかったトシアキだが、とりあえず微笑みながら頷いておく。

「兄様」

ベランダの前で騒いでいるといつの間にか戻ってきたのか、アキがすぐ後ろに立っていた。

「おう、アキ。 ・・・・・・どうかしたのか?」

いつもの表情や雰囲気が違うことを感じたトシアキが首を傾げながら尋ねる。

「・・・・・・」

アキは無言のままトシアキの胸に顔にうずくめて次の行動を起こさない。

そして、しばらくそんな時間が続いた。

「アキ?」

「なんでもありません、兄様。 大切な時間を割いてしまい申し訳ありません」

満足したのか、再び見たときのアキはいつもと同じであった。

そして、些細なことにさえ頭を下げてくるアキ。

「俺たち家族だろ? そんなこと気にするな」

「はい、兄様」

トシアキとアキが兄妹で会話しているうちにさっきまでいたライトが既にその場から消えていた。

「まったく・・・・・・慌ただしい奴だな」

「兄様、場所なら私がわかります。 一緒に行きましょう」

アキもそう言ってベランダへと飛び出し、トシアキの方へ振り返る。

「じゃあ、案内頼むな。 アキ」

「はい!」

トシアキの言葉に自分が必要とされていることを実感できたためか、アキは嬉しそうに微笑みながら返事をした。

そして、二人が現場に向かっているときに辺りの景色が変化したのを感じ取った。

「結界か。 ということは近いな」

「はい、すぐ近くに魔力反応を感じます」

そうこう話しているうちに視線の先にライトと黒い服を着た人物が向かい合っているのを見つけた。

「あれだな」

そう言いながらゆっくり近づいていくトシアキとアキ。

「僕の名前はライト・T・シキシマ! またの名を雷刃の襲撃者! どうだ、カッコイイだろ!!」

自分のデバイスであるバルニフィカスを相手に向け、アキに教えて貰った通りに言い放ったライト。

しかし、先ほどの寝癖がピョンっとはねており、色々と台無しになっている。

「・・・・・・『力』の欠片。 あなたは何をやっているのですか」

「僕は欠片を集める! そして、その力で僕は飛ぶんだ!!」

「なるほど。 欠片としての本質を見失っているわけではないのですね」

黒い服を着た人物――ショートカットの女の子がそう言ってデバイスを構える。

その姿はどことなく高町なのはに似ているようにトシアキには感じられた。

「さて、戦闘が始まるみたいだし、ライトに加勢するかな」

「ちょっと待ってください、兄様」

なのはの姿をした少女とライトが戦いを始めようとしているのを見て、トシアキは約束通り手伝おうとする。

「ん? どうかしたのか?」

そんなトシアキは自分の行動を止めたアキに視線を向け、首を傾げる。

「ライトと相対している彼女・・・・・・もしかしたら、仲間になってくれるかもしれません」

「仲間って、俺たちが新しく作ろうとしている組織のことか?」

「はい。 話が通じる彼女なら大丈夫かと」

しばらく考えていたトシアキだが、アキがそこまで考えているならと任せてみることにした。

「わかった」

頷いたトシアキはその空間で静止し、様子見をすることに決めたようである。

トシアキの許可が出たのを確認したアキはライトの隣へ近づいていく。

「『理』のキミには悪いけど、僕は僕の為に欠片をもらうよ!」

「望むところです。 私もこの世界に長くいるため、あなたの欠片を貰います」

いかにも戦い始めそうな二人の間に入り、アキは不意打ちで二人にバインドを仕掛ける。

「申し訳ありませんがライト、少し大人しくしていてください」

「なんでぇーーー!?」

「んじゃ、こっちで待ってようか」

アキのバインドは蜘蛛の巣のように全身を絡め取るタイプであるため、トシアキがそのままライトを引っ張って行った。

「・・・・・・さて、あなたの名前を聞いておきましょう」

「あなたには先ほども自己紹介をしたばかりですが、まぁ、構わないでしょう」

なのはの姿をした少女の言葉に理解できない部分があったが、アキは無視して話を聞く。

「私の名前は『星光の殲滅者』。 また会いましたね、『漆黒の暗殺者』」

そして、なのはの姿をした少女――星光の殲滅者の言葉を聞いて、アキは驚いて目を見開くのであった。



~おまけ~


グレアムの言葉を最後まで聞かず、家を出たアキは扉を背にしてしばらく立ち止まっていた。

「・・・・・・仕方ないじゃないですか、私には兄様しかいないんですから」

小さい頃から魔法が使えなかったアキは父親や母親、城に仕える人々や城下の住人たちから腫れものを見るような視線を浴び続けていたのだ。

「そう、私は兄様に嫌われたくない、捨てられたくない、見捨てられたくない」

そんな中で唯一の救いだったのは実の兄であるトシアキであった。

彼だけは自分が魔法を使えなくても妹として可愛がってくれた。

「・・・・・・母様には娘じゃない、とも言われましたからね」

悲しそうは表情でそう言ったアキは自分の住む部屋までの数メートルの距離をゆっくり歩いて行く。

「あの人たちも結局、私のことを『敷島アキ』としては見てくれませんでしたね」

自分の国での反乱で最後に言葉を交わした近衛兵たちを思い出すアキ。

「兄様がいるときから話をしていたら、私も少しは変わってたでしょうか?」

誰もいない通路でアキの独り言が静かに響く。

そして、自分の家の扉を開けたアキはベランダの窓にいるトシアキを見つける。

「兄様」

過ぎてしまったことを考えるのを辞め、アキは今そばにいるトシアキにしばらくの間しがみ付くのであった。

それは、遠い昔に味わうことのできなかった家族の温もりを知りたかったからかもしれない。



~~あとがき~~


魔法使いと魔法少女、マテリアル編始まります。
というわけで始めましたマテリアル編。

マテ子たちの日常会話がゲームではないため半分以上は私の想像で書いています。
他の方のイメージを壊してしまったのならごめんなさい。

今まではマテリアル編の設定や話に矛盾がでないように考えていたため更新出来ませんでしたが、これからは更新していきますw
(けど、なのはゲームの第二弾があるとか・・・・・・今更新キャラを加えることなんてできないorz)

まぁ、様子を見て入れれそうなら入れてみますw
原作キャラは多い方が楽しめますしねw

では次回も見ていただけることを願って・・・・・・
それではまた会いましょうww


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
8.00864911079