研究発表G

 

高専低学年生の英語多読指導に関する一考察 ―読解能力と学習意欲の育成を求めてー

 

長野高専   吉野康子

 

 国際交流がさかんで、リスニング、スピーキング重視の傾向が強い今日だが、受信できなければ発信できない点からも、リーディングは大切である。経済や情報科学技術の進展に伴い、人的、物的交流が増大しているが、中でもe-mailやインターネットなどの、書き言葉の情報が多く、的確に理解する力が必要となっている。多読(extensive reading)は、多くの英文に接し、そこに書かれている内容の概要や要点を効率よく理解する読み方で、現在の情報化社会に適している。また多読は英語を読む抵抗感をなくし、自分にも英語が読めるのだという自信をもたせてくれる動機付けとなる。量不足の面からも多読は必要である。精読一辺倒の場合、接する英語の分量が少なく、多量のinputを与え、運用能力を高めていく強力な基盤を築く必要がある。

多読の理論的背景を認知的処理から見ると、自動的単語認知力が必要で、多くの活字に触れる多読が最良の方法であるという。また「読む」という作業には、高度な認知活動が必要で、ワーキングメモリの機能の重要性の点からも考察した。多読においての利点は認められても、日本での多読の実践的研究は比較的少ない。1990年代からの主要な実践をまとめ、その傾向、成果と課題を考察した上で、高専での多読実践に最適な方法を考案した。

 本研究発表では、長野高専で行った多読の指導実践を報告する。45分週1回12週間を多読の実践につかった。多読を始めるにあたり、段階別教本(Graded Readers)を3レベルに分け、初級(語彙レベル1000語以下)の本を229冊、中級(語彙レベル1000〜1500)の本を139冊、上級(語彙レベル1500以上)の本を58冊、検定済教科書英語Tの本50冊と合わせて、合計476冊そろえた。第1週〜第6週までは、Introduction、Scanning、未知語の推測、Phrase Reading、Paragraph Reading、Skimmingの順で読解ストラテジーの説明、練習にあて第7週から多読の実践に取り組んだ。実践前後には、学生の読解能力をはかるためテスト、学生の意識変化をはかるアンケートを実施し、比較検討した。以上の実践結果をもとに、1)教材、2)指導法、指導過程、3)読解能力の変化、4)学習意欲の変化、に関して考察し、本研究の応用性や今後の課題についても言及したい。