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2011年1月17日(月)付

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温暖化防止―まず国内対策の羅針盤を

京都議定書に続く地球温暖化防止の枠組みづくりが、ことしは国際交渉で正念場を迎える。日本の国内対策にとっても重要な年である。今月からの通常国会で地球温暖化対策基本法を成立[記事全文]

震災疎開―「第二の故郷」をつくろう

きょうで16年を迎える阪神大震災で家を失った被災者のうち、約12万人は県外に避難し、住み慣れた土地から離れて暮らした。そうした震災による疎開では、行政の支援策や住宅募集[記事全文]

温暖化防止―まず国内対策の羅針盤を

 京都議定書に続く地球温暖化防止の枠組みづくりが、ことしは国際交渉で正念場を迎える。日本の国内対策にとっても重要な年である。

 今月からの通常国会で地球温暖化対策基本法を成立させる必要があることを、政府・与党だけでなく野党も認識してもらいたい。

 この法案は「主要国の参加」という条件付きだが野心的な「2020年までに25%削減」を目標に掲げた。国内排出量取引、環境税、自然エネルギー買い取りを3点セットとして導入を明記している。これらを用いて温室効果ガスを減らすだけでなく、環境技術を育て、新しい成長、輸出分野に育てようというものだ。

 鳩山政権下で一度は衆院を通過したが、首相退陣などの混乱の中で廃案になり、再度国会に提出された。ところが、残念なことに、最近は停滞が目立つ。政府は排出量取引を具体化する法案の作成を中断してしまった。「大口の排出者」の負担に配慮したためで、他の2政策についても「負担の軽減、限定」を言い出した。

 京都議定書後の国際規制づくりがうまく進んでいないことも背景にある。産業界は、3点セットを導入すれば日本だけが苦しむ「負担3点セット」になると反発してきた。

 しかし、昨年12月の交渉会議(COP16)では事前の予想を大きく上回る「カンクン合意採択」という進展があった。合意は「2013年以降も空白期なしで国際規制を続けよう」と呼びかけ、途上国の削減行動の検証や資金援助の仕組みを具体的に決めた。

 米国や中国が参加する新しい枠組みの創設は当面、難しい状況だが、それでもカンクン合意は今年のCOP17へ希望をつないだ。

 日本は国際社会のこうした意思を受け止めつつ、国内対策を進めていかねばならない。

 そもそも、国際交渉に浮き沈みがあっても、世界が低炭素社会に向かう流れは止まらないという認識が必要だ。国内の税制について環境に優しい仕組みにする「グリーン化」を急ぐとともに、自然エネルギーなど環境技術と新産業を育て、雇用創出につなげたい。太陽光発電施設や次世代エコカーなどさまざまな新製品を世界市場に売る構想も描かねばならない。

 それらがあいまいなままでは、世界の技術競争で後れをとる。

 いま日本に必要なのは、13年以降の温暖化政策の羅針盤となる国家戦略である。それが企業の投資意欲を引き出す上でも大きな力となる。

 基本法とともに環境税や、自然エネルギーの買い取り制度の法律も通し、削減を進める大きな仕組みをスタートさせれば、国際交渉にも良い影響を与えることになるだろう。

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震災疎開―「第二の故郷」をつくろう

 きょうで16年を迎える阪神大震災で家を失った被災者のうち、約12万人は県外に避難し、住み慣れた土地から離れて暮らした。

 そうした震災による疎開では、行政の支援策や住宅募集の情報が疎開先に届かず、ふるさとに戻るきっかけを失った人も少なくない。

 直下型の地震が首都を襲えば、事態はより深刻だ。最も大きな被害想定によると、85万棟が全壊する。

 身寄りを頼って疎開する人は91万人と見込まれる。一方で、被災地にとどまって避難所に身を寄せる人は、地震の1カ月後でも270万人にのぼるとみられる。

 国の中央防災会議は、避難所で暮らす人たちが疎開できる態勢づくりを提言している。避難所暮らしが長引けば、疲労とストレスで体調を崩しかねず、救援物資の不足も心配なためだ。

 しかし、疎開先のあてがない人も多いだろう。突然知らない土地で暮らすのは不安だ。とすれば疎開を受け入れてくれる地域とふだんから交流し、顔のみえる関係を築いておけば心強い。

 52年前の伊勢湾台風では学校区ごとに住民がまとまって疎開し、コミュニティーの分断を防いだという。そんな過去の被災体験を生かしたい。

 災害時に被災者を受け入れる施策を準備する地域も出てきている。

 鳥取県の山間のまち、智頭町は来月から「疎開保険」を募集する。掛け金は1人年1万円。災害時には疎開地として1週間の宿泊先と食事を提供する。災害がなければ、農作物など町の特産品を加入者に届ける。

 ガイドが森を案内し、森林セラピーを体験してもらう疎開ツアーを町は企画している。交流が生まれたら地域経済も潤い、都会っ子には自然に触れるよい機会になる。

 中越地震で大きな被害を受けた新潟県は、首都圏から100万人の被災者を受け入れる「防災グリーンツーリズム」を進めている。都会の人たちに農村を体験してもらうことで交流を深め、大地震が起きれば「第二の故郷」としてその人たちに来てもらう。

 疎開した人に被災自治体からの支援策が確実に伝わる窓口をつくり、態勢づくりのモデルにしてほしい。

 震度7の激震に見舞われた旧川口町の荒谷集落は、中越地震から3年後の2007年に東京都墨田区の京島地区と交流を始めた。東京で最も建物倒壊の危険度が高い木造住宅密集地域だ。

 その京島の住民らが山菜採りに荒谷を訪ね、荒谷からは農作物をもって京島の文化祭にやってきた。

 荒谷集落の宮日出男さん(70)は「復興でお世話になった都会の人たちに恩返しをしたい。東京で地震が起きたら、疎開してきてほしい」と話す。

 絆を培い、大地震に備えたい。

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