クールジャパンの大舞台の東京国際アニメフェアが分裂の危機だ。漫画やアニメの性描写をめぐる東京都条例の改正が参加企業の不信と怒りを招いたからだ。世界が注目する夢と希望を大切に。
今年十周年の東京国際アニメフェアは三月二十四〜二十七日、都内の東京ビッグサイトで開かれる。世界最大のアニメ見本市とうたわれ、昨年は国内外から最多の十三万二千人余りが訪れ、商談を進めたり作品を楽しんだりした。
ホームページには今、実行委員長の石原慎太郎知事と事務局長を務める日本動画協会の松谷孝征名誉理事が、それぞれ十周年の節目を祝う挨拶(あいさつ)文を載せている。だが松谷氏の心中は穏やかではないだろう。
漫画やアニメの担い手が打ちそろって反対を唱える中、性描写のありようによって作品の販売を制限する都条例の改正案が昨年十二月の都議会で可決、成立した。アニメフェアの運営責任を負う日本動画協会は改正に遺憾の意を表明した立場だからだ。
しかも、漫画家やアニメ制作者の言い分に耳を傾けようとしない石原知事の姿勢は不誠実だとして、影響力の大きい出版大手十社が参加を取りやめた。国際的に定評のあるアニメフェアが画竜点睛を欠くような事態に陥れば、ファンらの期待に応えるのは難しい。残念でならない。
衝撃的なのは、撤退の音頭を取った形の角川書店と有志企業がアニメフェアに対抗するかのように、アニメコンテンツエキスポと銘打った同様のイベントを日程の重なる三月二十六〜二十七日、千葉県の幕張メッセで開くことだ。
担当者によれば、アニメフェアの実績は高く評価しているが、石原知事が実行委員長を務める限り、表現者として賛同し行動を共にできないとの考えという。やむにやまれぬ思いからのようだ。
石原知事は「条例改正を理由に来ないんだったら来なくて結構だよ」と切って捨てる。しかし、世界に誇るアニメ文化産業をもり立てなければならないはずの首都東京のトップとして、また作家という同じ表現者として歩み寄ることを厭(いと)うべきではない。
アニメフェアとの断絶に動いた企業は振り上げた拳を下ろす方途を探ってほしい。松谷氏は挨拶文で「アニメーションには、子供たちに夢と希望、そして素晴らしい未来を提供する力があると信じています」と記している。その力を損ねてはいけない。
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