毎日新聞宇都宮支局は14日に、大田原赤十字病院でチャリティーコンサートを開きました。今回が2回目で、一昨年12月、前任の支局長が初めて開いた催しです。小児がんの患者の取材を長く続けていたので、「病院に入院している子どもさんや患者さんを励まそう」という目的でした。
私も医学・医療を長く取材していたので、昨年4月に着任した際の引き継ぎで、趣旨にはすぐ賛同し、準備を進めました。しかし、資金、出演者など難題が続出。特に、折り合いのついた出演者から「海外出張が突然入り難しくなった」と連絡を受けたときは、開催をほぼ諦めました。
では、なぜ続けたのか。それは本来の目的のためというよりも、前任者が始め、好評だった催しを自分がやめるわけにはいかないという個人のメンツでした。
思案に暮れていたとき、急きょ出演を引き受けてくれたのが、宇都宮大で音楽を専攻する1~3年生の学生グループ「虹色の夢」の皆さんです。わずかな時間で、脚本をつくり、編曲も手がけた創作音楽劇を初披露。劇中では、自分たちが専攻するトロンボーン、バイオリン、クラリネット、ファゴットなど、ふだん生の音をあまり聞けない楽器による独奏もあり、出演料の全額を病院に寄付してくれました。
終演のとき、車いすに乗ったおばあさんが手を合わせていました。付き添いの方が「言葉がうまく話せないので、体で感謝を表現しているのですよ」と説明してくれました。出演した学生さんからも「こんなチャンスを与えてくれてうれしかったです」と感謝されました。
私は本当にやってよかったと思いました。その一方、情けなさもこみ上げてきたのです。「本来の目的は何だったのか。自分は原点を見失っていたのではないか」と。新しい年の初めに、いい経験をさせてもらいました。感謝しています。【宇都宮支局長・吉川学】
毎日新聞 2011年1月17日 地方版