このページの本文へ
ここから本文です

──しかし普通は、スピードを出した分だけ、目的地に早く到着するだろうと考えますが…。

平沢: そもそも都市生活で、クルマはスピードを出せば出すほど早く目的地に着くというのは錯覚なんです。

2台のクルマを使って、郊外から都心に向かう国道を違うスピードで走らせたらどうなるか、という実験をしたことがあります。1台はどんどん追い抜いていく。もう1台は後続のクルマを“詰まらせない”ように注意して、できるだけ最後尾に位置するように上手にコントロールをしながら運転していくんです。

遅い方のクルマは最初のうちはどんどん抜かれていくんですが、必ず信号3つか、4つ先で追い抜いていったクルマに追いつくんですよ。その間、スピードを上げてはブレーキをかけて止まるという動作を繰り返したクルマと、遅いクルマとの間では、燃費がかなり違ってしまいますよね。

実は、それが高速道路であっても、事情はそうたいして変わらない。時速100kmで走ろうが、80kmで走ろうが、途中で他のクルマが全くなく、どこまでもスピードを変えなくて目的地まで走れる状況でもない限り、到着する時間は10分も違わない。これはもちろん、運転距離によっても異なりますよ。

高速道路から都心の首都高速道路に入ったときに、私をものすごいスピードで追い抜いていったクルマと、首都高速道路の出口で会ったりするんですよね。それには相手もショックだったろうけど、私もショックでした(笑)。

ミュージシャン 平沢 進 氏

ミュージシャン 平沢 進 氏。自転車用のハブダイナモ(車軸に取り付ける発電機)を利用した自作楽器「Graviton」の前にて。回転板を回して発電した電力をチャージし、パネル型のMIDIシンセサイザーに電源を供給する。ちなみに、Graviton(グラビトン)とは、物理学において重力という力の間に介在すると考えられている素粒子「重力子」のこと(ただし今のところ、重力子は確認されていない)。

──既にそうしたことに気付いていながら、実践するのは苦痛や忍耐が伴うのでやりたくない、なんていう人も多いかもしれません。また、何かに焦っている場合など、頭では分かっているけど、思わずアクセルを踏み込んでしまう人もいるでしょう。

平沢: そう。でもね、発想を変えると、それは楽しみになるし、お望みならちょっとした優越感も手に入れることができます。

例えば、道路状況を読みつつアクセル・ワークをするとか、エンジンの音を聞きながら、摩擦によって慣性を殺さず、ちょうどいいぎりぎりのとこでエンジンの回転を維持するといったテクニックには、体得する喜びがあるんですよ。

スピードを出す快感は確かにありますが、そうじゃなくて、ゆっくり緊張感なしにリラックスしながら走る快感。あるいは考え事をしながらでも安全に走れる快感。あるいは抜いていったクルマにあとで追いついて「どうだ!」と思う快感……。そういうものを総合的にドライビング・テクニックに組み入れたり、走る面白さに取り込んだりしながら、高速道路でのアクセル・ワークというのを私は工夫して体得したんですね。

今では1リッター当たり平均24kmから26kmの燃費を維持しています。以前は時速70kmから80kmのスピードで出していた燃費を、今では100kmでも出せるようになりました。ハイブリッド・カーでも、高速道路での走行はガソリンエンジンだけで走ることになるのですが、上手にやると1リッター当たり平均30kmの燃費とかって、平気で出るんですよ。

だから、こういうドライビング・テクニックを習得すれば、ガソリン車でもハイブリッド・カーと同等の燃費をかせげるんじゃないかと、私はほぼ確信しています。実際、フォルクスワーゲンゴルフで、燃費30kmを出したという話を知人から聞いたことがあります。

──同じルートを走るとき、「今日はブレーキ何回で行けた」とかって記録を目指すだけでも面白そうですね。

平沢: そうそう。それは楽しいと思うし。「自分は常に最後尾を走るのだ」って考えも清々しいですよ。誰にも追われてないっていう開放感があります。

ただ、迷惑をかけずに最後尾を走るにはコツがあって、まず信号の通過を上手にコントロールする必要がある。青色から黄色、そして赤色に変わっていく微妙なタイミングで信号を通過するようにすると、あとのクルマはその信号で停止して、結果的に自分のクルマは最後尾になり、悠々と走れるわけです。いい気分ですよ。

しかしうまくやらないと、信号前で後続車の流れを悪くしたり、自分以外のクルマの燃費を悪くしてしまうので、そこはバランスを見ながらですね。

この信号通過テクニックで最後尾を確保できたら、あとはそれこそ悠々です。次の信号までブレーキなんか踏まない(笑)。そしてはるか彼方で信号が赤になったら、もうアクセルを踏むの止めるんですよ。

すると、それまでの慣性運動と、道路とタイヤの間で生じる摩擦などのバランスによって、ちょうど信号までの間に止まる。せっかく生み出したエネルギーをブレーキを踏んで“捨てなくて”済む。結構、難しいけど、実際にやってみると面白い。

ほかの人から見たら、徹底的にわがままなスピードで運転しているにもかかわらず、誰も文句を言わないし、言われない。そうやって走ってると、気分もゆったりでき、なんだかよく分からない優越感も生まれたりします。

──それが遊び心…。

平沢: そう、遊び心でそれをやらないと、忍耐になったり、イライラしたりします。

ここから下は、過去記事一覧などです。画面先頭に戻る バックナンバー一覧へ戻る ホームページへ戻る

記事検索 オプション

SPECIAL

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る