──暗いから不便という考え方では、どんなに延長していっても、苦痛には変わりないわけですね。
平沢: そう、電気がいっぱい欲しいだけの話で、それじゃあソーラー発電を始めたって、どんどんソーラーパネルを増やしていくだけです。「足し算」じゃなく、「引き算」で考えていった方が創造的になれますね。
私の場合、前回もお話ししましたが、「レイヤー移住」をするために、移動手段についても考えました。実は今度は自転車のことを調べ始めたんですよね。今までの自転車だと、どうも面白くないと思って調べていくうち、「リカンベント」(※8)とというヘンな自転車をたまたま見つけてしまった。
平沢さんと、米Burley社のリカベント「Limbo」
※8 リカベント。サドルにまたがって乗る通常の自転車(アップライト)と違い、仰向けになって寝そべるような姿勢で乗るタイプの自転車。少ない体力で長距離を走行することが可能なため、日本でも観光地の人力車(輪タク)などによく使われている。
こいつは、従来の自転車より非常に効率の良い機構で出来ていて、遠くまで走れるし、疲れないし、スピードも出る。これを生活の移動手段として、ある範囲ならばクルマと“入れ替え”ができる。そのように趣味的な衝動としてリカンベントを勉強するのが非常に楽しい。
で、色々と調べると、リカンベントという自転車は、欧州などでは省エネのために乗っている人たちがいるということも分かり、「なるほど。リカンベントはクルマとは違うレイヤーを走っていく乗り物であるのだ」と知る。
そうすると次に、距離感とかスピードの解釈をし直す作業も始まるんですよね。今までクルマで買い物に行ってた距離を自転車で行くとどうか。遠いじゃないかと思う。
ところがね、それを「買い物」と考えずに、「運動」と考えると遠くないんですよね。運動不足解消のために運動をやったと満足できるだけの距離を考えてみると、ちょうどクルマで買い物に行っていた距離だったりする。その間を自転車で往復すればいいじゃないかと。
自転車を使うことで運動と買い物が同時にでき、従来のクルマを「引き算」できる。距離の意味も少し変わってくるし、スピードや時間の感覚も変わってくる。
いわゆるジャンク・フードを食べて過剰にカロリー摂取したうえにサプリメントを摂り、週末にジムに通うという「足し算」の発想は、無駄なエネルギーを消費しますね。ただ穴を掘って、また埋め戻すという意味のない作業のようなものです。
私はいつも「引き算」を心がけます。「引き算」することによって、効率とエネルギーが「足し算」されることもあるんですよ。
平沢 進(ひらさわ・すすむ)氏
1979年、プログレッシブバンド「MANDRAKE」を母体に、テクノポップバンド「P-MODEL」を結成。ワーナーミュージックよりデビューする。その斬新かつPOPなサウンドがテクノポップ・ブームの口火となり一世を風靡する。その後メンバー・チェンジを繰り返しつつ、現在も精力的に活動中。結成20周年にあたる99年は、「音楽産業廃棄物~ P-MODEL OR DIE」と銘うったプロジェクトを掲げ、ネットワーク配信をはじめとする新たな音楽産業の在り方を呈示するなど、今後ますます目が離せない状況である。
89年よりP-MODELと並行してソロ活動を開始。より歌に重心を置いた無国籍風サウンドを確立し、「過去」(神話/民俗的世界)と「未来」(SF/コンピュータ的世界)が「現在」に出会ったかのような、まさに「平沢ワールド」を繰り広げる。
また、自ら考案し94年から始めた「インタラクティブ・ライブ」(コンピュータとネットを介し、観客のレスポンスによりコンサートの進行が変化する、いわば”ロールプレイング・ライブ”)は現在まで5回を数え、平沢の活動の中でもライフワークと呼べるものとなっている。AMIGAを駆使した総合エンターテイメントとして、音楽業界以外からの評価も高い。
平沢の音楽活動は多岐にわたり、TVドキュメンタリーの音楽制作、OVAのサウンドトラック、小説のイメージアルバムの音楽担当、ゲームミュージックなど、ロックの分野のみならず多方面から注目を集めている。97年には原作者からの熱い要請に応え、日本テレビ系アニメ「剣風伝奇ベルセルク」のサウンドトラックおよび劇中歌を担当。原作の持つ重厚な世界観にマッチした楽曲は、アニメファンの間でも高い評価を受ける。
また、2002年公開のアニメ「千年女優」の音楽全般も担当。時空間を超越する壮大な作品テーマを表現。
平沢は常に時代の数歩先を読み、あらゆる分野への「アーティスト」達に影響を与え続けている。
プロフィールの詳細については、こちらのWebページを参照。
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