ミュージシャン 平沢氏 好奇心と創造力があれば誰でも 環境負荷は楽しく軽減できる
●ミュージシャンの平沢進さんが2001年から2002年にかけて行った音楽プロジェクト「Hirasawa Energy Works(ヒラサワ・エナジー・ワークス)」は、大企業や環境団体などがスポンサーになって開催されたイベントではない。いわゆる「冠付きのイベント」ではない点は、見逃せない重要なポイントだろう。
●やろうと思えば、一個人がいつでも始められることとして、平沢さんは自らの音楽活動を通して示した。一連のイベントを行うにあたって、平沢さんはプロジェクトの姿勢を次のように説明した。
『Hirasawa Energy Worksの主眼は発想の転換にあります。それは、節約、忍耐、といった省エネのネガティブな印象さえ変えてしまいます。Hirasawa Energy Worksは、すでに自然界に豊かに用意されている、エネルギーの原野でのピクニックとも言えるでしょう。ですからHirasawa Energy Worksは、「環境保護」や「地球にやさしい」という言葉を好みません。保護されているのは我々だからです。Hirasawa Energy Worksは、その保護者へとアクセスするための、胸踊る探検なのです。さあ、始めましょう。広大なエネルギーの原野へ出発です。あなたも、Hirasawa Energy Worksに是非参加してください!』
(http://www.chaosunion.com/ew/ より引用)
●環境に配慮する生活は、苦痛や忍耐ではなく、むしろ楽しい“趣味”なのだという平沢さんへのインタビュー。前回に続き、中編をお届けする。
取材/高橋かしこ、土屋 泰一 構成/高橋かしこ 写真/佐藤 久
人は趣味になら、金銭や労力も惜しまず注ぎ込む
──プライベート・スタジオへのソーラーパネルの設置や省電力環境でのレコーディングなど、平沢さんなりの環境負荷軽減活動をあくまで「個人の趣味」として自己完結するのではなく、ミュージシャン平沢進のプロジェクト「Hirasawa Energy Works」として表に出そうと思ったのはどうしてでしょう?
平沢氏(以下、敬称略): 単純ですよ。趣味とはいえ、公共的な性格を持った活動だと思ったので、パフォーマンスとして公開したわけです。マネして悪いことはないですからね。
ミュージシャンは楽器や機材が変わることで、想像力や、やる気が刺激されることがよくあります。私にとってソーラー発電は、楽器と同じように想像力を刺激するものでした。ソーラー発電を中心とした、今までにない環境で、常識では困難と思われるようなことを生き生きと楽しげにやってのける姿を(リスナーをはじめとする一般の方々に)見てほしかったんです。
こんなことを楽しげにできるのはミュージシャンの特権なんかではなく、ただ考え方をほんのちょっと変えるだけで、ほかの人たちもそれぞれの分野で応用できると思ったんです。
ミュージシャン 平沢 進 氏
──平沢さんのように、省電力の環境を我慢するのではなく、制約された条件下での創作活動を楽しむような姿勢というのは、誰にでもできるものなのでしょうか。
平沢: できると思います。決して難しいことではありません。
しかしながら、お礼を言われるわけでもなく、すぐに結果が分かる訳でもないものに対して、いま自分が持っているものを手放したり、金銭や労力をつぎこんだりするのは、捨てたも同然と感じるかもしれません。見たことも聞いたこともない、どっかの国の人や動物のため、もしくは、はるか未来の子孫のため……などと言われても、「なんで?」とか、「どうしてそんなことをやらなければならないの?」と思うかもしれません。
確かに、実感の持てないもののために、自分のものを自ら“捨てる”のなんか、普通はゴメンですよね。じゃあ、喜んで“捨てる”にはどうすればいいんでしょう。
だから趣味なんですよ、趣味(笑)。自分の趣味を充実させるためなら、喜んで“捨てられる”でしょ!?
ゴミばかり捨てて喜んでいる生活の中で、好きなものや好奇心を刺激するものを見つけて、環境に関連付けた趣味にしてしまえばいいのではないでしょうか。
──例えばオーディオが趣味で、スピーカやアンプを自作するようなレベルの人だったら、ソーラーシステムの設置なんて楽勝で…。
平沢: できますね。ただ、好奇心と想像力を持って、発想の転換を楽しめるなら、特別な道具を「足し算」しなくても、それぞれの人がそれぞれの生活に合った省エネができると思います。
必要なのは、創造力と好奇心です。その想像力と好奇心を遊んで十分楽しむためには、できれば自分なりの物語があるとなおよいと思います。例えば、こんな物語はどうでしょう。
「自分は“ソーラービジネスマン”なのだ。携帯電話は小さなソーラーセルで充電し、必要とあれば自転車をかっとばす。よりよき近未来に片足を突っ込んだ私を他人は風変わりだというが、いずれ私のカッコ良さ思い知らされる時が来る……」などなど。
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