──新天地である「レイヤー」に引っ越して、まずはどうのような苦難、もとい、楽しみがあったのでしょう?
平沢: ソーラーセルからエネルギーを得るという「太陽虫」のレイヤーは、実は「24Vの世界」(※5)なんです。我々が普段使っているコンセントから得られる「100Vの世界」ではないんです。
その「24Vワールド」で暮らすのはいいけど、普通の家電製品はそのままでは動かない。昇圧や蓄電(※6)についての知識も必要になってくる。自分の使っている機材を「24Vワールド」に移動させるには何をしたらいいのか、何をしてはいけないのか等々、勉強する必要があります。
またソーラー発電ですから、少なくとも私が、いえもっと言えば人類が生きているであろう間は、エネルギーは太陽から無限に供給されるでしょうが、実は一度に使える量は少ない。スタジオの全機材の電源を入れっぱなしにするのはもってのほかで、機材などの電源を入れる順番や、落とすタイミングをあらかじめ計画しておかないと、電力切れで作業が途中で終わってしまう。
しかし、そうしてアルバム1枚を作るプロセスの面白さってないですよね。普通のレコーディング・スタジオで、ゴージャスなミキシング・コンソールを使い、機材の熱を逃がすためにクーラーをがんがん効かせて、照明をがんがんに照らして、電源入れっぱなしで、雑談しながら作った音と品質が変わらないアルバムが出来るんですから。笑いが止まらない(笑)。
※5 ソーラーセル(太陽電池)による発電では、出力される電力は12V、または24Vの直流が一般的である。そのためここでは「24Vの世界」という言葉を使っている。
※6 ソーラーセル(太陽電池)から出力される直流12Vや直流24Vの電力は、変換器(インバーター)を使って交流100Vに昇圧することで、一般的な家庭用電気機器で使用できるようになる。
また、夜間や太陽光が弱い曇りの日などにも、安定して電力を供給するためには、バッテリー(充電池)に電力を蓄えておく必要がある。これが蓄電である。
Trace(Xantrex社)のチャージ・コントローラ「C40」。バッテリーの過充電を防ぎ、充電と放電を制御する装置。
未来舎の擬似正弦波インバータ「FI-200350F」。ソーラーパネルで発電した直流12Vの電力を交流100Vに変換するためのもの。
平沢 進(ひらさわ・すすむ)氏
1979年、プログレッシブバンド「MANDRAKE」を母体に、テクノポップバンド「P-MODEL」を結成。ワーナーミュージックよりデビューする。その斬新かつPOPなサウンドがテクノポップ・ブームの口火となり一世を風靡する。その後メンバー・チェンジを繰り返しつつ、現在も精力的に活動中。結成20周年にあたる99年は、「音楽産業廃棄物~ P-MODEL OR DIE」と銘うったプロジェクトを掲げ、ネットワーク配信をはじめとする新たな音楽産業の在り方を呈示するなど、今後ますます目が離せない状況である。
89年よりP-MODELと並行してソロ活動を開始。より歌に重心を置いた無国籍風サウンドを確立し、「過去」(神話/民俗的世界)と「未来」(SF/コンピュータ的世界)が「現在」に出会ったかのような、まさに「平沢ワールド」を繰り広げる。
また、自ら考案し94年から始めた「インタラクティブ・ライブ」(コンピュータとネットを介し、観客のレスポンスによりコンサートの進行が変化する、いわば”ロールプレイング・ライブ”)は現在まで5回を数え、平沢の活動の中でもライフワークと呼べるものとなっている。AMIGAを駆使した総合エンターテイメントとして、音楽業界以外からの評価も高い。
平沢の音楽活動は多岐にわたり、TVドキュメンタリーの音楽制作、OVAのサウンドトラック、小説のイメージアルバムの音楽担当、ゲームミュージックなど、ロックの分野のみならず多方面から注目を集めている。97年には原作者からの熱い要請に応え、日本テレビ系アニメ「剣風伝奇ベルセルク」のサウンドトラックおよび劇中歌を担当。原作の持つ重厚な世界観にマッチした楽曲は、アニメファンの間でも高い評価を受ける。
また、2002年公開のアニメ「千年女優」の音楽全般も担当。時空間を超越する壮大な作品テーマを表現。
平沢は常に時代の数歩先を読み、あらゆる分野への「アーティスト」達に影響を与え続けている。
プロフィールの詳細については、こちらのWebページを参照。
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