ミュージシャン 平沢氏 ソーラー発電は創作意欲をかきたてる楽しい「趣味」なんです
●ミュージシャンの平沢進さんは、2001年から2002年にかけて「Hirasawa Energy Works(ヒラサワ・エナジー・ワークス)」と銘打った音楽プロジェクトを行った。レコーディングやコンサートで使用する全電力をソーラー・パネルを中心とした代替エネルギー発電システムでまかなってしまおうという試みだ。
●プロジェクトは、平沢さんのプライベート・スタジオに2枚のソーラー(太陽電池)パネルを平沢さん自ら設置することからスタート。楽曲のアレンジからマスタリングに至るCDの原盤制作プロセスが、特設サイト(※1)で詳細にレポートされた。
●さらにはリスナーが自主的に参加するイベント“エナジー・ハンティング”も開催。広く一般から募集された“エナジー・ハンター”たちが、プロジェクトから貸与された発電グッズや自作の発電機などで発電し、単3電池に蓄えられた電力がコンサートの電源の一部として使用された。
●そのプロジェクトから5年……。さらにブラッシュアップした平沢さんの“ソーラー・スタジオ”を訪ね、なぜソーラー発電に取り組むようになったのか等について話を聞いた。
※1 特設サイト「Hirasawa Energy Works」は現在も閲覧可能。以下のURLを参照。
http://www.s-hirasawa.com/ew/
取材/高橋かしこ、土屋 泰一 構成/高橋かしこ 写真/佐藤 久
道路上のマーカー・ランプが瞬時にSF的な空想を広げてくれた
──そもそも太陽光発電によるプライベート・スタジオの運営というのは“趣味”で始められたそうですね。
平沢氏(以下、敬称略): はい。今も趣味です(笑)。
私が私が関心を持って趣味として始めたことは、ことごとく仕事になってしまって困りますが、ソーラー発電のスタジオについては、純粋に“趣味”としての要素を常に探しておく必要があります。実はそれが持続の鍵でもあるんです。
ミュージシャン 平沢 進 氏
──始められたきっかけはなんだったんですか。
平沢: きっかけは「太陽虫」と遭遇したことです。
──なんですか? それは。
平沢: おっと失礼。少し長くなりますが、説明しましょう。
ある日、道を歩いていると、見慣れたはずの道にふと違和感を感じました。足下にあった妙なものに目がとまったんです。見ると、背中にソーラーセル(太陽電池)を“背負った”ツノの無いカブトムシのロボットのようなものが、車道と歩道の境界線上に点々と張り付いている。いわゆるマーカー・ランプというものでしょうか。私はそれを「太陽虫」と呼んでいるんですが…。
それはどこの街にもあるものですが、まじまじと観察したのは初めてでした。“背負った”ソーラーセルで昼間のうちに発電、蓄電しておき、暗くなると自動的に小さなライトを点滅させて、歩行者や車に注意を促すものです。そのSF的な外見や成り立ちが、周囲の生活感あふれる光景には全然似合わない(笑)。
私には、それがまるで近未来からこつ然と現れたもののように見えました。私と同じ空間に在りながら、全く違うストーリーを展開する、全く違う時間が流れるレイヤー(※2)の中に在るような印象です。
※2 レイヤー。「層」を意味する単語で、コンピュータ用語としては、グラフィックスソフトにおける描画シート、ネットワークモデルでの階層を指す言葉などとして用いられる。平沢さんは日常生活や文化が幾重もの「層」の重なりから成り立っているというモデルの元に話している。
──といいますと。
平沢: だってそうじゃないですか? こいつ(太陽虫)は人間が作ったエネルギー・インフラから完全に独立していて、よしんば人類が滅亡しても半永久的に働き続けるんですから。
これはミュージシャンの性(さが)でしょうかね、しばらく立ち止まって「太陽虫」を見ながら、こんな妄想を繰り広げてしまったんです。
人類のいないゴーストタウンで黙々と働く「太陽虫」と、それを見つめる人類唯一の生き残りヒラサワ。「とうとうやっちまった!」という清々しい虚無感の中で、在りし日の文明を回想する……。
そこで、はたと思ったんです。「こいつ(太陽虫)はなんてオモシロイやつだ。こいつが属しているレイヤーから、私の音楽を取り出したい。今さっき感じた不思議な感覚を生み出してくれたソーラーエネルギーというものを、自分の音楽のエネルギーとして取り込めたら……」と考え、自分のスタジオにソーラーパネルを設置しようという発想に至ったわけです。
自宅に戻ると、早速、インターネットで検索です。「スタジオのエネルギーをソーラーセルから得るにはどうすればいいのか」「それは可能なのか」「機材はどこで買えるのか」「それは手の届く値段なのか」……。
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