奇妙な服を着た女がいる。血を流し、今にも倒れそうだ。
重たい体を引きずりながらも前へすすむ。一歩でも。
ブーツはまるで雨の日のように水を吸っている音をさせる。
血が止まらない。
何故こうなった、と思う。油断はなかった。
今頃になって痛みが増してきた。左腕の関節が増えている。
仲間がどうなったのか判らない。
――轟音とともに一人が燃え上がった。
――呆けてる間にまた一人押し潰され吹き飛ばされた。
――私は木に叩き付けられた。動ける。逃げた。必死に。
右手は毒で感覚がない。応急手当もできない。
たすけて。しにたくない。
プロローグ
俺はもうすぐ発売される新作ソフトに向けて前作を復習してる最中だった。
俺はPSPやりながら歩いていたらトラックに引かれた…はずだ。
あの時、体力が残り少なかった。画面の中の蒼レウスが突っ込んできて焦った。
同時にトラックも突っ込んできた。焦ったがもう遅い。
――俺はトラックに轢かれ、たぶん同時にゲームでも蒼レウスに轢かれた。
「誰かいませんかー」
怪我はない。返事もないな。
(ここはどこだろう?)
死後の世界。もしくは夢かもしれないと馬鹿な考えが浮かぶ。たぶんただの森林公園だ。
PSPはスリープ状態にしてポケットへ入れておく。画面を見たらベースキャンプにいた。報酬のゼニーは3分の2に減っていた。
約6年間も大事に使い続けたのだ。ケースに入れたかったが見つからなかった。マフラーもリュックも腕に掛けていたコートも見つからなかった。
空を見ると巨大なナニカが目に映った。
(と、鳥なのか!?ってか恐竜みたいだ!)
地面は平坦ではなく歩きづらいこと甚だしかったが追いかけた。
追いかけるとは、その時の俺はどうかしてたんだと思う。もし見つかれば死んでいたかもしれなかった。
(…ホントどこだどこ?)
当然、すぐに見失って途方にくれた。
怖くなってきた。不安になってきた。
周りを見回すが結構移動したはずなのにあまり景色は変わっていない…広い森林公園だ。
(…遭難したのか俺?えっと移動せず救助を待たなきゃいけないんだっけ?漫画とかの受け売りだけどホントかね?)
空に目を向けても、ヘリや飛行機は見えない。それどころか車のエンジン音も聴こえない。
とりあえず持っていたPSPの電源をオン。スループ状態から復帰させる。レウス討伐クエストの途中だったはずだ。
報酬の三分の一がなかった。時間も進まないようだ。壊れてしまったんだろうか。ヘコむ。
クエリタしても良かったが迷った。すでに部位破壊はしていたから。
ため息をついた拍子、ふと鼻につく臭いを捉えた。
その瞬間にはPSPはポケットへ、そして歩き出す。人に会いたい。
焦げ臭い。人がいるのかと期待が大きくなる。
木と草が焦げていた。そして人が寝てる。その人は鎖帷子のような鎧をまとったおっさん。近くには剣や盾やら薬やらが散らばっている。
(こんな山でコスプレかよ。それともなんかの撮影か?)
動く気配がない。さらに不安になってきた。
「って大丈夫ですか!」
日本人離れした顔つき。
近づいて判った。鎖帷子には無数のキズ。使い込まれた装備類。見慣れたコスプレではない。
だからすぐ判った。
(ハリウッドすっげー!)
ここはアメリカらしい。そう思うことにしよう、いやそうしよう。
(ハリウッドって何州だったけ?カメラどこだろ?)
岩の陰にもう一人いるようだ
「あのー、ちょっといいですか?」
声をかけてみたが返事がない。シカトですか。イラッときたが耐えた。
「え、えくすきゅーずみぃー?」
…首が変な方向を向いてる。
(うわあ、キモチワルイ)
つついてみた。頑張って脈を取ってみた。
(――っ!?これってやばいだろ!)
動かないはずだった。ハリウッドではないらしい。ホントは判ってたけど。いくらなんでもアメリカはないし。
…さらに不安が大きくなった。
とっさに周りを見回すが誰もいない。
(さ、殺人犯がいるかもしれない!)
そばにあった剣と盾を手に取った。
やっぱりこれも使い込まれた感じがする。
(なんだろ?なんだか見覚えがあるようなきがするんだけどな…)
死人から奪うなんて気が引けるが、自分の命の方が惜しいのは誰もが一緒だ。
思えば、これが俺の初めての『剥ぎ取り』だった…のだろうか。
(初稿:2010.12.01)