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らせんの真実−冤罪・足利事件− <終章>
<5>「解明」 終わらない真相追及(2010年8月1日 05:00)「過去の冤罪事件では、真犯人を明らかにするために時効の問題が論議されることはなかった」 今月26日、東京都港区の常磐大芝浦サテライトキャンパス。時効制度に詳しい同大大学院の諸澤英道教授(刑事法)は、足利事件で再審無罪となった菅家利和さん(63)を「初めて人前で『真犯人を必ず捕まえてほしい』と訴えた冤罪被害者」と指摘する。 殺人など一部の重罪の時効が撤廃された今春施行の改正刑事訴訟法。時効が成立した事件には適用されず、1990年5月に足利市の保育園児松田真実ちゃん(4)が殺害された足利事件も、一般的には2005年に時効(当時の殺人罪は15年)を迎えたとされる。 しかし、と諸澤教授は法学者の立場から持論を説明する。 「菅家さんのケースでも、殺人罪で起訴後から最高裁判決が確定した2000年までの期間が時効の中断対象になると解釈することも可能だ」 ■ ■ 「時効は、当該事件についてした公訴の提起によってその進行を停止し、管轄違い又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める」。裁判の長期化などが原因で時効になることを防ぐ刑訴法第254条第1項の条文だ。 諸澤教授は同条を根拠に「裁判中は時効が停止するという理論も成り立つ」と強調。その場合、足利事件の時効は2014年になるという。 諸澤教授によると、時効中断の解釈はさまざまあるが、法的な判断が示された例は少ない。 「足利事件で菅家さんの冤罪がはっきりした上に、真犯人のDNA型も分かっているのだから、むしろ捜査当局は『時効になっていない』という姿勢で真犯人を割り出し逮捕・起訴すべきだ。時効中断の有無は、裁判所に判断を委ねればいい」 時効が成立しても、容疑者が分かれば捜査側が立件するケースはある。 最近でも大阪市内で1995年1月に女性看護師が刃物で刺され重傷を負った事件で、大阪府警西成署は今月16日、今年1月に時効が成立した無職男を殺人未遂容疑で書類送検した。時効前に遺留品から男の指紋を検出、全国に手配していた。 同署は「時効成立の有無にかかわらず、容疑者を特定できたので書類を送致した。事前に検察庁とも協議した」などと説明。大阪地検は不起訴処分とする方針だが、捜査側は容疑者を断定したことになる。 未解決となった足利事件。が、真犯人の男のDNA型は判明している。県警、宇都宮地検に、再捜査の考えはないのだろうか。 「時効は成立したと考えている。が、確度の高い新しい情報が入れば捜査する」。県警幹部は現状のままでは再捜査しない考えだ。 宇都宮地検も「犯人を特定しうる情報があれば話は別だが、積極的に捜査することはない」と県警同様の姿勢を示す。 ■ ■ 「再審無罪になっても、気持ちは晴れない」 今月29日、足利市内。岡山県や香川県で講演を終えたばかりという日焼け顔の菅家さんは、それまでの穏やかな表情を一変させた。 「警察や検察は無実の私の17年半を奪い、自分たちのミスで真犯人を取り逃がしておいて、今度は時効だと言って捜査もしない。真実ちゃんの両親も、絶対に許さないと思う」 真犯人はどこで、何をしているのか。 社会の片隅から、事態の行方を冷徹な目でのぞき見ているのか。 時効制度は、罪を犯した者の「権利」なのか−。 菅家さんは、これからも真相解明や冤罪事件の再発防止を訴え続ける。 「足利事件は、まだ終わらない」 |
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