2007-04-22kom’s log(/20070414)へのコメント再掲

ebizohさんの発言がなくなったあと、野原さんお一人が苦労されているので、私も何とか記事をつなごうと思っていますが、ネットで公開している論文以上のことは、なかなか思いつかなくて、困っています。新学期もはじまり、授業の準備やらで追われて、なかなか考えをまとめる時間もありません。とはいえ、野原さんばかりに負担をかけるのもよくありませんので、苦し紛れにkmiuraさんのブログに挨拶にいった時に書き込んだものを再掲いたします。
kmiuraさんのブログの20070414には、「掲示板『「強制売春説」など』から、永井さんの発言のまとめ」という記事が掲載されています。
http://d.hatena.ne.jp/kmiura/20070414
これに対して、odakinさんという方が、以下のようにコメントされていました。
永井さんのいう通り、wikipedia でひいてみても sexual slavery(性奴隷) = forced prostitution(強制売春)という了解のようですね。そうなのだとしたら、海外メディアが分かりやすく forced prostitution issue でなく sex slave issue と読んでる時点でプロパガンダが含まれると思うけど。
現代でも、オランダにだまされて連れてこられた東欧の女の子がパスポートを取り上げられて、というような組織暴力は、いくらでもあるありふれた話ですよね(悲惨なことだけど)。いわゆる第三世界における米軍基地の周りの娼館でも身売りされた女性は多いでしょう。日本国だけが国家として他国ではありえない特別な事をした、という認識は正さないといけないと思う。
というかそもそも公娼制度自体が sex slavery だ、という永井さんの立場からは、いわゆる従軍慰安婦問題という呼び方は正しくなくて、公娼制度問題、と呼ばなければならない。
それに対する私の返答です。
okakinさんへ
英語圏で、同じ事をいうのに、forced prostitution というのと、sex slaveryというのと、どちらが一般的なのか、語用の現実を考慮しないと、
>海外メディアが分かりやすく forced prostitution issue でなく sex slave issue と読んでる時点でプロパガンダが含まれると思うけど。
という推論の妥当性は保証されません。もちろん、sex slaveには、forced prostitutionに比べて、より強い非難の意味がこめられていることは、その前身であるwhite slaveからそうだと思います。
たしかに人身売買と強制売春は、古今東西をとわず、世界中のいたるところにあります。しかし、国家機関がその構成員のための福利厚生施設として、性欲処理施設を設置し、そこで強制売春をおこなった、あるいは強制売春がおこなわれるのを容認していたというケースは、あまり他に例がないでしょう*1。
>というかそもそも公娼制度自体が sex slavery だ、という永井さんの立場からは、いわゆる従軍慰安婦問題という呼び方は正しくなくて、公娼制度問題、と呼ばなければならない。
いいえ、そんなことはありません。kmiuraさんが紹介してくださっている私の論文をご一読ください。私は、そこで、「軍慰安所は公娼制度などではありえない」と主張しております。 公娼制度に代表される強制売春一般に解消されない、従軍慰安婦制度固有の問題があるのです。よって、従軍慰安婦問題という呼び方は十分正しいのです。
上記の私のコメントに対して、再びodakinさんから以下のようなコメントがありました。
odakinさんの再コメント
われわれがこれからも日本人として世界の中で生きていく上での「国際世論」におけるプロパガンダ合戦としては、彼らのいう「数万人~数十万人という規模で」行われたのが奴隷狩りなのか親による身売りなのかどっちなのか、それこそが問題だと思います。戦場におけるそれぞれ数人~数十人という規模での性行為の強要、なんてあまりにもありふれすぎている、というか今現在この瞬間でもイラクでアフガンで行われているでしょう(それは悲惨極まりない事だけど)。
「従軍慰安婦制度固有の問題がある」のであれば、それに一切触れずに、「反対論者も公娼制度と同じである事を認めている、公娼制度=強制売春=sex slave でしょ」というリンク先での話の持っていき方ははずいぶん雑というかほとんど誘導のような議論だと思います。(上であげた現代のオランダの例でも、国内で売春が合法化されてる上に東欧女性の強制売春なんて積極的に取り締まらず「容認」してるけど、これもリンク先の議論に従うとオランダ国家による性奴隷化になりますよね。)
「国家機関がその構成員のための福利厚生施設として、性欲処理施設を設置し、そこで強制売春をおこなった、あるいは強制売春がおこなわれるのを容認していた」というのは、形式論を言ってるのですか?それとも実質的にどうだったかを言ってるのですか?
前者なら、形式的には日本国家は強制売春には関与しない形を整えているのでは。(最後の「容認」については、国家という大きな組織において「心証」についての議論をしても不毛な気がします。)後者ならそれこそありふれた事ではないのですか?戦争というそれ自身悲惨極まりない事態において、兵士の性欲処理を一切せずに、ソ連軍のようにレイプし放題にする方がより人道的、という立場もあるのかも知れませんが私には良く分かりません。どうするのが良いと思われているのですか?
さらにそれに対する私の返答を以下に掲げます。
odakinさんへ
まず、英語のsex slaveの意味ですが、「奴隷狩り的に集められて売春なり性交を強要される」場合も、もちろんsex slaveにまちがいないでしょうが、しかしそれだけがsex slaveに限定されるわけでもないでしょう。
例にあげられている「オランダにだまされて連れてこられた東欧の女の子」は、「奴隷狩り」的に連れてこられたわけではありませんが、立派なsex slaveです。親によって身売りされた場合でもsex slaveです。
>上であげた現代のオランダの例でも、国内で売春が合法化されてる上に東欧女性の強制売春なんて積極的に取り締まらず「容認」してるけど、これもリンク先の議論に従うとオランダ国家による性奴隷化になりますよね。
いや、リンク先すなわち私の議論では、そうはなりません。民間でおこなわれている強制売春を国家が容認している(戦前日本の公娼制度)あるいは取り締まらず放置している(現在のオランダ?)のと、国家自らが強制売春施設を設置し、経営するのとでは、おおきなちがいがあります。
現在のオランダ政府は、売春を合法化しているとはいえ、オランダ政府職員の福利厚生のために、売春施設を保養センターとして指定し、売春業者と特約を結んでいるわけでは決してないでしょう。また、そのような施設で、東欧からだまされて連れられてきた女性が働かされているわけでもないでしょう。
である以上、それをもって「国家による性奴隷化」とはいえないというのが、私の議論です。
>「国家機関がその構成員のための福利厚生施設として、性欲処理施設を設置し、そこで強制売春をおこなった、あるいは強制売春がおこなわれるのを容認していた」というのは、形式論を言ってるのですか?それとも実質的にどうだったかを言ってるのですか?
おっしゃるところの「形式的」と「実質的」の意味が、もうひとつよく呑み込めないので、きちんとお答えできませんが、「国家機関がその構成員のための福利厚生施設として、性欲処理施設を設置し、そこで強制売春をおこなった、あるいは強制売春がおこなわれるのを容認していた」というのは、形式的にも実質的にもそうだと考えています。
そして、それは「ありふれた事ではない」のです。かつて藤岡信勝氏は、慰安所と国家の関係は「文部省内の(職員)食堂と同じだ」と言いました。なるほど、どこの国の文部省でも、その本省ビルには職員食堂があるでしょう。
しかし、文部省がその職員のために保養施設として、性欲処理施設を設置している国はどこにもありません。
日本の文部科学省が、その職員のためにソープランド業者と特約契約を結び、どこかのソープランドを職員の保養施設に指定したりすれば、たいへんなスキャンダルになります。文部科学大臣の首は飛ぶだろうし、内閣の命運もあやうくなるでしょう。
>どうするのが良いと思われているのですか?
特効薬になる妙案などありませんが、兵士の性犯罪をきちんととりしまること。兵士に対する教育をきちんとおこなうこと。戦争目的を明確にし、性犯罪は戦争目的を台無しにするものであると教育すること。兵士に健全な娯楽を与えること。交代制をきちんとまもって戦場での勤務期間をできるかぎり少なくすること等、ですか。
あと百歩譲って、戦地に派遣される軍隊には性欲処理施設が絶対必要だというのであれば、その業務に従事する女性(または男性)が売春強制の犠牲にならないよう、手厚い保護を与えることが不可欠です(つまり、「自由売春」制度とすることが不可欠です)。
彼らを正式の軍属として認知し、その待遇についてきちんとした規則を制定し、その募集についても公明正大、公的におこなうべきです。つまり、最低限従軍看護師と同じ扱いをすべきでしょう。
このやりとりは、これから先まだ続くかもしれませんが、現時点(2007/0422/17:00)までの中間報告とします。