菅第2次改造内閣が発足。菅直人首相(64)は政権浮揚を図り、通常国会を乗り切りたい考えだ。しかし、野党を連続して離党した与謝野馨経済財政担当相(72)や参院議長経験者の江田五月法相(69)、民主党幹事長として参院選を大敗した責任を取っていない枝野幸男官房長官(46)らを起用した前代未聞の人事は、野党のみならず党内からも猛批判を浴びている。さらに、改造前に空手形を切りまくった菅首相自身が求心力を落とし、仙谷由人氏(65)を党代表代行にしたことで、新たな火種も持ち込まれた。“不条理政権”を具現化する5人組を抱えた政権の行く末は−。
「人生というのは不条理だ」
海江田万里経済産業相は、同じ衆院東京1区で自民党から出馬してきた与謝野氏の入閣を、複雑な表情で論評した。また、官房長官続投を探ってきた仙谷氏に引導を渡した民主党出身の西岡武夫参院議長も14日夜、都内で記者団に「首相は不条理だ。民主党と小選挙区で戦った相手が入閣するというのは、海江田氏にはたまらないだろう」と批判した。
「不条理」は、「ことがらの筋が通らない」という意味で、首相が年頭所感で「不条理を正す政治」として用いた言葉だ。民主党の小沢一郎元代表の「政治とカネ」を指して言ったのだが、いつのまにか第2次改造内閣のネーミングになりつつあり、民主党批判を続けてきたのに入閣した与謝野氏は「筋が通らない」象徴となっているのだ。
菅首相が与謝野氏に期待するのは主に(1)新内閣の最重要課題のひとつである社会保障と税制の一体改革を進める司令塔としての役割(2)ねじれ国会を乗り切るために自民党や公明党と連携する呼び水としての役割−だ。
3月に2011年度予算関連法案が参院で否決され、政権が立ち往生するという「3月危機」が現実味を帯びているだけに、(2)こそ最重要とみる向きもある。
しかし、与謝野氏起用の評判は最悪だ。
自民党の谷垣禎一総裁は「与野党の信頼関係を一顧だにしていない。(自民党比例で当選したのだから)議員辞職して民間人として内閣に入るのが通常の道義感」と批判。公明党の山口那津男代表も、“与謝野呼び水理論”を「勝手な思いこみだ」と一刀両断した。
与謝野氏は民主党の政策を猛批判し続けてきただけに、国会で整合性を追及されるのは確実。自民党幹部は「問責第1号だ」と鼻息が荒い。
社民党も、筋金入りの消費税増税論者である与謝野氏にアレルギーが強い。福島瑞穂党首は「与謝野氏と財務省、首相官邸、三位一体で消費税をきっちり上げるシフトを組んだ。菅さんは何を考えているのか」と批判した。社民党を巻き込んで、衆院での法案再可決が可能な3分の2を確保する策も、与謝野氏入閣で苦しくなりそうだ。
それだけに、首相を支える民主党反小沢派の後見人的存在である渡部恒三最高顧問は、「(他党から)参院議員を3人ぐらい連れてくるなら『菅君はいい人事をした、与謝野君ありがとう』と言うが、衆院は足りている。本当に意味のない人事だった。間違っている」とこきおろした。さらに、与謝野氏自身についても「政権を失った途端に自民党を出て、今度は民主党(政権)で入閣するなんて卑しい」とまで述べたのだ。
一方、参院議長経験者である江田氏の入閣も異例。渡部氏は「議長は首相と同格かそれ以上だ。よくお引き受けいただいたと感心する。私なら断る」と皮肉った。また、枝野氏には「昨年の参議院選挙の大敗の責任者が、なぜ出世するのか」(森裕子参院議員)との批判が強い。
菅首相が改造にあたって“空手形”を切りまくった弊害も出ている。民主党関係者が言う。
「国対委員長を外された鉢呂吉雄氏は入閣するはずだったのに、選対委員長を打診された。臨時国会で法案成立が少なかった責任を取らされたうえ、統一地方選の大敗の責任を取らされるポストなど受けられるわけがない。渡部氏が批判するのも、国対委員長ポストを打診されていたのに、最終的に消えたからでは」
「影の宰相」と言われる仙谷氏が党内に放たれたことも不安視されている。代表代行としては異例の警護(SP)付きとなり、「海外に出たりいろんな人と会う」(仙谷氏周辺)という。まさに、小沢氏ばりの闇将軍ぶりだ。
これまで政府は仙谷氏、党は岡田克也幹事長と住み分けてきたが、仙谷氏は政府に子飼いの枝野氏を置き、党にも拠点を得た。
民主党中堅議員は「仙谷氏と岡田氏は政治手法でそりが合わない。ポスト菅をめぐり、仙谷氏がオーナーである前原グループと、岡田氏の間で権力闘争が激化する」と予言する。ここに、3月政局をにらむ小沢氏もからんでくるわけだ。
かつて「人事の佐藤」といわれ、6度の内閣改造を行った佐藤栄作元首相は、「内閣改造をするほど首相の権力は下がり、解散をするほど上がる」と人事の機微を語った。半年で2度も改造した菅首相の権力は、もはや風前の灯火か。