1206大学国際化 中断させるな グローバル30、政府仕分けで「一旦廃止」 留学生獲得 妨げる懸念 :日本経済新聞

大学の国際化を促進する文部科学省の「国際化拠点整備事業」(グローバル30)が、行政刷新会議の再仕分けで「一旦廃止し、組み立て直す」と判断された。東京大学の田中明彦副学長は、事業廃止は「平成の鎖国令」ともいえ、大学の国際化を中断させてはならないと訴える。


東京大学副学長 田中明彦

好むと好まざるとにかかわらずグローバル化の勢いは止まらない。グローバル化の大波に乗り、中国やインドなどの新興国は、ますます巨大な存在になりつつある。日本がアジアで唯一の経済大国などと言っていたのは遠い昔の話。今や日本は経済規模のみで世界に立ち向かうわけにはいかない。世界で日本が生き残っていくには、自らの力を強くするとともに、世界中に日本とは仲良くしたいという友人をつくっていかねばならない。

世界に友人の輪

強力な人材を育成し、世界に友人の輪を広げるために、大学の国際化ほど有効な手段はない。留学生を世界中から日本の大学に集め、キャンパス自体をグローバル化すれば、日本人学生も居ながらにして国際体験ができ、積極的に世界に飛び出していく誘因にもなる。

だが、留学生をさらに呼び込むには、従来のやり方ではうまくいかない。入学要件に日本語能力を課していては、漢字文化圏以外の国々からの留学生を増加させるのは困難だからである。

入学要件から日本語を外し、英語による授業の数を増加させなければならない。そして、英語で行われる授業に日本人の学生も留学生と共に参加させる。そうすることによって、日本人の学生の英語運用能力も向上する。大学の授業の英語化は、留学生獲得のためにも、そして日本人学生の国際コミュニケーション力の向上にも役立つ一挙両得の方策なのである。

にもかかわらず、これまでの日本の大学は、授業の英語化による留学生獲得について熱心ではなかった。例外的な大学を除けば、限られた数の大学で、限定的な試みが行われてきたにすぎない。

というのも、授業を英語化し大学を国際化するには、膨大なコストがかかるからである。国立大学運営費交付金や私学助成の削減が続く大学にとって、国際化はその重要性は理解しつつも着手し難い課題であった。

しかし、この2年間で状況はがらりとかわりつつある。日本の有力大学が、重い腰をあげ、授業の英語化によって留学生を呼び込む方向に舵(かじ)をきりつつある。

きっかけは、2009年度に始まった文部科学省のグローバル30だった。国際化に取り組む大学に対し一定の財政支援をするという国の施策に呼応し名乗りを上げた大学の中から、東北大、筑波大、東京大、慶応義塾大、上智大、明治大、早稲田大、名古屋大、京都大、同志社大、立命館大、大阪大、九州大の13大学が拠点に採択され、英語のみで学位のとれるプログラムを学部と大学院の双方で開設してきた。

既に、学部12、大学院で73のプログラムが発足し、13年度までには、学部33、大学院で124のプログラムが発足する予定である。筆者は、東京大学の本構想責任者として学内整備に関与してきたが、学内での国際化の必要性の認識は格段に高まり、いよいよ日本の大学も本格的にグローバル・キャンパスを築き得るという手応えを感じるまでになってきた。