日朝間で約2年半途絶えている直接対話の再開に向け、積極的な発言が相次いでいる。前原誠司外相が昨年末から会見などで繰り返し「2国間で懸案を話すことが大事だ」と呼びかけたのに対し、北朝鮮側も歓迎ムードだ。ただ、実際に対話が始まっても、拉致問題など日朝間の懸案事項で進展が得られる見通しはなく、「北朝鮮に利用されかねない」(政府関係者)との懸念も出ている。【犬飼直幸】
前原外相は11日の記者会見で「02年の日朝平壌宣言を互いに確認しながら、直接的な対話をしっかり進めたい」と改めて表明。「(核問題をめぐる)6カ国協議の開催の是非にとらわれずに行われるべきだ」と述べ、6カ国協議とは連動させず日本独自に対話する考えを示した。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は8日付論評で、外相が日朝対話再開に意欲を示した4日の会見での発言を「時代のすう勢と国家間の関係発展に合致する肯定的動きに間違いない」と評価。「友好的に接する国とはいつでも向かいあって話し合いをする用意がある」と期待感を示した。
日朝対話は08年8月以来途絶えている。北朝鮮が外相の呼びかけに応じたことに、外務省幹部は「米朝対話や6カ国協議再開を狙って、韓国に対話攻勢を仕掛けているのと同じ構図だ。対話の糸口になるものは何でもつかもうという考えだろう」と分析する。
前原外相は野党時代の07年、自民党の福田康夫首相(当時)への国会質疑で「拉致問題が進まなければ(北朝鮮に)支援しないということは外交の裁量を狭めるのではないか。平壌宣言に戻って(拉致、核、ミサイルの)トータルパッケージでの解決を目指すべきだ」と主張。その前任の安倍晋三首相にも「拉致問題も大切だが、こだわり過ぎれば、6カ国協議から日本が発言権を失っていくのではないか。変えるなら早い方がいい」と述べ、北朝鮮に対して柔軟姿勢を取るように強調していた。
前原外相は11日の会見でも「基本的な考え方は全く変わっていない」と語った。ただ、実際に交渉が始まった場合の対応については「具体的な進展があったときに考える」と述べるにとどめた。
毎日新聞 2011年1月12日 東京朝刊