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きょうの社説 2011年1月15日
◎菅再改造内閣 分かりにくさ増す経済政策
菅再改造内閣は、野党の圧力で閣僚の入れ替えを余儀なくされた形であり、菅首相がめ
ざした「最強の態勢」とは言い難く、逆に挙党態勢を敷くことができない弱みが顔をのぞかせている。たちあがれ日本を離党した与謝野馨氏を経済財政担当相に起用したのが最大の目玉であるが、前経財相の海江田万里氏を経済産業相に横滑りさせた今回の閣僚人事で、菅政権の経済政策がこれからどう展開されていくのか、分かりにくさが増した感もある。今後の政策論議の焦点が、消費税率引き上げを中心にした税財政と社会保障制度の一体 改革に移るに従い、民主党政権が改革の「一丁目一番地」と意気込んでいた地域主権改革が足踏みをする懸念もぬぐえない。菅内閣には、財政再建の前にデフレ脱却と地方分権改革の道筋をまず示すよう、あらためて求めたい。 与謝野氏は自民党時代から消費税増税による財政再建を主張し、「上げ潮派」といわれ た成長重視派と対立してきた。財政再建路線を貫く与謝野氏の姿勢を菅首相は買ったわけだが、一方の海江田氏は入閣前、「菅首相は財務省にコントロールされている」と増税路線を批判したこともある。 現在は消費税論議の必要性を認めているが、デフレの真っただ中の消費税増税は景気を 大きく後退させる恐れが強いため、「増税とデフレ克服のタイミングを適切に判断するべき」と訴え、無利子非課税国債の発行や国有財産の証券化などにも言及してきた。 同じ選挙区で争う与謝野、海江田両氏のどちらが経済政策を主導するのか。その傍らに は、貿易自由化の推進など新成長戦略を取り仕切る国家戦略担当相の玄葉光一郎氏がおり、だれが「司令塔」になるのか不明確なことが、菅政権の経済政策の行方や実行力に対して不安を抱かせる。 離党の経緯から与謝野氏は、たちあがれ日本や自民党と民主党との「接着剤」にはなり にくく、与野党を超えた税制、社会保障論議がかえって困難になる可能性も強い。政策の遂行は結局、菅首相の決断力と指導力にかかっていることを認識してもらいたい。
◎新幹線への対応 国家事業の位置づけを
菅再改造内閣スタートに際して、あえて注文しておきたいのは、北陸など整備新幹線の
建設を、国土交通省の一事業のような扱いとせず、国家プロジェクトという本来の位置づけを明確にすることである。政権交代後の1年4カ月で、国土交通相は今回の大畠章宏氏で3人目となる。北陸新幹 線絡みで言えば、最初の前原誠司氏は自公政権時代に新規着工の流れができた福井延伸を白紙に戻し、続く馬淵澄夫氏は敦賀以西のルート検討を新たな条件に持ち出し、着工のハードルを引き上げた。振り返れば、大臣が変わるたびに新規着工は遠ざかった印象を受ける。 菅政権がねじれ国会の対応に労力を費やし、目先の課題に汲々とする頼りない状況が続 けば、整備新幹線の政策順位はますます後退し、山積する内外の諸問題の中に埋もれてしまう懸念さえある。 2014年度末の金沢開業は確実視されているとはいえ、積極的とは言い難い民主党の 新幹線対応をみれば、絶対的な信頼は置きにくい。内閣改造で大きな期待は持てないことは承知のうえで、あえて、くぎを刺さずにはいられないのも政権のこの不安定さにある。 整備新幹線に関しては昨年末、建設費の地方負担軽減や並行在来線支援につながる新た な枠組みが示された。具体的な仕組みの議論はこれからである。大臣が変わったからといって、議論をあいまいにすることは許されない。 鉄道建設・運輸施設整備支援機構の利益剰余金をめぐる昨年末の調整では、前任の馬淵 国交相が野田佳彦財務相に押し切られて大半が国庫返納となった。こうして政府内の力関係で財源が決まるような場面一つ取っても、新幹線の相対的な位置づけが低下したことをうかがわせる。再改造内閣が財政再建路線に傾斜し、新幹線のような真に必要な事業にしわ寄せが及ばないかも気がかりな点である。 北陸などの整備新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づき1973年に整備計画が決まっ た国家プロジェクトである。国が推進の責任を担っていることを今一度、思い起こしてもらいたい。
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