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クローズアップ2010:小沢氏、政倫審出席表明 「強硬」貫く首相

会見する小沢元代表=衆院第1議員会館で2010年12月28日午後2時7分、小林努撮影
会見する小沢元代表=衆院第1議員会館で2010年12月28日午後2時7分、小林努撮影

 ◇「攻めの改造」に固執

 「円滑な国会審議」を条件に衆院政治倫理審査会(政倫審)出席を表明した民主党の小沢一郎元代表に対し、菅直人首相は来年1月の通常国会前に「無条件」で出席するよう突き返し、両氏の対立は28日、激化の一途をたどった。政倫審に応じる代わりに「反小沢」急先鋒(せんぽう)の仙谷由人官房長官の交代を迫る--。小沢氏の駆け引きに、首相は招致議決も辞さない強硬姿勢を貫き、「攻めの内閣改造」で主導権を掌握する狙いだ。【平田崇浩、岡崎大輔】

 小沢氏の政倫審への「条件付き出席」に菅首相が示したのは強い拒否反応だった。小沢氏が表向き政倫審出席という「決断」を演出する裏で、野党が審議拒否の理由とする仙谷氏の交代を公然と突き付けてきたからだ。

 首相は28日夕、記者団に「次の通常国会までに強力な態勢をつくりたい」と改めて内閣改造への意欲を示した。国会審議の障害になると最終的に判断した場合、仙谷氏を官房長官から外すことも念頭にあるとみられる。

 しかし、政権の屋台骨を野党や小沢氏からの圧力で交代させる形になれば求心力が一気に低下する。たちあがれ日本との連立工作に失敗したものの、首相はあくまで政権基盤を強化する「攻めの改造」を狙っている。

 小沢氏が政倫審出席に応じない通常国会前の段階で、政治資金規正法違反の罪で強制起訴される可能性もにらみ、「小沢切り」と「攻めの改造」のセットで断行し、政権浮揚を図る--。首相が描く年明けのシナリオだ。

 それだけに、小沢氏が政倫審出席をカードに迫ってきた「仙谷切り」には抵抗感が強い。「反小沢」の前原誠司外相は28日の記者会見で「条件はつけるべきではない」と小沢氏を批判した。

 「反小沢」勢力内には小沢氏の「奇襲」に戸惑いもある。前原グループの一人は「素直に政倫審に出られたら、追い出し計画が頓挫するので困る」と語る。

 小沢氏が条件付きとはいえ出席の意向を表明する中で招致議決に踏み込めば内紛がさらに激化する可能性がある。執行部の「小沢切り」の矛先が鈍れば「政治とカネ」問題をひきずったまま通常国会に臨むことになる。仙谷氏が官房長官から交代しても、小沢氏の証人喚問を求める野党から11年度予算案の審議で協力を取り付けるのは極めて難しく、「じり貧」の政権運営を迫られる。

 仙谷氏は28日、TBSの番組収録で「(通常国会が)始まるまでに(新たな連立の)組み合わせができる見通しはない」と認めた。政府高官はたちあがれ内で連立に動いた与謝野馨共同代表について「一人でも来てくれるならいい」と一本釣りの可能性も示唆した。

 野党との連携につながる「攻めの改造」のめどが立たないことが、首相をさらに「小沢切り」に向かわせる。仙谷氏は「起訴という事態を受けて、従来なら野党が議員辞職決議案を出してきた」と、強制起訴を受けて野党が行動を起こす可能性にも言及した。野党からの圧力を材料に離党に追い込む思惑もにじむ。

 ◇野党は喚問要求

 野党は、小沢氏の政倫審への出席意向表明を「民主党内の権力闘争の一環」と冷ややかに受け止めている。来年1月からの通常国会で小沢氏の証人喚問を求める方針だ。

 自民党の石原伸晃幹事長は28日、談話で「われわれは証人喚問を求めてきた。民主党は周回遅れのランナーだ」と酷評。共産党の市田忠義書記局長も「統治能力のなさは何たることか」と批判した。

 小沢氏は政倫審出席の条件に「出席で国会審議が円滑に進む」ことを挙げたが、野党の審議拒否の対象から小沢氏は外れている。自民党の石破茂政調会長は28日、記者団に「政倫審に出るから、仙谷氏らの問責をなかったことにして審議に応じますとはならない」と明言した。

 内閣改造で仙谷氏を交代させない限り野党が軟化する可能性は低い。公明党幹部は「小沢氏は相当なくせ球を投げた。要するに出席先送り、事実上のノーだ」と解説した。社民党の福島瑞穂党首は「一歩前進」と評価し早期実現を求めたが、自民党国対幹部は「予算がいつ上がるか分からない、強制起訴されたら状況が変わる、と考えていけば政倫審は開かれない」と語る。

 ◇秘書との共謀、4億円原資は?

 小沢氏を巡っては資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で石川知裕衆院議員ら元秘書3人が起訴され、小沢氏自身も検察審査会の議決に基づき今後、強制起訴される見通しだ。政倫審ではまず、元秘書らとの「共謀の有無」が焦点となる。

 東京地検特捜部は共謀を認定できないとして小沢氏を不起訴処分としたが、検察審査会は元秘書らが「報告、相談した」と供述していることなどから「共謀はあった」と認定。これに対し小沢氏は一貫して否定している。

 土地購入代金4億円の原資も議論になるとみられる。小沢氏は07年の会見で「支持者の浄財」と説明。昨年10月は「銀行からの借入金」と説明を変え、今年1月の会見では「自分や家族名義の口座から引き出した金」に変わった。特捜部は石川議員らの公判で、土地購入時期にゼネコンからの裏献金があったことを立証する方針だ。

 さらに、土地購入時に手持ち資金がありながら、同時期に行った銀行からの不可解な借り入れについて、小沢氏は「秘書任せ」と強調しているが、融資申込書などには自ら署名・押印していた。

 土地購入に伴い作成され、名義人である小沢氏に権利がなく陸山会の所有であることを示す「確認書」についても、検察審査会は「偽装工作」と指摘。小沢氏自身もインターネット番組で、土地取引時ではなく後から作成したことを認めた。

 事件とは別に、小沢氏が代表に就任した06年から今年5月まで使途不明の「組織対策費」計約36億円が党から支出された▽昨年衆院解散時、小沢氏関係の政治団体「改革フォーラム21」の3億7000万円が迂回(うかい)して陸山会に入り、公認候補89人に配られた--ことなども問われる可能性がある。【杉本修作】

毎日新聞 2010年12月29日 東京朝刊

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