社説

安保政策立て直し/失地回復への教訓得たなら

 事が起きて慌てふためく。いったん口にした対処法を翻す。備えが足りないからではないか。昨年9月、尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突事件での政府の対応は、そう思わせた。
 単なる怠惰ではないとすれば、この準備不足は、あらかじめ事態の急変をさまざまに想定しておく危機管理上の想像力の欠如を示している。
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題での迷走は、新しいプランを打ち出した後の反響を多角的に検討しておかなかった安直さから始まった。これもまた一種の想像力の欠如とみなすことができる。
 政権交代を果たした後、民主党政権は外交・安全保障政策でのもろさをさらけ出してきた。鳩山由紀夫前首相は「普天間」で退陣に追い込まれ、菅直人内閣は「尖閣」で支持率を大幅に失った。安保政策の立て直しが失地回復への鍵の一つになる。
 鳩山、菅両内閣が双方とも、安全保障環境に対する想像力の乏しさを問われたとなれば、首相や閣僚の個性に帰せられる問題ではない。政府・与党全体で弱みを自覚し、安保政策の再構築を図る必要がある。
 中国漁船の船長釈放の経緯は、仙谷由人官房長官の主導で事実上、法相による検察への指揮権が行使されたとみていいようだが、政府は詳しく語ろうとはしない。
 明確に語られないことで明らかになったのは、法相指揮権を公然と発動してでも基本方針を貫くという覚悟が、現政権にはなかったという事実である。
 国境付近の隣国の動静に細心の注意を払う。情報を綿密に吟味して、起こり得る事態を幅広く想定する。どんな対応を取れば相手がどう反応するかを読み込み、次に繰り出す手だてを設定しておく―。こうした日々の不断の準備なしに、政治主導の覚悟が生まれるはずがない。
 普天間移設問題では、前首相の個性も手伝って「県外移設」が軽々に語られ、関係閣僚からも入念に調整したとは思えない発言が相次いだ。米政府はどう受け止めるか、米議会はどう反応するか。いったい「県外」をどこに求めようというのか。情報の集約と具体的な見通しを欠いた「覚悟」の表明が、混乱を招き、失望を呼んだ。
 「尖閣」や「普天間」、さらには北朝鮮による韓国砲撃の際の政府対応から導き出される改善への答えの一つが、首相官邸の機能強化である。
 外務省や防衛省、海上保安庁など関係省庁に積み上がる情報を一元的に集約する。首相、官房長官と関係閣僚を支える専門スタッフが分析結果を共有し、対応の想定に反映させ、折々にその想定を更新する。そんな役割を担う組織が必要だ。
 政府が先月決めた新たな防衛計画大綱は、安全保障の政策調整と首相への助言を行う組織の官邸内への新設を挙げている。具体化を急いでほしい。
 先を見通す想像力が現実離れした夢想であってはならないし、危機意識がなければ確かな想像力も育たない。民主党はもう十分に学んだのではないか。

2011年01月11日火曜日

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