木語

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木語:視聴率は下がった=金子秀敏

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 菅直人首相がテレビ朝日の「報道ステーション」に出演した。今月5日夜のことである。現職の首相が民放テレビに単独出演すれば注目度は上がるはずだ。

 その時たまたま、衛星放送局BS11のスタジオで、前日ビデオ収録した対談番組「インサイドアウト」のオンエアに立ち会っていた。大きなモニターにゲストの小沢一郎・民主党元代表の顔。周囲の小型モニターには他局の映像が流れている。あれ? 首相が古舘伊知郎キャスターと並んで映っているぞ。

 スタジオのベテラン放送人たちにはピンとくるものがあったようだ。「おーっ、うちの番組に、総理をぶつけてきたぞ」

 後から聞いた話だが、官邸から総理を見るように(つまり小沢氏を見ないよう)連絡を受けた民主党議員がいたそうだ。

 菅首相が小沢氏を意識するのは無理もない。前日、首相官邸で行った年頭記者会見で「小沢切り宣言」をしたばかりだった。その結果はどうだったか。「報道ステーション」は菅首相が登場したとたん視聴率が落ちた。平均視聴率は6・9%で、前4週平均の14・7%の半分以下だった。(7日「夕刊フジ」)

 ちなみに4日の報ステは11・6%、6日は10・5%だから、5日だけ低い。やはり菅首相を見てチャンネルを変えたのである。

 安倍晋三政権の末期、ある民放テレビの打ち合わせに居合わせたことがある。議題は中継車を首相官邸に出すか、地方の町で起きた殺人事件の取材に回すかだった。あっさり結論がでた。「安倍さんじゃ数字が出ないから」

 テレビのニュース価値は、予想される視聴率によって判断されているのだ。内閣改造も、歌舞伎役者の泥酔不祥事も、女性タレントの略奪愛も、数字が出る旬の間だけ大きく扱われる。

 報ステは、「小沢切り」で菅首相が視聴率を下げるとは思っていなかったろう。首相自身も人気が浮揚すると勘違いしていたのではないか。だが、実際は逆だった。

 一方の小沢氏は、BS11局の番組のなかで、菅首相に辞めろなどとは言わなかった。

 総選挙で政権交代した民主党には国民の期待にこたえる政治責任がある、だから菅首相は予算案を国会で成立させるようしっかりやってもらいたいと、激励といえないまでも叱咤(しった)していた。

 野党・自民党の目標は民主党政権の打倒である。菅首相を切るといっているのに、菅首相は、小沢切りで視聴率を下げている場合だろうか。(専門編集委員)

毎日新聞 2011年1月13日 東京朝刊

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