菅直人首相が14日に行う内閣改造は、政権の最重要課題である通常国会を乗り切るための苦肉の策だ。問責決議を受けた仙谷由人官房長官を交代させて野党の協力確保に向けた条件整備をすると同時に、「政治とカネ」の問題を抱える小沢一郎元代表と対峙(たいじ)する路線を堅持することを示すために、仙谷氏に近い枝野幸男幹事長代理を後任に据えた。野党側は「仙谷切り」で国会審議に応じる姿勢に転じたが、11年度予算案に反対する姿勢は崩しておらず、同予算案と予算執行に必要な予算関連法案の成立に向けたシナリオは描けていない。【須藤孝、岡崎大輔】
「日本の危機をいかに越えていくかということに、民主党が何ができるかという姿勢で臨んでいきたい」。首相は党大会後の記者会見で内閣改造・党役員人事の狙いについてこう強調した。仙谷氏の後任の枝野氏は菅政権発足時に幹事長として仙谷氏と政権運営の中軸を担った。首相が選んだのは、仙谷、枝野両氏に留任が固まっている岡田克也幹事長も加えた「4人組」による政権運営を継続することだった。13日もこの4人で深夜まで人事構想を練った。
枝野氏は菅、仙谷氏らとともに96年の旧民主党結成に参画したオリジナルメンバー。仙谷氏と同じ前原誠司外相のグループに属し、同グループ幹部は「今の内閣の仕組みを作ったのは仙谷氏だから、官房長官は仙谷氏と一体の枝野さんしかできない」と指摘する。別の党幹部も「枝野氏はこれから仙谷氏の官邸での代理人を務める」とさえ言う。
民主党と自由党の合併時に枝野氏は最後まで反対するなど、仙谷氏と同様に「反小沢」で知られる。枝野氏の起用は、「脱小沢」を貫くという首相のメッセージだ。小沢氏に近い議員からは「挙党態勢どころか、身内で回す人事だ」とあきらめにも似た声も出ている。政権運営の面でも、党内基盤の面でも、仙谷氏を中心に首相を支える態勢が続くことになる。ただ仙谷氏らを中心とする前原外相のグループに実権が偏ることには、身内の首相のグループ内にも不満がたまっている。
枝野氏は、98年の金融国会で与党が野党案を丸のみした金融再生法を巡って活躍し、「政策新人類」と呼ばれた。行政刷新担当相として事業仕分けで活躍、国民的な知名度も高い。渡部恒三元衆院副議長は「いい官房長官になる」と語る。ただ国会対策など党務の経験は浅く、官房長官に不可欠な調整能力は未知数。官邸内からも「前さばきができるか疑問だし、首相を守る壁になれるのか」と懸念が出ている。
一方、代表代行兼国対委員長が検討されていた仙谷氏は、国対委員長の兼務を固辞した。党幹部らによると仙谷氏は「二つも役職はできない」などと語ったという。別の党幹部は「仙谷氏が国対委員長では岡田氏がやりにくいのでは」とも語った。仙谷氏としては小沢氏の政倫審出席問題などで先頭に立つ岡田氏を支える立場に徹する選択をしたとみられる。後任が固まった安住淳副防衛相は野党時代に国対委員長代理の経験があるが、その手腕は未知数。参院で野党が過半数を占める「ねじれ国会」を乗り切る与野党折衝の手腕が問われることになる。
首相は野党が要求した仙谷氏の交代を決め、11年度予算案審議の「入り口」にようやく立った。ただ、衆参両院で3月中の可決が必要となる予算関連法案も含め、年度内成立という「出口」は見通せていない。衆院の3分の2以上を確保して再可決するか、参院過半数の回復のため公明党などとの協力を探るか--。「ねじれ」克服の基本戦略は立っていない。
民主党の鉢呂吉雄国対委員長は13日、自民、公明両党に、召集日を伝達する議院運営委員会理事会の14日開催を打診。両党は「理事会には新しい官房長官が出席するという話だった」(自民党の逢沢一郎国対委員長)として受け入れた。
入り口には立てたが、それは野党も出席して国会審議に入れるというだけの話だ。
国民新党の亀井静香代表は党大会で、連立離脱した社民党について「補正予算に賛成し問責決議に反対した。何でも反対ということはあり得ない」と発言。同党を加えた「旧連立」勢力を重視して、衆院の再可決を目指すべきだとの考えをにじませた。一方、首相は予算成立にこぎ着けられれば、税と社会保障の超党派協議をスタートさせる意向。社会保障政策で共通点が多い公明党との連携の呼び水にしたいためだ。
だが、公明党幹部は13日、仙谷氏からの電話に「問責でどんぱちやったのに、すぐに関係の構築は難しい」と難色を示した。山口那津男代表も京都市内で、社会保障政策での超党派協議への非協力を「歴史に対する反逆」とした首相の党大会発言を、「よくもぬけぬけと言えたものだ」と批判するなど、公明党と連携できるかは極めて不透明だ。
自民党幹部は官房長官に内定した枝野氏について「攻めどころ満載だ」と指摘。みんなの党の渡辺喜美代表も「枝野氏は幹事長として参院選で(敗北し)国民から問責を受けた。首相は国民のニーズが分かっていない」と新体制に距離を置く考えを強調した。
毎日新聞 2011年1月14日 大阪朝刊