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社説:菅再改造内閣 政権賭する覚悟を示せ

 社会保障制度と税制を一体的に改革する。そして環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加して通商国家として成長の基盤を整える--。14日発足した菅再改造内閣は菅直人首相が何を目指しているのかを示す布陣となったのは間違いない。

 しかし、菅首相は記者会見で与野党の議論だけでなく国民的議論も求めながら、例えば国民の大きな関心事である消費税率引き上げに関して自身はどう考えているのか、言葉を濁した。今回の内閣改造は首相に与えられた最後のチャンスのはずだ。これでは首相の覚悟が伝わらない。

 ◇「消費税とTPP」布陣

 まず人事のポイントを点検してみたい。今回、一種のサプライズだったのは、やはり経済財政担当相に、たちあがれ日本を離党した与謝野馨氏を起用したことだ。

 同氏は自民党政権の要職を歴任し、かねて消費税率引き上げの必要性を明言する財政再建論者として知られる。前例のない人事に託した首相の意図は明白だろう。官房副長官に民主党の長老格、藤井裕久元財務相を充てたのも異例の人事だが、藤井氏も財政再建論者であることから今回の起用となったと思われる。

 経済財政担当を外れた海江田万里氏は経済産業相に横滑りし、もう一つの重要課題であるTPP参加問題を担当する。与謝野氏と海江田氏が同じ選挙区で争ってきたことへの配慮だけでなく、大畠章宏前経産相を国土交通相に代えたのは大畠氏がTPPに消極的だったという理由が大きい。ここにも政策実現を優先する姿勢が見て取れる。

 一方、焦点だった官房長官人事では、仙谷由人氏の後任に枝野幸男氏を充て、小沢一郎元代表を支持するグループとは一線を画す「脱小沢」路線を貫いた。これも、妥協せずリーダーシップを貫く姿勢を首相はアピールしたいのだろう。

 しかし、問題はこうした布陣を整えたうえで、どう政策を実行に移していくかだ。支持率の低迷にあえぐ菅首相にとっては高いハードルがいくつも待ちかまえているのは首相も承知しているはずだ。

 まず民主党内だ。再三、指摘しているように今の民主党の深刻さは、「反小沢対親小沢」の党内対立が政策の対立に発展してしまっているところにある。小沢氏を支持しているグループには元々、消費税率の引き上げに反対論が強く、今回の与謝野氏の起用に対しても、早速、反発が広がっている。

 税制と社会保障の改革について、与野党の協議を呼びかけている菅首相は、与謝野氏に自民党などとのパイプ役になってもらいたいとの期待もあるようだ。だが、自民党を離党し、さらに、たちあがれ日本も離れて入閣した与謝野氏の行動には野党からの批判も強い。そんな現状で肝心の党内もまとめられないのであれば、野党との協議は不可能だ。

 ところが、そうした厳しい状況でありながら、再改造内閣発足後の菅首相の記者会見から、自らの進退、いや民主党政権の存亡を懸けるといった強い決意が伝わってこなかったのは、どういうことか。

 首相は「日本の危機を乗り越える」と何度も危機感を訴え、「安心できる社会保障制度を作る」とも語った。それは当然の話だ。しかし、具体論となると相変わらず党内外の批判を恐れているのか、とりわけ消費税に関しては「はじめに引き上げありきではない」とも語るなど、まだ白紙だとの言い方に終始した。

 ◇前に進む国会審議を

 確かに具体的にはこれからの作業だが、財政と社会保障の立て直しがもはや待ったなしであることは多くの国民も既に知っている。多少なりとも首相自身の考えを語ってもらわないと逆に国民は戸惑ってしまう。

 二つのテーマだけではない。当面の課題は衆参のねじれのもと通常国会で新年度予算案と関連法案を成立させられるかである。菅内閣は一昨年の衆院選のマニフェストの見直しにも着手するという。だとすれば今の予算案もそれに伴って修正するのか。それはどの部分なのか。早急に整理すべきだろう。懸案となっている小沢氏の衆院政治倫理審査会出席問題も進展がない。これも早急に実現を図るよう改めて求めておく。

 言うまでもなく今回の内閣改造は昨年、参院で野党の賛成多数により、仙谷氏らの問責決議が可決され、野党側が仙谷氏らを交代させなければ通常国会の審議に応じない姿勢を示したのがきっかけだ。法的根拠のない問責決議を乱用し、審議拒否の口実にすべきではないと何度か指摘してきたように、今回の一件も前例とすべきではないと考える。

 今後、どの党が政権を取ったとしても、衆参がねじれる可能性が絶えずあることを想定すれば、問責決議の扱いも含めて、国会審議のあり方について与野党で真剣に協議すべき時期である。

 今回の内閣改造でようやく通常国会は24日から始まることになった。まだ入り口に立ったに過ぎないということだ。菅首相の施政方針演説では自らの考えをより具体的にするよう求める。それを受け、野党も徹底的に政策論議をし、一歩でも前に進む国会になるよう願いたい。

毎日新聞 2011年1月15日 2時30分

 

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