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松田喬和の首相番日誌:藤井副長官、誕生秘話

 菅直人再改造内閣の最大の目玉は、藤井裕久官房副長官(78)と与謝野馨経済財政・社会保障担当相(72)だろう。東大野球部の先輩、後輩というだけでなく、経済政策でも共通点が多い。共に財政規律派で、持続性のある社会保障制度の整備にはそれに見合う財源の確保が必要と主張してきた。

 藤井氏は非自民の細川護熙、羽田孜政権で蔵相を務め、政権交代を成し遂げた鳩山由紀夫政権では財務相に就任した大長老だ。

 官房副長官ポストは若手政治家の登竜門とされ、自民党政権は副長官を経験した実力者を輩出した。民主党の小沢一郎元代表も竹下登政権で経験している。だが、藤井氏は渡部恒三元衆院副議長に次ぐ年配で、昨年は財務相を病気で途中辞任している。

 そんな藤井氏の副長官就任にはいくつかの伏線があった。

 藤井氏は先日、問責決議を理由に野党から更迭を迫られていた仙谷由人官房長官(当時)と改造内閣の人選を協議した。その席で藤井氏が紹介したのが、68年に当時の佐藤栄作首相がそれまで官房長官だった木村俊夫氏を副長官に降格させた逸話だった。後任には大物の保利茂氏を据え、政権の安定に努めた。結果として佐藤内閣は戦後最長を記録した。

 どんな形であれ、官邸にとどまるように--。藤井氏は仙谷氏を説得した。だが、仙谷氏は「藤井官房長官なら(副長官に就く)」と逆提案をしてきた。藤井氏は「私は体力的にも無理」と固辞したが、藤井副長官誕生は、これを機に検討され始めたようだ。

 税財政に精通する藤井氏は、党の「税と社会保障の抜本改革調査会」会長として、自民党政権下の報告書も参考に議論を進めている。一方、与謝野氏は麻生太郎内閣で財務相などを務め、藤井氏が参考とする報告書をまとめた「安心社会実現会議」をスタートさせた。与謝野氏と菅首相の間を取り持つ役目は藤井氏が最適だ。

 バブル崩壊後、日本は漂流を続けている。超高齢化社会を前に一刻も早く止めなくてはならない。70歳を超えた2人の起用は異例だが、冷笑するだけでは漂流は止まらない。(専門編集委員、65歳)

毎日新聞 2011年1月15日 東京朝刊

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