地球上の生き物の中にはヘンなやつも多い。だが、多細胞生物なのに何度も若返りをする神業を見せるのはベニクラゲとヤワラクラゲの2種しかない。驚くなかれ「不老不死」の生物なのである▲この若返りが最初に見つかったベニクラゲは体長約5ミリで、かさの中の内臓が赤く透けて見えることから名がついた。成熟した個体が死にかけると海底に沈んで固着するが、やがてポリプという固着体として若返り、そこから再びクラゲになって浮遊を始めるという▲現に日本の研究者はこのベニクラゲの若返りを10カ月余りの間に6回繰り返させるのに成功しているそうだ。こう聞けば人間もこの若返りのメカニズムにあやかれぬものかと思うのは人情である。だがこと政治の世界では7カ月に3度も陣容を新たにした政権がある▲菅直人首相にとっては3度目の組閣となる再改造内閣が発足した。参院の問責決議を受けた2閣僚を抱えてはねじれ国会での頓死が予想されたなかでの政権再生策である。ただしクラゲのようにはいかず、その顔ぶれを見ればとても「若返り」といえる清新さはない▲とはいえ財政再建論者である与謝野馨氏を経済財政・社会保障と税一体改革担当相に迎え、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に前向きな海江田万里氏を経済産業相に起用した布陣である。政権の再生によって目指すところは、それなりに分からないではない▲さてこの改造がいったん沈んだ底からの政権浮揚をもたらすのかどうか。これが再生の最後のチャンスであろうこと、そして海流まかせの浮遊は今後もう許されないのも、クラゲとは違うところだ。
毎日新聞 2011年1月15日 東京朝刊
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