菅直人首相(民主党代表)はきのう、内閣改造と党役員人事に踏みきり、菅再改造内閣が発足した。
改造の規模こそ小幅だが、菅政権の質的な変化を引き起こす可能性をはらんだ人事と言えるかもしれない。
それを象徴するのが、「影の総理」と呼ばれるほどの影響力を誇った仙谷由人・前官房長官の交代であり、民主党政権と対決する野党から一本釣りした与謝野馨氏の電撃的な入閣だろう。
仙谷氏の処遇は、最後の局面まで首相が逡巡(しゅんじゅん)した難題だった。先の臨時国会で仙谷氏は馬淵澄夫・前国土交通相とともに参院から問責決議を突きつけられた。
自民党や公明党など野党は「問責を受けた閣僚との国会審議には応じない」と態度を硬化させ、交代を求めた。
野党の要求をのめば、問責決議を受けた閣僚は辞任に追い込まれる先例となり、野党の「問責カード」の政治的な威力を自ら追認することになりかねない。
かといって、要求を拒めば、新年度予算案を審議する通常国会は冒頭から野党の審議拒否で立ち往生してしまう。
小沢一郎元代表の国会招致をめぐり、小沢氏を支持する勢力が「仙谷氏の更迭が先決だ」と首相や党執行部を突き上げた党内抗争も混迷に拍車をかけた。
結局、首相がたどり着いたのは「仙谷氏らは交代させるが、問責が理由ではない」という苦し紛れの結論だった。
仙谷氏は党代表代行として処遇し「更迭色」を薄めるとともに、後任の官房長官に小沢氏と距離を置く枝野幸男氏を起用することで「脱小沢路線」の堅持を印象づける。そんな狙いなのだろう。
その一方で、首相はたちあがれ日本を離党した与謝野氏を経済財政担当相に抜てきした。
財政再建や消費税増税の論客として知られる与謝野氏の起用は、税制と社会保障の一体改革に取り組む首相の決意を際立たせる効果があるのかもしれない。
しかし、いくら経験豊富な政策通とはいえ、民主党が惨敗した昨夏の参院選で「民主党政権打倒」の旗を振っていた与謝野氏の唐突な入閣には、やはり強い違和感を禁じ得ない。
首相は、批判や反発を覚悟の上で「政策本位の人事」を断行したつもりだろうが、国会審議で手ぐすね引く野党の格好の標的となるのは避けられまい。
首相は内閣改造後の記者会見で「民主党の危機ではなく、日本の危機を乗り切るために、内閣と党の力を最大にしたかった」と人事の狙いを語った。
新年度予算案の成立こそ「危機を突破していく第一歩になる」とも力説した。
だが、どんな理屈を並べ立てようと、問責決議に突き動かされた内閣改造と党人事であることを、丸ごと否定するような論法にはしょせん無理がある。
果たして「最強の布陣」かどうかは、ねじれ国会への対応を含めた菅政権の実績を通じて私たち国民が判断したい。
=2011/01/15付 西日本新聞朝刊=