菅再改造内閣は参院で問責決議を受けた閣僚を交代させるための「追い込まれ改造」の色合いが濃く、菅直人首相が宣言した「最強の態勢」にはほど遠い陣容になった。首相の求心力低下で党内力学に配慮せざるを得ず、新任は4人にとどまり17人中11人が留任、2人が横滑りと清新さを欠いた。24日の通常国会召集にはこぎつけたものの、野党側は与謝野馨経済財政担当相の入閣に反発するなど、11年度予算案と関連法案の成立はなお見通せていない。【中山裕司、大場伸也、朝日弘行】
「民主党と共通性の高い政策を持っておられる」。首相は改造後の記者会見で最初に与謝野氏の名を挙げ「肝いり人事」だと強調した。だが、子ども手当など民主党マニフェストを批判してきた与謝野氏への反発は党内に強い。
小沢一郎・元代表に近い川内博史衆院議員は「民主党の考え方と全然違う人だ。与謝野氏だけはダメだ」と批判した。与謝野氏と海江田万里経済産業相は衆院東京1区で戦った間柄で、海江田氏は14日の記者会見で「人生は不条理」と不満を吐露。民主党出身の西岡武夫参院議長も同日のBSフジの番組で「有権者の民意を首相はどう考えているのか。不条理だ」と語った。
首相は財政再建を与謝野氏に期待するが、統一地方選を控える党内では「消費税増税をするというイメージになるだけ」(衆院新人議員)という懸念も広がり、「野党に攻撃材料を与えただけ」(中堅衆院議員)という見方が出ている。
党内反主流派の鳩山グループに属する大畠章宏前経済産業相は、首相が目指す環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に消極的として交代させられながら、閣内に残留。小沢グループ排除に加え、鳩山由紀夫前首相の反発も買うのは避けたいという配慮が働いた。
数少ない新顔の一人が、旧民社グループの中野寛成国家公安委員長になったのは、問題発言で更迭された同グループの柳田稔元法相の補充とみられ、ここでも党内バランスに配慮した。首相はまた、自らのグループの江田五月前参院議長を法相に充てたが、枝野幸男官房長官ら前原誠司外相グループを中心とする政権運営に菅グループのベテラン議員から出ている不満を抑える狙いがあった。
通常国会を乗り切るための布陣にもかかわらず、さまざまな面に配慮するあまり、首相が主張する「攻め」の姿はかすむ結果になり、「求心力が高まったとはいえない」(中堅幹部)との声が広がる。
首相は14日午前、首相官邸に輿石東参院議員会長を呼び、議員会長に加えたポストを打診するそぶりをみせた。代表代行職が念頭にあったとみられるが、首相が切り出す前に輿石氏が「自分は会長だけでいい」と機先を制し、距離を置いた。
仙谷由人前官房長官を交代させたことで24日召集の通常国会は平穏に始まる見通しだ。だが、民主党の参院幹部は「参院自民党はもう江田氏の法相就任で騒いでいる。北沢俊美防衛相には(政治的な発言をする部外者を関連行事に呼ばないよう求める)次官通達を出した問題が残っている」と、野党から攻め込まれる弱点はまだ残っていると指摘する。
11年度予算案と関連法案の審議が行き詰まる3月末のハードルを越える見通しは立っていない。地方選連敗の状況では4月の統一地方選を前に「地方の反乱」がいつ起きてもおかしくない状況だ。鳩山グループの中堅幹部は「公明党を取り込めないと無理だが、そんな見通しはない。この内閣、3月まで持つのか」と語った。
野党側が菅再改造内閣に反発を強める最大の理由は、たちあがれ日本からの「一本釣り」で、与謝野氏が入閣したことにある。与謝野氏の起用には「野党との橋渡し役」の狙いもあるが、現時点では逆効果のようだ。
敏感に反応したのが自民党。政権を失った09年衆院選で同党の比例代表で当選しながら離党、菅政権への協力姿勢を示したとあって、谷垣禎一総裁は14日の記者会見で「議員辞職し、一民間人として内閣に入るべきだ」と怒りをあらわにした。参院幹部は「受ける方も不見識だが、選んだ首相はもっと不見識だ」。公明党の山口那津男代表も、与謝野氏入閣が与野党歩み寄りにつながる可能性を「(首相の)勝手な思い込み」と即座に否定した。
野党側は、民主党政権を厳しく批判した与謝野氏の過去の発言との整合性を国会で追及する構え。答弁次第で同氏の問責決議案提出を目指す考えまで浮上している。
前参院議長の江田氏の法相起用への反発も。議長時代の昨年6月、自身の不信任決議案を審議する本会議を開かなかった江田氏の入閣に、自民党の大島理森副総裁は「人材不足、たらい回し内閣だ」。
官房長官の枝野氏についても、自民党幹部は「調整能力ゼロ」と断じた。みんなの党の渡辺喜美代表も、新味のない顔ぶれを「廃材内閣」と酷評した。
共産、社民両党は、将来の消費税率引き上げをにらんだ内閣の布陣を問題視する。共産党の志位和夫委員長は「消費税増税、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)推進の『財界言いなり内閣』だ」。社民党の福島瑞穂党首も「消費税を上げるシフトを組んだ。菅さんは何を考えているのか」と批判した。
参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官らを交代させ24日の通常国会召集にこぎつけた首相だが、与野党に歩み寄りの気配は見えない。
自民党幹部は「この内閣では国会で、与野党がきちんと審議できない。民主党はぼろぼろの状態で統一地方選に突入するだろう」と手ぐすねを引いている。
毎日新聞 2011年1月15日 東京朝刊