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三島由紀夫没後40年 「果たし得ていない約束」が現代に問いかけるもの (1/3ページ)
□文芸評論家・富岡幸一郎
作家、三島由紀夫(1925〜70年)が自決してから25日で40年。死の4カ月前に、三島は現代の日本を暗示するような文章を本紙に掲載していた。このエッセー「果たし得ていない約束」は、今の社会に何を問いかけているのか。三島論の著作のある文芸評論家、富岡幸一郎さん(52)が意義を語る。
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三島の死から40年がたったが、日本の現状は彼が予見した通りになった。驚くほど状況は変わっていない。
そしてこのエッセーは、三島の文学と行動(実人生)の関連を考える上でも、きわめて重要だと思う。「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない」という予言的な部分ばかりに注目が集まりがちだが、これは一つの告白でもある。『仮面の告白』でデビューした作家が、最後に仮面を脱いで告白しているのだ。
「私は何とか、私の肉体と精神を等価のものとすることによって、その実践によって、文学に対する近代主義的妄信を根底から破壊してやろうと思って来た」。自分も近代の中に生きていながら、近代主義を突き破ろうとする三島の姿勢が、この部分にはっきり現れている。三島が全存在をかけた言葉だ。
日本文学研究者のドナルド・キーン氏(88)の証言によれば、三島由紀夫は、昭和45年の8月にはすでに遺作「豊饒(ほうじょう)の海」最終巻「天人五衰」の結末部分の原稿を書き上げていたという。このエッセーは、ほぼ同時期の執筆ということになる。