2007年秋、名無しの俺はVIPでの生活にそろそろ限界を感じていた。 昔はあんなに楽しかったVIPなのに、今や惰性で居座っていることに俺自身も薄々気づいていた。
名無しの俺は、ただ受動的に楽しい出来事を待っていた。 雨の日も風の日も、ただただ待っていたのだ。
「今日のVIPはつまらないな。」
いつものようにそう呟いた俺のレスに、その日に限ってアンカーがついた。 俺にアンカーをつけた者は俺と同じ、名も無き住民であった。 ところが、彼の瞳は俺には無い輝きに満ちていた。 彼はアンカーをつけると、こう言った。
「お前が変えてみろよ。」
俺が変える……?この人は何を言っているんだ。 この一名無しでしかない俺にどうやってVIPを変えろというのか。 俺の疑問に対し、彼は間をおかずにこうレスを返した。
「VIPを変えるんじゃない。お前自身を変えるんだ。」
雷光が俺の頭上に落ちた。と同時に暗雲が晴れ、雲間から陽光が差し込んできた。 その眩しさに一瞬目を眩ませた俺が、次に瞼を開いた時には違う自分がいた。
俺はVIP+にいた。コテになった。 当時、VIP+は生まれたばかりの赤ん坊であった。 俺はこいつと共に成長しようと思った。
初め、俺は自治活動に没頭した。 同じVIP+の有志たちとVIP+の将来について話し合った。 俺は議論の素養をそこで学んだ。
しかし、議論だけでは解決はしない。それが2chの厳しさであった。 VIP+に荒らしが来たのだ。荒らし相手に議論は無意味だった。 俺は荒らしに対して沸々とこみ上げる怒りを感じていた。 なおも荒らしは止まない。 怒りが頂点に達した時、俺は自分の頭で何かが弾けるような音を聞いた。
俺は煽っていた。 ひたすら煽っていた。
全てが終わった時、俺は充足感を感じていた。 煽り合いなんてしょせんただの口喧嘩。 そう思っていたが、そうではなかった。
煽り合いとは心理戦である。
冷静であるはずがないその頭で、俺は意外にも冷静な心理戦を繰り広げていた。 感情任せに言葉を殴り書きしても相手を倒すことはできない。
「どういう言葉を用いれば、相手の精神に最も深手を負わせることができるか。」
それが大事なのである。
俺のコテとしての道のりはここから始まった。 しかし、今も俺は変わり続ける。そして変え続ける。
2010年、俺は3年ぶりにVIPの地を踏んだ。己を変えるために。