きょうの社説 2011年1月14日

◎官房長官交代 「脱小沢」で大連立模索へ
 菅直人首相が仙谷由人官房長官の後任に枝野幸男幹事長代理を充てたのは、「脱小沢」 路線の継承を内外に示し、通常国会開催の障害を取り除くためだろう。たちあがれ日本の与謝野馨共同代表を要職に起用するのは、小沢氏を排除したうえで、「大連立」を呼び掛ける狙いが込められているように思える。

 枝野氏は仙谷氏に近く、「反小沢」の急先鋒といわれる。党の衆参両院議員総会で、小 沢氏側から執行部批判の集中砲火を浴びながら、枝野氏をあえて起用したところに菅首相の覚悟が見て取れる。

 また、財政再建論者の与謝野氏を政権に取り込んで、消費税引き上げを柱とした税制と 社会保障制度の抜本改革へ向けた論議を本格始動させ、野党をテーブルにつかせる仲介者の役割を期待しているのは間違いあるまい。

 菅首相は、野党の圧力で官房長官交代に追い込まれたという印象を極力薄めるために、 党内の亀裂が深まることを承知のうえで脱小沢色を鮮明にし、強気で押し切ろうとしている。党の衆参両院議員総会で一致協力を呼び掛け、民主党大会では、「野党がいろいろな理由を付けて(与野党協議に)参加しないなら、歴史に対する反逆行為だ」と挑発して見せた。

 だが、今さら小沢氏を排除したからといって以前のように内閣支持率が急回復するとは 思えない。いつまでもコップの中の争いを続けていることに多くの国民はあきれている。決断があまりにも遅過ぎたために、しょせん政権延命のための「脱小沢」なのだろうと、腹の内を見透かされてしまっている。

 税制改革と社会保障改革を一体化した与野党協議の構想が実現すれば、いわば政策面で の「大連立」ができることになり、予算成立のメドが立ち、統一地方選を戦う態勢もできるとの皮算用だろうが、甘過ぎる見方だ。政権の延命策に野党がおいそれと乗ってくるとは思えず、マニフェストの撤回や小沢一郎元代表の証人喚問など、次から次へと重い宿題を突き付けられるのは目に見えている。党内が分裂状態なのに、それらを一つ一つ解決していくだけの指導力と手腕が菅首相にあるのだろうか。

◎火災死の防止 警報器普及の先進県に
 金沢市内の住宅火災で母子2人が犠牲になった。絶えることのない住宅火災の死傷者を なくすため、政府と自治体は防火対策の「切り札」のひとつとして、住宅用火災警報器の普及に力を入れており、今年6月には全国で設置が義務化される。県内の住宅用火災警報器の普及率は昨年6月時点の推計で77・6%に達し、78・7%の宮城県に次ぎ全国で2番目に高いが、これで気を緩めることなく、早期に全世帯に普及させ、文字通り住宅防火対策の先進県といわれるようにしたい。

 住宅用火災警報器による被害防止効果は、普及率が90%を超える米国で実証されてい るが、日本でも被害軽減の効果が具体的な数字で現われ始めている。

 消防庁の全国集計では、2003年に1千人を突破した住宅火災の年間死者数は、05 年の1220人をピークに減少傾向に転じている。住宅用火災警報器の全国普及率は昨年6月時点でようやく5割を超えたところであるが、警報器設置世帯の増加が、逃げ遅れによる死者の減少につながっていることは間違いない。

 07年から09年まで3年間の住宅火災約4万4千件を消防庁が分析したところ、火災 100件当たりの死者数は、警報器がない場合の7・5人に対し、警報器設置の場合は4・7人と少ない。警報器がある場合は、焼失面積や損害額もほぼ半減されるという。

 住宅用火災警報器の設置を義務化する消防法改正が行われたのは04年で、県内では0 6年からまず新築住宅で、08年から既存住宅を含めて警報器の設置が各市町の条例で義務付けられた。いち早い義務化の取り組みで、昨年6月時点の普及率は全国平均(58%)を大きく上回っているが、市町別にみると、60%台から80%台までかなりのばらつきがある。

 政府が08年に掲げた目標は「今年6月までに全住宅に警報器を設置し、火災死者数を 半減する」である。死者数半減の目標達成には課題がいろいろあるが、県と各市町は警報器の普及率100%達成に向けて、啓発活動などのてこ入れを図ってもらいたい。