神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で08年に手術中に酸素を送る管が抜けて女性患者(47)が意識不明となった医療事故を巡り、県警捜査1課と旭署が12日、担当した麻酔科医(41)と執刀外科医(37)の男性医師2人を業務上過失傷害容疑で書類送検した。県警は「患者の全身管理の必要があるのに長時間手術室を離れた」(幹部)ことなどを過失と判断した。ただ、現場からは、麻酔手術の増加など構造的な問題も浮かび上がる。
送検容疑は08年4月16日、患者の乳房部分を切除する際、麻酔科医は麻酔を施した後、引き継ぎをせず退室。執刀医は麻酔器から酸素の管が外れたことに気付かず、酸素供給が止まったため患者に脳機能障害を負わせたとしている。センターによると、患者は、現在は意識を回復してリハビリ中という。
日本麻酔科学会は「現場に麻酔を担当する医師がいて、絶え間なく看視すること」との指針を制定する。だが、同会指導医で横浜市立大学大学院の後藤隆久教授は「経験ある麻酔科医は、患者は短時間で容体が急変することを知っているが、やむを得ない場合もあるだろう」と指摘する。背景にあるのは、医師の負担増だ。厚生労働省の調査では、08年9月の月間全身麻酔手術件数は18万7097件で96年の同期に比べ約6万件増加している。
一方で、実施施設は96年から約700減り、08年は3652施設に。1施設当たりの手術件数は平均29・5件から51件に増えている。理由として、高齢化や外科技術の発達などが考えられ、「現場は医師数が手術件数に追いついていない状態」(後藤教授)という。【中島和哉】
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8:19 麻酔科医が麻酔器の始業点検。麻酔回路の空気漏れなし
8:45 患者入室
8:55 静脈麻酔剤で麻酔導入を開始
9:00ごろ 気道確保用チューブを挿入し、麻酔回路に接続(換気開始)
9:08ごろ 麻酔科医が退室
時刻不明 誰かが手術台を操作
9:15ごろ 執刀外科医が手術開始宣言
9:16ごろ 麻酔器から管外れる
9:17 麻酔器モニターの一部の値が、計測不能を表示。アラームを聞いた者はいない
9:33 看護師がモニター異常表示を確認。PHSで麻酔科医を呼び出す
9:34~35 麻酔科医が戻り管再接続。換気を再開
9:36 患者が心停止
9:52 心拍数が正常に戻る
10:40 主治医から患者の夫に事情説明
11:30 ICU室で人工呼吸器装着
※がんセンターが設置した事故調査委員会報告書と県警発表を基に作成
毎日新聞 2011年1月13日 地方版