■「講義せずに自習ばかり」「パソコン教えず草刈り」
国が雇用対策として2009年に導入した無料職業訓練事業をめぐって、「自習ばかりで講義がない」「パソコン訓練なのに草刈りをさせられた」など、利用者の苦情が殺到している。求職者の職業訓練費用を国が負担する仕組みだが、専門機関に限らず一般企業でも参入できるため、実績や設備がない会社が営利目的で訓練し、トラブルになる事例が目立つ。訓練機関認定に携わる雇用・能力開発機構は事態を重くみて、立ち入り調査を強化する。
問題になっているのは「緊急人材育成・就職支援基金事業」。パソコン、介護、医療事務、美容などの知識と技術を数カ月の訓練で身に付け、資格取得などで就職につなげてもらう目的だ。
事業を幅広く実施するため、事業の参入ハードルは低い。訓練経験がない一般企業でも申請可能で講師も資格不要。参入すれば、環境整備を支援する奨励金が1コース最大300万円、さらに受講者1人当たり月6万円か10万円の訓練奨励金が支給される。都道府県別の受講者は、本年度2万人超の東京、大阪に次いで福岡が約1万2千人で全国3位だ。
同機構によると、受講者から苦情が出始めたのは事業開始翌年の10年春から。同年4-11月の苦情約430例をまとめた報告書によると「授業がテレビ映像だけ」「『ここは学校ではなく、リハビリの場』と言われた」「カリキュラム通りの授業がない」など、不適正な教育指導例が数多く挙がる。
さらに「体験版の無料パソコンソフトを繰り返し不正利用」「テキスト代を払ったが、配布されなかった」「欠席の受講生を出席扱いにしている」「トイレ掃除をさせられた」「講師が暴力を振るった」といった悪質なケースも続出。こうした苦情は全体の一部にすぎず、管轄する厚生労働省も全容を把握できていないという。
トラブルの多くは、設備や講師が不十分なまま「訓練ビジネス」で利益を上げようと考える企業で発生しているとみられる。また、年収が基準以下の受講者は国から月10万円か12万円の給付金があるため、給付金目当てで訓練に不熱心な受講者が問題を拡大しているとの見方もある。
厚労省能力開発課の渡部幸一郎課長補佐は「問題がある訓練機関は指導を徹底し、必要があれば認定基準を順次、見直したい」と話している。
■ワードBOX=緊急人材育成・就職支援基金事業
通称「基金訓練」。雇用保険を受給できないか、受給を終えた求職者に国が無料の職業訓練を提供、生活給付も行う。生活保護に陥らず就職につなげる新セーフティーネット(安全網)として2009年7月に開始、今年9月まで続く。この間の予算規模3900億円。受講者は昨年夏ごろから急増、10年度は全国約18万3千人(12月21日時点)に上る。政府は恒久的な制度化を目指し、通常国会に関連法案提出を準備している。
=2011/01/13付 西日本新聞朝刊=