チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[24348] スーパーロボッコ大戦(銀河お嬢様伝説ユナ×スト魔女×トリガーハート×武装神姫×オトメディウス×スカイガールズ)
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/11/21 11:00
※当作品は同名のニコニコ動画投稿作品を元に作られた、三次創作作品となります。ご了承下さい。




スーパーロボッコ大戦

EP1

AD1945 ロマーニャ上空


「何だあれは………」

 眼帯を外し、それを見た少女の呟きが、全ての始まりだった。
 虚空に浮かぶ奇怪な渦に、皆の緊張が高まっていく。

「ネウロイの仕業か!?」
「いえ、違います。こんな反応初めて………」
「気をつけて! あれの向こう側が感知できないわ! 全機散開! 指示があるまで攻撃は…」

 命令は最後までが発せられる事は無かった。
 突如として渦が急激的に広がり、全てを飲み込んでいく。

「待ひ…」
「きゃ…」
「芳佳ちゃ…」

 退避命令も、悲鳴も、友の名を呼ぶ声も、全てが飲み込まれていく。
 そして、その場にいた者達全てを飲み込んだ渦は、まるで録画映像を急速に巻き戻すかのように集束していき、消える。
 後には、何も無い空だけが残った。
 誰もいない空が………



AD2300 ネオ東京

「おっ買い物~、おっ買い物~」

 高層ビルの立ち並ぶ地球屈指の大都会の一角、若者向けのファッション店のひしめく大通りを、一人の少女が歩いていた。
 ロングヘアーをポニーテールにまとめ、天真爛漫を絵に描いたような少女が街を歩くと、周囲の人々がざわめき始める。

「あ、神楽坂ユナだ」
「ユナりん! 新曲良かったよ」
「ありがと~♪」

 声をかけてくる人々に気さくに手を振る少女の横手、音楽店のウインドウには紛れも無く彼女自身、《全銀河的お嬢様アイドル・神楽坂ユナ》の新曲ポスターがデカデカと張り出してある。

「ユナさ~ん、待ってくださ~い」

 自分を呼ぶ声にユナが振り向くと、そこにはこちらへと向かってくる紙袋からあふれ出さんばかりのハンバーガー、正確にはそれを抱えたショートボブの少女の姿があった。

「ユーリィ、またそんなに………」
「新発売のベジタブルラー油バーガーですぅ♪ ユナさんにも1個あげるです♪」

 やや変わった喋り方をするその少女は、男でも持つのが苦労しそうな紙袋満載のハンバーガーを、歩きながらも次々と平らげながらユナのそばへと歩み寄ってくる。
 瞬く間に紙袋の中身が少女、ユーリィの口の奥に消えていく様にユナは思わずため息を漏らすが、幸せそうなユーリィの顔にそれ以上何も言えずに、渡されたハンバーガーの包みを開けようとした時だった。

「ユナ!」
「うわ!?」

 突然自分を呼ぶ声に、驚いたユナの手からハンバーガーが零れ落ちる。

「脅かさないでエルナー! 落っことしちゃったじゃない!」
「今はそんな時じゃありません!」

 ユナは声をかけてきた相手、宙に浮かぶ機械のような妖精のような、風変わりな形の小型ロボに怒鳴り帰すが、その小型ロボ、正確には《光のマトリクス》と呼ばれるアンドロイドの一体、《英知のエルナー》が慌てた声を上げる。

「なあに? せっかくのオフだからこれからショッピングなのに……」
「それが、この近辺の次元定義係数が異常値を示しています! これは次元転移の前兆です!」
「定義ケース? 次元てんいって?」
「何か来ます!」

 エルナーの警告を上げた時、突然ユナの前方に奇妙な渦が現れる。

「うわわわ!? これの事!?」
「あ~! まだ食べてないです~!」

 渦の出現と同時に、周囲を暴風が荒れ狂い、そこにいた者達が逃げ惑う。
 ユーリィだけは、暴風で紙袋から飛ばされていくハンバーガーを必死になって追っていた。

「通常の空間転移ではありません! このエネルギー量だと時間、いえもっと別の…」

 エルナーの解析は、突然響いた地響きに遮られる。
 地響きの正体は、渦から突き出された脚が起こした物だった。

「あれはいったい……!」
「ロボット!?」

 突き出されたロボットを思わせる金属質の脚に引きずられるように、渦の中から更なる体が抜け出してくる。
 それは、巨大な四本足に、戦車の車体を載せたような奇怪な存在で、全身が金属のような光沢を放ち、車体の側面に赤い光を放つ部分もある。
 問題はその巨体で、一軒家ですら軽く押しつぶせるような巨大な存在が、白昼にいきなり市街地に出現した事に、それを見ていた者達は唖然とするしかなかった。

「おっきいです~」
「エルナー、あれはいったい何!?」
「分かりません! ただ…」

 エルナーの言葉は、再度遮られる。
 突如出現したその謎の存在の車体のような部分が光ったかと思うと、そこから赤い禍々しい光を放つビームが放たれ、その先にあったブティックを吹き飛ばしたからだった。

「きゃああああ!」
「わあああ!」

 事態が全く分からないが、危険な事だけは認識した人々が口々に悲鳴を上げながらその場から逃げ惑う。

「ユナ!」
「分かってる! 行くわよユーリィ!」
「はいです~!」

 周囲にビームを放ちまくる存在に、ユナの目が真剣な物へと変わり、手を上へとかざす。
 するとその身に纏っていた衣服がボディスーツへと変わったかと思うと、更にその上にプロテクターが装着されていく。
 ユナのもう一つの姿、《光の救世主》のバトルスーツ姿へと変じたユナは、その手に剣と銃、二つの役割を持つマトリクスディバイダーPlusをかざす。
 その隣では同じくバトルスーツ姿になったユーリィが、両手に剣・槍・銃に変化する2本一組の武器、双龍牙を構える。

「オフを台無しにしてくれたお礼をしてあげる!」
「え~い!」

 二人の少女が左右へと分かれ、それぞれの武器が左右の脚を狙う。
 外しようも無い一撃は謎の存在の脚をえぐるが、突然えぐられた傷口が無数の六角形のブロックに区切られたかと思うと、新たに生じたブロックが瞬く間に傷口を覆い、即座に再生してしまった。

「ウソ!? そんなんアリ!?」
「再生能力! しかもこんなに早い……」
「じゃあもう一撃です~!」

 ユーリィの双龍牙が再度謎の存在の脚をえぐるが、その傷も瞬く間に再生してしまった。

「どうなってるのエルナー!」
「半端な攻撃は効かないようです! もっと強力な…」

 三度、エルナーの言葉は今度は間近に飛来したビームによって遮られる。

「うわわわわ~!」
「何か、何か手は……」

 転げるようにしてユナはビームから逃げ、エルナーは謎の存在への有効攻撃方法を必死になって探ろうとする。

「ちょっとそこのアンタ! 何してくれてんのよ!」

 いきなりの怒声に、三人が思わずそちらへと振り向く。
 そこには、ユナ達と同じようなバトルスーツ(もっとも何故かバニーガールを思わせる奇抜な格好)姿の女性が、手にゴールドアイアンを持って謎の存在へと突きつけていた。

「せっかく、彼が最先端モード貢いでくれるトコだったのに、あんたがビームなんて撃ち込んでくれたせいで逃げちゃったじゃない!」

 よく見るとその女性が立っているのは一番最初にビームを撃ち込まれたブティック(のガレキ)で、彼女の髪もあちこち焦げている。

「ま、舞ちゃん……」

 その女性、ユナの通う白丘台女子高の担任教師・徳大寺 舞、またの名を《六本木の舞》が体から焦げ臭い匂いを漂わせながら謎の存在を睨みつける。

「あらユナ、ちょうどいいわ。これからこいつシバくの手伝いなさい!」
「それが舞、あれは非常に高い再生能力を持ってます。下手な攻撃は通用しません!」
「あに~!?」

 私怨MAXの舞が、エルナーの言葉に更に憤怒を高まらせる。

「だったら土下座してごめんなさい言うまでシバき続けるのよ!」
「だからそれをどうやって…」

 ビームを乱射しまくる相手に、エルナーも焦りを感じ始めた時だった。

「これは、また次元転移反応!?」
「ええ!! まだ来るの!?」
「来ます!」

 エルナーの声と同時に、戦闘が行われている地点の上空に再度、謎の渦が現れる。
 だが、そこから出てきたのは小さな二つの人影だった。

「……女の子?」

 シルエットを見たユナが、小さく呟いた。



「うわぁ~!」
「きゃああ!」

 甲高い悲鳴を上げながら、二人は虚空へと放り出される。

「えい、この!」

 その内の一人、海軍のセーラー服に身を包んだおかっぱ頭の小柄な少女は、その脚にまとった魔道エンジン内臓の震電型ストライカーユニットに魔力を注ぎ込み、なんとか体勢を立て直した。

「リーネちゃん!」
「芳佳ちゃん!」

 同僚で親友の名を呼びながら、互いに手を伸ばして掴みつつ、体勢を立て直した二人のウイッチは、そのまま上昇しながらあたりを見回す。

「ここ、どこ?」
「ウソ、さっきまで……」

 改めて上空から下を見た二人は、眼下に見た事もない高層ビル群が立ち並ぶのに絶句する。

「みんなは!?」
「私達だけ……?」

 他のウイッチの姿が見当たらない事に、二人の顔に困惑が浮かぶが、それは足元から飛来したビームによって消え去る。

「これって!」
「芳佳ちゃん、あそこ!」

 おさげ頭に、大人しそうな印象(胸除く)の少女が足元に蠢く存在を指差す。

「ネウロイ! 誰か戦ってる!」
「行こう、芳佳ちゃん!」
「うん!」

 二人のウイッチは力強く頷くと、それぞれの脚のストライカーユニットに魔力を注ぎ込み、急降下していった。


 上空から飛来した銃弾が、謎の存在に突き刺さる。

「あの子達だ!」
「実弾? しかも炸薬式? そんな古い装備を使って……いえ何かエネルギーを帯びている……ユナの力にも似た?」

 ユナの顔に突然出現した謎の少女達が敵ではないらしい事を悟った笑みが浮かぶが、エルナーは別の疑問を感じる。
 急降下した二人の少女の姿をエルナーはよく観察すると、二人とも両足に変わった飛行ユニットを装備しており、そこからエネルギー体のプロペラが旋回して彼女達を飛ばせているのが見えた。
 しかも、彼女達の頭には犬猫のような獣耳が生え、腰から尻尾まで生えている。

「彼女達は一体………」
「ようし、こっちも!」

 俄然やる気が出てきたユナが謎の存在に再度攻撃しようとした時、その上部が旋回し、そこにある砲塔のような物に赤い光が点る。

「いけない!」

 それが今までと比べ物にならない威力のビーム発射の予兆だと悟ったエルナーだったが、その脇を一つの影が通り過ぎる。

「危ない!」

 足に飛行ユニットを装備した小柄な少女は、急降下から水平飛行に移りながらユナの前に出ると、そこで垂直ホバリングしながら両手を前へと突き出す。
 すると少女の前に巨大な光のシールドが現れ、放たれたビームはそれに阻まれ、四散していく。

「すごい、なんて強力なシールド……」
「大丈夫!?」
「うん、ありがとう!」

 シールドを展開させながら、声をかけてきた少女に、ユナは満面の笑みとお礼で応える。

「私は神楽坂 ユナ。あなたは?」
「芳佳、宮藤 芳佳だよ」
「ありがとう芳佳ちゃん!」

 再度お礼を述べるユナだったが、芳佳の背に似合わない巨大な機関銃、九九式二号二型改13mm機関銃が背負われているのに小首を傾げる。

「物騒なの持ってるね」
「え? ウィッチならこれくらい……」
「ウイッチ? なにそれ?」
「え?」

 てっきりユナもウイッチだと思っていた芳佳だったが、ユナの手に握られたマトリクスディバイダーPlusを見て今度はこちらが首を傾げた。

「とりあえず後! こいつやっつけないと!」
「でも街の中になんで大型ネウロイが!?」
「ネウロイ? あれの事ですか?」
「ネウロイも知らないの…」

 疑問の声に芳佳がそちらを向き、そこに浮かんでいるエルナーに思わず目をしばたかせる。

「何これ? ユナさんの使い魔?」
「エルナーだよ、使い魔とかいうのじゃないけど……」
「知ってるなら教えてください! あのネウロイとかいう存在の弱点は?」
「コアだよ! どこかコアがあるから、それを壊さないと!」
「コア? でも、どこに?」
「えっと、坂本さんがいたらすぐ分かるんだけど……」

 首を傾げるユナに、芳佳も困惑するが、そこに再度ビームが飛来し、芳佳のシールドを揺らす。

「くっ!」
「大丈夫、芳佳ちゃん!」
「これくらい平気! どんどん攻撃して、装甲が壊れればコアが見えるはず!」
「了解! この~!!」

 ユナが中心となって、ネウロイに銃撃を叩き込んでいくが、表面の装甲は剥がれ落ちても即座に再生し、コアらしき物は見えてこない。

「あ~ん、全然ダメ~」
「頑張って! 私が守るから!」

 ユナが思わず愚痴をこぼすが、芳佳はそばにいる者全てを守るべく、更にシールドを巨大に展開させていく。

「そこです!」

 ネウロイの砲塔から再度強力なビームが放たれようとしたのを、上空からもう一人のウイッチ、リーネことリネット・ビショップが自分の身長ほどはあるボーイズMk1対戦車ライフルで正確に砲身を狙撃。
 装甲目標破壊用の強力な13・9mm弾が直撃した砲塔は放たれようとしたビームも巻き込んで誘爆するが、それもフィルムを逆に回すように再生していく。

「このままでは追い詰められる一方です! 私がサーチしてみます!」
「お願いエルナー!」

 エルナーがネウロイの周囲を旋回飛行しながら、ありったけのセンサーでネウロイをサーチしていく。
 飛来するビームをかわしながらのサーチに、苦労しながらもようやくエネルギー反応の違うポイントを発見した。

「有りました! 胴体部中央、コアらしき物の反応です!」
「ありがとうエルナー、って中央?」
「あの装甲の中!?」

 ようやく探り当てたコアが、分厚い装甲の中にある事を知った皆の顔が驚愕に彩られる。

「弱点さえ分かっちゃえば、簡単じゃない! こういう奴は腹が弱点って相場が決まって…」

 一人、息ようようと舞がネウロイの足をかわしながら胴体下部に潜り込み、ゴールドアイアンを構えるが、暗かったはずのネウロイ胴体下部に、無数の交点が出現する。

「え? うきゃあああぁぁ!」

 途端にネウロイの胴体下部全てから一斉にビームが照射され、舞が命からがらその場から転げ出す。

「そんなんあり!?」
「やはり上部を狙うしか……でもこの装甲の硬さでは……」
「うわあ! こっち来る~!」
「でもどうにかしないと街が……!」

 こちらへと突撃してくるネウロイにユナが慌てふためき、芳佳もシールドを解除して宙へと舞い上がった時だった。

「お待ちなさい!」

 凛とした声と共に、どこからともなく一輪のバラがネウロイの前に突き刺さる。

「かよわき花に迫る悪の影…けれどこの私が散らせはしない! お嬢様仮面ポリリーナ! 愛と共にここに参上!!」

 声のした先、そこに覆面を着け、手にステッキを持った一人の少女が立っていた。
 名乗りを上げるその少女、ポリリーナに皆の視線が集中する。

「きゃあ~! ポリリーナ様だ~!!」
「何だろ、あの人………」
「さあ………」


 黄色い歓声を上げるユナと対照的に芳佳とリーネは突然の登場に呆気に取られる。
 だがネウロイは容赦なくポリリーナに向かってビームを発射するが、ポリリーナは身軽な動きで宙へと舞い上がりながらビームを回避する。

「バッキンビュー!」

 ポリリーナが宙を舞いながら手にしたステッキを投じ、旋回しながらネウロイへと襲い掛かるが、その分厚い装甲を僅かに砕いただけでステッキはポリリーナの手元へと戻ってくる。

「キャ~! ステキ、ポリリーナ様~!」
「……ペリーヌさんみたい」
「そうだね」

 歓声を上げ続けるユナの隣へと着地したポリリーナだったが、自分の攻撃がほとんど効いておらず、しかも再生していく事に目を見開く。

「いい所に来てくれましたポリリーナ!」
「エルナー、あれは一体?」
「ネウロイと彼女達は呼んでいます」
「あの子達?」

 上空を舞う二人のウイッチを認めたポリリーナが、視線をネウロイへと向ける。

「あの胴体部の中央に弱点のコアらしき反応があります! しかしあの装甲と再生能力の前に手も足も出ません!」
「ならば、こちらも向こうの手と足を封じるのよ! 舞、足を狙って!」
「分かったわ!」

 ポリリーナが駆け出し、舞もそれに続く。
 飛来するビームをかわしながら、ポリリーナの手にしたステッキがムチへと変化し、舞の両肩からスパークを帯びた球体が発射される。

「バッキンビュー!」
「爆光球!」

 ムチがネウロイの左の前足を絡め取り、放たれた爆光球が右の前足を痺れさせる。

「今よ!」
「ユーリィに任せるですぅ!」

 ネウロイの動きが止まった所に、ユーリィが駆け出し、ネウロイの足を伝って胴体へと登っていく。

「クルクル~パ~ンチ!」

 掛け声と共に、ユーリィの腕が振り回され、拳がネウロイの胴体上部に叩き込まれる。
 見た目と裏腹に強力な威力の篭ったパンチが、一撃でネウロイの上部装甲を大きく歪ませた。

「すごい! 私達も!」
「芳佳ちゃん、一緒に撃って!」
「うん!」

 ユーリィの怪力に目を見張りながらも、芳佳がリーネを肩車するようなフォーメーションを組み、二つの銃口から魔力の篭った弾丸がユーリィが歪ませた装甲へと叩き込まれていく。
 次々と銃火と共に装甲が剥がれていき、やがて分厚い装甲の下から赤い光を放つクリスタルのような物が姿を現していく。

「見えた!」
「コアだ!」

 二人のウイッチが思わず笑みを浮かべた瞬間、二人の銃が同時に乾いた音を立てて銃火が止まる。

「あ……」
「弾切れ……」

 残弾が尽きた事に二人のウイッチの顔から血の気が引いていく。
 銃撃が止むと、ネウロイの装甲がすぐに再生を始める。
 コアが再度覆われていく直前に、コアを影が覆った。

「ライトニング~、スマーッシュ!!」

 上空へと飛び上がったユナが、大上段から光の力を帯びた刃を振り下ろし、コアが覆われる寸前に一刀両断する。
 光の一撃の前に、コアは一瞬で粉々に砕け散り、それに続いてネウロイの体も光の粒子となって砕け散り、霧散していく。

「やったあ~♪」
「ざまあみなさい!」
「ふう……何とかなりましたか」

 ユナ達が歓声をあげる中、芳佳とリーネも降下してきて間近へと着地する。

「ユナさん、すごかったよ」
「芳佳ちゃんもね。それに、さんじゃなくていいよ」
「え、でも……」
「一緒に戦ったんだから、お友達でいいでしょう? ね♪」
「……うん! そうだねユナちゃん!」

 笑みと共に差し出されたユナの手を、芳佳も笑みと共に握り返す。

「じゃあ改めて。私は神楽坂 ユナ、現役アイドルで《光の救世主》もやってるんだ」
「私は宮藤 芳佳。扶桑皇国海軍 遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊 連合軍第501統合戦闘航空団、軍曹だよ」
「ユナさんのパートナーで妹分のユーリィ・キューブ・神楽坂ですぅ」
「私はリネット・ビショップ。ブリタニア空軍 第11戦闘機集団610戦闘機中隊 連合軍第501統合戦闘航空団曹長です」
「軍曹に曹長って、あんたら軍人なわけ?」
「その年で?」

 舞とポリリーナの疑問の声に、逆に芳佳とリーネが首を傾げる。

「え? でもウイッチは大抵10代でしか戦えないし……」
「そもそも、ここはどこなんですか? 私達はロマーニャの上空にいたはず……」
「ロマーニャ? ここはネオ東京ですよ?」
「ネオ東京……東京!? ここが!?」
「そもそも、あなた達は扶桑皇国海軍とかブリタニア空軍と名乗ってますが、そんな国も部隊も存在しませんよ?」
「ええ!?」

 エルナーの説明に、芳佳は思わず大声を上げる。
 だが、リーネは別の物に気を取られていた。

「芳佳ちゃん、芳佳ちゃん、あれ……」
「あれって何リーネちゃん?」

 リーネが困惑の顔で、ある物を指差す。
 芳佳がその指の先を見ると、そこには戦闘被害を免れたカレンダー表示機能付き屋外時計があり、カレンダーにはAD2300 5 7と表示されていた。

「AD2300って……」
「何言ってんの、今年は西暦2300年じゃない」

 呆れた顔で言う舞の言葉に、リーネの瞳が大きく見開かれた。

「だって、私達がいたのは、西暦1945年ですよ!?」
「じゃあ、ひょっとしてここって……」
『未来!?』



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP2
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/11/21 19:27
EP2


 芳佳の手から発せられる暖かい光が、舞の体を包み、各所の傷が見る間に消えていく。

「これで大丈夫です」
「アンタ、便利な技持ってるのね~」
「芳佳ちゃんすご~い♪」
「負傷者はこれで全部、芳佳ちゃんの治癒魔法のお陰で全員生命の問題は無いだろうって言ってたよ」
「後はお巡りさんが片付けてくれるそうです~」

 負傷者の救出搬送、手当てを手伝っていたリーネやユーリィも駆け寄り、皆が安堵のため息を漏らす。

「安心したら、お腹すいちゃった」
「あはは、そうだね」
「ねえねえ、どこかでご飯食べようよ」
「え、でもお金持ってない……」
「助けてもらったお礼に、おごっちゃうよ♪」
「よ~し、ユナのおごりね」
「いっぱい食べるです~」
「舞ちゃんはおごられる理由ないよ……」
「うふふ、まあいいじゃない。それに、どこかで落ち着いて話をしたい所だし」
「ポリリーナ様がそう言うんだったら……」

 おごりと聞いて張り切る舞とユーリィを白い目でユナは睨むが、ポリリーナが笑いながらの賛同に渋々了承する。

「芳佳ちゃんは何食べたい? おいしいパスタ屋さん知ってるんだ」
「あの、おごってもらうんだったら、ぜいたくは……」
「それに、彼女の知らない物も多いでしょう。パスタでもなんでもいいですから、行きましょう」

 エルナーが急かす中、一行は空腹を満たすべくパスタ屋へと向かった。



「ごちそうさま~」
「ご馳走さまでした」
「すいません、私までおごってもらって……」
「いいからいいから。あっちに比べれば……」

 オープンカフェスタイルのテーブルで、食事を済ませた芳佳とリーネが礼を述べる。
 その隣のテーブルではユーリィがぶっ通しでメニューの端からパスタを次々と平らげて空の皿を重ね、臨席では一番高いメニューを頼んだ舞が食事しながら携帯電話で彼氏(別口)との会話に余念が無かった。

「さて、では話を始めましょう」
「何の?」
「彼女達についてです!」

 マジボケしているユナにエルナーが声を張り上げる。

「そ、そうだね。本当にここって、未来なの?」
「それなのですが、どうにも正確には貴方達の言う歴史と、この世界の歴史は違うようなのです」

 芳佳の問いに、エルナーは仮説交じりで説明を始める。

「貴方達の話だと、20世紀初頭、ネウロイと呼ばれる存在と人類は全面戦争に突入、特に貴方達のようなウイッチと呼ばれる存在が最前線に立ったそうですが、その時代、そんな未知の存在からの攻撃はありませんでしたし、ウィッチという言葉自体はありますが、意味がどうにも少し違うようです」
「けど、彼女達は確かにここに実在する」
「ええ、その通りです」

 ポリリーナの指摘に、エルナーも頷く。

「そして彼女達の装備です」

 オープンカフェの植え込みに立てかけてあるストライカーユニットと機関銃を見ながら、エルナーは続ける。

「この銃、今じゃ博物館でも行かなければまずお目にかかりませんし、ましてや実用に使える物なんて皆無でしょう」
「そうなんだ……」
「ちらっと見たけど、お巡りさんが見た事もない形の銃持ってたよ……」
「ああ、あれは非殺傷用のインパルスガンです。軍隊でも、リニアガンが今は主流ですからね」
「インパルス? リニア?」
「えと、それ何ですか?」
「まあ、それは後にしましょう。問題はこのストライカーユニットと呼ばれる物です。簡易サーチですが、確かに個々の部品は随分と古めかしい物です。しかし、システム自体は私自身、見た事も無いような理論構築で形成されています。恐らく、今の最新技術を持ってしても、製作は不可能でしょう」
「そこまで……つまり全く違う技術体系の産物という訳ね?」
「間違いありません。このストライカーユニットの設計理論を構築した人物は、相当な天才でしょう」
「それ、芳佳ちゃんのお父さんが作ったんだよ」
「え? 本当?」
「うん……もういないんだけどね」
「うわあ、すごいな~家のパパとえらい違い」

 ストライカーユニットを撫でながら、ユナが心底感心する。

「それともう一つ、これを見てください」

 エルナーの目から光が照射されたかと思うと、テーブルの上にある映像を映し出していく。

「これって、映写機?」
「エルナーさんって、頭いいだけでなく、こんな事も出来るんだ……」
「いいですから、これを」

 テーブルの上には、芳佳達が見た事のある戦闘機が遠くに飛ぶ中、一人の少女の後ろ姿が映し出される。
 その少女は、ユナと似てはいるがどこか甲冑のような古めかしいデザインのバトルスーツに身を包み、山中を駆けている。
 そしてその少女の前に、突然敵が現れると、少女はマトリクスディバイダーを手に立ち向かっていく。

「これって!」
「ネウロイ!?」

 芳佳とリーネがその敵、確かに彼女達が戦っていたネウロイと戦う少女を見て目を丸くする。
 だが、次の瞬間更に二人は目を大きく見開く。
 そのネウロイと戦う少女の顔が大写しになるが、それは芳佳そっくりの顔だった。

「私!?」
「ウソ……」
「いえ、彼女の名前は宮藤 ユウカ。ユナから何代か前の光の救世主です。そして彼女はこの敵を怪異と呼んでいました」

 その少女、ユウカは怪異を次々と倒し、更に先へと進む。
 彼女の進む先には、巨大な漆黒の竜巻のような物が、天高くそびえている。

「これって、ネウロイの巣!」
「どういう事だろ……」

 そこで映像は途切れ、芳佳とリーネは思わず互いを見つめる。

「ちょうど貴方達が居たという時代、突如出現したこの怪異に、当時光の救世主だった彼女は敢然と立ち向かい、これを封じた記録が残っています。かなり古い記録ですが」
「それってどういう事?」
「………」

 小首を傾げるユナに、エルナーはしばし沈黙する。

「……パラレルワールド」
「恐らくは」

 ポリリーナが発した一言に、エルナーは頷いた。

「パラレル……ワールド?」
「私、聞いた事ある……異世界とか、並行世界って呼ばれてる」
「ええ、つまりこの世界とよく似た、別の世界。芳佳が光の救世主だった世界、逆にユナが光の救世主じゃなかった世界、そういう様々な世界がこの宇宙とは違う時空に存在する。もっとも、私も実際に見るのは初めてですが………」
「う~ん、よくわかんない……」
「ユナはそうでしょうね。ただ、確かに彼女達は今、ここにいる。それはなによりも確かです」
「でも、じゃあどうしたら元の世界に戻れるんだろう………」
「501のみんなも無事だといいけど………」

 うなだれる芳佳とリーネだったが、そこでポリリーナがある事に気付いて口を開く。

「あのネウロイ、あれは貴方達がこの世界に飛ばされる前から戦ってたの?」
「あ、いえあの大型は似たようなタイプだったら別の部隊との交戦記録はあったけど……」
「私達は見るのも戦うのも初めてです」
「それって、貴方達とは別に飛ばされた可能性もあるって事じゃない?」
「あ……!」
「だとしたら、芳佳達の世界とユナ達の世界の接点は、他にもあるのかもしれません」
「本当ですか!?」
「それに、ひょっとしたら一緒に飛ばされた仲間達も、案外近い所にいるかもしれませんよ」

 エルナーの意見に、芳佳とリーネは顔を輝かせる。

「よし、じゃあ探しに行こうよ!」
「ユナちゃん……」
「お友達のお友達、ならほっておけないじゃん」
「……うん!」

 ユナの無邪気な笑みに、芳佳も笑みを返す。
 ちなみに、未だにユーリィは空の皿を積み重ね続け、舞は電話に夢中なままだった。



同時刻 ネオ東京郊外

 丁寧に整えられた巨大な庭園に、大きなテーブルがセットされている。
 その最前席に、一人の栗色の髪の少女が優雅な佇まいで座っている。
 そばに控えるメイドが彼女の前に芳醇な香りの紅茶をカップに満たし、背後へと下がると少女はカップを手に取り、静かに一口含む。

「エリカ様、今日はお招きありがとうございます」
「いいえ、今日は貴方達の日頃の努力をねぎらうために呼んだのだから、ゆっくりなさい」

 カップをソーサーに戻しながら、己の左右の席に並ぶエリカ7と呼ばれる少女達に少女は笑みを返す。
 その少女、この庭園を有する巨大な邸宅、そしてその主である香坂家の令嬢、香坂 エリカは、自分の取り巻きでもある左右の少女達にねぎらいの言葉をかける。

「ただ、久しぶりにみんなそろうと思ったのに半分というのが残念ね」
「アコとマコは銀河カップのために遠征、セリカは惑星スピドでレースの真っ最中です」

 エリカの右脇に座る、ややたれ目がちの少女、演劇部キャプテンの銀幕のミキこと白鳥 美紀がこの場にいないメンバーのスケジュールを応える。

「セリカは特に総合優勝がかかってますからね。気合入ってました」

 その隣、茶色の髪でプロポーションのいいフィギュアスケート部キャプテンの氷のミドリこと佐々木 緑が前に会った時の事を思い出す。

「こっちはリーグ終わっちゃったからな~」
「あ~、そういえば来月から強化合宿だった」

 エリカの左隣、短髪のいかにも熱血そうなソフトボール部キャプテン、闘魂のマミこと星山 麻美が呟く中、その隣、同じく短髪の快活そうなサッカー部キャプテン、ストライカー・ルイこと留衣・マリア・マーシーが小さく声を上げる。

「今日くらいはみんなゆっくりなさい。こんな優雅な日くらい…」
「ぁぁぁぁぁああああ!!」

 そう言いながらエリカが再度紅茶を手に取った時、どこからともなく声が近づいてきたかと思うと、上から降ってきた何かがテーブルに直撃、盛大な音と共にそれぞれの前にあった紅茶とケーキが宙を舞う。

「あいたたた、ここはどこですの?」

 ケーキと紅茶を派手に被りながら、テーブルに直撃した声の主、長い金髪に眼鏡をかけた少女が顔を上げる。

「ちょっと、そこの貴方」
「は、はい?」
「この香坂 エリカの優雅なティータイムに随分と派手な飛び入りね」
「こ、これはすいません! このガリア貴族ペリーヌ・クロステルマンの不覚です!」

 その少女、ペリーヌが慌てて頭を下げた時、唖然とその光景を見ていた他の者がペリーヌの両足のストライカーユニットと、背にあるブレン軽機関銃Mk.1、そして頭から生えるネコ耳と腰の尻尾に気付く。

「……この近くでこんな舞台の予定はあった?」
「いいえ、こんな変な戦争物はないわ」
「今貴族とか言ってなかった?」
「うん聞いた。でもガリアなんて聞いた事ないな?」

 エリカに怒られて平身低頭するペリーヌに、エリカ7は首を傾げる。

「あの、所でここはどこなのでしょう? 私はロマーニャ上空にいたはず………」
「ここはこの香坂 エリカの住まう香坂邸。ネオ東京の郊外よ」
「東京!? ここは扶桑だと言うんですの!?」
「扶桑? 貴方何を言って……」

 話が全く噛み合わない事をエリカがいぶかしんだ時だった。
 突然、テーブルの向こう側の空間に巨大な渦が出現する。

「何かしら、あれ……」
「あの渦は、あの時!」

 振り返ったペリーヌが、その渦が自分が飲み込まれた時と同じ物だと悟った時、突然そこから無数の影が出現する。

「今度は何ですの!?」
「ネウロイ! いえ違う?」

 その影、小型の戦闘機や戦車を模した無数の機械達が、渦から続々と庭園に溢れ出す。
 その機械が、一斉にこちらへと向いた瞬間、ペリーヌは直感的にテーブルからそちらへと飛び出しながらシールドを展開する。
 直後、謎の機械達から放たれた弾幕がペリーヌのシールドに阻まれる。

「きゃあ!」
「攻撃してきた!」
「エリカ様下がってください!」

 皆が驚く中、ペリーヌはシールドで必死になって皆を守り続ける。

「何がどうなってるか全然分かりませんが、ここは私に任せてくださいまし! 早く避難を!」

 ペリーヌが叫ぶ中、機械達の放った弾は庭園を穿ち、向こうにある邸宅にまで被害が及びかける。

「ふ、うふふふ……この香坂邸に攻撃とは、舐められた物ですわ! セキュリティ、オートディフェンス!」

 エリカの声と同時に、庭園の各所からランチャーやガトリングが競りあがったかと思うと、機械達に攻撃を開始する。
 だが、機械達の予想以上の固さに、放たれたミサイルや銃弾は弾かれ、逆に次々と破壊されていく。

「もう許しませんわ! この香坂 エリカ自ら不埒者を成敗してくれますわ!」

 怒号と共に、エリカの姿が紫を基調としたバトルスーツへと変ずる。

「あ、貴方ウイッチなんですの!?」
「ウィッチ? 何の事かしら?」

 ペリーヌが驚く中、エリカはその手にエレガントソードを構える。

「行きますわよ!」
『ハッ!』

 エリカの号令と同時に、エリカ7達も次々とバトルスーツ姿へと変じていく。

「私とエリカ様で相手をするわ! ミキは避難誘導、マミとルイはその警護を!」
「分かったわ!」「おっしゃあ!」「OK!」

 ミドリの指示で三人が腰を抜かしているメイドを引っつかみながら邸宅の方へと向かい、残る三人が機械達へと対峙する。

「空は任せてくださいまし!」
「任せましたわ!」

 事態が飲み込めないが、ともかく被害を最小限に留めるべく、ペリーヌがストライカーユニットの出力を最大にして飛び上がり、その真下でエリカとミドリが突撃していく。

「食らいなさい!」
「行きなさい!」

 エリカのエレガントソードとミドリの放つツララが戦車型を貫き、破壊していくが敵は更に沸いて出てくる。

「そこ!」

 邸宅へと向かう戦闘機型にペリーヌは銃撃を加えていくが、敵の多さに明らかに火力は足りていなかった。

「いけない!」

 邸宅目前に迫った戦闘機型に銃口を向けた所で、ペリーヌはその向こう、邸宅の窓から驚愕で凍り付いているメイドの姿に気付く。

「くっ!」

 とっさに銃口を下ろし、最大速度で邸宅の前へと出たペリーヌはシールドを張るが、そこに一斉攻撃が加わり、抑えきれずに邸宅へと弾き飛ばされ、窓の一枚を割って中へと飛び込んでしまう。

「あつつ………」
「だ、大丈夫?」
「これくらい平気ですわ! それよりも早く避難を!」

 先程のメイドが恐る恐る声をかけてくるのに、ペリーヌは怒鳴るように返しながら立ち上がった所で、そこが古めかしい武具が飾ってある部屋だと気付く。
 そしてそこに、立派な拵えのレイピアを見つけると、迷わず手に取った。

「これ、少しお借りしますわ!」
「え、それは…」

 メイドの返答も聞かず、ペリーヌはレイピアを鞘から引き抜き、それを手に再度舞い上がる。
 そして目前まで迫ってきた戦闘機型へとその切っ先を突き刺す。

「トネール!」

 掛け声と共にペリーヌの体から電撃が放たれ、それはレイピアを通じて相手を一撃で粉砕する。

「急いで! 邸宅の被害なんてエリカ様は気にしませんから!」
「食らえ、イエローカード!」
「大リーグシューター!」

 ペリーヌが電撃交じりの剣戟と銃撃で必死に防ぐ真下で、ミキが必死に使用人の避難誘導を行い、そこに押し寄せる敵にルイの放ったイエローカードとマミの大リーグシューターからの球撃がガードしている。

「行きますわよ、サイキックピース!」
「オーロラファンネル!」

 エリカのテレキネシスが、破壊された敵の残骸を操って敵に襲い掛かり、ミドリの操るファンネルがそれを援護する。
 だが、敵の多さとその防御力に、じわじわと押され始めていた。

「エリカ様! 避難は完了しました! ここは一時撤退を!」
「撤退? なぜ私が私の家から逃げ出すというのです!」
「しかし! く、スポットライトビーム!」

 ミキが手にしたスポットガンからのビームで応戦しながら撤退を進言するが、エリカは頑として応戦を続ける。

「そうです! 一度退けば、そう簡単に取り戻せないのです!」
「けどこの数は……!」

 ペリーヌも縦横無尽に宙を舞いながら戦うが、ファンネルでそれをサポートするミドリの目にも劣勢は明らかだった。

「もう二度と、家を、故郷を失う人を出すわけには!」

 ペリーヌが押し寄せる戦闘機型に銃口を向けてトリガーを引くが、手にした銃からは乾いた音だけが響き、銃弾は出てこない。

「弾切れ!? しかしまだ私にはこのレイピアがありますわ!」

 銃を投げ捨て、ペリーヌがレイピアを構えた時だった。

「シュトゥルム!」
「はあああぁぁ!!」

 突如上空から旋風が駆け抜け、無数の銃撃が機械達を貫く。

「これは!」
「ヤッホー、ツンツンメガネ無事?」
「苦戦しているようだな、クロステルマン中尉」

 ペリーヌのそばに、小柄で金髪で無邪気な顔をし、ダックスフンドの耳と尻尾を持つウィッチと、大型機関銃を二丁で持った黒髪を二つに束ね、気難しそうな顔にジャーマンポインターの耳と尻尾を持ったウィッチが飛来してくる。

「ハルトマン中尉! バルクホルン大尉!」
「何かこっちでドンパチしてるのが見えてさ、トゥルーデと来てみたんだ」
「話は後だ! ネウロイではないようだが、民間人への無差別攻撃は見過ごせないぞ!」
「へいへい、ともあれ、行くよ~!」

 新たに来た二人のウィッチ、大気を操る固有魔法を持つエーリカ・ハルトマンと怪力の固有魔法を持つゲルトルード・バルクホルンが戦場へと飛び込んでいく。

「エリカ様! 上空にまた誰か!」
「味方みたいです!」
「この際、手伝ってくれるのなら誰でも構いませんわ!」

 上空の敵を次々と薙ぎ倒していく二人のウイッチに、地上で応戦しているエリカ達も俄然勢いを取り返し、なんとか戦況を拮抗状態へと盛り返していく。

「このまま、一気に押し返しますわよ!」
『オー!』
「トゥルーデ、こっちも!」
「分かっている!」

 決着をつけるべく、全員が猛攻に打ってでる。
 謎の機械達もみるみる数を減らし、壊滅まであと僅かの時、突然先程とは比べ物にならない巨大な渦が虚空に現れる。

「な………」
「何あれ!?」

 予想外の事態に誰もが絶句する中、そこから巨大な機械仕掛けの足が進み出る。
 渦から現れたのは、巨大な歩行戦車、いや歩行戦艦とも言えるとてつもない巨大な敵で、その背後から新たなる敵影が無数に続く。

「これがこいつらの旗艦か!」
「こ、こんなのとどう戦えば……」
「何を言っているのです! この私とエリカ7の力を会わせれば…」
「危ないですわ!!」

 エリカがエレガントソードを歩行戦艦に向けた時、歩行戦艦の砲塔が光り、放たれたビームをウィッチ達が急降下して張ったシールドが辛くも防ぐ。

「うわ、なんて火力!」
「堪えろ!」
「くううぅ!」

 すさまじい出力に、三人のウィッチは魔力を振り絞り、シールドを張り続ける。
 ようやくビームが途切れた時、魔力をほとんど使ってしまったペリーヌの猫耳と尻尾が消え、地に手をつく。

「ツンツンメガネ!」
「下がれクロステルマン中尉! ここは私達が……」

 歩行戦艦の向こうから現れた無数の敵に、さすがのバルクホルンの顔にも焦りが浮かびそうになるが、それを気力で払いのける。

「まだ、戦えますわ……」
「無理よ! 貴方ずっと無理して…」

 立ち上がろうとするペリーヌを、ミキが慌てて支える。

「エリカ様!」
「……皆は退きなさい。私が後始末を致します」
「ダメです! ならば私達も…」

 エリカも多過ぎる敵に、プライドだけでその場に残ろうとする。

「あれ……?」

 そこで、ハルトマンが向こうから高速でこちらに向かってくる影に気付いた。

「……ウイッチ?」

 少女の影に機影が重なったそれを、ウイッチかと思ったハルトマンだったが、どんどん近づいて来るその姿がウイッチともエリカ達とも似て非なる物だと確認したが、それが何かを考えた時だった。

「行って、ディアフェンド!」

 掛け声と共に、三角形のアンカーがこちらへと飛来してくる。

「今度は何!?」
「分かりませんわ!」

 エリカとペリーヌも混乱する中、飛来したアンカーが戦闘機型の一体に突き刺さる。
 すると、アンカーから放たれたエネルギーが戦闘機型を侵食し、完全に捕らえた。

「行っけええぇぇーー!!」

 少女の掛け声と共に、アンカーは捕らえた敵ごと振り回され、そのまま周囲の敵を巻き込み、破砕していき、そして放たれて更に多くの敵を破壊していった。

「何あれ……」
「トゥルーデより無茶してる………」
「ヴァーミス! 地球はこのTH60 EXELICAが守ってみせる!」

 エリカ7もウィッチ達も唖然とする中、とんでもない戦い方を見せ付けた謎の少女、エグゼリカが機械達を指差して宣言する。
 すみれ色の髪に童顔、小柄なその少女は、格好は白いバトルスーツにも見えるが、その周囲に半自律随伴砲撃艦「アールスティア」とアンカーユニット「ディアフェンド」を従え、その目に闘志を漲らせている。

「ねえねえ、そこの君。あれはヴァーミスって言うの?」
「そうですけど、貴方は?」
「私? 私はカールスラント空軍第52戦闘航空団第2飛行隊・501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》のエーリカ・ハルトマン中尉って言うんだ」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》」
「……エグゼリカでいい?」
「ええいいですよ」

 間近に飛んできたハルトマンの問いにエグセリカは笑顔で答えるが、すぐにその顔は真剣な顔になる。

「そこのお前! あれを知っているなら、弱点は!」
「トゥルーデ、もうちょっとやさしく聞くとかさ……」
「ヴァーミスは金属細胞と生体装甲を持つ自律戦闘単位集団です! 圧倒的な破壊力で完全に破壊しない限り、接触した相手から情報を取り込んで更に進化した兵器となります!」
「ようは、ネウロイと一緒か!」
「多分ね」
「行きます!」

 エグゼリカの説明をなんとか理解したバルクホルンとハルトマンだったが、エグゼリカは単騎で突撃していく。

「アールスティア!」

 突撃するエグゼリカをアールスティアが砲撃で援護し、ディアフェンドで再度ヴァーミスをキャプチャーして振り回しながら叩きつけていく。
 それを見ていたバルクホルンだったが、ふと手を叩く。

「そうか、ああすればいいのか」
「………トゥルーデ?」

 何か嫌な予感がしたハルトマンがバルクホルンを見るが、すでにバルクホルンは真下の戦車型ヴァーミスに急降下しながら、両手のMG42機関銃を投げ捨てる。

「う、おおおおぉぉぉ!」

 手近にいたヴァーミスを、バルクホルンは固有魔法の怪力で持ち上げていく。
 そしてそれを力任せにぶん投げるが、一体を巻き込んだだけで、しかも小破に終わる。

「力が足りんか………!」
「こっちだこっち!」
「センタリングだ!」

 破壊力が足りない事を悟るバルクホルンだったが、そこでマミとルイが前へと駆け出す。
 意図する事に気付いたバルクホルンが、再度ヴァーミスを持ち上げ、マミへと全力で投じる。

「ダブルヘッダー!」

 マミは手にしたビームバットで飛んできたヴァーミスをジャストミートし、全力で打ち上げる。
 打撃の破壊力で粉砕されながら他のヴァーミスを巻き込んで直撃、爆発四散するのを見たルイが今度はこっちだとサインを送る。

「おりゃあああ!」
「ハリケーンシュート!」

 飛んできたヴァーミスを、マミの全力のシュートが蹴り上げ、別のヴァーミス二体を巻き込んで爆発四散する。

「よっし!」
「じゃあ今度は2ランだ!」
「おりゃあああ!」
「こっちはハットトリックだ!」
「どりゃああ!」

 バルクホルンの怪力で投じられたヴァーミスをマミとルイが打ち返し、蹴り返して敵がどんどん減っていく。

「うわあ、無茶苦茶だ……」
「アンカーユニットも無しにあんな事が出来るなんて……」

 上空からその様を見ていたハルトマンがあきれ返り、エグゼリカもさすがに唖然とする。

「よし、私達は大物を相手しますわよ!」
「心得ましたわ!」

 小型のヴァーミスが次々と倒されていく中、エリカとペリーヌは歩行戦艦型ヴァーミスと対峙する。

「攻撃を大型に集中させてください! 小型と装甲は段違いです!」
「じゃあ行くぞ!」
「ここからクライマックスシリーズだ!」
「チャンピオンシップはもらった!」

 エグゼリカの忠告を聞いたバルクホルンが、マミとルイへの投擲の方向を変え、マミとルイが攻撃を大型ヴァーミスへと集中させる。

「サイキックピース!」
「トリプルアクセル!」
「イルミネーションレーザー!」

 エリカが破壊された鉄くずや敵の破片をまとめてぶつけ、ミドリの華麗なスピンが穿ち、ミキのパラスポキャノンから放たれた七色のレーザーがえぐっていく。

「ディアフェンド! 最大出力!」

 エグゼリカが残っていた小型ヴァーミスをまとめてキャプチャーし、最大出力で振り回す。

「行っ、けえええぇぇぇーーー!!」

 巨大な塊となったヴァーミスが大型ヴァーミスに直撃、その装甲が一気に破壊されていき、その中央に浮かぶ制御コアを露にする。

「そこが弱点ですわね!」

 ペリーヌが残った魔力を振り絞って舞い上がり、コアへと突撃していく。
 そこへ、己のテレキネシスで強引に飛んだエリカも併走した。

「独り占めなんて許しませんわよ?」
「なら、私達で優雅に行きましょう!」

 二人の顔に笑みが浮かび、それぞれの剣が構えられる。

「エレガントダンス!」
「はああぁ!」

 エリカの振るうエレガントソードが優雅な舞を伴った剣舞と共に振るわれ、ペリーヌの振るうレイピアが無数の斬撃と突きとなり、制御コアを刻んでいく。

「これで、終わりですわ!」
「その通り! トネール!」

 エレガントソードの斬撃がコアを大きく両断し、そこに突き立てられたレイピアから放たれた電撃がコアを貫き、限界に達した制御コアが粉々に砕け散る。
 力を失い、爆破するヴァーミスからペリーヌはエリカを伴って脱出、離れた所に降り立つ。

「やりましたわね」
「この香坂 エリカにとって、これ位当然ですわ」
『オホホホホ!』

 まるでそろったように、二人は口元に手を当てて哄笑する。

「うわ、ペリーヌが二人いるみたい……」
「あの方、エリカ様に似てるみたいですね」

 遠巻きからそれを見ていたハルトマンとミドリが思わず呟く。

「まさか、ヴァーミスがこの地球にまで来るなんて………」

 そこへ舞い降りたエグゼリカが、残存した敵がいない事を確認しながら漏らす。

「ヴァーミス、と言ったな。あれはどこから来たのだ?」
「地球って事は、他の惑星から?」

 バルクホルンの問いに、ミキが続けた所でその言葉にバルクホルンが怪訝な顔をする。

「他の惑星? そんなSF小説のような事があるのか?」
「何を言ってるの? 今銀河には居住可能な惑星が無数にあるじゃない」
「ま、待て。銀河にだと!? 我がカールスランドでもまだ有人宇宙飛行にすら成功してないぞ!?」
「? それこ何を言ってるの? 確か、人類が宇宙に出てからもう300年以上は経ってるのよ?」
「300年!? 今は一体西暦何年だ!?」
「今年は西暦2300年だけど?」
「うん間違いない」
「ば、馬鹿を言うな! 私達が居たのは西暦1945年だぞ!」
「はあ?」「それこそそんな馬鹿な事が……」

 ウイッチとエリカ7のかみ合わない会話を聞いていたエグゼリカの顔がこちらへと向けられ、その顔に驚愕が浮かぶ。

「ひょっとして、あなた達も時空転送に巻き込まれた……」
「時空転送? 何それ?」
「もう何が何やら……そういえばこれ、お返ししますわ」
「いえ、私達を守ってくれたお礼に差し上げますわ」

 混乱しながらも、ペリーヌがレイピアをエリカに差し出すが、エリカが笑みを浮かべてそれを断る。

「しかし、これは相当な…」

 高価な業物だと気付いていたペリーヌが何気なくそのレイピアを見た所で、その柄に刻まれた紋章に気付く。

「こ、これはクロステルマン家の紋章!? なぜここに?」
「? それは大分昔に、あるフランス貴族の令嬢が我が香坂家に嫁ぐ時、花嫁道具の一つとして持参したとか……」
「クロステルマン家が? 扶桑に? そんな話聞いた事もありませんわ!?」
「そう言われましても………」

 別の意味で混乱の度合いが深まる中、エリカの懐で軽快なメロディが鳴る。

「はい?」
「あらユナからだわ」

 エリカは懐から携帯電話を取り出し、着信ボタンを押す。
 そこから3D映像が浮かび上がり、送信相手を映し出した。

「な、何ですのそれ!」
「3D携帯電話も知りませんの? はいこちらエリカ」
『あ、エリカちゃん! ちょっとお話があるんだけど!』
「すいませんけどユナ、こちらはちょっと立込んでまして…」
『ひょっとして、ウィッチを名乗る少女がそこにいませんか!?』

 通話にエルナーが割り込み、エリカの視線がペリーヌやバルクホルン達に注がれる。

「……おりますけど」
『やはり! 大規模な時空転移反応があなたの家の方角からあったんです! そこにいるウィッチは、パラレルワールドから来た人達です!』
「パラレルワールド? どういう事ですのエルナー?」
『だ、誰がいるんですかそこに!』
「ちょ、宮藤さん!?」

 3D映像に割り込んできた芳佳に、ペリーヌも思わず割り込む。

『あ、ペリーヌさん! 他にも誰かいますか!』
「バルクホルン大尉と、ハルトマン中尉がいますわ!」
『こっちはリーネちゃんと一緒です!』
「宮藤とリーネもいるのか!」
「え、どこどこ?」
「ちょっと、そんなに割り込まないで下さい!」

 バルクホルンとハルトマンも割り込み、エリカも思わず悲鳴を上げる。

『ともかく、今からそちらに向かいます! 重要な話がありますから!』
「こちらにも、それに詳しそうな方が一人おります。お待ちしておりますわ」

 エグゼリカの方をちらりと見ながら、エリカは電話を切る。

「避難していた者達に帰還を。それと新しくお茶の用意をさせておきなさい」
「一体、何が起きてるんでしょう?」
「さあ? 厄介な事なのは間違いないですわね」
「確かに」

 ミドリの呟きに、エリカとペリーヌは同時にため息を漏らした。



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP3
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/11/21 11:01
EP3


 ティーカップに満たされた琥珀色の液体を、エリカは優雅に口腔に入れる。
 広がる芳醇な香りと味わいに、思わず吐息を漏らす。

「このケーキおいし~」
「ユーリィこれとそれも食べるです~」
「ユーリィちゃん、お腹壊すよ?」
「うわ、アッサムのゴールデンチップス……王室御用達の紅茶だよこれ」
「あなた達、お茶くらいもう少し静かにたしなめませんの?」
「すまないが、今は栄養の補充が優先だ」
「あ、これお替り~」
「皆さん余裕ですね……」

 新たにセットされた大きなテーブルの両脇で、少女達がハイティー方式で出されたケーキと紅茶を次々と流し込んでいく。
 その向こうでは、先程のヴァーミスとの戦闘で破壊された香坂邸の復旧がすでに始められていた。

「何か、すごい状態になったわね」
「まったくです」

 居並ぶ面々を見たポリリーナが、紅茶をすすりながら思わず漏らした言葉に、エルナーも反応する。

「何がどうなっているのか、誰か説明してほしいものですわね」
「そうだ! 一体どうなっている!」

 エリカのぼやきに、バルクホルンも反応して立ち上がる。

「トゥルーデ、クリームついてる」
「はっ!?」

 ハルトマンに指摘され、バルクホルンは慌てて口元を拭う。
 その光景に思わず笑みをもらしながら、エグゼリカが立ち上がった。

「ここを襲撃した敵は《ヴァーミス》と言います。私の住んでいた星系に突然襲撃を仕掛けてきた、自律戦闘単位集団。超惑星規模防衛組織チルダは、そのヴァーミスに対抗するため、私達、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》を製造投入。戦況は激化の一途を辿り、私はその途中でヴァーミスの撤退転送に巻き込まれ、この地球に辿り付きました」
「待て。製造投入、だと?」
「そうか、あなたは機械人のような存在なんですね?」
「はい」
「へ~、亜弥乎ちゃんと同じか~」

 エグゼリカの説明に、ウィッチ達は困惑するが、似たような存在を知っているユナ達は一応納得した。

「けれど、そんな闘いの話なんて聞いた事ないわ?」
「そうね、香坂財閥のネットワークでもそんな情報は皆無よ」
「それが、転移その物が不完全な物だったらしく、元の星系の場所すら私にも分からないんです。そのため、私は姉さんと共に、戦闘による破損を修復しながら、この地球で暮らしていく事にしたのです。まさか、今になってヴァーミスが地球襲撃を開始するとは………」
「ええい、さっぱり分からん!」

 話に全くついていけないバルクホルンが思わずテーブルを立ち上がりながら叩き、その反動で幾つかのティーカップが転げて中身をぶちまける。

「わあ!」
「まだ飲んでる途中だったのに!」
「あ、すまん………」

 あちこちで悲鳴が上がり、バルクホルンが身を小さくする。

「まだ断定できませんが、恐らくエグゼリカ、貴方もパラレルワールドから来た可能性があります」
「私も? じゃああの人達も………」
「だから何の話だ!」
「ここは、貴方達のいた世界とは似て非なる世界だという事です」

 エルナーの説明に、思考が追いつかないバルクホルンは顔を更にしかめる。

「そうですね、向こうで動いている作業機械を見てください。似たような物はそちらでもあるでしょうけど、あそこまで進んでましたか?」

 エルナーの示した先、作業中の無人機械やホバー機械の数々に、バルクホルンは言葉を詰まらせる。

「………あんな物は、カールスラントにもまだ無い」
「そうでしょ、なぜなら貴方達のいた世界にはまだ存在していない機械です。逆に、貴方達のようなウイッチ、そしてストライカーユニット、それはこの世界には存在してません。そういう存在していない物が存在しあう異なる世界、それがパラレルワールドです」
「……信じられん」
「信じるも信じないも、今こうしてこんな事になってるじゃん」

 あっさりと状況を受け入れたハルトマンが呟くが、バルクホルンは未だに混乱している。

「……ここがどこか違う所だという事は認識した。で、どうやったら戻れるのだ」
「……それなんですが」

 エルナーは言葉を濁し、ちらりとエグゼリカの方を見る。

「元世界の空間座標と、大型転送装置があれば……」
「それはどこにある!」
「………彼女が転移に巻き込まれて、そのまま地球にいる。つまりそういう事ですよ」

 エルナーの言葉の意味を理解したバルクホルンの顔が、ゆっくりと青くなっていく。

「つ、つまり私達は帰れないという事か!?」
「まだそう決まった訳では……」
「貴方達がこの世界に転移された要因を見つけ出し、解析していけば、何か糸口が分かるかも」
「そんな悠長な事をしてられるか! 一刻も早く戻らねば、私は脱走兵になってしまう! 敗北主義者として扱われ、今までの戦歴も勲章も抹消され、命惜しさに逃げ出した惨めな軍人崩れになってしまうのだ! いや、私だけならいい! その汚名はクリスにまで及んでしまう! 何が何でもそれだけは避けねば!」
「落ち着いてくださいバルクホルンさん!」
「大尉、気を確かに!」

 完全に錯乱しているバルクホルンを、芳佳とリーネがなんとか押さえてなだめようと苦心する。

「もうちょっと落ち着きのある人に見えたけど……」
「根が真面目過ぎると、こういう時ああなる物らしい……」
「どうしよ、あれ?」
「さあ……」

 エリカ7もどうすればいいか迷うが、それまで妙に静かだったペリーヌが席を立つと、紅茶の道具が置いているワゴンに近寄り、予備のカップにそこにあるビンの中身を入れる。

「バルクホルン大尉、失礼します!」
「むぐ!?」

 カップを手に、バルクホルンの前まで歩み寄ったペリーヌはその中身、紅茶の香り付け用においてあったブランデーを一気にバルクホルンの口内に流し込む。
 薄めもしないブランデーを一気に飲み込んだバルクホルンの顔が一気に赤みを増し、そして静かになる。

「げ、げほほ!」
「大人しくなりましたね」
「それ、20年物のXOコニャックですわよ? 一息に飲む物ではございませんわ」
「エリカちゃん、それ以前に未成年にお酒は……」
「カールスラントだと16歳以上はOKだよ。バルクホルンは全然飲まないけど」
「あ、あらりまえだ! 軍人はる者、アルほールなぞ…」

 アルコール度50はある蒸留酒を一気飲みしたため、バルクホルンのろれつがやや怪しくなっている。

「ほらほらトゥルーデ、指揮官なんだからしっかりしないと」
「指揮官?」
「だってそうじゃん。ミーナ隊長も坂本少佐もいないし、それだと階級はトゥルーデが一番上じゃん」
「そうか、そうだな、うん。カールスラント軍人、しかも指揮官たる者、冷静を務めねば……」

 まだ顔が赤いが、なんとか普段の落ち着きを取り戻したバルクホルンが席に座る。

「すいません、騒がしくして……」
「いえ、多分彼女の反応が普通なのかもしれないわね」
「私も地球に飛ばされた時は随分と混乱しました………」

 芳佳が謝るが、ポリリーナとエグゼリカがむしろ認めるようにしてその場を諭す。

「ともあれ、今分かっている事を整理しましょう。彼女達501小隊ウィッチが謎の時空転移に巻き込まれ、この世界に飛んできた。それよりずっと前にエグゼリカもこの世界に。そして今、ウィッチ達の転移と同時に彼女達が戦っていた敵、ネウロイもこの世界に出現、それと一緒に、エグゼリカが戦っていたヴァーミスも出現した。私には、これらがバラバラの事とはとても思えません」
「私も同意見ね」
「つまり、どういう事?」

 エルナーの推論にポリリーナが賛同するが、ユナは首を傾げる。

「パラレルワールドからの多数の転移、これは偶然ではなく、何かの要因があるという事です。もっとも大規模な災害か、人災かまでは分かりませんが………」
「待ちなさい。だとしたら、これで終わりではなく、始まりという事かしら?」
『!!』

 エリカの言葉に、全員に緊張が走る。

「その可能性は大いにあります」
「我々とネウロイ以外に、まだ何かが来ると言うのか!?」
「もしくは、別の世界にすでに現れているか。断定はできませんが、否定もできません」

 バルクホルンの言葉と、それを肯定も否定もしないエルナーの言葉に、全員がざわめき始める。

「そしてそれが何であれ、この世界に仇なす存在ならば、光の救世主であるユナは立ち向かわねばなりません」
「それが光の救世主の宿命、だもんね」
「ユーリィもいるです~」
「私もいるわ」
「めんどくさいけど、やるしかないみたいね~」

 意気を上げるユナの周りに、ユーリィ、ポリリーナ、舞が集う。

「ここがどこであれ、ネウロイが襲撃してくるならば、我々501小隊は立ち向かうのが仕事だ」
「それが、私達ストライクウィッチーズです!」
「そうだね、芳佳ちゃん!」
「その通りですわ」
「ネウロイ以外の相手するのも、面白そうだしね」

 バルクホルンの宣言に、芳佳が力強く立ち上がり、リーネ、ペリーヌ、ハルトマンもそれに頷く。

「ヴァーミスの襲撃が始まったのならば、戦うのがトリガーハートの目的、そしてこの地球を守るのが私の選んだ目的です」

 エグゼリカがその意思を強く表す。

「敵が何であろうと、私の家を破壊した御礼はしてさしあげませんと。無論その黒幕がいるとしたら、その方にもたっぷりと返してあげますわ! この香坂 エリカの名の下に!」
「エリカ様がそう言われるのでしたら」
「私達、エリカ7はそれに付き従うだけです」
「フェアプレー精神の無い連中が相手みたいだし」
「取られたゴールの分、倍にしてやる!」

 エリカが誓うのを、ミドリとミキが静かに従い、マミとルイはリターンマッチに闘志を燃やす。

「それでは、皆さん力を合わせ、この一連の転移解決のため、共に戦いましょう!」
『お~!!』

 少女達が皆、拳を突き上げて一致団結を誓う。

「だとしたら、まず問題がある」
「補給、ですね?」
「ああ、残弾が少ない。どこかで補給する必要があるが……」

 バルクホルンの問いかけに、エルナーは悩む。

「貴方達ウィッチの使う銃は、今では完全に骨董品ですからね……弾薬のアテは……」
「あら、なんでしたら最新型のを香坂財閥で用意しますわよ?」
「それが使えればいいのですが……」

 ある懸念を抱いていたエルナーだったが、そこにヘルメットに執事服を着た初老の男性が、一冊の本を持ってくる。

「見つかりました、お嬢様」
「ご苦労」

 すこしホコリっぽいその本を手に取り、エリカはあるページを探す。

「ありましたわ」
「見せてくださいまし!」

 エリカが指差したページを、ペリーヌはものすごい勢いで本をひったくって覗き込む。

「あの、その本なんです?」
「香坂家の家系記録書ですわ。彼女が知りたい事があるというので」

 芳佳の質問にエリカが答えるが、そこでペリーヌがその本を手に小刻みに震えているのに気付く。

「え……いや………あの………」
「ペリーヌさん?」
「何か面白い事書いてるの?」
「どれどれ?」

 ペリーヌのただならぬ様子に、皆も不審と興味を持ち、ハルトマンが硬直しているペリーヌから記録書を抜き取り、テーブルの上に広げた。

「あれ?」
「な!?」
「これって……」
「ペリーヌさん!?」

 そのページには、モノクロで随分古びている一枚の女性の写真が載っている。
 しかもその女性は、メガネをかけておらず、随分と大人びているがペリーヌそっくりの顔をしていた。

「これは……どうやら彼女の並列存在のようですね」
「光の救世主だった私みたいな?」
「ええ」

 エルナーも興味を持ったのか、そのページを読み上げる。

「ええと、香坂 ピエレッテ。旧姓ピエレッテ・H・クロステルマン。フランス貴族、クロステルマン家の血筋に生まれ、戦後フランス復興と文化財保護に尽力。同じく文化財保護運動をしていた後の8代目香坂家当主、香坂 満雄と出会い、その妻となる」
「貴族としては、随分と変わった名前ね」
「確か、ピエレッテって女ピエロって意味だたはず」
「その名で呼ばないでくださいまし!」

 フランス語の名前の意味を知っていたポリリーナとミキが呟いたのを、硬直していたペリーヌが思わず怒鳴り帰し、はっとして口をつむぐ。

「その名とは?」
「………ピエレッテ・H・クロステルマンはお婆様がつけてくれた、私の本名ですわ」
「じゃあペリーヌってのは、あだ名なんですか?」
「ええまあ……坂本少佐にしかお教えしてなかったのに………」

 バルクホルンと芳佳が、顔を赤くしながらそっぽを向いて応えるペリーヌと写真の女性を交互に見る。

「ちょっと待った。これって、彼女のご先祖なんだよね?」
「ええ、そうですわよ」
「じゃあ、この人、ペリーヌの子孫って事になるんじゃない?」
「正確には並列存在の子孫ですから、微妙に違いますが……」

 ハルトマンの指摘にエリカとエルナーが補足した所で、再度ペリーヌが硬直する。

「……子孫? 私の………?」
「そういえば、エリカ様に雰囲気は似てますけど」
「普段からエラそうなトコはツンツンメガネと一緒だし」
「いや、並列存在だからと言っても、性格とか遺伝子も一緒とは限りませんが……」

 好き放題言う面々にゆっくりと振り返りながら、ペリーヌが完全に彫像と化す。
 だがそこで、エリカが席を立ち上がるとペリーヌの前まで歩み寄り、両肩に手を置く。

「私は、貴方のような方が先祖というのなら、誇りに思いますわ」
「え?」
「先程の闘い、そしてそのプライド、貴族のお嬢様として、これ程完璧な方は見た事がありません。このような方の血を受け継いでいるのなら、この私の完全無欠なお嬢様ぶりにも納得がいきますわ。何一つ、恥じる事はありません」
「エリカちゃんがあんなに人の事褒めるなんて……」
「暗に自画自賛してる気もしますが」
「まあ、ペリーヌさんも悪い気はしないと思いますけど」

 どこか恍惚とした目でペリーヌを見ているエリカに、ユナ、エルナー、芳佳がひそひそと呟く。

「改めて、このレイピアは貴方の物です。銀河一のお嬢様としての責務を果たすため、共に戦いましょう!」
「ええ! 分かりましたわ!」

 完全に意気投合したのか、二人が手を取り合い、目じりに涙まで浮かべている。
 その光景を、皆はどこか生ぬるい視線で見つめていた。

「え~と、まずはこの後の行動方針を決めないと」
「必要なのは補給と情報だ。補給は何とかなるようだが、情報が全く足りん。他の501小隊のメンバー6名の安否も気になる」
「坂本さんやサーニャちゃん、どこにいるんだろう……」

 エルナーの提案に、即座にバルクホルンが答える。
 その内容に、他のメンバーを心配してウィッチ達の顔が曇る。

「う~ん、私のセンサーでは限度がありますからね………ここはもっと高度なシステムを持つ所を頼る事にしましょう」
「高度……こうど……ああ、ミラージュね」
「ええ、永遠のプリンセス号なら、何か分かるかもしれません」
「また随分と大層な名だが、戦艦か何かか?」
「そうですよ、見てビックリしないでください」
「あの、次元転移反応なら、微弱なのを姉さんが感知して向かってます。太陽系外からかもしれないと言ってましたが」
「う~ん、それも気になりますね。ミサキにも連絡を取っておきましょう」
「ミサキちゃん元気かな~。最近お仕事忙しくてメールもあまり来ないんだ」
「じゃあ、上に上がる準備をしましょう。クルーザーはこちらで用意するから、全員支度を」

 エグゼリカからの情報も気になるが、とにかく思いつく限りの手を打ちながら、ポリリーナが準備に取り掛かる。
 ちなみに、他の全員はまず目の前のケーキを食い尽くす所から始めていた。

「よし、栄養の補給は完了した」
「トゥルーデ、今度は鼻についてる」
「ミドリ、アコとマコ、セリカに連絡を」
「分かりました」
「私は先に行ってます。上の戦艦にですね?」
「単騎で大気圏出れるんですか。それではミラージュには連絡しておくので、現在分かっているデータを全てお渡しします」
「医療品は私が持ちます! 実家は診療所やってるんです!」
「こっちも、呼べる人みんなに連絡してみる!」
「じゃあ、出発よ!」
『お~!』



 乾いた音を立てて、最後の弾丸を吐き出した銃が沈黙する。

「くっ……!」

 連射のし過ぎで、すでに銃身が焼け付きかけていた銃を少女はためらい無く投げ捨て、片手に握っていた扶桑刀を正眼に構える。

「こいつは、なんだ?」

 呟きながら、少女は刀を握っていない手で右目を覆っている眼帯を外す。
 眼帯の下からは、瞳に魔力の篭った赤い光を宿した《魔眼》がその固有魔力で今彼女が戦っている相手を文字通り見透かした。

(コアが無い、という事はネウロイではない。だが、機械とも生き物とも分からない?)

 その相手、三角翼の巨大な爆撃機のような敵に、少女は持てる力の全てをぶつけ、戦っていた。

(他の者は返答も姿も無い……一体ここはどこだ?)

 虚空を旋回しながら、眼下に広がる雪原に少女は疑問を浮かべるが、今はまず目の前の突如として襲ってきた謎の敵に専念する事にした。

(魔力がもうほとんど残っていない………これで、決める! 胴体部中央、ネウロイの物とは違うが、コアらしき反応。そこに狙いを定める!)

「はああああぁぁ、烈風斬!!」

 残った魔力を全て注ぎ込み、手にした扶桑刀からオーラのような光が立ち上がる。
 そして、揺らめく白刃を大上段に構え、一気に振り下ろした。
 白刃からは凝縮された魔力の斬撃波がほとばしり、相手の胴体部を半ばまで一気に両断した。

「これで……う!?」

 魔力の大規模使用で、少女の体から力が抜け落ちていく。
 なんとか残った力で雪原に不時着しようとした時、相手の体が今までとは明らかに遅いが、再生を始めている事に気付いた。

「浅かったのか………!」

 再度上空へと舞い上がろうとした少女だったが、両足のストライカーユニットを起動させる魔力も無く、雪原に倒れこみかける。

「せめて……一太刀………」

 杖代わりに雪原に突き立てた扶桑刀を手に少女は構えようとするが、疲労感がそれを上回っていく。

(これまでか!?)

 少女が歯噛みし、覚悟を決めた時だった。
 突然、どこかから強力なビームが飛来し、再生しかけていた相手のコアを貫く。

「!?」

 驚いた少女が、ビームの飛来した方向を見るが、そこには何も見えない。
 魔眼を使おうと眼帯に手をかけた所で、とうとう限界が来た少女はそのまま倒れこんでしまう。

「次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。現時点を持って貴方を私のマスターとして登録いたします」
(誰かいるのか……マスター? 一体……)

 薄れていく意識で聞こえてきた声に、少女は疑問を覚えるが、疲労が彼女の意識を完全に途絶させる。
 その彼女のそばに、小さな影が降り立つ。

「生命反応、低下。緊急の救助措置が必要と認識。救助ビーコン、発動」

 小さな影が呟くと程なく救助ビーコンが全方位に流される。
 それ程時間を待たずに、上空に一隻のクルーザーが姿を現していく。

「マスター、もう少しの辛抱です。私には、貴方が必要なのです………」



「う………」

 短く呻いた後、少女はゆっくりと目を開ける。

「ここは……」

 そこは小さな部屋で、あちこちに見慣れない機械が置いてある。
 その中央にあるベッドに寝かされた自分の体を見れば、手当てがほどこしてあり、枕元に愛用の眼帯と銃、そして扶桑刀が立てかけてあった。

「そうだ、私は…」
「目が覚めたようね」

 部屋のドアが突然スライドし、そこから一人の少女が姿を現す。
 長い黒髪を二つにわけ、どこか静かな雰囲気をまとった少女は、手にしたカップを差し出した。

「コーヒーでいい?」
「ああ、すまない」

 ベッドの上にいる、こちらも長い黒髪を後ろでしばった少女は、半身を起こしながら差し出されたコーヒーを受け取り、それを静かに嚥下する。

「落ち着いた?」
「一応は。すまないが、ここはどこだ?」
「私のクルーザーの中よ。あなたは、謎の敵と戦って倒れてたの。そこを私が救助した。いえ、正確には助けてくれたのは彼女よ」

 そういって、コーヒーを差し出した少女はベッドのそばにあるデスク、その上にある小さなベッドのような機械と、そこに寝かされている全長15cm程の白い少女の姿をした人形を指差す。

「? 人形ではないのか?」
「見た目はね」
『チャージ完了。リブートします』

 そこで突然小型ベッドから電子音声が響き、横たわっていた白い少女人形が目を覚ました。

「!?」
「再起動確認、そちらのお加減はいかがでしょうか、マスター」
「な、何だこれは!? 使い魔か!?」

 小型ベッドから起き上がり、声をかけてきた少女人形に、ベッドの上の少女は狼狽する。

「武装神姫ね。大分昔に流行した、大会用のバトルフィギュア。ただし、彼女は明らかにデータにある物とはエネルギーの桁が違い過ぎるわ」
「待て、大昔だと? こんな物、扶桑でもカールスラントでも作れないはずだ!」
「扶桑? カールスラント?……貴方、軍人みたいだけど、所属は?」
「私は扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊、連合軍第501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》副隊長、坂本 美緒少佐だ」
「……私は一条院 美紗希。銀河連合評議会安全保障理事局特A級査察官、コードネームは『セイレーン』」
「私は武装神姫・天使型MMS アーンヴァル」と言います」
『………』

 三人がそれぞれ名乗った所で、微妙な沈黙がその場に下りる。

「何だそれは?」
「それはこっちの台詞」

 ベッドの少女、美緒と介抱した少女、ミサキが互いに疑問を述べる。

「銀河連合? 何の冗談だ?」
「貴方の言うような組織は、銀河連合のどこにも存在しないわ」
「待て、そんなはずは………」
「待ってください。貴方達の所属する組織は、それぞれ並列世界にある物と思われます」

 首を捻る二人に、武装神姫のアーンヴァルが訂正を入れる。

「……どういう事だ」
「私は起動と同時に、インストールされていたプログラムに従って行動しました。プログラム内容は『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。それにより、私は貴方をマスターとして登録しました」
「次元転移? 何だそれは?」
「待って、次元転移!? 通常転移は一般化してるけど、次元転移なんてまだ理論段階よ! 実現化すれば、それこそ異世界からの転移が…」

 そこまで言った所で、ミサキがはっとして美緒の枕元の装備を見た。

「美緒、この装備、どこから?」
「軍の備品だ、この《烈風丸》は私が打ち鍛えた物だが」

 美緒は枕元の扶桑刀を手に取り、僅かに鞘走らせる。
 僅かに見えた白刃の怪しい光を見ながら、ミサキはある推測を口に出した。

「その銃、今から300年以上も前に使われていた記録がデータバンクにあったわ」
「300年!? そんな馬鹿な!」
「けれど、貴方が履いていたと思われるこのユニット、今の技術でも作れない。全く違う技術体系の産物よ」
「………理解できん。だが、その前に聞きたい。私のそばに、誰かいなかったか?」
「いいえ。サーチ反応があったのは、あなたと彼女だけよ」
「私のセンサーでも同意です。生体反応、有機反応、どちらもマスターだけでした」
「………そうか」

 それだけ言うと、美緒はベッドから降りようとする。

「まだ寝てた方がいいわ」
「そういう訳にいかん。私は部下を探しに行かねばならない。それが上官の務めだ」
「残念ながら、それは不可能です。マスター」
「なぜだ」
「こういう事よ」

 ミサキは腕の小型コンソールを操作し、部屋の一部を透明化させる。
 そこに広がる光景に、美緒は絶句した。

「な、何だこれは!?」
「このクルーザーは、今ケンタウルス星系から太陽系に向かっているわ。貴方を見つけたのは、偶然ある星の地表から奇妙な転移反応をサーチしたから。さすがに生身で宇宙空間は移動できないでしょう?」
「う、宇宙空間!? 私は今宇宙にいるのか!?」

 その光景、視界全てに広がる見た事も無い無数の星々に、美緒は驚愕するしかなかった。

「信じられん………一体、どうなっているんだ……みんなは、無事だろうか………」
「他に怪しい転移反応は無いという事は、この周辺宙域にはいないと思うわ」
「私もそう思います、マスター」
「けど、今地球で奇妙な事件が起きてるらしいわ。そしてそれに私の友達が関わってるという情報を聞いたの。だから今地球に向かっている。そこで何か分かるかもしれないわ」
「そうか………」
「地球につくまで、まだしばらく掛かるから、休んでいた方がいい。負傷急速治療装置の効果が悪くなるわ」
「……機械で宮藤のような事が出来る時代、か」
「マスターは私が守ります。だから安心してお休み下さい」
「起きている方が、悪い夢を見ているようだ……」

 正直な感想を漏らしつつ、美緒は再度ベッドに横になる。

(みんな無事でいてくれ………ミーナ………)

 コーヒーを飲んだ事よりも、精神的な不安で美緒は眠れそうにも無かった……



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP4
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/01/04 21:59
AD2084 太平洋中央部

「こちら雷神 一条、目的地到着まであと30秒」
「こちらバッハ エリーゼ、今の所何も見えないよ?」

 快晴の空と青い海の中央を切り裂くように、二つの影が飛んでいた。
 高速の噴煙を上げて飛ぶその姿は、飛行機のそれとは大きく異なる。
 まるでオモチャのフレームのような姿に、むき出しのコクピットにタイトスーツ姿の少女が二人、それぞれの機体を操縦している。

 ゴールドの機体に乗った黒髪の少女が、探索目標地点までのルートをチェックしながら、センサーに目を走らせる。

「ワームではないようね……全然反応が無い」
『けど、奇妙な磁気反応があったのは確かです。もう片方には音羽さんと可憐さんがそろそろ到着します』
「う~ん、やっぱり何もいないよ?」

 青灰色の機体に乗った小柄、というか幼い少女が首を傾げる。
 彼女達が乗る飛行外骨格《ソニックダイバー》はその名の通り、音速の速度で旗艦である特務艦《攻龍》のセンサーが捕らえた異常反応のポイントへと向かっていた。

「そろそろ……何だあれは!?」
「ウソ? 人間?」

 目の前にある光景に、二人のパイロットは思わず声を上げた。


「あれは何!?」

 高速で近づいて来る謎の機影に、彼女は思わず銃口を向ける。
 だが、向けられたのは一瞬の事で、あまりの速度差にその二つの機影はすぐさま通り過ぎてしまう。

「ジェットストライカー? いえ違う……」

 赤髪の合間から伸びる灰色狼の耳を動かしながら、固有魔法を発動。

「魔力を感じない、という事はジェットストライカーではない。けれど、確かに人間が乗っている………」

 自分の持つ三次元空間把握能力の固有魔法で相手を認識したが、更に深まった謎に警戒を更に強める。

「一体、あれは……」


「こちら一条、目標地点に奇妙な人物を発見!」
『あの、奇妙って?』
「足に変なユニット付けた赤毛の女の人が空飛んでる!」
『はあ?』
『おい一条、エリーゼ、気は確かか?』
「確かです大佐! 今映像送ります!」

 オペレーターのみならず、指揮官にすら正気を疑われるような報告に、自分の目すら疑いながらも、再度二機のソニックダイバーは目標に近づいていった。

『………おいおい、ありゃ何だ』
『え~と、確かにエリーゼの言った通りですね………』
「大佐! 指示をお願いします! どう見ても人間ですが………」
『頭と腰に生えてる物以外はな。通信は?』
「それが、何か発しているのですが、どうにも上手く拾えません」
『よし、速度をあわせて接触してみろ。サインを忘れるな』
「了解」

 ゴールドの機体のソニックダイバーは謎の人影の前に出ると、そこで戦闘用強化外骨格形態のAモードに変形、速度を落としながら翼を左右に振って戦闘の意思無しのサインを送る。


「変形した!? けどあれは……降伏サイン?」

 謎の機体が自分の前に出て戦闘機での降伏サインらしき物を出すのを見た赤毛の少女は、手にしたMG42機関銃にセーフティーを掛けると、それを背負ってこちらもストライカーユニットを左右に振って戦闘の意思が無い事を示す。
 それを見た謎の機体が、その場に直立して静止、両者は互いに近接した状態で空中に停止する。

「随分と大型のストライカーユニットね」
「それはこちらの台詞だ、何だその小型の飛行外骨格は」
「私はカールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐」
「私は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊リーダー、一条 瑛花上級曹長」
『……それどこの部隊?』

 きせずして、双方の紹介の後に全く同じ台詞を二人は発する。

「瑛花~、大丈夫そう?」
「向こうも敵意は無い。こっちは同じくソニックダイバー隊のエリーゼ・フォン・ディートリッヒ」
「ミーナよ、よろしく」

 赤毛の少女、ミーナがにこやかに手を差し出すのを、幼い容姿の金髪の少女、エリーゼがいぶかしみながらも握り帰す。

「所でここはどこかしら? 私達はロマーニャ上空を飛んでたはずなんだけど………」
「ロマーニャ? ここは太平洋のど真ん中よ?」
「太平洋!? ウソでしょ!?」
「本当だ。そもそも、お前はそんな奇妙な物でどこから飛んできたんだ?」
「? ストライカーユニットを見た事が無いの?」
「……大佐、接触には成功しましたが、訳の分からない事を言ってます」
『………どうしたもんか』

 対応に困った瑛花が隊長に指示を求めるが、通信機からはため息が帰ってくる。
 その時、突然アラームが鳴り響く。

『ワーム反応! そこから南西500m! D-クラスです』
「それなら、私とエリーゼだけで対処できるわね」
『ええ……! 待ってください! 誰か交戦中です!』
「誰が!?」

 オペレーターからの言葉に、瑛花が驚きながらも反応のあった方向、そこから微かに見える戦闘の銃火らしき物を捕らえる。

「私の仲間かもしれないわ! 行きます!」
「ちょっと待て! そんな火器じゃ…」

 静止の声も聞かず、ミーナがそちらへと向かう。

『一条、エリーゼ、すぐに向かえ! どうやら中佐殿はそんなに速度が出ないようだ!』
「了解!」
「行くよバッハ!」

 ミーナの後を追った二機だったが、相対速度の違いで即座に追い越す。
 即座に目的地についた所で、また異様な光景を二人は目撃する。

「この、この!」

 小型のワーム複数相手に、一人の少女が戦っている。
 少女はソニックダイバーともストライカーユニットとも違う、小型の戦闘機のようなユニットを腰かけるような姿で駆り、ワームと互角の戦闘を演じていた。

「今度は何だろ?」
「知らないわ。雷神エンゲージ、交戦に入ります!」

 思わず投げやりに言いながら、瑛花のソニックダイバー《雷神》が両肩の20mmガトリングを連射する。

「バッハ、行くよ! MVランス!」

 エリーゼのソニックダイバー《バッハシュテルツェV‐1》が分子振動槍《MVランス》を抜いて熱帯魚のような姿をした小型ワームを貫いていく。

「あ、スカイガールズだ!」
「そこの貴方! 危ないからどいてなさい!」
「そういう訳には行かないんです! これは亜乃亜のお仕事ですから!」

 戦闘機型ユニットを駆る少女、亜乃亜が胸を張って言いながら、ワームに攻撃を続ける。

『ワーム、残数5、4、あと3体!』
「これで2!」
「ラスト!」

 最後の一体を雷神の大型ビーム砲が貫いた瞬間、突然ワームが半分に分裂して襲い掛かってくる。

「しま…」

 予想外の攻撃に反応が遅れた瑛花だったが、飛来した銃撃が分裂したワームを貫き、爆散させる。

「合体分離型ね、気付かなかった?」
「助かった、ありがとう」

 銃撃を放った相手、ミーナに礼を述べつつ、瑛花は周辺を確認。

「敵影無し、戦闘終了」
「で、この人はアンタの仲間?」
「いいえ、初めて見る人ね」

 エリーゼが亜乃亜を指差し、ミーナは首を傾げる。

「貴方、所属組織と階級は?」
「あ、はい! 秘密時空組織「G」所属天使、空羽(あおば) 亜乃亜です」
『…………』

 その場に、微妙な沈黙が降り立つ。

「………大佐。指示を」
『もう全員連れてこい。艦長には適当に言っとく』

 思いっきり投げやりな指示を出して、通信が切れる。

「……それじゃあ、色々話したいから母艦に来てほしいんだけど」
「仲間を探すのには、そちらに一度行った方がいいみたいね」
「う~ん、必要の無い接触は禁止なんですけど、必要かな?」
「もうエリーゼ訳わかんない!」
「私もよ……」

 深くため息を吐き出しながら、瑛花は飛行速度ギリギリでミーナと亜乃亜をエスコートして母艦である特務艦攻龍へと向かった。

「見た事の無いタイプの船ね」
「改装だけど、新型だからね」
「これが攻龍ですね。ニュースで見ました」

 二期のソニックダイバーが着艦する後ろで、ミーナと亜乃亜も着艦する。

「ふう」

 一息ついたミーナがストライカーユニットを外し、その頭と腰にあった灰色狼の耳と尻尾が消える。

「へ~、それ本当に生えてるんだ」
「あら、ウイッチを見るのは初めて?」

 興味深そうに見る亜乃亜にミーナは微笑むが、そこで攻龍のメカニック達が二人のユニットに集まってくる。

「おいおいまたかよ……」
「また、って?」
「いやさっきも音羽が連れて来たのが」

 ストライカーユニットをしげしげと見ていた男性メカニックが、開いている格納庫ハッチの向こう、置いてある一組のストライカーユニットを指差す。

「ファロット G.55S、という事は…」



「ルッキーニさん!」
「びわーーーー!!」

 案内された食堂に入った所で、耳をつんざくような鳴き声が響き渡る。
 その鳴き声の主、幼い容姿の褐色黒髪の少女が、周囲もはばからずに泣き続けている。

「あ、貴方の仲間?」
「ええ、ロマーニャ公国空軍第4航空団第10航空群第90飛行隊・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》のフランチェスカ・ルッキーニ少尉よ」
「少尉? これが? 冗談でしょ?」

 食堂内にいた瑛花が耳を塞ぎながら少女、ルッキーニを見る。

「と、とにかく泣き止ませて!」
「見つけた時からずっと泣き通しで……」
「びーーーー!!」

 ルッキーニの右側で耳を塞いでいる茶髪ボブカットの元気そうな少女、ソニックダイバー隊《零神》のパイロット桜野 音羽が悲鳴を上げ、左側でなんとか泣き止ませようとする灰色の髪をツインテールにした大人しそうな少女、ソニックダイバー隊《風神》のパイロット園宮 可憐が困り果てた顔をする。

「どうしたの? ルッキーニさん」
「ミーナ隊長……シャーリーが、シャーリーが見当たんない~……!」

 ミーナの問いに僅かに鳴き声を小さくしたルッキーニだったが、再度大音量へと戻る。

「シャーリーって?」
「ルッキーニさんとコンビを組んでるリベリオン空軍の少尉なんだけど、見かけなかった?」
「いいえ、周辺には他の人の反応は全く……」
「びーーーーー!!」
「弱ったわね……シャーリーさん以外にルッキーニさんをなだめるとしたら……」
「あの、いいですか?」

 そこへ、メガネをかけた軍服姿の少女、ソニックダイバー隊のオペレーターを勤める藤枝 七恵が様子を見に訪れる。

「冬后大佐が話を聞きたいから作戦会議室に全員来て欲しいそうですけど………」
「この状態で?」
「う~ん」

 一向に泣き止まないルッキーニに、全員がほとほと困り果てる。
 ふとそこで、ミーナが七恵の事をじっと見つめていた。

「え~と、ちょっといいかしら?」
「はい? 私ですか?」
「こっちに来て、ルッキーニさんの後ろに立ってもらえる?」
「こうですか?」

 にこやかに微笑みながらのミーナの提案に、若干の不信感を覚えながらも七恵が言われた通りにルッキーニの背後に回る。

「身長差を考えると、これくらいかしら……そのまま両足をしっかりと踏ん張っててね」
「え?」
「はい」

 言われた通りにした七恵を確認したミーナが、いきなりルッキーニを軽く押し倒す。
 バランスを崩したルッキーニがそのまま後ろの七恵、正確にはその豊かな胸へと後頭部から倒れこみ、頭をうずめるような形で支えられる。

「きゃっ!?」
「う~……」
「あ、止まった」
「……なんで?」
「あの、恐らく………」
「胸?」
「え? ええ?」
「うじゅ~~」

 先程までの泣きっぷりがウソのようにルッキーニが泣き止み、ソニックダイバー隊も呆気に取られる。
 いきなりの事に七恵が混乱するが、ルッキーニは更に頭を動かし、七恵の胸に更に埋めていく。

「うじゅ………」

 だが、動きが止まるとなぜかその顔に不満そうな表情が浮かぶ。

「あの、何か?」
「シャーリーより小さい………」

 ルッキーニの一言に、ソニックダイバー隊全員が氷像と化した。

「小さい? 小さい?」
「七恵さんが?」
「ウソ、そんな………」
「よ、世の中上には上が……」

 四人全員が力を失って崩れ落ちそうになるが、かろうじて堪える。

「ルッキーニさん、落ち着いた?」
「うん……」
「シャーリーさんや、他の皆は?」
「分かんない。気付いたら、一人で飛んでた」
「私と同じね。だとしたらみんなも?」
「あ、そう言えば遠くの方に反応があったような………てっきりノイズかと」
「お~いお前ら何やってんだ?」

 悩む皆の所に、フライトジャケット姿に無精ヒゲの男がふらりと姿を現す。
 そこで、ルッキーニが七恵の胸に埋もれているのを見て男は更に微妙な表情になる。

「ホントに何やってんだ?」
「あの、こちらの事情で………失礼ですが、貴方は」
「この人がソニックダイバー隊の部隊指揮官、冬后(とうごう) 蒼哉(そうや)大佐です」
「それは失礼しました。501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。こちら部下のフランチェスカ・ルッキーニ少尉です」

 敬礼をするミーナに、男、冬后は返礼しながら、顔をしかめる。

「冬后だ。で、501ってのはどこの部隊だ? オレはそんな部隊、全く知らん」
「え……501は現在ロマーニャ上空のネウロイの巣対処のために行動中ですが……」
「だから、2072年に人類統合軍が出来て以来、そんな部隊は存在しねえって」
「2072年!? 私達がいたのは、1945年です!」
「………は?」
「え?」
「1945年って言うと………」
「第二次世界大戦が終結した年です……」
「世界大戦? ネウロイ大戦とは呼ばれる事もあるけど……」
「待て、ネウロイってのは何だ?」
「え、ネウロイを知らない?」

 全くかみ合わない双方の会話だったが、そこで食堂の隅で勝手にもらったクリームソーダを味わっていた亜乃亜がポンと手を叩く。

「なるほど、謎の転移反応って貴方の事だったんですね」
「転移反応?」
「はい。今回「G」から受けた指令は、太平洋上にあった謎の転移反応を調査する事。質量は小さいみたいですけど、エネルギー総量の大きさから、時間軸だけじゃなくて次元軸まで飛んだ可能性があるって言われました~」
「………つまり、どういう意味だ?」
「つまり、そこのリーネさんとルッキーニさんでしたっけ? 貴方達はこの世界の人間じゃなくて、別の世界の人間なんですよ」
「えっと、それってパラレルワールドって奴?」
「そんな馬鹿な事があるわけ無いじゃない!」
「じゃあ、その二人の力と装備はどう説明します?」

 驚く音葉の隣で瑛花が否定するが、亜乃亜の断言に言葉を詰まらせる。

「……おい、誰か夕子先生呼んできてくれ」
「り、了解……」

 冬后の船医を呼ぶ提案に、可憐が引きつった顔をしながら返礼した。


30分後 攻龍医務室

「三人とも脳波異常無し、精神鑑定正常、肉体的には極めて健康体ね。ミーナさんは少し硬直性疲労が見られるけど」
「最近デスクワークばっかりだったから………」

 攻龍の船医とソニックダイバー隊専属医療スタッフを兼任するメガネの女医、安岐 夕子が一通りの検査結果を出す。

「つまり、どこにも異常無し」
「そうね、妄想癖や解離性障害の兆候は皆無。なんなら、心拍計でもウソ発見機に使う?」
「でも夕子先生、さっき尻尾生えてたけど……」
「尻尾?」
「これの事?」

 エリーゼが指摘すると、ルッキーニが使い魔の黒い毛並みの耳と尻尾を出してみせる。

「ちょっと触ってみていい?」
「いいよ」

 少しキョトンとした顔で夕子がルッキーニの耳と尻尾を撫でてみる。

「こんな物、検査の時は無かったのよね……」
「ウイッチは魔力を行使する時、使い魔の特徴が現れるんです。こんな感じに」

 ミーナも自分の耳と尻尾を出して見せるが、夕子はしばらく考えてから検査機材のスイッチを入れる。

「ルッキーニちゃん、ちょっとそこに立ってみて」
「こう?」

 スキャナーの光がルッキーニをスキャンし、その結果が医療用コンソールに現れる。

「あら?」
「どれどれ」「どうなってるの?」「ちょっと見せてください」「エリーゼが見えない~!」

 ソニックダイバー隊も興味津々で覗き込むが、そこには耳と尻尾のある場所に影らしき物があるだけだった。

「これから見ると、物理的実体が無い事になるけど……」
「え? あるじゃん」
「だよね」
「ちょ、ルッキーニの引っ張っちゃや~!」
「実体のあるエネルギー体? そんな物……」
「そろそろいいか?」

 外で検査が終わるのを待っていた冬后が医務室内に入ってきて、ルッキーニの耳と尻尾を弄り回すソニックダイバー隊を見て呆れた顔を浮かべる。

「何やってんだ?」
「冬后さん、これ本当に生えてるんですよ」
「不思議ね、どうなってるの?」
「で、夕子先生の診察結果は?」
「彼女達の言ってる事は、間違いなく本当だろうって事ね」
「……マジかよ」
「あ、冬后さん。こっちも結果上がりました」

 頭を抱える冬后の所に、音羽の駆る《零神》の専属メカニック、橘 僚平がレポートを持ってくる。

「ストライカーユニットの方は、部品単位なら確かに130年位前の技術ですが、起動原理が分からないそうです」
「分からない?」
「エンジンはあるんすけど、燃料庫がどこにもないんです」
「それはそうよ。ストライカーユニットはウイッチの魔力で動くんだから」
「魔力って、マジ? ああ、それとそっちの方のユニットなんですけど、こちらは丸で見た事無い部品と技術の塊で、こちらも起動原理はさっぱり……」
「ライディングバイパーは天使のプラトニックパワーで動くから」
「……夕子先生、すいませんがオレも見てください。頭痛薬と胃薬がもらいたいんで」
「私も検査結果疑いたくなったわ………」

 自分達の常識が通じないような結果に、冬后と夕子も思わずため息をもらす。

「亜乃亜さん、でしたわね?」
「なあに?」
「転移反応っていうのは、他にもあったの?」
「え~と、この近隣に四つ。二つはミーナさんとルッキーニちゃんだから、あと二人いるかもしれません」
「じゃあ、シャーリーいるかもしれないんだ!」
「可能性はあると思いますよ」
「まだいんのかよ………」

 本気で頭痛薬の使用を考え始めた冬后だったが、そこで携帯端末がコール音を鳴らす。

「はい冬后」
『冬后大佐、回収した不審者の方はどうなってる』

 端末の向こうから、厳しい声が響いてくる。

「副長、それがなんと報告したらいいのやら……」
『回りくどい事はいい。要点を言いたまえ』
「要点と言われましても……」

 根幹から理解不可能な事態に、冬后は頭を掻き毟りながら言葉を濁す。

「あれ通信機? 魔導インカムでもないのに、あそこまで小さくなってるのね」
「まあ、技術格差から言えばそうなりますね」
「それより、副長になんて説明する?」
「そのまま言ったら、怒られちゃうよね?」
「エリーゼだって信じられないのに、あの副長絶対信じないよ」
「つっても、どうにか説明しねえと……」

 上官への説明に苦悩するソニックダイバー隊を見ていたミーナだったが、ふと何かを思いついたのか、しどろもどろになっている冬后のそばに近寄り、その肩を叩く。

「何だ、今ちょっと立て込んでるだが」
「ちょっとお貸し下さい大佐」

 半ば強引に端末を手に取ったミーナが、見様見真似で話しかける。

「失礼致します、この船の上官の方でしょうか?」
『副長の嶋だ。君は?』
「私は501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」
『501? そんな部隊は聞いた事もないぞ』
「こちらも状況を説明したいのですが、部下が数名、近隣空域で遭難している可能性があります。指揮官として、部下の救助に向かわなくてはなりません。誠に失礼なのですが、この船から発艦及び、有事の際の救援をお願いいたしたいのですが」
『待て! この船は特務艦だ! 早々何者とも分からん連中を…』
『許可しよう』

 通話の途中で、別の随分と年のいった男性と思われる声が割って入る。

「貴方は?」
『攻龍艦長の門脇だ。遭難している者がいるのなら、見過ごす訳にはいかんだろう』
『しかし艦長…』
『太平洋の真ん中で遭難者を無視しろというのかね? それこそ出来ん話だ』
「ご配慮感謝致します、艦長」

 見えないにも関わらず、敬礼をしたミーナは冬后に端末を返す。

「それじゃあ、こちらも遭難者捜索のため、出撃します」
『……あまり時間をかけるな。ソニックダイバーの運用にどれだけ経費が…』

 副長のグチを最後まで聞かず、冬后は端末を切る。

「上官のあしらいが上手いな、あんた」
「こういうのって、時代が変わっても似たような物のようね」
「違いない」

 感心した声を上げる冬后に、ミーナは小さく笑みを浮かべ、冬后も思わずそれに続いた。

「じゃあさっきと同じ編成、一条はエリーゼと、桜野は園宮とに別れて捜索に向かえ」
「了解しました」
「亜乃亜さん、反応があったポイントを転送してください」
「ええと、ちょっと待ってて」
「ルッキーニさんはそちらのチームと一緒に行って」
「シャーリーどこかな?」
「ま、とにかく行ってる間に艦長と副長にはどうにか言っておく」
「それではお願いします」

 敬礼して出撃のために向かう少女達を見送った後、冬后は思いっきり顔をしかめさせる。

「さて、ああは言った物の、なんつえば言いか………」
「カルテ持って行くといいわ。少しは信憑性出るから」
「だといいが……」

 船医から渡されたカルテを手に、冬后は必至になって説明文を考えていた。



「出撃します!」
「行っくよ~!」

 二つのストライカーユニットの魔導エンジンの出力が上がり、真下に光の魔法陣が浮かび上がる。
 動き出したユニットにあわせて魔法陣も動き出し、やがて推力を得るまでに高めて二人のウイッチが飛び上がる。

「一体どういう仕組みやろ?」
「さあ……」

 格納庫からその光景を不思議そうに見ている雷神の専属メカニック・御子神 嵐子と可憐の風神の専属メカニック・御子神 晴子、性格が正反対の双子姉妹が珍しく同じ表情でウイッチ達を見送る。

「亜乃亜、ビックバイパー行きま~す♪」

 それに続いて、亜乃亜のライディンバイパーが垂直に浮上したかと思うと、一気に加速してウイッチ達に続く。

「あっちもどうなってんやろ?」
「さあ……」

 メカ専門の自分達の知識外にある機体に種々な興味を抱く中、攻龍のカタパルトが展開していく。

「雷神 一条、発進!」
「風神 園宮、出ます!」
「零神 桜野、ゼロ行くよ!」
「バッハ エリーゼ、テイクオフ!」

 続けて四機のソニックダイバーが連続してリニアカタパルトで射出されていく。

「全機Aモードにチェンジ、相対速度を向こうに合わせて」
「了解!」
「レシプロ機位の速度しか出ないみたいですし……」
「それ以前に、どうやってあんな変なので飛んでんだろ?」

 瑛花の指示で、先に出たウイッチ達を追い越した所で四機とも近接戦闘用の外骨格モードに変形、所定のチームに分かれる。

『それじゃあ、反応の出た周辺地帯を1km単位で捜索、見つからなくてもナノスキン限界五分を過ぎた所で帰還しろ』
「了解しました」

 冬后からの指示の元、捜索が開始された。


「まったく、この大事な時に奇妙な物を拾ってきおって………」
「仕方ありませんよ副長、ほっておく訳にもいきませんし」
「ストライクウィッチ、とか名乗っていたか。そんな物、聞いた事も無いぞ」
「確かに……」

 愚痴をもらす初老の副長をオペレーターの七恵がなだめるが、その隣の通信士の速水 たくみも首を捻る。

「あっちのちっこいビックバイパーに乗ってるのは、秘密時空組織「G」所属天使とか言ってたな~」
「「G」? Gの所属と名乗ったのか?」

 冬后の呟いた言葉に、それまで無言だった老齢の艦長が反応する。

「艦長、何かご存知で?」
「少しな」

 副長の問いに相槌だけ打って、艦長が再度黙り込む。

(まさか「G」の関係者がこの船に乗り込んでくるとは……一条提督の判断を仰ぐ必要があるか?)

 中将の地位にある自分の判断すら簡単に下せない状況になりつつある事を、艦長は己の胸の中に潜ませた。



「悪いわね、手伝ってもらって……」
「遭難者の捜索なら、断る理由も無いわよ」
「でも、もうちょっと速く飛べない?」
「巡航速度としては、これくらいが限度ね……魔力消費を考えないんならもう少し出るんだけど」
「ちなみに、魔力とやらが切れるとどうなる?」
「魔導エンジンが停止して海に落ちるだけよ」
「は~、結構難しいんですね~」

 一番遅いミーナにあわせて皆が飛ぶ中、皆が口々に色んな事を喋る。

「この速度だと、捜索時間はあまり取れないかもね」
「時間制限があるの?」
「エリーゼ達はナノスキンジェルを塗布して擬似生体バリアを張って飛んでるの。でも、21分32秒しか持たなくてさ~」
「よく分からないけど、だとしたらウイッチよりも行動可能時間が短い訳ね」
「こっちはそんな事ないけどね~」

 のんきな亜乃亜の言葉を聴きながら、瑛花は雷神のセンサー出力を最大にしていく。

「エリーゼ、そちらのセンサーに反応は?」
「今の所は何も?」
「こっちの通信もダメね……」
「もう直ポイントのはずだけど……」

 それぞれが捜索を始めるが、人影は見当たらない。

「う~ん、ホントにここ?」
「飛んで何処かに移動したのかも」
「ありえるわね……でもどっちかしら?」
「周辺を旋回しながら半径を広げていこう。それほど遠くには行ってないはずだ」
「そうね、目標も何も無いと近くにいるはず」

 編隊を組みながら、反応のあったポイントから渦を描くように四機は飛行して捜索を進める。

「ん? 待て何か反応がある!」
「こっちもよ、通信みたいだけど、弱くて誰かまでは……」

 静止して僅かに入る通信ノイズを瑛花とミーナは確かめる。

「エリーゼに任せて。さっきタクミにあんた達の周波数用のプロトコル組んでもらったから」

 エリーゼが通信ノイズを拾い、それを解析させる。

「可憐の風神だったらもっと鮮明に拾えるんだけど……」
「向こうに行ったから仕方ないし、っとこれでOK」

 プロトコルを展開し、ついでに外部スピーカーに繋げたエリーゼが通信を入れる。

『サーニャサーニャサーニャサーニャァァァ!! どこだサーニャ~!!』

 いきなり飛び込んできた泣き声に、ミーナ以外の三人が目を丸くする。

「何これ?」
「誰か探してるみたいだけど……」
「間違いないわ、スオムス空軍飛行第24戦隊第3中隊、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉よ」

 少し赤面して咳払いしながら、それが仲間の物である事をミーナが確認する。

「あの、サーニャって?」
「エイラさんとコンビを組んでるオラーシャ帝国陸軍586戦闘機連隊、サーニャ・V・リトヴャク中尉の事ね」
「……失礼だが、501とやらはこんな連中ばかりか?」
「いやまあ、そうとも言い切れないけど……」
「あ、こっちでも位置分かりました。南東の方向、こちらに向かってきます」
「それじゃあ迎えに行くか」
「そうね」

 何か恥ずかしい所ばかり見られているのに困りつつ、亜乃亜が示した方向にミーナは向かった。
 やがて、雪色の髪を無造作に伸ばし、何か不安定な機動をしているウイッチの姿が見えてきた。

「エイラさん、聞こえてる?」
『ミーナ隊長!? サーニャが、サーニャが見あたらナイんだ! さっきまでいたのに!』
「落ち着いて。私はそちらから見て7時の方向にいるから、合流しなさい。他にも捜索している人達がいるから」
『え?』

 こちらを向いたエイラの顔を確認しようと瑛花とエリーゼがカメラを望遠にするが、そこに涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔がアップになって思わず呆れ果てる。

「さっきよりひどいな……」
「ひよっとしてウイッチってこんな連中ばっか?」
「まあ、変わってる子は多いけど……」

 反論できない状況にミーナが乾いた笑いを漏らす。

「ミーナ隊長~~~~サーニャが~~~」
「分かってるから。もう一つ反応があった方向にはルッキーニさんが向かってるから、ね」

 とめどなく涙を流すエイラに合流したミーナが、なんとかなだめようとする。

「こちら一条、遭難者一名発見。一応大丈夫のようです、身体的には」
『身体的って事は、精神的に何かあんのか?』
「……後で説明します」

 冬后からの質問に答える気力もなくしつつ、瑛花は再度センサーのレベルを上げる。

『こちら可憐、何か奇妙な電波を拾いました』
『奇妙?』
『ええ、何か独特の波長でして、今解析してますけど……出ました』

 可憐からの通信の後、その謎の電波が通信に流れてくる。
 それは、静かで、透明な少女の歌声だった。

『これは……』
「サーニャだ! これはサーニャの歌だ!」

 耳ざとくその歌声を聞いたエイラの顔に喜色が浮かぶ。

「間違いないわ、これはサーニャさんの固有魔法よ。位置は?」
『そちらから見て北東20kmくらいです』
「サ~~~ニャ~~~!!」

 可憐からの返答を聞くと同時に、エイラが急加速で飛び出していく。

「ちょっとエイラさん!」
「方向ピッタリです。あ、ちょうどその位置に島がある」

 亜乃亜が上空衛星にコネクトして得た情報を確認すると、四機でエイラの後を追いかける。

「あそこか」
「! 誰かいる!」

 無人島と思われる小さな島、そこにある僅かな砂浜に立っている人影をバッハのカメラで捕らえたエリーゼは画像を拡大。
 砂浜に立ち、静かに歌っている緑の瞳とグレイの髪の少女を確認するが、彼女の頭の両脇にアンテナのような光が浮かんでいるのに首を傾げる。

「このアンテナも魔法って奴?」
「リヒテンシュタイン式魔導針の事ね。サーニャさんはそれで周囲の状況を感知できるの」
「生体レーダーという訳か」

 島の間近まで近づいた所で、エイラがサーニャに飛びつくようにして抱きついてるのを見た瑛花は、クスリと小さく笑って速度を落とす。

「亜乃亜、他に反応は無いのね?」
「問い合わせてみたけど、無いよ」
「四人、501小隊は全員で11人……」
「7人も足りないの!?」
「ひょっとしたら時間軸がずれてるか、それとも別の世界に飛ばされたか……」
「別の、世界?」
「話は後だ。全機帰投」
『了解!』

 今後の事を考えるのは後回しにして、瑛花を先頭に全員が攻龍へと向かった。



「2084年!? 本当カヨ?」
「私もまだ信じられないけど、本当みたい」
「そういや、変なストライカーユニットだと思ったケド……」
「今更!?」
「私は信じる。皆を探してた時、変な電波あちこちから感じた。あれの通信だったんだ………」
「サーニャがそう言うのなら……」
「そこで信じるんだ……」

 シャワーを借りてから再度食堂に集まったウイッチ達が、現状の説明を受けて愕然としていた。

「で、どうやったら帰れるンだ?」
「どうすればいいの? 亜乃亜さん?」
「え~と、それが私もこんなケース初めてで、今本部に問い合わせてるんだけど……」
「そちらの出方待ちって事ね」
「それまで、攻龍に居てもらうしかないだろう」
「でも、副長がどう言うか……」
「艦長がOKだとよ」

 瑛花と可憐が悩んだ所で、そこへ現れた冬后が意外な事を告げる。

「よろしいんですか大佐? 私達はそちらと命令系統その物が違いますが……」
「オレもよく分からんが、そっちのが「G」所属って言った途端、艦長が艦内での自由を認めるとか言い出してな。何がなんだか……」
「ホントですか!? 良かった~、しばらくその場で待機とか無茶言われてたんです~」
「あ、でも部屋どこか開けないと」
「7号船室空いてたろ、物置になってたが」
「じゃあお掃除しないと」
「寝るとこ無いと大変だからナ~」
「! 待って、何か来る」

 音羽の提案で食堂を出ようとした時、サーニャの魔導針が展開して食堂の入り口を指差す。

「貴方達ね、急に現れたって言うのは」

 食堂に一人の若い女性士官が姿を現す。
 だがサーニャはその後ろ、褐色の肌を持ったサーニャ以上に物静かそうな少女を見ていた。

「その人、人間だけど、人間じゃない?」
「……変わった周波数を出してる。貴方は誰?」

 白と褐色、見た目は対照的だが、どこか似た少女が互いを見つめあう。

「それが魔法という物かしら? 私は周王 紀里子、この船の艦内技術研究班。彼女は助手のアイーシャ・クリシュナムよ」

 女性士官、紀里子が褐色の少女、アイーシャを紹介するが、サーニャは警戒を解かない。
 どころか、それに続けてウイッチ達も警戒態勢に入り、エイラにいたっては使い魔の黒狐の耳と尻尾まで出して臨戦態勢になっていた。

「ちょ、ちょっと待った!」
「アイーシャは敵じゃないよ!」
「彼女は、ソニックダイバーの開発パイロットで、ナノマシンとの融合体なんです」
「普通の人間とは違う反応が出て当たり前だ。だから落ち着いてほしい」

 ソニックダイバー隊が慌ててアイーシャの周囲に回りこんで彼女を擁護する。
 しばし、そのまま緊張状態が続くが、サーニャが魔導針を引っ込めた所で緊張が解けた。

「ずっと歌が聞こえていた。あれはお前か?」
「うん」
「そうか」

 それだけ確認したアイーシャが、無表情なままその場を立ち去る。

「……そちらにも変わった子がいるのね」
「いやまあ……」
「彼女は特別よ、色々な意味でね」
「ま、色々あるだろうが、しばらくよろしく頼むぜ」
「こちらこそ」

 冬后が差し出した手を、ミーナが握り帰す。
 それが、これから始まる戦いへの同盟となる事を知る者は誰もいなかった………



『確かに「G」の所属と名乗ったと?』
「ああ、この目で確認もした」

 艦長室の中で、何重にもプロテクトのかかった秘匿直通回線を通し、門脇はある人物と話していた。

『まさか、そんな所で「G」が関わってくるとは……』
「今後の作戦の事もある。そちらの判断を仰ぎたい」

 通信の向こうの相手、日本海軍提督で瑛花の父親でもある、一条 瑛儀少将が顔をしかめる。

『今問い合わせているが、恐らく間違いは無いでしょう。だとしたら、密約の通りに動くしかない』
「「G」からの技術提供と引き換えの、行動黙認、あるいは協力、という事か」
『「G」の技術が無ければ、ビックバイパーも完成しなかった』
「「G」の天使と名乗った少女は、小型のビックバイパーのような物に乗っていた。あれがオリジナルという事か?」
『いや、あれもコピーとの噂があります。それを上回るオリジナルがあるらしいが、詳細は不明らしい』
「では、今後の攻龍の行動は?」
『向こうとの交渉次第だが、場合によっては作戦の一時中断及び、「G」への全面協力の可能性もありえます』
「一時中断? そこまでする必要が?」
『なぜ統合人類軍上層部が「G」の活動を容認しているか、聞いた事は?』
「いや」
『「G」が相手をしているのは、ワームよりも遥かに厄介な相手だという噂がある。統合人類軍を持ってしても困難な……』
「……つまり、我々がそれと戦わねばならなくなるという事になる、と?」
『かもしれません。一体何が起きるのかは全く不明でしょう。判断は中将に一任します』
「了解」

 そこで通信が途切れ、門脇はしばし考え込む。

「あの少女達に、一体何が待ち受けているというのだ………」




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP5
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/12/01 20:42
「それで、一度スオムスに戻ったんだケド、大慌てで戻ってきてみたら501の皆が戦闘中でサ」
「占いで?」
「当たるのそれ?」
「エイラの占いは当たるよ、それなりに」
「サーニャ、それなりって……」
「私も後で占ってもらっていいですか~? 恋愛運とか」
「シャーリーのいる所!」
「う~ん、タロット持って出撃はしなかったカラな~」

 今夜の寝床を確保するべく、物置と化した部屋をソニックダイバー隊、ミーナを除くウイッチ、亜乃亜の計八人がかりで急ピッチで掃除していた。

「ねえねえ見て! これブウブウ言って面白~い♪」
「なんだヨ、あれ?」
「掃除機見た事……無いか」
「もっと大きいのなら見た事ある」
「やっぱり未来なんダナ。これなんダ?」
「予備の端末だよ、持ってたら? 使い方教えるから」
「そうですね。整備班の人達に頼んで皆さんの分用意してきましょう」
「亜乃亜は自前の持ってます」
「……何か変なボタンいっぱいついてない?」
「支給品、機能いっぱいで覚えるの大へ~ん」
「便利なのか不便なのか分かんないナ」
「皆さん片付きました?」

 そこへタクミが様子を見に来る。

「タクミさん、もうちょっと掛かりそうです」
「あれ、一人足りなくありません?」
「ミーナ隊長なら士官だから個室だってサ」
「あれ、空きの士官室って冬后さんが魚拓製作場に使ってたような?」
「ありゃ、それはマズイんじゃ……」
「消臭剤ありましたっけ?」
「ともあれ、片付いたら皆さんの分の夕飯用意してるんで来てくださいね」
『は~い』



「あ~、ちょっと生臭いが勘弁してくれ」
「いえ、士官個室が貸してもらえるとは思ってませんでしたから」
「そうか」
「幾ら空いている部屋とはいえ、妙な使用は困りますね」

 墨だの刷毛だの、更にはこの時代では貴重品の和紙まで用意してある部屋を冬后、ミーナ、紀里子の三人で手早く片付けた所で、締め切った部屋で三人が向かい合って座る。

「さて、じゃあ始めるとするか」
「ウイッチについて、ね。さてどこから説明すればいいのかしら?」
「私も技術者だからね。ウイッチの能力については興味があるわ」
「それに、どんな力持ってるか分からん連中をほいほい乗せておくのも問題があるからな」
「確かに。この世界のワームの侵攻は13年前からだそうだけど、私達の世界の敵 《ネウロイ》の出現は、紀元暦の29年頃が一番古い記録とされてるわ」
「な!? じゃあ1000年以上も戦ってるのか!?」
「いえ、あくまで最初は散発的な物だったらしいわ。そして、ウイッチの魔力がネウロイにもっとも効果的と分かって以来、ウイッチ達が秘密裏に対処するようになった。けれど1939年、全世界でネウロイの一斉侵攻が開始、世界中の都市が次々と陥落する中、扶桑の天才科学者、宮藤 一郎博士がかねてより開発していたウイッチの能力を引き出し、ネウロイとの決戦兵器となりうるストライカーユニットをロールアウト。これにより、全世界でウイッチ達とネウロイの全面戦闘となった。それが今の私達よ」
「なるほどね。ある意味、ソニックダイバーも似たような物かしら」
「全くだ。もっともこっちは全世界で使える程数は無いけどな」
「一度、その宮藤博士とお会いしてみたいわね」
「残念ながら亡くなられました、正確には研究所がネウロイの襲撃を受けて行方不明になられたそうよ……実は501には宮藤博士の娘さんがいて、父親の遺志を次いで一緒に戦ってるわ」
「……本当にそっくりね」
「確かに。で、そのネウロイってのの特徴は…」

 三人の士官の話し合いは、深夜遅くまで続いた。



 満天の星の輝く中、攻龍の後部甲板に佇むサーニャの姿があった。
 その口からは静かに歌が紡がれ、水面へと消えていく。
 波の音に紛れて流れる歌が、不意に途切れた。
 歌うのを止めたサーニャが振り返ると、そこにアイーシャが立っている。

「……何?」
「歌が聞こえた。ずっと歌っていたのか?」
「うん。みんながどこかにいるかもしれないと思って……」

 まだどこか警戒しながら、サーニャはアイーシャの問いに答える。

「どこで歌っていても、お前の歌は私の中に響いてくる」
「迷惑?」
「いや」

 アイーシャがサーニャの隣に来ると、そこで夜空を見上げる。

「ずっと同じ歌を歌っている。なぜ?」
「これは、お父様が私に作ってくれた歌なの」
「そうか」

 アイーシャはサーニャを少し見ると、また夜空を見上げる。

「私のこの体も、お父様が作ってくれた」
「え……?」
「生まれつき、難病に冒されていた私を助けるため、お父様は医療用ナノマシン開発に腐心した。結果、私の命は救われたが、世間はそれを人体実験だと言って、私とお父様は社会を追われた」
「そう、なんだ……」
「けれど、お父様の手を離れた医療用ナノマシンは、システム増大の結果、ワームとなって人類を襲い始めた。ワーム出現の可能性をお父様は誰よりも早く気付いてたが、誰も信じなかった。そして、お父様は人類の未来を私に託した。この体はそのための物、私はお父様の遺志を継いで今ここにいる」

 アイーシャの話をじっと聞いていたサーニャだったが、アイーシャと同じく夜空を見上げる。

「「その力、多くの人を守るために」ストライカーユニットを作った、芳佳ちゃんのお父さんの口癖だって。芳佳ちゃんも、その言葉を守るために一緒に戦ってる」
「そうか。その人も多分お父様と同じだったんだろうな」

 そこで会話が途切れ、二人は黙って夜空を見上げていた。

「あ、いた! サーニャ! ってお前、サーニャに何してるんダ!」
「あれ、アイーシャも一緒?」

 姿が見当たらないサーニャを探しに来たエイラと音羽が、慌しくこちらへと向かってくる。

「エイラ、少し彼女と話してた」
「そうなのカ?」
「アイーシャと? この子すごい無口なんだけど……」
「少し気になった事があったから」

 口数の少ない二人の取り合わせに、エイラと音羽は首を傾げる。

「とにかく、明日他にも反応が無いか問い合わせてみるって亜乃亜が言ってたカラ、今晩はもう寝ようサーニャ」
「うん」
「アイーシャも、夜更かしして倒れたら周王さんに起こられるから」
「分かった」

 四人がそう言いながら船内へと引っ込んでいく。
 あとには静かな空と海だけが残る。
 静か過ぎる、空と海が………



『合同演習?』

 朝食が済んだ所で、全員が作戦会議室に集められて告げられた言葉に、疑問符を浮かべる。

「正確には、演習というかデータ採取ね」
「上で何があったか知らんが、しばらく行動を共にするとのお達しがあってな。何かあった時のために、そっち側のデータを取っておく事になった」

 ミーナと冬后の言葉に、皆がそれぞれ(普段の夜間時間から抜け出せずにうたた寝気味のサーニャ除く)思案を巡らす。

「あの、冬后さん。私達もですか?」
「まあな。もっともデータを欲しがってるのはそっちのウイッチ達だが」
「貴方達の乗るソニックダイバーの特性を見ておきたいのよ」
「それは、彼女達も共にワームと戦う、と取っていいのでしょうか?」
「……分からん」

 音羽の質問への応答を聞いた瑛花も質問を投げかけるが、冬后は珍しく真剣な顔で首を左右に振る。

「え~と、亜乃亜もですか? 何をすればいいんでしょう?」
「メニューはフォーメーション飛行と実弾演習、もっともダミーをそんなに積んできたわけじゃないからな」
「弾薬の余裕も無いし……この船に積んでいる銃とは規格が微妙に違うのよね」
「ともあれ、午後からだから昼飯までに準備しとけ」
「あの、フォーメーション飛行って何すれば……」
「こっちで指示するから、機体の準備だけしておけ」
「はあ……」

 軍隊式のデモ飛行なぞ全く知らない亜乃亜が首を傾げるが、ともあれそれぞれのチームで演習の内容が決められていく。

「そう言えば、ソニックダイバーって奴、五機なかったカ?」
「でも、四人しかいないよ?」
「ああ、もう一機はアイーシャさんの使ってたプロトタイプのカスタム機だそうよ。特別な運用をするらしくて、滅多に使わないそうだけど」
「ふ~ん」
「アイーシャは飛ばないの?」
「体力的にそうそう簡単に飛べないらしいわ」
「昨夜言ってた。お父さんが難病を治してくれたって」

 まだどこか重たいまぶたを開きながら、サーニャが呟く。

「さて、四人だけと言っても、ストライクウィッチーズの名に恥じないようにするわよ」
『了解!』


「この演習って、誰が言い出したんです?」
「周王だ。オレも賛同したがな」
「じゃあやっぱり……」
「でもあの人達、使い物になるの?」
「エリーゼ、そういう話はちょっと……」
「昨夜ウイッチについては説明してもらったが、この目で見ない事にはオレも何も言えん。向こうも同じ考えのようだからな。何でも、少し前に実験機のテストを部隊内でも有数のベテランにやらせたそうだが、欠陥機で危ない事になった前例があるそうだ」
「得体の知れない相手と簡単に共同前線は張れない、という事ですか?」
「お互いにな。お前らも恥かかないようにな」
『了解!』



「始まります」

 七恵の声と同時に、攻龍の後部甲板から四人のウイッチが飛び立つ。
 同時に、攻龍の全センサーが一斉にウイッチ達の解析に取り掛かる。

「ウイッチの体表面に力場発生を確認」
「これが魔力って奴ね。ナノスキンの代わりを自前で発生させている……」
「飛行もかなり独特ですね。ストライカーユニットから発生したエネルギーをユニットだけでなく、体全体で制御してます」
「面白いわね、文字通り体その物が機体という訳……」

 七恵と紀里子が二人がかりで次々と集められたデータを解析していく。

「ソニックダイバーを初めて見た時、非常識な機体だと思った物だが、これは更にその上を行っているな」
「向こうもそう思ってるでしょう」

 宙を縦横無尽に飛び回るウイッチ達を見ながらの副長の呟きに、冬后も思わず返す。

「そろそろ、実弾演習を」
「了解」

 技術の違いで通信が送れない事から、発光信号でその事を伝え、ウイッチ達が銃を構えた所を確認してターゲット用ダミーバルーンが攻龍から射出される。
 虚空でダミーバルーンが広がったかと思う間も無く、四つのダミーバルーンが瞬時に破壊される。

「早っ!?」
「かなり実戦慣れしてるわね。射撃データ取れた?」
「一応。発射された弾丸にも体表面と同質と思われる力場が確認されました。ただ、エネルギー量はかなり違いますね」
「これなら、それなりの破壊力になりそうね……と言っても破壊力を測定できるようなダミーまで用意してなかったわね」
「さて、次はこっちの番だ」
「ソニックダイバー隊、発進してください」


 ウイッチ達が宙で見守る中、四機のソニックダイバーが発進していく。

「速~い♪」
「最高速度はマッハ2以上、ナノスキンと言われる物を体に塗布して最適化する事で、パイロットの防護をするって聞いたわ」
「シールドとか無いノカ?」
「エイラ、あの人達ウイッチじゃないから」
「ただ、21分32秒しか持たないから、その前に帰らないと危ないって話よ」
「う~ん微妙~」

 空に雲を引きながら、ソニックダイバーが見事なフォーメーションを描いていく。

「いい動きしてるわね。大分訓練してるわ」
「訓練ならこっちも負けてないゾ」
「実弾演習に入るみたい」

 放たれたダミーを、ソニックダイバー各機が次々と撃ち抜いていく。
 最後には、零神が手にしたMVソードでダミーを一刀両断する。

「ウワ、坂本少佐みたいダ」
「ここでも、ああいう戦い方する人いるんだ……」
「エリーゼはランスが得意って言ってた~」

 ウイッチ達が感心する中、ソニックダイバーが帰投し、代わりにライディングバイパーが上がってくる。


「え~と、どうすればいいんですか?」
『さっきみたいに飛んでみてくれ。無理に真似しないで、自由に飛んでいいから』
「分かりました! 行くわよ~!」

 冬后からの指示で、ライディングバイパーが急加速する。

「そ~れ!」

 ややたどたどしいながらも、亜乃亜のビックバイパーが虚空を飛び回る。

「こんな感じ?」

 他の面々に比べて流麗とは言えないが、ライディングバイパーの性能を出すべく亜乃亜は力を込める。

『よし、実弾演習に入る』
「いっけー!」

 放たれたダミーバルーンに向けて、強力な一撃が発射。
 破壊どころか半ば蒸発する形でダミーバルーンが霧散する。

『……すげえ威力。よし、帰投してくれ』
「は~い」



「なかなかやるな」
「そちらこそ」

 演習が終わり、少女達が全員浴室で汗を流していた。

「はあ~、なんか緊張した~」
「空羽ももうちょっと訓練した方いいゾ」
「じ~………」
「ウイッチの皆さんも結構すごいですね」
「みんないたらもっとすごいよ♪」
「エリーゼ達だって実戦ならもっとすごいんだから!」
「じ~……」

 皆がはしゃぐ中、音羽は湯船の中で何故か静かに皆のある一点を見つめていた。
 やがておもむろに拳を握り締める。

「よし、規格外はいない」
「あの、何の話ですか? 音羽さん」
「いや~、七恵さん以上の怪物がいるって聞いたから、他の人もまさかとは思ったけど……」
「それって、これの事?」

 ルッキーニがいたずらっぽい笑みを浮かべ、音羽の胸を後ろからわしづかみにする。

「きゃあっ!?」
「う~ん、ちょっと残念賞」
「あの、ルッキーニちゃん?」

 いきなりの事に音羽が悲鳴を上げるが、ルッキーニはすこし顔をしかめ、隣にいた可憐に視線を向ける。

「そっちはどう~かな~?」
「きゃああっ!」

 思わず悲鳴を上げる可憐にルッキーニが容赦なく襲い掛かる。
 とっさに潜ってルッキーニの魔手から可憐は逃げおおせるが、ルッキーニの手は向こうにいたエリーゼの胸へと当たる。

「ちょっ! 何して……」
「……ものすごい残念賞」
「え、エリーゼだってこれからなんだから!」

 すごく残念そうな顔をするルッキーニにエリーゼは思わず食ってかかる。

「貴方達、もうちょっと静かに…」
「こっちはどうかな?」

 髪を洗い終え、注意をしながら湯船に入ろうとした瑛花の胸をもルッキーニは容赦なく掴む。

「キ、キャアアアァァ!」
「お、これはこれで……」
「な、何するのよ!」

 一番過敏な反応を見せて瑛花がタオルで胸をかばいながらルッキーニから離れる。

「ごめんなさいね。どうにもルッキーニさんはまだ甘えたい年頃らしくて……」
「セクハラよこれ!」
「セクハラ? 何だソレ?」
「あの、いつもやってるんですか?」

 ウイッチ達が呆れと苦笑を浮かべる中、可憐が何気に問い質す。

「う~ん、いつもはシャーリーと一緒だからナ」
「たまにふざけてやるくらいだよ」
「どんだけ規格外なの、そのシャーリーって人」
「シャーリーも大きいけど、リーネはその次に大きいよ。七恵はその次かな~?」

 ルッキーニの一言に、音羽とエリーゼが凍りつく。

「二人? 規格外が二人も?」
「そんな……ウイッチって一体? でもひょっとしてすごい太ってるとか……」
「リーネは大きいの胸だけだゾ。普段は気も小さいシ」
「大人しいよね。胸以外」
「「………」」

 エイラとサーニャの追加意見に、音羽とエリーゼが湯船の隅で影を背負う。

「それじゃあ、私は先に…」

 亜乃亜が上がろうとした所で、ルッキーニの目が獲物を狙うように亜乃亜の胸へと突き刺さる。

「え、あの……」
「うじゅ~~!!」
「キャアアアアアア!」



『原さん、牛乳ちょうだい!』
「お、おお」

 風呂から上がってくると同時に、食堂でどこか鬼気迫る表情の音羽とエリーゼに、料理長はどこかたじろぎながら長期保存用牛乳のパックを二本差し出し、二人はそれをラッパで飲んでいく。

「何があった?」
「あの、なんて言うか……」
「女の事情よ」

 いぶかしがる料理長に可憐は言葉を濁すが、瑛花は一言で終わらせる。

「そんなに気にすんなヨ~」
「大分気にしてたみたい………」
「ルッキーニさん、あまり無闇にやっちゃダメよ?」
「うじゅ~……」

 牛乳を一気飲みしている二人にウイッチ達が声をかけるが、届いていないのか牛乳を嚥下する音だけが響いてくる。

「えと、あまり一気に飲むとお腹壊すよ?」

 亜乃亜が恐る恐る声をかけるが、そこで音羽は飲むのを一度止めて鋭い視線で亜乃亜の胸を一瞥、その視線でそのまま亜乃亜の顔を睨む。

「裏切り者!」
「そうくるんですか!?」

 ちょっと涙が出そうな目をこらえ、音羽はびびる亜乃亜を指差すと再度牛乳に取り掛かる。
 そこで複数の端末が同時に鳴り、送られてきたメールをソニックダイバー隊が確認する。

「15分後に全員作戦会議室に集合。演習についての反省会だそうよ」
「あれだけで何か分かったのかしら?」
「お互い、飛んでいる所は奇妙にしか見えないからね。何言われても怒らないで」
「無理難題言われるのは慣れてるわ………」

 瑛花とミーナが先頭になりぞろぞろと作戦会議室へと向かう。
 途中で抜け出そうとしたルッキーニをエイラとサーニャが両脇を掴んで作戦会議室へと入ると、あれこれ準備している冬后と紀里子が待っていた。

「来たな、適当に座ってくれ」
「ちょっと長くなりそうだから」
「ルッキーニ長いのイヤ~」
「コラそういう事堂々と言うナ」
「オレも長々とした会議は嫌いだが、時と場合に…」

 冬后が頭をかきながら始めようとした時、突然サーニャの頭に耳と魔導針が出現し、その色が変わる。

「……来る」
「ネウロイか!?」
「違う、これは…」

 ウイッチ達がそれの意味する事に気付くと同時に、けたたましいサイレンが攻龍内に響き渡る。

『ワーム接近中! 各員は第一種戦闘態勢に入ってください! 繰り返します! ワーム接近中! 各員は…』
「ちっ、長話の邪魔か!? ソニックダイバー隊、出撃準備!」
『了解!』
「貴方達はここで待ってて! 戦闘状況はモニターするから!」

 慌しく戦闘態勢に入っていく中、取り残されたウイッチと亜乃亜が顔を見合わせる。

「こっちは出撃しなくていいノカ?」
「え~と、あまり軍との戦闘に関わるなって言われてて」
「この世界の敵が何か、見ておく必要はあるわ」



「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」
「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」
「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」
「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」
『ソニックダイバー隊、発進してください』

 七恵のナビゲートに続いて、ソニックダイバー各機がリニアカタパルトで次々発進していく。

『実戦でのお前らの戦い方、お客さん方に教えるいいチャンスだ。かっこよく頼むぞ』
「了解!」
「よ~し、やるぞ~!」
「お~!」
「皆さん無理しないでくださいね」

 冬后の指示に皆が気合を入れる中、ソニックダイバー隊は編隊を組んでワームへと向かっていった。



 作戦会議室で手持ち無沙汰に皆が待つ中、壁の大型ディスプレイに映像が現れる。

「うわ、何これ映画?」
「外の様子映してるんだけど」
「こうやって見れるのカ、便利だナ」
「今出撃した」

 サーニャが言う通り、海の上を来る影に向かってソニックダイバーが出撃していく。
 程なくして攻龍の望遠カメラとソニックダイバーのライブカメラから敵の姿が映し出される。

「お魚?」
「イルカだゾ、あれ………」
「ワームは、発生した時そばにいた生物に擬態するって聞いてたけど」
「どうやらそのようね……」
「感覚はネウロイに似てる」
「始まるゾ!」



『目標はB-クラス、本艦に向けて高速接近中!』
『遠距離からの攻撃でセルをなるべく潰せ! 園宮、相手の行動パターン解析を急げ!』
「了解!」
「アタック!」

 先手を切って瑛花の雷神から大型ビーム砲の一閃が伸びるが、イルカ型ワームは泳ぐような動きで機敏にかわす。

「速い!」
「回避パターン予測、行きます!」

 続けて可憐の風神から飛滞空ミサイルがまとめて発射されるが、イルカ型ワームの口から発射されたリング状のビームで撃墜されていく。

「遠距離からじゃ無理ね。エリーゼ、音羽、足を止めて!」
「了解! MVソード!」
「MVランス!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェV―1が近接戦闘用の分子振動剣と分子振動槍を取り出し、突撃していった。



「なかなかやるナ」
「すご~い」
「ルッキーニも行きた~い」
「動きは生物的だけど、戦闘方法はネウロイと似てるようね」

 映し出されるソニックダイバー隊の闘いに、皆がそれぞれ感想を述べる。
 だが、サーニャは静かに固有魔法を発動し続けていた。

「もう一体いる」
「なんですって!?」



「レーダーに反応! 海面下にもう一体います!」
「下!?」

 可憐の通信に、思わず真下を見た瑛花の目に、水面下から一気に踊りだしてこちらを狙う同型のイルカ型ワームが飛び込んでくる。

「くっ!」

 とっさに回避させようとするが、かわしきれずに僅かに引っ掛けられ、雷神が大きく揺らぐ。

「瑛花さん!」
「大丈夫! こっちは私と可憐で…」

 体勢を立て直し、反撃に転じた瑛花だったが、相手の動きの速さになかなか対応しきれない。

(まずい、ロックには最低三機必要。けれど一機だけでこれは止められない!)
『無理をするな一条! 攻龍で援護するから、こちらに誘導しろ!』
「やってみます!」
「うわあ!」
「きゃあ!」

 なんとか誘導を試みるが、二体のイルカ型ワームは互いにコンビネーションを組むかのような動きで、逆に攻龍からどんどん遠ざけられていく。

「どうすれば………」

 リーダーとしてどう戦えばいいか、瑛花は必死に思考を巡らせるが、相手はその時間すら与えてくれそうになかった。



「押されてるゾ!」
「あああ、どうしよう!?」
「ミーナ中佐!」
「…………」

 苦戦してる様をリアルに見せられ、ウイッチ達と亜乃亜に動揺が走る。
 無言でその光景を見ていたミーナだったが、やがて目に決意が宿る。

「501小隊、出撃!」
『了解!』



「一条! 桜野! 園宮! エリーゼ! 何とか退け!」
『そ、それが!』
『相手のコンビネーションは完璧です! 撤退の機会がありません!』
「なんとかならないんですか!」

 悲鳴に近い通信に、タクミが思わず叫ぶ。
 ブリッジ内に緊張した空気が満ち、誰もが状況打開の方法を必死になって模索していた。
 その時、不意に格納庫から通信が入る。

『タクミ、チャンネル8から11まで繋いでくれ』
「僚平さん? 何を……」
『予備インカムを貸したんでな』

 不思議に思いながらタクミがチャンネルを開いた所で、それぞれのチャンネルにウイッチ達の顔が表示される。

「あんたら…」
『ストライクウィッチーズ、ソニックダイバー隊援護のため、出撃します!』
『亜乃亜も行きます! デストロイ・ゼム・オール!!』

 冬后が何かを言う前に、ウイッチ達とライディングバイパーが攻龍から飛び立っていく。

「な、外部の人間を戦闘に参加させるなぞ……」
「どうこう言ってられる状況じゃないでしょう、島副長」
「しかし……」
「戦えるのかね、彼女達はワームと」
「恐らくは」

 艦長の問いに、ブリッジに姿を現した紀里子が応える。

「先程のデータと、私の予想が適合するのなら、彼女達は大きな力になってくれるでしょう」

 遠ざかっていく者達の姿を見つめながら、紀里子は小さく微笑んだ。



「このおっ!」

 全開で振り回したMVソードが、何かに食い込んで止まる。

「あっ!」

 刃筋を通し損ねた事に音羽が気付いた時、イルカ型ワームの背びれから発射した小型のセルミサイルがこちらへと向かってきていた。
 だがセルミサイルは飛来した光線に次々と撃墜され、事なきを得た。

「助けに来たよ! 今ウイッチの人達も向かってきてる!」
「亜乃亜さん!」

 駆けつけた亜乃亜が戦線に加わり、戦闘はなんとか拮抗状態になっていく。

「なんとかこいつらのフォーメーションを崩せば……」
『それじゃあ、一体はこちらで受け持つわ』

 突然響いてきた通信に瑛花が驚くと、こちらに向かってくるウイッチ達の姿が視界に飛び込んでくる。

「待て、その火力では無理だ!」
「時間稼ぎくらいにはなると思うわ。最低でも」
「それ~!」

 先陣を切ってルッキーニのブローニングM1919A6が銃火を吐き出し、かなりの速度で動き回っていたイルカ型ワームに全弾が命中、その体が揺らぐ。

「十発十中だよ! すごいでしょー!?」
「え?」
「効いてます! 彼女達の攻撃はワームに効いてます!」
「ウソ、あの口径で?」

 目の前で起きた事と、可憐からの報告に瑛花は双方を思わず疑った。



「どういう事だ?」
「彼女達ウイッチが《魔力》と呼んでいる力、それがワームのセルに局所的ですが過負荷を与え、破壊してるんです。これなら口径の違いは関係ありません」
「信じられん……」
「だが、行ける!」

 紀里子の説明に、ブリッジは半信半疑だったが、事実ウイッチ達の攻撃はワームに確実にダメージを与えていた。

「片方は501に回せ! 一体を総動員で倒せ! 以上!」
『了解!』



「ワームはネウロイと違ってコアを持ってないわ。過剰攻撃で破壊するしかないそうよ」
「めんどくさいナ~」
「エイラさんとサーニャさんで頭上を押さえて! ルッキーニさんは左翼、私は右翼から攻撃!」
「行くよ~!」
「行くゾサーニャ!」
「うん!」

 ミーナの指揮でウイッチがそれぞれの位置に向かおうとするが、させじとイルカ型ワームがリングビームを放ってくる。
 即座にルッキーニとミーナがシールドを展開し、それを防いだ。

「何だそれは!?」
「ウイッチのシールドよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてない!」
「すご~い! ゼロにも欲しい!」

 瑛花の驚いたような声に音羽の歓声が重なり、ミーナは思わず笑みを浮かべるが、即座に真剣な顔になるとMG42機関銃を構えて攻撃を開始する。

「ここで釘付けにするわ!」
「了解! それ~!」

 ウイッチ達の一斉攻撃がイルカ型ワームに突き刺さり、構成セルを潰していく。
 だが、徐々にだが再生していき、致命傷になりえない。

「うげ、こんなとこだけネウロイ並カヨ……」
「エイラ、来る」
「ソウダナ」

 前方に居るエイラとサーニャに向かって、セルミサイルが一斉発射される。
 それぞれが複雑な機動を描きながら向かってくる中、エイラは平然と前へと踊りだす。

「危ない…」
「♪」

 可憐が思わず叫ぶが、エイラは鼻歌交じりに次々とセルミサイルをかわし、撃墜していく。

「え? パターン解析も無しに……」
「私の固有魔法は『未来予知』。こんなのかわすの朝飯前なんだナ」
「よ、予知能力!?」
「エイラ」
「おう」

 サーニャの声にひらりと避けたエイラの影から、フリーガーハマーから放たれた20mmロケット弾が飛来、背びれを粉砕する。

「これでしばらくさっきのは来ないゾ」
「うん」
「それ~!」

 ルッキーニが縦横に飛び回りながら、イルカ型ネウロイを蜂の巣にするが、ネウロイと違ってコアの無い相手に致命傷を与えられない。

「倒れな~い!」
「あっちはどうやって倒してんだヨ!?」
「ナノマシンのテロメア効果とか言われたんだけど、何が何やら………」
「うじゅ~~、シャーリーが居ればビュ~ってしてドッカーンって出来るのに~」
「ビュ~ってしてドッカーン?」

 通信を聞いていた亜乃亜がしばし考え、やがて何かを思いついたのか顔が明るくなる。

「ビュ~ってしてドッカーン、ね?」
「分かったのかヨ?」
「ビックバイパー、モードセレクト《IDATEN》モード! スキャン全開、エネルギーコアサーチ!」

 エイラの突っ込みも無視して、亜乃亜はビクバイパーのモードを変更、更にワームの全身をスキャンしてエネルギーの高い部位をサーチしていく。

「発見! そこ!」
「援護するわ」

 亜乃亜が何かをするつもりらしいと気付いたミーナが、イルカ型ワームに突撃する亜乃亜の軌道を確保するべく、援護射撃に入る。
 援護を受けながら亜乃亜はエネルギーの高い部位のセルを見つけ出すと、攻撃してその部位を切り離し、回収するとそのエネルギーを吸収していく。

「ゲ~ット! これなら! スピード最大、ミサイルゲーット、オプションもらい!」

 セルから吸収したエネルギーを元に、ビックバイパーの兵装が次々と強化されていく。

「セルのエネルギーを吸収してます!」
「できるのそんな事!?」
「どういう仕組みよ」

 ソニックダイバー隊が唖然とする中、ビックバイパーのバーニアが噴煙を増し、複数のオプションが出現していく。

「あっちもすごいナ」
「うん」
「亜乃亜いっきまーす!」

 ウイッチ達も感心する中、先程とは比べ物にならない高速でビックバイパーがイルカ型ワームの周囲を旋回し、小型ミサイルと貫通レーザーを叩き込んでいく。

「よ~し、掴まってルッキーニちゃん!」
「了~解!」

 銃を背負ったルッキーニが亜乃亜の足に掴まり、二人が急加速してイルカ型ワームに突撃していく。

「いっちゃえ!」
「え~い!」

 加速しながら亜乃亜から発進したルッキーニが己の固有魔法の光熱多重シールドを展開。
 そのまま体当たりしてして一気に大量のセルを破壊していく。

「トドメ行くわよ! どいて!」
「うじゅ~~♪」
「ドラマチック……バーストー!」

 亜乃亜のプラトニックパワーを最大に取り込んだビックバイパーから、無数のサーチレーザーが放たれ、イルカ型ワームを貫く。

「一斉攻撃!」
『了解!』

 セルの再生が始まる前に、ウイッチ達の一斉射撃が次々とイルカ型ワームへと突き刺さる。

『セル破壊率、70、75、80%! 構成限界突破します!』
「崩壊と同時に爆発するそうよ! 防御を!」
「こっちだサーニャ!」

 連続の強力な攻撃の前に、とうとう限界に達したイルカ型ワームが崩壊、大爆発を起こして消滅する。
 前もってその事を聞いていたミーナの声に反応してそれぞれがシールドを張り、エイラはサーニャを連れて爆発範囲から素早く待避する。

「やったよ!」
「敵、破壊を確認!」


「……倒しちゃった」
「信じられません……」
「こっちも行くわよ! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 負けじと四機のソニックダイバーがイルカ型ワームの直上を取ると、急降下しながら取り囲む。

「行くよゼロ!」

 他の三機が援護射撃する中零神が突撃し、イルカ型ワームにMVソードを突き刺す。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、イルカ型ワームを囲むと同時にMVソードからナノマシンと融合中のナノマシンデータを直接送り込み、ホメロス効果を強制的に発動させる。

「セル転移強制固定、確認っ!!」
「アタック!!」

 瑛花の号令と同時に、人工重力場内でセル組成が急激崩壊していくイルカ型ワームに全火器を発射。
 限界に達したイルカ型ワームはとうとう爆発して完全崩壊した。



『こちら雷神 一条。ワーム殲滅を確認』
「よくやった。全員戻って…」
『まだいる』 

 帰投指示を冬后が出そうとした時、サーニャの呟きにブリッジがざわめいた。

「園宮!」
『レーダーには何の反応も……』
『来る』
『散開!』

 ミーナの指示で全員が散る中、海面から何かが飛び出したかのような水しぶきが上がった。



「何かいる!」
「どこ? どこ?」
「何も見えないよ!?」
「そこ!」

 敵の姿が見えない中、唯一サーニャだけが反応して20mmロケット弾を放つ。
 噴煙を上げて飛来したロケット弾が何かに命中し、画像がぶれるようにヒラメと思われる平べったい異様な姿のワームを数秒だけ映し出す。

「ワーム!?」
「今少しだけ反応が……光学、電子両方の迷彩機能を持ってます!」
「亜乃亜!」
「はい!?」

 サーニャの呼びかけにその場を動いた亜乃亜の髪の先端を、高速で通り過ぎた何かが千切る。

「きゃああ! 髪が!」
「見えた?」
「私の未来予知も、相手が見えないと分からないゾ!」
「動体、赤外線、速すぎて捕らえられません!」

 完全に透明なヒラメ型ワームに、全員がたじろぐ。

「サイズは恐らくC-。けど……」
「そこか! そこか!」
「出てきなさい! 卑怯者~!」
「円陣を組んで弾幕を! サーニャさん指示を!」

 闇雲にMVソードを振りまくる音羽やデタラメにレーザーを撃ちまくるエリーゼに、ミーナが鋭く指示を出す。

「全員背中合わせに! 死角を作らないで!」
「サーニャさんを中央に! 分かるのは彼女だけよ!」

 瑛花とミーナの指示に基づき、全員がサーニャを守るように背中合わせに円陣を組む。

「どこ! ワームはどこに!?」
「9時の方向、離れてる。今こっちに……潜った」
「え~ん、分かんな~い」

 全員がかりで周囲全てに視線を巡らせるが、姿が全く見えない相手に異常なまでの緊張が続く。

『大丈夫か!?』
「敵の位置が全く分かりません。サーニャの力に頼るしか……」
「私もやってみるわ」

 未知の能力を持つワーム相手に冬后も瑛花も打つべき手が分からず、ミーナも己の能力でワームを見つけるべく固有魔法を発動させる。

「危ない!」
「真下!?」

 まるで能力発動で無防備になる瞬間を待っていたかのように、ヒラメ型ワームが姿を消したまま海面から飛び出し、その口から無数の半透明の触手がミーナへと襲い掛かる。

(シールド、この数では間に合わない!)

 相手の攻撃が自分の四方から同時に来る事が分かるが、防御が間に合わない事を悟ったミーナの眼前に、半透明の触手が襲い掛かる。

(美緒!)

 思わずこの場にいない副官の事を思った時、突然半透明の触手の先端が弾け飛ぶ。

「え?」

 四方から迫ってきていたはずの触手の先端が次々と弾け飛び、のみならず触手その物にまで次々と穴が開いていく。

「攻撃か! 誰だ!」
「私じゃない!」
「私でもないゾ!」
「そもそも、誰も撃ってません!」

 何が起きているのかまったく分からない者達が叫ぶ中、サーニャと可憐がその何かの存在を掴んだ。

「何か、小さな物がワームを攻撃しています!」
「すごく小さい……感じるのがやっとだけど、大きな力を感じる」
『一体何が起きている!』
「そ、それが……」

 伸びてきていた触手全てが無数の穴で千切り飛ばされ、ダメージで僅かに姿を晒したヒラメ型ワームが再度海面下へと潜っていく。
 そして、高速で動き回りながらワームを攻撃していた物が、動きを止めてミーナの前に姿を現した。

「次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。今からあんたが、ボクのマスターだよ」
「人形!?」

 それは、全長が15cmくらいの少女の姿をし、灰色のボディスーツに漆黒の戦闘用アームを装着した、奇妙な存在だった。



「何ですかアレ!?」
「知らん!」
「まさか……武装神姫、だと?」

 カメラに映し出された、小さな応援の姿にブリッジ内が騒然とする中、島副長がポツリと呟く。

「島副長、知っているのかね?」
「いや、私が若い頃に、従兄弟が熱中していたオモチャに似てるのです。ただ、それはただのオモチャだったはず………」
「だが、あれはどう見ても兵器だ」

 艦長の言葉通り、ワームと戦える程の力を持った黒の武装神姫の姿に、二の句を告げる者はいなかった。



「ボクは武装神姫・悪魔型MMSストラーフ、あんたは?」
「ストライクウイッチーズ隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」
「ふ~ん、って後だね。また来るよ!」

 ストラーフの言葉通りに、海面からまた何かが飛び上がる。

「そこ!?」
「アタック!」

 姿は見えないが、大体の位置を予測して皆が撃ちまくる。

「違うって! もうあっちにいったよ!」
「何で分かるんですか!? 風神のセンサーでも捕らえられないのに?」
「そこ」

 ストラーフが指差した方向に、サーニャの自分でも感知した場所と重ねて攻撃するが、わずかに外れてロケット弾はそのまま飛んでいく。

「ストラーフ、だったわね。相手の位置が教えられる?」
「もっといい方法あるよ!」

 ミーナの問いかけに、ストラーフは笑みを浮かべて飛び出していく。

「地獄の門を、ノックするよ!」

 ストラーフは格闘戦用大型武装腕GA4“チーグル”アームパーツを振り回し、そこにある物を殴りつける。
 オモチャサイズとしか思えないはずの格闘腕が殴りつけると、まるで巨人にでも殴られたかのような衝撃で、透明だったヒラメ型ワームが姿を現す。

「もう潜らせたりしないよ!」

 水中に逃げる暇すら与えず、連続しての左右の打撃が炸裂すると、その度にヒラメ型ワームの体が歪み、轟音が響く。
 ヒラメ型ワームの動きが完全に止まり、そこにダメ押しでシュラム・RvGNDランチャーのグレネード弾が叩き込まれる。

「きゃはははっ!」

 爪楊枝の先端程のグレネード弾が、まるで強力な爆発物でも食らわしたかのような爆発を起こし、皆が驚愕する。
 ストラーフの小さな体とは裏腹の破壊力に、ヒラメ型ワームの透明化は完全に消え、セル修復のために動きが止まっていた。

「今の内! クアドラフォーメーション!」

 その隙を逃さず、ソニックダイバーがフォーメーションを展開、クアドラロックで相手を捕らえた。

「アタック!」
「攻撃!」
「お返し!」

 瑛花の号令と同時に、ソニックダイバー隊だけでなくウイッチと亜乃亜も一斉攻撃を開始。
 過剰砲火の前になす術も無く、ヒラメ型ワームは爆散した。

「やったぁ!」
「倒した~♪」
「敵殲滅を確認!」
「負傷者0、上出来ね」
「ふぅ、作戦完了!」

 音羽とルッキーニが歓声を上げ、瑛花とミーナが素早く現状を報告。

『全員よくやった。すぐに帰投しろ』
「了解」
「助かったわ、ありがとうストラーフ」
「えっと……これからよろしくマスター!」
「これから?」

 ストラーフの言葉に、ミーナが微かに違和感を覚えた時だった。
 ソニックダイバーとビックバイパーが同時に甲高い警報を鳴らす。

「なんダ!?」
「異常磁力反応確認! これは、ミーナさん達が現れた時と同じです!」
「間違いない、転移反応! 何か来る!」
『今度は何だ!?』
「……来る!」
「え、何ダァ!?」

 全員が騒然とする中、サーニャが上空を見つめる。
 つられてそちらを見たエイラが、そこに見える予知に絶句した。
 そこに、ウイッチ達が飛ばされた時と同じ渦が出現すると、中央から巨大な影が飛び出してくる。

「な、何あれ!?」
「ミサイル!?」
「違うわ! でも一体何!?」
「飛行機でも船舶でもありません!」
「まさか、宇宙船!?」

 奇妙に尖ったシルエットを持った、見た事も無い機影を持ったそれは、亜乃亜が思わず叫んだような、SF映画に出てくるような宇宙船のような姿をしていた。

「待って、中に誰か乗ってる……けど、人間じゃない!?」
「どういう事!?」
『何が起きている! 状況を報告しろ!』
「謎の大型機体が突如として出現! 中に何かが乗っている模様!」
『何かってなんだ!?』
『待ってください! 出現した機体から通信を傍受しました!』

 ミーナの固有魔法解析が更なる混乱をもたらす中、タクミが更なる情報をもたらすのだった……


『ティア、フェイン…ティア、フェインティア聞こえていますか?』
「聞こえてるわよ!! ここ何処? どーなたの!?」
『それは、私に対する質問ですか?』
「ちーがーうー!! …ってまあ、質問には違いないか」
『状況の整理を提案します、フェインティア』
「はあ、…続けてちょうだい」
『我々は脱出直後に、何らかの手段で超長距離転送されたと思われます。今のところ、それしか分かりません』
「わかんない? ここ未知の宙域なの? 計画されてた掃討戦はどうなったのかしら。私たちも脱出したはいいけど、帰還できないこんな状況なんて。マズったわね。こちらTH44 FAINTEAR! 現在宙域不明! ここは、どこ!?」



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP6
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/01/12 21:56
『複数の熱源感知、及び周辺に戦闘による物と思われるエネルギー残滓を確認』

 艦載AI《ブレータ》からの報告に、フェインティアの顔に驚愕が浮かぶ。

「戦闘!? 敵? 味方? それとも…… モニタリングできる?」
『可能です』

 映し出された外の画像と、そこにいる者達にフェインティアは更に驚く。

「何? まさかトリガーハート?」
『違います。全員から生命反応を確認、この惑星の有人機動兵器と思われます』
「何と戦ってたの? 分かる?」
『不明です。ただ彼女達の武装及び兵器の内在エネルギーから、かなりの高エネルギー戦闘が行われたと推測できます』
「どことも知れない宙域で、よりにもよって所属不明の機動兵器の真ん前に出ちゃったようね……… パージしたあたしのユニットパーツはどうなった?」
『それも分かりません。敵に回収された可能性があります』
「ぐ」
『現在搭載している、アンカーシステムのテスト用砲撃艦のみ使用可能です。随伴艦喪失状態。戦闘は可能ですが、状況は楽観できません』
「例のガルシリーズ二艦のみ、…ね。あんたも出力低下中だし、どーしよっか? 何事もパーフェクトにこなす私にとって、汚点になりそうな状況ね。最悪だわ」
『サイアクですか。……現地機動兵器のエネルギー出力上昇、戦闘もしくは準戦闘待機態勢に入ったと思われます』
「このまま落とされるなんて冗談じゃないわ! 出るわよ!」
『ユニットシンクロ、準備完了。…フェインティア、残念ですが、そろそろ私も限界です』
「離脱後はあんた、一旦隠れてなさい」
『了解。フェインティア出撃後、欺瞞モードへ。幸運を祈ります』
「ようし、行くわよ! ガルトゥース、ガルクアード!!」


「出てくるわよ」

 ミーナの言葉に、全員が一斉に戦闘体勢を取る。
 突如として出現した謎の宇宙船の中から、高速で何かが飛び出す。

「え?」
「女の子? 私達と同じくらいの………」
「違う、人間じゃない」

 中から飛び出してきた、オレンジ色の髪に赤いプロテクターとスーツをまとい、二機の小型武装ユニットのような物を従えた少女の姿に全員が一瞬呆気に取られるが、サーニャの一言に我に帰る。

「オールサーチ………体の半分は組成不明の合金と無機物、体表面と内臓らしき物と思われる有機物反応がありますが、こんな物は今の技術では作れません!」

 可憐が素早く風神の全センサーを使って相手をサーチするが、そこから導き出された少女の正体に悲鳴に近い声を上げる。

「大佐! 指示を!」
『………向こうから手を出さない限りは手を出すな。コンタクトは取れるか?』
『先程、こちらと極めて近い言語パターンを傍受してます! コンタクトは可能かと……』
「向こうに話す気があればね」

 冬后とタクミからの通信に、ミーナが僅かに焦りを浮かべながら、手にした銃の残弾を脳内で計算する。

「オイ、あの変な船だかなんだか、消えてくゾ!」
「さっきのと同じ光学迷彩!」
「まさかあいつの仲間!?」

 宇宙船の姿が消えていくのに気付いたエイラに、亜乃亜とエリーゼが先程戦ったワームの事を思い出す。

「マスター、彼女とさっきの宇宙船から高レベルの次元転移反応を感知したよ。マスターとほぼ同じレベル、間違いなく別の次元から来てるね」
「問題はそこじゃなくて、敵かどうかって事よ」

 ストラーフの報告に、ミーナは謎の少女から目を一切逸らさず、自分の固有魔法を発動させ続ける。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR、ここはどこ?」

 謎の少女、フェインティアからいきなりかけられた言葉に、皆が僅かに動揺する。

「私達は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊。まあ他の部隊も混じってるけど」
「極東方面? ここはどこの恒星系のなんて惑星? ヴァーミスとの闘いはどうなったの?」

 瑛花が代表して応えるが、フェインティアからの返答に更に困惑が広がる。

「どうしよ、訳の分からない事言ってるよ……」
「私達と同じね。なんて言えばいいかしら?」
「恒星系ってどういう意味?」
「え~と学校の授業で一応習ったような……」
「ここは銀河系オリオン腕太陽系第3惑星、地球です」

 音羽を中心として皆が顔をつき合わせて密談する中、可憐がすらすらと答えた。

「銀河系オリオン腕? どこの辺境よ?」
「局部銀河群の棒渦巻銀河の端っこですから、確かに辺境と言えば辺境ですけど……」
「可憐ちゃんすご~い」
「何言ってんだか全然分からナイゾ」
「亜乃亜にもさっぱり………」
「どうやら、とんでもない所に飛ばされたって事だけは分かったわ。それで、貴方達は何をしてたの?」
「ソニックダイバー隊の作戦目標はワームの本拠地《ネスト》の調査及び殲滅だ」
「ワーム? ネスト? 聞いた事も無いわね」
「………」

 話してみて、まるで人間と変わらない反応に、瑛花は迷う。
 だが、それ以上に過敏に反応していた者が一人だけいた。

「一つだけ教えて、貴方は人間じゃないの?」
「私はトリガーハート、最強にして最高、パーフェクトな兵器よ」
「つまり、ワームと同じだ!」

 静止の間も無く、エリーゼのバッハシュテルツェがMVランス片手にフェインティアに突撃する。

『交戦は許可してないぞ!』
「人間の姿をしただけの奴なんか、信用できるもんか!」

 冬后の通信に怒鳴り帰しながらも、MVランスの切っ先がフェインティアに突き出されようとした。

「ガルクアード!」

 だが、フェインティアの従えた二機の攻撃ユニットの一つ、砲撃&アンカー艦《ガルクアード》から光のラインを引きながら放たれたアンカーが、MVランスに突きつけられる。

「この!」

 エリーゼはとっさにアンカーを弾こうとするが、そこで奇妙な現象が起こった。
 ぶつかったMVランスとアンカーが、弾かれもせずにくっついたかと思うと、アンカーがMVランスに侵食していく。

「何これ!?」
「それを放して!」

 サーニャの言葉に、エリーゼがMVランスを手放し、そのままMVランスはアンカーに完全に侵食される。

「セイッ!」

 フェインティアはアンカーを勢い付けて回転させると、バッハシュテルツェに目掛けてMVランスを投げ帰す。

「危ない!」

 予想外の相手の反撃に、ミーナがとっさに前へと出てシールドを展開、シールドに直撃したMVランスはその場で爆発、四散する。

「なあに今の!?」
「爆発した!? そんな機能は付いてないはず!」
「離れて! もしあれがストライカーユニットやソニックダイバーに当たったら大変よ!」
「わあ! ゼロ取られたら大変!」

 全員が慌てて散開する中、フェインティアは彼女達を観察する。

(大した事は無さそうね。たださっきのバリアシールド、完全にこっちの攻撃を防いだ? しかも発生装置らしき物は見当たらない。どういう事?)
「このお!」
「エリーゼ!」

 フェインティアが怪訝に思う中、エリーゼが予備のMVランスを抜いて再度襲い掛かる。

「同じ手を何度も!」

 フェインティアが再度アンカーを繰り出すが、エリーゼが唐突にアンカーへと向けてMVランスを投げつけた。

「それはこっちの台詞!」

 アンカーにわざとMVランスを侵食させる事で逆にアンカーを封じたエリーゼが、腕部の可変出力レーザー砲をフェインティアに向ける。

「ガルトゥース!」

 ほぼ同時に、フェインティアのもう一つの攻撃ユニット砲撃専用艦《ガルトゥース》から高出力レーザーが射出される。

「え…」
「危ないゾ!」

 バッハシュテルツェのレーザーをあっさり飲み込み、迫ってくる高出力レーザーの前にエリーゼが一瞬硬直したのを、未来予知でそうなる事を見ていたエイラが強引にレーザーの範囲から押し出す。
 ガルトゥースのレーザーはエイラの後ろ髪をわずかにかすめ、そのまま海面へと直撃すると、海面が強大な水蒸気爆発を起こして盛大な水柱が上がる。

「なんて威力………」
「ソニックダイバーを遥かに上回る出力です! 直撃したらひとたまりもありません!」
「落ち着いて! 交戦理由は何も無い…」
「たあぁぁ!」
「この~!」

 雷神の大型ビーム砲を軽く上回る破壊力に瑛花が呆然とし、可憐が素早くそのエネルギー数値を確認して悲鳴を上げる。
 ミーナがなんとか戦闘を止めさせようとするが、MVソードを抜いた音羽の零神が挑みかかり、お返しとばかりにルッキーニが銃撃を繰り出す。

「そんな攻撃!」

 フェインティアはアンカーで零神を狙い、ルッキーニの使っているのが旧式銃火器だと思って軽くかわすだけに留めるが、音羽はMVソードでアンカーを絡め取るような動きで明後日の方向に弾き飛ばし、ルッキーニの銃撃はガルトゥースの装甲を遠慮なく削っていく。

「な……どういう事!?」
『フェインティア、相手を甘く見てはいけません。特に脚部のみに飛行ユニットを装着した者達の生体エネルギー量は独自のパターンを形勢、恐らくはサイキッカーです』

戦闘超能力者コマンドサイキッカー!?」
「たあああぁぁ!」

 ブレータからの報告に驚くフェインティアに、音羽が上段から斬りかかる。

「く、この!」
「うじゅ!」

 とっさにガルクァードから至近距離で砲撃を繰り出すが、それを読んでいたのかルッキーニが零神の背後に回りこんで両者の間に多重シールドを展開。
 双方のエネルギーが直撃し、爆発を起こして双方が吹っ飛ぶ。

「うわああぁ!」
「うきゃああぁ!」
「キャアアァ!」

 悲鳴を上げて三人がそれぞれスピンしながら宙を舞うが、海面に直撃する前に全員が立て直して再度宙へと飛び上がる。

「び、ビックリした………」
「音羽! 交戦許可は出てないわよ!」
「うじゅ~、危なかったぁ………」
「フランチェスカ・ルッキーニ少尉! 何を勝手に戦ってるの!」

 音羽とルッキーニが互いのリーダーに怒られる中、フェインティアは先程まで持っていた相手のイメージを完全に捨てる事にした。

「なんて連中よ……相当戦闘経験積んでるわ」
『フェインティア、ここでの交戦は無意味と推測します』
「やってきたのはあっちよ。なら、受けて立つまで!」
「隙あり~!」

 ブレータからの勧告を無視して、フェインティアは直上から襲ってくるエリーゼのバッハシュテルツェに向けて砲口を向けた。


「もしもし! もしもし! こちら亜乃亜! 現在所属不明のメカ少女とスカイガールズが交戦中! 指示を! ってこっち向けて撃たないで~!」

 なし崩し的に戦闘に突入してる現状に、亜乃亜が大慌てでG本部へと連絡を取る。

『こちらオペレッタ。現状は認識しています』
「じゃあどうすれば!? 戦っていいのかどうか……」

 Gのミッション管理オペレーションシステム《オペレッタ》からの返答に、亜乃亜は狼狽どころか半分泣きが入る。

『現在、状況処理のために新たに二名、天使が急行しています。到着までの間、双方の戦闘中断に尽力してください』
「どうやって!?」

 思わず叫んだ亜乃亜の背後で、再度巨大な水柱が立ち上る。

「え~い、もう頑張るしかない!」

 半ばヤケクソで、亜乃亜はビックバイパーの機首を戦闘空域へと向けた。



 静かな海面を、二つの機影が高速で通り過ぎ、その後に巨大なソニックブームが海面を断ち切っていく。

「始まってるわね。亜乃亜はちゃんと仲裁できてるかしら?」
「このエネルギーのぶつかり合いだと、ダメっぽいよ?」

 前方を行く、赤と黄色のシャープなライディングバイパーを駆る桃色の髪をポニーテールにした少女の呟きに、後方を行く艦首砲とブースター部分のみという極めて風変わりなライディングバイパーを駆る黄色の長髪を青いリボンで数箇所縛ってツインテールにした少女が送られてくるデータを解析しながら返す。

「急ぎましょう、被害が出るのだけは防がないと!」
「高速仕様に改造してる暇があったら………あれ? 何だろこの反応?」

 ツインテールの少女は、自分達と反対側の方向から、同じ目的地へと向かう小さな反応に首を傾げていた。



「うわわわ! サーニャこっちダ!」
「うん」

 飛んでくる高出力レーザーに、エイラとサーニャは大慌てで回避する。

「ミーナ中佐! これどうすればいいンダ!?」
「もし彼女が私達と同じような状態なら、なんとかして戦闘行動を中断させるべき…」

 そういうミーナの脇を、アンカーに取られて侵食されたMVソードがすっ飛んでいき、海面に接触して爆発する。

「マスター、ボクが止めに入る? ちょっとどっちかの手足破損するかもしれないけど」
「それは幾らなんでもまずいわよ………せめてまともに会話できれば………」
「この状況で?」

 最初に手を出したエリーゼを筆頭に、音羽、ルッキーニの三人が中心となってフェインティアとの激戦を繰り広げている状況に、残った者達はどうするべきか戸惑っていた。

「止めるも何も、火力が違いスギル!」
「全然話聞いてくれそうも無い……」
「どうする? こちらも参戦して力尽くで抑えるか?」
「それしかないかしら………」
「待ってください! 今Gの天使が二人、こちらに向かってます! そうすればなんとか…」

 臨戦態勢を取ろうとする瑛花とミーナを亜乃亜が抑えようとするが、そこでガルトゥースのビームがかすめ、一撃で亜乃亜のビックバイパーのシールドが消失する。

「え………」
「どうやら、やるしかなさそうだな」
「ええ」



「なんて戦闘力だ………ワームなんか目じゃねえぞ」
「やはりあれは、敵なのか!?」
「いや、現状を理解していないだけかもしれない。なんとか回線は開けないか?」
「さっきからやってますが、戦闘の影響か上手くいきません!」
「ソニックダイバー隊のナノスキン、活動限界まで5分を切りました!」

 攻龍のブリッジ内で、フェインティアとの戦闘状態に突入した事に、どうすればいいかを誰もが迷っていた。

「至急ソニックダイバー隊を撤退」
「了解、と言いたい所ですが、難しいですね艦長……」
「いっそ、撃墜しては?」
「そう簡単に撃墜できる相手には見えんよ」
「でもこのままじゃ!」

 七恵が悲鳴を上げる中、ブリッジの扉が開くと、アイーシャが姿を現す。

「私が説得してみる」
「なに?」
「出来るのかアイーシャ!」
「はっきりとは分からないけど、彼女の制御神経系にナノマシンが使われている感じがする。恐らく有機CPUも使ってるから、可能のはず」
「けど、また倒れたら…」
「でも、私しかいない」

 ブリッジの全員が不安気に見る中、アイーシャは目を閉じ、精神を集中させて自らのナノマシンを活性化、シグナルを送信させる。



(サーニャ、聞こえる?)
「アイーシャ?」
(彼女を説得する。けど距離があって難しい。手伝ってほしい)
「分かった。私を中継して」
「何言ってんダ、サーニャ?」

 アイーシャからのシグナルを受信したサーニャが、エイラが不思議そうに見る中、自らの固有魔法の探査能力をフェインティアに集中させる。

(私の声が聞こえるか。フェインティア)
「な、何!?」
『どうかしたのか、フェインティア』
「私のナノニューロンに何かが直接アクセスしてきた! どういう事!?」
(私はアイーシャ、そこにいるのは私の仲間。貴方と戦う理由は無い)

 突然頭の中に響いてきたアイーシャの声に、フェインティアは露骨なまでに狼狽した。

「先にやってきたのは向こうよ!」
(それは謝る。エリーゼは前にワームに家族を殺されて、過敏に反応しただけ)
「じゃあ他の連中は!」
(みんな戸惑ってる。私達は、貴方のような人間に見える人間じゃない存在を知らない。だからどうしたらいいか分からない)
「じゃあ教えてあげるわ、私がパーフェクトなトリガーハートだって!」

 アイーシャの説得も聞かず、フェインティアが砲口を二つともバッハシュテルツェに向けると、エネルギーをチャージし始める。

(ダメだ!)
「大丈夫、飛べなくなるくらいに吹っ飛ばすだけだから!」

 明らかに撃墜する気満々でフェインティアがレーザーを発射する直前だった。

「主砲発射用意! 撃ぇ!」

 どこかから声が響いたかと思うと、小さな弾丸がフェインティアとエリーゼの間に放たれ、凄まじい閃光が炸裂する。

「閃光弾!?」
「誰だ!?」

 ウイッチ達もソニックダイバーも装備してない武装に、ミーナも瑛花も目をかばいながら飛んできた方向に目を向ける。

「く、目くらましなんて原始的な!」
「うう、くらくらする………」

 視覚素子を回復させながら、フェインティアが周囲をサーチして閃光弾を放った相手を探そうとする。
 だが、それは恐ろしい程間近に迫っていた。

「次元転移反応確認、指定条件に全項目一致。現時刻を持って、貴方を私のマイスターとして認識する」
「な、なにこれ?」
「武装神姫!?」

 フェインティアの目の前に、戦車の主砲を思わせるユニットとパイルバンカーを搭載した、重武装の武装神姫が一体、対峙していた。

「私は武装神姫・戦車型MMSムルメルティア、マイスターをサポートするようプログラミングされている。そして忠告する、彼女達は敵ではない」
「はあ!? いきなり現れて何言ってんのアンタ!」
『フェインティア、確かにここで戦うメリットは無い』
「あんたまで! 仕掛けてきたのあっちだから、応戦したまでよ!」
「今度こそ、もらったぁ!」
「このお!」
「カモーン! ゲインビー!」

 再度二人が激突しようとした瞬間、今度は丸っこくて巨大な寸詰まりで腕の生えた奇妙な機体が突き抜け、両者を弾き飛ばす。

「今度は何!?」
「きゃあぁ!」
「あれはゲインビー! ってことは!」
「双方そこまでです!」

 その攻撃に見覚えがあった亜乃亜が、上空からの声に歓喜の顔で振り向く。

「エリュー! マドカ!」
「えへっ♪ 亜乃亜大丈夫だった?」

 赤と黄色のライディングバイパー、ロードブリティッシュを駆るポニーテールの少女、エリュー・トロンと、原型を留めない程に改造されたライディングバイパー、マードッグバイパーを駆るツイテンテールの少女、マドカの姿に、亜乃亜は胸を撫で下ろす。

「この近辺に発生した次元転移災害は以後Gの管轄になります! 必要外の戦闘行為は許可されてません! 即刻戦闘を中断してください!」
「次から次へと……!」
『フェインティア、ここは従うべき。状況を理解するべきと提案する』
「仕方ないわね」

 フェインテイアが戦闘態勢を解くのを確認したミーナが胸を撫で下ろす。

「良かった。なんとか収まったみたいね」
「こちらもな」

 瑛花の視線の先には、ゲインビーの両手にソニックダイバーの頭を押さえられているエリーゼと音羽がもがいており、その脇には亜乃亜に肩を、ストラーフに尻尾を掴まれたルッキーニがむくれていた。

「離せ、この丸!」
「分かった、分かったから押さえるのやめて」
「ぶー、もう少しだったのにー」

 文句を言う3人にそれぞれの隊長が睨みを飛ばす。途端に3人とも沈黙した。

「エリーゼ、音羽」「ルッキーニさん」
『帰ったら覚悟しておきなさい』
『ひぃー』
「怖いわね~、貴方達の隊長さん」

 抵抗の意思が無いのを確認したマドカがゲインビーを帰還させながら苦笑。

「それじゃルッキーニちゃんも大丈夫だよね」
「マスターに後は任せるよ」

 亜乃亜もそれにならい、ストラーフは手放した手をムルメルティアに向けてサムズアップ。
 それにムルメルティアは敬礼で返す。

「それではソニックダイバー隊は至急帰還! ナノスキンの限界が近いわよ!」
「わあ!」「急げ~!」「すいませんが後で!」

 ソニックダイバー達が慌てて帰還する中、
ミーナがフェインティアへと近寄る。

「貴方も来てくれる? 多分、私達と同じ状況だと思うから」
「同じって、あんた達もどこかから転移してきたの?」
「ええ。詳しく聞きたいなら、着いてきて」
「行きましょう、マイスター」
「しょうがないわね………ブレータ、行ける?」
『低速航行なら可能です』
(ありがとうフェインティア。船で待ってる)
「自分で止めたんじゃないわよ………」

 ため息を吐き出しながら、フェインティアとウイッチ、そしてGの天使と武装神姫達は攻龍へと向かった。



「固定急げ!」
「おい、沈まないだろうな?」
「ブレータ、状況は?」
『前方の水上艦との曳航状態ならば維持可能。微低速運行状態にて自己修復開始』

 攻龍の整備班が総出で、フェインティアの乗ってきた脱出艦と攻龍をワイヤーで繋ぐ。

「確かにこりゃ宇宙船みてえだな……」
「宇宙船曳航した船ってこれが始めてじゃないっすかね?」
「多分最初で最後やと思うわ」
「そやそや」

 曳航される脱出艦を皆が興味深げに見る中、フェインティアの視線はそのまま横へと向き直る。

「で、これは何してるの?」
「ううう………」「しくしくしく………」「う~~~………」

 曳航作業が続く攻龍の後部甲板で、頭にたんこぶをこしらえたエリーゼ、音羽、ルッキーニの三人が水の満載したバケツを両手に立たされていた。

「命令違反の懲罰だとさ」
「学生じゃあるまいし……」

 整備班長が呆れるが、涙目で立たされている三人は曳航される脱出艦と同様に興味の対象となっていた。

「この船、営倉も無いからちょうどええんやないか?」
「あのウイッチの中佐、中々慣れてはるで」
「冬后さんがやったら問題になるけどな」
「誰がやっても問題よ!」
「ええやないか。希望通り頭には一発で許してもらえたんやし」
「頭の方がよかったかもな」
「うう………」

 一番最初に突撃したエリーゼは、多めにもらう所を明晰な頭脳を盾に拒んだ結果、モーションスリットの下から僅かに見えるお尻が赤くなっていた。

「何で私がこんな事……」「ミーナ中佐怒ると無茶苦茶怖い………」「ずきずきする………芳佳がいたら治してくれるのに………」
「少しは反省した?」

 そこに懲罰を与えた張本人のミーナと瑛花、それにカメラ片手のタクミが顔を出す。

「あの、ミーナ中佐いつまでこうしてれば………」
「それなんだけど、30分後にミーティングと冬后大佐に言われてきた」
「だから、そぞろ止めていいわよ」
『やった~♪』
「これの後にね」

 三人が歓声を上げた時、こちらに向かって一眼デジタルカメラを構えているタクミに気付いた。

「ちょ、まさか……」
「あの、タクミさん?」
「うえ!?」
「時間が無いから、写真張り出して懲罰代わりだそうです。じゃあ行きますよ~」
「ま、待って! こんな姿…いやああああぁぁ………」

 エリーゼの悲鳴が響き渡る中、無常なシャッター音がその場に鳴った。



「秘密時空組織「G」所属権天使、エリュー・トロンです。今回の時空災害調査のリーダーを命じられてます」
「同じく、「G」所属大天使、マドカ。よろしく♪」
「特務艦攻龍艦長の門脇だ」
「副長の嶋だ」
「そしてオレがソニックダイバー隊の指揮官の冬后だ。よろしくな」

 ブリッジに現れた二人の天使に、ブリッジの管理職達も名乗る。

「それで、彼女がか」
「所属は?」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR。ヴァーミスから逃げ出して転送した時、妙な時空振動に巻き込まれて、ここに来たわ」
「………正直、何を言ってるのか全く理解できんな」
「超惑星規模、という事は地球以外の惑星の出身なのね?」
「製造って言った方が正解ね」

 嶋が首を傾げる中、エリューの補足にフェインティアが頷く。

「タイムスリップかと思えば、今度はエイリアンか? 冗談にしても程があるだろが………」
「異星人なら、ここにも二人います」
『!?』

 エリューの言葉に、ブリッジの全員の視線がそちらに集中した。

「私は惑星グラディウス、マドカは惑星メルの出身なのです」
「じ、じゃあエイリアン!?」
「まるで普通の人間に見えますけど………」

 七恵とタクミがエリューとマドカをまじまじと見つめるが、外見上は全く普通の人間と変わらない。

「生物学的には私もマドカも地球人と大差ありません。ただ、彼女は違うようです」
「少女の姿をした兵器、か。どんな奴が何考えてこんなのにあんだけの戦闘力ぶち込んだ?」
「トリガーハートの作戦目標はヴァーミスの殲滅、それ以外に意味は無いわ」

 冬后の呟きにフェインティアが応じるが、それが冬后の表情を更に複雑にさせる。

「今、君の乗ってきた船のAIともデータリンクさせているが、詳しい状況を確認したい」
「後でいい? 先にボディ洗浄したいから。洗浄ユニットはどこ?」

 艦長の提案を、フェインティアはあっさりとあしらう。

「おい、何を勝手な事を…」
「副長、彼女はこちらの指揮下にありませんから、強制は出来ませんよ。洗浄って事は風呂か? 藤枝、は手が空いてないか。速水、案内してやれ」
「え、はい」
「今他の連中も入ってるから、覗くなよ」
「覗きませんよ! じゃあこっちへ」

 タクミがフェインティアを伴ってブリッジを離れると、誰からともなくため息が漏れる。

「一体、どうなっとるんだ?」
「Gでも把握できてません。偶発的時空転移にしても、異常です」
「問題は今何が起きているかよりも、これから何が起きるかだ」
「出来れば、これ以上増えてほしくはないな。攻龍の設備にも限界がある」
「整備なら任せて! メカなら得意だから!」
「あの、マドカには任せない方が……」
「整備がそちらで出来るならそうしてもらいたい。整備概要も分からん機体が増える一方では困る」
「にぎやかになってはいいんですけどね」

 冬后の漏らした言葉に、副長の冷たい視線が容赦なく突き刺さった。



「じゃあここ、みんなも今入ってるから、ケンカしないようにね」
「洗浄が共同なんて、不衛生もいいとこね」
「他の設備がスペース取ってるから……」

 タクミが乾いた笑いを浮かべつつ、途中で用立てた入浴グッズをフェインティアに渡す。

「くれぐれもケンカはダメだよ?」
「向こう次第よ」

 ものすごく不安を感じるが、さすがに中にまで入るわけに行かないタクミが何べんも念を押してその場を離れる。

「まったく、とんでもない所に転送されたわね………」

 説明を受けた通り、脱衣所で空いているカゴにボディスーツを脱いで入れたフェインティアが、ぶつくさと文句を言いながら浴室へと入る。

『あ』

 予想外の顔に、中で入浴中だった者達が思わず間抜けな声を上げた。

「あれ、お風呂入るの?」
「こっちはお前のせいで今日二回目ダゾ」
「誰かのせいで、体表がミネラルまみれなのよ。洗浄しないと」
「撃ってきたのはそっちじゃない!」
「先に仕掛けたのはそっちだ」
「お陰でこっちは頭一回、お尻三回もぶたられたんだから!」

 音羽がさも不思議そうに問いかける中、エリーゼとフェインティアが真っ先に睨み合う。

「海水流したいなら、源さんに言って熱湯でも被ってくればいいじゃない!」
「そんな事したら体表組織が痛むでしょうが! ユニットとシンクロしてないと防御が弱いんだから!」
「それじゃあランドリーにでも入ってきたら? ロボットなんだからそれでいいでしょ!」
「私を機械部品と一緒にしないでくれる!」
「エリーゼ、落ち着いて」
「ほらフェインティアも」

 一触即発の両者を可憐と亜乃亜が何とかなだめながら引き剥がす。

「うわ、柔らかい」
「そうなのカ?」

 フェインティアの体が予想と反して人間とほとんど変わらない事に、亜乃亜が思わず声を漏らす。

「フレームはともかく、ボディは人工有機素材よ。触感的には貴方達と左程変わらないわ」
「へ~、スゴイですね」
「何言ってんだか分からないゾ………」

 鼻を一つ鳴らしながら、フェインティアが空いていたシャワーの前に腰掛ける。
 外見上は人間とまったく変わらないフェインティアに、周囲の視線が無遠慮に突きつけられる。

「これどうするの?」
「ここ捻ると出てくるよ。こっちに回してお湯で、こっちだと水」
「原始的ね」

 隣に座っていた音羽に教えられながら、シャワーからお湯を出してフェインティアが髪を洗い始める。
 その背後に近寄る影があった。

「せ~の!」
「うきゃあ!?」

 いきなり背後から抱きつかれ、フェインティアの口から意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、柔らか~い」
「ちょっと何するのよ!」

 抱きついてきた相手、ルッキーニにフェインティアは文句を言うが、ルッキーニは無遠慮にフェインティアの胸を背後からわしづかみにしてその感触を確かめる。

「ねえねえ、これ本当に作り物?」
「離しなさい! そんな事して何が楽しいの! ちょっと、うひゃああ!?」

 ルッキーニを引き剥がそうとするフェインティアが再度意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、全然作り物に見えない」
「ちょっと!?」

 隣に座っていた音羽が、フェインティアの尻を指で突付いていた。
 フェインティアがそちらを睨んだ所で、ふと他にも無数の視線がこちらを向いている事に気付いた。

「ほ~、どういう仕組みになっているンダ?」
「今の技術じゃ、こんな完全なバイオアンドロイドは作れませんし」
「不思議ね~、人間と全く変わらないようにしか見えないわ」
「確かに」
「感触は本当に普通でしたよ?」

 亜乃亜の最後の一言に、全員の目が何か危険な色を帯びる。

「……触ってみていい?」
「どうして!?」

 サーニャの言葉に、フェインティアが露骨に反応する。

「ちょっとでいいからサ」
「後学のために……」 
「ホントに人間と変わらないの?」
「興味はあるわね」

 ゆっくりとにじり寄ってくる者達に、フェインティアがどんな戦場でも感じなかった奇妙な恐怖を襲う。

「ルッキーニ、ちょっとそこ変わってクレ」
「うじゅ~、もうちょっと確かめてからでダメ?」
「何を確かめてんのよ!」
「洗浄手伝いますから、ちょっとだけ素材の質感を……」
「そうね、みんなで洗ってあげる代わりという事で」

 気付いた時には、すでに周囲は完全に包囲されていた。

「ちょ、待ちなさい! 何を……いやあああぁあぁ……………」



「まだ風呂から出てこないのかあいつら?」
「心配ですし、様子見てきましょうか?」

 ミーティングの予定時間を過ぎても来ない一同に、冬后と七重が不安を感じ始める。

「あのフェインティアっての、見た目はあいつらと変わらないが、一応兵器だからな。かといって女湯に武装して入るわけにもいかんだろうしな………」
「大丈夫だと思うよ? 多分」
「でも万が一という事もありえる」
「やっぱり見てきます」
「すいません、遅れました~」

 準備をしていたマドカが能天気な事を言うが、エリューも心配した所で、そこへ何かやけに楽しそうな音羽を先頭に、全員が作戦会議室へと入ってくる。

「お、大丈夫だったか?」
「はい! みんなで親睦を深めてきました!」
「親睦?」

 冬后が首を傾げた所で、エイラと可憐に肩を借り、やけに肌や髪がキレイになってるフェインティアがフラフラと室内に入ってきた。
 その目はどこかうつろで、先程の戦闘の時に感じた危険な雰囲気は微塵も感じられない。

「………何をした?」
「あ、皆でお風呂の使い方を教えただけです」
「ソウソウ」
「まあ、ちょっとアレとかコレとか………」
「この星の原住民は変態ばかりなの……」

 かすれた声でフェインティアがそう呟いたが、生憎と冬后の耳には届かなかった。

「ところで、どうしたんですかこれ?」
「いつの間にか、この船にあったそうだ」

 音羽が作戦会議室に持ち込まれたテーブルの上、ノートPCに繋がった小さなベッドのような物に横になって眠っているらしいストラーフとムルメルティアを指差すが、冬后も説明しようがなくただそれを見つめていた。

「ひょっとしてこれ、メンテナンスハンガー?」
「クレイドルって言うらしいですよ。充電とデータ整理を行う事が出来るそうです」
「彼女達の事、何か分かったの?」

 フェインティアも不思議そうにそれを見、七恵が説明した所でミーナがふと疑問を口に出す。

「副長が教えてくれたんです。昔、この子達そっくりのオモチャがあったとかで」
「だが、あの戦闘力は半端じゃない。その説明も聞きたい所だが………」

 そこでノートPCから電子音が鳴り響き、二体の武装神姫が同時に目を覚ます。

「データバンク並列化終了………起きるのね、はいは~い………」
「データ交換終了……ん、起床時間か………」

 人間そっくりに起きる二体の武装神姫を、全員が興味深そうに見つめる。

「さって、何する?」
「まずは戦況見解の統一だ」
「確かにな」

 苦笑しながら、冬后がミーティングを開始した。

「お前らが風呂に入ってる間に、あの宇宙船の『ブレータ』とかいうAIから事情は聞いた」
「あの、AIって何でしょう?」
「あんた、そんなのも知らないの?」
「無理を言わない。マスターはまだ電子頭脳も無い時代から来たんだから」
「は?」
「データにはウイッチと呼ばれるこのコマンドサイキッカー達は、この時代より更に前、まだ大陸間ロケットすら無い時代からこの世界に転移してきたそうです、マイスター」

 ミーナとフェインティアの凄まじいジェネレーションギャップを、それぞれをマスターとした武装神姫が補足する。

「ま、それによりゃ、彼女はオレ達のでもウイッチ達でもない、全く別の世界の人間、いやトリガーハートって事になる」
「それによれば、彼女の生まれ故郷は星系国家を形成していた惑星の一つ。そして、そこにヴァーミスと呼ばれる自律戦闘単位集団が来襲、それに対抗するために作られたのが彼女達トリガーハートとの事よ」

 エリューの説明に、その場にいた半数は微妙に困惑した表情を浮かべ、残る半数は全く理解できないのかただ首を傾げる。

「全然意味分かんないゾ」
「私も」
「星系国家なんて、とても信じられないし……」
「分かんないけど、フェインティア柔らかかったし」

 自分達の常識の完全に外の話にウイッチ達は特に混乱していた。

「オレにもよく分からん。ただ言えるのは、彼女もオレ達も、戦ってる敵もやってる事もほぼ似たような物って事だ」
「今ブレータからこっちの戦闘データを回してもらったけど、ワームっていうの、確かにヴァーミスに似てるわ。ヴァーミスの方が色々厄介だけど」
「システム的には、ネウロイの方に近いようね」

 ブレータから回されたらしい戦闘データが作戦会議室のディスプレイに幾つか表示され、それを見たミーナが辛うじて理解する。

「それで、この子達はどこから?」
「それが、分からんらしい」
「は?」
「ボク達は起動した時はすでにこの世界にいたんだよね」
「インストールされたプログラムに従い、『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。その作戦内容を忠実に実行したまでだ」
「つまり、他には何も覚えてないんですか? 内部データは?」
「調べてみたんですけど、この子達自身も操作できないブラックボックスみたいなデータがあるだけで、他には皆さんと会うまでのデータしかないんです………」

 可憐の問いに七恵が応えるが、ウイッチ達はやはり首を傾げていた。

「どういう事?」
「言ってみれば動いたばかり、生まれたばかりって言った方がいいかな? そういう状態なんですよ」
「でも、戦闘データだけはインストールされてるよ?」
「私もそれは認識している。起動したて、というよりも余計なデータを削除されているのかもしれん」
「余計な物は持ち込まない、か。昔のSF映画でそんな理由で未来から素っ裸でワープしてきたマッチョがいたな」
「でも、私らは色々持ち込んでるヨナ?」
「何でわざわざ消去して送り込んできたのかしら?」

 謎だらけの状況に、全員が首を傾げる。
 そんな中、エリューが口を開いた。

「とにかく、ウイッチ、そしてトリガーハート、更には武装神姫。これら異世界からの連続転移はGのデータにもほとんどありません。原因及び帰還方法の探索のため、しばらく皆さんと合同調査を行う事になります」
「どちらにしろ、私達には他に行くアテは無いようだからね」
「なんだって私がこんな原始的な船に………」
「あ、あんたの船は自己修復の限界で大気圏内行動が限界って聞いてるぞ。こちらで直そうにも、技術レベルが違いすぎて無理って整備の連中が言ってたな」
「サイアク………」
「私が出来うる限りのサポートをする。マイスター」

 げんなりした顔のフェインティアを、ムルメルティアがなだめる。

「とにかく、これ以上何が起きるか分からんが、ネストへの接近が原因の一端って可能性もある。攻龍は進路このまま、あとは出たとこ勝負だ。正直、これ以上増えてほしくないってのが本音だがな」
「増えたくて増えたんじゃないわよ!」

 冬后のぼやきにフェインティアが吠えるが、そこでいきなりドアが開くと、アイーシャが室内へと入ってくる。

「アイーシャ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫、前よりも負担は軽い」
「ダメだよアイーシャ、無理しちゃ……」

 フェインティアへのナノマシン干渉の後、倒れそうになって医務室に行ったと聞いていたアイーシャの姿に、ソニックダイバー隊が心配そうに声を掛ける。

「何そいつ?」
「あなたを説得した人」
「じゃあ、私にハックしてきたのは!」
「ハックじゃない。説得。それで貴方はここに来てくれた」
「十分ハックよ! 一体どうやって!」
「アイーシャは、ナノマシンと生体融合してるの」
「だから、ナノマシンに干渉できるんです。フェインティアさんにも、使われてるんですよね?」
「そりゃあ、ナノニューロンの構築と伝播はナノマシンだけど………」
「だから分かった。貴方は敵じゃない」
「ぐぐ……」

 無表情なまま淡々と断言するアイーシャに、フェインティアは完全に気圧されてしまう。

「とにかく、色々含む所はあるだろうが、休戦協定って事で納得してくれ」
「マイスター、彼女達との戦闘で得られる戦果はない。休戦は打倒と判断する」
「分かったわよ………アンタ本当に私の味方?」
「私の作戦目標は条件に一致した人物をマイスターとしてサポートする事だ」

 冬后の提案を支持するムルメルティアにフェインティアはジト目で睨みつつ、ため息をもらす。

「さて、次の問題だが」
「まだあるのカヨ」
「ある意味、一番深刻な問題です」
「一気に三人、いやこいつら含めれば五人増えたが、部屋の空きが無い」
『………あ』

 冬后の一言に、全員が思わず声を上げる。

「え~と、布団の予備持ってきてなんとか」
「ベッドの空き無いよ?」
「ルッキーニのとこ使えばイイ。昨夜も途中でどっか抜け出して寝てたゾ」
「ひょっとして昨日格納庫の上で人影が見えたのって……」
「私の使ってる士官室なら、まだ空いてるわよ?」
「え~と、エリューもマドカも枕なんて持ってきてないよね?」
「来る訳ないわよ」
「なんなら、ベッドくらい作ろうか?」
「私は乗ってきた脱出船で休息するからいいわ」
『フェインティア、残念ながら現在修復中で居住用には不可能です』
「ぐ」
「じゃあ今空いてるのは、士官室が一つ、一般船室が一つ、あと一つどこか………」
「狭いけど私の部屋が空いてる。フェインティアが来るといい」
「何で私があんたと同じ部屋なのよ」

 アイーシャの提案に、フェインティアが即答で反論する。

「ミーナ中佐は一応士官だからな。入るとしたら士官クラス、となると必然的に」
「エリューか」
「え? リーダーと言っても臨時で」
「あとはタコ部屋だぞ? 風呂ですら共同嫌がってたじゃねえか」
「冬后さんタコ部屋なんてひどい! せめてイカ部屋で!」
「どう違うんダヨ?」
「じゃあマドカがリフォーム改造する?」
「止めなさい、原型留めないから」

 妙な所で議論が白熱する中、アイーシャとフェインティアは互いに無言で(フェィンティアの方が一方的に)睨みあう。

「あなたの体は、ダメージが残っている。自己修復に専念するなら、静かな部屋の方がいい。私は騒がない」
「そこまでバレてんの………確かにヴァーミスからの脱走とこいつらとの戦闘でちょっと無茶したけど………」
「じゃあ決定という事で。普通のベッドで大丈夫です? 簡易型だからちょっと寝心地悪いかもしれませんが」

 勝手に決めた七恵がてきぱきと部屋割りの詳細を出し、皆が準備のために格納庫へと向かっていく。
 後には冬后とアイーシャ、フェインティアとムルメルティアの四人が残された。

「色々言いたい事はあるだろうが、この船にいる間は大人しくしててくれや」
「大丈夫、すぐに慣れる」
「なんで私がこんな事に……」
「戦況は変動する物だ、マイスター」

 重い重いため息を吐き出すフェインティアだったが、そこでアイーシャがいきなり彼女の手を取って握り締める。

「な、なによ?」
「頼みがある。お父様はワームの発生は予見できたけど、こんな事態は予見していない。これから何が起こるか、誰も分からない。だから、力を貸して欲しい」
「何で私がそんな事…」
「あなたが強いから」

 無表情のままのアイーシャの断言にフェインティアは一瞬呆気に取られるが、段々その顔に自慢げな笑みが浮かんでいく。

「もっと褒めてくれていいわよ。褒められるの好きだから」
「エリーゼと音羽、それにルッキーニと一人で戦ったんだから、誰も弱いなんて思ってない。それは事実」
「本気出したら勝ってたわよ」
「そうかもしれない。だから、力を貸してほしい。私は戦いたいけど、戦えない。こちらで出来る事は何でもする。これから起きる事に、みんなで立ち向かうために」
「何かが起きるってのか? これ以上厄介な事が」

 冬后の問いに、アイーシャはしばし無言だったが、小さく頷く。

「ワームの戦い方が変わってきている。これからもっと変わる。対抗するには、全員の力を合わせる必要がある。無論私も、フェィンティアも」
「トリガーハートは戦うために作られた兵器だからね。私は異論無いわよ」
「……一つだけ言っとく。オレはソニックダイバー隊を戦うために集めたんじゃない。だから、戦うために作られたなんて言葉はあいつらの前では言わないでほしい」
「案外ナイーブなのね。ま、いいわ。それで私の部屋はどこ?」
「案内する」
「私の待機場所はあるか?」

 アイーシャがフェインティアとムルメルティアを連れて作戦会議室を出て行った所で、冬后はおもむろにコンソールを操作して先程の戦闘データを再生させる。
 最初のイルカ型ワーム、次のヒラメ型ワーム、そしてフェインテイアとの戦闘データを並べると、その中からヒラメ型ワームとの戦闘データを拡大、一連の戦闘状況を再度確認していく。

「確かにこいつは、明らかにウイッチ達を狙っていた感じがある。だとしたら、その先に何がある? ワームの狙いは、一体なんなんだ?」

 言い知れぬ不安に駆られる中、ふと先程まで騒いでいた少女達の顔が脳裏に浮かぶ。

「あれだけいりゃ、なんとかなるだろ。いや、何とかするのがオレの仕事か………」

 己自身にそう言い聞かせると、冬后は少女達の全データを整理し、頭に叩き込むためにその場を後にした………



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.341971874237