2011年1月13日木曜日

インデックス運用の意義と問題(浅野2002)

浅野先生の論文はいつも新しい発見があって楽しい。
インデックス運用の意義と問題(浅野幸弘 2002)
インデックス運用のパフォーマンスが良いのは銘柄調査や売買をしないから。価格形成能力をゆがめるが、ゆがめばアクティブ運用の余地が出てロングショートなどのヘッジファンドが価格を復元する。
問題はむしろ、インデックス運用がこうした価格のゆがみと言う形で隠れたコストを負担していること。インデックスに銘柄入れ替えがあったときに、入れ替え日あるいは資金流出入日に引けの成り行きで売買する傾向があり、マーケットインパクトなどの大きなコストを引き起こしている。多くは現行のパフォーマンス評価によってもたらされたエイジェンシー・コストとみられる。
インデックス運用はフリーライダーである。他人が付けた株価を高いとも低いともいわずに受け入れる。投資家が全員インデックス運用をしたら市場は資金配分の機能を果たすことができなくなってしまう。いわばアクティブな投資家の判断や売買によって形成された価格や市場機能に便乗して運用する。アクティブ運用のコストを何ら払わずに利用する。
また、インデックス運用はさらに市場の価格形成力を阻害する恐れがある。

インデックス運用の隠れたコスト
1)株価をファンダメンタルズから乖離させるのでヘッジファンドに投資機会を提供している。そうした形でコストを負担しているといえる。
2)市場操作の余地。アクティブな投資家が先回りして売買することによってインデックス運用に高く買わせたり、安く売らせることができる。実際に2000年4月の日経平均銘柄入れ替えのときにこのようなことがおこった。投機筋は大きな利益を手にしたが、それは日経平均のリターンの低下としてインデックス運用者(そしてインデックス投資家)の負担によった。
3)インデックス売買のコスト。トラッキングエラーが最も小さいのは完全法だが、この方法は銘柄入れ替えの実施日の引けに成り行きで売買することになる。そうすればインデックスに完全にトラックするから。しかし、インデックス運用が多いと、そうした売買が一度に集中してマーケットインパクトが大きくなり、インデックス運用はそのコストを負担することになる。

私が外国株のファンドマネジャーをしていた90年代後半のアメリカでも、401kのお金がS&P500インデックスファンドに流れ込み、S&P500採用銘柄と非採用銘柄のバリュエーションの乖離が拡大していった。割高をショート、割安をロングすればいいのだが、いつ修正が起きるか読みづらいので1年単位で評価されるFMは手を出しにくい。

2011年1月11日火曜日

債券インデックスについて



債券投資とファイナンス理論(太田智之1999

インデックスにおける株式と債券の相違

ベンチマーク・インデックス活用の理論的妥当性は平均分散分析から導かれた2ファンド分離定理。すべての投資家が、リスク資産の組合せとして、「市場ポートフォリオM」を選択することになる。その後、投資家個々のリスク許容度などの観点からリスク資産と無リスク資産の比率を決定すればよい。

市場ポートフォリオの近似としてTOPIXNOMURA-BPI総合指数がある。時価総額加重であり、現存するすべての証券を購入したポートフォリオに近いものとなる。

しかし、実は債券の場合には、株式の場合と異なり、現存するすべての債券を組み入れたポートフォリオは、ここでいう「市場ポートフォリオ」にはならない。

・債券の市場ポートフォリオの問題

消費CAPMによると株式のリスクプレミアム(期待リターン)は高く、債券のリスクプレミアムは低くなる。株価と消費は相関が高い。債券は景気が悪く、消費が伸び悩むと金利が低下し、債券価格が上昇する。つまり債券には景気、消費の落ち込みをヘッジする価値があり魅力的である。その分、期待リターンが低くなるところまで買われる。

リスクを資産価格変動の標準偏差のみで捉えると債券の投資対象としての存在意義が疑われることになるが、リスクは消費ベータで捉えるべきである。消費ベータを横軸にとったグラフでは、各資産が直線上に並ぶはず。

しかし、この説明は理論的には正しいが、消費ベータは実証的に推定することは困難であり、実務家に馴染みがなく、説得力がない。

債券の投資対象としての意義を実務家にも分かりやすく説明するために考え出されたのがM.リーボビッツの説明。

・リーボビッツによる説明

機関投資家の負債には債券の負債とよく似たキャッシュフローの形をしたものがある。証券投資のリスクを、資産のみに注目してみるのではなく、負債との対比で考えるべきである。資産と負債との時価でみた価格変動の相違こそが機関投資家にとってのリスク。

債券投資の価格変動リスクは、負債との対比で考えない限り、意味を成さない。個々の機関は、自らの負債と同程度の期間の債券を、資産として保有することが、価格変動リスクが小さい投資となる。

債券投資においては、個々の投資家が保有すべき債券の種類やその残存期間は、それぞれの投資家の負債の状況によって異なることになる。どの投資家にも共通の、最適な債券ポートフォリオは存在しない。

・M.グラニートの証券市場のモデル

例えば先物はネットでは投資家間で相殺されるため、市場ポートフォリオに含めないのは誰の目にも明らか。グラニートによれば、平均分散分析で言うところの市場ポートフォリオは「生産過程へのインプットの調達を直接の目的として発行された証券の総合計」であり、国債、金融債は市場ポートフォリオに含めない。金融債は禁輸期間が発行し機関投資家が保有する。投資家間で相殺されてしまうので市場ポートフォリオには含めない。

国債は国、金融機関、国民の間で相殺されるため市場ポートフォリオには含めない。結局、市場ポートフォリオには事業債とMBSのみが含まれることになる。

現存する債券すべてを保有する時価総額加重のポートフォリオは平均分散分析でいう市場ポートフォリオには当たらない。時価総額加重ポートフォリオがどの投資家にも共通の最適なポートフォリオであるということは、理論的にも正しくない。

債券運用実務への示唆

まず個々の投資家が自らの負債の状況を分析するところから始まる。負債の期間の長さに加えて、流動性の必要度など、ほかの観点からも負債を分析する必要がある。

NOMURA-BPI総合指数のパフォーマンスは、債券を運用する者の、平均的運用成果を表す。運用成果を総合指数と比較することは、平均点との比較という意味はある。しかし、いかなる投資家にとっても最適な債券ポートフォリオであることは意味しない。債券運用においては、万人に共通の最適ポートフォリオは存在しない。個々の投資家が自らの負債の状況に合致した、債券ポートフォリオや、それに適合したベンチマーク・インデックスを選択する必要がある。この場合に用いられるのが、カスタマイズド・インデックスである。


パッシブ・コア戦略(中央三井信託銀行年金運用研究会2001

理論が想定した市場ポートフォリオとは、その経済に存在する正味の富を表す根源的な資本資産。証券とは投資家と生産活動を結ぶもの。市場ポートフォリオはそのような証券の残高によって構成されたポートフォリオであり、生産活動に直接投入されない資金調達を目的とした証券はそこに含まれない、と考える。

例えば先物市場は売り手と買い手の間でキャンセルされるもので、社会的なリスクの負担としては正味でゼロだから含まれない。金融債も国債も相殺されるので市場ポートフォリオには含まない。

このような理論面に加えて、現象面からも債券インデックスの効率性に疑問を感じさせるものとして、利回りとデュレーションの逆相関がある。利回りが高い時期は債券インデックスの満期が短く、低い時期は長くなる。インデックスに従って運用すれば、債券価格が下がればリスクを小さく、上がれば大きくすることになる。しかし金利に平均回帰性があることを考えれば逆のほうが効率的である。このような債券インデックスが、平均的な投資家のリスク選好を表しているとはみなしにくい。

2010年12月31日金曜日

高木貞治 近代日本数学の父

高木の人生を追いながら、日本に欧州の数学が導入されていく様子、ドイツが数学の中心だったころのドイツの数学者達、高木が類体論を完成させていく様子が描かれています。
初めての洋行、1900年の春にベルリンからゲッチンゲンに移る。本当はウェーバーのいるシュトラスブルグに行こうとしたらしいが、途中でゲッチンゲンに立ち寄ってヒルベルトに会い、計画が変更された。ゲッチンゲンでは「週に一度、談話会があったが、その談話会というのはドイツはもちろん数学の世界全体の中心地であった。高木は25歳にもなって『数学の現状に後るること正に50年』というようなことを痛感した。」
「それでもそれから三学期、すなわち1年半の間ゲッチンゲンの雰囲気の中に生息しているうちに、なんとなく50年の乗り遅れが解消したような気分になったという。『雰囲気というものは大切なものであります』」
「ヒルベルトの研究の仕方というのは非常に独特で、数論に心が向く時期には数論に専念するが、行くところまで行き着くと数論から離れ、全然別の領域に移っていくというふうであった。」
「類体の概念を『分岐しない類体』の範疇で把握すると『アーベル体は類体である』とは言えないが、類体の概念を拡大して『分岐する類体』を考えることにすると、どのアーベル体も類対として諒解される。これが高木類体論の『基本定理』であり、理論全体の根幹となった発見である。」
「類体の理論を建設して、その土台の上に『クロネッカーの青春の夢』と一般相互法則という二本の柱を打ち立てるのは、数論の世界にヒルベルトの心が描いた夢であった。『クロネッカーの青春の夢』を大きく包み込むかのような、簡明で壮麗な巨大な夢である。高木はこのヒルベルトの夢を継承し、『分岐する類体の理論』という、ヒルベルトの大きな夢をさらに大きく包み込んでしまう理論を構築した。高木もまた数学に夢を描く数学者であった。『クロネッカーの青春の夢』もヒルベルトの夢も、高木の夢に包まれてことごとく実現したのである。」
最後の洋行で32年ぶりにヒルベルトを訪問した高木。「毎日、(効き目があるというので)生の肝臓を食べて不治の難病と戦いつつ、時には若手の助手連中に揚げ足を取られたりしながらも、どうしても排中律の証明などを書かずにはいられないヒルベルト」
「余生などというのは論外で、『生きながらの餓鬼道ではありませんか』と高木は嘆息し、『恐ろしいのは、これも不治なる知識追求症です』と心情の声をもらした。」
『解析概論』が書き下ろしの単行本ではなく、『岩波講座数学』に分載されたのが初出だったこと、高木は学生の集中力は30分が限度という持論を持っていて、きっかり11時半に教室に現れて、12時にぴたっとやめたことなども書かれています。
意外だったのは数学の抽象化というのは比較的最近の出来事だったこと。抽象化の傾向が目立ち始めたのはWW1の直後、20年代のはじめころ。「新思潮は『決河の勢』をもってまず代数学を征服した。ついで位相学を再建し、線形作用素の理論を統一し、確率論に数学的なる基礎を与えるという勢いを示し、『数学の全嚝野を風靡してその面貌を一変せしめるに至った』。」

2010年12月26日日曜日

「インデックスファンドの魅力」とよく言うけれど

FP系の人は「インデックスファンドの魅力」とよく言うけど、インデックス・ファンドの魅力はコストが若干安いことだけだ。90年以降の日本株インデックス・ファンドを魅力的というのか。今後は世界的にも右肩上がりの株価上昇が期待できなくなっている。安易に儲かる時代は終わったことを覚悟せよ。

今後の20年を考えたときに、欧米が日本の失われた20年を後追いする可能性はそんなに低くない。新興国はバブル&バーストを繰り返すだろう。インデックス投資、長期投資、分散投資が魅力的って素人でも言えるけど、本当にそれでいいのか、もう少し真剣に考えてみたら。それでもいいと思うんなら自分の金でポジション取って勝負してくれ。
コストの安さは重要だ。ただ、相場ではその安い分が一日で吹き飛ぶこともある。コストが少し安いから、という理由で積極的に買う理由にはならない。「インデックス」ファンドは魅力的ではないのだ。
簡単に分散投資できる手段としてインデックスファンドは良いという人の意見も分かる。しかし、そもそも分散のための分散投資をする必要はない。上がるものを買い下がるものを売ればいい。

2010年12月24日金曜日

問題視されているリーマンの「レポ105」による会計操作

「ヘッジファンド投資ガイドブック」には、最近問題視されているリーマンの「レポ105」によるバランスシートの見かけ上の圧縮についてもわりと詳しく書いてある。
リーマンの2007年11月の決算時で自己資本225億ドル、総資産6911億ドル。レバレッジ比率約30倍。総資産はトレーディング用のロング・ポジションと担保付貸出が大半。後者はヘッジファンドに対するプライム・ブローカー業務による部分とレポからない、いずれもオーバーナイトが中心の短期の資産。現金は73億ドルで1%を占めるにすぎない。
負債側は、レポによるファンディングとショートポジションが60%を占め、長期負債はわずかに18%にしかすぎない。12%の買掛金はヘッジファンドからの現預金。
レポとリバース・レポが重要な割合を占めていた。
リーマンが社内で「レポ105」と呼ぶレポ取引による会計操作の目的はバランスシートを縮小し、ネットベースのレバレッジ倍率を小さく見せることだった。これは格付けを維持するためであった。格付け会社はグロスではなくネットベースで見るからである。
通常のレポ取引では102ドル相当の価値のある債券を相手に提供して100ドルの現金を調達し、2ドルの部分が超過担保に相当し、これが価格変動分に対するクッションになる。しかしこの場合には105ドル相当の債券を提供することによって、この取引はレポ取引ではなく売買取引扱いとなり、調達した現金で負債を返済することによって、バランスシートを縮小した。しかし資産の質は時間とともに流動性の劣る資産の塊になってしまった。彼らのファンディングはレポ取引が中心であり、有価証券を担保に資金を調達する。リーマンも最後はこのファンディングで行き詰った。
投資銀行はレバレッジの拡大によって、高いROEを達成してきた。このときの資金調達の主要な部分が、レポ取引とリバース・レポ取引の活用。バランスシート拡大のための資金調達手段であるレポは、短期のロールオーバーが中心。したがって資産サイドの大幅な下落により自己資本が毀損するような状態になると、株価が売られるだけでなく、レポの担保の掛け目も厳しくなる結果、現金の調達力が低下し、しかもレポの期間も1週間から、3日、1日というように短期化してくる。

リーマン破産に関するJENNER&BLOCKのチェアマンAnton R. Valukasによる2200頁のレポートはこのウェブサイトで見れる。


2010年12月21日火曜日

格付け機関の意義

(1)格付けのビジネスはS&P、ムーディーズ、フィッチの3社の独占的状態が続いている。
(2)格付けはあくまでも投資をするうえでの「参考意見」でしかない。
(3)投資家は自前で信用調査をするか、格付け機関のの格付けを利用するしかない。格付けに変更はつきものであり、その変更には最大限の注意が必要。格付け会社は自らがトリガーを引いて当該の会社の危機を助長したり、倒産に貶めるようなリスクを避けたいがゆえに、格下げのタイミングは往々にして遅れがちになるといわれる。クレジット・アナリストの役割の1つは、こうした格付け会社の動向を推察し、格付けの変更が公表される前に動くことができるかどうかである。
(4)格付けの変更の際、特に投資適格債(ハイグレード債)から非投資適格債(ハイイールド債)に落ちるときが最も影響が大きい。投資家の大半は投信のガイドライン上、非投資適格債に落ちると売却せざるを得ない。業者はビッドを急激に下げるか、提示しなくなる。
(5)格付けの変更に対して価格変動は非対称的。価格は下方弾力、上方硬直という動きになる。格下げというリスクにはきわめて敏感に反応。
(6)格付け会社の収入源は、依頼者である発行者、もしくは仕組み債の組成者から。このスキームは利害関係の観点からは好ましくない。。依頼者は費用を払って少しでも良い格付けを得たいし、格付け会社は競走上積極的にし仕組み債の価格付け方法(優良格付けの取り方)を開示することによって、自社の利用を促したい。このビジネスは重要な収益源となった。
(7)このCDOの格付けに際しての前提条件となる重要なパラメータは、予想デフォルト率、相関係数、回収率など。過去の延長線上で計算していたものを、新たな状況を考慮して再計算すれば、当然大幅な格下げとならざるを得ない。

2010年12月20日月曜日

ヘッジファンドの運用評価尺度



シャープレシオとは
「リスクに見合ったリターンの度合い」を示す。無リスク資産に対する平均超過リターンを超過リターンの標準偏差で割ったもの。背景には当然CAPMの概念がある。つまり手元資産がゼロで無リスク金利で借り入れをしてリスク資産に投資した場合のリターンを考えている。ICSの本多先生が授業でインフォメーション・レシオと比較しながら、インフォメーション・レシオには背景となる理論がないのに対し、シャープ・レシオはそれを支える理論があるが、しばしば理解されないで使われているということを述べられていた。

シャープレシオ適用に対する問題定義
シャープレシオは簡単できわめて理にかなった尺度であるため、伝統的な資産運用やヘッジファンド運用の世界で広く使われている。しかし厳密にはシャープレシオが適用可能なのは「リターンの分布が正規分布であること」が用件。この欠点に対して様々な新しい評価尺度が提案されている。
●目標リターンを下回る部分のみに注目したリスク尺度LPMを用いた評価尺度
オメガ(1次)、ソルティノ・レシオ、アップサイド・ポテンシャル・レシオ(2次)、3次のカッパ。
●最悪(Drawdown)なリターンの状況に注目したリスク評価尺度
カルマー・レシオ(最悪)、スターリング・レシオ(平均)、ブルケ・レシオ(標準偏差)
●ある確率p%で発生するリターンの状況のなかで最悪なリターンを示すVaRに注目したリスク評価尺度
超過リターン対VaR、コンディショナル・シャープレシオ、修正シャープレシオ

Eling(2008)の実証結果によると、ヘッジファンドのリターンは、正規分布を仮定したシャープレシオを用いても、正規分布を仮定できないという考えのもとにその他の評価尺度を用いたとしても、結果として得られる各ヘッジファンドのパフォーマンス順位付けには大きな差が見られない。

一方、ロー(2002)はヘッジファンドのリターンは自己相関を持っている場合が多く、月次のリスクを単純に年率換算すると実際のリスクより小さな値になってしまうことを実証・指摘した。

う~ん、この本(高橋、浅岡2010)は今まで読んだヘッジファンドの中で最も良い。分析が深く、最新の論文もサーベイしてある。ついでにロー教授から直接、ただでもらった「HEDGEFUNDS」(2008)も読みたくなった。

ヘッジファンドに対する投資家の志向の変化
(1)流動性の重視、(2)透明性の向上、(3)レバレッジ比率の低下、(4)複雑なものから、より単純なのものへ、(5)報酬の低下