マニフェスト見直しを正当化する朝日新聞の欺瞞 - 埋蔵金のトリック
今日(1/13)の朝日の1面の見出しは、「民主公約見直し表明」「財源捻出遠い16.8兆円」、3面の見出しが「真の与党へ民主転換」とある。昨日（1/12）の両院議員総会で、岡田克也が09年マニフェストの見直しを表明したことを評価し、その「財源不足」の中身を図表に整理して説明してやっている。朝日によれば、民主党が選挙で掲げていた政策公約を捨て、自民党と同じ政策に転換することが、野党から与党に脱皮する成長の証なのだと言う。であれば、政権交代は一体何のためで、選挙は何のためにするのか。選挙をやってもやらなくても、どの党が政権を取っても政策が同じなら、そもそも政党など必要なく、わざわざ選挙などする必要もないではないか。要するに、官僚主導の政策にそのまま従うことが、与党の資格と条件だと朝日新聞は言うのであり、政策を作成して遂行する権限は官僚だけが持っていて、それに追従するのが与党の役割だと言っているのである。政党はお飾りで、選挙も、選挙による政権交代も、政策には意味のない政治ショーだと言っている。朝日などマスコミや民主党執行部が言う「財源捻出限界」の主張には根拠がない。それは嘘だ。朝日の1面の図表の中に詐術がある。その詐術の要点を喝破すれば、埋蔵金は恒久財源にはならないとする言説のトリックだ。09年マニフェストは、4年間の政策過程の財源について提示しているのであり、10年も20年も先を担保する恒久財源を言っているのではない。
ここに朝日の狡猾なスリカエがある。09年マニフェストでは、一般会計と特別会計を統合した総予算207兆円を組み替えることで、以下の節約の積上で4年目の2014年度に16.8兆円を捻出する財政目標になっている。�仝�共事業の削減で1.3兆円、��公務員の人件費削減で1.1兆円、�Ｅ群爾衙／佑悗了拿从鏝困篳篏�金削減、行政調達コストの削減で6.1兆円、�さ聴�定数削減等で0.6億円、�ニ簑�金の活用と政府資産の売却で5.0兆円、�α点覇段盟蔀屬慮�直しと配偶者控除の廃止で2.7兆円。これらは、あくまで2009年度の予算ベースを削減して捻出するもので、単年度に削減して財源化するものであり、恒久財源となる性格の費目ではないのだ。無駄な支出を削減して新政策の財源に回すという予算編成であって、新しい収入源を措定した立論ではない。「恒久財源」というタームを使って09年マニフェストの財源策を叩く朝日の論法は、そもそも筋違いであり、批判として当を得ていない。これが第一点である。第二点として、埋蔵金の問題がある。朝日は、「埋蔵金は単年度で使い切ってしまうため、恒久財源とならず」と言い、09年マニフェストの財源策の「破綻」を衝くのだが、これは全く逆で、実際には埋蔵金こそが恒久財源の属性を帯びている。他の費目は無駄の削減であり、一回削減すれば、次は新たな財源捻出の対象にできないものだが、埋蔵金は基金を運用した運用益だから、年々新しく増分が積み上がるのである。一回限りではない。
具体的に見てみよう。2010年度の予算では、特別会計から10兆6000億円の埋蔵金を歳入に繰り入れている。このとき、財務官僚を代弁して藤井裕久が、「特別会計の埋蔵金は底をついた」と言っている。埋蔵金限界論は、民主党が政権を取って予算編成に絡んだ当初からマスコミを通じて宣伝が流され始め、昨年は、中期財政フレームや概算要求や事業仕分けの度に、何度も何度も報道の中で常套句として言われ続けた。ところが、2011年度予算の歳入の中身を見よ。7兆1800億円の埋蔵金が組み入れられているではないか。「底をついた」はずの埋蔵金が7兆円も掘り出されている。そして、「埋蔵金はもうない」と言い続けたマスコミ報道との不整合は全く検証されない。反省されない。「底をついた」ものが出て来るはずがないではないか。なぜ埋蔵金が7兆円も出てくるのか。実際には、外為を含む特別会計の余剰金は数十兆円の規模で伏在しているのであり、特会基金の運用益で増殖分が会計に蓄積されているのだ。その財政メカニズムの全容が国民に開示されてないだけである。財務省が隠蔽し、マスコミに嘘の情報を撒かせ、国民を騙しているのである。真実を言えば、財務省は特会の埋蔵金を予算編成の別財布（バッファ）にしていて、歳出から税収と国債を引いた分（歳入の不足分）をこれで調整している。2012年度予算でも、消費税増税が実現しなければ、間違いなく埋蔵金を歳入に繰り入れるだろう。まさしく、埋蔵金こそが「恒久財源」そのものなのである。
少なくとも、民主党が政権を担当する4年間（2011-2014）は、埋蔵金をマニフェストの政策カタログを実現する財源として使ってよいのであり、その意味で「恒久財源」であり得る。本当なら、この点を神野直彦や金子勝が直言するべきで、そうすれば、財務省とマスコミの嘘を暴露できるのだが、肝心の二人がそれを言わず、国民の意識を覚醒できない。第三点として、事業仕分けのペテンの問題がある。結論から言えば、民主党政権は無駄の削減に本気で取り組んでいない。そして、無駄でない真に必要なものを事業仕分けで削減している。09年マニフェストでは、天下り法人に流れている補助金の削減が標的に据えられていた。しかし、政権交代後も天下り法人にメスは入らず、官僚の天下りも禁止されないまま容認されており、逆に拡大している。事業仕分けでは、離島のフェリー航路への補助金だとか、山間僻地のバス路線維持の補助金だとか、道路の除雪作業の費用だとか、国民の暮らしを支える予算が狙い撃ちにされてカットされている。小泉改革が復活し、小泉・竹中の構造改革が目指した目標が具体化される場になっている。そもそも、ブログでも指摘したとおり、行政刷新会議の事務局長である加藤秀樹は元大蔵官僚であり、小泉政権で三位一体改革の実務中枢に関わった黒幕である。由緒正しい竹中平蔵の子分だ。切ってはいけない行政サービスを切って、「小さな政府」実現の先頭に立ってきた男だ。だからこそ、事業仕分けの仕分け人は、小泉改革で政府の委員になって腕を振るった有識者が顔を揃えていた。
事業仕分けを担当する行政刷新会議は、そもそも財務省の宣伝機関であり、消費税増税を世論固めするための工作機関である。政治主導を隠れ蓑にした財務省主導の予算編成の政治装置だ。官僚の無駄を削るためではなく、削る無駄がないという偽りの「事実」を演出し、国民生活に直結する予算の削減を正当化する情報工作のために設置されたもので、同時に、各省庁と財務省との予算折衝を代行する機関である。密室の官僚間の折衝では、イーブンな関係で時間も無制限なものが、事業仕分けの場になれば、正義は削減する側（財務省）にあり、省庁は悪役にされ、ろくに具体的な議論も交わさぬままに、短時間で蓮舫によって「廃止の方向」が裁断される。それをマスコミが囃し立てる。行政刷新会議が事業仕分けに持ち出す案件は、最初からクロと決まっていて、酪農農家支援だろうが、備蓄米保管の事業だろうが、マスコミが頭から「無駄」で「悪」だと決めつけている。国民の利益は無視され、費用対効果だの投資効率が蓮舫と仕分け人によって言われる。ところが、09年マニフェストで謳っていた天下りや渡りの根絶はいつの間にか消え、特別会計を仕分け対象にした回では何も成果が出て来ない。公務員の人件費削減も消えた。政権交代の前は、マスコミはあれほど「天下り法人に流れる補助金年間12兆円」の告発キャンペーンを連打していたが、昨年からは口を閉じて何も言わなくなった。「無駄はもうない」という言説になり、「消費税しかない」という議論で塗り潰している。
新自由主義者の玄葉光一郎や岡田克也は、そろそろ2年の折り返し地点に来るからマニフェストを見直す必要があると言っている。しかし、この言葉は国民の理解と納得を得られるものではあるまい。特に財源捻出に関して、民主党は公約に従った執政努力を何もしておらず、着手すらまともにしていないからである。昨年6月、民主党が政権を担当して１年を迎える前だったが、新代表の菅直人は早くも消費税増税を言い出し、09年とは似ても似つかぬ参院選マニフェストを打ち出し、09年マニフェストの否定を始めている。09年マニフェストは本格的に着手されておらず、その成果を国民の前に示していない。蓮舫の事業仕分けは芝居であり、財務省がシナリオを描いた仮構と虚飾のパフォーマンスだ。事業仕分けをもって、政権による財源捻出の執政努力とは言えない。それはアリバイ工作であり、マスコミを使った世論操作である。騙されてはいけない。もし小沢一郎の権力の下で、誰かが行政刷新担当相をやっていれば、もう少し政治主導の事業仕分けになり、財務省の目論見とは異なる方向で、特別会計と天下り法人への切り込みが試行されていただろう。マニフェストで公約した16.8兆円分の無駄の削減について、現在よりも具体的進捗を結果させていただろう。少なくとも、一般会計と特別会計を統合する予算の組み直しについて、財務省の抵抗を押し切って財政の法制度改正が行われていただろう。予算編成が、官僚ではなく政治家の手に掌握されていただろう。この点は、小沢一郎が9月の代表選で特に力説した主張でもある。
毎日新聞では、「子ども手当や高速道路無料化などマニフェストの内容が予算編成の事実上の制約になっている」と記者が書いている。まさに財務官僚の言い分そのもの。予算編成が、国民に選ばれた政治家がするものではなく、財務省の判断と思惑でするもので、マニフェストなど官僚の予算編成の邪魔だと書いているのである。ここまで臆面なくあけすけに書かれると、何やら背筋が寒くなる思いがする。この記者とこの記事を書かせた官僚にとって、米軍思いやり予算や、グアム移転費用や、公務員の人件費などは、予算編成の制約でも障害でも何でもなく、国民が選挙公約を支持して一票を投じた子ども手当が、さっさと見直すべき制約（＝無駄）だと堂々と記事に書くのだ。予算は官僚が編成するもので、政党や国民が関与するものではないという主張。政権交代の否定であり、憲法と議会制民主主義の否定でもある。その主張を、他でもない民主党執行部が押し通そうとしている。新聞記者たちが、ここまで臆面と羞恥のない行動に出られるのは、それに輪をかけて凄まじい厚顔無恥を政治家たちがやっているからである。1年前、2010年の1/17に財務相に就任した菅直人の会見の言葉が、ネットにそのまま残っているので、紹介して今回の記事を結びたい。テレビ報道でも紹介され、さすがに市民運動出身の菅直人だと誰もが思い、私もブログの記事で評価した。「大臣は役所の代表ではなく、国民が役所に送り込んだ国民の代表だ。その役目として大臣に就任した。副総理の役割もあり、内閣全体についても総理を支える立場で十分に目配りしなくてはならない」。「民主党マニフェストの中では、２０７兆円の一般・特別会計を含む総予算を全面的に見直すとなっているが、まだこの３カ月半では着手したという段階に留まっている。あらゆる特別会計、独立行政法人、公益法人について、主に行政刷新会議が担当することになると思うが、多くの関わりを持つ財務省の立場で、この問題にしっかり取り組んでいきたい」。わずか1年前である。
