破竹の勢いで快進撃を続ける「ＡＫＢ４８」に、韓国発のＫ−ポップ勢…。群雄割拠のアイドル戦国絵巻の中に、「オタク」と「硬派」を売りにする異色のアイドルグループが加わった。秋葉原に次ぐ、東京のオタクの聖地・中野から現れた個性豊かな７人組だ。
「中野腐男子学園からやってきた『腐男塾（ふだんじゅく）』といいます。よろしくお願いします！」
まずは、グループのリーダー的存在である部長の紫集院曜介が挨拶。ハキハキとグループの紹介をしてくれたのはいいのだが、学園？ 腐男子（ふだんし）？ その“世界観”がよく分からん。
しかし、こちらの戸惑いをよそに副部長の武器屋桃太郎がハイテンションで続ける。
「腐男子というのは、オタクな趣味を持つ男子のことで、腐男塾はそれぞれが得意のヲタ属性を持つメンバーが集まった部活なんです。たとえば僕はアニメ。特にガンダムに夢中で、毎晩見ないと寝付けないくらいなんですよ！ 特にお気に入りの回は…」
話がオタクな方向に脱線しそうになると、「プロレスオタク」を自認する青明寺浦正がひときわ大きな声を張り上げて割って入ってきた。
「うちの部は、『ガチヲタ（本当のオタク）じゃないと入れない』という条件があるんです。昨年は、憧れの武藤敬司さんが主宰する全日本プロレスさんとのコラボレーションイベントに出演させてもらったんですよ」
青明寺とは対照的に終始クールなのが流原蓮次。謎めいた雰囲気をまとう流原に右頬の傷のことを尋ねてみると…。
「まあ、いろいろありまして…。腐男塾に入る前はあちこちでケンカしてましたから。でも、こう見えてゲームと漫画が大好きなんですよ。特に好きな漫画ですか？ ヤクザ物ですね（キッパリ！）」
不思議系もいる。最年少の瀬斗光黄はオカルト月刊誌「ムー」の愛読者。宇宙人の話が三度の飯より好きで、尊敬する人物は「断然、矢追純一さん！」という。
「去年、『ＮＡＳＡが重大発表する』とニュースになった時は、かなり興奮しましたね。朝４時まで起きて生中継を見てましたよ」
「『宇宙人まだー？』ってブログに書き込んでたよね」と笑うのは、もう１人の不思議系、緑川狂平だ。
「僕の趣味は妖精の研究です。図鑑とか学術書を引っ張り出してかなり本格的に調べてますよ。は虫類も好きで、いま飼っているカメレオンは二代目です。おいしそうにご飯を食べているのを眺めるのが至福の時なんですよ。エサですか？ 生きたコオロギが好物ですね」
キョーレツすぎるオタク度に、なんだか頭がクラクラしてきた。ただ、そんな“彼ら”もステージでは男前なパフォーマンス集団に変貌する。昨年１１月２４日には５枚目のシングル「同じ時代に生きる若者たち」をリリースした。
グループのファッションリーダーである赤園虎次郎は、「『生きる』というメッセージを込めた熱い曲です。タイトル通り、僕らと同世代の人たちに向けて作った応援ソングです」という。
ロック調のメロディーに乗せたストレートなメッセージが胸を突く。音楽好きで知られるキャスターの小倉智昭氏も、この曲を聴いて太鼓判を押したというから本物だ。
こりゃあ今年、ブレーク間違いなし！ …と締めようと思ったが、どうもオカシイ。キャラといい、美男子すぎるルックスといい、どこかで見たことあるような…。そうだ、ひょっとして元祖オタクアイドルユニットのあの７人組では？
「中野腐女シスターズのことですか？ よく間違えられますけど、人違いです！ でもまあ、彼女たちとはステージで共演することも多いから、今年の紅白で僕らが白組、彼女らが紅組で共演なんかできたら最高ですけどね」（紫集院）
結局、最後まで疑惑は晴れないままだった。でも、どっちでもいいか。彼女、いや彼らの元気な歌声に励まされる若者が多いのは間違いないのだから。
ペン・安里洋輔 カメラ・大山実
プロフィール 腐男塾（ふだんじゅく） オタクアイドルユニット「中野腐女シスターズ」の男装ユニットとして２００７年に結成。後列（左）から、流原蓮次（腐男子年齢１７歳）＝原田まりる（はらだ・まりる）、武器屋桃太郎（同１７歳）＝喜屋武ちあき（きゃん・ちあき）、赤園虎次郎（同１７歳）＝虎南有香（こなん・ゆか）、青明寺浦正（同１７歳）＝浦えりか（うら・えりか）。前列（左）から、緑川狂平（同１７歳）＝京本有加（きょうもと・ゆか）、瀬斗光黄（同１６歳）＝瀬口かな（せぐち・かな）、紫集院曜介（同１７歳）＝乾曜子（いぬい・ようこ）。 ０８年９月に「男坂」でＣＤデビュー。昨年１１月にリリースした５枚目のシングル「同じ時代に生まれた若者たち」はオリコンデイリーシングルランキングで１位を獲得した。東京・中野サンプラザなどでライブを開いている。