[TOP]-[前編]-[後編]


スター・ウォーズの神話学 後編

「ビル・モヤース」

 以下
「ビル」
大学の教授が新入生に、何人が3部作すべてを見たか聞いたところ、全員が手を挙げたと言ってました。
彼は『ルーカスはアメリカの若者の師だ』と言っていた。

「ジョージ・ルーカス」

 以下
「ルーカス」
私には哲学があり、毎日様々なものから学んでいる。
それは、学びたいという意志があるからだ。
学ぶのが嫌いな者に師はできない。
学生と話す機会があり、彼らにそのことを話したことがある。
彼らは私の話を聞いたよ。
時々、私が作る映画は、親や他の人が歩んできた人生のスケールよりも大きなものになると思う時がある。
例えば、メディアの人間ならまず人の話を聞く。
彼らの考えや言うこと、作るものは何かの事実に基づいて行われている。
私の場合、そのような要素と自分の考えを含め作っている。

「ビル」 この映画を、信仰深いものととらえる人もいますがどうですか?

「ルーカス」 私は、この映画が信仰深いものだとは思わない。
確かに神話をモチーフにして、映画での物語は神秘的なものになった。
人類の持つ謎に対して描いているなど共通性もある。
10歳の時だ。
『神様は1人なのに宗教はなぜたくさんなの』と母に聞いた。
私は10年以上もずっと答えを考えていて、結論は、すべての宗教は真実で別の角度から見ているんだと。
宗教は信仰を運ぶためのもので、信仰は我々と社会をつなげるもの。
個人の信仰、文化の信仰、世界の信仰は、永続性や平衡性という重要な部分を持ち、我々をまとめようとするものだと思う。

「ビル」 あなたの作った世界では、どの概念が神に?
フォースが神ですか?

「ルーカス」 映画の中のフォースは、若者のある種の精神性を自覚させるために置いたんだ。
様々な教えを信じる以上に、神を信じることが宗教の体系だろう。
本当の質問はそれを尋ねるもので、もし生命の謎を尋ねる事を言っているのなら『神は存在するか否か』。
その手の質問なら『私にはくだらないこと』と答える。
若者の答えなら『分からない』。
そういう答えも必要だ。

「ビル」 あなたの答えは?

「ルーカス」 神は存在する。
でも、これ以上は考えたことがないんだ。
ただ1つだけ言えることは、人間はいつもすべてが明らかだと考えがちだ。
旧石器人でさえそう考えた。
知っている範囲がすべてだと思ってしまうんだ。
だが、知らないことを積み上げていけばそうでない事が分かる。
例えば、旧石器人は目盛りで1を理解したところで、我々は5を理解したところかもしれないんだ。
終わりは誰にも分からないんだ。

「ビル」 我々の文化の主な長編物語は聖書で、そこでは『不思議なこと』『救い』『回帰』が起こりますが、しかし今日、聖書の人々への影響力は低下しました。
そして若者は、映画に救いを求めています。宗教にではなくね。

「ルーカス」 宗教は社会の重要な一部だと考える。
だから、影響力が低下したからといってすべてを否定はできない。
だが、宗教の中に描かれた世界を通じて我々自身を見い出すのは好まない。

「ビル」 批評家は「スター・ウォーズ」は宗教と結びつきのない若者に、とても人気があると。

「ルーカス」 「スター・ウォーズ」は何かを教えようと作ったわけではない。
多くの宗教的考えを作ったにすぎないんだ。
それと、若者の思考との関係と聖書の本質と物語とは『コーラン』と『トーラー』に関係している。
もし、古い物語を新しくする道具が若者と関係しているなら、そのことが全体の主要点だった。

「ビル」 あなたのホームページで見たのですが、あなたはジェダイが『霊的』になることを望んでいますね。
どういう意味ですか?

「ルーカス」 彼らは究極の神父であり、交渉人なんだ。
要求を交渉するために、様々なところに派遣される。
彼らは、答えを出す助けをしているんだ。
正しい答えへ導くんだ。
攻撃的なフォースではない。
正しくなければ、異を唱える銀河系の治療医みたいなものだ。(笑)

「ビル」 あなたは、仏教にも影響を受けているように見えます。
「ファントム・メナス」で気づいたことで、奴隷である少年の持つあの雰囲気を見て、仏教徒は次のダライ・ラマをどう探すのかと考えました。

「ルーカス」 繰り返して言うが、あらゆる種類の神話と宗教的考えが映画の中で融合されているんだ。
たくさんの文化を取り入れようと試みた。
それに魅了され、このことはキャンベルがいろんな神話や宗教を取り入れようとしたことに基づいていると思ってる。

「ビル」 再度映画を見て思ったことは、ダース・ヴェイダーがルークに帝国に来るように仕向け、帝国はルークを引き入れようとする。
悪魔が、キリストに布教を止めさえすれば世界の王国を献納するという話を思い出しました。
あなたの観念ですか?

「ルーカス」 『荒野の試み』という物語が基になっている。
宗教全体を見ると、ブッダも同様に誘惑されてる。
つまり、宗教を作りたかったわけではなく別の方法で表現したかった。

「ビル」 新しい物語を?

「ルーカス」 古い神話を新しく表したかったし、神話の核心を用いて地方色を出したかった。
惑星の特色も出したかったし、世紀末の特色も出したいと考えた。
狭い世界にとらわれるのでなく、我々が住んでいる世界が広がっていることを表したかった。
現在では、自国だけでなく他の文化のことも知っている。
もはやそれは自然なことで、各々に自由に吸収され人々は異文化を楽しんでる。
昔は、他文化を知る機会は映画などでしかなかった。

「ビル」 イタリアやマレーシアや南米では、この映画を観てはいけないことについては?

「ルーカス」 映画の主なテーマの1つとして、生命体がお互いの利益のために共存する必要性を描いている。
すべての生物は平等であり、統一体なんだ。

「ビル」 この映画における力をどう説明しますか?

「ルーカス」 映画は、最も現代的な芸術の形をしていると思う。
他の芸術の感覚を持ちあわせてる。
映画は、絵画、音楽、文学、ドラマ、演劇であり、それらが1つにまとまり同時に違う力を持つ。

「ビル」 そんな映画の、一瞬一瞬で起きることがある。

「ルーカス」 映画を見る時に関係してくる特別な事だ。
良い小説はあなたに影響を与えつづけ、あなたは言う『これが私の人生だ』と。
芸術は、とても人間的なものだ。
それは、美に関係していると思っている。
外見的な美でなく、知的な美に。
美とは何か?美は何を刺激するのか?
なぜ、ある色と物は、ある感覚を抱かせるのか?
ある音階は、嬉しさや悲しさを感じさせる。
それらのことを、人はどのように感じるのか?
私の映画では、人がより様々な感情を抱けるように工夫して作っている。
観客にどう作用するか考えているんだ。
毎日が魅力的だ。
それぞれの作用の仕方にビックリしている。
作用しないことだってある。

「ビル」 忘れられない部分があります。
ケノービの、直感的な主張における感情の強さ。
ルークが、2番目の視野でものを感じること。
この洞察力はまさに仏教観念だ。
なぜ、感性の声を聞くことが大切なのですか?

「ルーカス」 心を落ち着けると、自分自身の声を聞くことが出来る。
『無上の喜びを従える』。
自分の才能に従うことが、喜びに向かう1つの方法だ。
若い時に辛いことをすると、自分のすべきことが分かる。
お金もうけを追い求めたら、自分のしたいことは決して分からないだろう。
自分のすることの過程を楽しむことはできない。
もし過程を楽しめたら、それは無上の喜びなんだ。

「ビル」 あなたは、いつそれを?

「ルーカス」 映画と出会った時だね。
心理学や人間学を大学で履修できた時、『学ぶこと』が好きになった。
基本的に、人間学か美術を専攻したいと思っていた。
でも結局、映画を学んだんだ。
しかし、それらが本当に好きだったので、他の道に進んでも今の私がいると信じてる。
映画産業に入った当初は、フィクションではなくドキュメンタリーを好んだ。
書くことが嫌いだと気づいたんだ。
今は好きだよ。
3つの会社を経営することも、今は一番したいことだ。
最初はイヤでも、自分のしてきたことはするべきことだったんだ。

「ビル」 簡単に言っていますが、脱線はなかったのですか?

「ルーカス」 おそらく、脱線はしてこなかったと思う。
恋のようなものにつまずいたが・・・。
恋に落ちるということは不思議なことだ。
時々、誰かにのぼせ上がったり性的に興奮させられたりでも、それは恋じゃない。
一時的なものなんだ。
それらを取り払って時間が経ってから、これは本物だと分かり恋に落ちたことに気がつくものだ。
だから、映画に恋をしたんだ。

「ビル」 どのように?

「ルーカス」 私は、とても幸せな環境にいたよ。
好きなものを手に入れたら『これが欲しかった』とよく人は言うが、それは大したものでなく執着心が強いだけの時もある。
子供のしたい事と親の考えが違う場合もある。
父は、私に後を継ぐよう希望したが断った。

「ビル」 苦労したのでは?

「ルーカス」 苦労ではなく、絶対にしたくなかったんだ。

「ビル」 それで?

「ルーカス」 父は私のために店を建てたが、はっきりと断ったよ。

「ビル」 父上は何と?

「ルーカス」 『お前は戻る。その世界で身を立てるのは容易じゃない』と。

「ビル」 あなたは?

「ルーカス」 親子間での、大きな意見の相違だったよ。
父に『毎日、同じことを繰り返しやるのは絶対にイヤだ』と言った。
聞きたくなかった言葉だろう。
私の本心でもなかった。
父は『割の良い仕事だ。お前なら成功する』と言ったが、私は『その仕事が嫌だ』と・・・。
父は懸命によく働いていた。
だが断ることも大切だった。
屋根裏で餓死する芸術家のようになると思ったのだろう。

「ビル」 父上はご健在?

「ルーカス」 数年前に他界したよ。
父は死ぬまで、私のことをとても誇りに思ってくれていた。
人生で一番すべきことは、親に誇りを持ってもらうこと。
健康で自活できるならそれでいい。
社会への貢献と逃げないこと、それが親の最後の望みだ。

「ビル」 ジョージ・ルーカスのある思い出が、ルークと父親の感情に入り込んでるように思えます。

「ルーカス」 どのように書いても、自分の感性で書いているから2つの面があるんだよ。
「スター・ウォーズ」での救い主は息子なんだ。
映画の最後で、ヴェイダーはルークに救われる。
子供がいるということに救われるんだ。
私やあなたも、自分の子供に救われていると思う。
すべての生命は子供を産み育てているから、最悪でも最後には良いものを引き出す。

「ビル」 あなたは『私は自分の道を行くわ』と、自分の娘に言われる準備は出来ていますか?

「ルーカス」 どんなに子供が可愛くても、手放さなければいけない。
「ファントム・メナス」でも描いている点だ。

「ビル」 どのようにです?

「ルーカス」 手放す勇気。

「ビル」 勇気とは?

「ルーカス」 自分の意志で、母の元を去らなければいけない10歳の少年がいる。
彼には奴隷の生活しかなく、母は行かせるしかない。
自立しなければいけない。
必要なものを手放すことと、他のものの必要性を考えることを学ぶんだ。

「ビル」 この映画は銀河を舞台にした戦いの話ですが、本当は家族の話である。
ある家族が舞台の大きな話ですね。

「ルーカス」 ほとんどの作り話は、登場人物や英雄を中心とした話だ。
だが、人のことを見ててもしょうがない。
『自分ならどのように対処するのか』
この過渡期を経験することが、人生には意味があるんだ。
普通は、13か14歳の時期に・・・遅くとも18から22歳だね。
どこかで、自分自身で過去を手放し、未来を受け入れなければいけない。
そうすれば、自分の進む道とは何かが分かる。

「ビル」 「スター・ウォーズ」は、あなたの心の探索なのですか?

「ルーカス」 ある意味そうとも言える。
私が物語を書く時には、覚えてきた多くのことをじっくり考えている。
そして、出した結論の幾つかを映画に使っている。

「ビル」 全体的に『子供作品』だと中傷する批評家もいますが、キャンベル氏は『子供作品は夢を見させてくれる』と。

「ルーカス」 実際、大人向けより子供向けに書く方が難しい。

「ビル」 なぜです?

「ルーカス」 子供はウソのように聞こえることに対し、より影響を受けやすいからなんだ。
人は、ある程度のレベルに達すると束縛が無くなり心を開放するが、独断的な考えをしなくなる。
また、道理にかなわなければ批判的になる。
彼らは物事の善悪を嫌うんだ。
だが、子供には合理的な考え方が難しい。

「ビル」 書く時は観客を意識しますか?

「ルーカス」 書く時は意識しない。
あえていうなら、私が観客だ。
観客のためでなく、まず自分のために作ってる。
私には信じるものがあり、それを楽しんでる。
結果的に、それは大勢の人も楽しませる。
私は、真実味のない映画を撮ってきた。
確かに私は成功させようとしなかった。

「ビル」 映画に融資してる。

「ルーカス」 自分の映画に融資すれば、私の自由な考えがスクリーン上に描けるからだ。
成功だけを求めるならば、観客に合わせなくてはいけない。
私に口出しする人がいないので、私には自由があるんだ。
そして、私と一緒に働く人にも自由がある。
映画は偶然ヒットしたが、とても自由に作れたよ。

「ビル」 なぜ衰退は起きると?

「ルーカス」 我々の住んでいる世界は、とても複雑なんだと私は思う。
多くの道徳が、観客のいない所であやふやにされてる。
しかし、それらはまだ人の心の中にある。
親友関係と忠義は重要なものだ。
古くさいと言われるだろうが、親友関係と忠義は人との関わり合いの中で絶対に必要なものだ。
しかし、若者は違う。
習うこと、アイデアを出すこと、形にすることを途中にし、つい目先の人生を送る。
各世代に同じ話を何回もすれば受け継がれる。
受け入れられない多くの貴重な話を持つ人々を、私たちは支持する。

「ビル」 物語は何をしてくれますか?

「ルーカス」 我々の居場所を見せてくれる。
冒険を助ける話は、個性と居場所を見つけさせてくれる。
自分が全体の一部だと気づかせる。
そして、自分の幸せにおける社会への貢献方法を考える。

「ビル」 若者が、ヒロイズムがない世界について話してました。
「そこに高貴なことはない」。
どう思いますか?

「ルーカス」 みんなに、英雄になるか否かの選択権がある。
誰かを助けられる人。
同情する人にもなれる。
人に品位を持って扱っても扱わなくてもいいが、一方では英雄になり、もう一方では問題になってしまう。
自分自身の意識次第だ。
英雄になるためにライトセイバーで戦ったり、宇宙船を沈めたり、そんな必要はない。
ちょっとした心掛けで人は変われるんだ。

「ビル」 「スター・ウォーズ」は変化ですか?

「ルーカス」 そうだね。
アナキン・スカイウォーカーは、最後に邪悪なものになってしまうが結局息子に救われる。
しかし、その息子がどう変化するかが問題だ。
ルークは終局を迎えるまで直感的に動くんだ。
彼は、戦士としての父に感情で接するんだ。
最後に彼は、決心して言う。
「戦士としての父の後を継ぐ」。
それが父親を救う方法であり、最終的な結果なんだ。
初めの3部作ではなく次の3部作では、どのようにして人は悪に染まっていくのかはっきりするよ。
どうすれば人に愛され、高貴で親切な少年のように戻れるのか聞きたい?
温かい心さ。

「ビル」 最後になりましたが、キルケゴールの『信の飛躍』を用いてますね?

「ルーカス」 確かにそうだ。
気づいていると思うが、ルークは映画を通してそれをたくさん使う。
感情やコンピュータではなく『信』に頼っているんだ。
フォースを使うことは謎があり、大きな力もある。
『信の飛躍』なんだ。
それに近づくために、自分の感情を信頼するんだ。

「ビル」 キャンベル氏は『完全眼識』と言ってました。
どう養ったのです?

「ルーカス」 私にそれがあるか分からない。

「ビル」 あなたは、いつも素早い決定をすると聞きました。
直感的な決定ですね。

「ルーカス」 私が直感的な決定をするのは、頭の中で絵が漠然としているがそれがいいか悪いか分からないからなんだ。

「ビル」 あなたは想像し続け、アイデアとイメージを豊かに育み続けるのですか?

「ルーカス」 そうではなく、駆け巡るんだよ。
『持ちネタを使い果たす』と言う人がいるが、私には人生で消化しきれないほどの作品がある。
しかし、ある問題にも直面し始めている。
時間が足りないことと、意味のある作品だけを選ばなければならないことだ。
この先、30年、40年の時間があっても足りないよ。


[前編]に戻る

1