「ビル・モヤース」 以下 「ビル」 |
古い神話の新しい解釈、どのように次世代に『社会』を引き継ぐか。 ビル・モヤースです。 「スター・ウォーズ」の道にようこそ。 サンフランシスコの北にはジョージ・ルーカスの製作拠点があります。 初めて来た時にはジョセフ・キャンベルに話を聞きましたが、12年ぶりに訪れた今回はルーカスに話を聞けました。 彼は22年ぶりに「ファントム・メナス」のメガホンを取りました。 彼に「スター・ウォーズ」が生まれた原点について話を聞きました。 私たちは時の流れを越え、神話や映画、父と息子、幻想と夢想などの話をしました。 以前、キャンベル氏は言いました。 『素晴らしい話なら生まれ変わるべきだ。』 『「スター・ウォーズ」も同じこと。』 あなたは古い神話を作り直したのですか? ただアクション映画を撮りたかっただけ? |
「ジョージ・ルーカス」 以下 「ルーカス」 |
「スター・ウォーズ」を撮った時、神話の再生になったと思った。 神秘的な物語を作れたと自覚したんだ。 初めは神話をモチーフにして、その中に人間の持つ特性を含めた映画を撮りたかった。 私たち皆が持ってる善と悪の部分など、どんな角度からも観ることが出来る映画を・・・。 映画には様々なテーマが盛り込まれている。 人が機械と接する時に抱く恐怖や慈悲深さなどは人間なら自然に抱くものだし、友情や仲間や周りの人との関係に対することなど、普段深く考えない事を盛り込んだ。 それらは人の運命を左右するものなんだ。 多くの歩む道や運命があるだろう。 だが、与えられた運命に気づかなければ、人は人生に満足できない。 自分の感情の抱き方や行動の理由を理解すれば、才能や役割に気づくと伝えたかった。 |
「ビル」 |
この映画の魅力の1つは、あいまいさがないこと。 つまり、正義は正義、悪は悪として描かれてる固有の色が使われていますね。 |
「ルーカス」 |
私は、自分の映画にたくさんの色を使うんだ。 イメージが伝わりやすい。 例えば、惑星タトゥイーンは褐色の砂漠はあまりなく、澄んだイメージにしたかった。 デス・スターなど帝国軍は黒か白か灰色にして、暗さと無個性を出した。 皇帝側には赤色を散りばめた。 赤は力強い色だからね。 |
「ビル」 |
脚本を書く時、ペンを取る前に頭の中に構想が出来ているんですね。 |
「ルーカス」 |
ある監督は、完成された全体像を見るという。 だが、私の作品はかすんでいる。 大体どんな感じか見当はつくが、実際に口に出し、近いものを探すんだ。 衣装なら『荘厳で厳粛でまれなもの』『でも文化的で歴史的なもの』と、想像の産物でなく実生活からヒントを得ようとする。 例えば、今回はアジアに目を向けた。 惑星ナブーでは、図書館に行って言った。 『アジア全体に目を向けろ』『島々に伝わる独創的で興味深い式服を見つけるんだ』と。 それでもまだ、私の中にあるものとは違う。 ヒントから、さらに別の要素を混ぜて完成させていく。 |
「ビル」 |
それはどこから? |
「ルーカス」 |
自分でも分からない。 謎だよ。 |
「ビル」 |
しかし、25年前は衣装も人物像もかすんでいたのですか? |
「ルーカス」 |
脚本を書き出すまでは具体像はない。 ヴェイダーになるまでを描こうとは決めていた。 だが、細かな構成までは浮かんでなかった。 例えば奴隷の主人だが、商売をして青色で飛び回るか私自身でも分からなかった。 |
「ビル」 |
詳細は何も? 『ターザン』や『オズの魔法使い』みたいなものを登場させようとか。 |
「ルーカス」 |
座って考えるだけじゃダメなんだ。 私の場合生活のすべてがきっかけになる。 好きなこと、見て思ったこと、注目してきたこと、それぞれで感じたものを形にしていく。 好きなものやデザイン、好きな人物像・・・。 思い出の瞬間や感動したことそのままの思いで伝えたい。 交響曲を作曲するようなものだよ。 |
「ビル」 |
『思い』はどこから? あなたの構想の一部? |
「ルーカス」 |
心のどこから生まれてくるか分からないが、面白く繊細だ。 思いを描かない人に偶然会ったことがある。 |
「ビル」 |
記者がそうだ! |
「ルーカス」 |
(笑)初めて会った時はショックを受けた。 人は誰でも思いを描くと考えていたからだ。 あなたが、想像をしない特別な子供に出会ったらとても興味深く絶大なことだ。 『想像』は、人間の能力の中でも特性の1つで考えることとも違い、正しい答えはなく自由なんだ。 |
「ビル」 |
「ファントム・メナス」の『水の世界』も独特ですね。 あれも自由な発想から? |
「ルーカス」 |
行ったことのない場所にしたかった。 水の世界もその1つ。 とても精巧なものを、社会のシステムに至るまで作りたかった。 だが、実際に表現するには技術の成熟が必要だった。 映画の中の社会でも同じだ。 文化の全体を作る必要があった。 経済はどうなっているかなど、映画には表れないが考えねばならない。 そうでなければ現実感がなく、観客は入り込めない。 現実的な幻想を作るから夢があるんだ。 苦労する点だよ。 だから、私はルールを作ってる。 ルールを作ったら従わなければならない。 |
「ビル」 |
それはあなた次第? |
「ルーカス」 |
『私の宇宙』には音が存在して、音無しでは宇宙船は飛ばないし、『私の宇宙』ではそのルールに従わなければならない。 ライトセーバーにも、ルールがちゃんとあるんだ。 「スター・ウォーズ」を作る時、素晴らしい幻想的な世界を作りたいと思っていた。 だが、それは現実問題難しいと気づかされた。 宇宙船を作り、新しい方法で飛ばすことが出来ても、次の段階では生物の問題が出てきたんだ。 当時の技術では、考えたものを自由に表現できなかった。 そこでデジタル映像を作り、考えは実現し広がりを持った。 |
「ビル」 |
デジタルのおかげ? |
「ルーカス」 |
他の方法では出来なかった。 |
「ビル」 |
スクリーン技術? |
「ルーカス」 |
その通り。 それで背景を作ることが出来たんだ。 デジタル技術が出来るまで、あのシーンは撮れなかった。 セットでは現実感に欠ける。 登場人物でも同じことなんだ。 ジャー・ジャー・ビンクスやワトーのような飛び回るものは、当時作れなかった。 |
「ビル」 |
私は、ダース・モールにひかれた。 彼を見た時、サタンとかルシファーなど悪魔のことを考えた。 私たちが考えつかないような、邪悪なイメージを持って来るんですね。 |
「ルーカス」 |
我々は、邪悪なイメージのダース・ヴェイダーに匹敵する者を探そうとした。 そこで『悪』について、1から考え直してみた。 キリスト教だけじゃなく、ヒンズー教、ギリシャ神話など、様々な宗教の中に出てくる悪のイメージを調べた。 |
「ビル」 |
それで見えてきたのは? |
「ルーカス」 |
多くのものには角がある。 面白いでしょ。 だが悪の形を作ろうとすると、なぜか『悪魔など悪いものには角がある』と人はイメージする。 |
「ビル」 |
出来上がって感じたことは? |
「ルーカス」 |
『皆が恐怖を示してくれる』『暗い裏道では会いたくない』。 でも、怪物を作ったわけではない。 ダース・モールは、怪物ではなく『悪の化身』なんだ。 |
「ビル」 |
ひかれますね。 |
「ルーカス」 |
つまり、人々に恐れや恐怖だけを抱かせるもの、情が入らないものだ。 |
「ビル」 |
ダース・ヴェイダーから感じたこととの違いは? |
「ルーカス」 |
本質的には同じだけど、彼は合成された人間だ。 半分機械で出来ている。 彼は、人間らしさを失った。 機械の腕や足をしているし、呼吸器を装着している。 彼には人間らしさがない。 しかし人間なんだ。 人間らしさは持っていて欲しかった。 我々が、同情することを避ける怪物でなく『人間の悪の部分の化身』なんだ。 |
「ビル」 |
精神科医が、子供の治療にこの映画を使うと言ってた。 ごく普通の子供の人格はダース・ヴェイダーなんだと。 |
「ルーカス」 |
子供は弱い存在なだけに『力』に魅力を感じる。 その点においては、まさにヴェイダーと同じだ。 ヴェイダーより強い者は? もしそう聞けば、彼らはルークだと答えるだろう。 だが、実際にはルークよりもヴェイダーの方が強いんだ。 年をとっていけば分かると思うが彼は『父親』なんだ。 |
「ビル」 |
キャンベル氏は、ルークが父親を殺すべきだと・・・。 あなたの考えは? ヴェイダーは父親ですが、悪に支配され変りましたね。 |
「ルーカス」 |
私はキャンベルと、生と死という命の謎を作り出す問題をよく話し合った。 だれにでも共通する話だ。 |
「ビル」 |
アナキン・スカイウォーカーがダース・ヴェイダーになることは当然のこと? |
「ルーカス」 |
「ファントム・メナス」の中でそのことは語られている。 そのエピソードの土台なんだ。 映画では暗黒面と正の面について語っており、心の移り変わり、悪の心の増幅を描いている。 人間には善と悪の両面があり、そのバランスが大切なんだ。 |
「ビル」 |
作品を見る人たちには、アナキンという無垢な男の子が悪だけに支配され進むというのは、受け入れるのに無理があるのでは? 8歳のヒトラーやスターリンに会ったようで。 |
「ルーカス」 |
実際に、そのような人は大勢いると思う。 『どのように人は存在できるか』とか『自分自身どう生きるか』などの問題は、人間が持つ本能によって決まるんだ。 悪だけに支配されれば、幼くてもそうなると思う。 |
「ビル」 |
25年間で、その考えへの結論は出ましたか? |
「ルーカス」 |
まだ出ないな。 |
「ビル」 |
映画では、師匠と弟子の関係もテーマにしている。 あなたが若い時には、師はいましたか? 経験だけが映画に生かされているのですか? |
「ルーカス」 |
最初の師は父親だ。 能力のある人といると、自分が高まっていく。 F・コッポラ監督も師であり、脚本の書き方や俳優との関わり方を教わった。 カメラマンに編集者など、技術的なこともこなした。 最後の師は、ジョセフ・キャンベルだ。 多くの面白い質問をしてきて、いろいろやらせてくれた。 宇宙やミステリーの話も、とても面白かった。 楽しい生活だったが、彼とは対等に接したかった。 |
[後編]に続く