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2011年1月13日(木)付

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NHK経営委―責任自覚し、会長選びを

NHK経営委員会は、公共放送であるNHKの最高意思決定機関だ。会長を選ぶことは最も重要な仕事だ。それが、現会長の任期切れを目前にして大混乱に陥っている。小丸成洋委員長は[記事全文]

B型肝炎訴訟―全面解決に道が見えた

集団予防接種の際、注射器を使い回したためB型肝炎ウイルスに感染したとして、被害者が国に賠償を求めた訴訟で札幌地裁の和解案が示された。最後まで調整が難航したのは、感染して[記事全文]

NHK経営委―責任自覚し、会長選びを

 NHK経営委員会は、公共放送であるNHKの最高意思決定機関だ。会長を選ぶことは最も重要な仕事だ。それが、現会長の任期切れを目前にして大混乱に陥っている。

 小丸成洋委員長は昨年末、前慶応義塾塾長の安西祐一郎氏に会長への就任を求めた。内諾を得た後に、今度は一転して辞退を求めた。理由は安西氏を中傷する風評の存在だというのだから、安西氏が怒って就任を拒絶したのは当然だ。

 会長の任期は3年だ。福地茂雄・現会長はかなり前から、身を引くと意思を伝えていた。次期会長を選ぶ時間は十分あった。それなのに「続投の可能性」に期待して先延ばしにし、ここにきて混迷を招いたのは、小丸委員長の失態だ。委員会をまとめられなかった責任は明確にとるべきだろう。

 24日に迫った福地会長の任期満了に間に合わせるためだけに、選びやすい内部からの登用という道はとるべきではない。経営委員会がきのう「内部からとも外部とも決めていない」と説明したのは当然だ。

 放送法には会長の任期満了後も後任が決まるまで在任する規定がある。福地会長に当面の在任を求め、慎重に人選を進めるしかないのではないか。

 地上波デジタルへの完全移行、通信との融合など、放送を取り巻く状況は激しく変わっている。広告収入が低迷し民放の経営が厳しい今、受信料に支えられ安定した基盤を持つ公共放送がどのような役割を果たすべきなのか。NHKのあり方が改めて問われる時期のリーダー選びである。

 NHK会長に求められる資質は、何だろうか。まず、政治からの距離を置いて、自律した報道・制作の自由を守る姿勢だ。そして、巨大な組織を統治し、経営する手腕だ。

 アサヒビール相談役から転じた福地会長は、当初はジャーナリズムの経験がないことに懸念もささやかれた。だが自由な雰囲気で番組を作らせ、ドキュメンタリーの秀作や独創的なドラマに結実した。株インサイダー取引問題では第三者委員会を置いて実態を調査した。信頼回復への道を開き、受信料不払いも減った。

 自民党政権時代には、NHK会長選びには有力議員が水面下で力を発揮したといわれる。経営委員会の判断で決めた例ばかりではなかろう。

 そうした旧来の仕組みがなくなったいまは、国会の同意で選ばれている経営委員が自らの力と責任でことにあたらねばならない。

 これはむしろ本来の姿だ。混乱を「生みの苦しみ」とし、様々な角度から議論して、透明性のある会長選びをすることが求められる。

 経営委員会は役割を自覚し、責任を果たしてほしい。

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B型肝炎訴訟―全面解決に道が見えた

 集団予防接種の際、注射器を使い回したためB型肝炎ウイルスに感染したとして、被害者が国に賠償を求めた訴訟で札幌地裁の和解案が示された。

 最後まで調整が難航したのは、感染しているが症状が出ていない人(持続感染者)の扱いだった。和解案は、国が今後の検査費用や交通費に加え、過去の検査にかかった経費などとして50万円を支払うとなっている。

 原告側は、感染の事実を知った時点で受けた精神的ダメージや将来への不安、社会生活を送るうえでの制約などを訴え、1200万円の和解金を求めていた。その落差を納得できないと感じる人がいるのは理解できる。

 だが、裁判所を交えて患者と国が話し合い、歩み寄りの末に導き出された和解案だ。前向きに評価したい。

 持続感染をめぐっては、法的には、注射から20年が経ったら請求権は消滅するという考えが有力だ。そして20年前には既に使い回しは終わっていた。原告側は「感染を知った時から20年」とするべきだと主張したが、地裁もそこまでは踏み込まなかった。

 境遇が違い、様々な思いをもつ原告をまとめるのは簡単でないだろうが、弁護団は事情を丁寧に説明し、全面解決への道筋をつけてもらいたい。

 予防接種を受けたことの証明の仕方や、発症した患者に支払う金額などでも知恵が絞られた。幅広い救済をめざすとの理念に照らし、妥当な線が打ち出されたのではないか。

 この案に基づけば、国の試算で向こう5年間で最大1兆円、その後の25年間で2兆円が必要になる。70〜74歳の医療費の自己負担を、本来の2割から1割に引き下げるために、いま使われている予算が年間約2千億円だ。規模の大きさを痛感する。それはまた、被害の広がりを示すものでもある。

 負担するのはほかでもない。税金を納める国民一人ひとりだ。そう考えるとたじろいでしまうが、ここは覚悟を決めて引き受けるしかない。

 予防接種は、感染症から個々の子どもを守るとともに社会全体を防衛するため、ほぼ強制的に行われた。そしてそこで過ちが起きた。もしかしたら自分や家族が感染したかもしれない。その想像力と共感をもって、長年にわたる被害に向き合う必要がある。

 救済を円滑に進めるにはC型肝炎対策と同様の立法措置が必要になろう。使い回しの時期は自民党政権時代とほとんど重なる。国民の健康とあわせ、今後の財政運営にもかかわる問題だ。政党間の対立を越えて、社会の理解の深化につながる協議を求めたい。

 検診の強化と実態の把握、症状の進行を抑えるための研究など、総合的な肝炎対策に着実に取り組む。国民病ともいわれるこの病気との闘いは、私たちが背負う大きな課題である。

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