まず最初に一言。
すいません。
すいません。
すいません。
AQUA・ARIAの二次創作なのに、いきなりタブーを犯させていただきます。
さらに、私自身の文章力のなさ・計画性のなさのせいでストーリーが破綻するかもしれません。
また、ウンディーネたちの出番は少なくなるかもしれません。
そんな文章でもいいのなら続きを読んでくださると嬉しいです。
それでは、はじまりはじまり・・・いいのか、こんなものはじめて。
アッリ・カールステッド(Alli・Carlstedt)
『ネオ・ヴェネチア』ミドルスクール在校生
『AQUA』第七管区開拓宙域 競技船『ルクス』号
必死に前へ前へと出していた足がほつれて船の床に倒れる。
まだ出発地点からさほど進んでいない。
脱出ポッドまでの僅かな距離がまるで遠い。
「あっ・・・・・・。」
倒れた衝撃で船の破片が刺さった腕から血が流れ出すが、気にならない。
もうほとんど腕の感覚がなく、大して痛くないから。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・あついよぉ・・・くるしいよぉ・・・お母様ぁ、お父様ぁ・・・。」
私のかすれきった声に反応してくれる人は何処にもいない――――――私の目の前でお母様とお父様は吹き飛んだ。
私を、かばって。
「・・・私のせい・・・なのですかね・・・やっぱり。」
私が、もっと星を近くで見れたらなぁ・・・と、誕生日が近づいていた日に、まるで願望のように言っていなかったら。
そうすればお父様は知り合いから軍の退役艦を改造した競技船を借りてクルーズをし、イレギュラーの大型デブリと衝突事故を起こすこともなかっただろうに。
「・・・なにが学校で一番の才女ですか・・・ゴンドラ部のエースですか・・・『オレンジぷらねっと』の採用内定者ですか・・・。」
すばらしきネオ・ヴェネチアの水先案内人『ウンディーネ』の一員になれると思ったら、家族を死に案内した水先案内人『死神』になっていたなんて、笑えない。
私を応援して力づけてくれ、また、時には私に反対するお父様をしかりつけたしっかりもののお母様の、オレンジぷらねっとの制服を着たときに見せた少し寂しそうな顔。
それは多分、いつの間にか私が親離れをするようになっていた事が寂しかったから・・・でしょうか?
最後まで私がウンディーネになることに反対していたお父様が、内定が決まったとたんに見せた嬉しそうな顔。
反対していたのは、私が負けず嫌いなのを熟知していたからだと思うのですよ。
そして、あの嬉しそうな顔はきっと自分のたくらみが成功したのもあると思うのです。
あの飄々としたお父様のことです、そうに違いありません。
でも、他にもいろいろな顔を見せてくれたお母様とお父様はもう・・・いないのです。
少し前の自分だったら、宇宙船の安全性が非常にあがった23世紀にこんな事故なんて起きない、もし起きても、それはドラマや映画の中だけなのです―――そう笑い飛ばしただろうに、今自分がその当事者になっているなんて―――
―――本当に、本当に笑えない冗談なのです。
ああ、それにしても死に際なのにどうしてこうも思考がクリアなのか。
お陰で自分の体が冷えていくのが実感できる・・・まったく、神様を呪いたいぐらいです。
足音を立てて死が近づいてくるこの感覚、感じたくもない。
「・・・ああ、いやです・・・死にたく、ない、のですよ・・・。」
仰向けになり、そうつぶやく私の頬にとっくに涸れたと思っていた涙が落ちるのを感じた。
「・・・だれかぁ、たすけて・・・。」
こんな通常の航路から外れた所にすぐに救助が来るはずないのに、私は誰かに助けを求めた。
アンネリーゼ・アンテロイネン(Anneliese・Anteroinen)中尉
『AQUA Coast Guard』第7管区所属
『AQUA』第七管区開拓宙域 哨戒機『フーケ』
漆黒の中にぽっかりと浮かぶ船が見えてくる。
その船はところどころで小爆発を起こしているうえに、船体横に亀裂が発生している―――本来なら脱出ポッドで乗員が脱出しててもおかしくない状態。
だが、乗組員が脱出した形跡は認められない。
「いい、もう一度確認するわよ。要救助者は3名。アレクシス、アルマ・カールステッド夫妻とその娘のアッリ・カールステッド。それぞれの容姿、頭に叩き込んでおいて。」
遭難船からのSOS信号を受け、哨戒機に乗り込んだときに読み上げた要救助者リストを再度読み上げる。
私は最初、この管制官から送られてきた要救助者リストを見たときに、えっ!、と思った。
なぜならそのリストには、私がAQUAコーストガードの仕官学校時代の恩師―――アルマ・カールステッド―――の名があり。
アルマ教官の夫で、マンホームの軍隊からAQUAコーストガードに派遣され現在のコースとガードを築いたのち退役したアレクシス元大佐の名前もあったのだ。
そんな宇宙での船舶事故、及びその対処法のことをよく知る彼らが、この状況下で脱出を選択しないわけがない。
そう、そんな彼らが脱出できていないとすれば、脱出ポッドが壊れ外に出られないのか、それとも船内に閉じ込められたか、あるいは―――。
「隊長・・・もしかしたら、もう全員・・・。」
「ッ、この馬鹿!私たちはコーストガードなのよ!その中でも私たちSAR(捜索救難の英語略)任務部隊が諦めてどうするの!」
だが、最悪の可能性は私も考えていた。実際ほかの似たような状況が発生したSAR任務の際、誰も助けられなかったことを経験していた。
死体袋を三つ・・・もしかしたら、それぞれの遺品だけを回収して脱出することになるかもしれない。
そもそも小爆発を起こし船体に亀裂が入った船から要救助者を救助するというのは非常に困難である。
船内酸素も残り少ないだろうし、もしかしたら要救助者が外に吸い出された可能性もある。
その場合は遺体の発見は不可能といってもいい。
更に小爆発を繰り返しつつも船の形がまだしっかりと残っているということは、まだ主動力部が爆発していないということだ。
そして、先行させた無人観測機からの報告によれば、「 いつ爆発してもおかしくない状態 」なんだそうだ。
だが、たとえ二次被害の危険性があったとしても、私達は救助に向かう。
理由はただひとつ。
『AQUAのコーストガードのSAR任務部隊はどんなときでも、どんな命も見捨てない。』
どの時代の何処の救助隊・任務部隊、もしかしたら軍隊にもあるかもしれない陳腐なモットー。
でも、私達はこのモットーを胸に数多くの救出任務をこなしてきた。
今回もそれに従うだけ。
「各員、20分だ。20分で全ての要救助者を発見・救出し、全員欠けることなく脱出する、いい?」
「「「「「「了解!」」」」」」
でも、私としても部下の命は大切だ。可能な限り、二次被害はやっぱり避けたい。
そのために与えられた突入から捜索・救出そして脱出までの時間。約20分・・・長いようで短い時間だ。
これが観測機からの情報と船の設計図―――軍の退役艦だったお陰か、データバンクに登録されていて、すぐに見つかった―――から、救助活動ができる時間を求めた、私達に与えられた時間だ。
これ以上経過すると、主動力部の爆発の危険性が大幅に上がり、また、艦内酸素もほぼ尽きるため要救助者の命も保障されなくなる。
そしてこの20分は既にカウントが開始されている。
刻一刻と減っていくカウントを見て、思わず機長に言う。
「機長!まだ乗り移れないのですか!?」
「もうちょっとだ、もうちょっと待て!今、相対速度を同調させているんだ。あと30秒ほどで目標艦とドッキングできる!」
「くっ、了解!」
焦りで荒れた声になる。
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
隊長たる私が焦ってはいけない。
焦ったら、助けれる命も助けられなくなる。
深呼吸を一回し呼吸を整えたところで、隊員に指示を飛ばす。
「各員、装備確認およびスーツ気密確認!HMD(ヘッドマウントディスプレイ)下ろせっ!」
外部モニターにはもう目の前に船の表面が見える。
それがだんだんと接近していく。船体表面のディティールがわかってきた。
あと、少し。
「ドッキングするぞ!衝撃に備えろ!」
機長の言う通りに手近な物につかまって衝撃に備える。
ドンッ!
機体が揺れ、船のエアロックにドッキング、そして隔壁開放の字がHMDに表示される。
プシュゥッッという音ともに哨戒機側の隔壁が開放される。
その奥―――事故船側―――の通路はところどころで火花が散り、火災を起こしている部分も見える。
「全員無事に戻ってこいよ!葬式なんてごめんだからな!」
「必ず戻りますよ!各員突入!GO!GO!GO!」
号令とともに私は他の救助隊員達を引き連れて、通路に進んでいく。
残された時間は、あと19分。
・・・・・・・・ドンッ・・・・・・・・
「・・・ぇ・・・?」
船体を揺らした衝撃に、私は失いかけた意識を取り戻す。
酸素が船内の火災によって徐々に失われていくせいで、ガンガンなる頭。
だがそんな状態でも認識できた、デブリと衝突したときの音と微妙に違う何かの音。
それが何かを確かめるために壁まで這って行き、まだ生きたコンソールを探す。
「・・・あった・・・。」
壊れかけているがまだ動くコンソールが爆発の衝撃で床に転がっていた。
『ああ、ここがかつてCICとして使われていた場所でよかったのですよ。』
そう心の中で呟き、なんとかコンソールを引っ張り寄せる。
そして、まだ動く監視カメラを検索する。
―――Hit
・第13右舷甲板監視カメラ
船に出来た亀裂が見え、そこらで小爆発をしている。
・第19上部甲板監視カメラ
デブリの衝突でひしゃげた艦橋と退役したときに武装解除された砲塔・・・そしてカメラの隅に移る何か。
「え、もしかして・・・。」
震える指で拡大する。
映ったのは、漆黒の宇宙を背景に映える白と黄色を基調としたカラーリングの機動性と長距離行軍能力を重視した小型機。
そして、機体の横に描かれたトライデント(三叉槍)。
―――AQUAコーストガード所属の哨戒機。
「助けが・・・来たのですか・・・?」
検索に引っかかった最後の監視カメラには、船内を進む救助隊員達の姿が映っていた。
「・・・死にたく、ないのですよ・・・。」
歯を食いしばり、足に力を入れて立ち上がる。
目指すのは、出発地点―――艦橋。お母様とお父様が死んでいる場所。
お母様は首に現役時代の認識票を今でもかけていた。それには、所定の操作をすると救難信号が出る機構が組み込まれていると聞いたことがある。
その操作も教わったことがある。
そして出された信号を頼りに救助隊が来てくれれば―――
「助かるかも、しれないのです・・・。」
そう思ったとたん、体中の痛みがぶり返してくる。
左腕なんか痛みが消えてなくなったと思ったのに、今では焼けるように熱い。
それでも何度も転びながらも、少しずつ艦橋へ向かっていった。
『助かるかもしれない』という希望にすがるために。
《居住区には誰もいません!》
《こちらもです!》
隊員からの通信が入る。その通信に苛立ちが募る。
まだ要救助者は一人も発見できていない。なのに、HMDの端に映るカウントはもう半分を切ろうとしている。
更にさっきから船内の酸素が急速に減っている。
おそらく、どこかでかなり大規模な火災が発生したのだろう。酸素がなくなれば火災は消えるが、要救助者の命の炎も消えてしまう。
しかも観測機からの情報だと、主動力部のエネルギーが増大してきているようだ。
このままでは―――
「隊長!」
「なに!?」
「特定救難信号、我々コーストガードの非常用救難信号が出ています!」
「なんですって!?」
愕然とした。
非常用救難信号・・・・・・隊員が緊急事態に陥り、身動きができなかったり負傷していたりしたときに出す信号。
まさか、もう二次被害が出始めているなんて・・・。
「場所は!?」
「CICの上の通路、艦橋付近です!」
「艦橋付近?」
そこはまだ救助隊員を向かわせていない場所。
私の命令を無視して先行した馬鹿がいた・・・?
「認識番号は?」
「それが・・・TAR751001なんですが・・・」
「TAR751001・・・?」
TARの75番台はちょうどアルマ教官の現役時代の認識番号のはず。
それはもう使われていない。
そんな番号が何故こんなところに?
・・・まさか!?
「機長、聞こえる!?」
《なんだ、何か異常でも!?》
「TAR751001の認識番号を持つコーストガード隊員は誰か、すぐ検索して!」
《なぜだ?》
「いいから、早く!」
《了解―――出たぞ・・・アルマ、アルマ・カールステッドのものだ!》
やっぱり!
認識票の救難信号はちょっとやそっとの衝撃じゃ発せられない。
所定の動作を踏んでからでないといけない。
その動作が出来る人間が―――つまり、最低でもアルマ教官かアレクシス元大佐のどちらか一人はそこにいる。
「各員、要救助者は艦橋付近にいると思われる!急げ!」
「了解!」
残りカウントはあと250ほど。
ああ、神様。
先程は呪ってやると思ってしまってすいませんでした。
思考がクリアなお陰で、CICにあった救命パックと緊急用酸素ボンベの位置を思い出せたのですよ。
まぁ片腕で、それも利き腕じゃない右腕だけで引きずり出すのに苦労しましたけど。
「ふぅ・・・。」
手元には、お母様の首もとの鎖からはずしてきた、軽く発光している認識票。
発光しているのは救難信号が出ている証拠のようです。
さらに救命パックの中に入っていたキットで、自分が知る限りの、そして今の自分でも出来る応急処置を施す。
そうはいっても、ほとんど出来ませんが少しはマシでしょう。
「これで一息つけ、るでしょうか・・・。」
さっきまで感覚が戻っていた左腕も、再び感覚がなくなってきた。
さらに救命パックを引きずり出すだけで残された体力は全て使い切ってしまった。もう一歩も動けやしない。
「ああ、ここで眠ってしまえば、また、お母様とお父様に会えるのでしょうか・・・?」
それもいいかもしれないと思うのです。
そして、いままでの楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったことや苦しかったこと・・・いろいろな場面がまるで早送りで再生されるかのように思い出される。
・・・・・・ああ、本当に走馬灯ってみえるんですね。
そう思ったとき、視界の端に私に駆け寄ってくる救助隊の姿が見えた。
「要救助者確認!」
「要救助者確認、了解!」
オレンジ色のスーツを着たそのたくましい姿に安堵しつつも、もうちょっと早く着てほしかったと思う。まったくもって遅いのです。
「・・・・・・本当に。本当に遅いのですよ。」
そう呟いて、私は意識を手放した。
「要救助者確認!」
「要救助者確認、了解!」
目の前には通路を赤く染めた血の海に横たわる少女の姿。見るからに危険な状態。
「伍長!診て!」
「了解!」
「他に要救助者は!?」
まだ、カールステッド夫妻がいるはず・・・。
要救助者の少女の後ろの床を見てみると、ずっと後方まで赤い帯ができていた。
最初の発信源は艦橋付近だった。とすれば、そこから助けを求めて這ってきたのか。
おそらく、この帯を辿っていくとそこが艦橋なのだろう。
「探します!」
そう言って先任軍曹が部下から一人を率いてバディ(2人、相互支援できる最小単位)を組み、赤い帯を辿っていった。
とある軍曹
『AQUA Coast Guard』第7管区所属
『AQUA』第七管区開拓宙域 競技船『ルクス』号・艦橋
赤い帯を辿っていくと確かにそこは艦橋だった。正確に言うと『艦橋だった場所』に辿りついた。
あちこちでスパークがはじけ、様々な破片が浮かんでいる。幸い火災はない。
そして艦橋中央部に食い込んだ、どでかい『何か』。隕石にも見えない。
細長い直方体のそれは、どう考えても人為的なものだった。
それに取り付いていた一等兵が報告してきた。
「軍曹、こいつはコンテナです。刻印されたシリアルナンバーから2250年代のものと思われます。こいつ、まだ中身が入っているようですが。」
「今は要救助者を探せ。事故の調査はしかるべき人間にやらせろ。」
「了解。」
そう一等兵に命じたとき、背中に軽い衝撃を感じた。
少し大きい破片でもあるのだろうか・・・・・・そう思い振り返ると目の前に初老の男性の死体があった。
その死体は、おそらく首から左腕にかけて破片が切り裂いていったのだろう、首と左腕がもげかけ、両足は間接が増えており、腹を60cmほどの破片に深々と貫かれ、内臓が見えていた。
思わず思考が停止する。
こういった事故現場で活動する以上、死体を見たことがないわけじゃない。酸素がなくなって苦悶の顔をして死んだ遭難者、遭難船内で発生した有毒ガスで首をかきむしった遭難者もいた。
だが、ここまでひどい損傷具合の死体を見るのは初めてのことだった。
いちど頭をふって、思考を取り戻す。顔をそっと起こし、確認する。アレクシス元大佐か・・・・・・特徴点も一致する。
遺体の損傷具合からして、おそらく即死だろう。苦しまずに死ねた。それだけが彼にとって唯一の救いだったかもしれないが、あの少女は父親のこんな姿を目にしたというのか。
もしかしたら、こうなる瞬間すら見てしまったのかもしれない。
幾つかの死体を見たことのある大の大人ですら、思考が停止したのだ。14歳の彼女にとって、それはどれほどのショックだっただろうか。
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)になってなきゃいいが・・・・・・。」
思わずそう呟やきながら、装備品の中から死体を入れておくための黒塗りの袋を取り出す。
こういった宇宙間事故で、遭難者を助けれる場合は少ない。むしろ、遺体がまだあるということは幸運なのかもしれない。宇宙を永遠にさまよわないから。
それでも、それでもだ。正直言って、この黒塗りの袋―――俺たちは死神のポケットと呼んでいる―――は使いたくなかった。
「それにしても・・・・・・ひどいな。」
周りを見渡せば、『真っ赤』だった。
周りの床や天井、壁にこびりついた血はまだこの艦橋に1G弱の重力がかかっていたときについたもののようだ。
そして重力の制御が利かなくなってから出た血は回りにぷかぷかと浮かんでいる。
それらが合わさって、この空間は暗い赤で染まっていた。
もし、自分たちがスーツをつけていなかったら、おそらく強烈な鉄錆臭が鼻腔を通っただろう。
「軍曹、見つけました。」
遺体をポケットに収容し終わったとき、一等兵からそう声がかかった。
近づいてみると、確かに『要救助者』はいた。物言わぬ骸となっていたが。
こちらも損傷具合がひどかったが、特に背中が妙にひどく、背中のいたるところに大小さまざまな破片が突き刺さっていた。わき腹を何かにえぐられているが、おそらくそれも破片によるものだろう。
なぜこうなったのだろう?
一等兵も同じ感想にいたったようで、
「どうしてですかね?」
「知らん・・・・・・だが、まぁ、大体予想はつく。」
背中を丸め、手をまるで何かを守るように交差させていた形跡が見られる。
「彼女がこうして身を挺してわが子を守らなければ、俺たちが使ったポケットの数は三つになっていただろうな。」
「なるほど・・・・・・母の愛ですか。死んじまったら元も子もないのに。」
「言うな、それは。そのとき最善かつ最良の手段を彼女はとったまでだ・・・・・・俺たちが言うべきことじゃない。」
「わかりますよ、自分も二児のパパですからね。自分か、子供か、って言われたら、間違いなく子供を選びます。」
「そういえば、お前は子供もちだったか。」
一等兵は部隊の中では年少組だが、双子の父である。
「それでも、死んだらあの女の子はどうするんですか。まだ14ですよ。」
「だがお前も言っただろう?子供を優先するって。彼女もそうしただけだ。」
「分かってますけど・・・・・・この状況でこれ以上の選択はないだろうとは思いますけど、それでも・・・・・・。」
苦々しく一等兵が呟く
「・・・・・・ではさっさと合流し、脱出するぞ。彼らの命を無駄にしないような。」
「・・・・・・そう、ですね。了解。」
そうだ、今は助かった命がある。それを守ることを最優先に考えるべきだ。
「よし、分かったなら急いで彼女を収容。「了解。」俺は隊長に報告しておく。」
彼女は助かったとしてこれからどうするのだろうか。隊長に報告しながら、頭の片隅でそれを考えていた。
今までの救出者のケースからするとPTSDに陥るという可能性が一番高い。
しかも、直接には診てないがあの左腕の状態はかなり危険だ。今後動かなくなることもありうる。
そうなったら、生体義肢を移植するだろうが・・・・・・はたして、彼女はその腕を受け入れれることができるのだろうか。
考えてもキリがない、か。
「ん?軍曹!」
「どうした?」
慎重に遺体をポケットに入れていた一等兵が声を上げた。
「何でしょうね、これ。何かの箱のようですが。」
一等兵がなにやら箱を手渡してきた。
大きさはそれほど大きくなく、むしろ小さいというレベル。色はグレーで無地。刻印もない小さな箱だった。
だが妙に気になった。
「どのへんで見つけた?」
「彼女のポケットに引っかかってたようなんですが、入れる際にはずれたところを見つけました。おそらく遺品でしょう。」
「よし回収しておくぞ・・・・・・と、おっとっと。」
船が爆発で少し揺れる。もうあまり長くはもたない可能性が高い。
急いでその箱をバックパックにしまいこみ、艦橋を出る。
「こいつぁ、急いだほうがよさそうですね。」
「ああそうだな、急ぐぞ!」
「そう・・・。」
軍曹たちからの報告、現実というものは常に非情であった。
遅かった・・・いや、報告によればデブリと衝突した際に即死した可能性が高いらしい。。
だが、そんなことは私達にとって何の慰みにもならない。
しかし、既になくなっていたということはこの少女が救難信号を発信させたのだろうか。
両親のどちらかから、起動法を教えてもらっていたのだろうか。
だとしたらこの事故の中で、唯一の幸運かもしれない。
まぁいい、そんなことを考えるのは後でも出来る。
今はこの少女を救うことをまず考えるべきだ。
「伍長、どう!?」
「脈はありますが、意識ありません!」
「身体は!」
「左腕はもう駄目かもしれませんが、他に目立った外傷はありません!ですが、血を流しすぎています!早急に輸血が必要です!また、内臓にもダメージがある可能性があります!」
「ポッドを!それで搬送するわよ!」
ポッドとは私達の使う担架のようなもの。
それ単体で小型の救命ポッドとしての役目もある上に、ある程度の医療行為が行える。
止血も可能だ。
更に要救助者を衝撃などから守るためにかなりしっかりとした耐爆・防弾使用。
ちっとやそっとじゃ中の負傷者にダメージは伝わらない構造になっている。
だが、そんな高性能なポッドでも輸血することは最低限しかできないし、医療行為ができるといっても応急処置に毛がはえたものに過ぎないから、早急にしかるべき施設で治療を受ける必要がある。
それに意識がないのならなおさら急がねば。
「いい、みんな! 『慌てず』『急いで』『慎重に』に運びますよ!」
「いつもどおりですよね、了解!」
隊員が少女を慎重にゆっくりとポッドに入れる。そしてあとはこの少女を哨戒機までなんとか運び治療を受けさせるだけ。
「すいません、遅れました!」
そういいながら、ポケットを担いだ軍曹と一等兵が戻ってくる。
「大丈夫よ、まだ遅刻じゃないわ。」
「ありがたい!」
「各員、点呼!」
それぞれの分隊長から全員いるという報告があがってくる。
後は全力で機に戻るだけ、だがカウントはもう40をきっている。
「各員、機に戻りますよ!」
「了解!」
それを聞いた隊員たちは一瞬安堵の表情を見せた。
だが、基地に帰って要救助者を病院に搬送するまでがSAR任務なわけで。
《中尉、緊急事態だ! 動力部がッ!》
その機長の上ずった声にこたえる暇もなく。
次の瞬間私たちを爆風が襲った。
―――長!隊長!
頭ががんがんなっている。うっすらと目を開けると、軍曹が声をかけながら手早く私のスーツの損傷部分を補修している姿が見えた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・くっ、何が起こって・・・?」
「大規模な爆発が起きました!我々は現在火と破片、爆発に囲まれています!」
「要救助者は!?」
「無事です、他の隊員もです」
要救助者のバイタルメーターを見ると、さっきと多少あがっているが問題のない数値である。
それに安堵したが、軍曹たちが運んでいた夫婦の遺体を入れた死体袋がない。
「すいません、衝撃で離してしまい通路の奥へ・・・取りに戻れそうにありません。」
見やれば船の破片で通れなくなった通路の奥のほうに黒い袋が見える。
あそこまでは確かにとりにいけそうにない。それにこのような緊急事態に死体はデッドウェイトになりかねない。
いまは生きている人間のことを考えるべきだ。
そう考えるとひとつ課題が浮かんだ。と同時に、一等兵が不安そうに聞いてきた。
「隊長・・・どうやって脱出しますか?」
そう、脱出法だ。
回りは火の海。
CICの方面は火が回っていないが、そこから脱出ポイントを目指すと大幅に時間を食う。
だからといって火の海を強行突破するのは無理だ。ポッドを抱えたまま火災でもろくなった部分を通って、無事に脱出ポイントまでいけるとは思えない。
時期に酸素を消費尽くして炎は消えるだろうが、それを待つわけにもいかない。
動力部は依然危険な状態にあるから、一刻も早く脱出しなければならない。
一体どうすれば―――
「隊長!」
「軍曹、なにか案でも!?」
いろいろと地図を見たり、構造図になにやら書き込みをしていた軍曹が顔を上げ言ってきた。
「アレクシス元大佐のやった方法じゃ不可能なんですか!?」
「アレクシス元大佐のやった方法!?」
「はい、10年ほど前、マンホームで惑星間豪華客船が同じような事故を起こしたとき、その救出作戦を指揮したアレクシス元大佐は巡洋艦の艦載砲で脱出口を開けました。それが使えないでしょうか!?」
船内図をHMDに展開。
確認すると、CICの近辺、さらにそこから甲板までには爆発するようなものは何もない。そもそも、この船は競技船に改装されているのだ。攻撃系の装備など爆発物はすべて取り払ってある。
これなら砲撃しても爆発はしないだろう。
だが、改装されたとはいえもともと駆逐艦だった船だ。私たちの使う哨戒機の搭載砲程度じゃ、はたして装甲を貫いて穴を開けることができるのか。
アレクシス元大佐の事例のときは巡洋艦の威力の高い主砲(そのときは貫通力の高いAP弾を使用)を使って装甲が施されていない客船だったからできたのだ。
なら、搭載砲でも似たことがやれそうな部分を探せばいい。なるべく近くに。しかし、どこなら・・・
「あのひしゃげた艦橋を吹き飛ばせばいいんです。」
軍曹がそう言って、さっき書き込んでいた構造図を見せてきた。
確かに艦橋も爆発物が近くにないから、アレクシス元大佐の事例の真似が出来るかもしれない。
「機長、聞こえる?」
《ああ、聞こえている。》
「艦橋を吹き飛ばしてほしいのだけれど、できる?」
《君らの真横だぞ!・・・不可能じゃないが、危険だ!》
「今でも船に残っているのとどっこいどっこいだと思うけど?」
カウントは既に0。
いつ主動力部が大爆発してもおかしくない。
《・・・・・・分かった、離れていろ。》
機長もそれが分かったようで、すぐにやってくれるようだ。
「各員、下がれ下がれ!」
「機長、やって。」
《了解!》
搭載砲から弾丸が発射され、ひしゃげた艦橋部分を吹き飛ばす。ついでにこの事故を起こした忌々しいコンテナも。
これが地上だったら、搭載砲の発射音が連なって聞こえるだろう。
《・・・ふぅ。よし、吹き飛ばしたぞ。急いで戻って来い。》
確かに、艦橋のあった部分は根こそぎ吹き飛んでいる。
「了解。・・・ッッ!」
ズシィィィン・・・。
船が大きく揺れる。
観測機情報だと既に主動力部は小爆発を起こし始めたらしい。
「くっ、急げ!」
軍曹があわてたように声を上げ、艦橋までの道を先導する。
艦橋へたどり着いた隊員たちは慌てて艦橋への扉をこじ開け、宇宙へ飛び出していく。そして背中のスラスタを吹かして哨戒機の後部ドアから兵員室へ入っていった。
今のところはスムーズだ。
ポッドは先頭の隊員たちに持たせてあるから、もう収容されたはずだ。
後は殿の私が脱出するだけ。
「隊長、急いで!」
だが、ここになって爆発が本格化し始めた。
後ろを見やれば、既に爆発し崩壊し始めている船。
「くぅぅぅうぅぅ、間に合ってぇぇぇぇぇ!」
スラスタを限界まで吹かし、兵員室に滑り込み、隔壁を閉鎖。
次の瞬間、私は体に衝撃を感じ意識がなくなった。
続け。