2010年11月13日 17時51分 更新:11月14日 1時8分
菅直人首相は13日夕、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれている横浜で胡錦濤中国国家主席と会談した。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件(9月7日)以降、日中首脳が正式に会談するのは初めて。尖閣諸島について菅首相が日本固有の領土と強調したのに対し、胡主席は自国の領有権を主張したとみられる。首脳会談をAPECの成果にしたい菅政権と、対外強硬姿勢への国際社会の批判をかわしたい胡政権の思惑が一致し会談は実現した。14日にはさらに外相会談を行うが、関係修復が軌道に乗るかは不透明だ。
「日中首脳会談が午後5時20分に開かれる」。日本外務省からAPEC取材記者室に連絡が入ったのは午後5時10分ごろ。突然のアナウンスに記者室がどよめいた。午後5時26分、APEC開催中の国際会議場で菅首相は笑みをつくり胡主席を出迎えたが、握手に応じる胡主席の表情は終始こわばっていた。
両首脳は両国国旗を挟んで並んで座り、対話を始めた。
菅首相「(APEC)首脳会議への出席を心から歓迎する。日中は一衣帯水の関係だ」
胡主席「APECにお招きいただき、ありがとうございます。周到に準備していただき、会議は必ず成功すると信じる」
わずか22分間の会談だったが、同席した福山哲郎官房副長官は「関係改善に向けて両国で大きな一歩を踏み出した」との認識を示した。
日本側によると、両首脳は(1)長期的に安定した日中の戦略的互恵関係の発展は両国民の利益に合致し地域と世界の平和と発展にとって非常に重要(2)政府間、民間分野での交流協力をより一層促進(3)主要20カ国・地域(G20)首脳会議やAPECでの議論を踏まえ、経済分野を含むグローバルな課題での協力をさらに強化する--で一致した。
尖閣問題では、福山氏は「首相は日本の確固たる立場を伝えた」と記者団に語ったが、発言の詳細については言及を避けた。
首脳会談の開催をめぐっては、日中間ではギリギリの調整が続けられた。
日本側は早い段階から、APECを機にした首脳会談開催を中国側に打診したものの、中国側は回答を保留し、最終的には胡主席が来日した後の判断を待った。13日になってようやく受け入れの連絡があり、外務省の斎木昭隆アジア大洋州局長らが中国側代表団と最終調整を進めた。
会談開始はギリギリまで伏せられたが、外務省幹部は「前回のハノイでの首脳会談が開催直前にキャンセルされたので、今回はギリギリの発表でタイミングを詰めていたのだろう」と解説する。
一方、中国外務省も正式な会談と位置付けているとみられる。ウェブサイト上で発表した会談内容によると、胡主席は「双方は長期的な角度から中日関係を正確な方向に発展させ、戦略的互恵関係を健全かつ安定的な軌道に沿って発展させるように努力すべきだ」との立場を表明した。
中国側が会談を受け入れたのは、中国の強硬な対外姿勢に国際社会では警戒感が広がっており、「菅首相との会談は中国の協調姿勢を世界にアピールすることにもつながる」(日中関係筋)と判断したためとみられる。
胡主席は13日のAPEC関連行事で講演し、「中国は平和と発展の道を堅持し、自らと各国がともに発展するように努力する」と強調。08年の金融危機以降、米国の威信が低下する中、中国は世界経済の回復に貢献したと自信を深めており、APECでの重要な議題である貿易自由化の議論でも米国と主導権争いを演じている。
中国側は当初、13日夕の会談が行われた時間帯に、記者会見を開くことを検討していたが、同日昼前に記者会見を14日午前に設定したと報道各社に通知した。中国国内には今も対日強硬論が根強く、ギリギリの段階で受け入れた菅首相との会談についても慎重に説明するものとみられる。【成沢健一、犬飼直幸】